読切小説
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仔鳥の目覚め
大地を焦がさんばかりの日輪も鳴りを潜めた秋ごろの田舎道を、少年 内村ユウヤは、傍から見ればひどく怪しい挙動を見せながら帰途についていた。小さな袋を隠すように胸にかかえ、終始空を見上げながら、木陰、軒下、それらが見当たらぬ場合は店の中など、とにかく青空から身を隠せる場所から場所へと移動し、日の光の当たる場所は身をかがめて小走りになりながら、必死に家路を辿っていた。しかし、その険しい道のりも終盤を迎え、ついにゴールと自宅の扉に手をかけたときであった。
「ゆーうーやー!!」
いかなる喧騒をもかき消す甲高い声で、ユウヤはその名を呼ばれた。声の元は彼がこれでもかと言うほど恐れていた空。最後の最後で、ユウヤは彼女の目をかいくぐることが出来なかったのである。ユウヤは何度か同じような逃走劇を繰り広げているが、彼が勝利を手にしたことなど一度もない。せいぜい陸を走る程度の彼が、空を制する魔物ブラックハーピーを相手に逃げおおせる道理など、どこにもありはしなかった。
ブラックハーピーの少女 ロアエは、彼女の大声にユウヤがびくりと反応した隙を的確に突き彼の両肩に着地、そのまま仰向けに押し倒した。
「へへへ、のろまユウヤ!逃がすわけねえだろ」
当然ユウヤは必死にもがく。しかし、ロアエの強靭な両足に抗える力などただの人間たるユウヤには備わっていない。うごめく獲物をロアエは一瞥し、そして視線をなおもユウヤが抱える小さな袋に移す。
「おっ、これこれ!ほら、さっさと食おうぜ。冷めちまうよ」
「か、返してよ・・・!」
そんなユウヤの訴えに耳など貸さず、ロアエは鉤爪で袋を抱えるユウヤの腕を無造作に振り払い袋をぶんどった。そして、翼で器用にユウヤの家の扉を開けると、さも自宅であるかのごとくユウヤを引きずりながら中へと上がり込んでいってしまった。
鉤爪で木の床を踏み鳴らし、カチャカチャと独特の足音を乱暴に立てながら、ロアエはユウヤの部屋に辿りつくと、その中にユウヤを放り出す。そして先ほど奪った包みの中身を取り出し、部屋の中央のテーブルの上に置いた。現れたのは八個入りのタコ焼きであった。袋に封じられていたソースの匂いが部屋の中にじわじわと広がっていき、それを間近で感じたロアエは唾を飲み、腹を鳴らした。そして爪楊枝で一気に二つを突き刺すと、瞬く間に口の中に放り込む。ロアエの顔に輝くような笑みが広がった。
「ああうまい、やっぱりあの店のが一番上手い!おいユウヤ、寝てないでお前も食えよ」
「なんだよ、元々僕が買ったんじゃないか」
「男が細かいこと気にしてんじゃねー」
そう言うとロアエは無気力から放り出されたままになっていたユウヤを叩き起こし、すでに残り一つになっていたタコ焼きをユウヤの口に押し込んだ。ロアエが散々味わいながらあとの七つを食べていたせいで、すっかり冷め切ってしまっていた。
不機嫌極まるユウヤなど気にもせず、空腹を満たしたロアエは満足気に寝転がる。そして、次に彼女から発せられた言葉を、ユウヤは受け入れる気になれなかった。
「足りない」
ロアエが不意に呟く。ユウヤが驚いた顔でロアエを見つめる。
「今・・・今さんざん食べたじゃないか!」
「うるさい!足りないもんは足りないんだ。いいから早く買ってこいよ!」
見つかったときと同じ甲高い声で叫ばれ、ユウヤは思わずすくみあがった。そして渋々立ち上がり、近くにあるお気に入りの屋台へと足を進めた。

