連載小説
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旅22 皆で仲良く気ままな旅を!
シャアアアアア……


「こんなに大きなお風呂まであるんだね…まさかアタイが入っても余裕があるなんて…」
「そうだよね…アメリちゃん、なんでベリリさんと二人旅だったのにこんなに大きいの?」
「わかんない…これがふつうだとおもってたから…」

現在20時。
スズの話を聞きながら夜ご飯を食べた後、私とアメリちゃんとスズの3人はお風呂にいる。もちろん今日の汚れと疲れを落とすためだ。
スズはいままで近くにあった川で身体を洗っていたようで、お風呂に入った記憶は無いと言っていたが…

「というかスズ…お風呂そのものは知ってるんだね…」
「ん?ああ…そういえば……なんでだろう?」

お風呂というものが無い環境で生活していたにしてはお風呂の事を知っているのだ。
他にも、ご飯を食べているときにこの鋭い爪のついたもふっとしている手で器用に箸を使っていたりと、とても山に住んでいたウシオニとは思えない部分がある。

「うーん…スズは元人間か、それとも町暮らしをしているウシオニだったか…そんなところじゃない?」
「ああ…かもしれない……けど、やっぱ何も思い出せないや…」

なんとなく言った言葉だったけども、スズは自分の記憶に引っ掛からず、何も思い出せないと落ち込んでしまった。

「あ、まあそんな暗い顔しないで!これから思い出していけばいいんだよ!!」
「そうだね……ありがとう…」

だからこの話はここで一旦切って、スズを励ます事にした…




シャアアアアア……




「ところでサマリ…」
「ん?スズ、何か言った?」
「あのさ…サマリやアメリ、それに皆はなんで旅をしているの?」

励まし終えた後、身体(というか毛皮)を洗っていたら、スズがこう質問をしてきた。

「旅の目的ね…まあ私とユウロは無いって言ってもいいかな」
「え、そうなのか?」
「うん。私は世界中を自分の足で旅してみたいと思ってたから、たまたま出会ったアメリちゃんと一緒に旅してるんだ」

まあ一緒に旅する仲間の事は知っておきたいだろう…そう思い私は質問になるべく丁寧に答える事にした。

「ふーん…花梨は?」
「商人としてより腕を上げる為に旅をしてるんだって。荷物見たからわかると思うけど、もちろん商売もやってるよ。元々一人で旅してたんだけど女の一人旅は危ないからって一緒に旅してるんだ」

これで大体あっているはず。

ちなみにカリンは一緒にお風呂に入ってはいない。
一緒に入ろうとは言ったが、「ウチはユウロの皿洗い手伝うから後で一人で入らせてもらうわ〜」と言っていた。

「へぇ〜…じゃあアメリはなんで旅をしているの?」
「アメリは会ったことのないお姉ちゃんたちに会うために旅してるの!」
「ん?会った事無いお姉ちゃん達に会いに?」
「うん!そうだよ!」

身体を洗い終わり、リンゴに勧められてからすっかり気にいった浴槽に浸かりながら、アメリちゃんが元気に答えた。

「お姉ちゃん達って…そんなにいるの?」
「いっぱいいるよ!」
「そりゃあ種族として扱われてるなら沢山いると思うけどね」

その答えを聞いてスズは驚いた顔をしている…
そういえばスズはアメリちゃんがリリムだってわかってるのかな?

「種族…そういえばサマリとアメリはなんて言う妖怪なんだ?」

やっぱわかってなかったか…というか私もか…まあ無理もないだろう。
スズには記憶がないというのもあるし、そもそも私はジパングにはそう居ない種族だろうしね。

「私はワーシープ。羊の魔物ってところ。本来はもっと眠そうにゆったりとしている種族らしいんだけど私は旅をするために眠りの魔力が籠っている毛を短くしてるからこうはっきりとしているんだ」
「へぇ…それじゃあアメリは?」
「アメリはリリムだよ!!」
「リリム?それってどういった妖怪…じゃなくて魔物なの?」

