連載小説
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第八話 波乱!攫われたキャプテン!
「ふんふふんふふ〜ん♪」

茜色の夕焼けを背景に、鼻歌交じりでキッド君たちの船に向かっていた。
バジル君とお別れした後でも、あの楽しかった一時が忘れられずに上機嫌に足を進めている。

いや〜、楽しかったなぁ……。
今度は何時遊べるかなぁ……。
また会いたいなぁ……。

さっきからこの思考の繰り返しである。そしてニヤニヤが止まらない。
端から見れば変な人かもしれないけど……でもやっぱり楽しかったなぁ〜!

「……お!見えてきた!」

そんな感じで暫く歩いていると、ようやくキッド君の海賊船ブラック・モンスターが見えてきた。
そう言えば、時間的にはもうそろそろ楓ちゃんが夕食の準備を進めてるハズ。
バジル君と遊ぶ為とはいえ、色々と誤魔化しちゃったから……その分頑張ってお手伝いしなきゃ!
そう思って駆け出そうとしたら…………。

「…………ん?」

突然、誰かが船から下りてきた。遠くて良く見えないけど……何か大きな革袋のような物を担いでいるのは理解出来た。

…………ん?あれって……もしかして……

「キッド君……?」

改めて良く見ると……その下りてきた人は間違いなくキッド君だった。
そしてこちらに気付いてないのか、私とは反対側の方向に向かって歩き出した。

キッド君……こんな時間に何処へ行くのかな?
あんな荷物を持って、どうしたのかな…………?



……なんだろう、この胸騒ぎは……。
なんだか……今からとんでもない事が起りそうな気がする。


そう思えてならなかった。
だって……私に気付かずに去って行くキッド君は……なんだか真剣な表情を浮かべてたから…………。



***************



畜生!あのクソ野郎め…………!



俺は北の海岸へと足を進めながら心の中で毒づいた。
今から俺はラスポーネルとか言う海賊に攫われたサフィアを助ける為に、黄金の髑髏を持って奴らの下に向かっている最中だった。

奴が突き付けた条件通り、俺は一人で行く事にした。
ヘルム達からは『一人じゃ危険だ!』と言って俺に付いて行こうとしたが、仮にも二人以上で来たらサフィアの命が危ない。そう判断した俺は一人で行く決心をした。

正直、折角手に入れた秘宝をあんな奴に渡すのは非常に悔しいが……それでサフィアを助けれるのなら安いものだ。
待ってろよ、サフィア!俺が必ず助けてやるからな!

「…………ん?」

暫く歩いていると、何やらボロボロの服を着た二人組の男が見えた。巨大な岩の壁を背に、無言でこちらを見つめてる。
何だ、あいつらは……?まさか、ラスポーネルの部下か?

「……こっちへ来い」

一人の男がこっちへ来るように促してきた。俺は仕方なく、二人組の男の下まで歩み寄った。

「その顔……お前がラスポーネル船長が言ってたキッドだな?」

一人の男が無愛想に訊いて来た。
ラスポーネルの名を口に出したと言う事は……やっぱりこいつらは奴の部下か。

「ああ、お目当ての物を持って来たぜ」
「よし」

俺が革袋を見せると、二人組の男は徐に背後の岩の壁に手を付けた。
なんだ?こいつら、一体何をやって…………。






ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!




「なっ!?」


次の瞬間……岩の壁の一部に巨大な穴が開いた!


