読切小説
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クノイチの愛を知ろう!
 夏が終わり、乾いた秋色の風が町を拭きぬける。
 うだるような暑さは過ぎたものの、まだ過ごしやすいとは言えない嫌な暑さは留まっていた。何処までも続く青空はまさに自由であり、その中を飛び回る鳥達もまた自由なのだろう。
 そんな自由に思いを馳せながら鏡 蓮九朗(かがみ れんくろう)は箸を置き、頭を下げた。

 「…御馳走様でした」

 炊きたての白米、程よい味付けの塩鮭、ふわふわとしたほんのり甘い味付けの卵焼き、豆腐と油揚げの味噌汁を腹に納め、蓮九朗の腹は満たされた。
 それを確認したかのように1つの影が蓮九朗の側に降り立った。
 影は空になった盆を一瞥すると深々と頭を下げた。

 「……満足していただけたようで…何よりです」

 そう呟くと、影…氷牙(ひょうが)は盆を持ち、台所へと姿を消した。
 夜の闇をそのまま切り取ったかのような長髪をまとめ、群青色の忍装束で隠しているつもりだろうが扇情的な身体は隠し切れていない。右の額から頬まで届く刀傷によって右目は塞がれているが、それでも充分と言うには物足りない美しい顔つき。氷牙は人間ではなく、クノイチと呼ばれる魔物娘である。
 ジパング特有の魔物娘、クノイチ。元は人間の女忍者であったとされ、魔王の代替わりに魔物娘へと変化していったという。彼女達は感情表現に乏しく、無口ではあるが無愛想というわけではない。必要最低限の事のみを口にする。彼女達はその本心を愛する夫のみに見せる事を良しとしているようで、決して無感動・虚無というわけではない。
 しかし、蓮九朗にはそれが信用できなかった。
 蓮九朗と氷牙は夫婦の契りを交わし、晴れて夫婦となった。それでも氷牙は本心を蓮九朗に見せなかった。当初は蓮九朗も氷牙が照れていると自分に言い聞かせていたが、1年経つ今でも氷牙は無口かつ無表情であった。それは夜の営みですら変わりはしない。蓮九朗が果てると氷牙は行為を終えるのだ。
 
 (一体、何が不満なのだ…)
 
 剣の道しか知らない蓮九朗には氷牙の本心が見えなかった。生来、口下手で世渡り下手でもある蓮九朗にとって、女性と付き合うのは初めてであり契りを交わしたとなればそれは未知の世界への旅立ちに近いものがある。

 「……主殿」

 「…!」

 そんな事を考えていると氷牙に声をかけられ、蓮九朗は飛び上がった。氷牙はそれに対し何も反応せず、淡々と要件を告げる。

 「……本日も里にて、後進の教育に当たります故……失礼致します」

 蓮九朗が何か言う前に氷牙は姿を消した。
 里と言うのはクノイチの隠れ里の事だろう。何か言おうにも既に氷牙はいない。
 この調子なので、蓮九朗は最近疑問に感じつつあった。
 俺は本当に氷牙に愛されているのか?






 「それは考え過ぎだぜ、ぶははははは!」

 「……」

 悩む蓮九朗を前に大吾はバカ笑いを上げ、昼だと言うのに酒を浴びるように飲み始めた。
 顔の周りを針金のような髭が覆い、仁王の如く鋼の筋肉で作られた身体は見る者を畏怖させる。見た目に違わず、豪快で細かい事にこだわらない大吾は山賊の親分のようだった。そんな見た目のくせに、職業は浮世絵師だというのだから世の中分からないものである。

 (このデブに相談したのは間違いだったかもしれぬ…)

 げらげら笑い、焼きおにぎりを豪快に頬張る大吾を見て蓮九朗は頭を抱えた。大吾は蓮九朗の背中を叩き、顔を覗き込んでくる。

 「お前は悩み過ぎなんだよ!もっと気楽に生きてみろ!!俺みたいにな!!」

 「……」
 (世の中、お前みたいなのばかりではたまったものではないわ)

 「お前、今失礼なこと考えただろ!?」

 「…読心術が使えるのか、お前」

 「顔に書いてあるんだよ、お前のな!」

 慌てて蓮九朗は顔を隠したが、大吾はそれを見てつぼに入ったのか更に大きく笑い出した。

 「すまん、今のは嘘だ。付き合いも長いんだ、それぐらい分かるさ!ぶはははははは!」

 「……」
 (こ、このデブ…!!)