「はぁー・・・なんとかして逃げられないものかな」
大きな溜め息をつきながら、ユウヤはとぼとぼと屋台への道を歩く。
ロアエとの出会いはいつかの祭りの日だった。魔物というものを初めて見たユウヤは舞い上がり、露店で自分が一番好きなタコ焼きをロアエにプレゼントした。そしてそれが、ユウヤの間違いだった。ロアエに大いに気に入られたユウヤは、小遣いでタコ焼きを買うたびに彼女に大部分を奪い取られる日々を過ごすことになってしまったのだ。
ロアエのことを親に言ってみたりもした。しかし、あろうことか先手を越されていた。ユウヤの母親は彼女の名前を聞くなり
「知ってるわよ、あんたあんな可愛い子どこで見つけたの」
などと大喜びしていたのだ。どうやら二人ともロアエをユウヤの恋人か何かだと思っているらしい。
「冗談じゃない、あんな大食らいの泥棒カラスなんか!」
そこまで考えて、ユウヤは道の真ん中で叫んだ。通りの何人かの視線が何事かと集まってくるのに気付き、ユウヤはそそくさをその場を離れる。
その時、一冊の捨てられた本がユウヤの視界の端に映った。
「なんだろ?これ」
ユウヤはなんとなく拾い上げ、中を開く。
「これって・・・」

ユウヤが出発してから結構な時間が経った頃、ロアエは相変わらずユウヤの部屋で寝転がったまま不機嫌そうに窓の外を見つめていた。遅すぎる、のんびり歩いたとしてもこんなに時間はかからないはずだ。
「アイツ、逃げたな」
しかし自分はユウヤの家にいる。アイツが帰る場所はここしかないのだから、ここで待てばいい。頭ではそう分かっていたが、生憎ロアエはそれができるほど気長な性格ではなかった。待ちぼうけを食らったからには何が何でも見つけ出してありったけの不満をぶつけてやらなければ、たとえユウヤがタコ焼き100個買ってきたとしても気が晴れそうになかった。
「待ってろユウヤ!」
ロアエはジャンプして窓の外に飛び出すと、自慢の黒い翼を思いっきり羽ばたかせ急上昇する。高度を保ったまま地上を見下ろし、ユウヤの家から屋台に通じる道を虱潰しに探した。普段から山で暮らしているロアエは、上空から獲物を見つけることを何よりも得意としていた。そして例えそれが木陰に入ろうが、一度目に入ったものを見失うようなヘマは一度たりと犯していない。今回もその能力が存分に発揮され、ロアエはものの数分で物陰にたたずむユウヤの姿を捉えてみせた。
ロアエは音もなくユウヤの側に着地すると、大きく息を吸い込む。
「ゆーうーやー!!」
本日二度目の叫びをユウヤの耳にしかと流し込み、彼を見事なまでにとび上がらせた。
「ロ、ロアエ・・・」
ユウヤは読んでいた本を背中に隠すとロアエに向き直る。が、それを見逃すロアエではなかった。
「おい、何隠したんだ」
「な、なんでもな―」
ロアエが飛び立ち、ユウヤが言い終わる前に上空から体当たりをぶつける。ユウヤは成す術なく木の葉のように吹き飛ばされた。そしてユウヤが背中に隠していた本が共に宙を舞い、引き寄せられるようにロアエの元へ落ちると、ロアエはタコ焼きの催促などすっかり忘れ興味津々に本を開く。その瞬間、ロアエは思わず開いた本を放り投げた。
本の中では一組の男女が身に付けた衣服の一切を取り払い、互いの体を密着させて貪るようにまぐわい合っていた。女は男根を舐めまわし、男はその女の秘所に口付けを繰り返す。
何のことは無い、正真正銘のエロ本である。
ユウヤは絶望した。ロアエに対しての日頃の恨みつらみさえ全て吹き飛び、あらゆる思考が停止するほどの絶望だった。ロアエのことだ、自分が隠れてこんな本を読んでいた事実を嬉々として触れ回ることだろう。そうなれば、あらゆる人間から変態のレッテルを貼られ生きていくことになる。よしんば、ロアエが口を噤んだとしても、今度はそれをネタとして永遠に脅されるに違いない。何の希望もない。最も知られたくない隠し事を、最も知られてはならない人物に知られたしまった。
「ロアエ、頼むからこのことは・・・!」
吹き飛ばされたショックからなんとか立ち上がり、ユウヤは必死でロアエに秘密にするよう頼み込む。たとえどんな代償があるとしても、吹聴されるよりはマシと考えたのだ。
「お、お前・・・これ」
ところが、ロアエの様子はユウヤの予想とは異なるものだった。秘密を握った余裕はおろか、嘲笑する素振りさえ見せない。翼を胸の小刻みに震わせ、顔を真っ赤に染めながら驚愕の表情でユウヤを見つめていた。
「こ、子供が読んじゃダメな奴だぞ!何してんだよ!」
ロアエは混乱の中に怒りが混じった声で叫ぶ。
「バ・・・バカ!バカ!ユウヤのバカ!」
そのまま翼を大きく広げ空高く飛翔すると、ユウヤに背を向けて一目散に住処の山へ向かって飛び去っていった。あとに残されたユウヤはひどく動揺していた。ロアエが慌てふためく様子など見たことがない。それどころか想像すらしたことがなかった。あの傍若無人の権化とは無縁ものにさえ思えていた。
「と、とりあえず帰ろ・・・」
どうしていいか分からず、ユウヤはそのまま帰途につく。やがて日も暮れ、ロアエが放り投げたエロ本だけが風にページをめくられていた。

