連載小説
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幼女の街の防衛とその後
月が照らす草原を、夜風がざあざあと音を立てて撫でてゆきます。
そんな開けた場所で対峙しているのは、既に魔法幼女へと変身した私を先頭としたキュレプップの魔法部隊と、マオルヴルフの皆さまです。

「貴方達の計画は、全てバレています!おとなしく投降して頂ければ、私達も貴方達の事を悪いようにはしませんっ」

ハーメル様の情報によれば、彼らはハーメル様の力で警備を手薄にした一点(これがそもそも嘘で、警備が薄くなっている場所など存在しないのですが)から、闇に紛れて一気にキュレポップ市内に侵入。キュレポップの幼女達を人質に、フラヴァリエそのものに対して多額の身代金を要求するという手筈となっていたそうです。
魔物国家を相手取ろうとしている以上、多少の装備はしているようですが……そもそもが強襲目的であり、正面から魔物とぶつかって勝てるような装備をしているようには見えません。
相手の組織の成り立ちを知っているとなれば、猶更です。恐らくは、まともに訓練を受けている人など殆どいないでしょう。

「……魔物に飼われるくらいなら、まだあの屑共に飼われる事を選ぶさ……!」
「ああ、そうだそうだ――!」
「今回のゴトが成功すれば、俺達は自由になれる筈なんだ……!」

ですが……流石は、ミリア様のお兄様が優先的に潰さねばならないと危惧している巨大犯罪組織といった所でしょうか。キュレポップの街一つを押さえる気で送り込まれたその人数はかなりのもの。
ここまで人数が多くなっては……そして、彼らがどのような経緯で組織に縛られているかを考えれば。大人しく投降して頂くのは、やはり難しい話だと言わざるを得ないでしょう。
私は背後に控える仲間達に、指示を送ります。

「……仕方がありません。キュレポップ魔法部隊、全員、構えっ――!」
「待て」

そんな私の号令は、敵の戦闘に立つ男の声によって遮られました。

「こちらには、既に人質がいる」
「……っ!?」

彼らの中では比較的地位が高いらしい男の言葉に、キュレポップの人員を中心とした私たちの部隊にざわめきが走ります。
私以外のここにいる人員は、ハーメル様がスパイとして彼らに潜り込んでいた事を知りません。そんな彼女達に、私とウィルは声を張り上げます。

「皆さん、落ち着いて下さいっ」
『そーそー。証拠が無いし、本当かどうかも分かんないんだしさー?』
「……証拠か。今、見せてやろう」

私とウィルの反論に、男は映像投影用の魔道具である水晶を取り出しました。
一体、どんな映像が映し出されるのかと。双方の集団が、事の成り行きに神経を極限まで尖らせていました。

その時です。


「――ふはっ、ふはははははっ……!!」


あまりにも。
あまりにも聞き覚えのある、高らかな哄笑が周囲に響き渡りました。

「ふははっ、どうしたことだ。こんな街外れから、愛しの幼女達の気配がするではないか……!?」

その場にいる全員の視線が、声の聞こえてきた方向へと集まります。
目元を隠す白いマスク。マントを靡かせ、社交界に向かう正装の貴族のようなその出で立ち。
周囲でも一際高い木の天辺。満月を背に魔法石が埋め込まれたステッキを振るい、役者がかった大仰な仕草を見せるその影は、見まごう事無く――

「怪人、ロリコーンっ……!?」

今度は双方から。何故怪人ロリコーンがここに居るのかと、新たなざわめきが起こりました。
そんな両陣営の視線を受けながら、軽く跳躍したロリコーンは風を纏い――ふわりと、音も無く私の目の前へと降り立ちます。

「っ、な、なら、人質は……!?」

突然の出来事からようやく我を取り戻した男が、慌てたように手にした水晶を操作します。
果たして――水晶から、虚空に映し出されたのは。

『やっほー♪みんな、そっちはどんな感じーっ!?』

死屍累々と横たわる男達を背後に無邪気な笑みを浮かべる……我らがキュレポップの長の姿でした。





―――――――――――――――――――




遡る事、数時間前。

「おや、もうそろそろ部隊がフラヴァリエに到着する頃でしょうか」
「……そうか」

我慢していた。
ずっと、我慢していた。

「ああ、万が一ですが、私達を裏切っている場合も動かない方が身の為ですよ?その場合でも貴方には人質としての価値があるのですから――……おや?」

ハーメル・ウェーバーならば。商会を率い、数々の交渉と商談の場に立っている彼ならば。どんな状況においてもそれを相手に見せる事無く欺き続けるなど、お手の物なのだろう。
だが、『彼』は違った。だから、本当に助かった。この役割に余裕のあるハーメルが、余裕の持てない自分の、素に近い印象をこの組織に対して演じてくれていて。