 はらわたが煮えくりかえるようだったが、ぐっとこらえ蓮九朗は深く深呼吸をした。そうしなければ、大吾を斬り捨てそうになる自分がいるからだ。

 「大吾様、その辺でお止めになった方が…」

 今までのやり取りを静かに見ていた大吾の妻、雪女の雪華(せつか)がたしなめるように大吾に酌をする。おしとやかで、礼儀正しく献身的な彼女と豪快で細かい事にこだわらない大吾では水と油のようだが、意外にもこの2人は上手くいっていた。

 「何言ってんだ、雪華!こいつにはこれぐらいガツンと言った方が良いんだよ!」

 「申し訳ありません、蓮九朗様…ですが、どうか気を悪くしないでください」

 深々と頭を下げる雪華に蓮九朗は慌てた。彼女に何の非も無い。悪いのはこのでくのぼうなのだ。

 「全く…何故、俺はお前に相談したのか……」

 「それはお前、俺しか友達がいないからだろ!?」

 図星だった。
 蓮九朗は口下手で世渡り下手だけでなく、人付き合いが大の苦手であった。友人と呼べるのはこの大吾と雪華のみであり、他にそう呼べる人間は多くない。おまけに無愛想で無口とくれば友人も少なくなる。

 「…正論を言うな。反論できん」

 見るからに落ち込む蓮九朗を肴に大吾は酒を飲みほした。しばらく、大吾は顎を撫で何かを考えているようだったが、何か思いついたようだった。

 「まぁ、そういう気分の時はパァーッと買い物でもして来い!な!」

 「…そんな気分にはなれん」

 ハァーとため息をつき、がっくりと肩を落とす蓮九朗の背中を叩き、大吾はゲラゲラ笑う。一見無神経、無遠慮に見えるこの大男だが、他者を思いやる気持ちは確かに伝わってくる。雪華のような気立てのよい女性を妻に出来たのも納得がいく。
 蓮九朗の悩みなど何処吹く風と言わんばかりだが、大吾は大吾なりに蓮九朗の悩みを考えてくれているのだ。
 気は進まないが、大吾の言うことだ。ここは素直に従って気分転換をするべきなのかもしれない。






 代金を置き、寂しそうに店を出る蓮九朗の背中を見送ると大吾は頭をかいた。困った時や物事が上手く進まない時の彼の癖だ。

 「雪華、お前から見た蓮九朗と氷牙はどう思う?」

 「とてもお似合いですよ。蓮九朗様が考えているような事は万が一にもあり得ません」

 空になった酌に酒を注ぎ、雪華は微笑む。
 大吾も雪華と同意見だった。蓮九朗のあの調子では気が付いていないようだが、彼といる時の氷牙は見ているこちらが恥ずかしくなるほど嬉しそうなのである。蓮九朗の後ろで静かにたたずむ彼女はずっと蓮九朗を見ているのだ。
蓮九朗を見つめる彼女の眼差しは誰が見ても嬉しそうであり、新妻特有の熱のこもったものなのだ。先端がハートの形をしたサキュバス種特有の尻尾がそれは犬のように大きく揺れるのを大吾と雪華はよく知っている。
 間違いなく氷牙は誰よりも蓮九朗を愛している。
 しかし、それは他人が教えるのではなく蓮九朗本人が気付かなければ意味がない。
 運命の出会いや、真実の愛という物は見つけるものではなく、気が付く事なのだ。

 「ですが、蓮九朗様はかなりお悩みのようでしたが…」

 「そうだなぁ…」

 不安そうな表情の雪華の頭を撫で、大吾も唸る。
 妙な事にならなければいいのだが…






 「氷牙の姉さんが…ねぇ」

 刑部狸の秋葉(あきは)は首をかしげ、腕を組んで悩んだ。
 大吾に言われ、蓮九朗は彼女の店に足を運び、そこで秋葉にも相談したのである。刑部狸にしては素直で人懐っこい彼女は蓮九朗にとって信頼できる数少ない友人だ。

