読切小説
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LSD日記
1月1日

 新年明けたけれど、私には素敵な彼がいない(涙)。他の友達はみんな素敵な彼を見つけて結婚してるけど、私はそんな自信のあるプロポーションじゃないし、何より男性に話しかけられただけで沸騰しそうになる私に、この先いい男なんて見つからない気がしてならないの。でもあきらめちゃダメだよね。と言う訳で、ちょっと勇気を出して初詣で少し気になった人がいたから、彼の夢の中に現れようと思うの。彼の家をストーキングして見つけたけど、ばれないわよね。それに彼は、背は高くて、優しそうだし気が合いそうなの。少しは自分を変えていかないとね。

1月2日

 彼の夢の中に入ったはいいものの、あまりに狂気じみていて話しかけられなかったわ。どんな夢かって?彼は畑の中を歩いていたの。その畑っていうのがちょっと、いやだいぶ問題で、畑の中から女性のカツラかぶったマネキンが沢山顔を出してるの。そして、それを軍服きた男が鍬で叩いてるの。マネキンはゴムの様に柔らかくて叩いても叩いても元に戻るんだけど、叩かれるたびにすごい悲鳴を上げるから、こっちもたまったものじゃなかったわ。で、何とか根性振り絞って彼に近づいたら、今度は横からバスが来て彼を追い回し始めたの。それで、彼を見失っちゃって結局は話しかけられなかったわ。彼の精神、どんな状況なのかしら?まぁいいわ。頑張ればいいから。

1月3日
 
 彼の家に行ったけど、留守だったわ。どうも夜勤のある仕事みたいね。しかし、正月3日から夜勤ってどんな仕事なのかしら?

1月4日

 彼が仕事から帰って来て、家で寝てるから夢の中に突撃してきたわ。今度の夢は、彼が高校生の記憶を基にしているのかしら?ちょっとした商店街を、彼が学校の制服を着て登校しているのだけど、足に重りが付いているのか全然前に進まないの。ほら、よく夢の中で進もうとしているのだけど全然前に進まない感覚ってあるじゃない?そんな感じ。しかも彼ったら、

「遅れる・・・遅れる・・・」

なんて口にして、遅刻を気にしていたそぶりだったの。だから私は、可愛い可愛い女子高生に姿を変えて、彼に話しかけたの。

「おはよう。ねぇ、大丈夫?疲れてない?」

「先天・・・ビックバン・・・ビックバンの座標・・・」

彼、相当疲れているのか私の受け答えにまともに答えられていなかったわ。そしたら、周りが急に薄暗いデパートに変わっちゃってたの。どうも布団売り場らしいのだけど、活気がなくて周りの人はみんな老人ばかりだったわ。何とか彼を振り向かせようとしたのだけれど、急に現れた階段を彼が降りて行ったら、階段が消えちゃったの。で、結局彼とまともに話せなかったわ。彼ストレス溜まっているのかしら?それとも、過去の学校生活にコンプレックスを感じているのかしら?とにかく今度は、何とかして彼を振り向かせなきゃ。

1月5日

 彼、また夜勤でいない。早く彼に会いたいよう。

1月6日

 彼が帰って来て寝てたから、突撃。また夢の中で高校生になって登校していたわ。だけど、前回と違うのは足取りがそこまで重くなかった事と、自転車を押していた事。ここは彼に近づく為、何とかして励まさないと。ということで、金髪巨乳美女に変身して元気づける為に栄養ドリンク渡したの。

「アイジョウイッポーン、チ○ビタドリンクー!」

・・・彼、すごく神妙な顔してたけど、受け取ってくれたわ。やったー!これでイチコロよ・・・って思ったのも束の間。夜だったのがいきなり曇りの昼間になっちゃって、彼ったら突然現れた3階建ての銀色の電車に乗ったの。慌てて追いかけたけど、また見失っちゃった。はぁ・・・また話しかけれなかったよう。

1月7日

 彼夜勤。こんだけ夜勤のある仕事って一体何なの?

1月8日

 彼またいない。どうもまた夜勤な模様。彼と結婚したら、彼がのんびりできる様な生活にさせてあげたいな。

1月9日

 ようやく彼の夢の中に潜り込めたわ。彼は電車に乗っているのだけども、運転手も車掌も、私と彼以外の乗客はいないの。やっとまともに彼に話しかけられると思ったけれど、駅に着いたのか急に電車が止まってドアが開いたの。彼が降りたから、後を追ったらそこは墓場だったの。駅かと思ったら辺り一面お墓。しかもどんよりとした曇り空。そんな中を、彼は猫背で歩いているの。流石の私も、「これはまずい。」と思ったわ。