「……言っている意味がご理解頂けていない様ですが……?あまり我々に手荒な方法を取らせないで下さい」

手錠がかかった腕を静かに胸の高さまで上げたロリコーンの衣装を纏ったその男に、周りの男達が一斉に武器を突きつける。

「心遣い、痛み入る。だが――」

パキン、と。
あまりにもその音が軽すぎて。
あまりにもその行為が、軽々と行われ過ぎて。
周囲の人間は、目の前の現実を理解することに、一拍の時間が必要だった。

「……既に、我慢の限界だ」

彼の両腕の戒めは――既に解かれていた。

「……は?」

一体何が起こったのかと、男達の間にざわめきが広がる。何らかの方法で手錠を解除したのではない。その両手首には未だ鉄の輪が嵌められたままであり……破壊されているのは、それを繋ぐ鎖の部分。そこが何か恐ろしい程に巨大な力で破断してしまったかのように、ぷっつりと途切れているのだ。
つまり、現状を鑑みるに。先程目の前で起こった出来事をありのまま受け止めると、このような結論を出すほかないという事になる。

この男は、己の腕力のみを使って。
その手にかけられていた、鋼鉄の鎖を引きちぎった。

「な、なっ……!?」

余裕を露わにしていた身なりのよい男の、それまでの様子は一瞬で吹き飛んでしまった。
馬鹿な。確かにハーメルが魔術の天才だという話は有名な事だが――腕力に至ってまでここまでの化け物だなどという話は、聞いた事が無い!
そんな面々を他所に、ロリコーンの衣装を纏った男はそのマスクに手をかけた。周囲にかけられていた認識阻害の効果が解け、それによって髪の色が金髪から彼本来の黒髪へと変化してゆく。
やがて、そのマスクの裏から現われた素顔は……ハーメルとは似ても似つかない、東洋系のもの。
ハーメルに、認識阻害の仮面を渡していたもう一つの理由。それは最後の最後、まさに敵がこのような手段を取ってくる兆候が感じられた場合に、怪人ロリコーンの中身を『入れ替える』為。

「きっ、貴様は……!!?」

身なりの良い男をはじめ、取り囲む周囲からも、その顔に見覚えのある男達の驚きの声が上がった。
そう、知らない筈がない。自分達がたった今陥れようとしている国における、最重要注意人物の事を。
かつては教団の傭兵として魔王城に挑みながらも、とある魔王の娘に誑かされた事によって反旗を翻し、教団の軍に数々の大損害を与えた男。
名だたる高位の魔物達をその側に囲い。さらにはおぞましくも自らを打ち取る為に向かわされた一人の勇者すら魔物に変え、その元に侍らせているという噂すらある。
協会の定める、邪悪の中の邪悪。
異端者中の、異端者。

その男が虚空に向けて、呟く。

「……ミリア。私はここだ」

そしてその魔物は現れた。

「はーいっ♪」
「っ!?」

本当に、掛け値無しに何の前触れもなく現れた。まるで絵本のページとページの間にある出来事を、誰も認識する事が出来ない様に。気が付けば男の首には山羊の角を持つ、幼い姿の魔獣が抱き着くような形でぶら下がっていた。
その魔物の事は、そうして抱き着かれている男の存在以上にこの場の誰も彼もが知っていた。
キュレポップという巨大なサバトを治める、強大なバフォメットの名を。

「お兄ちゃん、性格的にこういう役割苦手そうなのによく我慢したねー。えらいえらいっ♪」
「……それは、こちらの台詞だ」

眼光鋭い黒髪の男の頭を、場違いな程に無邪気な魔獣の手がぽふっぽふっと撫でた。
男はそんなバフォメットを一度自らの腕で抱き上げると、その大きな目と視線の高さを合わせる。

