連載小説
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その2
「な・・・レオナ・・・なのか?」

目の前のサキュバスはうつむきながら答えた。

「うん・・・僕、魔物にされちゃったんだ・・・」
「・・・」
開いた口が塞がらない。
でも考えてみてくれよ。死んだと思っていた親友が魔物になって戻ってくるなんてそんな経験した奴っているのか?
と、とりあえず本物かどうかわからない。何かこいつにしかわからないことを聞いてみよう。

「・・・オレが先月告白してふられた女の名前は?」
「宿屋のルナだったっけ?あの胸が大きくて、気の強い子。
 確か理由は、その・・・僕のことを・・・」
「よし。思い出すと泣きたくなるからやめておこう。もてるのはいつもお前なんだ・・・」
「いや、いつも言ってるけどブルートだってもててるよ?でもブルートいつも気づかないじゃないか。」
「いーや、もてる奴の言うことは信用ならないね!レオナ様にはわからんだろうけど!」
「またその呼び方して・・・僕がその呼び方嫌いなこと知ってるだろ?」


・・・間違い、レオナだ・・・この反応も含めて・・・

「まぁとりあえず座れよ、っていうかオレらの部屋だからなんか変な感じだけど・・・」
「あ、うん、そうだね・・・」
「で、どうしてそうなったのか教えてくれないか?」
「うん。っていうかブルート、魔物嫌じゃないの?」
「元々魔物への忌避感は薄い方だし、何よりレオナだろ?」
「あ、ありがとうブルート・・・こんな姿だし、ブルートに嫌われるかも知れないって思って・・・
 本当はもっと早く来られたんだけど怖かったんだ・・・」
俯いて肩を震わせるレオナ。おい、やめろ、まるで女みたいだ・・・
ダメだ、こいつは男、男なんだ・・・

「話が脱線したな。で、話してもらおうか。」
「あ、ごめんね。ブルートと別れた後しばらく粘ったんだけど・・・」


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「ぐっ・・・!!」
「あら、もう終わりかしら、勇者さん?」
「まだまだ!!」
「あらそう?でもそろそろ疲れてきたし終わりにしましょうか。」

サキュバスの周囲の空気が歪み始める。
僕はより強い魔法障壁を作ると同時に黒い衝撃波がこちらに向かってきた。
魔法障壁が破られた瞬間、僕は意識を失った・・・


「ちゅっ、れろ、ちゅぷちゅぷ・・・」
水気のある音と何だかムズムズするような感覚の中、僕は目を覚ました。
手足は・・・拘束されているのか動かない・・・首を動かして周りを見渡すと、声をかけられた。
「あら、目を覚ました?」
声の主に目を向けると、サキュバスが僕の股間に顔を埋めていた。
「な・・・何をしてるんだ!」
「何って・・・食事だけど?」
「食事?僕を喰うのか?」
「だから食べてるんだって。教会から何を聞いてるか知らないけど、魔物の食事は基本的に男の精なのよ?」
「な、なんだと・・・」
「だから人間を殺したり食べたりはしないの?わかったら大人しくいていてね♥」
「やめろ・・・僕はまだ・・・」
「あら、童貞なの?じゃあお姉さんが筆おろししてア・ゲ・ル♥」
「嫌だ!」
「あら、好きな人でもいるの?」
「いや、好きっていうか・・・」
「あら、どんな人なのかしら?見せてもらおうっと♪えいっ」
サキュバスは何かの呪文を呟いた。
「やめろ・・・それだけは・・・それだけはやめてくれ・・・」
「・・・ん?あら、そういうこと?ざ〜んね〜ん、お姉さん振られちゃったなぁ♪」
「・・・うるさい、悪魔め」
「でもこのままじゃ、難しいでしょうねぇ・・・」
「知ってるさ・・・いいんだ、そばにいられれば・・・」
「ねぇ・・・いい方法があるんだけど・・・聞く?」
「なんだよ・・・いいよ別に・・・」
ヒソヒソヒソ
「そんな・・・そんなことできるわけないだろ・・・!!」
「でも皆幸せになれると思うんだけどな〜♥」
「でもそんなの・・・」
「まぁ勝手にやっちゃうんだけど♪多分成功すると思うわ♥」
「ちょっ・・・やめ、あ、あ、あぁぁぁぁぁ・・・」

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「ハッ」
「あら、目が覚めた?おめでとう、成功したわぁ」
「ええっ!?」
自分の体を見渡す。
元々男にしては華奢だった体が更に華奢になっている。
胸も少し膨らんで、何より股間の男性の象徴が・・・なくなっている・・・
「ハイ、鏡でご対面〜」
・・・そこには、黒髪で華奢な美少女が立っていた・・・
「アルプって呼ばれてるわね。人間の男が魔物化すると本当はインキュバスになるのだけど。
 ある条件下だとアルプになるのよね〜♪」

