読切小説
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俺の考えた最強の毒蟲
その日、いつものように庭の花壇で育てているお花に水をあげながら休日の午後をのんびりと過ごしていた。
家を囲む塀の向こう側では、恐らく魔物娘に襲われたのであろう男性の悲痛な叫びが木霊する。
どんな軍事力よりも優れた魔法を操る魔物娘相手に、人間の司法機関がどうにかできるわけもなく・・・

@すでに嫁or彼女のいる男には手を出しちゃダメ!
Aあんまり無茶しちゃダメ!
B周りに被害出しちゃダメ!

魔王が下した上記の3箇条を遵守した上で、世界中で魔物娘が好き放題しているのだ。
しかし、人間もただ好き勝手やられているわけではない。
現に我が家も魔物娘の侵入を防ぐべく、家を囲む塀に魔力の結界を張っている。

なぜ、そんなことができるかと言うと、何でも我が家は魔術師?陰陽師?・・とにかく、何かそんな感じの家系らしく、人間でありながら術が使えるのだ。
今では血も大分薄くなったせいであまり強力な術は使えず、弱い魔物から自宅の敷地と自分自身を守る結界を張れるくらいだった。


『あー・・・今日も今日とて空は薄暗く、育つ花も空元気だなぁ。。。』


生まれて18年間、見慣れてしまった大空は一年を通して雲に覆われ、そこから覗く太陽からは紫色の陽が降り注ぐ。
今年で高校3年になった俺は初恋の甘酸っぱい経験もなく、365日貞操を狙われる生活にほとほと疲れていた。
唯一の生きがいは、襲ってくることもなく、ただ可憐な花を咲かせる花壇のお花だけ。


『・・・あれれ〜、おっかしいぞぉ?何でうちの花壇にマンドラゴラやテンタクルが生えてるのかなぁ?』


どうやら結界の及ばない地中を移動してここまで来たらしい魔物娘が、そ知らぬ顔で敷地内へ入り込んでしまったようだ。
自分自身にも結界を張っているお陰で襲われることはないが、いつ何時隙を突いてくるか分からない隣人を野放しにしておく事もできない。
2匹の頭?髪の毛?触手?・・とにかく、何かそんな感じの部位をできるだけ優しく掴んで引き抜くと、塀の外へキャッチ&リリースしてご退場いただいた。
もちろん、マンドラゴラの悲鳴もテンタクルの触手も俺自身に張っている結界のお陰で影響を受けることはなかった。

『あーあー、花壇の花が端に除けられて穴ぼこまで空いちゃってるよ・・・』

今しがた2匹を引き抜いた場所には地面の下を移動した時にできたのであろうトンネルのようなものがあった。
手元にお花の苗もない以上、一先ず穴を埋めて地上にも結界を張ったほうがいいかもしれない。
とりあえず、手元にある道具を使って穴を埋めようと思った俺は、花壇にスコップを突き立てる。


「カキンッ!」


すると、植物の根が育ちやすいようにいい感じにフカフカしているはずの花壇とは思えない、金属音のような硬いものにぶつかった音がした。

『ん、石ころでも紛れてるのか?』

もしそうなら、穿り出して花壇から排除しないと、大切なお花の根を傷つけてしまいかねない。
スコップを脇に置いて、軍手を装着するとトンネルの中に手を突っ込んで石ころがあるであろう辺りを手探りで探る。
しばらくそうやっていると、指先に硬い物体が触れる感触があった。
「おお、これか」と思ってそれの湾曲した部分を握ると、両足で踏ん張って土の下から引っ張りだそうと思いっきり仰け反った。

『んんぬぉぉぉぁぁあああああ!!!!!!!!!』

雄叫びを上げながら、血管がぶち切れそうになるくらい力を篭めていると、だんだんその物体が浮き上がってきた。
「よし、もうちょっと!」と気合を入れなおして反動をつけては後ろに仰け反る行為を繰り返すこと数回。
「ゴボォッ!!!」という音とともそれは引き抜かれ、陽の光の下に転がった。