「……本当ならば。誰よりも、真っ先にこの者達を打ちのめしに行きたかったのは……お前だっただろう」
「……んー、お兄ちゃんとお姉ちゃん達がキュレポップに集まって見回っててくれたひ、ミリアはお兄ちゃんが思ってるほどはピリピリしてなかったよ。……でも、ありがとう。心配してくれて♪」

えへへ、とはにかみながら。男にそう言って、ミリアはその足を地に着ける。
そうして二人の視線は再び周囲を取り巻く男達へと向けられた。自分達の作った国を、街を、標的にしようとした者達。男はおろか、ミリアまでもが珍しくその瞳に不快を色濃く滲ませ、男達を睨みつけていた。
ミリアはその腕を頭上に伸ばす。すると、僅かな空間の歪みと共に二振りの得物がその手の内に握られた。
一本は、男の得物である、鞘に収められた刀。もう一本は、ミリアの愛用の武器である大鎌。

「お……お前達、何をぼうっとしているのですか!?どれだけ悪名高かろうと相手はたかだか二人です!三十からいる貴方達の敵では……――!?」

何事かを叫んでいた身なりの良い男は、無造作にミリアが放った小さな雷の槍によって吹き飛ばされ。そのまま壁に激突し、目を回して意識を失ってしまった。
唇を半月のようににんまりと歪め。魔界最強種の魔獣は、彼女の『お兄ちゃん』へ向かい、楽しそうに言う。

「聞いた、お兄ちゃん?三十人だって」
「……ああ」

非武装の者達を含めても、その倍もいないだろう。

ならば足りない。
呆れてしまう程に。
桁が、足りない。

「――ミリアとお兄ちゃんを相手にする気なら、三千人くらいは用意しておかないと……♪」
「ひっ……!?」

その言葉を聞いた、全員が総毛立った。
小さな愛らしい体躯の魔獣。その桜色の唇から発せられた、鈴の鳴るような声。
だというのに――何故。自分達は、これ程までに、底冷えするような威圧感を感じているのか。

「……ミリア。帰ったら、何が食べたい」

背中合わせに得物を構え、男は背中越しに小さな妻へと問いかける。

「ゴブリン亭のハンバーグと、トリコロミールの山盛りパフェっ!」
「……分かった」

ならばすぐに片付けよう。
そうしてあの、自分達の国へ帰ろう。


二人は、同時に駆け出した。
そうして、全てが片付くまでにかかった時間は――本当に、僅かなものだった。





――――――――――――――――――――





「っ!?何がどうなっている……!?」
「え、何でこのタイミングで怪人ロリコーンが……?」

怪人ロリコーンの登場によって騒然とし始めた二つの集団の間で。私は空から降りてきた愛しい殿方の背中へと声をかけました。

「怪人、ロリコーン……っ!!まさか貴方まで、マオルヴルフの仲間だったのですかっ!?」
『騒ぎは起こすけど、本当の悪人じゃないと思ってたのにっ……!』

スパイの任務というものは、それが例え全てを終えた後だったとしても。大衆に知られるべき事ではありません。ハーメル様の活動は、本来ならば私にも知らされるべきでは無かった事です。それを私に知らせる事が許可されたのは、ひとえに私達とハーメル様の関係を考慮しての、上の方々の判断あっての事。
だから、今ここで私達がハーメル様の名前を出す事は出来ません。なるべくワザとらしくならないように気をつけながら、白々しくも驚いたようにそんな台詞を言って。その代わりに念話を使って、ハーメル様に本当の気持ちを伝えます。

――お久しぶりですハーメル様。お会いしたかったです。

「ふはっ、フハハハ……!勘違いするな、我が宿敵ラブリー☆ウィッチよ!これがどのような状況かは把握している。そして我は幼女を愛せし者、故にこの者らを許せぬのは私とて同じ……!」

