読切小説
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ピンクは淫乱
魔物は人間を殺しむさぼり食う。
いまどきそんな話を信じているのは、反魔物国家の田舎に住んでる奴ぐらいだろう。
新魔物国家、中立国家は言うに及ばず、反魔物国家の人間だって大多数はそこまで思ってない。

まあ、反魔物国家は“人間を直接殺すのではなく、堕落させる方針に変わっただけである”
と説いて、魔物の危険性は全く落ちていないと教えているらしいが。

中立国家で育ち、現実を知っている身としては、魔物よりは野生動物の方が恐ろしい。
特に砂漠地帯は毒蛇、毒蠍、毒蜘蛛…と有毒生物の見本市。
魔界化したならともかく、普通の環境ではこいつらは遠慮なく命を奪おうとしてくる。
いや、だからといって魔界になって欲しいわけでもないけど。

さて、今現在の魔物は人間の命は奪わない。
しかし、全く安全というわけでもないのだ。
肉体的な危害は加えなくても、精神的・社会的な危害を加えることはある。

例えばの話だ。
ある男性がラクダを率いて、商取引の荷物を運んでいたとする。
そこに魔物……仮にグールとしようか。
グールが現れて、襲撃してきたとする。
戦いの心得などない男性はいとも容易く追い詰められ絶体絶命。
そこで男性は命乞いをする。

『この荷物を明日までに届けないと大損してしまうんです。お願いです、見逃してください』
グールはこの願いを聞き届けて、男性を逃してくれるだろうか?
『ヒャッハー! そんなの関係ねえ!』と凌辱されるのがオチだ。
そしてこの男性は魔物との快楽に満ちた生活と引き換えに、
コツコツと築いてきた取引先との信頼や財産を失うことになる。

そこまで深刻な話でなくとも“荷物が来ないぞ? どうしたんだ?”
と相手に心配をかけることになるし、何らかの作業に必要な物資を運んでいたなら、
その作業や計画をストップさせ、多大な迷惑を与えてしまう。

だから、旅する商人たちは弟子を連れ歩く。
自分の近くに置いて仕事を手伝わせ、いざという時は生贄として魔物に差し出すのだ。
幸運にも一人で働けるまで育ったら送り出してやるが、またすぐに新しい弟子をとる。
余所はともかく、自分の国ではこれが商人の一般的な姿。

いざという時は生贄にされるのに、弟子になる奴なんかいるのか? と思うかもしれないが、
弟子になるのは大抵行き場のない孤児や浮浪児だ。

地域にもよるが、多くの親魔物国家や反魔物国家には孤児院があり、身寄りのない子供もある程度は生活できる。
しかし自分の育った中立国家にはそういうものは無かった。
教団、魔物共に影響力が弱い中立国家では支配者が全て。
支配者が福祉に興味を持たなければ、そういった子供たちは捨て置かれる。
この弟子取りのシステムについても、福祉ではなく通商の問題から出てきたものだ。
魔物が商人を襲うなら、代わりの生贄を連れ歩けば良いじゃないかという具合に。

幸いな事に自分を引き取った師匠は善良な人物だった。
弟子を奴隷扱いする者も多い中、きちんと人間として扱い、
将来的に商人としてやっていけるよう教育もしてくれた。
もう、師匠には感謝してもしきれない。

だから―――巨大な砂虫に襲われた時、自分は師匠を逃がすため自ら囮になった。

“この旅が終わったら、お前も一人前だ”と言ってくれた師匠。
ラクダを連れて遠ざかっていく師匠は複雑な顔でこちらを顧みる。
別に師匠だって自分が死ぬだなんて考えてはいないだろう。
“弟子”として扱ってきた相手を最後の最後に“生贄”にしてしまったことに、
やるせない感情を抱いているのだと思う。
しかし、この囮は自分の意思でしたことだ。

長い闘病生活の末、明日をも知れなくなったという師匠の妻。
旅の商人をしながら探し回り、ついに手に入れた、身を蝕む病を治せるという奇跡の薬。
それを持った師匠が魔物に捕まってどうするというのか。
薬を託して逃されたとしても、妻が回復した時、その場にいない師匠の事を自分は何と伝えればいいのか。
自分が生贄になることが、誰にとっても一番良いのだ。

