読切小説
[TOP]
ラウンダーズ?
 広いフロアがあった。床は丁寧に磨き上げられて飴色に輝き、そこに並べられたいくつもの円卓と椅子の群れも古いが手入れが行き届いている物が多い。
 最奥に上品なカウンターを備えた其処は酒場であった。あまり上品な酒場ではなく大衆が一日の疲れを癒す為にやって来るパブのような所であろう。無数の人魔が蠢き笑い合っている。
 魔物というヒトに似たヒトでない生物と、ヒトが共存する世界。魔物が生きる魔界の一角に酒場はあった。複雑な事情を内包する世界であっても、ここだけは何者にも縛られることの無い自由の世界だ。例え神であってもそれは侵せない。
 そんな酒場の中央、一つの円卓を囲む一行は皆魔物であった。四人の魔物達は酒を酌み交わしつつカードを交換している。握っているのは何処にでもあるトランプで、それは使い古されてよれよれに痛んでいた。
 「しかしまぁなんつうか、イマイチ四人じゃ盛り上がらねぇな。どっかから人引っ張ってくるか?」
 椅子に深く腰掛け、卓にのめり込むようにしてカードを見ていた魔物が言った。彼女の背丈は大きく、雄大な双角と筋肉を纏った頑強な体と艶めかしい肢体を有している。巨大な胸が半ば卓に置かれているような状態である。
 「そうだけど。一見さんを毟るのは可哀想だし、やめとかない? レイズ四枚ね」
 応えた女性は酷く小柄な女性であった。翼のように変形した腕に鳥のような手で器用にカードを握っている。傍らには小さなグラスと酒瓶が置かれており、その中身は殆ど空である。そして言いながら小振りな銅貨を放り投げた。
 「心にもないことをよく言う、まぁ私はどちらでも構わんが……。コールだ、ついでにレイズ三」
 銅貨が積み上げられる楽しげな音がした。銅貨を放ったのは特徴的な鱗や尾を持った女性で、机に巨大な剣を立てかけている。緩くつり上がった目と控えめな肢体は健康的な色気を有していた。
 「別にチップは何でもいいからアタシは嬉しいかも。コール、それとレイズ三枚」
 更に銅貨が積まれる、使い古されて鈍い光を放つようになった銅貨が数十枚が密かな存在感を放っている。コインを片手で弄びながらカードを暇そうに睨め付けている女性は、頭に特徴的な耳を有していた。二等辺三角形で先端は僅かに丸みを帯びている犬の耳だ。手足にも柔らかな獣毛を有しており僅かに覗く爪は銅貨よりずっと鈍い光を放つ。
 卓に座る魔物は入り口側の席から順にミノタウロス、ハーピー、リザードマン、ワーウルフという順で皆魔界ではポピュラーな魔物達である。特徴こそ違えど皆目麗しく、美しい容姿をしている。
 「別に今のメンバーでも構わんがね……コール。そろそろ良いだろう、ショウ・ダウンと行こう」
 「そうだな……ほれ、8とエースのツーペアだ」
 言ってリザードマンがカードを放った、あまりいい手でもないので投げやりである。
 「ま、これ以上積んでも良い手じゃないか……5のスリー・オブ・ア・カインドだよ」
 「ええー、降りてりゃよかったなぁ……3のスリー・オブ・ア・カインド……」
 「なんでみんなしてそんな馬鹿ツキしてるんだか……」
 ハーピーが手を広げ、ワーウルフは消沈したようにカードを投げ出して机に突っ伏す。それを見てリザードマンは呆れたように唸りを上げる、ここまでツかれると勝ちようが無かった。
 「それじゃあたしの勝ちかね、4と9のフルハウスだ。御馳走様っと」
 両腕で掻き抱くように散らばるコインを集め、中央にカードを放る。三枚の4と二枚の9が誇らしげに並べられている。
 「相変わらずだな……その豪運はどこから来るのやら」
 「運がなきゃ傭兵なんざやってらんないよ」