「この穴を通れ。ラスポーネル船長がお待ちかねだ」

一人の男が親指で穴を指して先へ行くように促した。
こいつら……魔術師か?人は見かけによらないものだな…………。

そう思いつつ、俺は壁の穴に入って行った。思ったよりも穴の入口から出口までの長さは短く、ホンの数歩だけ歩いて穴から出られた。

「やぁやぁキッド君!待っていたよ!」

声が聞こえた方向へ視線を移すと……そこには奴が居た。

「ラスポーネル……!」

サフィアを攫った張本人が髭を撫でながら俺を見ていた。そして奴の背後には、部下と思われる男が複数立っている。


……ん?あれは……。


ふと、海岸に停泊している船に視線が移った。そこそこの大きさで、大砲が幾つも並んでる。
恐らく、あれはラスポーネルの海賊船なのだろう……。

「さて、早速だがアレを渡してもらうよ」
「それより、サフィアは無事なんだろうな!?」
「まぁまぁ、そうピリピリしないでくれたまえ」

威嚇しながら言い放つと、ラスポーネルの隣に黒い渦が現れた。そしてさっきと同じように……黒いローブの男が赤いクリスタルを連れて出てきた。

「サフィア!」
「キッド!」

巨大なクリスタルの中には未だにサフィアが閉じ込められている。
怯えた表情で俺を見つめるサフィアを見た途端、今すぐにでも駆け寄って助け出したかったが……何とかその衝動を抑えた。

今ここで下手に動いたら、それこそサフィアが危ない。
ここは耐えるんだ……!秘宝を渡せば全て終わる!

「さぁ、秘宝を渡してもらおうかね」

ラスポーネルがそう言うと、奴の部下と思われる男が俺の下へ歩み寄った。

「そいつに秘宝を渡したまえ」
「……チッ!」

舌打ちをしながらも、俺は言われた通りラスポーネルの部下に秘宝が入った革袋を手渡した。部下が秘宝を受け取ると、いそいそとラスポーネルの下まで戻って行った。

「さて……本物かどうか確認させてもらうよ」

秘宝を確認する為に、一人の部下が渡された革袋から宝箱を取り出し、更に徐に宝箱を開けた。

「……おお!間違いない!これこそ、吾輩が求めてた秘宝だよ!」

ラスポーネルが宝箱の中身を見た途端、歓喜に満ち溢れた表情で黄金の髑髏を高々と上げた。
こいつの様子からして……相当欲しかった物なんだろうな。結局、秘宝の謎は分からないままになったが……サフィアを想えば、どうでもいい事だ。

「お望みの秘宝は渡してやったんだ!いい加減にサフィアを返せ!」

…………と叫んでみたものの、何もかも良い流れにはならないと思っていた。
なんせ相手は人質を取るような真似をする輩だ。そんな卑怯な奴がすんなりとサフィアを返してくれるとは思い難い。


さて、どう来る?戦うつもりなら、全力で相手をするまでだ!


「そうだね、返すとしよう!」


……あ、あれ?意外と素直だな…………。

想定してなかった素直な受け答えに面食らってると、サフィアを閉じ込めてるクリスタルが宙に浮きながら俺に向かって来た。
……まぁ、良いか。サフィアを救えるのならそれで良い。速くサフィアを救出して、こんな奴らとは金輪際会わないようにおさらばしよう。

「サフィア!大丈夫か!?」
「キッド!」

俺はこちらに向かって来るサフィアに駆け寄った…………。



***************



「…………」

キッドが黄金の髑髏を持って船を出てからも……僕はただ船の甲板でキッドとサフィアさんが無事に帰ってくるのを祈るしかなかった。

「Hey、ヘルム……本当に一人で行かせて良かったのか?」

ふと、僕の背後からオリヴィアが不満を露わに出しながら言ってきた。
不満なのも無理は無い。オリヴィアはサフィアさんを助ける為に、無理にでもキッドと共に行こうとしたんだ。しかし、結局のところ最後はキッドに押し切られる形で船に残る羽目になってしまった。

「仕方ないさ……キッドがそう言ったんだから従わなきゃ。これも船長命令だよ」
「サフィアの命と比べたら、命令なんかどうでもいいだろ!?」
「落ち着いてよ。だったら尚更ここで待ってなきゃダメだ。僕たちが余計な手出しをしたら、その時こそサフィアさんの命が危ない」
「人質を取って脅すような真似をする奴らなんか信用出来ない!あんな奴らが素直にサフィアを返してくれると思ってるのか!?」
「だから落ち着けって言ってるだろ!!」

腹の底から大声を上げると、オリヴィアは一瞬だけ怯んで目を見開いた。

「僕だって一緒に行きたかったよ!それはみんなも同じだ!でも、僕らが余計な手出しをしたらサフィアさんは確実に殺されるぞ!」
「そ、それは……」
「それともなんだい?君はキッドが弱いとでも思ってるのか!?キッドがあんな奴らに負けるとでも思ってるのか!?」
「いや、そんな訳ないだろ!」
「だったら信じよう!キッドは必ず戻ってくるって……サフィアさんを助けるって信じようよ!キッドを……僕らのキャプテンを信じるんだ……!」

自分自身でも……少し熱くなり過ぎてると思ってる。
でも……それでも言いたかった。
僕は……親友を……キッドを心から信用してるから…………!

