読切小説
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運命がそこにあったもので
魔物娘という存在の一般認識化が普及し始めた頃、そして世界が男旱となって行くのもまた知れ渡り始めた頃。
魔物娘に対する抵抗感を持たない男達も特に異質と見なされることもないご時世。
愛に飢えたか興味本位か、はたまた謎のボランティア精神か、結構なことを画策する男もいるもので。


「ってワケで、魔物娘の方々も合コンにお集まりいただき皆さんありがとうございます。幹事の星村 道孝ッス。アンデッドな皆さんと雰囲気も合わせようってんで廃カラオケを使わせてもらったんスけど、実際どうなんかはわかんないッスね。でもまあ、利点としては他の部屋も使っていいらしいんで、お持ち帰りする時間も惜しいって時は他の部屋行けるんはデカイかなと。まあのっけからこの話してんのもアレなんで始めましょっか!持ち寄りですんませんけど、乾杯!」

「「「カンパーイ!!!」」」


飲み物持参で行われるお手頃感満載のちょっと異質な人魔合コン。男女三人ずつ、計六名の会であったが、女性陣が全員魔物娘。火を見るよりも明らかではあるが、少し会話が弾んだと思えばもう別部屋へGOである。

「あオレさくらんぼの茎さ、口ン中で結べんだけど他誰かできる人いる?」
「アタシちょうちょ結びできるよ」
「マ?長さ足りんくね?」
「アタシグールだからさ、ベロテク自信あんのよ。興味あるんなら別部屋行くけど♡」
「アリ寄りのアリ。ちょゴメン一旦出るわ、一旦ね」

「一旦で済むんスかね……ドゾ」
「まあ、出はするんだろうね、ナニとは言わないが」


なんてことがあれば当然ながら再度参加することなどあたわず

「キスハメマジ新世界だわ…♡ で、何調べてんの?」
「いや良い部屋ねーかな〜って」
「ぶっちゃけアタシら家にいてもほとんどヤるしかないだろし広さとか何とかいらんくない?」
「やでも服考えるとウォークインクローゼット欲しくね?オシャレしたいっしょ?」
「あーね?考えてんじゃんナイッスゥ〜!あ、ゴメンアタシら一抜けしちゃうね?」
「あーそうみんなさ!この合コンのグループとか残しといてくれたら式の話とか出来っから残しといてもらっていい?んであとよかったら連絡先投げといてくんね?大丈夫だったらでいいから!わり、んじゃ!」


「あるいみ予定通りッスね、了解ッス」
「予定管理ができるサイトも一緒に伝えておこうか」
「助かります、流石ッスね」
「いや何、キミも頑張っているのだからな」


しっかり考えてるんだかどうなんだか話の早すぎる一組が出来ては抜け


「それで……グールの子が連れて来ていたこの子はどうしたものかね?緊張でガッチガチのようだが」
「緊張じゃ、ない。体、固いだけ」
「話し方まで固いじゃないか……。よぅし!このボクの空気に対するほぐし力が試される時が来たな」
「ほぐし……力……?」
「そうだとも!デスクワークで凝り固まった親の肩や腰から開封したての鮭フレークまで、様々なものをほぐしてきたこのボクだ!キミの心と体も、この場の空気もほぐしてみせよう!」


「この雰囲気そんな固かったッスかね……?」
「いや、そうは思わないが……」


「ワタシ、ほぐすなら……別部屋、行こ?アナタの、熱いので、きっと……ほぐれるよ……?」
「キミの欲望はどうやらこのボクがほぐすまでもなかったらしい、さあ行くぞ!!」


「……あー、もしかしてあの子キョンシーッスか……?」
「分かりづらい所にお札を貼りなおしていたようでな。あやつも最初に言えば良かっただろうに……」
「ま、そこら辺はご愛嬌ってとこッスね」
「愛嬌で済む話しだろうか……」


例によって次の組も再参加はならず


「見て見てー!I字バランスー!あっ、折角注いでくれたの出てきちゃった……」
「ハッハッハ!人前でそんなことをするくらいには身も心もほぐれてくれたようだな!」
「ね〜え〜♡もっかいアナタの熱いの注ぎなおして欲しいから〜……もっとも〜っと、イ・イ・ト・コ♡ 行っちゃわない?」
「素晴らしい!今のボクらなら公衆性交所も活用できるだろう!そうと決まれば善は急げだ!済まないが失礼する!」
「幸せパワー、みんなで溜めちゃおっか♡ そんじゃねー!バイバーイ!」