 「旦那の考えすぎでは…?」

 「だといいんだが、な…」

 ハァーとため息をつき、肩を落とす蓮九朗を見て秋葉は困ったように頬をかいた。
 蓮九朗と氷牙の仲は彼女もよく知っている。どこからどう見ても仲の良い夫婦だ。ちょっと口数は少ないが。

 「秋葉、俺はどうすれば…?」

 「申し訳ありませんがねぇ、そればっかりは旦那達の問題で私には…いや、待った」

 何かを思い出したように手を叩くと、秋葉は背後の壺をあさり始めた。蓮九朗が覗こうとすると、その鼻先に水晶が付きだされた。ドングリほどの大きさしかないその水晶は見事に金色に輝いている。角度を変えれば光を浴びてまた違う風情があった。

 「これは…?」

 「西の大陸から偶然取り寄せた、その名もココロヨムーン!」

 蓮九朗は西の大陸をよく知らないが、ネーミングセンスを受け入れる事は無いと思った。

 「……で、その…ココロヨムーンは、何なのだ?」

 「まぁ、分かりやすく言えば対象の心の声を聞く…本音を聞く事が出来るんです」

 (嘘くせぇー…)

 信用していない蓮九朗の顔を見て、秋葉は頬を膨らませる。

 「旦那、信用してませんね…?仕方ない、百聞は一見にしかず!ささ、本当は3両の所を今ならお試し価格1両でどうですか!?」

 「…全然まけてないだろ」

 「もちろん、気に入らなかったら代金はお返しします、どうですか?」

 「む…」

 悪くは無い話だ。
この胡散臭い水晶に1両も払うのは馬鹿馬鹿しいが、インチキだと分かればその1両は戻ってくる。それに、本心を決して見せない氷牙に対する切り札とも言えよう。
 しかし、蓮九朗は迷っていた。
 相手の心に土足で踏み入るような真似をしていいのだろうか?相手の心を除き見するような行為は許されるべきではないだろう。どんな人間にだって知られたくない、誰にも見せたくないものがあるはずだ。

 (しかし…)

 今の蓮九朗にはそれが言えなかった。
 氷牙が何を考えているのか、蓮九朗を想っているのかそれが分からないのだ。
 それだけではない。
 蓮九朗は氷牙を愛しているが、今の蓮九朗にはその気持ちに自信が無かった。

 「旦那、どうします?これを買ってキッパリ白黒つけるか、それともそうやって1人で悶々とするか…どっちが良いですか?」

 「ぐ…」

 悩む蓮九朗に刺さる秋葉の言葉は重い。
 蓮九朗にだって分かっている。このままでは無意味だと。長くこの状態が続けば、恐らく蓮九朗と氷牙は…
 そう思うと蓮九朗は胸が切り裂かれるような思いに駆られた。

 「俺は…俺は……」






「結局、買ってしまった…」

 自宅に着き、畳の上であぐらをかくと懐からあの胡散臭い水晶、ココロヨムーンを取りだした。金色に輝く水晶はまるで蓮九朗を応援しているかのようにその存在感を放っていた。
確かに妙な心強さはある。しかし、同時に嫌な後ろめたさもあった。

 (すまん…氷牙)

 蓮九朗は氷牙に心の中で謝ると、その名を呼んだ。
 秋葉曰くこのココロヨムーンを握り、対象と顔を合わせて会話すると相手の心の声が聞こえるのだと言う。こんな胡散臭い物に頼る自分を恥じたが、それ以外に打つ手は無いとも感じていた。

 「氷牙ー、いるか?」

 「ここに……」

 蓮九朗が呼び終わるより速く、氷牙は蓮九朗の前に降りたつと膝をつけ頭を下げた。
 今のところ変わった様子は無い。それどころか、心の声も聞こえない。

 (やっぱり、ガラクタではないか…秋葉め)

 眉間にしわを寄せ、懐のココロヨムーンを握り潰そうと力を込める。もちろんそれで潰れるわけは無い。
 これからどうするか考えていたその時であった。

 「主殿……ご用件を」
 『あ、あれ?あるじ殿…顔怖いよ…ど、どうしたのかな…私、何かしちゃったかな?』

 「!!?」

 それは突然聞こえてきた。
 氷河の声が重なって聞こえるが、不思議とそれが理解できる。

 (い、今のが…)