「……Sorry、あんたの言う通りだな。私もキャプテンを信じないとな……」

オリヴィアはばつが悪そうに謝った。
どうやら少しは分かってくれたみたいだ。後は、キッドたちを待つしかないか……。

「あぁ!副船長さん!ここに居たのね!」

今度はシャローナが慌てた様子で僕の下へ駆け寄った。

「ねぇ!ピュラちゃんは!?ピュラちゃんは何処に行ったか知らない!?」
「……えぇ!?」

シャローナに言われて……一気に血の気が引いた。
そうだ……ピュラちゃんがまだ帰って来てない!

確か、ピュラちゃんはサフィアさんと一緒に海へ出た……と言う事はサフィアさんと一緒に居るハズ。
しかし、サフィアさんは奴に攫われてた……攫われたのは……サフィアさんだけだった。
あの時……ピュラちゃんは一緒に居なかった!
それじゃあ……ピュラちゃんは……ピュラちゃんは何処へ!?

「大変だ!すぐにピュラちゃんを捜しに…………」




ザパーン!!



突然、海から大きな水飛沫の音が発せられた。

「な、なんだ!?」

不意にも水飛沫の方向へと振り向くと……海から二つの影が飛び出て、華麗に船の甲板へと着地した。
その影とは…………!





「ふぅ……遅くなりました」
「ただいま〜!」



……その二つの影の正体を見た途端、言葉を失ってしまった。
驚いてるのは僕だけじゃない。周りに居る人たちも同じ様に驚いてた。


「……あ、あの……どうしましたか?」


影の主はキョトンとした表情で僕らを見渡していた。


「サフィア!助かったのか!」
「ピュラちゃん!無事だったのね!」

影の主は……ラスポーネルに攫われてたサフィアさんと、行方不明になってたピュラちゃんだった。
しかし、二人ともオリヴィアとシャローナに駆け寄られても戸惑った表情を浮かべてる。

「いやぁ、良かった!やっぱりキャプテンはSuper Greatな男だ!大したもんだよ!」
「あ、あの……何を言って……」
「ところでサフィア……キャプテンはどうしたんだ?助けてもらったんだろ?ここまで一緒に来たんじゃないのか?」
「あの……何の話でしょうか……?」

オリヴィアが歓喜してるにも関わらず、サフィアさんは未だに困惑した表情を浮かべてる。
……助かったと言うのにこの表情は何かおかしい……と言うか、キッドは一緒じゃないのか?助けてもらったのなら、キッドも一緒に来るハズ……。

「いや、何のって……あんた、あのラスポーネルとか言う海賊に囚われてたんだろ?」
「え?囚われてたって……私がですか?」
「……いや、だから、捕まったところをキャプテンに助けられて、ここに戻って来たんだろ?」
「あ、あの……私、誰にも捕まえられませんでしたよ。と言うより、ラスポーネルって何方ですか?」

……なんだろう、さっきから話が噛み合ってない……。
それに……なんだか物凄く悪い予感がする……。

「……サフィアさん、幾つか質問しても良いかい?」
「え?あ、はい、どうぞ……」

どうしても胸騒ぎを抑えきれなくなり、僕は思い切ってサフィアさんに幾つか質問する事にした。

「サフィアさんは今まで何処に居たの?」
「あ、はい……浅層にいる魔物の方々からマルアーノについて色々と聞かせてもらい……その後浜辺で休憩してました」
「それ以降は?」
「はい、休憩が長引いてしまいまして、ここに戻るまでずっと浜辺に居ました」

……浜辺にずっと居たの?なんで?何をしてたんだ?