私のほうは一応どんな魔物かはわかったらしい。
だけどアメリちゃん…リリムはよくわからないらしい。まあこれじゃあ説明にはなってないしね。

「魔王様の娘の総称ってところかな」
「えっ…じゃ、じゃあアメリはお姫様なのか!?」
「そうだよ!」

なので簡単に説明したら、予想外だったのか目をこれでもかってぐらい開いて驚いていた。

「あ、だったらアタイってかなり失礼な事してないか!?アメリって呼び捨てしてるし…」
「そんな事言ったら私だってねぇ…」

スズがそう言って気付いたが、私も今までアメリちゃんは普通の子供のように接していた。
アメリちゃんは魔王様の娘だし…もっと礼儀正しく接した方が良いのかな?

とか思ったが…

「ぜんぜんいいよ!むしろアメリよりお姉ちゃんなのにアメリにけいごつかったりするほうがおかしいよ!」
「そう…なのか?」
「うん!いっしょに旅してるみんなはアメリをちゃんとふつうの子供として見てくれるからうれしいもん!!」
「そういうものなんだね…」
「そうだよ!『様』とかけいごとかつかわれるのあまりすきじゃないもん」

アメリちゃんがいつになく必死でこう言ってくれた。
言い分からすると、魔王城に居た時は皆アメリちゃんを普通の子供として見ていなかったのかな?まあ無理もないだろうけど。
まあ本人がそう言う事だし、アメリちゃんとは今まで通りでいいか…

「それがおさななじみならなおさらね…お母さんのともだちはみんな文句言うけど…」
「へっ?何アメリちゃん?」
「なんでもないよ!」

最後の言葉はアメリちゃんが小さな声で言ったので、シャワーの音で掻き消されて聞こえなかった。




シャアアアアア……




「ふぅぅ……生き返る〜〜……♪」
「おおげさだなぁ…って言えなくなってきた私がいる…」
「でもおふろってきもちいいよね〜♪」

身体を洗い終わった後、私とスズも浴槽に浸かった。
私も浴槽は気にいっている。こう、なんか全身の疲れという疲れがお湯に溶けていく感覚がして気持ちいい…


…ほあぁ〜♪


「なんで私の住んでた村ってゆったり浴槽に浸かる文化無かったんだろ…人生の半分程損していた気がする…」
「サマリの住んでた村って…大陸にあるのか?」
「そうだよ〜。大陸にある『トリス』って言う小さな反魔物領の村だよ」

そういえば、私の手紙は両親の下に届いたかなぁ…
魔物になった私の事をどう思っているのだろうか?
気になるけど…返事がくるとは思えないし、だからって帰るわけにもいかない。

「反魔物領?言い方からすると魔物には厳しい気がするけど…」
「ああ…そういえば今日その話をしたときはまだスズ居なかったっけ…私元人間だよ」
「ええ!?そうなの!?」
「うん。今日その話カリンにしてたからてっきりスズにも言ってあるものだと思ってたよ」

やっぱ私が元人間だって言うと驚く人が多い。
まあ普通ワーシープじゃ人間を魔物には出来ないからだとは思うが。

「え…じゃあ人間から魔物になって外見以外で変わった事ってあるか?」
「特にないよ…まあ少しはあるけどね…」

冷静に考えても…エロい事に抵抗を感じなくなった事と魔王『様』といつの間にか言うようになった事ぐらいかな。

いや…まだあったぞ…!