足を取る砂の上を走り、できる限り師匠と逆方向に離れる自分。
砂虫は老年に差し掛かった師匠より、まだまだガキな自分の方が美味しいと見たのか、
ラクダの隊列には目もくれず後を追ってきた。

自分は全力で走って走って――――すぐ力尽きた。
そりゃあ、命がかかっていれば限界を超えて走れたかもしれないけど、
“危険ではない”と理解している頭は、リミット解除の許可を出してくれなかったのだ。
長距離走の訓練なんてしていない自分は、真っ昼間の熱さもあり、あっという間に熱限界。
もうだめだー、と砂の上に倒れ込む。

それを見て観念したと思ったのか、すぐ後ろまで迫っていた砂虫が停止した。
蛇のように高く鎌首をもたげ、左右3対の赤い単眼がピントを合わせる。
閉じられていた口がガバッと開き、唾液が牙から糸をひく。
太陽を遮り逆光に照らされたその巨体は、安全と分かっていても恐怖感を呼び起こした。

ああもう、やるんなら早くやってくれよ。
内心の恐れを誤魔化すように砂虫へ語りかける自分。
そして砂虫もそれに応えるように素早く頭を落とす。
ズシン…という揺れと共に真っ暗になり、口の中に完全に飲み込まれたと自分は理解。
何も見えないので寝たまま手を振り回すと、ペチッと音を立てて濡れた何かに当たった。

「痛っ! 顔叩かないでよー」
間近から聞こえた女の声。
それですぐ傍に女がいるのだと気がついた。

ああ、ごめん。真っ暗なもんで。
悪いけど口開けてくれない? このままだと何も見えないから。
「えー、やだよ。口開けると逃げ出そうとするってお母さん言ってたもん」
逃げやしないって。だいたい、自分が逃げてもすぐ捕まえられるだろ?
先ほどの追い駆けっこを思い返しながら自分は交渉する。
「確かにそうかもしれないけど……ダメ。万が一にでも逃がしたら嫌だもの」
万が一にも逃げ切れるとは思えないのだが、魔物はきっぱりと断る。
しかし、自分としてはどんな魔物なのか姿くらいは見ておきたい。

……実は自分は暗所恐怖症なんだ。
このまま暗闇に閉じ込められてると、発狂しかねないんだよ。
「ええっ!? それは困るっ! すっごい困るよっ!」
疑いもせずあっさり信じる魔物。もしかして案外扱いやすい?
「明かりがあれば良いんだよね!? 今すぐ点けるから待って!」
魔物は慌てた声の後に、ボソッと何かを呟く。
するとパッと光が灯り、周りが見えるようになった。
「ほら点けたよ! これで大丈夫だよね!?」
心配そうな声の主。それは外側から見た砂虫の姿とは似ても似つかなかった。

一言で言うと女の姿をした肉塊。
頭から腿まで全てがピンク色の肉で出来た美女。
ただし、膝から下は肉の床と融合して一つになっている。
両肩に一つづつ付いている赤い単眼が唯一砂虫を思い起こすポイントだろうか。

いや、どうもありがとう。おかげで落ち着いたよ。
別にパニックになってはいないが、一応礼を言っておく自分。
「あー、良かった。やっと捕まえた旦那さまが狂っちゃうとか、シャレにならないよ……」
魔物はホッと一安心の息を吐いて、胸を撫で下ろす。
豊かな乳房がふにゃりと揺れ、自分の目を奪った。

なんと言うか……美人だね。
自分はお世辞でもなく、ただ素直に感想を口にする。
すると称賛された魔物は両頬に手を当て、キャーと黄色い悲鳴をあげた。
「あーんもう、旦那さまってばうますぎっ! ワタシなんて普通だよ?
 他の子よりちょっと体が大きいだけだしっ! あっ、もしかして好みだったとか!?
 だったら嬉しいなあ! 一目惚れの両想いとかもう運命だよねっ!?」
うん、結構単純そうだ。独りでに盛り上がっていくし。
「じゃあ旦那さま旦那さま、エッチしよっ! 両想いなんだから良いよね! ねっ!?」
出会って数分で交わりを求めてくる魔物。
ずいぶん性急(意味深)だと思うが、捕まった時点である程度予想していたので驚きはしない。