「本当だよ!私、ずっとお姉ちゃんの傍に居たんだよ!」

心の中で疑問に思ってると、ピュラちゃんがピョンピョンと飛び跳ねながら言った。
ピュラちゃんがそう言ってるって事は、浜辺に居た事は間違いなさそうだ。
でも…………。

「なんで、今まで浜辺に居たんだい?休憩にしては長すぎるような気がするけど…………」
「あ、それはですね…………」

サフィアさんは苦笑いを浮かべながら話し始めた。

「実は休憩してる時に変な人が来たのです」
「変な人?」
「はい、黒いローブを着てる男の人でして……何事かと思ったら、『私の話を聞いてください』って言ったのです」
「はぁ?」

……なんか、訳が分からなくなってきた……。

「その人の話は中々面白くて……魔王の代替わり前の話とか、神々の話とか、この世界とは別の次元にあるパラレルワールドとか……とても興味深い物ばかりでした」
「……それで?」
「それで、面白い話が全部終わってしまったら『最後まで聞いてくださってありがとうございました』なんて言って何処かへ去って行きました」
「……他に何かされなかった?」
「え?何もされてませんよ?ただ色々な話をしただけでした」


……何てことだ……サフィアさんは最初から攫われてなかったんだ!
待てよ……と言う事は、さっき此処に現れたクリスタルの中に閉じ込められてたサフィアさんは……!



***************


「サフィア!」
「キッド!助けて!」

俺はクリスタルに閉じ込められてるサフィアを助けようとしたが……どうすれば助けれるのか全く分からなかった。

「畜生……おい!これを消せ!」

俺はラスポーネルに叫ぶと、その隣に立ってる魔術師の男が徐に片手を翳した。
すると……サフィアを閉じ込めてたクリスタルが瞬時に消え去った。

「サフィア!だいじょう……ぶ……?」

しかし……俺は咄嗟にサフィアの異常な状態に気付いた。
宙に浮かんでたクリスタルは消えたハズ……なのに……。

「サフィア……なんで宙を浮いてるんだ?」

そう……サフィアは未だに宙をフワフワと浮いている。

「キッド!助けて!」
「わ、分かってる!それより、お前……」

俺は徐にサフィアへ手を伸ばそうとしたら…………。



スゥッ



「え!?」

なんと……俺の手がサフィアの身体を貫いた……いや、正確には……すり抜けたとでも言うべきか。

って、ちょっと待て!これって……まさか……!


「これは……サフィアじゃない!」


姿は似てるが…………偽物だ!

「その通り!実はそれ、吾輩の部下が魔術によって作りあげた幻なのだよ!」

呆気に取られてると、ラスポーネルが自慢げに言いだした。それと同時に……偽物のサフィアが一瞬に消え去った。

「実はだねぇ、君の奥さんの帰りを遅らせる為に、吾輩の部下が足止めするように裏で仕組んでおいたのだよ!本物の君の奥さんは今頃船に戻ってると思うよ。良かったねぇ!」
「アンタ……何故こんな真似をした!?」

俺の質問に対し、ラスポーネルは人差し指を立てながら言った。

「わざわざ本物を捕らえる必要なんて無いのだよ。このように、こちらが偽物を作った方が色々と手っ取り早いのさ。お話好きの部下も、君の奥さんに色々と面白い話を聞かせてあげられて嬉しいだろうねぇ」
「……テメェ……汚ぇ真似しやがって……秘宝返せ!」

勢いよくラスポーネルの下まで駆け出そうとした途端、俺の周りをラスポーネルの部下が取り囲んだ。

「さて……秘宝は手に入れた事だし、次の仕事に取り組むとしよう」

ラスポーネルは髭を撫でながら言った。
次の仕事だと?まさか、ここで俺を仕留めるつもりか?
そうだとしても、数が多いな……戦うとなると苦戦を強いられる……!

「ほう……ここで俺を仕留めるつもりか?だったら全員まとめて相手してやるよ!」
「いや、吾輩の目的は君を殺すのではなく……生かして捕らえるのだよ」
「なんだと……?」

生かすだと?しかも捕らえる?
俺はラスポーネルの言ってる意味が分からなかった。

「それって……これから俺を攫うとでも言いたいのか?」
「まぁ、そう言う事になるねぇ。一人で此処に来させたのも、その為でもあるのだよ」
「……何を考えてるんだ?俺一人攫ったところで、アンタらに何の得がある?」
「君については色々と調べたんだけどねぇ……君、あの海賊の国であるカリバルナ所属の海賊なんだってねぇ?」

……参ったな。色々と調べられてやがる……!情報収集には長けてるようだな……!