――ああ、久しぶりだね。……君達には、いろいろと心配をかけてしまった……本当に、すまない。

ハーメル様も、芝居がかった口調で怪人ロリコーンとしての台詞を読み上げながら。念話では飾らない口調で……その瞳にはどこか、申し訳なさそうな色が浮かんでいました。

「む、それは本当ですか?……では、一つ提案があるのですが」

――気にしないで下さい。……あの、実は、後で話したい事があるんです。出来れば、誰も居ない所で。

「ふはっ、奇遇だな。実は私も貴様に一つ提案があるのだ。では――」

――ああ、僕もなんだ。でも、その前に……

共に並び立ち、私はラブリー☆ステッキを。ハーメル様は、魔法石で飾られた杖を。それぞれびしぃっ!と敵に向かって突きつけます。

「ええ、ここは共同戦線といきましょう……!」
「ふははっ、良かろうっ!」

――はいっ。まずはこの人達を倒しちゃいましょうっ!
――うん、そうしようか。

昨今の幼女向け演劇における王道、『敵勢力との共闘』。
それが目の前で実際に起こっているのを見てしまった後方の魔法部隊から、大きな歓声が沸き起こりました。

『ハーメ……ごほんごほん。怪盗ロリコーンも居るんだー。すごーい、偶然だねー!あ、こっちの人質はミリアとお兄ちゃんで何とかしたから、後は皆の好きなようにやっちゃっていいよー?』

さらに続けられた(どことなく棒読み気味な)ミリア様のセリフに『流石はミリア様っ!』と、我らがキュレポップ所属の幼女達のボルテージは既にMAX状態で……あー、もう号令も必要そうにありませんね、これ。
その歓声を背に受けながら、私とハーメル様は共に夜空に舞い上がります。
敵の頭上へと幾十もの炎の玉や雷の槍を落としながら、不規則な軌道を二人絡め合うように飛び回り。それでも追いすがってくる矢を、風や水の盾で薙ぎ払うように払い落とします。

「あら、初めての共闘の割には意外に息が合いますね?」
「フハハ、当然だ。私と貴様が幾度戦ったと思っている!?」

満月を背に、演技がかった声で。くすくすと笑いながら夜空を駆ける私達。戦いの最中だというのに、まるであの日のデートの続きのよう。
軍のようなきっちりとした指揮系統も存在していなかったらしい眼下の敵の皆様は、もはや統制も取れず、まるで集団としての態を為していません。
そんな状態で、士気の上がりきっているキュレポップの精鋭達とまともな勝負になる筈も無く――半刻にも満たない時間で、この戦いは幕を閉じたのでした。




――――――――――――――――――――





「――この部屋。窓が少し高くなっているから、気を付けてね」
「はっ、はいっ!」

無事にマオルヴルフの皆さまの身柄を確保した私達は、『ふはは、では私はこれにて失礼させて頂こう……!』『あっ、待ちなさいロリコーンっ!』という三文芝居を経て、当初の目的通りに二人きり(三人ですが)になる事に成功しました。
ここはハーメル様がロリコーンとして活動する時に利用しているというホテルの一室。以外にもその場所はキュレポップの街の中心にほど近く……っていうか、一等地ですよねここ!?
……しかもこのお部屋、いわゆるスウィートという分類に属するタイプのお部屋ではありませんでしょうか。ベッドはラミアさんが五人程寝ころんでも余裕がありそうな大きさの天蓋付きキングサイズですし、決して主張は激しくなく、それでいて適度な可愛らしさも合わせ持つインテリアの数々は、自分がお姫様か何かになってしまったような錯覚すら覚えてしまいます。

「す、すごい……」
『マ、マスター……ここ、魔王様も泊まったっていう、キュレポップで一番高いホテルだよ……!?』
「良く知ってるねウィルマ君。アゼレア様がここならセキュリティもしっかりしているから……という事で、しばらく貸し切ってくれていたんだ」

目元を隠していた白いマスクを外し、いつもの縁なしメガネをかけたハーメル様が、私達の反応に微笑ましげに笑います。
認識阻害の解けたその姿と香りは、紛れもなく私達が恋焦がれて止まない殿方のもの。このお部屋の内装と相まって、どこかの国の王子様のように見えてしまいます。

「喉、乾いてるよね?そこのソファに座って少し待っててくれるかな」
「は、はいっ」

魔力式冷蔵セラーの中から一本のボトルを取り出し、慣れた手つきでポンッ!とその封を開けるハーメル様。
あ、あのラベルは……キュレポップ名産シャンメリー『こどものシャンパンpremium』っ!?サテュロスさん達完全監修の元、陶酔の果実を使用した、少し背伸びしたい年頃の幼女にも安心のノンアルコール飲料、その最高級グレード品です……!

