読切小説
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星消す烏賊と閃光の海神官
「汝、クララ。貴女はクラーケンとして、如何なる時も、夫を愛することを誓いますか?」
「誓います」

太陽が空高く登りきり、星を消し去る光の恩恵が教会のステンドグラスに分け与えられる中、私はポセイドン様に仕える海神官として、クラーケンとその夫の婚約の儀式を執り行っています。
周囲は私とクラーケン夫妻以外、誰もいない結婚式。
一昨日出会ったばかりの二人ですので、当然と言えば当然ですが。
「では、クララの夫ーー」
それにしても、二人の出会いが、一昨日の夜に発生したモスマンの燐粉に惹き付けられ、地上から出たクラーケンが、同じく燐粉によって思考が単純化した旅行者を襲い、夜から朝、また夜中まで一日中イチャイチャしたのがきっかけだといいます。
……正直羨ましいです。私が急な出張で町を離れたりしなければ、私が代わりにクラーケンと……じゃなかったダーリンとイチャイチャ出来ていたのに。
「誓います」
夫の誓いの言葉に、私の思考は教会へと戻ります。
「では、誓いの石を」
二人が魔宝石の原石を手に取ります。
本来なら指輪に加工したものを渡すのですが、急な結婚式でしたので、後で町にある工房で加工してくれるでしょう。
互いの石が口付けを交わし、透明の石に色が宿ります。
それぞれの精と魔力が宿り、この世に一つと無い二人だけの宝石が誕生しました。
「最後に誓いの口付けを」



石板を読み終え、私は目を閉じます。
それにしても、なんて間が悪いのでしょう。
私が出張中に、モスマンことスモモちゃんの燐粉が町中に降り注ぐとは、フェイ君の話によれば、最初は教会の前で性交が行われようとしていたとのこと。もし私が出張中でなければ、私が代わりに……じゃなかったダーリンと一緒に……いや、子供達に燐粉の被害が及ぶところでした。
子供達には、大きくなってから献身的な愛をはぐくんで欲しい。
そう、私とダーリンの出会いから結婚までのように、そう、あの日、ダーリンと初めて会った(略

くちゅ、くちゅ

何か妙で、でも毎晩耳にする音が聞こえてきます。
回想を中断し、目を開けた私に飛び込んできたのはーー

「ねえ、はやくぅ♪」
「待ってろ、今ズボン脱ぐから」

クララ夫妻が熱いディープキスを交わし、性交を始めようとしていました。

「いや、ズボンを脱ぐを止めぃ!」
私は二人の行為に水をさします。
「えーこれがあなたたちの正式な儀式じゃない?」
「いやいや、確かにそうですけど、それは海での話で、それにここのプロト教会のルールは、『教会内での性交は禁止』ですから、貼り紙にも書いてますから!」
「でも、ここは人と魔物娘が愛し合う町スターシャンでしょ、ここには様々な愛があるのでしょう?純粋な愛から妖艶な愛まで」
「様々な愛があるからこそ、ルールが必要なのです。ここだと魔力が溢れて子供達に影響を及ぼします、やるなら港でやってください!」
「えーもう待ちきれなーい」予想通りの返答です。さすが魔物娘。だからこそ
「心配いりません、夫婦がきちんと愛し合える場所を用意しています」
私は足元の壺を二人の前に置きます。
「つぼまじんお手製の壺です。中は異空間になっていて、魔力及び音が漏れる心配はありません。さらに媚薬成分入りで、一度入れば魔物娘としての本能が十二分に活性化し、壺が破壊されない限り、外に出る気も起きないでしょう」
私は説明にクララ夫妻は興奮しています。さすがクラーケン、分別がついています。
そういえば昨日スモモちゃんは、意味を理解しておらず、その場で性交しようとして……フェイ君のファインプレーで二人を壺に収めたけど。
「中は私たちの墨なのねー気が利くじゃない♪じゃあお先に」
クララは夫を連れて壺の中に入りました。
私も儀式の続きをするため入る準備をします。その前にダーリンに連絡して壺を港に運ばないと。本来なら配達員に頼むことですけれど、今はスモモちゃんと新婚ホヤホヤですから、邪魔したら悪いし。それに壺を運ぶ=ダーリンに抱っこされているような感じ(略



「暗い」
妄想を終えて壺の中に入った私は夜よりも暗い闇に驚きました。
確かにクラーケンの墨は普通の光を通しませんが。
彼らは第三者に姿を見られなくてもまあいいかですけれど、海神官として、スターシャンの住民として、そして一人の魔物娘として、その愛を確かめなければいけません。

『微光』

私は得意の光魔法で闇を微かに照らします。
光を通さない墨の中で灯りが点ることには驚きでしょうけど、彼らはまあいいかと気にせず行為に及んでます。

ああ、なんて素晴らしいのでしょう。
海深くにすむクラーケンと彼女に愛される夫。
十の触手、一本ずつ愛される感触。
頭、首、肩、胸、腰、膝、足、尻、そして玉と竿。
いつ見てもクラーケンの愛はドキドキします。
これが人と魔物娘が愛し合う姿。素晴らしい。
ダーリンとの純粋な愛も素敵ですが、彼らの妖艶な愛も充分素敵です。
でも、それ以上に私にとって素敵な愛があります。
それはーー
私は手に持っていた石板の蓋を開けて、中に入ってる本を取り出します。
私の百の愛読書の一つ。
題名は『二十の触手』
クラーケンと人間の女性が禁断の愛に目覚める話。