 コインを積み上げて勝ちを誇るミノタウロス、大きな胸が何とも形容しがたい擬音と共に揺れた。一瞬、平らな胸をしているハーピーがそれを羨ましげに見つめたが、直ぐに視線をカードのデックに移して誤魔化す。
 「じゃあ続ける? レートは普段通りで……」
 言い終えぬうちに扉が小さく開かれ、二つの影が酒場に入ってきた。どちらも大外套を着込んで目深に風防を被っているのでその用紙は伺えない。だが、この卓を囲む魔物達にはそれが直ぐに自分たちのカード仲間であることが分かった。身に纏っている魔力の波長が独特なのだ。
 「おうい、こっちこっち!」
 ワーウルフが立ち上がって手を振ると大外套の二人は席の合間を縫うように近寄ってくる。僅かに外套は湿っていた。
 「おりょ? 雨降ってんの?」
 「僅かにだがな。アオイ、何か強い酒を頼む、体が冷えてきた」
 「あいよ、しばしお待ちをお嬢」
 一人は奥のカウンターに向かっていく、手には革袋の財布が握られていた。そしてもう一人は大外套を脱ぎ捨て、その姿を顕わにした。
 長く艶やかなブロンドを後ろで束ね、しなやかな身に着込むのは細身の甲冑。甲冑には飾り気が無く無骨な造りで、細やかな傷が無数にあることから相当の戦場をくぐり抜けたことを物語っている。腰から下げるのは圧重ねの長剣であるが、これにもまた飾り気はなかった。
 ノーブルな面持ちの女性は普通の美女にしか見えないが、彼女もまた尋常の者ではなかった。剣を外し椅子に腰掛けようとした時、彼女の頭がぐらついて……落ちた。
 「おっと、いかんいかん……」
 首の断面は斬首に処された者のように赤くはなく、血も漏れない。黒く深い闇を湛えたそこから漏れ出てくるのは微量の魔力のみだ。机に転がる頭を掴み上げ、首に押しつけるように戻すと僅かに弄って位置を直した。
 「くすぐったいから固定具を外していたがどうにもいかんな。少し漏れた」
 彼女はデュラハンという若干希少な魔物であった。騎士の種族と言われており、戦いに長け、死ににくい体をしていることから戦士の一族としても知られている。体内に魔力をため込んでおり、それで活動できるのだが……首で蓋をしていて外れると漏れてしまうのだ。
 「別に良いだろ、アンタには相方がいるんだからよ……」
 「じゃ、邪推するなっ! あれは私の従者であってだなっ……」
 さもおかしそうに笑うミノタウルスと頬を染めて怒るデュラハン、しかしその顔には嫌悪のような物はなかった。
 「うーい、普通にラムでいいですよね。安いし」
 「まて、お前が手に持ってるウイスキーは何だ」
 戻ってきたアオイと呼ばれていた男は酒瓶を二つテーブルに置き、ローブを脱ぐ。そこにはどこか幼い顔立ちの男が居た。丁寧に結わえられた髪は黒く、瞳も同じように黒い事から男が極東人である事が伺える。共とは異なり、その腰には剣は帯びられておらず、かわりに小さなポーチが備えられていた。
 「これは共用財布じゃなくて自腹でさぁ。たまには良いお酒でも呑まなきゃ舌が退化しちまう」
 「……私にもちょっと寄越せ」
 「お断りしますっと……今日はスタッドですかい?」
 「ううん、フロップポーカーだよ。さっきまではクローズドだったけど人が増えたからそっちのがいいでしょ? アンティは銅貨二枚ね。マックスは銀貨一枚でミニマムは銅貨二枚だよ」
 アオイの問いにワーウルフの少女は楽しそうに答えた。そしてカードをかき集め器用にシャッフルする、あの手でどのようにしているのかアオイは不思議でならなかったが、あえて何も聞かない事にした。
 フロップポーカーとはポーカーの一種であり、場に五枚の札が表に置かれ、それをプレイヤー共通の手札として使う。そして、裏を向けて配られたプレイヤー個人の二枚の手札と組み合わせて役を作るポーカーである。