「ねぇ、あなた待って!」

そう言いながら彼の腕をつかもうとしたのだけれど、急にあたりがお墓から迷路に変わっていったの。迷路の壁は鉄の壁で、そこにいるだけで押しつぶされそうな感覚に陥ったわ。何とか、彼の腕を掴む事が出来たのが幸いだったわ。それで、ようやくまともに話しかけられたわ(状況はまともじゃないけど)。

「ねぇ、あなた大丈夫!?名前は?」

「う・・・あ・・・わか・・・らない・・・うわ・・・あああああああああ!!!!」

「ちょっと、本当に大丈夫!?しっかりして!」

迷路の壁が上がったり下がったりして金属音が鳴り響く中、私は彼の気を取り戻そうと必死だった。でもいつの間にか目が覚めていたわ。早く彼を何とかしないと、大変な事になりそうだわ。

1月10日

 彼が出勤する姿を隠れて見ていたけど、明らかに病んでいた顔だったわ。何か体が小刻みに震えていたし、不健康なのは明らかだったわ。この日も、彼は夜勤で会えず終い。

1月11日

 彼が帰ってきたと思ったら、夕方また出て行ったわ。どうも、また出勤みたいね。だから病んでいるんじゃないかしら?


1月12日

 また夜勤よ。もうこれで3日連続。彼本当に大丈夫かしら?

1月13日

 ようやく彼が、家の中で寝ているから夢の中に潜入。高速道路の高架下みたくなっていて、四辻の真ん中に彼が立っていたわ。彼に話しかけようとした途端、周りから黒い人影の様なものがぞろぞろ出て来て、彼を取り囲み始めたの。

「おおおおおお」

「若いのおおおぉぉぉお」

「贄ぇぇぇええええ」

みたいな事言ってたわ。まずいと思ったから、持っていた鎌で人影を蹴散らして彼の腕を付けんで逃げたわ。影のスピードはかなり速くて、追い付かれそうになったけど、とたんに現れたママチャリに乗って逃げてたら追いかけてこなくなったわ。しばらく自転車こいで近くにベンチがあったから、彼を座らせて休ませたの。

「あなた、一体何に追われてるの?名前は?」

「名前・・・た・・・毅(たけし)」

「お仕事は?」

「う・・・あ・・・あああああ!」

「い、言わなくていいわ。それより大丈夫?」

そう話しかけた途端、ベンチがあった所にいきなり穴が開いて毅さんが落ちちゃったの。

「毅さぁん!!」

・・・そこで夢から覚めたわ。何か嫌な予感がする。だから明日は彼の職場まであとをつけようと思うの。







・・・で、彼の職場まで後をつけ、仮眠中の彼を見つけたの。幸い、周りには誰もいなかったから良かったわ。さて、彼の夢の中に入るとしますか。

ここは、火山?すごいマグマと熱。一部の魔物達には過ごしやすそうな所だけど、普通の人間だったら間違いなく死んでるっていう環境ね。そんな中、彼は断崖絶壁の崖の上に立っていたわ。下は溶岩の河。落ちたらひとたまりもないわ。

「ねぇあなた、そこで何してるの?」

私の声に反応したのか、彼はちらっと私を見たわ。彼の顔は、すごく生気がなくて今にも死にそうな感じだったわ。

「おまえ、初夢の時から俺の夢の中にいるだろ?心配してくれたのか?短い時間だったけどありがとな。」

そしたら彼、いきなり溶岩の河の中へ飛び込んだの。

「いやああぁぁぁぁあ、死なないでぇー!!」

夢から覚めてみると、目の前には仮眠室のベットの中で白目でプルプル震えている彼がいたわ。私は、彼を抱きかかえながら仮眠室を抜け出し、病院へと向かったわ。救急車を呼ぶという選択もあったけど、何故か私が救わないとという思いがあったから呼ばなかったわ。


 で、病院について治療し、何とか彼は助かったわ。何とも脳卒中で、あまりの過労で心身ともに病んでいたみたい。それで、彼の勤めていた会社はこの件で法律違反が発覚。すぐに倒産してしまったわ。で、そのまま彼と私は仲良くなって、無事結ばれたってわけ。今は、桜並木の下、彼を乗せながら春を満喫しているわ。

「長い悪夢だったな。」

「そうね。でも、もう悪夢は見なくて済むわ。だって私がいるもの。ね。」

「明けぬ冬はあり得ないってか。」

彼はしばらくはリハビリ続きだ。苦難もあるだろう。だけど、私はそれを支え続けるわ。もう二度とあの日の悪夢を見せない為に。

完。
15/02/24 18:54更新 / JOY

■作者メッセージ
お久しぶりです。今回は、今まで私が見て来た夢をモチーフとして書きました。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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