連載小説
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第6話「その取引、高額につき」
「聞いた話じゃあその紅茶ってやつに砂糖を入れたり
ミルクを入れたりして味が変わるのを楽しむって話だ。
そんな貴族じみたお遊びは良くわかんねェ」
とすると、あの店主は貴族なのか。
冒険者に礼を言い、残った粗末な食事をかき込むと
再びリンのあの店へと足を向けた。
扉を開けると、相変わらずカラコロと耳に心地よい響きのカウベルだ。

「いらっしゃい‥ってアレクか、どうしたよ?」
「‥色々、聞いてきた。その紅茶とか、ケーキ?とか」
「ん、そうかい」
そう言ってまた私をカウンターへ促し、
先の紅茶を出してくる。
「飲むか?」
「いい」
「──そうかい」
言うなり店主は紅茶に砂糖を入れ、白い液体‥おそらくミルクを入れ
一気に飲み干す。


「聞いた話なんだけどさ、それって貴族の飲み物なんだろう?」
何も答えず二杯目を入れる店主。
「昼に貰ったケーキってやつだって、値段を見て驚いたよ。
リン、あんたは何が狙いなんだ?」
黙って器に入れた茶に砂糖とミルクを入れ、再び飲み始める。
飲み終えた器を静かに皿の上へ置くと、
店主は近くの帳簿を手繰り寄せて、あるページを開く。

「今回ギルドより請求された金額は金貨34枚。
内訳は20枚が当初の請求額、14枚が追加請求。
本来期日までに請負者が達成してくれればそんな追加は無かった」
帳簿をカウンターに置き、また紅茶を器に注ぎながら続ける。

「さて、ギルドそのものとは金銭での折り合いがついたが
今度はこの葉っぱが問題になってな、
お前さん以前の請負者はどうもサボり体質だったようで
オレの要求通りの仕事はしてこなかったみたいだ。
ところがお前さんは愚直にも要求通りの仕事を
──期日は越えてしまったもののキッチリと達成してくれたお陰で
取引先とは想像以上の買値で折り合いがついた。
その差額はいくらかわかるか?」

当然、わかる訳が無い。
「ざっくり計算で2.5倍。金貨計算で450枚以上。
一袋で金貨180枚強の見積が450枚以上だぞ、450枚。
っと失礼、あまり金銭にはこだわらんのだよな‥お前さんらは」

いくらこだわりの無い私でも、どれだけ大きいかはわかるつもりだ。
この街で普通に生活していると銀貨70枚あれば一晩泊まれる。
奮発して金貨1枚出せばフカフカのベッドで、
さらにちょっとしたご馳走がついてくる。
さっきのケーキが銀貨40枚、酒場のエールが一杯銀貨5枚。
金貨1枚でエールがががががが‥‥
それが450枚だからエールで何杯?
何回乾杯できるんだっけ?
12/01/04 02:25更新 / 市川 真夜
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■作者メッセージ
金貨1枚は銀貨の100倍の価値ですから、
金貨450枚=450万以上の売り上げですね。
ここから経費(ギルドへの支払い)を差し引いても
充分お釣がきませんか?

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