「そうだ…少しだけおっぱいが大きくなった」
「えっ!?」

私の胸がBからCになったという一番重要な事を忘れていた。
だが、その事を言ったらスズが私の胸を見て驚いた顔をしているではないか。

「……何?その驚きは?まだ小さいとでもいうの?」
「あ、え、い、いやそういうわけじゃあ…」

たぶん当たっていたのだろう…言葉を詰まらせながら否定してくるスズ。
ふとそんなスズの胸が視界に入ったが……

「ねえスズ…その胸に付いているの何?」
「へっ?……えっと……」

そこには、私は持ってない大きな双球が存在していた。
しかも、リンゴと同じ位かそれ以上の大きさで垂れることなく存在している。



……羨ましい……



「なんだろうなこの膨らみは?腫れものかなあ?」
「へ?ち、ちょっとサマリ!?なにすrひゃっ!?」

私はスズの大きな塊を両方とも片手ずつ思いっきり握った。
指を程良く押し返す弾力性を持ちつつも受け止める柔軟性も持ち合わせているとは…本当に羨ましいなぁ…

「いやあ先端にかわいい突起が付いてるじゃん。押してみたら沈んでいくかなぁ…」
「えっ!?それはあまり大きさと関係nひぃんっ!」
「あれ〜どうしたのスズ?変な声なんか出しちゃって…」
「サマリお願いだからやめておっぱい触らないでyぁあっ!」
「やめてほしいのならこれ私に分けてよ…お願いだからさぁ…」
「いやそれはむりdんひゃぃっ…」


私はスズの胸を正面から気がすむまで揉み続けた…


「今のサマリお姉ちゃんこわいよ…」プルプル…


視界の淵でアメリちゃんの怯えている姿が目に入ったが、気にせず続ける事にした…



=======[ユウロ視点]=======



「おっし!洗い物終わった〜!!」
「やっぱ5人分もあると時間掛かるな〜。ウチ疲れたわ…」

サマリとスズとアメリちゃんがお風呂に行っている間に、俺はカリンと一緒に洗い物をしていた。
まず女子がお風呂に行き、その間に男子が洗い物をする…これがこの旅の中でいつの間にか出来ていたルールだ。
今日からは男が俺だけになるからその分洗い物の負担も増えると思っていたが、何故かカリンはお風呂に行かず俺の洗い物を手伝ってくれていた。

「お疲れさん。つーかカリンもお風呂に行っても良かったのに…広いから余裕で入れるだろうしな…」
「ああ…まあ洗い物をユウロ一人に任せるのもアレかな〜と思ったし、他に理由もあるしな」
「まあ助かったよ、ありがとな…で、他の理由ってなんだ?」

おかげで俺の負担は減ったのだが、何故カリンは皆と一緒にお風呂に行かなかったのだろうか?
ちょっと不思議に思ったのでなんとなく聞いてみた。

「ん〜…まあ一つは嫌な予感がしたからっちゅーのがあるな…」
「へ?嫌な予感?」
「ほら…ウチ以外皆魔物やろ?やでなんか風呂場で刺激が強そうな事やってそうでな…」
「ああ…そうだな…」

まあリンゴの前例があるし、スズのほうが大きいからとサマリが暴走している可能性はあるな…
カリンは…言うほど大きくないから大丈夫…とは言い切れんか。
どのみち人間には刺激が強そうな事やってそうだよな…やたら長いしな…

「ま、あとは息抜きしたいっちゅーのもあるな。やでウチは最後でええよ」
「ん?もしかしてカリン俺達に気を遣ってるのか?」
「あ、ちゃうちゃう…皆の事じゃなくてウチ自身の話や。気にせんといて〜」
「はぁ…まあいいか…」

なんかカリンが一瞬ドキッとした顔をしたけど、まあ気にするなって言うから気にしないでおこう。


「あ、そうそう…なあユウロ、あんたどうしてサマリやスズとつきあわへんの?」
「へっ?なんだよいきなり…」
「いやな、昼間にサマリから聞いたときに疑問に思ってな。人間もあかんって事は元気な息子が欲しいとかで魔物と結ばれたくないとかでもなさそうやしな…まあ話したがらないっちゅーから無理に話さんでええけどな」
「それじゃあ話さないわ…」
「ちぇ、つまらんやっちゃな〜…」

言葉通りつまらなさそうな顔をして水を飲むカリン。
そんな事言われても、俺の話は他人に気軽にして良いものじゃないからな…
変な同情とかはしてほしくないし、俺自身あまり思い出したくないしな…

「まあ生き物は皆何かしらどんなに親しい間柄でも話したくない事はあるもんだし、気にする事無いさ」
「それもそうやな…」

という事でこの話は止めて、サマリ達が出てくるのを待つ事にした……






……ん?まてよ?