†††

それは踏み入れてはならない禁断の深層部<<りょういき>>。しかし、二人の愛は深海よりも深く、女性は魔物娘になる覚悟で逃避行。そして、愛の果てには奇跡が一つの奇跡が起こります。
ネレイスになるかと思われていた女性は、体は雪のように白く、足は十の触手となったのです。それは彼女と瓜二つの姿
二人は喜び、触手と触手をとりあい、顔を近付けーー

†††

「で?そのあと百合百合なことをするのね?」
はい、その通りです。晴れて同族になった二人は互いの触手で愛し合い……あれ?
「ひょっとして貴女、私の触手プレイを食らいたいの、その小説のように?」
クララさんが私の目の前にいました。ご丁寧に夫を抱き抱えた状態で。
「ええ、何で分かったのですか?まさかその触手で私の記憶を?」
「いや、声に出してたし」

 あ

「あ、あの〜」
私はおそるおそる、言葉を考えます。
いくら魔物娘とはいえ、ポセイドン様に仕える海神官がメロウみたいな思考が筒音家であることがばれたら……
「いいわよ、儀式は終わったし、それに、貴女みたいなのもタイプだし」
クララさんは、獲物を食べるかのように舌を舐め回しています。
まさかクララさんは百合もいけるの!?
「ふふ」
いやいや、確かに私は百合百合な事が好きですけど、実際にやるのは抵抗があるわけで
「いただきまーす」
逃げなきゃ!私は心の中で叫びつつ出口へ浮上します。
「逃がさなーい」
クララさんの足の一本が私の尾びれを掴みます。
「さあ、魔物娘同士楽しみましょう。もちろん夫も一緒よ♪」
私は顔を赤らめたクララさんを見てしまいます。
こんな状態でも夫を抱き合ってる、さすが魔物娘、夫と決めた男を手放さない本能。
いや、感心してる場合じゃない。
いまは魔物娘同士というより餌と捕食者の関係。
このままでは私の貞操が、貞操がぁ!
ダーリン、私は(略



何かが割れる音が聞こえだので私は回想を始める暇はありませんでした。
「大丈夫か、エミ?」
目の前には光を通さないはずの闇に星空が見えました。
次に、ダーリンが私を抱き抱えているのに気付きました。
「ダーリン」
「壺が激しく動いてるから、蓋を開けずに壊したよ」
「うー」
私は声にもならない声をあげます。
同じくクララ夫妻が起き上がり
「うーん、アタシ達何をしてたっけ?あんたとイチャイチャしているところまでは覚えてるけど」
「クララに抱かれて気絶したのは記憶にあるけど」

「えっと、クララさん、私が読んだ本覚えてます?」
「本、何それ?」
「いえ、何でもないです」 
媚薬成分が強すぎて変になったのか、
魔物娘としての本能が十二分に発揮された影響だったのでしょうか?
まさかクララさんは本当にそっちの気が……。
それに私は、私は……。

興奮しました。

凄いです、これが愛の形の一つ、人と魔物娘が愛し合う町だからこそ出来ること!
「あーまた始まったよ」
ダーリンが何か言ったのが気になりますが、私はまあいいかと思い。新たな愛の形に感動しています。

ここは星の海の町または人と魔物娘が愛し合う町スターシャン。
ここは様々な愛があります。
純粋な愛から妖艶な愛、時には……歪んだ愛も。

Ψ

「壊した壺……弁償しなきゃ」
13/11/17 15:30更新 / ドリルモール

■作者メッセージ
キャラクター紹介@
【名前】
クララ
【性別】

【年齢】
25
【種族】
クラーケン
【魔宝石】
ターコイズブルー
墨模様
【口調・口癖】
時折、捕食者らしくなるらしい
【能力・特技】
墨と触手
【概要】
深海深く暮らししていたが、ある日深海から見えないはずの星(モスマンの燐粉)に惹かれ、地上へと顔を出し、スターシャンにたどり着き、今の夫と出会い結婚無自覚だが、百合っ気を持ち、夫を手放すことなく魔物娘を求めるその姿に、シー・ビショップのエミは新たな愛の形に感動を覚えた。
【補足事項】
好きな人を守るためなら、自慢の触手で敵をタコ殴り。




キャラクター紹介A
【名前】
エミュー(愛称:エミ)
【性別】

【年齢】
えっと、百、二百って何を言わせるのですか!
【種族】
シー・ビショップ
【魔宝石】
光り輝く金
【口調・口癖】
地の文と見せかけて丸聞こえ
【能力・特技】
光魔法
【概要】
スターシャンに住むシー・ビショップ
スターシャンに住む住民の結婚式の九割を担当した。人と魔物娘の愛に興味を持ち、特に女性同士の愛、つまり百合に興味津々。その思考はまるでメロウのようで、種族を間違えてるかのように見えるが、実際に行動には出していないというより出さない。
彼女の石板は他の石板とは違う機能が二つある。一つ目は太陽の光を吸収し、石板を媒体にし、光魔法を使う。その威力はクラーケンの墨からなる闇や深層部に灯りを照らすほどである。二つ目は横開き式で中には弁当とお気に入りの小説を一冊入れるスペースがあるが、両者ともドワーフの手によって改造したものである。

【補足事項】
自身の性癖を必死に隠しているが、周囲には既にバレバレ。

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