「はい、リュガ君。ウィルマ君も」
「あ、ありがとうございますっ」

私は通常のシャンパングラス。私が未だ魔法幼女としての変身を解いていないため、人形サイズのままのウィルはフェアリーやピクシーさん用の小さなグラスを受け取ります。
その隣に腰かけるハーメル様。……うう、私の心臓の音が、聞こえてしまうのではないかというくらいに早鐘を打っています。感覚を共有しているウィルも、どうやらそれは同じ様子で。

「それじゃ、乾杯しようか」
「は、はいっ!」

隣に腰かけたハーメル様と三人でちんっ、とグラスを合わせ、静かにグラスを傾けます。緊張で火照った身体に、冷たいシャンメリ―の爽やかな味わいと、炭酸がとても心地良くて……心地良過ぎて。自分が今、どれだけ顔を真っ赤にしているかを、否が応にも自覚してしまいます。

『マ、マスター、何か話しかけないと……』
(わ、分かっています!分かって、いるのですが……)

続く沈黙に、耳元でウィルが私に囁いてきました。
いつもマイペースなウィルも、流石にこの空気ではいつもの様にはいかないのでしょうか。私の肩の上で、まるで借りてきた猫のように大人しくなってしまっています。
そんな沈黙を破ったのは、ハーメル様からぽつりと呟くように零れた一言でした。

「……すまなかった」
『「え……?」』

その言葉に、ハーメル様と振り返った私達が見たそれは……いつも穏やかな笑みを浮かべているハーメル様の、初めて見る表情でした。

「……ミリア君から聞いたんだ。二人が、赤く泣き腫らした目で帰ってきた、って」

普段の様子とは、真逆。俯いた顔の額には深い悔恨の皺が刻まれ、唇をきゅっと結んだその表情。

「僕が、最初から静かな場所を食事に選んで、もっと二人に早く真実を知らせていれば……いや、あの場でだって、もっと上手く誤魔化せる方法があった筈なんだ」
「ハーメル、様……」

私達の放った雷の槍を遮りに現れた、あの時。マスクと深く被った帽子で、表情を伺う事は出来ませんでしたが……ひょっとすると、あの時も、こんな表情をしていたのでしょうか。
ハーメル様はキュレポップの幼女達の笑顔の為、常に陰日向で行動して下さっている、心優しいお方です。思えば、怪盗ロリコーンとしてのあの芝居がかった大仰な立ち振る舞いも、この街の幼女達の愉快な敵役に徹しようと努めていたが故なのでしょう。実際、ロリコーンに立ち向かおうとする幼女はいても、心底から彼を怖がっていた幼女というものは、見たことがありません。
そうして、ロリコーンが現れた翌日に、よく私達を訪ねてきてくれたのも……そんな彼を取り逃がした事で、私達が落ち込んでいないかと、心配しての事だったのでしょう。

「……顔を上げて下さい、ハーメル様」

その頬に手をそっと添えてハーメル様の顔をこちらに向け、目線を合わせます。
何も謝る事なんてありません。そんな想いを、いっぱいの笑顔に込めて。

「大丈夫です。ハーメル様は、何も悪くなんてありません」
「……でも」
「くすっ。ハーメル様、知らなかったんですか?」

尚も続けようとするハーメル様の言葉を、遮ります。

「怪人ロリコーンの宿敵、魔法幼女ラブリー☆ウイッチは――そんな事気にも留めないくらいに、とっても強いんですよ?」

そんな私の言葉に、ハーメル様はきょとんと目を丸くして……一拍遅れて、ようやくその顔に笑顔が戻りました。

「ふふっ……うん、そうだ。そうだったね。――ありがとう、リュガ君」
『にひひ、マスターが変身の名乗り以外で自分の事を魔法幼女って言ったの、初めて聞いたかも♪』
「もうっ、うるさいですよウィルっ」

そんなハーメル様につられて、ウィルもいつもの調子を取り戻したようでした。……うん、やっぱりウィルはこうでないと。私も調子が狂ってしまいます。
そんな私達に、ハーメル様は一度大きく深呼吸をすると……私の手を取り、真剣な口調で切り出しました。