はいはい、分かったよ。服を脱ぐからちょっと待って。
砂虫は外から見るとかなり大きいが、口の中は案外狭かった。
この魔物の口内は自分の胸元ぐらいの直径を持つ円柱状。
身動きが取れないほどではないが、ぶつからずに服を脱ごうとすると結構手間どる。

「脱ぐ必要なんてないよ。ほら、こうすれば……」
魔物が人差し指を振ると肉の天井から、ポタポタと雨のように粘液が降り注いできた。
それらは着ている服に当たると、虫食いのように丸い穴を開けていく。
自分が身に着けていた布は数秒の間に溶かされ、裸になってしまった。

「ほーら、これで裸だよ。それじゃあ―――痛いっ!」
こちらを裸にし、伸しかかろうとしてきた魔物。
自分はその頭を平手で叩いてやる。
「痛いじゃないのアナタっ! なんで叩くのっ!?」
そんな強くやったつもりはないが、魔物は涙目になって訴える。
だが、同情心は全く湧いてこない。

服溶かしてどうすんだよ! 代わりなんて持ってないんだぞ!?
これからどうやって人前に出ろってんだ!
自分の荷物は全てラクダに括り付けたままなので、師匠と共に行ってしまった。
さっき着ていた服が、自分に残された唯一の衣服なのだ。
「アナタは服がないと嫌なの……?」
こちらの怒りを理解したのか、申し訳なさそうに魔物は言う。
当然だと自分は頷き返し、どうしてくれるんだと威圧。

「ううっ…ごめんなさい。じゃあ、お友達に旦那さんのお古貰うから、それで許して?」
しょぼーん……として謝る魔物。
別にこの魔物を虐めたいわけではないので、代わりを用意するというのなら許してやる。

……分かったよ、許してやる。でも、なるべく早くしろよ?
「うん、今週中には用意するよ。じゃあ……いいかな?」
許された途端に、続きを始めようとする魔物。
文句まで言う気はないが、少しぐらいは反省の色を残せよと思う。
まあ、後まで引きずらない性格だとポジティブに捉えておくか。
自分も頭を切り替えて、初めての女(魔物だけど)を楽しまないと。



ついさっき天井から雨のように落ちた粘液。
そのおかげで床も自分も魔物も、全部ベチャベチャ。
透明な液体で全身を濡らした魔物は湯浴み中のようにも見える。
惜しげもなく肌をさらす美女の姿は、こちらの性欲を刺激し男性器を硬くさせた。
魔物はそれを目にすると満面の笑みで、肉の床に横たわる自分に伸しかかってくる。
「はーい、それじゃあアナタの……ってなにー? まだ文句があるの?」
こちらの胸板に豊かな乳房を押し当て、腰を下ろそうとした魔物。
それを自分は制止し口を開く。

あのさ、その足なんとかならない?
足という単語に下半身を振り向く魔物。その視線の先には膝下で融合した異形部分がある。
「なんとかって……あっ、二本足がいいんだ?」
その通りと答えると、魔物はプチッと床との接続部分を切り離してしまった。
そして膝下に切れ込みが入り、二本の棒のように成形されていく。
魔物の下半身は見る見るうちに普通の人間と同じ形になってしまった。

「できたよー。これで良い?」
胸を押し付けたまま、足をパタパタと振ってみせる魔物。
ここまで人間の形に近づいたなら、自分も満足だ。
彼女の尻に手を回して挿入し……あ、あれ? どうやって入れるんだ?
女の体なんて大雑把にしか知らない自分には、視認せずに入れることは無理だった。

「あ、いいよいいよ。ワタシが入れてあげるから」
戸惑う自分を見て上体を起こす魔物。寝たまま抱き合う体勢から馬乗りの体勢になる。
砂虫の口内は狭いが、この程度なら彼女が天井に頭をぶつけることはない。
できたての二本の足。その膝でこちらの腰を軽く挟み、彼女は己の股間に右手をやる。
そして細い指で穴を広げ、これから入る場所を見せつけた。