『あてててて・・・』

引っこ抜けた反動で思いっきり後ろに倒れこんでしまい、地面で後頭部を強打した俺は頭を摩りながら戦果を確認する。
しかし、目の前に転がっていたのは想像していたような土まみれの石ころなどではなく・・・


『つ、つぼ・・・?』


それは漫画に出てくるような「THE・呪いの壺」というビジュアルをしていた。
一言で説明すると、人の生首。
俺が掴んでいたのは耳に当たる部分。
明らかに異様なオーラを漂わせているそれと、耳を掴んでいた両手に呪いでも貰ってしまったんじゃないかと冷や汗が吹き出る。

『ま、マジかよ・・・これ、絶対ヤバイやつじゃん。。。』

家の蔵から先祖の使っていた妖しげな道具が出てきたこともあったが、これはそのどれよりも異質だった。
デスマスクを髣髴とさせるリアルな造詣、それは苦悶の表情を浮かべ、今にも呻き声を上げそうなほどだ。
もう一度埋めなおそうかとも思ったが、俺の生きがいでもある花壇にこんな呪いのアイテムを肥料にするわけにもいかず、どうしたものかと考えていると壺がカタカタと僅かに動き始めた。

『う、うご・・動いてるぅぅぅ!?これヤバイ!絶対ヤバイ!何か封印されてる類のやつだ!!!』

俺に流れる大分薄い陰陽師(仮)の血が全力で警報を鳴らし、この場から今すぐ逃げろと告げる。
しかし、あまりのプレッシャーに腰が抜けてしまい、「あわわわわ・・・」と慌てふためくだけで身体は動いてくれなかった。
そしてついに壺の頭頂部にあたる蓋の部分が勢い良く外れ、空高く打ちあがった。


『『『おおおおおおぉぉぉぉぉ・・・・・』』』


まるで地の底から響いているような恨みがましい声を発しながら、壺から黒を何重にも重ねた濃い煙の塊のようなものがズルッと浮き上がってくる。
情けないことに、俺は「ひぃっ」と小さな悲鳴を上げて腰が抜けたままの体勢で後ろへ逃げる。
しかし、そいつは俺の悲鳴に反応したのかゆっくりゆらゆら揺れながらこちらに近づいて来た。
「ああ、終わった」と諦めの境地で覚悟を決め、空を見上げた俺の視界に煙の塊が現れた。
そして、そいつは俺に対して言葉を発した。

『『『・・・で、』』』



『『『出れたぞぉぉぉぉぉ!!!!!!!』』』



『・・・・・はい?』

確かに、そいつの言う通り、たった今壺から出た。
いや、決して間違いではないのだが、普通こういう時は「我を目覚めさせたのは汝か?」とか「我が目覚めたからには、この世界を破滅させてくれるわ!」とか、何かそんな感じの恨み言を言うものではないのか?
気のせいか、聞こえる声もすごく上機嫌だし、煙の形も中で人が踊り狂っているようにあっちこっち形が崩れてドタバタしている。

『あ、あの〜・・・』

これは何とかなるかもしれないと光明を見出した俺は勇気を出して、目の前のそいつに話しかける。

『『『・・・あら?なにかしらぁ?』』』

しかも、すごいラフな感じで反応してくれた。
どうしよう・・・もしかしてこれ、何の罪もない妖精とか封印されてたんじゃなかろうか。
自分の先祖の失態であれば全力で謝罪しなくてはならないと覚悟を決めて話を進める。

『その、貴方は何ゆえその壺に閉じ込められていたのか、お伺いしてもよろしいですか・・・?』

相手の立場が分からない以上、俺なりに最上級の敬意を持って接する。
するとそいつはモクモクとしながら黙り込んでしまった。
もしかして、ずいぶん前の事だから思い出すのに手間取っているのかもしれない。