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「で、その後ここに来たと」
「うん・・・」
「確かにそのカッコじゃ人前には出られないし、家にも帰れないな」
「変化の魔法はあるみたいなんだけど魔力足りなくて使えないし・・・
 こんな格好を父上が見たらショックで死んじゃうよ」
「お前の家じゃそうだろうな・・・で、オレのところに来たと」
涙目でコクリと頷いたレオナ。レオナに姉妹がいたらこんな感じなんだろうなってくらいかわいいな・・・
「しかしどうしてインキュバス?じゃなくてアルプ?になったんだ?」
「それは・・・その・・・」
「まぁ深くは聞かないよ。で、これからどうすんだよ」
「どうしよう・・・くすん」
・・・オレも泣きたいよ・・・
「とりあえずあの森に隠れてろよ。一日一回は会いにいってやるからさ。」
「わかったぁ・・・絶対だよ?」
「信用しろよ。」
「不安なんだよぅ・・・」
なんだこのかわいい生き物は・・・
「とりあえず寝るか。」
「うん。じゃあ森に行くね。」
「おう。また明日。」
レオナは窓からパタパタと飛び去っていった・・・


それから数日、レオナの葬式も終わり、落ち込んでいた団員達も少しずつ元気を取り戻していった。
レオナの穴埋めに中央から勇者も派遣されてきたし。
いけ好かない教団の狂信者みたいだから名前も覚えてないけど。

森にいるレオナにも変化はないようだ。
そろそろ落ち着いてきたし、今後のことを考えないとなぁ・・・
そんなことを考えていると、団員の慌てた声が聞こえてきた。
「も、森で魔物を発見しましたぁ!!」
くつろいでいた団長が顔色を変えて号令を出した。
「総員準備せよ!!!!」
「「「はっ!!!」」」

宿舎の前には総勢100名程度の教団員達が集合した。当然オレのその中の一人だ。
「忠実な神の僕である諸君にまたとない活躍の機会が巡ってきた。
 敵は先日、無念の戦死を遂げたレオナ=フォルネの仇敵である可能性が高い。
 彼の無念を晴らすためにも諸君の健闘を期待する!
 これより、五人一組に分かれ、森に潜む魔物を捜索するのだ!
 発見し次第討ち取ってよし!」
「「「はっ!!!」」」
「ではゆくぞ、諸君!」

・・・これはまずいことになった・・・
見つかったのはレオナなのか他のサキュバスなのか・・・
いずれにせよ、レオナが見つからないことを願うしかない。


森に着いたオレ達は早速魔物狩りを開始した。
1名ほど、魔物が見つからないことを祈っている不届き者を混じえて。
まぁ空飛べるみたいだし大丈夫だろう。とタカをくくっていると、同行している4人から不穏な会話が聞こえた。
「しっかし魔物が空飛べる場合、オレ達じゃどうにもならないんじゃないか?」
「そうだよな・・・確かに」

「それなら捕まるかもしれないな!」
「よし、気合が入ってきた!!」
・・・非常にまずい・・・

森に入ってかれこれ一時間。他の組もレオナを見つけていないようだ。どうかこのまま・・・と願ったのも束の間、
「いたぞ〜〜〜〜〜!発見!」
・・・見つかりやがったか・・・とにかく現場へ向かわなくては!

現場にたどり着いたオレは息を呑んだ。
既に団員が数名、叩き伏せられている。出血はないし、気絶しているだけのようだが。
レオナは団員数名を相手取って戦っている。さすが元勇者だけあって平団員では相手にならないようだ。
しかし飛んで逃げればいいのに・・・

「団長!」
「おお、ブルートか」
「中々手強いようですね・・・」
「うむ、だが時間の問題だろう」
「飛んで逃げられないのですか?」
やばくなったら逃げろよ、という意味もこめてあえてレオナに聞こえるよう大きな声で尋ねた。
「いや、それが新しく配置された勇者殿は結界魔術の使い手らしくてな。
 魔力の檻に魔物を閉じ込めて逃がさないようにしているのだ。」
「さすがですね・・・」
「だから時間の問題と言ったろう?ここに集合しているのはまだ半数にも満たないが、全員集合した上で我々も加われば問題なかろう。」
「なるほど・・・」
ちっ、かなりまずい展開だな・・・ここでオレが裏切って勇者をぶっ飛ばすのは簡単だが・・・
そんなことをすれば裏切り者の家族としてオレの家族がひどい目に遭わされる。
しかし何もしなければ親友が仲間の手で殺される。
オレは一体どうすればいいんだ?

そうしている内に次々と増援が到着した。
本当に時間の問題だ。何かないのか、何か・・・
その時、視界に遺跡が入った。
!!!そうか、その手があったか!
可能性がある以上かけてみるしかない・・・!
オレはこっそりと遺跡へ向かった。幸い、皆レオナとの戦闘に夢中だ。


遺跡に入ったオレは、目的の場所へと急いだ。
「おっと、あったあった。これで・・・」

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「ハァ、ハァ・・・」
「どうした魔物よ、そこまでか!」
疲弊した僕に、団長が威勢を上げる。
やはり・・・強い。魔力さえ万端なら何とかなるんだけど補給できないのが悔しい。