「これが女のまんこね。アナタのちんぽはここに入っちゃうんだよ。
 ワタシも初めてだけど、たぶん気持ち良いだろうから、たっくさん出してねー」
広げられた女性器の中。それは彼女の肌と同じピンク色。
穴の奥からは、自分が寝ている口内と同じように粘液が零れてきている。
“この穴に入れたらどうなるんだろう?”という好奇心がパン生地のように膨れ上がり、
自分は彼女の了承を得ずに下から突き入れてしまった。

「ひゃっ! なっ、なんでいきなり入れるのよぉ!?」
予告なしの挿入に驚き、高い声をあげる魔物。
だがこちらはそれどころではない。

大量の粘液が塗りたくられた彼女の膣内。
それは口内がそのままスケールダウンして人間大の肉体に収まったような感じだ。
視線を巡らせれば容易く目に入る肉壁のヒダヒダ。
縮小化されたそれが男性器と擦れあい、快感を飛ばしてくる。
あまりの心地良さに、自分は彼女の腰を押さえて一気に根元まで挿入してしまった。

「ひどい…ひどいよっ…! ワタシがしてあげようと思ったのにっ…!」
流石の魔物も、この行いには怒り顔で抗議してきた。
口内のあちこちからニョロニョロと肉の触手が生えてこちらへ伸びてくる。
たぶん、拘束してこれ以上好き勝手させないようにしようという考えなのだろう。
しかし、女の体ならともかく、触手に抱きしめられたくなどない。

お前“穴があったら入りたい”って名ゼリフを知らないのかよ?
こんなエロい体して、のんきに喋ってるお前が悪いんだ。これは世界の常識だぞ。
嘘八百を口から吐き出す自分。
人間相手だったら“お前は何を言っているんだ”状態だろうが、この魔物には効果抜群だった。
にじり寄っていた触手がピタリと止まり、戸惑った顔になる。

「え、そう…なの? 悪いのワタシの方?」
そうだよ、悪いのはお前だ。
裸の美女がお誘いかけたら、男に何されても文句は言えないんだぞ?
「ご、ごめんなさいっ! ワタシそんなの全然知らなくて……! 許して! お願いっ!」
魔物は手を合わせて“許してー!”とブンブカ頭を下げる。
うわー、簡単だこりゃ。こんなデタラメをいともあっさり信じ込むとは。

はいはい、許してやるよ。だから気持ち良くしてくれよ?
自分は腰を下ろして男性器を引き抜くと、魔物の下げた頭にポンと手を当てる。
すると切り替えの早い魔物のこと、容易く元気を取り戻す。

「うんうん! ワタシ頑張って旦那さまを気持ちよくするね! じゃあもう一回入れるよ!」
一度挿入したせいで少し開いた入口。
魔物はそれをきちっと開き直し、今度こそ腰を下ろしてくる。
男性器の先端が再び熱い肉に接触し、今度はジワジワと飲み込まれていく。

「んっ…! アナタのちんぽ、熱いよっ……!」
今度は魔物も快感を感じているのか、声が艶を帯びる。
自分はそれを聞いて、音でも欲情するものなんだな…と思った。

「もう少しで……っ! はふっ…、全部、入ったぁ……」
男性器を全て受け入れ、一息つく魔物。
その目は幸せそうにとろん…とし、胸の谷間を汗とも粘液ともつかない汁がつたっていく。
自分はその姿をなんてエロいんだ…と感じ、大きな胸に両手を伸ばす。
「あ、おっぱい触るの? いーよ、好きに弄って……」
本人直々の許可をもらったので、言葉通り自分は好きにする。
掴むとフニフニし、撫でるとヌルヌルする二つの乳房。
揉めば揉むほど魔物の吐息が熱くなっていき、彼女の腰が動き出す。

「あは…すごくイヤラシイよ、旦那さま……。もっと、して……」
自分よりコイツのほうがよっぽどイヤラシイと思うが、口は挟まず胸を弄る。
無数のヒダで覆われた魔物の膣は、自分の手とは比べられない程の快感。
いままでは優しくしていたが、その余裕もなくなり少しばかり乱暴になる。
力を込めて握り潰したり、乳首をつまんで引っ張ったりという感じに。
しかし、魔物は全く苦痛に感じないのか、犬のように舌を出してヘッヘッと喘ぐ。