『『『た、確か・・・国を滅ぼす呪いの蟲を作るために、わ、私を含め、世界中から集められた毒蟲や魑魅魍魎がこの壺に閉じ込められてしまったのです・・・』』』

『お、おぅ・・・』

まさか、想像以上にヘビーな内容にうまくリアクションができない。
と言うか、うちの先祖は一体何をやらかそうとしてるんだよ!!!
蔵の中で蠱毒のやり方を記した巻物を見たことがあったが、恐らくあれを行ったのだろう。

『それで・・・貴方は・・・?』
やっぱりとんでもないものを起こしてしまったのだと理解して俺の心臓がバクンバクンと過剰に動き始める。
蠱毒の壺から出てきた以上、こいつは呪いの蟲の完成形。
つまり、国を滅ぼすために作られた悪意の象徴。


『『『俺か?俺は・・・その前に、お前は誰だ?』』』


この後どうしようと頭を抱えていた俺に突然投げかけられた質問。
この回答如何によっては最悪のパターンも考えられる。
伝えるのはただ一つ、俺はたまたまこの壺を拾った罪なき一般人。
貴方をこの壺に閉じ込めたアホとは一切関わりございません!

『お、俺はたまたま・・・』


『『『いや、お前じゃない!さっきから俺とお前の会話に割り込んでくる奴だ!!!』』』


『・・・え?』
しかし、俺の言葉を遮ったのはたった今、俺に質問を投げかけた煙本人だった。
この場には俺とこいつしかいないはずなのに、壺に閉じ込められたせいで耄碌しているのだろうか。
もしそうなら、俺が使える結界程度でも何とかなるかも知れない。
そう思ってほくそ笑んだその時。


『『『あ、貴方こそ、ど、どちら様ですか・・・?』』』


『『『そういう貴方はだぁれ?どうして私と同じ声なのかしら?』』』


『『『待て待て!俺が先に聞いたろ!』』』


目の前で繰り広げられる問答。
煙は水に浮かんだドライアイスのようにゴポゴポと泡を吹き、色も緑、黄、赤とグラデーションしながら変化する。
声の主たちはやいのやいの言いながら「名を名乗れ!」「貴方が先!」「いえ、貴方が・・・」と話が一向に進む気配がない。

『あ、あの〜・・・』

このまま放置して逃げてしまおうかとも思ったが、如何せん作られた目的が目的なだけにこいつから目を離すのは危険だと思い、もう一度勇気を出して話かけた。
その瞬間、ピタッと言い合いが止み、煙のゴポゴポも止まった。

『こ、ここは一つ穏便に・・・とりあえず、自己紹介してはいかがでしょう?』

何はともあれ、今この状況が何なのか分からない以上、お互いの存在を把握しないと話を進めようにも誰と話しているのか分からない。
そのためにもまずは、自己紹介するのが優先だと判断したのだ。

『『『まぁ、俺を壺から出してくれたお前がそう言うなら・・・』』』

しれっと俺が壺から出したことを知っている声の主に驚きを隠せなかったが、一先ずそれは置いておいて・・・
赤色の煙を噴き出しながら反応を示した一人が話し始める。

『『『俺の名はマンティコア。大陸出身の魔物でまだガキの時に捕まって、壺に閉じ込められた!』』』

ふむふむ、「マンティコア」か。
現代にも魔物娘として存在するそれは獣の肉体に蝙蝠の羽、棘の付いた尻尾を持つ魔物だったはず。
と言うか、すでにマンティコア自体が合成獣なのに、それを蠱毒の材料に使うとか・・・俺の先祖はどんだけ悪趣味なんだよ。
そもそも、どうやってこんな小さな壺に入れたというのか・・・


『『『で、では、次は私が・・・私は大百足と申します。マンティコアさんと同じで、生まれたばかりの時に人の手に捕まりました』』』

緑の煙を噴き出しながら自己紹介したのは「大百足」。
こいつも現代に存在する魔物娘で、百足の下半身に毒腺を持つ、日本古来の魔物。
蠱毒に使う蟲としては、確かにポピュラーかもしれない。