 時代が違う? 最近出来たルールだ? やかましい。
 アンティとは参加料の事を指し、マックスとミニマムは上乗せする掛け金の上限と下限を意味する。ポーカーは手札とこれらの駆け引きで行われる極めて繊細なゲームなのだ。
 「じゃあ一丁参加しやしょうかね……今日の手持ちはっと……」
 「良いこと思いついちゃった」
 ハーピーがにやりと笑った。何か含みのある邪悪な笑みである。
 「アオイくんはチップの払いが別ってどう?」
 「はい?」
 「銅貨一枚でキス一回〜、銀貨一枚で〜……にゅふふふふ……」
 不気味な笑みを浮かべるハーピー、その顔には暗い影のような物があった。
 「なっ、貴様何を勝手にっ」
 「ああ、良いなソレ。相方の言を借りると独り身らしいし……」
 「ああ、楽しそうだねぇ。受けて立つよ」
 「私は遠慮しておこう、現金で頼む」
 頬を赤らめてデュラハンが講義しようとしたが、それはミノタウロスに阻まれ、ワーウルフが完全にカットする。リザードマンは何処吹く風であるが賭を降りはしないそうだ。
 「じゃあアオイの分は終わったときに纏めて精算って事で別途勘定で行くか……この後に及んで逃げないよな?」
 「……いやぁ……稼ぎたいけど何か凄い熱気が……」
 「気にしない気にしない。さぁディールするよー」
 半ば当人の意志を無視しつつカードが配られた。ただしデュラハンは普段参加せず、役も知らないので不参加である。隣の相方に凄まじい視線を浴びせつつ、唇を軽く噛んでいた。
 「すんげぇプレッシャーが……」
 「好きにするがいいさスケコマシが……」
 恨み言を聞いてアオイが些か椅子を遠ざけた、額に汗が滲んでいる。
 「じゃあ次はコミュニティーカードね」
 五枚のカード、共有手札が配られる。これは強ければ強いほど有利であるが、それは相手も同じでありそれを如何に手札で補強するかが肝になる。そして、別に手札を遣わず卓の五枚を手札にしても良いのだ。
 配られたカードは1・4・7・7・9。スートは考慮されない事が多いので無視する。
 さて、当の苦境に立たされているアオイはというと、手札は6と8であった。後一歩でストレートという凄まじく惜しい手札である。爪を噛んでそれを悔やみつつ、考える。
 と、言っても今の手札では何も出来ない。最高役は7のワンペアだ。降りるのが無難であろう。
 全員がアンティを提出すると、まずミノタウルスがレイズを宣言したがアオイは早々にフォルドした。はったりでどうにか出来る手ではないし、チップが心許ない。
 「なんだよつまんねぇな。ま、キス二回ね……」
 呟いたミノタウルスは舌なめずりをし、アオイは背に汗が伝うのを感じた。どうにも今日はツキが悪い気がしたのだ。
 結果、この会を征したのはワーウルフであった。皆あまり良い手ではなかったのかチップは7枚止まりである。
 次のディール、共有札は3・3・4・5・6。アオイの手札は1と2、予感が外れたのかかなりツキが来ている。ストレートだ。
 アンティを提出しチップをベッドする、まずアオイは銅貨を三枚レイズした。充分勝負に出ていい役である。
 「コール。五枚レイズだ」
 リザードマンがコインを投げ出す。表情に変化はないが相当自信があるらしい、どこかそういう雰囲気を放っていた。
 ここではハーピーがフォルドし、他の二人はコールした。そして再びアオイのターンがやって来る。
 迷わずアオイは四枚レイズした。ここは押して構わない。
 次はミノタウロスがフォルドし、他の二人はコールする。ワーウルフは少し迷っているようにも見えた。
 勝てるか……?