「もしサマリ達がカリンが感じ取った予感そのものをやっていたとしたら…」
「……ご愁傷様やな…」

俺…どこかに逃げてたほうが良いかな?



まあ実際にその予感は当たっていたわけだが、今日は一応襲われずに済んだ。
あまりスズもサマリもついでにアメリちゃんも性欲がそんなに強くなく、俺の事情を考慮してくれて良かった…


=======[サマリ視点]=======



「これでええか?」
「うん!完璧だよ!!これ商品にしてもいいんじゃない?」
「せやな…まあ考えとくわ」

現在9時。
朝ご飯を食べ終わり、早速弥雲に向かおうとした時にカリンに止められた。
どうやら昨日言っていた私の毛を使ったものが出来たらしく、早速手渡しされた。

「つーかカリン器用だな…これを一晩掛けずに作り上げたんだろ?」
「まあこれ位ならすんなりと作れるで!結構ウチ手作りの商品なんかもあるしな!」
「わ〜すごーい!!」

カリンが昨日、お風呂を出てから夜遅くまで掛けて作ったもの、それは…

「でもこれ直接触れてはいるけどさ、実際に効果はあるのか?」
「魔力自体は抜けとらへん。角も身体の一部やし、あると信じたい」
「まあ効果があるかどうかはこれからわかるってところか…」

私の毛を白いお花に見立てた装飾がされていて、角に着けるもの…言うなれば角飾りってとこかな…である。
角に留める為のリボンの部分にも私の毛が使われているらしい。
直接肌に触れているわけではないが、一応角も私の身体の一部だから効果はあるはずだ。
見た目も可愛いし、本当に効果があれば文句無しの逸品である。

「あ、そうや。スズの分もあるで」
「えっ!?なんでアタイにも!?」

と、ここでカリンがもう一つ同じものを取り出して、スズに渡した。
予想もしていなかった為か、スズはかなり驚いている。

「あ〜、ウシオニって言う種族は性欲がめっちゃ強いって聞くからな〜…スズは今のところそんな感じはせえへんけども、保険として着けときいな」
「そうか……花梨、ありがとう!」
「ええって事よ!」

やはりスズも女の子。角飾りを嬉しそうにその逞しい白い角に着け始めた。
私と違い髪が黒い事もあり白い花飾りは良い意味で目立っている。



「ねえカリンお姉ちゃん…」
「…アメリちゃんの分はまた今度な……さすがに3人分作ったらウチ昨日眠れんかったし…」
「むぅ……それならしかたないけど……」

可愛いからか、どうやらアメリちゃんも欲しいようだが…本来の目的や製作期間からもカリンはアメリちゃんの分までは作っていなかったようだ。
それがわかってアメリちゃんはむくれてしまった。

「いつでもいいからぜったいにアメリのも作ってね!!」
「まかせとき!可愛いの作ったるからな!」

だが作ってもらえるからか、すぐに機嫌は直り元気にカリンにお願いをしていた。


「それじゃあ出発するか!」
「せやな。そろそろ荷物届けんといかんし、ちょっとペース速めでええか?」
「そうだね。じゃあ目標は12時前に弥雲に着くって事で行こうか!」


そして私達は、弥雲に行くために『テント』から出て、ちょっと早歩きで向かった。



…………



………



……







「う、うわあっ!!でたーー!!」
「きゃああっ!!」

「…………」


現在12時。
私達は目標通り、12時までには弥雲に辿り着いたのだが…

「か、怪物が町に降りてきたー!!」
「逃げろー!!」

「…………」


町の人がスズを見た瞬間、かなり失礼な事を言いながら一目散に逃げ始めた。

その様子を見た私達は……

「…全員シバくか?」
「…そうだな。特に怪物って言った奴は容赦なしでいこうぜ」
「いや、たしかに腹立つけどそれはやめてよね…余計悪くなる気がするからね……」
「むぅ〜〜〜〜〜!!」