『『『最後は私かしら?私の名前はギルタブリル、砂漠で獲物を探している時にハンターに捕まっちゃったの。この中では一番お姉さんかしら?』』』

黄い煙を噴き出しながら最後に自己紹介したのは「ギルタブリル」。
砂漠を住処とするサソリの魔物で、確か尻尾に毒針を持つ危険な奴だったな。
こいつも魔物娘として存在するから、三匹とも現代に存在する魔物娘のようだ。

にしても、本当に日本だけでなく他の大陸からも呪いに使えそうな生き物を集めてたのか。
俺の先祖はどれだけこの国を滅ぼしたかったんだろうね。


『『『にしても、壺に閉じ込められてからの記憶が曖昧なんだが、なんでこんな事になってんだ?』』』

煙が赤に変化しているところを見ると、今しゃべっているのは「マンティコア」のようだ。


『『『さぁ?何でかしら?私にもさっぱり分からないわ』』』

今度は黄・・・「ギルタブリル」か。

『『『な、何とか元に戻れないもの、でしょうか・・・?』』』

緑は、「大百足」ね。


まるで信号機のように赤黄緑と変化させながら悩んでいる様子のそいつを見ていると、国を滅ぼすために作られたとは思えないほど、頼りなく見えてくる。
恐らくだが、蠱毒の術は失敗したのだろう。
本来なら一匹の蟲が生き残るはずが三匹も生き残ってしまい、形と意識が定まらず蚕の繭の様な状態で止まっているのかもしれない。
かといって、肉体のない今の状態で最後の一匹になるまで戦うこともできないだろう。

それに、平和な今の時代、やっと地獄から開放されたと言うのにそんな血生臭いことさせられなかった。
なら、俺にできることは一つだけ。


『あの〜、俺から説明させてもらってもいいですか?』






『『『人間め、なんておぞましいことを・・!』』』


『『『いつの時代も人を一番多く殺すのは同じ人間って事かしらねぇ?』』』


『『『・・・ひどい・・です・・・』』』


三者三様ではあるが、俺も概ね同意する。
魔物娘が現れてからも、人と人の争いはなくならないが、人と魔物娘の争いだけは一度たりとも起きたことはなかった。
結局、一番ねじくれているのは人間なんだろう。

『今、説明した通り、貴方たちを含め、もう消えてしまった他の蟲も巻き込んだのは俺の先祖です』

最初は誤魔化して逃げようと思っていた俺だったが、勝手な先祖の欲望に巻き込まれてしまった三匹や他の蟲に誠意を示すためにも一切を包み隠さず明かした。
反応は・・・ご覧の通り。
人間に対する怒り、皮肉、嘆き。

せめて、今、この時代でだけは生を謳歌してもらいたいが、俺や両親にそんな力はなく。
できることと言えば、こいつ等の感じた苦痛を我が身を持って受け止めてやることくらいだろう。


『俺の命でよければ好きに使ってください。ただ、それ以上はこの世界を憎まないでください。どうか、閉じ込められていた分も生きてください』


きっと、この壺を俺が掘り出したのも何かの縁だろう。
先祖の犯したとんでもない過ちを、俺一人の命で贖罪できるのなら安いものだ。
あとは、本人たちが納得するか・・・


『『『お前の命なんて、いらん!』』』

『『『私もいらないわぁ』』』

『『『い、いりません・・・』』』


しかし、返ってきたのはまさかのNG。
やっぱり俺一人の命なんかで納得できるほど安くはないようだ。
これは俺の手に負える話ではなくなってきたなと、今更になって理解してきたが後の祭り。
殺されるか喰われるかは分からないが、それも一瞬の事だろう。
そう思ったら、自然と諦めがついた。