太陽が一日の役目を終えた数時間後、宵闇のなかをロアエが飛んでいた。夜の帳は黒く染まった彼女の身体を漆黒の中に包み、誰の目にも止まらぬように覆い隠してくれる。ロアエは生まれながらのこの恩恵に、今最も強く感謝していた。目指す場所は今日ユウヤを蹴り飛ばしたあの場所。
「もう持っていかれちまったかな・・・」
夜目を聞かせて道端をくまなく、そして遠慮がちに探す。幸か不幸か、ロアエの視力はこのときも素晴らしい効力を発揮し、目的の本はすぐに見つかった。そばに降り立ち、しげしげと眺める。ロアエは自分の顔が赤くなるのが分かった。
「や、やっぱりこんなの見ちゃ・・・」
耐えられずに目を逸らし、翼で顔を覆い隠す。しかし数秒もすれば気になり出してしまう。
「よ・・・よし!ちょっとだけ、ちょっとだけならいい・・・よな?」
チラチラと顔を覆った羽の隙間から本の中身をのぞき見る。ロアエの全く知らない世界が、目の前に広がっていた。再び目を逸らし、恐る恐るページをめくる。男女がまた違う体勢で互いを求めていた。
「これ・・・ユ、ユウヤとアタシでも出来るんだろうか・・・いやでもこんなことやったら・・・でもちょっとだけなら・・・そうだ、ちょっとだけだ・・・ちょっと見るくらいいいんだから、ちょっと試してみるくらい・・・」
ロアエは辺りをキョロキョロと見回した。人影が無いことを確認すると、足でしっかりと本を掴み、力の限り羽ばたいて出来る限り素早く上空へ飛翔する。そのまま本を落とさぬよう、また仲間のブラックハーピーにも見つからぬように細心の注意を払いながら住処へと帰っていった。

ロアエにあの現場を見られた翌日、ユウヤは自室で思い悩んでいた。昨日は弁解する暇もなく逃げられてしまったが、やはりどんな要求をされてもあんなことは秘密にしてもらわなければいけない。ユウヤはこの日初めて、自らロアエに会いたいと望んでいた。あの屋台でタコ焼きを買って、ロアエが目ざとくそれを見つける。そうなることを願うしかない。そう思って立ち上がったとき、ユウヤの部屋の窓がコンコンと鳴らされた。
「なんだ・・・うわっ!」
ユウヤが開けた窓から飛び込んできたのは、他ならぬロアエであった。彼女はそのままユウヤを凝視しながら部屋の中央で仁王立ちとなる。
「あの、昨日のことだけど・・・」
ユウヤはロアエの表情を伺いながら話を切り出す。しかし、彼女は再びユウヤの予想を超える動きを見せた。
やや紅潮した顔でユウヤを見つめた後、いきなり自らの服を取り払った。ユウヤの眼前に健康的で艶のある肌、小ぶりだがしっかりと存在感を持った二つの丘、そして両足の間にある一本の縦筋が飛び込んできた
「ちょ、ちょっと何を―」
ユウヤは面食らいあわてて目を逸らす。しかしロアエはそれを許さなかった。両翼でユウヤの顔を抑え、無理矢理自分の方へと向かせる。
「ほら・・・良く見ろ!男ってこうすると・・・チ、チンコがでかくなるんだろ・・・!?」
先ほどよりもさらに赤い顔になりながら、ロアエはユウヤに自分の裸体を見せ付ける。ユウヤにはもちろん、同じ年頃の女の子の裸を見た経験などない。それを至近距離で拝まされ、ロアエの言った通り小さなユウヤの分身は次第にその大きさを増していった。やがてズボンの上からでも分かるほど膨張すると、ロアエはユウヤを押し倒し、爪でユウヤの衣服の全てを取り払う。すると封印を解かれた分身はロアエの目の前で垂直にそそり立ち、雄の匂いを漂わせた。
「やっぱり・・・ユ、ユウヤはエッチな奴だな・・・!」
それを間近で感じたロアエの体が僅かに震える。弱い電流が全身を駆け抜け、彼女の秘所は彼女の気付かぬうちに蜜で溢れかえっていた。こんな興奮は、ロアエにとって生まれて初めてだった。
「へ、へへ・・・。じゃあ、後はこれを・・・」
ロアエが、押し倒したユウヤの上に跨った。