もちろん怒っていた。
たしかにスズはウシオニだけど、実際に町で暴れているわけじゃないのにこれは酷いではないか。

「…………」
「スズ、気にすんな!そんな暗い顔するなよ!」
「……でも……」
「そうやスズ!あんな失礼な連中の事なんか気にせんでええ!」
「……うん……」

そんな町の人の様子を見たスズは、私達が励ましても立ち直る気配がないほどにずっと落ち込みっぱなしだ。

「まあとりあえずウチの荷物の取引先のとこに行くで」
「……アタイこの町歩いてて良いのかな……」
「だから気にせんでええって!ついでに言うと相手はジョロウグモやでたぶん大丈夫なはずや!!」
「そう……じゃあ行く……」

相手がジョロウグモと聞いて、一応トボトボと歩き始めたスズ。
こんなに落ち込んでいる様子を見ても化物だなんて言えるのだろうか?少なくても私には無理である。


なぜこの町の人達はこんなにも怖がっているのだろうか?不思議でしょうがないのだが…



…………



………



……







「荷物はこれでええか?」
「はい、大丈夫ですよ。遠いところからありがとうございます」
「ええよ。これもウチの仕事やからな」

そんなにしないうちにカリンの荷物の届け先に着いて、私達はカリンをそのジョロウグモさんのお家の中で待たせてもらっていた。
なぜなら、外で待つとスズを見た町人が慌てて逃げて行って軽い騒動が起きてしまうからだ。

「せや、一つ聞いてええか?」
「はい、何でしょうか?」
「なんかこの町の人達、ウシオニに対して怯えすぎちゃうか?ウチのスズはどこからどう見ても大人しいのにさっきからわーぎゃー言いながら逃げるもんで不思議に思ってな…」

だが、カリンが言うとおりスズは何もしていないどころか、さっきからずっと暗い顔してへこんでいるのだ。
だから町人の態度が気になったので、同じアラクネだからかスズを見ても慌てないこのジョロウグモさんに事情を聞いてみる事にしたのだ。

「そうですね…まあスズさんはまだ若そうですし関係ないとは思いますが…」
「なんや?やっぱ何かあるんか?」
「はい…この弥雲とウシオニにはちょっとありまして…」

やはり何か事情があるらしく、ジョロウグモさんが語り始めた。

「実はこの町…おおよそ30年前に、祇臣の方面から山を下ってきたたった一人のウシオニによって壊滅した事があるのですよ」
「ほぉ…そんな事があったんか……ほな町の人達がスズを見て怖がってるのは…」
「ええ…やっと復興したところでまたウシオニに町を壊される…そう思っている人は多いと思います。私はまだ赤子だったので覚えておりませんが、それほど30年前は酷かったらしいので」
「なるほどな…状況的にも似たような感じやし、またそのウシオニが来たと思ったってとこやな……」
「ええ…ずっとあの山に棲んでいると言われ続けて、1年程前に居なくなったという噂が流れたと思ったらすぐに目撃情報がでて…町の人達、特に当時を経験している者は恐怖に襲われながら生活していた程ですので…」

つまり、昔ウシオニにこの町を破壊された事があり、それがこの町の人々のトラウマとなっていると…
だから山から下りてきたスズを見てあんなに慌てていたわけか…
釈然とはしないが、まあ理由はわかったので良しとしておこう。

「だったら何もしないでこのまま、それこそ次にどこに向かうかを決めたらすぐにでもこの町は出たほうがいいか…」
「そうだね…スズはそれでいい?」
「うん……ちょっと悲しいけど、それなら仕方ないしね…」

だから私達は、次の目的地を決め次第このまますぐに町から出る事にした。


「それじゃあ次はどこに行く?」
「うーん……あ、そうだ……」

次はどこに行こうかという話になったが、私はふと思ったことをジョロウグモさんに聞いてみる事にした。

「あのー、ちょっと聞きたい事があるのですが…」
「はい?なんでしょうか?」
「リリムがこの近くにいるとか聞いた事はありませんか?」

ジパングにもアメリちゃんのお姉さんが居るかもしれない。
そう思ってジョロウグモさんに聞いてみたのだが……

「あ〜…はい!少し遠いですが居ますよ!」
「えっ!?ホントにお姉ちゃんがいるの!?」
「ええ、この町に来ていた事もありまして、ちょっとお話させてもらったことがあるのですよ」