「――リュガ君、ウィルマ君。実、あの日話をしたかったのは……ロリコーンの正体についてだけでは、ないんだ」
『「……はい」』

次に続く言葉も、それに返ってくる言葉も。きっと、お互いに分かっています。
ハーメル様は、アゼレア様から。私達は、ミリア様から。その事を、すでに聞いている筈なのですから。
なのに――何故、こんなにも胸が高鳴るのでしょう。ほんの少しの不安と、大きな期待がミックスされた感情。私達以外の全てが、意識から完全に外れてしまったような感覚。
私達の視界に映るのは、ハーメル様のお姿のみ。


「二人に……僕の、妹になって欲しい」


『「――っ、はいっ!」』

返事と同時に。気が付けば、私達はハーメル様の大きな胸元に飛び込んでいました。
そんな私達を、ハーメル様の腕が力強く抱き返してくれます。

「あはっ、ハーメル様ぁ……っ♪」

頬をすりすりとその身体に擦り付け、その甘い香りを胸いっぱいに吸い込めば、それだけで思考すらとろけてしまいそう。先程の、陶酔の果実から作ったシャンメリ―も効いてきているのかもしれません。
さらに、顔を上げれば。そこには私と同じように、陶酔したような目付きの、『お兄様』の姿。

そうして、互いに惹かれ合う様に。
私達の唇が、自然に重なる――

『……じとーーーーーーーっ』
「――はっ!?」

寸前で、そんな私をじっとりとした視線(声による効果音付き)で追っているウィルに気が付きました。
あ、あああああああああっ!?そういえば変身しっぱなしなので、ウィルがずっと人形サイズのままなのを忘れていましたっ!?

「ご、ごめんなさいウィルっ!?い、今変身を解きますからっ……!」
『……ぷっ、あははははっ!いいってマスター、冗談だよ』

慌てる私が、余程おかしかったのでしょうか。ぶすっと頬を膨らませていた表情から一転、お腹を押さえて私の肩の上で転げまわっています。

『……たまには使い魔らしく、最初はマスターに譲ってあげるよ。マスターも、初めては変身したままでしてみたいでしょ?』

魔女が使い魔のファミリアの力を借りて行う、魔法幼女への変身。それによって上昇するのは、純粋な戦闘能力のみに留まりません。
魔法幼女が纏うのは、サバトそのものの力。己をより無邪気に、より愛らしく見せ、それによって全てを魅了する力。変身した私を見た途端に街の皆のテンションが上がるのも、この力の影響を少なからず受けているからなのです。
そんな、自分が一番魅力的に見えているであろう状態でハーメル様に抱いて頂きたいのは、勿論なのですが――

「で、でも……」
『もー、私がいいって言ってるんだからさー。……そ・れ・に♪』
「ひゃっ!?」

ウィルが私の肩から飛び降り、私の手を取ったままの、ハーメル様の腕に自らの小さな体を擦り付けると……私の身体に、まるで見えない誰かに身体を撫でられたかのような、ぞわっとする快感が流れました。思わず、声を、漏らしてしまいます。

『えへへ、今のマスターと私は感覚を共有してるんだし♪』
「っ、もうっ、うぃる……っ――!?」

ウィルへのそんなたしなめを、私は最後まで続ける事が出来ませんでした。
気が付いた時には、私の身体はハーメル様の腕の中でぎゅっと抱きすくめられ。唇は、ハーメル様のそれで完全に塞がれていたのですから。

「んっ、ふ、ぅ…………っ♥」

一度唇が離れ、再び互いの顔が視認できる距離に。ハーメル様の瞳は熱に浮かされたようで、瞳には隠しきれない獣欲が宿っています。その瞳映っているのは、ルビーのような赤い瞳に、腰まで伸びた輝くような金髪とフリルいっぱいの衣装の……まごう事無き、私の姿。その事が、まるで夢のように嬉しくて。
かすかに、私の肩を掴んでいるハーメル様の腕に力が込められます。言外の最終確認のように。

