連載小説
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第5話「その甘味、希少につき」
「もういっぺん飲んでみな、違う味になってるはずだ」
だまされたと思ってもう一度口をつけてみる。
──あ、甘くて美味しいぞこれ?
思わず一気に飲み干してしまった。
「あっはっは、いい飲みっぷりだ。
今度はこっちのミルクレープでも食ってみろ」
添えてあったフォークでミルクレープなる三角の菓子を刺し、
一口に放り込んでみる。
「‥ンまァ〜イ!」

思わず頬が落ちそうになる。
この世にこんな美味しい物があったなんて!
人間は時々とんでもない物を産み出すのだな!
「どうよ、これは?」
「とてもうまいな!どこで売っているんだ!?」
私が訪ねると、店主は涼しい顔で地図を書いてくれた。
書きあがるや否や地図を引ったくり、着いた所は甘味屋。
サキュバスやケンタウロスなんかの「知的チック」な魔物娘が
よく屯している所だ。


──


正直、私達「ガテン系」な種族はちょっと入りづらい。
──が、あの食べ物の誘惑には抗い難い。
意を決し中に入り、店員と思わしきホルスタウロスに事を告げる。
「私はアレクシス・バシリスという。
ここでとても美味い物があると知って尋ねてきた」
ホルスタウロスの店員は頭上に?を浮かべている。
そして、この様を客のサキュバスが指を指して笑いをこらえている。

「そこのサキュバス、何がおかしい」
私もある程度は予想していたが、こうも露骨に笑いものにされるのは
ちょっと許せない。
「アナタ、ケーキも知らないの?」
む、これはケーキというのか‥。
ふとそんな調子でショーケースに目をやると
「ぶっ!?」
銀貨40枚。思わず噴出してしまう金額だった。

「す、すまんが店員よ。これはこの金額が適正なのか?」
その言葉でついに決壊したのか、先のサキュバスが大笑いを始める。
ついでに店内の客も苦笑いとちょっとした哀れみの目線が痛い。
そしてとどめのホルスタウロス。
「そぉ〜ですねぇ〜、多分うちは安い方だと思いますぅ〜」
──なんと、そうですか。
失笑の中私は店を後にするしかできない。
なんという恥を晒してしまったのだろう‥。

──

ギルドの酒場には入れないので、宿屋付近の飯屋で
軽く夕食を摂っていた。
「どうしたアレク、やけに落ち込んでるじゃあないか?」
そう声をかけてきたのは、顔なじみの冒険者だ。
「いや、何と言うか。少し世間を知らなかったようだ」
「うん?よかったら話してみてくれ」
こういう時、私は冒険者で良かったなと常々思う。

「‥そりゃあアレクが物知らず過ぎたな、
いくら俺でもケーキとその相場くらいは知っている」
やはりそういうものなのか。
「では、紅茶というものは?」
「紅茶は主に上流階級の奴らが飲むモンだな。
俺達にも飲む奴はいるが、
間違ってもそいつらが飲むようなモンじゃあなく
もっと安い下級品の出枯らしだ」
なるほど、そういうものなのか。
12/01/04 02:25更新 / 市川 真夜
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■作者メッセージ
この辺の通貨感覚はおおよそ銅貨1枚が1円強、
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚程度だと
お考え下さいませ。
するとケーキは約4000円。
しかし現代のような甘味料が多く流通していない時代では
価値換算でもっと高額な時もあったのだそうです。

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