「旦那さま気持ち良い!? 気持ち良いよね!? ワタシはすっごく気持ち良いよっ!
 もうアナタのちんぽ無しじゃ生きてけないぐらい! 
 好き好き好き! ホント大好きだよ旦那さまっ! 愛してるっ!」
人間だったら腰痛を心配するほどの速さで動きながら魔物は叫ぶ。
交わりの心地良さと自分への愛を。
正直、後者に関しては頷けないが、それを口にして盛り下げることもないだろう。
自分も腰に力を入れ、下から彼女の穴を突き上げた。
液体のはじける音と肉のぶつかる音が鳴り響くたびに、互いの呼吸が荒く早くなっていく。
射精感がこみ上げてきた自分は両胸から手を離し、彼女の背中に腕を回して抱き締めた。

「あっ…! もしかして出そうなの? それならまんこにお願いね!
 ワタシはアナタの奥さんなんだから、しっかり孕ませてよっ!」
結婚した覚えもないのに妻を気取っている魔物。彼女はもう子供を産む気満々だ。
正直いえば、こんな歳で子供なんて欲しくない。
だが、これだけ美人でエロい妻ができるならそれもいいかな…とも思ってしまう。
肉体の快楽だけでそこまで考えさせてしまう辺り、やはり人外の魔物は恐ろしい。

「来て来て! 早く来てっ! ワタシもイっちゃいそうなのっ!
 精液出して旦那さまっ! ワタシに種付けしてぇっ!」
ピンク色の全身から粘液を滲ませ、ひときわ強く腰を打ち付ける魔物。
その瞬間、膣内のひだが一斉に蠕動し、男性器を圧搾した。
陰茎の半ばまで上ってきていた精液が急加速し、快感と共に放出される。
「ひゃっ! 出てるっ! アナタの精液出てるよぉっ!
 熱くて…粘ついて…すごいっ! 孕むっ…! これなら孕めるよっ!
 いきなり妊娠だなんて…旦那さま、素敵すぎっ! もう、死ぬまで離れないからっ!」 
出会ったばかりの男に孕まさせれながら喜びの声をあげる魔物。
自分はその姿を“ちょっとは可愛いかな?”と思った。



体が冷めるまで、重なったまま休んでしばし。
魔物は頭を上げると懐いた小動物のように、こちらの胸板をスリスリしてきた。

「んー、ワタシの旦那さまぁ…。愛してるよぉ……」
美人タイプの女には似合わない仕草をしながら、愛していると呟く魔物。
しかし、自分はそうではない。

あー、生憎だけど、こっちはお前を愛してないから。
「えっ!! なんでっ!? ワタシはこんなにアナタを愛してるのに!」
すでに夫婦気取りだった魔物はショックに表情が固まる。
だが、自分は彼女を愛しているなんて一言も言った覚えはない。
盛り下がるから黙っていただけだ。

愛ってのは時間をかけて育むものだろ。出会って一時間も経ってない相手を愛せるかよ。
「愛せるよ! ワタシはもう旦那さまを愛してるもん!」
それはお前が魔物だからだ。人間はもっとゆっくりなんだよ。
「なにそれー! 子供まで作ったのにアナタはわたしが好きじゃないの!?」
“愛しているか”と訊いているのに“好き”という言葉を使う魔物。
どうも彼女の中では“好き”と“愛”はほぼ同じで意味で、区別をつけてないっぽい。

まあ……愛してないけど、好きではあるよ。綺麗だし気持ち良いから。
裏返せば“お前の価値は体だけだ”という意味の発言。
だが、言葉の裏なんて読まないこの魔物はそれを賛美と受け取る。

「なんだぁ、驚かせないでよ! 結局アナタもワタシが好きなんじゃない!」
そうなるね。性欲満たしてくれるお前は大好きだ。
「ああん、もっと言って! ワタシが好きって、体が気持ち良いって!」
はい、好き、好き、大好き。お前の体は最高だ。
ずいぶん棒読みっぽくなってしまったが、彼女はそれで満足できたらしい。
機嫌を直して笑顔でキスをしてくる。

「んー……っ、ちゅ…」
自分の唇に接触するピンク色の唇。
それはとても柔らかくて、熱くて、濡れていた。



最初の約束通り、魔物の友人から服を譲ってもらうと、自分は真っ先に師匠へ会いに行った。
トントンとドアを叩いて顔を出した師匠は、僅かに驚いた後、頭を下げて謝る。
お前を犠牲にして本当に済まなかった、と。