 「どうかされましたか…?」
 『どうしよう、お説教かな?嫌だな…怖いよぉ…』

 大人っぽく凛とした声とやや幼さが残る怯えた声、おそらく後者が氷牙の本心なのだろう。

 「……」
 『うぅ、あるじ殿…何も言わないよ。あ、おかえりなさいってお迎えしなかった事かな?それとも、今日も勝手に里に行っちゃった事…かな?』

 「う、お…む、むぅぅ」

 「…主殿?」
 『え、あるじ殿!?く、苦しそう!?ど、どうしよう、お医者様に…』

 「い、いや!いい!ちょっと眩暈がしただけだ…」

 心の声が聞こえているからこそ静止できた。もし、聞こえていなかったらそのまま彼女は医者を呼んでいただろう。

 「…しかし」
 『え、でも…うぅ、あるじ殿ぉ…』

 「大丈夫だ、な?だから、心配するな」

 「…御意」
 『うぅ、大丈夫かな…大丈夫って言われても心配だよぉ』

 機械のように感情が感じられず、淡々と蓮九朗の言う事を忠実にこなしている氷牙だが、その内面はまるで子供だった。心の声とのギャップが激しくて戸惑ったが、あれが本来の彼女なのだろう。それを押し殺して蓮九朗に今まで尽くしてくれていたのか。
 胡坐をかく蓮九朗の前で静かに次の命を待ち続ける彼女は今でも自分を心配している。我が身を案じてくれているのだ。

 (俺は…愛されていたのか)

 そう思うと何とも言えない至福が体を満たすのを感じ、同時に罪悪感が胸を満たす。
 氷牙に告白すべきだろう。自分が勝手に心を除き見た事を。たとえ許されなくても。愛想を尽かされたとしても。
 このままでいいはずがない。

 (氷牙…)






 「……」

 「……」

 しばらく2人は無言であった。
 蓮九朗は正直に告白し、氷牙にただ謝った。それを氷牙は黙って聞き、目の前に置かれたココロヨムーンを静かに見下ろしていた。その視線は冷たい。

 「……本当にすまなかった」

 「…御話は終わりですか?」

 氷牙の言葉に蓮九朗は黙って頷く。それを確認すると氷牙は静かに立ち上がった。

 「ひょ、氷牙…?」

 「……夕食の支度があります故、御免」

 そう言うと氷牙は背中を向けた。普段なら何も言わず、その場で姿を消すはずの彼女が今日に限って歩いて部屋を出て行こうとする。その背中に寂しさが滲み出ているのを蓮九朗は見逃さなかった。
 だから、そのまま立ち上がり氷牙を後ろから抱きしめた。

 「氷牙…!本当に……本当に、すまなかった!」

 「何の話でしょうか…?」

 「俺は…俺はお前を信じてやる事が出来なかった…!それで、お前の…許してくれ…」

 蓮九朗は自分を責めた。
 氷牙に愛されているかどうか、確かめる方法はいくらでもあったのだ。その中で自分は最悪の方法をとった。
 考えてみれば、氷牙だけではない。
 蓮九朗も氷牙に本心を見せなかった。
 夫婦となった時、初めてまぐわった時、氷牙が傍にいてくれる事を約束した時も蓮九朗は照れくさく、恥ずかしいという思いからあまり本心を見せなかったのだ。
 蓮九朗だけではない。氷牙も不安に違いなかった。

 「すまなかった…卑怯者で…俺は…」

 「主殿」

 蓮九朗に抱きしめられたまま、氷牙は抱きしめてくる腕に自分の手を添えた。

 「…本当の事を言えば、非常に心外です。私は主殿に信用されていなかったのですね」

 「いや!そ、…ぐ…」

 「ですが、それは私にも非があります故、大した事ではありません。今はそれ以上に嬉しいのです」

 そう言う氷牙の顔は優しかった。
 いつもの無表情ではなく、どこか満たされたような満足した笑みを浮かべ、肩越しに蓮九朗を振り返る。

 「主殿の本心が聞けました。それだけで満足です。私は…主殿に愛されていたのですね」

 「ッ…!すまなかった、氷牙…お前を不安にさせて」

 「謝らないでください、主殿…それは私にも言える事…」

 氷牙は抱きしめられたまま体を回し、蓮九朗に向き合って抱きしめた。抱きしめてくる腕に今までの不安、そして今の安堵が滲み出ている。
 蓮九朗は抱きしめる腕に力を込めた。氷牙も蓮九朗により強く抱きつく。