「……それがどうした?」
「それでねぇ、吾輩は思ったのだよ。君を手元に置いておけば、いざって時に色々と助かると」
「……何の話だよ?」
「だからねぇ…………」



ラスポーネルは……悪意が込められた笑みを浮かべながら答えた…………!













「君を人質に取れば、カリバルナを脅迫出来るではないか」







「なっ!?なんだとテメェ!!」

ラスポーネルの発言を聞いた瞬間……俺の中に沸々と怒りが込み上げてきた!


「海賊の国を脅せば……食料や武器、そして船の部下も絞り放題!こんなに美味しい話は……」



「ふざけるなぁ!!!」



「ひぃぃぃぃ!!」

冗談じゃねぇぞ……!
こんな奴の……こんな腐り果てたクソ野郎の思い通りにさせて堪るか!!

「……と、とにかく!君には一緒に来てもらうよ!」

さっきは怯えた表情を見せたラスポーネルだが、すぐに体勢を立て直して部下たちに命令を下した。

「上等だ!全員ぶっ飛ばして……!」




ドカァァァァァァァァァン!!




「キッド君!助けに来たよ!」

すると突然、背後からの爆音と共に聞き覚えのある声が聞こえた。
ゆっくりと背後を振り返ってみると…………!

「メアリー!」

そこにはメアリーが立っていた。足元にはラスポーネルの部下と思われる男が倒れてるが……恐らくメアリーが倒したのだろう。

「うぇ!?リ、リリム!?なんでこんな厄介な魔物が此処にいるのだね!?」

ラスポーネルはメアリーを見た瞬間に激しく動揺した。
そりゃそうだ。こんな所に魔王の娘が現れたんだ。驚くのも無理は無い。

「何事かと思って、こっそり後を付いて来て正解だったよ!こんな状態になっててビックリしちゃった!」

そう言いながら、メアリーは手をポキポキと鳴らしながらこっちに向かって歩いて来てる。
俺の周りを囲ってる敵は、突然のリリムの出現に驚きと恐怖を隠せないでいた。

「え、ええい!こうなったらヤケクソだよ!あのリリムもひっ捕らえたまえ!」
「うぇえ!?ど、どうする!?」
「もう行くしかないだろ!突撃だ!」

ラスポーネルの命令を合図に、俺を取り囲んでた敵の半数はメアリーに襲いかかってきた。
すぐに加勢するか……と思ったが、必要無さそうだ。

「やる気みたいだね。そっちがその気なら……すぐに決めちゃうよ!」

メアリーの両手に黒い魔力が収束された。
そして…………!

「喰らっちゃえ!ジャブ・マシンガン!」

両拳の素早い連続突きと同時に、黒い魔力の弾が放たれた!

「おりゃおりゃ〜!!」
「ぐはぁ!」
「ぼぁ!」
「ぎゃあ!」

黒い弾は的確に当たり、次々と敵が倒されていく!
あいつ……やるな!

「……はい、一丁上がり♪」

襲いかかってくる敵を全員倒したメアリーは、余裕の笑みを浮かべながら俺の下へ駆け寄った。

「よ〜し、キッド君!一緒に戦おう!」
「……よっしゃあ!暴れまくってやるぜ!」







「ウィング・ファルコン!」






「え?」



ドスゥン!!




「おわぁ!?」
「きゃあ!?」


突然、上空から何か巨大な物に押し倒されてしまった!


「こいつは……!」


なんと……緑色の巨大な隼が俺とメアリーの背中を踏みつけている。
待てよ……この鳥、見覚えが…………。

「大人しくしていろ」

何時の間にか誰かが俺の目の前に立っていた。
恐る恐る見上げると…………!



「……バジル!?」
「バジル君!?」



茶色い髪に口元のマスク、更に背中の日本のランス…………間違い無かった。
こいつは……賞金稼ぎのバジルだ!