「様変わりしすぎじゃないッスか…?」
「まあ……確かに心身ともにほぐれたようだな」
「羞恥心までほぐし溶かされてませんかね?」
「それはもともと持っていたか怪しいものだな」


二組目もあえなく抜け、残すは一組となったのであった。


「さて、マルグリッテさん。あとは俺が残されたんスけど、残念に思ってますかね?」
「まさか、マトモに頑張っていた君と話すのは楽しかったし、キミがいてくれて良かったと思っているよ」
「……なるほど、それじゃあ俺のマトモじゃない所を話しておいた方がいいかもしれないッスね」
「それがマトモじゃないと認識できている時点で随分マシさ、私で良ければ話してくれないか?」

意を決するための少しの時間の後、彼は口を開いた。

「ありがとうございます。そうッスね、本来は皆さんもいらっしゃる時に伝えても良かったんでしょうけど……マルグリッテさんは占いって信じたりします?」
「うーむ占いか……まあ時折何かの指標にすることなどはあるかもしれないね。色や小物など、あると良いとされたものを持ったり、身に着けたりね」
「ええまあ、だいたいそんな感じッスよね。で、実は俺、その占いってヤツが好きなんスよ。なもんで、ここに来る前に今日のことを占ってみたら……なんと、実は俺たちはベストパートナーと出たんス!だから、今日が初対面でも今こうして二人でいるのは実は不思議でも何でもないことなんスよ。ビックリしました?」

取り繕うようにおどける彼にマルグリッテは柔らかな笑みと共に答えた。

「フフ、そんなことならしばらく君と話していた時点で分かり切っていたよ。おそらく、私という存在にはきっと君しかいないのだろうとね」
「そう……ッスか……それは、何というか、ッハハ、なんか照れちゃいますね、ホント、いやこうもしっかり返されちゃうとどうしたもんか……」


割としっかり口説き文句しているセリフを彼女が言えたのも酒の力があってのことだろうか。言葉を失った道孝と言った後に恥ずかしくなったかこちらも黙ってしまったマルグリッテ、お互いに何かを嚙み締めるような甘酸っぱい静寂がそこにはあった。

しかし彼女には一つ気になったことがあるようで。


「それで道孝君、占ったのならば私が何の魔物娘かはもう判っているのだろう?こちらとしては折角ちゃんと人化をかけてきたのだが、ね」
「ええ、デュラハンのマルグリッテさん。でも今日は魔物娘の皆さんとの合コンって明言してたんですし、人間に紛れる必要も無かったでしょうに」
「折角なのだから親しみやすい姿で居たいじゃないか、君のようなイイ人に見染めてもらうためにも、ねぇ?」
「ハハ、それはある意味ありがたいんですが、俺もあなたと話したからこそ、あなたであればどんな姿でもきっと惚れちゃってただろうと思う、ってのは言わせてもらいますよ」


思わぬ反撃に目を丸くするマルグリッテ。いたずらっぽくニヤリとしたあと、こらえきれなくなりはにかむ道孝。小さく二人で笑いあった後、今度はマルグリッテが意を決した表情で向き直った。


「そう……だな。ならば私の古めかしいやり方も受け入れてくれるだろうか。もう君にはすっかり分かっている事だろうが、私は君が欲しい。それで、君をもらい受けるにあたって、日時を君に合わせたいのだ。私は君に合わせられるから、都合の良い日はあるだろうか聞かせてくれないか?」

道孝は眉一つ動かすこともなく、持ってきていたタブレットからカレンダーのアプリを開く。

「そうッスね……来週〜……はちょい厳しいか、再来週、今日の開始時刻と同じ午後9時にこの場所で、っていうのでいかがッスか?」
「私はそれで構わないとも。では、その日、その場所で。」

と、二人が席を立った瞬間

「あ、最後にこれだけ」
「ん?……んっ!」


なんてことない連絡の続き、そんな調子でかけられた声に何の気なく振り返ったマルグリッテが受けたのは、静かな、一瞬だけの口付けだった。


「端から疑っちゃいないでしょうが、俺から送る信用と恋心の証ってことで。じゃ、また再来週宜しくお願いしますね。」
「あ……君という、人は……!まったく、後頭部を押さえてくれなければ頭が外れてしまっていたところだぞ……」