『『『暗くて冷たい穴の中から引っ張り出された時、俺の体の中に温かいモノが流れ込んできた』』』

『『『あれって、「魔力」かしら?そのお陰で、こうやって自由に話せるだけの知識と力を得たんだけど・・・』』』

『『『ど、同時に・・・今がどんな世界なのかも、理解しました・・・』』』


俺の目の前でそいつは信号機みたいに点滅を繰り返しながらゆっくり言葉を紡ぐ。


『『『今って、人と魔物は共存しているのよねぇ?だったら、国を滅ぼす必要なんてないわぁ』』』

『『『俺たちは別にお前を食い殺したくて出てきたわけじゃないからな』』』

『『『む、むしろ・・正直に話してくれて、・・嬉しかったです・・・』』』


そいつは自分の身に降りかかった不幸も奪われた身体も押し付けられた欲望も理解した上で、そんなお人好しが過ぎることをのたまう。
これじゃ、本当にどっちが人間か魔物か分からないな。


『『『だから、別にお前が謝る必要もなければ、犠牲になる必要もない!』』』

『『『出してくれて・・ありがとう、ございます・・・』』』

『『『貴方はお人好し過ぎるわよぉ?』』』


最後に「ギルタブリル」が言った言葉に、「どっちがだよ」っと言ってやりたかったが泣くのを堪えていたせいでできなかった。
そんな俺に気付いてかどうかは分からないが、またすぐに三人でやいのやいの言い合いを始めている。
今まで魔物娘の事は好きになれず、結界を使って遠ざけてばかりいたが、こいつとなら友達になってもいいかもなぁと思えた。


『『『ところで、俺は腹が減ったんだが・・・』』』

『『『あらぁ?奇遇ねぇ・・・私もお腹ペコペコなの』』』

『『『・・ペコペコ・・』』』


いつの時代から埋まっていたのかは分からないが、壺の状態から考えるに、100年や200年では済まないであろう年月を閉じ込められていれば腹も減るだろう。
しかし、食事を提供しようにも渡す手もなければ食べる口も見当たらない。
さてどうしたものかと考えていると、そいつがモクモクしながらおもむろに俺に近づいて来た。


『『『・・よっと!』』』


そんな軽いノリの掛け声とともに煙から出てきたのは黒い毛に覆われた腕だった。
『うぎゃああああああ!!!!!!』
あまりの衝撃にたまらず飛び退くと、俺が今までいたあたりの空間を探るように腕が動いている。

『『『おい!逃げんな!』』』

声と腕の見てくれから考えるに、どうやらあれは「マンティコア」の身体の一部のようだ。

『『『別に取って喰いやしねえよ!ただ、ちょろっとチンコ出してくれ』』』

どっちにしろ最低極まりない発言にドン引きの俺だったが、続く発言に背筋が凍りつく。

『『『貴方ヘタクソねぇ・・・いいわ、私の毒針で仕留めるからよぉく見てなさい』』』

そして、煙を突き破って出てきたのはサソリの尻尾。
これは間違いなく「ギルタブリル」の物だ。
「マンティコア」の腕よりもリーチの長い尻尾を振り回しながら、そこら中を攻撃しまくっている。

『や、やめ!やめて!危ない危ない危ない危ない!!!!!!』
目にも留まらぬ連続攻撃を奇跡的に回避しながら後ろに倒れこんだ。
忘れていたが、この二人は攻撃的な魔物だった。
反応が一瞬でも遅れていたら、美味しく頂かれていたことだろう・・・


『『『お、お二人とも・・ダメですよ?あの人、怖がっているではありませんか・・・』』』

唯一二人を制止しようとしてくれる「大百足」の発言に、「て、天使だ・・・」と心を許して一歩踏み出した瞬間。

『『『そ、そこです・・・!』』』

狙い済ましたように大百足の顎肢が太い尾ごと伸びてきた。
『うひゃぁぁぁぁ!!!!!!』
なんとか間一髪その攻撃をかわした俺の耳に聞こえたのは「おしい・・・」という、「大百足」の一言だった。
これも忘れていたが、「大百足」は一度狙いを定めると執拗なまでに狙ってくるちょっと危ない子だったはず。


『『『お前、大人しい振りして一番えげつないな!!!』』』

『『『私もさすがにそこまでしないわよぉ?』』』

『『『ま、魔物の世界は、喰うか喰われるか、です・・!』』』


ファミレスで盛り上がる女子会の様なテンションだが、貞操を狙われている身としては危険極まりない。
よくよく考えれば、この三人はみな毒を持っている。
今のところ「マンティコア」は腕しか出していないが、恐らく尻尾も出すことができるだろう。
形が定まっていない繭の状態だからこそできる芸当だとは思うが、とんでもなく恐ろしい!!!


