読切小説
[TOP]
必殺・甘え魚人
「みなさん、こんばんは〜♪ 【瞬間、心、通じて(はぁと)】のはじまりはじまり〜! この番組は、魔物娘ちゃんが旦那様(はぁと)をゲットする瞬間を生中継でお送りいたしまぁす。私が実況、メロウのハレットで〜す。んで、解説はデュラハンのカルールちゃん。カルールちゃん、今回もよろしくね」
『はい。よろしくお願いします、ハレットさん』
「この放送は魔王城第3スタジオより実況・解説、映像は魔界各地に放ったカメラからの生放送となってまぁす。ちなみに、カメラはバフォメット印の不思議仕様で、自立飛行とか完全ステルスなんかのご都合機能つき! 興味を持った方はぜひ、魔王城の某所にあるサバトまで! アナタの出歯亀ライフもこれでバラ色かも?」

※テロップ※
当番組では魔法により近々運命の相手を手に入れる魔物を占い、当確となった方のところへカメラを飛ばしております。
なお、被写体の魔物娘には事前の説明の後、本人の承諾の上で撮影をおこなっております。



「さてカルールちゃん、今日はサハギンの男狩りみたいよ?」
『無口な彼女たちが、どのようにして男を落とすのか? 注目はそのあたりですかね』

(画面が表示される。森を流れる川、ぷかぷかと浮かぶサハギン)

「あら、どうやら彼女が今回の選手みたい。カルールちゃん、あのコの様子はどう?」
『いいと思います。肌のハリや髪のツヤに加え、鱗のテカリも素晴らしいですねハァハァ』
「ちょっ、カルールちゃん早い! 今日はずいぶん早いハァハァね……久しぶりの放送だから?」
『それもありますが、最近娘が成長してきた&1人になりたがるもので炉利ぃ成分に飢えてるんです(ジュルリ)……他の家の子を視姦するのはやめてと夫が言うので』
「バイロリとか、相変わらず厄介な業を抱えてるわね……こんなのが守護騎士で大丈夫なのかしらこのお城」
『心配ありません。仕事はちゃんとやってます。子どもたちの平和を守るためなら全力を尽くします』
「そのセリフだけ聞くと立派に聞こえるから不思議よね……」

(サハギン、辺りをキョロキョロと見回し、水中に潜行)

「あ、いきなり水に潜ったわ! 誰か近づくのを感じたみたいね」
『さて、相手はどんな男でしょうか』

(草むらから男が現れる)

「簡単な鎧に剣……見たカンジ、冒険者みたいね」
『そうですね。雰囲気から言って、腕が立ちそうには見えませんが』
「しかも1人だけよぉ。カルールちゃん、これはかなりサハギンちゃん有利だと思うんだけど」
『あのサハギンがよほどのドジっ娘でなければ……おそらく』
「? なんか浮かない顔ねぇ。どしたの?」
『いえ……あの幼い花がこれから目の前で手折られると思うと……』
「ハイハイ、残念だったわね。それで、ズバリ今回の見所だけど」
『彼女がどうやってあの男にアプローチをかけるのか、その技巧ですかね……』
「いつまで沈んでるのよ! アナタは彼女に幸せになってほしくないの!?」
『!!! ……その通りですね。わかりました、私は彼女の幸福を祈り、しっかり見届けます』

(空っぽらしい水筒を手に、助かった〜と言いながら川に近寄る男)

「あ〜、あのヒト、何の警戒もなく川へ近づいていってるわ。これはサハギンちゃん、いきなりの強襲チャンスね!」
『待ってください。彼女、なんだか様子が……』

(サハギン、川底を下流へ進み、風下で静かに川から上がる)

「あら? どうしたのかしら。川から直接いかないわね」
『……なるほど。どうやらあのサハギン、かなり堅実なタイプのようです』
「? どういうこと?」
『男の位置に注目してください。彼は川べりに突き出した岸――まるで夫が元気になったときみたいなカタチです――で水をくんでいます』
「あら、ウチの人のはもっと反り返ってるわよ? それで?」
『………。まあいいです、私にとってはあれが至高ですから。ともかく、この地形でサハギンが男に後ろから迫ったら、どうなりますか?』
「……あら」
『気づきましたか。彼の前と左右は川。彼女が後ろに回り込めば、彼に逃げ場は無くなります』
「サハギンちゃん相手に水中に入るのは、自滅以外の何でもないもんねぇ」

