読切小説
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恋は曲者
その日は少し熱が出てダルイくらいの体調で、今日学校に行ったら4連休で親友と遊びに行く予定だった。たぶん、この日に学校を休んでいれば僕の人生は今とは全く違ったものになったのだろう。
朝食を食べ、歯磨きをし、制服に着替える。いつも通りの朝、だが今日は出かけようとしたときに家のベルがなった。どうやら風邪のせいで一つ一つの動作が遅れたらしい。いつも僕が向かいにある彼の家まで呼びに行くのに、今日は僕が彼に迎えに来られるなんて。
玄関を開けると僕の親友である彼が、いかにも「してやったり」とでも言いたげな顔で迎えてくれた。そんな顔が少し可愛いと思ってしまう……いや、気のせいだろう。僕は男だ、彼にそんな気持ちは抱かないはずだ。
「今日は遅かったな、いや俺が早かったのか。まぁ、俺が本気を出せばお前よりは早いに決まってるさ」
いったいどこからその自信は来るのだろうか?でも、いつもそれなら頼もしいかな。そうしてくれれば僕が彼を呼びに行く必要はなくなるだろうし、彼が迎えに来てくれるのもなかなか良いものだと思う。
「おいおい、元気ねーな?風邪か?」
僕は答える代わりに少しだけ首を縦に振った。彼は彼なりに僕の心配をしていてくれてる、それが何より嬉しくてなんだか胸がドキドキした。
「明日から遊びまくるんだぜ?風邪薬やるから今日中に直しとけよ」
そう言って彼はカプセルの薬を手渡してくれた。僕はその場でカプセルを飲み込み、彼にありがとうとお礼を言った。この時はこの薬がいったい何の効果を持っているのかさえ確認せずに飲んでしまったのだ。



いつも通りに学校へ行って、彼と一緒に教室に入る。クラスも昔からずっと一緒で所謂腐れ縁と言うやつだったりする。まぁ人付き合いとか、人に接することが苦手な僕にとっては知り合いが一人でもいてくれて助かったりするんだけどね。
ただ、今日は熱の影響だろうか……なんだかボーっとする。息も荒くなって、体が熱くなる。彼も心配になったようで早退しろって言ってくれた。
うん、そうしよう。これじゃあ授業に集中できない、なんだか頭がクラクラしてきたし。そのまま先生に報告し帰る仕度をする、どうやら僕は先生も帰れって言うほどに悪くなっていたらしい。
家に帰ってベッドに飛び込む、すぐに睡魔に襲われて眠りにつけた。

――

――――

――――――

夢だ……しっかりとわかる。
でもなきゃ僕がボクを見てるなんて光景ありえるわけない。角があり、蝙蝠の様な羽があり、まるで悪魔みたいな尻尾があるが……目の前にいるのは確かに僕なんだ。
目の前にいるボクが語りかけてくる、「今から面白いものを見せてあげるよ」と。
ボクが連れてきたのは僕の親友の『彼』だった。ボクは僕の目の前で彼とキスをする。何をしてるんだ?男同士だろ!?
「本当に?ボクは彼とキスしたくてしてるんだよ?君だって本当はそれを望んでいるんじゃないの?」
違う!僕は彼の親友だ、そんなこと……あるわけない!
「ふふふ、我慢しなくたって良いのに。だったら見てなよボクと彼が愛し合うところをさ」
ボクがもう一度彼にキスをする、さっきの触れるだけのキスじゃなくて、お互い口を大きく開けて舌と舌を絡ませて、貪りあう様にお互いを求め合う。見ていると……羨ましくなる。
僕は違和感に気づいた、舌に何か感覚が伝わる。気づくのに時間はかからなかった。これはボクの感覚だ、彼とのキスの感覚だ。なんだろう、すごく気持ち良いや。
「ボクのことを羨ましいって思ったでしょ?だから感覚が伝わるようになったんだよ。これでもボクのことを否定する?」
名残惜しそうに彼とのキスをやめてボクが聞いてくる。
もう否定はしなかった……だけど肯定もしない。肯定したら僕は、彼の友達でいられなくなってしまう気がしたから。
「確かに友達では無くなっちゃうかもね、でももっと素敵な恋人にはなれるんだよ?」
その言葉に僕の心は揺らぐ、確かに恋人になれるのなら……友達じゃなくなってもいいのかもしれない。
「そうだよ……恋人になればキスよりももっと気持ち良いことだってできるんだよ?」
キスよりも?さっきよりも気持ち良いことが?そんなことがあるの?
「そう、だからボクを認めよう?彼を好きだってことを」
そうだ……ボクは彼が好きなんだ。もう一人のボクがボクに流れ込んでくる。