 汗の雫が一つ落ちた。今のベッドは銅貨十四枚、つまり銀貨一枚と銅貨四枚。負けると何をされるか分からない値段だ。リザードマンにであれば助かるやもしれないが、やはりこの負けは少々痛い。
 だが、退いては勝てないのだ。この手でそうそう負けはしない。
 「レイズ、銀貨一だ」
 ミノタウロスが口笛を吹いた。
 「随分強気だね、じゃあ私はコールで」
 「……私はフォルドしよう」
 ここでリザードマンが降りた、手札を放り椅子に身を投げ出している。
 「……もうレイズは無しだ」
 「じゃあショウ・ダウンだね」
 アオイは自身満々にカードを送り出す。1・2・3・4・5のストレート、強さはまずまずであるが……
 「ストレートか……御免、フラッシュなんだよね」
 ワーウルフが開いた手札は共有札の物を選べば全てスートが同じ、ストレートより一つつよいフラッシュの役であった。
 「つっ……!」
 「これで勝ちが銀貨二枚と銅貨四枚ね。あ、お金は持っててね、精算はソッチでだから」
 「ぬぐぐ……」
 歯がみするアオイの隣でデュラハンが勝手にアオイの酒瓶を引っ掴みグラスに注いだ。そして一息に煽りもう一杯。完全に目が据わっていた。
 次のディール。二週するとカードが尽きるので集めて新しくシャッフルする。共有札は3・7・Q・Q・K。中々悪くないディールである。
 アオイの手は……なんとQとK。フルハウスでしかもかなり強い組み合わせである。これは押しても大丈夫だろうが……アオイははったりとしてゆっくりゲームを進める事にした。
 微妙な役であることを装いながらベッドの蓄積は銀貨三枚、銅貨四枚まで伸びていた。未だに誰も降りていない。
 そしてそろそろ誰もが終わりを感じた頃、アオイは勝負に出るべく一息に銀貨一枚をレイズした、目には自身の光が輝いている。
 「へぇ……いいカードみたいだね……コールだよ」
 「んー……そこまでなら降りるかね。ここいらが引き際かね……」
 「……私もフォルドだな」
 「ううん……じゃあ私もー。ここまできてちょっと勿体ない気もするけど、決まり手って程でも無いし……」
 強気なアオイに怯えたのかミノタウロス、リザードマン、ワーウルフがフォルドした。手を投げ捨て行く末を観戦する体勢に入っている。
 「……レイズは無しだ」
 「じゃあショウ・ダウンだね……」
 不敵に笑うハーピー。ここでアオイがまければ負債は銀貨五枚を越える。普通ならば一人暮らしの男が一月食っていける金である。
 「来いっ……」
 一枚一枚丁寧に札を出していく、場に出されるのはQとKのフルハウス。大抵は負けない役である。降りていた三人はやっぱり強かったかと嘆息する、三人の手は殆ど拮抗しており、アオイの手は頭一つ抜けていた。
 「へぇ、ついてるね。怖い怖い」
 「じゃあ独り寝をさせてくれるのか?」
 にっこりと笑ってハーピーが手札を開いた。アオイの目がスートと数字を追い……固まった。手札はQと……ジョーカーであった。
 「はい、フォー・オブ・ア・カインドね。私のかっちー! 晴れて負債が溜まってるから一晩オールコースでねっとりこって……」
 言葉の途中で大きな音が響いた。木製の何かが床に倒れる音だ。
 音の発生源は……デュラハンであった。どうやら椅子が倒れる程の勢いで立ち上がったらしく、下を向いた顔は髪で隠れて表情を伺う事は出来ない。おまけに、アオイが持ってきた酒はラムもウイスキーも空になっていた。
 「えっと……お嬢……?」
 アオイが顔を覗き込むと、岩のように固まってしまった。まるでメデューサにでも魅入られたようである。
 よほど恐ろしい物が展開されているのかと四人が溜飲を降ろすと……不意にデュラハンは懐から財布を取り出し、中身を卓に叩きつけた。
 それは三枚の光り輝く金貨であった。最高級の酒場で美女を何人も侍らせ、一晩中飲み続ける事が出来るほどの大金だ。
 「それで帳消しにしろ……」
 絞り出すような低い声、それを聞いて拒絶出来る物がどれほど居ようか……。皆一心に首を振り、椅子を僅かに退く。アオイは未だに固まったままであった。
 そして、デュラハンはそのアオイの首根っこを大外套や剣ごとつかみとり歩き出した。向かうのはカウンターである。