なんと、近くでは無いようだが本当にいるらしい。
やはりリリム、どこにでも居そうだとは思っていたが、本当にジパングにもいるのか。

「お姉ちゃんがどこにいるかわかる?アメリおしえてほしい!」
「え〜っと、たしか…この町をかなり東に進んだ先にある山の山頂付近に住んでいると言ってました。麓に武白(むしら)という村があるのでそこでも聞いてみるといいかもしれません」
「わかった!ありがとうジョロウグモのお姉ちゃん!!」

アメリちゃんのお姉さんは武白という村の近くにある山の山頂付近にいるのか…
少し遠いって言うからまた何日か掛かるだろうな…
準備をしっかりと整えてから行きたいけど…この町では不可能だしな……

「えっと…その武白って村までどれ位掛かるかわかりますか?」
「そうねぇ…歩いて行くのならざっと1週間位は掛かるかと…」
「そうですか…」

1週間位は掛かるのか…今5人旅だし、それまで食料もつかなぁ…
いや…無理な気がするから、途中に町があるか聞いてみようかな。

「じゃあその村までに町はありますか?できれば魔物にやさしい町であれば教えてほしいのですが…」
「そうですね…でしたらこの町から武白の間、ちょっとこちら寄りの位置に『宵ノ宮』というかなり大きな町がありますので、そちらに寄るのがいいと思います」
「そうですか、ありがとうございます!」

どうやら良い具合に大きな町が存在しているらしい。そこで旅に必要なものを調達すればいいか。
それに『大きい』と言うぐらいなのだから、宵ノ宮では少し観光もしていこうかな?

とか考えていたのだが……


「ちょ、ちょっと待って!宵ノ宮はアカン!!宵ノ宮に行くのはアカン!!」
「へっ!?」

カリンが大慌てで宵ノ宮には行きたくないと言い始めたのだ。

「どうして?何か危ない事でもあるの?」
「変な噂でも流れているの?」
「それとも何か嫌な思い出でもあるのか?」

やたら慌てて言っているので何かあるのかと思ったが…

「いや、行ったことは無いんやけど…その町はかなり有名なんや…」
「有名?何が?」
「何がって言うとな…」

もったいぶるように溜めたにもかかわらず…

「その宵ノ宮は『妖狐』やら『稲荷』やら所謂キツネ系の魔物がその町の魔物全体で6割もあるという恐ろしい町なんや!!」
「「「……は?」」」

特にこれといって騒ぎ立てるほどのものでは無かった。

「『は?』とはなんや!ウチおかしな事言ったか!?」
「うん。なんでキツネ系の魔物が6割もいるのが恐ろしいの?」

たしかに大きな町に住む魔物の6割もキツネ系で占められているのは驚きではある。
しかし、稲荷も妖狐も別に恐ろしくは無いと思うのだが…何がそんなに恐ろしいというのだろうか?

「ええか?キツネ…特に稲荷の奴はほんまに汚いんや…ウチの商売相手を奪ったり…ウチのアイデアを奪ったり…ウチの…ウチの……うがあああああああああああああああっ!!」
「ちょっ!?落ち着いて花梨!!」
「暴れるなカリン!どうしたんだ急に!?」

恨みを込めた声で何かを言い始めたカリンだったが、突然頭を抱えながら叫び、更には暴れ始めた。
慌ててスズとユウロが落ち着かせようとしているが、なかなか落ち着こうとしない。

「ウチはキツネなんか大っ嫌いや!!思い出すだけで心の奥底からどす黒い負の感情が湧きあがってくるほどに!!」
「ちょっと落ち着けカリン!迷惑だろ!!」
「わかっとる!わかっとるけど…ぁぁあああああああああ!!!!」

カリンの叫びを聞く感じでは昔稲荷に何かされたらしい。
それで稲荷及びキツネ系の魔物が嫌いだから、キツネ系が沢山いる宵ノ宮には行きたくないというわけか…
まあわからない事も無いけど、とりあえずカリンを落ち着かせて言い聞かせるとするか。