――――――

――――

――

目が覚めると汗で体中がベトベトだった。いったい何の夢を見てたんだろう?思い出せない。とりあえず昨日は学校から帰ってすぐに寝てしまったし汗をかいて熱も下がったようだしシャワーを浴びよう。何よりベトベトして気持ち悪い。
風呂場で上着を脱いだら違和感に気づいた背中から羽が生えている、それも蝙蝠のような羽が。
……触ってみる、感触がある。頬をつねる、痛い。夢じゃない現実だ。ボクは、オカシクなっちゃったのかな?不安で堪らなくなって涙が溢れてくる。
ポロポロと涙をこぼしてその場に座り込んでしまう。怖かった、自分が変わってしまった事が。不安だった、元に戻れないとわかっていたから。想像したくなかった、彼に嫌われてしまうかもしれないことが。
でも、その中にこの姿になることを望んでいた自分がいた。変わって堂々と彼を好きになることを望む自分がいた。
思いっきり泣いた後にシャワーを浴びることにした、変わってしまったことに後悔しても遅いんだ。それにどこが変わってしまったかも確認しないといけないから。
シャワーを浴びながら確認してわかった事は尻尾が生えてたこと、角が生えてたこと。そしてボクが女の子になってたこと。
こんなこと家族には相談出来ないや……そうだ彼に相談しよう、親友の彼なら相談したって大丈夫だよね。



シャワーを浴びた後、いつも通りの服を着て彼を家に呼んだ。
彼はすぐ来てくれて(といっても目の前の家なのだから当たり前かもしれない)ボクの具合を心配してくれた。
「大丈夫、昨日ぐっすり寝て休んだから元気だよ」
「そうか、それはよかった。ところでシャワーを浴びたお前ってなんだか女の子みたいないい香りがするな」
そんな言葉にドキッとしながらも、ボクの部屋に雑談しながら入る。
「で、話したいことって何だ?大変なことになったって?」
ボクは上着を脱いで羽を見せつける。
「お前、インキュバスになったのか!?」
彼が驚く、無理もないかな?ボクだってこの姿になる前は童貞だったもんね。今は処女だと思うけど♪
「確かめてみる?」
ボクはそう言ってズボンも脱いで彼に抱きついた。



……朝、目が覚めたら昨日の記憶がなかった。とりあえず裸で彼と同じ布団で寝ていたことお腹の中が少し温かかったこと。大体の事は推測はできた。
不思議と嫌な気持ちはしない、今はただ、大好きな人のぬくもりをしっかり肌で感じておきたい、彼の胸に甘えるようにうずくまった。
14/09/17 08:43更新 / アンノウン

■作者メッセージ
あの日以来ボクと彼は恋人として過ごすようになった。
普通の人と同じように結婚して、子供が出来て、当たり前の生活。
娘もアリスに生まれて他の子とは違ってるかもしれない。
でも、ボクも、娘も当たり前の幸せは普通の人と同じにもらえてる。
愛する旦那様と愛する娘がいてボクは母として個人として、あの時の選択で幸せになれたよ。

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