傷なんて一つも付いてないし、そもそも自分から囮になったんだから気にしないでください。
自分はそう言って師匠に頭を上げてもらうと、奥さんの容体を訊く。
“それはもう、すっかり良くなったさ”と穏やかに笑って答える師匠。
その喜び顔に、自分の行動は正しかったと改めて確信した。

師匠は“無事に帰ってきたんだから上がっていきなさい”と勧め、
自分はその厚意をありがたく受け取り、お邪魔させてもらう。
ずいぶんと古い家の居間では、師匠の奥さんがイスに腰掛けて紅茶を飲んでいた。
骨と皮だけのようにやせ細って寝台に伏していた姿はもはや面影もなく、
年齢相応の落ち着きと美しさを持って、微笑んでいる奥さん。
彼女は自分の姿を認めると“ありがとう……”と礼を言った。

師匠と奥さんと自分。
三人でテーブルを囲み、近況を話し合う。
師匠の話は妻が回復して以来、どれ程幸せな日々を過ごしているか…というノロケ話ばかり。
まあ、ずーっと奥さんのために東奔西走していたんだから、そりゃあ毎日が幸せだろうね。
時計の長針が一回りする間ずっと師匠は話し続け、
ボーン! と時計が鳴ったところでハッと我に帰る。
ゴホンと咳払いし“少し話しすぎたな”と言って、今度はこちらの近況に耳を傾けた。

んー…まあ、魔物と暮らしてますけど、問題はあまり起きていませんよ。
今日みたいに一人でも出歩けますし、なにより単純なんで言う事を良く聞いてくれます。
監禁とかの心配は無用ですよ…と安心させるように言う自分。
毎日エロエロしてます、とは流石に言えない……。

そんなこんなで、当たり障りのない話題を選んで話し続け数時間。
“困ったことがあったらいつでも来い”という温かい言葉で師匠は送り出してくれた。
自分は長い間お世話になりましたと、心からの感謝を込めて頭を下げ、師匠の家を後にする。

街の中心部から外れへ歩き、そこも通り過ぎて砂の海へ。
二本のサボテンが生えた待ち合わせ場所でトントンと足元を叩くと、
近くの砂が盛り上がり、バサッと砂塵を舞わせて砂虫が姿を現した。
そしていつものように大口を開き、バクッと砂ごと自分を飲み込む。

「おかえりー! 師匠さんどうだったー!?」
光の灯った口内で出迎えの挨拶を口にする魔物。
奥さんも無事治って、万事順調なようだと自分は答える。

「そっかー、良かったね。あ、それとアナタも認めてもらったんだよね?」
当然だ。お前が邪魔しなきゃ、とっくに一人前認定されてたんだから。
「う……それは言わないで。ええと…それで、これからどうするの?」
これからか……。まあ、金勘定は一通りできるから、師匠と同じく旅の商人かな。
師匠も“餞別だ”って言って、元手の金を渡してくれたし。
「旅の商人かあ……。じゃあさ、親魔物国家の方に行かない?」
親魔物……まあ、仕方ないか。お前がくっ付いてくるんじゃ。
「なんで面倒そうな顔するのよ旦那さまー。ワタシ役に立つよ?
 たくさん荷物運べるし、エッチしてれば休まず砂漠を進めるんだからね?」
役立たずと思われたくないのか、むーっとした顔で魔物はアピールする。
確かに砂虫の胴体は長いので、荷物のサイズはともかく量は入る。
虫部分も意識せず半自動的に動かせるので、交わってさえいれば疲れ知らずで動けるらしい。
考えてみればなかなか便利だ。こいつに性処理相手以外の価値がやっと見つかった。

よし、それで行こう。荷物運びはお前に任せる。
じゃあ、手近な魔物の集落に向かってくれ。まずは顧客開拓しないとだからな。
「はいはーい。こっから一番近いのは北西のだったかな? じゃ、出発しまーす」
魔物がそう言うと緩い加速感を感じた。きっと高速で砂中を掘り進んでいるのだろう。
「じゃあ旦那さま、ワタシにご飯ちょうだい。運動すると疲れるからさぁ……」
じわっ…と全身に粘液を滲ませながらにじり寄る魔物。
餌代がタダで済み、性の相手もしてくれると考えれば、これほど良いものはそうそうない。
自分も“よしよし、相手をしてやろう”と服を脱いで、彼女の肌に手を伸ばした。