 「マスター、二階の部屋を借りるぞ」
 「一晩銅貨四枚ね」
 「後で払う」
 「ちょっ、痛い痛いっ! 首がもげるっ……!」
 無言で二階に続く階段に向かっていくデュラハン、この酒場の二階は宿屋になっているのだ。
 体の線が出るシャツを着て細いズボンを履いたサキュバスのバーテンダーは軽く笑ってグラスを磨く。
 そして、卓に取り残された四人は少し困ったようにコインを眺めている。
 「ちょっとからかい過ぎたかな……」
 「まぁそうだな……次からちょっと自重すっか」
 「あんまりやって恨まれてもね〜」
 「だから最初から止めておけばよかったのにな……」
 全員で嘆息し、コインを分ける。一応今のは結果が出たのでハーピーがコインを全て回収し、金貨は全員一枚ずつ懐にしまっておいた。後で返そうにもあのデュラハンはプライドが高いのできっと受け入れないだろう。
 「素直になりゃいいのにな、アイツも」
 「まぁそう言う性分なのだろう」
 笑いとも呆れとも付かぬ溜息が、誰かの口から零れた…………










 二階の宿、その一室は大して広い訳ではないが巨大なベッドが置かれていた。それだけで部屋が殆ど埋まっており、後は申し訳程度に机と鏡がかけてあるだけであった。
 デュラハンはアオイを引きずり込むと、ベッドの上に放り投げ後ろ手に鍵を閉める。その顔は未だに伏せられていた。
 「えっと……お嬢……?」
 「っただろう……」
 「はい……?」
 「私だけだと言っただろうっ!!」
 上げられた面に浮かぶのは憤怒の表情ではなく、つり上がった瞳は情けなく垂れ、潤んで涙が溢れそうになっている悲しみの色。唇はわなわなと震え、先端を僅かに噛んで何かを堪えようとしていた。
 「なのにお前は他の女にデレデレとっ……!」
 「おっ、お嬢っ!? 呑みす……」
 「黙れっ!」
 デュラハンはアオイに飛びかかると服を剥ぎに掛かる。いや、最早それは破いていると言って良かった、繊維が裂ける音が部屋に響き渡る。
 「お嬢ちょっとまっ……んぐっ……」
 剥きながらデュラハンは強引に唇を奪う。最初は唇に噛み付くように舐め、息が上がってアオイの口が開かれると素早く舌を差し込んだ。柔らかな舌が緊張に縮こまった舌を絡め取り、舐めしゃぶる。キスは徐々に激しくなり、最後には互いに貪るようになっていった。
 互いの口に舌を差し込んだり、差し込まれたりしつつ唾液を交換する。本来味の無い筈のそれは二人には煮詰めた蜜のように甘く感じられた。
 アオイの服が最後まで剥かれた辺りでデュラハンの首が傾ぎ、体から離れた。口は離れるのを拒むように互いに絡まり合うも、体はそのまま屈んでいた上体を持ち上げて自分の装束を剥がしていく。
 しかし、それも面倒なのか脱ぐのは腿当てと腰垂れ、そして下着だけで他は脱ごうとはしなかった。頑強な手甲に包まれた手で既に怒張したアオイの物を漉く、掌の部分は革で出来ているので痛くはない。取れた頭で口づけを交わし、残った体は丁寧にモノを扱いていく、それらは加速し、やがてアオイの呻きと共に止まった。
 荒い息をついて口が離れる、アオイは首が転がっていかないようにしっかりと首を掴んでやった。
 「お嬢……なんで急に……」
 「五月蠅い節操なし……誰彼構わず発情しおって……。その粗末なモノで好き勝手出来ないようにしてやろう……」
 首を失った体から手が伸びてきて首を奪い取る、その手には白濁した快楽の雫が付着している。
 「全く……なんて濃いモノを……けしからんな……」
 「いや、だってお嬢が構ってくれないから……」
 アオイを半ば無視し、掌に付いた雫を舐め取る。舌には苦みと僅かな酸味が伝わるが、それがこの上なく心地よかった。濃密な魔力が流れ込んでくる。その感覚にデュラハンは身悶えし、体を僅かにくねらせる。
 「お嬢……」
 「黙っていろ……私がしたいようにする……動くなよ……」
 仰向けになったアオイの体にデュラハンがのし掛かり、股の間にひっそりと息づく秘裂に一度達して僅かに硬度を落としたモノを近づける。そこは既にしとどに濡れそばり、透明な雫を涙のように零していた。
 「お前が悪いんだ……移り気なお前が……」