「ああああああああああああんぶぶぷっ!?」
「はいはい落ち着こうね〜」
「んん〜……ん……ぷはっ……ふぁ〜………」
「落ち着いた?」
「あ、ああ……落ち着いたわ…」

私はカリンを落ち着かせるためにカリンにもこもこホールドともこもこインパクトをやった。
それは上手くいったようで、眠ってしまう前に拘束を解いて話をする。

「あのねカリン、昔稲荷に何かされたのかは知らないけど、それは世の中にいる全ての稲荷にやられたの?」
「…いや、ちゃうけど…」
「だったら別にいいよね?宵ノ宮に行こうか」
「でも…ウチそれでもキツネ好きやない…」
「食糧不足で厳しい旅するのと宵ノ宮で食糧をきちんと買って楽しく旅するのとどっちが良い?」
「……わかった、行く……」

カリンも納得してくれたようだし、早速向かうとしますか。

「では失礼しました〜」
「いえいえ、では気をつけて下さい。スズさんの事は私が皆に話しておきますね」
「おねがいします」

とりあえず町民をなるべく避けて、急いでこの町から出る事にしよう。







「カリンお姉ちゃん…そんなに稲荷さんのことキライなの?」
「うん…でも別に種族的なものちゃうで……昔にちょっと個人的に稲荷とあってな…」
「ふーん…アメリてっきりカリンお姉ちゃんがぎょuんみゅっ!?
「アメリちゃん…それは言わんっちゅう約束やろ?」
「んみゅぅ…そうだった!ごめんねカリンお姉ちゃん!!」
「ええよ。まあアメリちゃんのお姉さんに会うためやし、ウチも覚悟決めるわ…」
「うん…ありがとうね!」



また何かアメリちゃんとカリンの二人が話をしていたが、会話の内容は聞き取れなかった。


====================



「次の町は…アタイを受け入れてくれるかなぁ…」
「まあそんなに心配しなくても大丈夫だろ。弥雲がちょっと特殊だっただけだろ」
「うん…そうだと良いな…」

現在13時。
急ぎ足で町を出た私達は、お昼ご飯を食べる為に『テント』の中に居る。

「つーかカリン、稲荷に何かされたから稲荷が嫌いってのはわかるけどさ、なんで他のキツネまで嫌いなんだ?」
「…似てるやん…全部キツネやん…」
「……そうだな……」

私は今急いでお昼ご飯を作っている。
他の皆はそれぞれ私の料理の手伝いをしているか、食器を出したりしながらお話をしている。

「ふんふ〜ん♪」
「楽しそうだねアメリちゃん」
「うん!だってお姉ちゃんがいるってわかったもん!」

もちろんアメリちゃんは私と一緒に料理を作っている。
もともとセンスがあるのか、初めと比べるとかなり上達しているアメリちゃん。
もちろん怪我をしないように気にしながらではあるが、今では食材を切ってもらったり、スープの味付けを任せたりしている程だ。

「それと、見たことない町に行くのもたのしみだもん!」
「そうだね!」

私達は楽しくお昼ご飯を作り、皆でおいしく食べた。




武白の向こうにある山に住むアメリちゃんのお姉さん…どんな人なんだろうな……


それと、キツネ系の魔物がいっぱいいるという宵ノ宮は、いったいどんな町なんだろうか…


これからの旅に期待を膨らませながら、私はお昼ご飯を食べた。
12/06/01 21:17更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
良いサブタイトルが思いつかなかった…
そんな今回は、新しく仲間になったカリンとスズを馴染ませるようなお話。
そしてこれからの話に関わりそうな事をちらほらと…

そして次回はお姉ちゃんに会いに行く前に宵ノ宮という町に行くわけですが…どこかで聞いた事ある人も多いんじゃないでしょうか?
そうです!次回はjackryさんのさまざまな作品とのコラボです!もちろん宵ノ宮ですので、あの妖孤さんからあんな妖孤さんまで出てきますw

という事で、あまり期待しないで待っていて下さいね!

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