(サハギン、とてとてと走って男の背後にまわる。物音に気付いて振り返り、ぎょっとした表情になる男)

「さて、ついに2人がごたいめ〜ん! って、男は慌てて剣を抜いたわね。本当にヌキ放つべき剣はソレじゃないでしょうに」
『やめてください。いたいけな子の前でそんな行為に走るのは犯罪です。この場面でまずすべきは、目線を同じ高さにして”あらあら、どこから来たの?(ニコニコ)”と聞くことです』
「うわぁ、こんなにキレイで不気味な笑顔初めて見た。……あ、サハギンちゃんも槍を構えて戦闘体勢ね」
『やめなさい! そんな小さな体で戦いなど! その珠のような肌に傷がついたら! ああ!(ジタバタ)』
「コラ! やめなさい! 無理だから! ここからじゃ何もできないから!」

(そのまま睨み合う両者。やがて……)

「! 男が行ったわ! 剣を振りかぶっ…」

(サハギンが槍を投げる。槍は男の剣を弾き飛ばし、二つ揃って川の中へ)

「なっ!? あのコ、剣を的確に!」
『ああよかったケガがなくて……最初から狙っていたようですね、彼女』
「これで男は丸腰ね! ……って、なによ。まだ諦めてないじゃない、あの目つき」
『むしろここからが本番ですね。あのサハギンはどう攻略するつもりなんでしょうか』

(サハギン、男に向かって頭を突き出す)

『ふむ……そう行きますか』
「カルールちゃん、アレはいったい何してるの?」
『無口っ娘や甘えっ娘の得意技の一つで、その名を"ナデナデシテー”と言います』
「あー、つまり」
『読んで字のごとくです。相手に頭を突き出して、上目使いで "頭なでなで”を要求する。無口、低身長、目力の三拍子が揃うサハギンが使うにはうってつけの技ですね』

(すっ、と持ち上がる男の右手。が、男はその右手を左手で押さえ込む)

「あっと? 思わず手が出ちゃった、ってカンジ?」
『無理もないですね。しかしNOタッチは評価します。なにもないのにいきなりナデナデは不作法ですしね。するならやはりそれなりの理由をつけたうえで……く、ぐうっ…!』
「必死の形相で右手を押さえ込むのはやめなさい。どうせ届かないでしょうに」
『物理的な問題ではありません…! ナデナデは心でするものです! しかしそれでも私はNOタッチを貫いてみせる……っ!』
「この炉利婚ゆるぎねぇ」

(サハギンの体が小さく震え始める)

「おっ!? どうしたのかしら。 カルールちゃん、もしかしてあれも技?」
『ええ、間違いありません。相手がなかなかお願いを聞いてくれないときの基本技術、"ふるふる”です』
「体を震わせて、それで何があるの?」
『ポイントは顔の角度にあります。さっきまで上目使いだった彼女が、ちょっと俯き気味になってるのがわかりますか?』
「ああ、なるほど……確かにね」
『お願いを聞いてもらえなくて、俯いて震えるオンナノコ。そこから飛び出すのは……』

(顔を上げるサハギン)

「あ……ああっ!? 泣い…いや、泣いては……ないわね! だけど、今にも涙が零れそうな……!」
『あああああああああああ!! 泣かないでなかないでナカナイデナカナイデええエエエエえええ!?!?!?』
「うわぁ!?」
『その涙は世界一美しい宝石だけど悲しみで流しちゃいけないの! それは嬉しいときに生まれるからこそゲフェッ(横からパンチ)
「落ち着きなさい! 泣いてないから! 目は潤んでるけど泣いてはないから!」
『え!? あ、ああ……ホントだ。よかった…あ、じゃあアレは”ふるふる”からのコンビネーション技、”うるうる”です。今にも泣きそうな表情で相手の良心に訴えかける、強力な技ですね』

(ぎくりと身を引き、明らかに動揺し始める男)