 「…私達、夫婦なのにお互いを…不安を理解していなかったのですね」

 「…そうかもな、恥ずかしい話だが」

 「まだ遅くはありません…これから、理解して支え合っていきましょう…それよりも」

 氷牙の瞳に色が映る。蓮九朗は何かと思ったが、ふと自分のモノが大きくなっている事に気が付いた。
 氷牙はそれを服の上から優しく撫で回す。

 「主殿のここ…分かり合いたいと申しておりますよ?だから…ね?」

 そう言う氷牙は怪しく、淫らに微笑んだ。






 「ん…ふぁ、はぁ…あむ…ん」

 仁王立ちしている蓮九朗に跪くように氷牙は膝を立てて蓮九朗に奉仕していた。
 亀頭を軽く咥え、竿を手で扱く。舌で尿道を責め、優しく撫でるように前歯で先端をなぞる動きにピリピリとした心地よさが広がる。

 「ん…本当にご立派です…ちゅ」

 竿をしごきながら氷牙は優しく笑うとまた口を使い、蓮九朗に尽くす。女性器とは違い、自在に動く舌と吸い付くような頬は緩やかだが、確実に蓮九朗を射精させようとしてくる。それに加え、指の細かな動きは単調にならず、所々で位置を変え連九朗を責め立てる。
 このままでは長く持たないだろう。
 蓮九朗は氷牙の頭を軽く撫で、その柔らかく艶やかな髪の感触を楽しむ。

 「氷牙、口だけで…頼む」

 「んふ、ぷはぁ…はい」

 再び咥えると根元まで一気に飲み込んだ。頭を前後に動かしながらも、上下左右から舌による愛撫も忘れていない。氷牙は潤んだ瞳で蓮九朗を見上げ、自由になった両手で自分の乳房を持ち上げたり、指を沈み込ませてたゆむ様子を蓮九朗に見せ付ける。
 そして、右手を下へと送るとそのまま太ももを開き、自分の秘所を慰め始めた。

 「んん…いふぅ、はふ…」

 弄り易いように膝立ちから爪先立ちに変えて、足を大きく開く。
 すでに汗とは違うもので濡れているそこは蓮九朗にも聞こえるほど大きい水音が響く。氷牙の動きも次第に緩やかに、そして淫らなものへとなっていく。蓮九朗のものを咥えている口の動きも激しさが増し、捻るような動きで頭を動かす。腰も指を受け入れているだけでなく、自ら迎え入れるように前後に動かしている。乳房を弄る掌も見て分かるほどに指をめちゃくちゃに動かしていた。
 しかし、蓮九朗はこのまま果てるのは惜しいと思っていた。
 せっかくならば、氷牙の中に放ちたい。

 「ひょ、氷牙…そろそろ、お前の…」

 それだけで氷牙は悟ったのだろう。
 口による奉仕を止め、名残惜しそうに口を離す。唇に着いたカウパー液を舐め取り、蓮九朗の前で大きく足を広げ座り込む。

 「あるじ殿、お許しください…氷牙は、いやらしいクノイチなんです…」

 氷牙は指を使い、自らの秘所を広げて見せた。愛液が溢れ、すっかり濡れそぼったそこは蓮九朗を求めて口を広げていた。いやらしい匂いと空気がそこから漂っている事が分かる。