当然ながら、魔物の集落も外部とのやりとりはしている。
親魔物国家の商人が売買にやってくることもあるのだ。
後から参入した自分は他の商人からお得意様を奪わなくてはならない。
だが、ちょっとぐらい値段が安くても、前から付き合いのある方を選ぶのが人情というもの。
一人立ちして若い自分はなかなか固定客を得られない。
世の中の厳しさというものを十二分に味わった自分が取った最終手段は……枕営業。

自分は全く美形ではない。
しかし魔物受けする顔なのか、もう相方がいるのに誘惑してくる魔物が結構いた。
彼女らは口裏を合わせたように言う。

一晩付き合ってくれるなら買ってあげても――――。

もちろん最初からそんなことはしなかった。口八丁手八丁で物を売ろうとした。
だが、どうにも固定客を得られなかった自分は最終手段に踏み切らざるを得なかったのだ。
その結果、売り上げは安定するようになり、商売はそれなりに順調になったのだが……。

「ねー、旦那さま。最近ワタシの相手がおろそかじゃない?」
いつものように大量の荷物を飲み込んで集落へ向かう旅の途中。
魔物はすっごく不満げな声でそう言った。

そうでもないだろ。旅の途中はお前の相手だけしてるじゃないか。
移動中はこの魔物と二人きりなんだから、ちゃんと相手していると自分は思う。
しかし、こいつはそれだけでは物足りないらしい。
「だってさー、アナタって集落に行くと一週間以上帰ってこないじゃない。
 ワタシは前みたいに、いつでもどこでもイチャイチャしたいのに……」
商売が軌道に乗っていなかった頃は、毎晩彼女の口内で寝泊りしていた。
こいつにしてみれば、最低でも一日一回は交わるチャンスがあったわけだ。
だが、自分が枕営業を始めてからは夜帰ってくることは無くなった。
それを寂しいと思っているのかもしれない。

……分かったよ。もうちょっと優しくしてやるから、機嫌直してくれ。ほら。
そう言って極細の触手で出来ているピンクの髪を撫でる自分。
魔物は心地良さそう眼を閉じると、膨らんでいる腹に手を当てる。

「こっちもちゃんと優しくしてあげてね。アナタの子供なんだから」
臨月腹になった彼女の体。その子宮の中にいるのは砂虫のタマゴ。
卵生の魔物は出産が早いと耳にしたのに、こいつは全く産もうとしなかった。
不審に思った自分が訊いてみると“砂虫は卵胎生なんだよ”と答えた。
正直、なんでそんなややこしい繁殖方法をとるんだよと思う。
外で育てるなら卵生、腹に抱えるなら胎生でいいだろうに。
まあ、自分に不都合があるわけじゃないけどさ。

「じゃあ、入れて入れて。旦那さまのちんぽでワタシ達を愛してよ」
肉の床で仰向けになり、股を開げる魔物。
自分は上半身を上げたまま、そこに割って入り男性器を挿入する。
妊娠してより締まった膣と肥大化した男性器の組み合わせは、倍どころではない快感だ。
「あは…っ! アナタのちんぽ、ずいぶん大きくなったよね!
 ワタシのまんこが…伸びちゃいそうだよ! 力入れて、締めないと…っ!」
魔物はそう言ってグッと腹に力を込める。
元から狭まっていた膣内がさらに圧縮され、快感と圧力の両方で男性器の動きを阻害する。
「どう!? ちゃんと締まってる!? 気持ち良い!?
 なんならもっと締めてあげるよ旦那さまっ! ほーら、もっとギュゥッって―――」
魔物は調子に乗ってさらに腹に力を入れる。
こいつ忘れているのか? お前の腹の中にはタマゴがあるんだぞ?
「はい、ギューッ……ぅっ!?」
水の詰まった袋が破れたような音。
それが膨らんだ腹の中から響き、見る見るうちにその膨らみが凹んでいく。
そして自分と彼女の結合部から、粘液とは違うドロッとした液体が零れ出した。
自分は異常事態と判断し身を離す。