 ぶつぶつと呟きながら位置を直し、秘裂とモノが触れ合うとデュラハンはアオイの瞳を見つめ……
 「もう他所を見られないようにしてやる……」
 腰を落とした。一息にモノが呑み込まれ、肉と肉がぶつかり合う乾いた音が響いた。そして、それに重なるように漏れる二つの呻き。内部の肉が複雑に顫動しモノを貪る、そしてアオイの分身はそれに反応するが如く痙攣し硬度を増した。熱く硬いそれは今にも爆発せん勢いである。
 快楽に耐えるように体が丸められ……全くの不意に首が落ちた。急いでいたせいで固定具を身につけていなかったのだ。
 素早く反応したアオイはその首をキャッチする、目が軽く見開かれているので少し驚いたのであろう。そのまま見つめていると、デュラハンは色っぽい口を大きく開き、舌を付きだして挑発するように蠢かせた。
 「っ……!」
 アオイの何かが切れる、首を掻き抱き、舌を深く絡める。それと同時に腰の動きが再開される、背筋を反らせた体だけが激しく踊り汗が暗い部屋に舞った。
 ただひたすらに互いの情欲をぶつけ合い、快楽を貪る。そして貪られて穴が空いた所に愛情を流し込む、そんな複雑な情交をしつつ時は過ぎていく。
 一定のリズムで跳ねていた体の速度が上がり、アオイの腰が僅かに上がる。快楽に溜まりかねているのか脇腹と腹筋が僅かに波打っていた。鎧に隠れているがデュラハンも同じであろう。
 「お嬢っ……! 俺っ……もうっ……!」
 「良いぞ……! 出せっ……! 」
 「あっ、ああっ……!」
 アオイの腰が高々と持ち上げられ、デュラハンの背筋が限界まで伸びた。僅かに震える腰と甲冑が擦れ合う音が響く。脚甲に包まれた足はピンと伸ばされ、快楽を訴えるように震えている。
 やがて腰の震えが収まるとアオイの腰は降りていき、同時にデュラハンの体が倒れ込んだ。
 「ぐぇ……」
 「ああ……すまん……」
 おっくうそうに体が動いて隣に転がる、大きいベッドだから十分に余裕があった。
 「おい……頭……」
 「うぃ……」
 首を据え直し深く息を吸い込んで呼吸を整える、それでも大きな双丘を湛えた胸は中々落ち着かなかった。
 「……その……なんだ……すまんな…………強引にして……」
 「あー、いや……別に……」
 「運動してちょっと酔いが覚めた……お前に落ち度はなかったな……負けた事以外」
 「ぐはっ……」
 苦しそうな縁起をするアオイを見てデュラハンは少しだけ笑って汗で湿った髪を掻き上げた。汗の玉が滲んだ顔はどこか清々しそうである。
 「今度教えろ……」
 「はい……?」
 がばりと起きあがり続ける。
 「ポーカーを私に教えろ。そうすればお前が負けても私が取り返せるからな」
 「……それって結果的に俺は絞られるんじゃ……」
 「不満か?」
 優しげな相方の笑みを見てアオイははにかんでみせた。
 「いいえ……」
 小さな笑いが部屋に響いた。それは、とても幸せそうな物であった…………










 数日後、同じ酒場に同じメンバーで集まりカードを囲んでいた。結果はと言うと……
 「ぬぐぐぐぐ……」
 デュラハンの手元に置かれた財布は随分とやせ細り、他のメンバーは沢山のコインを傍らに積んでいた。
 「だからもうちょっと駆け引きってやつを……」
 「うるさいっ!」
 カードを抱えるように持ち、今にも泣き出しそうなデュラハンを見てアオイは困ったように笑った。
 「相方の負けを取り戻すのも俺の務めかね……」
 メンバー全員が大きく笑い、更にデュラハンは小さくなった……。
 その後、アオイはそこそこの金額を奪還するのだが、八つ当たり気味に搾り取られたことを記しておく…………
10/09/16 03:44更新 / 霧崎

■作者メッセージ
 と言うわけでデュラハンさん短編。え? 普段と作風が違う? お前誰だって? たまにはアマアマでもいいじゃない。

 多分次は魔となった人で、その後にサイクロプスさん短編いくと思います。良かったら気長に待っててやってください。

 感想、更正などありましたらお待ちしております。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33