「んっ……♥」

もはやここに至っては、もはや肯定の言葉を発する事すら野暮な事に思えて……私は黙って、今度は自らハーメル様に口付ける事で恭順の意志を示しました。

「んっ、ちゅっ……ぁ……っ♥」

再び、ハーメル様の腕の中で強く抱きしめられ。互いの舌の先を、つんつんと軽く触れ合わせるような大人のキス。
甘くとろけるようなハーメル様の味が口の中に広がると共に、ふりふりとしたスカートの中でハーメル様の掌が私の太ももを撫でまわします。さわさわと内股を足の付け根まで指の先を使って撫で上げられ……デリケートゾーンに達する手前でぴたりとその手が止まり。ショーツ越しに、ふにふにとお尻の感触を楽しむようにその指が踊り始めます。

「ふ、ん……んんんん……っ♥♥」
『っ、ハーメルっ、手つきがえっち過ぎるよぉ……っ♪』

口が塞がり、言葉を発せない私に変わって。私と感覚を共有し、切なげにハーメル様の腕に自分の身体を擦り付けているウィルの口から、ハチミツをかけたように甘く蕩けた声が上がります。

『「っ………♥♥」』

そうして、とうとうハーメル様の指は下着の中にまで侵入してきました。
スカートの中からくぐもった水音が聞こえ始めると共に、ぴっちりととした下着に押し付けられたハーメル様の指の腹で、私の身体の中で最も敏感な場所がくにくにと弄ばれます。その度に、私の頭の中には意識全部が真っ白になってしまいそうな電流が走って。
しかも、その指の動きは。明らかに、私がどうすればより感じるのかを探りつつ、それを的確に実践してきていて……っ!っだ、駄目ですっ、指二本で、クリトリスをにゅるにゅるするのは、ほんとに、駄目で……っ!?

「ふぁ、ぁぁぁ…………っ♥」
『っ、あ、それ、ヤバ……っ♪』

そうして、私達二人は――愛しいハーメル様の香りを、胸いっぱいに吸い込んだまま。同時に絶頂を迎えてしまいました。
ふわふわと波間を漂っているかのように押し寄せる快感。頭の中はぽーっとして、ただひたすらに幸せで……そんな私の額に、ちゅ、とハーメル様が優しいキスを降らせます。
うっすらと目を開ければ。そこにはそんな私を愛おしさと獣欲の入り混じった瞳で見つめる、ハーメル様の姿。その視線に再び私の胸は高鳴り、下腹部に切ない疼きが走りました。
そうして……とうとう。ハーメル様の手が、私のスカートに伸び――

「……リュガ君。このスカートの端、咥えててくれるかな」
「……は、はぃ……っ♥」

ラブリー☆ウィッチの衣装はワンピースタイプ。スカートの端を口元までたくし上げられ、清楚な下着を纏った私の胸元までが完全にハーメル様の眼前に晒されてしまっています。
じ、実はこのブラジャーがフロントホック式なのにも理由がありまして、『せっかく魔法幼女の姿でする事になった時、着衣要素を減らしちゃうのは邪道だよ!』と豪語するウィルが、胸を露出させた後も完全にはブラジャーを脱がせなくてなくてもいいという理由で……って、あああ、そんな事を言っている間に、あっという間にハーメル様にホックを外されてしまいましたっ!?

「……はむっ、ちゅ……」
「っ、ぁ…………っ♥」

微かに息を荒げたハーメル様が、私のぷっくりと膨らんだピンク色の先端を口に含み。その片手で包み込まれてしまったもう一方と合わせて、両乳首をくりくりとこね回します。

『っ、ごめ、ますたー、もう、我慢するのむりぃ……っ!』
「っ、うぃふ、ひょっと待っ……っっ!?」

温もりは無いのに、快感だけが延々と続く切なさに耐えきれなかったのでしょう。ウィルはそう言うと、体と同サイズにまで縮小していた服をその場に脱ぎ捨て。そのぷにぷにとした手触りの両手で、自らを慰め初めてしまいました。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥」

もちろん、その刺激は私にもフィードバックされて。
ハーメル様とウィルからもたらされる快感の合わせ技に、再び私の意識は昇りつめてしまいます。

『っ、ぁ、ぁぁぁぁ……っ!!』

ウィルだって、それは同じ事。しかし私の使い魔の口から洩れる声は、依然として切なげなもので。その理由は、私にだって痛い位に分かっています。
足りないのです。……魔物が、欲しくて、欲しくて、堪らない物が。
だから私は、ウィルからの快感が流れ続ける身体で。
スカートの裾を咥えたままの、くぐもった声で。