「おお、これは効いたわね! 男の顔が歪んでるわ。明らかに動揺しまくりね」
『自分のせいでいたいけなスク水姿の女神が泣いてしまうかも知れない。これはもう全世界を敵にまわしてでも止めずにはいられないシチュエーションです(フンス』
「全世界はともかく、フツ―に気まずい状況よねぇ。さぁ男、これはもうオチるしかないわよ! さっさとそのコの旦那さんとして新たな人生の幕を開けちゃいなさい!」

(まだ抵抗を続ける男。サハギンの目じりに光る涙の粒はどんどん大きくなっていく)

「えー……まだ耐えるの? なんかもうちょっと萎えてきちゃったんだけど」
『ナデナデする寸前のギリギリで耐え続けていますね。この世の宝が悲しんでいるというのに無視するなんて信じられません、彼には心というものがないのでしょうか(チャキ』
「ちょっと、いつのまに剣なんて持ってるのよ」
『……ともかく、この状況はサハギン側としてもかなり辛い状況なのです』
「え!? どういうコト、辛いのは男だけじゃないの?」
『ここまでの攻め手から、おそらく彼女は決め技としてアレを考えている。そして、そのためには彼女は本当に泣いてしまうのは避けたいハズ。彼女にとっても、ここで決められないのはかなりキツイかと』
「アレって何? あのサハギンちゃんはまだ必殺技を残してるってこと?」
『ええ……まさに”切り札”とでも言うべき技を用意していると思います。……すいません、スタッフの方。瞬間激写の準備をお願いします』
「あら、出たわね瞬間激写! さぁて、今回の”心、通じた瞬間”はどんなシーンかしら?」

(そんな話をしているうちに限界が来たのか、右手をサハギンの頭に置く男。そのままナデナデ開始)

「って、あら? あ、ナデナデはじまってるーー!? ついにオチたわね! これで残るは”切り札”だけってカンジかしら、カルールちゃん?」
『おおお男の体を透過して、サハギンちゃんの顔をアップに! 急いでください!』

(不思議パゥワーにより背後から男の体を透過、画面にはサハギンのバストアップ画)

《ふ、ぇ……んぐっ》

(一度目を閉じ、キョトンとした表情で男の顔を見上げるサハギン)

《うぁ……》

(にへっ、と口の端が上がり、泣き笑いに)

「ふふっ、あらあら微笑ましいわねぇ…。カルールちゃん、今回はコレ?」
『く、これはなかなかの……い、いえ、まだ! まだです!』
「そんなおもいっきりニヤけた顔じゃ説得力ないんだけど」

(サハギン、両手で頭上にある男の手を掴み、自分の顔の高さまで持ってくる)

「え、あら……? カルールちゃん? あのコなにしてるの?」
『瞬間激写! ステンバァイ!』

(サハギン、男の手にほおずり、そして)

《 に ぱ ー 》

「」ズキューン
『』ズキューン


『……ハッ!? しゃ、写真! 瞬間激写は!? 今の画は!?』
「……っ!? っだ、大丈夫よ! それにしても、今のは……」
『ええ、とんでもない破壊力でした……同じ魔物の私が、しかも予想していてもこのザマです……ああ……(生暖かい眼差し)』
「アナタがそうなるのは予想通りっちゃ予想通りだけどねぇ……ま、私も他人のコトは言えないか」
『喜色満面と呼ぶにふさわしい”にぱー”、しかも目尻に涙のアクセントつきです。笑ってくれた・泣き止んでくれたという喜びと、あの笑顔を愛しく思う気持ち、そして涙を流させてゴメンという反省。あらゆる感情が一瞬のうちに爆発する”にぱー”……。末恐ろしいものがありますね、あのサハギンは。……あ、スタッフさん。あとでさっきの画の現像お願いします』

(男がサハギンを抱きしめる。カメラは2人を画面中央にとらえつつ、徐々に引いていく)


「それじゃ今回の【瞬間、心、通じて(はぁと)】、このあたりでお別れよぉ♪」
『次回はどんな魔物がどんな籠絡テクニックを見せてくれるか、お楽しみに』
「それでは視聴者の皆様のすてきなイチャラブライフを願いつつ、さよ〜なら〜!」

See you again soon ……?(次回放送は未定です)
12/04/03 03:00更新 / かめやん

■作者メッセージ
はじめの○歩を読んでて思いついた実況ネタだと、いったい誰が気付くだろう…

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33