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第二十五話・ジュネッスB問いかけ
僕たちは反魔物領を目指す。
アヌビス教頭の教えてくれた通りなら、もう少し行けばオアシスが見えてくるはずだ。
「ここじゃ、親魔物派ばかりだからな。まずは反魔物派の土地に行け。自分たちと反対の立場の人間を目に焼き付けて来い。そうすれば、俺が学園を作った理由もわかるよ。」
ロウガさんの言葉通りなら、おそらく僕はその土地の人たちとわかりあえない。
でも行ってこいというのだから、何か意味があるに違いない。
僕たちの住む町は中立地帯にあって、国としてもあまり機能していない土地。
おかげで僕らの町は外の人たちからは『名もなき町』と呼ばれているらしい。
旅に出て、人に会って初めてそのことを知った。
本当に僕たちが知っていた知識ってほんの僅かだったんだと気付かされる。
その中立地帯の外に目指す土地があって、さらにフウム王国…、マイアさんから聞いたロウガさんと揉めている国があるそうだ。
うぅ…、地理は苦手だ。
「それより…、砂漠ってこんなに暑かったんですね…。」
「私も…、初めて砂漠に来たからなぁ…。ここまで暑かったとは…。」
砂漠というものを嘗めていた。
「駄目だ…、日陰で休もう…。このままじゃ、猿の干物と蜥蜴の干物が出来上がる!」
「さ、賛成です…。」
急いでマイアさんと協力して、砂を掘って穴を作る。
そして日陰になるようにマイアさんの大剣を置き、その中で一息吐いた。
ああ、以外に涼しくて気持ちいい。
「しばらく休もう…。日が沈んだら、また歩こうか。」
「そうですね。少し休みましょう。」
マントをさらに天幕に使って本格的に日除けする。
歩き続けて疲れたのか、いつの間にか僕たちは体育座りで寄り添ったまま眠ってしまっていた。

そして…、不思議な夢を見た。


――――――――――


ここは…、どこだろう…。
不思議な神殿だ…。
誰もいないのに、誰かがそこにいるような…。
台座の上に誰かがいる。
僕は…、動けない…。
「汝に問う。心して答えよ。」
もしかして…、スフィンクスっていう魔物…?
「はい…。」
何かに抗えず、僕はただ口を開く。
「朝は四、昼は二、夜は三。これは何か?」
「それは冗談、ですよね?」
「少し、意地が悪かったようだな。では問いを変えよう。」
そしてその人は言った。
「満足する人生とは、何か?」
「……満足する人生、ですか?」
「ああ、我が守り続けたファラオたちは実に王に相応しき者たちであった。だが、彼らは生前に満ち足りた人生を送っていたはずなのに、死後に巨大な墓を造り、死後の生活、肉体の復活に心を疲弊させていた。だから、問いたいのだ。満足出来る人生は何か?永遠の命か?それとも大金持ちになることか?それとも世界をその手に入れることなのか?」
「それは難しい質問ですね。」
そもそも、何故僕なんだろう。
町を出て、初めて見る世界に驚きっ放しの僕に何が答えられるというのだろうか。
「何故、僕なんですか?もっと博識な人だって、人生を経験した老人もいるじゃないですか。」
「彼らは駄目だった。我は知りたいのだ。博識な者でも自らに満足を知らず、人生を経験した老人もいまだ自らの生に執着している。それでは眠るファラオと何一つ変わらない。若者よ、無茶な問いというのは重々承知だ。だが、答えておくれ。」
スフィンクスは、まるで懇願するように僕を見る。
ああ、この人も僕と一緒なんだ。
この人も僕と同じように袋小路に迷い込んだ人なんだ。
「…僕は何も知りません。知識も思いも、何もかもまだ空っぽなんです。だから今は上を向いて歩いていく、そんな誓いしか口に出せない、ちっぽけな男なんです。満足できる人生が何かも知りません。」
「若者よ、君まで知らないと言うのか…。」
「でも…、僕は好きな人と一緒に旅をしています。その人を背負っていける覚悟を得るため、尊敬出来る人たちの思いを知るために旅をしています。もしも、その愛する人と共に人生を歩けて、次の世代に想いを残して生きていけたら…、僕の人生はたぶんそれだけで満ち足りた人生になると、思います。世界を手に入れることよりも、大金持ちになることよりも、永遠の命を得ることよりも、笑顔でいてほしい人が笑ってくれるのなら…、それ以上に価値のあるものなんてこの世にはない。」
スフィンクスは何も言わない。
ただ台座の上から見下ろしている。
「欲のない答えだな。だが…、我がファラオたちはその境地に辿り着かなかった。世継ぎを産むために結婚し、世継ぎのためだけに后を愛し、国民の期待に応えるために強い王を演じ、領土を増やす。ふふふ…、なるほど、何一つ本物の人生など歩んでいないのだな。何もかもが偽物の宝石で着飾った煌びやかな人生では、なるほど死後の生活や肉体の復活などという妄信に囚われてしまうものか。若者よ、君の答えは正解ではない。だが、我は一つの答えを得たような気がする。
さぁ、目覚めなさい、旅人よ。
ここは君のいるべき場所ではない。君の旅の無事を祈る。」


―――――――――――


「サクラ、起きろサクラ。もう夕方だ!」
「う…にゅ?あ、マイアさん、おはようございます〜。」
「ほら、寝惚けていないで、歩くぞ。方向さえ間違っていなかったら明日にはオアシスに着くはずだ。」
今…、何か変な夢を見ていたような気がする…。
う〜ん、思い出せない。
「ところで、サクラ…。それは、何だ?」
「え、何ですか?」
マイアさんは鏡を見せてくれる。
写っているのは僕の顔。
う〜ん、女の子みたいな幼い顔、どうにかならないかなぁ。
出来たら男らしい顎の割れた濃い顔になって身長も180cmくらいになりたいなぁ。
革ジャンを筋肉の膨張でビリビリ破れるような男になったらカッコいいかな?
「僕の顔ですよ?」
「…その頬の口紅は、何だ?」
へ、口紅?
あ、ほんとだ。
薄いピンク色のキスマークみたいなのが付いてる。
ってゆーかこれってキスマーク?
「さっそく浮気か、この野郎。今すぐ冥土に送ってやるから神妙にしやがって、サクラ。」
「お、覚えがないです!」
「母上から聞いたことがある。男はみんなそう言うのだと!!」
そ、そんな殺生な!!!
逃げないと、砂漠を渡る前に川を渡る!!!
「待てぇーー!!!!」
「ま、待ちませぇーーーん!!!!!」


君たちの旅路の無事を祈ろう。

それは我からのささやかな礼だ。

どうか

君の清らかな魂が穢れぬよう

砂漠の太陽の如く熱い想いを忘れぬよう

恐れることなく進め。
10/10/28 23:26更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
ゲストキャラにスフィンクスを向かえてサクラの旅路第一弾です。
サクラは無力で迷いやすい少年ですが
実は芯のところで揺るぎない信念を持った少年ですので
このあたりの問いかけの答えとしては妥当…じゃないかな〜と思って言わせました。
短いのはご愛嬌。
一日二本はさすがに今日の限界ですw

さて、次回はオアシスに入ります。
道に迷わなければ…。
最後にここまで読んでいただき
ありがとうございました!!

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