「はーめる、ひゃまっ……わらひに、おにいひゃまの、おひんひん、くらはい……っ♥♥」

ハーメル様に、懇願しました。

「…………っ!!」
「っ、ふぅぅぅぅぅ…………っ♥♥」

直後、愛液でぴっちりと張り付いたショーツが横にずらされると共に――自分の身体が、とても熱い肉の槍に貫かれる感覚が私の身体を突き抜けました。

『っ、ぁ、はーめるぅ……っ♪』
「っ、ふっ、んんんんんぅ…………っ♥♥」

私の様子を見て、心配は必要ないと判断したのでしょう。ハーメル様はそのペニスに対して明らかに狭い私の膣奥を、こつん、こつんとノックするように動かし始めます。
そして、そんな感覚を共有しているはずのウィルは、甘い声を上げながら、代わる事無い動きで自らの事を慰め続けていて。そんな極限まで高められた私達が絶頂に達する度、膣の奥から愛液が分泌され、ハーメル様のものをより強く締め付けます。

「っ、ぁ…………っ!」

快感に耐えるように、食いしばった歯の隙間から荒い息を漏らしているハーメル様の姿。そんな姿に、私の身体で気持ち良くなって頂いているという事実に、胸がいっぱいに……っ、あ、またイっちゃいますぅ……っ♥
私の口から咥えていたスカートの裾が、はらりと落ち。私の身体が再びラブリー☆ウィッチの衣装で隠されても、ハーメル様はそれに反応する余裕すらないようで……そんなハーメル様が愛おしくて。私は身体を少し起こして、ハーメル様の唇に、ちゅっ、と口付けをしました。

「ハーメル、様っ、イっても、大丈夫ですよ……っ♥」
「っ…………!!」

そんな私の言葉を聞いたハーメル様は、私の身体を強く抱きしめ。
私の身体の最奥、子宮口をその肉棒で捩じりあげて――絶頂を迎えました。

「ふぁ、ぁぁぁぁ……っ♥」

どくり、どくりと。私の膣内でハーメル様のペニスが脈打つ度、私の最も大切な場所へハーメル様の精が注がれてゆきます。
身体の中心から広がる快感。ただでさえハーメル様に対してキツキツの私の膣は、もっと、もっととねだるように蠕動し、ハーメル様の物をより強く締め付けています。

「っ、はぁ、はぁ…………っ」

やがて、その全てを出し尽くし。射精後の余韻で、びくびくと震えるハーメル様の身体に顔を埋め、私も抱きしめ返します。
そんな私の身体に、ある変化が起き始めていました。

「……あ」

気が付いたように、ハーメル様が私の髪に指を通していた手を止めました。
腰まで伸びていたサラサラの金髪は、肩までの長さの栗色に。驚くように私の顔を覗き込むハーメル様の目に映る私の瞳も、生まれつきの栗色の物に変化しています。……もちろん、服装などは言わずもがな。何時の間にやら、あの日ハーメル様とのデートに選んだものと同じ、白いワンピースへと変化していました。

「……その服、今日も着て来てくれてたんだね」
「えへへ、はいっ。……といっても、もうすぐに脱いでしまいそうな雰囲気ですが……」

そう言って、二人して少し笑い合って。

「ハーメル様、間近で見るラブリー☆ウィッチはどうでしたか?」
「……もちろん、物凄く綺麗だったよ。今も、同じくらいに綺麗だけど」
「っ……えへへ…………♥♥」

ゆっくりと互いの結合を解き。抱きしめ合いながら、ちゅ、ちゅと啄むようなキスを交わす私達。

「ねぇ、ハーメルぅっ、私も、私もぉ…………っ♪」

そんなハーメル様の首に。背後から、見覚えのある手が回されました。
そうです。私の変身が解けたという事は、すなわち――


「あはぁ………っ♪」


そこには。
私と同量の快感を得た事により、極限まで発情してしまっている……私の、使い魔の姿がありました。
18/02/13 00:04更新 / オレンジ
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■作者メッセージ
魔法幼女はノーブラであるべきなのか否か、瞑想の果てにたどり着いた答えがこれでした

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