去りゆく道孝に、彼女はぼそりとそう呟くことしかできなかった。





  露草姉さん!ほら、あとは家帰ってから呑むよ!
  なによう……蒼太くんのいけずぅ〜
  ツユ姉ぇの酔ったとこは……他の人に見せたくないんだよ……
  あら〜♡蒼ちゃんったらまだかわいいとこあるじゃな〜い♡
  俺ももうかわいいって年じゃないだろう?まったくもう!
  フフフ♡ それじゃ、あとは宅呑みね♡




まばらな人通り、道行く会話が聞こえる中、マルグリッテは予定の場所に一時間と少し早く着こうとしていた。
「(流石に早すぎたか……建物の入り口で待っておこう)」
「早く……来てくれるといいのだが、な」

ぽそりと零れた一言に、以外にも返答が、それも背後から聞こえてきた。

「んお、早いッスね、まだ一時間前じゃないッスか?」
「あっひゃ!ちょ、あわわ!」
「ぁぁあぶ危ない危ない危ない!」

落ちかけた頭を支えようとしたか、道孝は彼女を体も含め抱きしめていた。

「わっ……んっ……はぁ、ま、まさかズレかけた頭を体ごと抱きとめるとは思わなかったぞ……こないだの最後と言い今回と言い意外と大胆だな君は!」
「アッハハ、なんかそうしたくなっちゃって……」
「し、しかし私より早いとは君も随分と早着じゃないか」
「なんか、日を追うごとに何も手につかなくなってきましてね、今日なんかソワソワしっぱなしで、準備を終え次第さっさと向かっちゃうかって……すんませんねなんか」
「い、いや……そう、思ってもらえていたのは、その……嬉しい限りだよ」
「こ、光栄ッス。」


今度はお互い素面のままでこんなことが起こってしまい流石にぎこちない会話になってしまう二人。
コホンとひとつ咳払いをしてマルグリッテが話を繋いだ。


「それにしても準備とは、なかなか大きなリュックを持ってきたのだな」
「まあ色々要るかもなと思いまして。あ、そうだ占い道具ひとつ持って来たんですが見て見ます?」
「興味深いな、良ければ見せてもらおうか」
「了解ッス……と、よいしょ」


取り出されたのはガラスのような透明な球体、に見えたが上部がすこし切り取られ見方によっては器にも見えるものだった。


「これは……水晶かと思ったがまったく別のものだな。…………ん?」
「これはある意味容器でもあるんスよ。ここに魔力を入れて映し出すっていう」
「このご時世とはいえ今の時代に魔術に近いことができるとは大したものだな君は。……それにしても、魔力、か……ふーむ、なるほどね?」

ニヤリとしながら道孝を見るマルグリッテに流石に彼もたじろぐ。

「そ、そりゃあ俺の出せる魔力っていったら精ぐらいっすけど、中心でレンズになるからこれには付着してないはずッスよ!?ニオイも無いでしょうし、な、何スか!?」
「付着した際の残り香、というものではないのだよ。私達魔物娘にとって男の精というのは、ね♡」
「……そいつはどうもすんませんねぇ」


耳まで赤くなった顔を片手で押さえながら、道孝はそう言うしかできなかった。


「その、まさかとは思うが他の人の占いにも用いてはいない……よな?」
「当たり前じゃないスか!大学の図書室でこれが一番確実って読んだから俺にだけはってこれを試しただけで……一応他の人用にも色々と占う道具はあるので、占う時は諸々使って相性見たりとか、ッスかね。お気に召さなかったッスか?」
「いや、良いものを見れて私は満足だよ。それにしても、他にも荷物はあるようだが、その、私の家で過ごしてもらうだけだからあまり不自由はないはずだぞ?」

どうやら道孝は違うことを想定していたらしい。

「そうなんスか!?俺てっきり旅にでも出るのかと……」
「連れていくとは言っても私も旅をするようなタイプではないからな、アウトドア用品でも持ってきていたか?」
「いや、服とか日用品とかがほとんどッスけど、そうか、じゃあこのあと俺んちからまた更に持ってくるとかも出来るんスね」
「ああ、まあ勿論そのまま帰られたくはないので私も付いていくが、構わないかな?」
「ええ、それは大丈夫ッスけど……あ〜、いや、ある程度はいっか」
「何だ?来られたら困ることでもあるのか?」