 「あるじ殿の事を考えるだけで氷牙は蜜が…溢れて止まらないんです…ほらぁ、こんなにぃ♪」

 そう言う氷牙の顔は蓮九朗が見た事無いほどに熱に犯され蕩けていた。

 「どうか、罰を…このいやらしいクノイチにあるじ殿のたくましいおちんちんでお仕置きしてくださいぃ…」

 腰を上げ、誘うように動かす氷牙を見て蓮九朗は我慢の限界だった。有無を言わさず氷牙に覆いかぶさると今にもはち切れんばかりのモノを氷牙の中に捻じ込んだ。

 「にひゃ、あぁぁぁぁあ!!」

 待ち焦がれたものが自分の中を押し分け、進む感触に氷牙は嬌声を上げ喜びに体が震えた。
 氷牙の中は熱く、気を抜けばそれだけで果ててしまいそうな強烈な快感が襲ってきた。吸い付くような動きと締め付けるような感触に蓮九朗は唸った。

 「あ、あるじ殿…!どうか動いて!お願い、お願いしますぅ!!」

 「あ、あぁ…」

 何とか返すと、蓮九朗はゆっくりと腰を動かし始めた。
 引き抜くと離さないと言わんばかりに吸い付き、押し付けると奥へ導くように蠢く。上から責められているというのに氷牙は器用に腰を動かし、蓮九朗を受け入れている。

 「む、ぐぅ…!」

 先ほどの口淫ですでに蓮九朗は限界寸前だった。
 しかし、1回の射精で収まる自信が無いほど、蓮九朗は興奮しており、それは氷牙も同じであった。肉棒が射精したそうに震える様を敏感に感じ取ると、足を蓮九朗の腰に絡み付ける。
 そうする事で蓮九朗が逃げられないようにしているのか、それとももっと密着していたいのか、おそらく後者だろう。

 「んはぁ、あ、あるじ殿!出すんですね!氷牙の中に、出すんですね!!」

 「ぐ、氷牙!氷牙!!」

 「氷牙ももう!だ、だから、一緒に!一緒にぃぃぃ!!」

 先ほどの口淫しながらの自慰で氷牙自身も限界に近かったのだろう。その表情に余裕は無く、同時に絶頂を迎えようと腰を動かし、胸を押し付けてくる。
 それは不意に訪れた。
 何の前触れも無く、蓮九朗は氷牙の中に放った。

 「あ、ぁああああぁぁあああッ!!」

 「ぅお、くぅ!!」

 射精しているというのに氷牙の中はさらに射精を促すように、精を絞るかのように激しく蠢く。まるでそこだけ別の生き物のように。どっぷりとした精液を飲むように子宮も蠢き、精を浴びるたびにブルブルと震えているのが肉棒を伝って分かった。
 長い射精が終わり、抱き合ったまま2人は口付けを交わした。

 「んん、ぷはぁ…ありゅじどのぉぉ……」

 目を薄く開け、蓮九朗の顔を見つめたまま氷牙は舌を使って蓮九朗の口内に奉仕する。熱がこもり、お互いの息と唾液が交差する。口を離すと唾液が糸を引き名残惜しそうに2人を繋いでいた。

 「氷牙、すまん…まだ、いいか?」

 「え…?」

 見れば蓮九朗のモノはまだ固さを保っており、天を突いていた。
 それを見た氷牙は嬉しそうに笑みを零し、体を持ち上げると蓮九朗に尻を向けて四つん這いになった。
 
 「どうぞ、お使いください…氷牙のものでよろしければ…あるじ殿が満足するまで、ね?氷牙ももっともっとあるじ殿と交わりたいのです…」

 「し、しかし…いつもは俺が1回出したら終えていたではないか」

 「あ、あれは……その」

 慌てたように氷牙は顔を背けるが、耳まで顔を赤く染めて申し訳なさそうに蓮九朗を見つめてくる。

 「本当は…もっとしたかったのですが、その…あるじ殿の体に悪いかと思いまして…」

 「氷牙…」

 「あ、あるじ殿…それで、その……」

 言いにくそうにしていた氷牙だったが、自分の尻肉を持ち上げ、見せ付けるようにもう1つの穴を蓮九朗の前に出した。精器ではないはずのそこも、蓮九朗のモノを欲してヒクヒクと動いている。以前、興味本位で1度だけそこで行為をしたがそれ以来していなかった。