「くっ・・・!何とかして・・・逃げなきゃ・・・
 せっかく・・・この姿になれたのにやりたいことやれないまま死ぬなんて嫌だ・・・」
団員の後ろで結界を張っているあの人さえ倒せば・・・
「行かせんよ!」
僕の目論見は団長によってあえなく失敗してしまった。
八方塞がりだ。本当にここまでなのかな・・・じわりと涙が溢れてくる。
嫌だ。誰か助けて・・・助けてよ・・・ブルート・・・

「ぐあっ・・・・!」
突然、勇者が倒れた。
「くっ、仲間がいたのか!?諸君、そいつも倒すのだ!!」
団長が指差す先には、神殿に安置されていた呪術用ローブを頭から被り、ハルバードを携えた戦士がいた。
その戦士は勇者を倒した後、教団員達を驚異の膂力で打ち倒しながらこちらへ向かってきた。
そのままの勢いで肩で息をする僕のところまでたどり着くと、僕を抱きかかえ、森の奥へと走りだした。
判断が追いつかずに見送る教団員達へ団長が激を飛ばしたのが聞こえた。
「追え!絶対に逃がすな!神敵を討ち果たすのだ!!」


「・・・何やってんだよ、レオナ・・・」
真っ黒なローブを頭から被った戦士が僕の名前を呼んだ。
聞き間違えるはずのないこの声。
「!!!ブルート?」
「バカ!声がでかい!・・・このままお前を抱えたままだと追いつかれるんだが・・・何か手はないか?」
「・・・ちょっと過激な手なら・・・」
「この際方法は選んでいられねぇ。やれ。」
僕は体に残った僅かな魔力を集めて詠唱を始めた。
「はああああああ!」
叫び声と共に僕らと教団員の間の地面に深くて広い亀裂ができたために、教団員は立ち往生している。
「これでしばらく時間が稼げるはず・・・でももう魔力が切れて動けないよ・・・」
「よし。後は任せろ。お前は休んでいればいい。」
「うん。ありがとうブルート・・・」
「バーカ。親友だろ?」
ニヤリと笑うブルートに何故かドキドキしてしまった・・・


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森のかなり奥深くまで到達した僕らは一旦休憩しながら、今後の話をした。
「とりあえず、お前はこの国にはいられないだろ。これは提案なんだが」
「うん。」
「お前、国境越えてレスカティエに行け。あっちなら魔物でも大丈夫だからな。」
「そうだね・・・それしかないよね。」
「国境までは送ってやる。」
「えっ・・・ブルートは一緒に来てくれないの?」
「一応家族いるしな・・・何よりオレは人間だからレスカティエ行ったらひどい目に合っちまうさ。
 大丈夫、お前ならレスカティエでもうまくやっていけるさ。どうせこっちでも友達少なかったしな。
 オレの方は団長達を何とかごまかして団に復帰すれば今まで通りだ。」
こんな時にまで冗談を飛ばすブルート。
嫌だよ・・・ここでお別れなんて・・・でも僕がワガママ言ったらブルートは困ってしまう。
そんな僕にできるのはうなずくことだけだった。
「さて、そろそろ行くか。おぶってやるよ。」
「うん、ありがとう。」
「しっかし小さくなったな〜お前。」
上から楽しそうなブルートの声が聞こえた。
「うん・・・」
なんだろう。さっきからドキドキが止まらない。
体が熱い。特にお腹の辺りが。顔も熱い。きっと僕は今真っ赤だろう。
ブルートのたくましい背中にずっと抱きついていたい。ブルートに抱きしめられたい。
魔力が切れ始めてからどんどん衝動が強くなっている。
僕はどうしてしまったんだろう・・・



次の日・・・何とか国境までたどり着いた僕達は何となく座って最後のお別れをすることにした。
ブルートが使用人として初めてうちにきてからもう十数年。ずっと一緒だった。
僕が勇者の訓練で辛い時。ブルートが女の子に振られた時。
初めて二人で教団の門を叩いた時。数え上げればキリがないほど一緒だった。
思い出話をしていたら、涙で目の前が見えなくなってしまった。
「やっぱり・・・嫌だ・・・」
「ん?レスカティエに行くのが怖くなったのか?」
「違うよ。ブルートと離れるのが嫌なんだ・・・」
「・・・」
「ねぇ、一緒に来てよ、お願いだ・・・僕と一緒ならひどい目に会わないかも・・・」
困った顔で黙りこむブルート。でも僕は止まらない。
「離れ離れなんて嫌なんだ・・・お願いだよ・・・」
ため息をついてブルートがこぼした。
「お前な・・・前もそのセリフ言ったこと覚えてるか?」
「え?」
「お前が教団騎士団に入るって決まった時だ。オレに付いてきてくれってさ。」
「あ、ああ、ごめんね・・・」
「仕方ねぇなぁ、お前って奴は言い出したら聞かないからなぁ・・・」
「え?じゃあ・・・」
「ちょっとだけだぞ?気が変わったらオレは国に帰るからな」
「あ、あ、ありがとう・・・うえぇぇぇん・・・」
「ばっ、泣くな!」

こうして、僕とブルートの旅はもう少し続くみたいだ。
12/04/26 00:39更新 / もょもと
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■作者メッセージ
その2です。
長くなってしまいました・・・

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