「あ。タマゴ、割れちゃった……」
魔物は呆然と腹を見る。だが、次の瞬間にその顔が歪んだ。
「あっ……あぁぁっ!」
ボコボコとうねり盛り上がる魔物の腹。
それは蛇が子宮の中でのた打ち回っているかのよう。
「あっ、あっ、赤ちゃん暴れてるっ! 出ようとしてるよっ!」
痛くも痒くもない―――どころか、子宮の中を弄られて快楽の声を発する魔物。
人間かつ男の自分にはとても想像できない領域だ。
「まんこの中、通ってるっ! でっ、出るよっ! もうすぐ頭出るっ!」
ビチャビチャとタマゴ内部の液体を排出する女性器。
その穴をズボッと押し広げて顔を出したのは――――ミニサイズの砂虫。
赤い単眼三つに砂色の硬殻を持った、まごうことなき怪物。
これが自分の子供かと思うと結構キツイ……。

「見て見てアナタっ! ワタシたちの赤ちゃんだよっ! 元気良いね!
 目も綺麗で殻もしっかりしてるし――――あぐっ!」
ブンブンと頭を振り回して長い胴体を抜こうとするミニ砂虫。
子供を目にして顔をほころばせていた彼女も、産道を通る胴体に再び顔を歪める。
「ひっ…! ひっ…! まんこの中、ズルズルっ…! まだ…抜けないのっ!?
 しっ、死んじゃうっ! 気持ち良くて死んじゃうよぉっ!」
延々と伸び出る子供の体。
魔物は終わりの見えない産みの快楽に頭を抱えて悶える。

「ひ、引っ張って! 赤ちゃん引っ張ってアナタ! もう耐えられないっ!」
とうとう限界が来たのか、子供を引きずり出してと頼む魔物。
こいつがぶっ壊れたら商売に差し支えがある。仕方ない、抜いてやろう。
いまだに体を振って出ようとするミニ砂虫。自分はその胴体を掴み、よいしょっと引っ張る。
「ひっ―――ひぎぃっ!」
高速で抜け出る快感に耐え切れなかったのか、魔物はビクン! と全身を震わせて沈黙した。
……まあ、気絶しただけだろう。大丈夫だ、たぶん。



「――――あ、れ?」
魔物が意識を失って数分後。
ペチペチと頬を叩いていたら目を覚ました。

おい、気付いたか? 自分が誰か分かるか? ここがどこかわかるか?
「ええと、アナタは旦那さまで、ここはワタシの中で……そうだ! 赤ちゃん!」
彼女は勢いよく起き上がり、産んだ子供はどこかと見回す。
自分はそれに“ここだ”と子供の硬殻を叩いてやる。トントンと。
「そこにいたのね。あー、可愛いなあ……さすがアナタの子供だよ。
 お父さんにも良く懐いてるし、優しい子みたいだね」
獲物を絞め殺す蛇のように、自分の体に巻きつきじゃれつくミニ砂虫。
これは母親から見れば子供なりの愛情表現らしい。
しかしこちらとしては、ニョロニョロと体を擦りつけられるのは、あまり気分が良くない。
お前も抱いてみろと言って母親に押し付ける自分。
魔物はミニ砂虫を受け取ると、腕に抱いて満面の笑顔で頬ずりをした。

「んー、可愛い可愛い。さあ、おっぱい飲もうねー」
そう言って彼女はミニ砂虫の頭を胸に近づける。
すると娘の口がガパッと開き、乳房の半分ほどを飲み込んだ。
「んっ―――はぁ、おっぱい飲まれるのも結構気持ち良いね……。
 ねえ、アナタも一緒に飲まない?」
魔物はそう言い、空いている方の乳房を片手で持ち上げて誘う。
正直興味がなくもないが、砂虫の姿をした娘と一緒に吸い付くのはアレなのでお断りする。

……飲むのは子供が寝てからにしよう、うん。
13/04/24 17:17更新 / 古い目覚まし

■作者メッセージ
異種姦出産物で『これが私の子供!?』なんて描写がありますが、男がそのセリフを吐いてもいいと思います。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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