すこしムクれたマルグリッテをよそに、道孝は案外清々しい顔をしていた。

「いえ、他の占い道具とか残った下着類とか実際取りに戻りたいものはあるんでそん時は来て欲しいんスけど、他ある程度は新しく買い直してもいいかなって」
「大丈夫か?もったいないかもしれないが……」
「まあたまにはあっちに帰ることもあるかもしれませんし、シャンプーとかは置いといて損は無いでしょう。それに、なんていうかこういうのを買いそろえるのも思い出じゃないッスか?良かったらオソロの日用品とか買っちゃいましょうよ」
「フフ、そうだな、それが良い」
「今から何買おうか迷っちゃいますねぇ」

あれやこれやと思索にふける道孝にマルグリッテは半ば呆れたように話しかける

「しかしまあなんとも、デュラハンの行う人攫いの予告に恐れも嫌がりもせずこうまで乗り気とは、ホント大した人間だよ、君は」
「運命の人から共同生活のお誘いがかかって、乗り気にならない野郎はそうそういませんよ」
「運命、か。君は私達がともに生きるのを運命だと?」
「ええ。占いとかやってるから考え方がロマンチックなのかもしれませんけど、あなたと俺はいつどこでどうしていたって、何かの形で出会い、こうなっていたんじゃないかって思うんです。……そうか、俺の占いはそれを見ていた……のか?」

ふと、何かに気付いたのか道孝は顔をこわばらせる。

「不可視にして未だ先もわからぬ運命の赤い糸、その先を君は見てきたと?」
「結構俺の占いで相性見たらそのまま結ばれた人とかいて、何冊か読んでた本の通りにやってるだけでもなんだか当たるもんだな〜って思ってたんスけど、マルグリッテさんが魔術とおっしゃるなら、割かし他の占いにもそういう魔に関する何かが働いてたりするのかなって……」
「有り得ない話ではないか……キューピッドが妬みそうな力だな」

思案の果て、道孝は何かを掴もうとしていた。

「いえ、俺の読んだ占いはきっとああいった方々みたいな『繋げる力』なんじゃなくて、『出ていた結果』を見てるのかもしれません。なんつーか言葉にし辛いんスけど……」
「なんとなくわかるよ。そして君が読んできた本たちの著者が魔物娘であろうことも、ね」
「アハハ、わかっちゃいます?」
「もちろんだとも。だからきっと、君の憶測もあながち間違ってはいないのだろう」
「だとしたら面白いッスね」
「ともあれ、私としては君の占いに感謝だな」
「こちらこそ、出会ってくれてありがとうございます」


小難しい話を切り上げ、微笑みながら見つめあう二人。飾り付けるための美辞麗句など最早必要ないだろう。


「……これ、外しても?」
「ああ、私にとってはもう一つのベルトのようなもののつもりだったのだが、……今は下着を外されるような恥ずかしさがあるな」
「俺も、似たような気分ッス。」
「しかし君なら、デュラハンの頭を外れやすくすることが何を意味するか、分からないわけではあるまい?」
「ええもちろん。だから俺は、こうします」


彼女の頭だけをひしと抱え、強く、深く口付けをする道孝。一瞬の出来事に対応しきれなかったか、対応する気が起きなかったか、頭と体の離れるがままに任せるマルグリッテ。みるみるうちに彼女の魔力は抜け出ていく。


「ハァーッ♡ ハァーッ♡ こうなってはもう、私も我慢が効かないな♡」
「ご存じの通り、先に我慢が効かなくなったのは俺のほうッス……このエントランスじゃ流石にアレッスけど、もう部屋まで行かなくても、カウンターの裏とかでいいでしょう。こないだ俺たちだけがしそびれちゃったこと、済ませて行きましょ?」
「そこまで誘われて、もうおとなしくなどしていられないな♡ 管理者には後日詫びるとして、今は楽しませてもらおうか♡」


二人が共同生活を始めるまで、もう少し、少なくとも夜が明けるまでは、時間はかかりそうである。
23/07/30 15:15更新 / 海の若葉茶

■作者メッセージ
こんなとこまでお読みくださり感謝の至りです。


久々だしサラッと短く流すかーと書いていたら結構な長さとなり自分でも困惑しています。


実はテーマの一つとして、以前少し話題になった『魂の穢れ』(一度どこかのタイミングで魔物娘と結ばれた者は以降いかなる時間軸、世界軸でもその魔物娘と結ばれるというもの)を何らかの形で人間が認識することが出来たら、というのを据えていました。現代でそれっぽい見つけ方しようとしたら占いが良いとこかなぁと。


ある程度読める文章であることを祈るばかりです。

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