 「氷牙の全部を…あるじ殿に染めて…あぁ、お仕置きして欲しいのです…」

 腰を左右に振ると形の良い尻がタプンと揺れる。
 その光景に蓮九朗は自分の中の欲望が大きく膨れ上がるのを覚えた。

 「お願いします、あるじ殿ぉ…氷牙の不浄の門を…お尻を苛めて、犯してくださいぃ…」

 それだけ聞けば十分だ。
 蓮九朗は氷牙の尻を鷲づかみにすると、乱暴に尻穴に挿入した。

 「ぬぐぅぅ、んあぁぁぁあぁ!!」

 愛撫も無い、入れる用に作られていないその穴はしかし、蓮九朗のモノを易々と受け入れた。腸肉が吸い付くように肉棒へ絡みつき、門口がギュッと締め付ける。

 「ん、おぉぉ!お尻!あはぁ♪キタァァ…♪」

 舌をだらしなく垂らし、氷牙の顔に普段の凛々しさは欠片ほどにも見られない。
 犬のように後ろから犯され、尻の穴をほじられる快楽を氷牙は楽しみ、同時に自分が今、性欲処理の道具としか扱われていないかのような感覚に酔っていた。
 もっと乱暴にして欲しい。
 もっと欲望をぶつけて欲しい。
 もっと滅茶苦茶にして欲しい。
 それらを表すように氷牙は蓮九朗がもっと奥深くまで挿入出来るように腰を揺さぶった。それに合わせるように連九朗も腰を動かし、氷牙を犯す。

 「ん、あぁ…!あるじ殿、気持ちいい?氷牙のお尻、気持ちいですか?」

 「あ、あぁ、最高だ…!」

 「氷牙もぉ♪氷牙もすごく、いいですぅ!んう、ひあぁぁ!」

 そう叫びながら、氷牙はすべてを受け入れていた。まるで全身が性器のように蓮九朗を受け入れている。
 いや、それだけではなかった。
 まだ足りない。もっと、もっと欲しいのだ。
 今まで隠していた感情が、欲望が爆ぜた瞬間であった。

 「あるじ殿、もっと!もっと激しくお尻にくださいぃ!もっと!もっとぉぉ!」

 そう言うと動きが速くなり、肉と肉がぶつかり合う音が部屋中に響き渡る。
 そうしながら、蓮九朗は再び限界を感じていた。

 「んぐ、氷牙!すまん、俺…また」

 「んあ!こ、これは…お、お尻で出すんですね?は、んあぁぁぁ!出して、どうぞ好きなだけ出してくださいぃぃ!!」

 ラストを迎えようと氷牙は滅茶苦茶に動いた。蓮九朗もまた、それと同じくらい激しく、ガムシャラに腰を振る。
 一瞬、イチモツが膨張したかと思うと、まるで爆発したかのように蓮九朗は氷牙の中に精を放った。

 「あにゃ!あ、あぁぁぁぁっぁぁぁッ!!!」

 腰を大きくのけぞらせ、射精の勢いを受け止める。放たれた精液が腸内へ行き渡り染み入る心地よさを氷牙は体を振るわし、味わった。
 両腕で体を支えきれなくなった氷牙は倒れ込み、肩で息をつく。
 蓮九朗は氷牙に覆いかぶさると、背中から手を回し乳房を掌に収めた。
 柔らかく、揉まれるがままに形を変える乳房は揉んでいるだけで楽しかった。
 氷牙も同じようで、蓮九朗が指を動かす度に息を漏らし、切なそうに口を振るわせた。

 「ん、あるじ殿…」

 肩越しに振り向き、氷牙は蓮九朗との口付けを楽しんだ。
 そして、悪戯っぽく笑い、ウインクをした。

 「愛しております…だから、どうかよろしくお願いします、蓮九朗♪」

 終わり
15/09/21 00:33更新 / ろーすとびーふ泥棒

■作者メッセージ
どうも皆さん、こんばんは。
ろーすとびーふ泥棒です。

ジパングの魔物娘って奥ゆかしい魅力がありますよね。だけど、ムッツリスケベっぽいところもまた魅力だと思います。
その中でもクノイチはトップレベルのムッツリだと思います。
そんなムッツリがオープンになったらどうなるか?おぉ、恐ろしい。
本当はシーンでもっと入れたい描写があったのですが、長くなるので割愛しました。ごめんなさい…

この小説を読んでくれた皆様の元にクノイチが訪れる事を祈っております。
(2015年9月21日 誤字脱字修正しました。

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