「わ・・・!ほ、本当に中で出てる・・・ッ!」
ロアエに深々と突き刺さったユウヤが子種を吐き出すのを中で感じると、ロアエの心は言い知れぬ幸福感で満たされた。それは魔物としての本能、男を捕まえ自分の虜にしたことへの達成感と同時に自分が男の虜となったことへの喜びだった。ロアエは搾り取るように小刻みに腰を動かし、ユウヤの味を自分の奥深くで存分に味わうと、名残惜しくも腰を持ち上げる。
ところが、それまで快感に打ち震えていたユウヤがロアエの顔に捕まえ自分の方に引き寄せた。
「えっ、ユウ―!」
そして二人の唇が重なり、ユウヤの舌がロアエの口に攻め入り蹂躙する。うごめく彼女の舌を絡めとり、唾液を救い上げてすすりとる。その一連の動きを受けてロアエの体は遂に絶頂へと押し上げられた。
「ん、んんぅ・・・――ッッ!!」
膣口からはさらに愛液が漏れだしてユウヤの体を濡らしていき、ロアエはビクビクと全身を痙攣させて押し寄せる快感の波に必死で耐え抜く。
「お、お前・・・何を―」
波も静まってきた頃、ロアエはやっとの思いでユウヤを引き離した
「ごめんロアエ・・・なんか、どうしてもこうしたくて・・・。今のロアエ、すっごく可愛くて」
ユウヤが伏し目がちにそう答えた。彼をまともに見られなくなったロアエは翼で顔を隠しながら、お返しとばかりにユウヤに乱暴に口付けをする。ほんの数秒間触れ合った後ロアエは離れ、そのまま脱ぎ捨てた服を着直し、押し入ってきた窓のそばに立つと、ユウヤに背を向けたまま口を開く。
「お前・・・変だぞ。アタシが可愛いなんていう奴、一人もいなかった」
それだけ言うと、ロアエは飛び立っていった。ユウヤがその刹那に見えた横顔は、また赤くなっていたように見えた。

ユウヤはとうとう、ロアエとの逃走劇で勝利を確信していた。先日は家の前までたどり着いたところで捕まえられたが、今日はその中に入ることに成功した。もう空を恐れる必要は無い、数ヶ月ぶりにタコ焼きを独り占めできるのだ。
そして、自室の扉を開けたユウヤはその確信が火に炙られる蝋の如く消えていくを感じた。目の前の黒い翼を持つ者は紛れもなくあのロアエではないか。見れば部屋の窓が開いている。昨夜閉め忘れてしまったらしい。ユウヤがロアエを見つめて袋を握り締めた。しかし
「いらねーよ」
ロアエの口からそう聞こえ、ユウヤは耳を疑った。ロアエはまた翼で顔を隠しながらか細い声で話し始める。
「いらないから、あの本みたいなこと・・・また、ユウヤとしたい。それから・・・」
ロアエの声がさらに小さくなったので、最後の言葉をユウヤはやっとの思いで聞き取った。

「また、可愛いって言って欲しい」
16/09/25 14:42更新 / fvo

■作者メッセージ
女の子から女になる瞬間は素晴らしいですが
男の子と出会って女の子になる瞬間というのも、また素晴らしいものだと思うのです

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