『『『んじゃ、俺も本気出すか!』』』

『『『いつ振りの食事かしらぁ?』』』

『『『お、お腹いっぱい・・・食べたいです・・!』』』


そんな言葉とともに出てきたのは先端に棘の生えた「マンティコア」の尻尾、毒針から即効性の麻痺毒を垂らしている「ギルタブリル」の尾、噛まれた箇所から毒を流し込む「大百足」の顎肢。
それらはゆらゆらと左右に揺れながら毒をぽたぽたと垂らし、ゆっくりゆっくり俺に近づいてくる。
再び腰の抜けてしまった俺は情けない格好で後ずさりして少しでも距離を取ろうと考えたが、すぐに塀にぶつかってしまった。
まさか、魔物娘から身を守るための塀がこんな形で仇になるとは・・・
塀を見ていた俺が悪寒を感じて後ろ振り向いた時には、自分の身体に3つの凶器が突き立てられるまさにその瞬間だった。

『あ・・あぁ・・・から、だ・・・』

刺されてすぐに体が動かなくなったのは「ギルタブリル」の毒。
ついで感じる激しい射精感は「マンティコア」の毒。
そして、噛まれた箇所から身体に広がってくる痺れるような快感は「大百足」の毒。

三者三様の毒をその身に受けた俺は目の前で腹を空かせている魔物娘の生贄となるしかない。
自分自身にかけた結界を突き破られたことから判断するに、蠱毒の影響なのか魔物としての力も強化されているのだろう。
こうなってしまっては、俺には文字通り手も足も出ない。


『『『やっと捕まえたぜ!』』』

『『『私が最初に仕留めたのよぉ?』』』

『『『わくわく・・わくわく・・・』』』


嬉しそうな声を上げながらそいつは近づき、とうとう目と鼻の距離まで来た。
今では目を瞑っていてもどいつが話しているのか分かるようになってしまった。
このまま手なり尾なりで精を吸い取られてしまうのだろうと覚悟を決める。


『『『んじゃ、出るか!』』』

『『『そうねぇ』』』

『『『は、はい・・・』』』


しかし、目の前まできた三人がそう言うと、赤、黄、緑が混ざり合い紫とも黒とも言えない煙の中からそいつは姿を現した。
日に焼けた肌に獣毛と爪を備えた手足、胴体には紫色の毒を滲ませる毒腺が模様を描き、顔は伏せ目がちながら瞳の奥に欲望を灯した厭らしい笑みを浮かべている。
臀部からはサソリの尾と棘の生えた尾の2本を垂らし、背中にはしっかりと蝙蝠の羽まで生えていた。


その姿は今まで見たどんな魔物とも違った。
強いて言うのであれば、合成獣である「マンティコア」に似ているが、その「マンティコア」すら身体を構成する一部でしかない。
まるで複数の魔物が掛け合わされたような・・・

そこまで考えて俺はあることを思い出した。
最近発見された比較的新しい魔物。


そいつ名は、「キマイラ」
15/01/09 22:49更新 / みな犬

■作者メッセージ
大百足さんの唯一にして最大の弱点、それはお尻がないこと。
つまり、ア○ルセッ○スができない。
大百足さんは絶対に○ナル弱い顔してるのに、何でアナ○セ○クスできないんだ!
大百足さんとア○ルセック○する方法はただ一つ、キマイラさんになってお尻をつけること。
初めての○ナル○ックスの快感に翻弄される大百足さんを三日三晩犯したい。
そんな思いが溢れた結果がこのSSだよ!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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