「おい!どういうつもりだ!これは一体……」
「黙ってろ」

バジルはその場で膝を着くと、徐に手の平を翳してきた。

「安らかに眠れ……ヒプノ・オウル」

そして、バジルの手から何やら青紫色の鳥が現れた。

これは……梟?


『ホー……ホー……』


独特の鳴き声と同時に、梟の両目から光が……って、まさか!

「クッ……畜生…………やめ……ろ……!」

なんとか逃れようとしたが……俺を踏みつけてる魔力の隼が重すぎて動けない……!
その結果……催眠魔法を真正面から受けてしまった。


……ヤバい……眠気が……!
このままじゃ…………眠っちまう……!


「バジ……ル…………おま……え……!」


必死の抵抗も空しく…………


意識が……闇へ堕ちた…………。






























「……ん…………ド君……キッド君……起きて!キッド君!」
「ハッ!」

誰かの必死の呼びかけにより、俺の意識が覚醒されていった。

「キッド君!大丈夫!?」
「……メアリー……?」

重い身体を起こして隣へ視線を移すと、そこにはメアリーが座っていた。

「あれ?ここは……」

出来るだけ冷静になるように自分に言い聞かせ、俺は周囲を見渡してみた。
かなり薄暗く、床、壁、天井と全てが木製の物で、それ程でもないが至る所に汚れがこびり付いてる。

ただ、一つだけ言える事は…………。

「……まさか俺たち……捕まっちまったのか?」
「うん……そうみたい……」

俺たちは牢屋に閉じ込められてると言う事だ。
俺とは別に、隣の牢屋に閉じ込められてるメアリーも気落ちしたかのように俯いてる。

「……そうだ……思いだした……!」

少し前の記憶が蘇った。
メアリーと共にラスポーネルとその部下をぶっ飛ばそうとしたら……バジルの奴に眠らされたんだった!
……って事は……俺たちを此処に閉じ込めたのは、ラスポーネルの部下か!
それにしても…………!

「バジルの奴……なんであんな真似を……!」
「…………」

そう……あの時バジルは俺たちに襲いかかってきた。挙句の果てには、あの変な梟で眠らせて……!
あいつは何故こんな事を?あの状況で俺たちを襲うなんて……あれじゃあまるで、あいつらと手を組んでるような……!

……ん?なんだか腰が軽い……ってまさか!?

「ああ!俺の長剣とショットガンが!」

そう……俺の愛用の武器である長剣とショットガンが無くなってる!
あいつら……取り上げやがったな!叔父さんから受け継いだ大事な武器なのに……!

あの馬鹿紳士!絶対ぶっ飛ばす!!

「あ、あの、キッド君……一つだけ言っておきたい事があるんだけど……」
「ん?」

一人で勝手に怒り狂ってると、メアリーが申し訳無さそうな表情を浮かべながら言ってきた。

「……どうした?」
「うん……あのね、さっき気付いたんだけど……ここ、船の中だよ」
「へぇ……そうか……って、船!?」

一瞬だけ、メアリーの言葉を疑ってしまった。

「お、おいおい……なんで分かったんだ?」
「そこの壁に小さな穴が開いててね、覗いてみたら……私たち、海の上に居るって事が分かったんだよ」

メアリーが牢屋の内側にある木製の壁を指差したので、その方向へと視線を移した。
確かに小さな穴が開いてる。覗き穴としては丁度良い大きさだ。

……ん?待てよ…・・海の上?

「……メアリー、俺達さ……さっきまで陸に居たよな?」
「……うん」
「確かにマルアーノに居たよな?」
「……うん」
「……で、今度は海に居ると?」
「……うん」

……頭の中に嫌な光景が浮かんでる。
出来れば俺は……それが夢であって欲しい。

「……えっと……状況を整理してみようか。ここは船の中だろ?」
「うん」
「そんでもって、その船は今、海の上に居ると?」
「うん」
「……って事は……まさか……」
「うん……そのまさかだよ……」

……あー、マジか……夢じゃなかったかぁ……。
あ、よく考えればさっき目が覚めたんだから現実なのは当たり前か!

……って、呑気な事考えてる場合じゃねぇ!

「この船……何処へ向かってるんだよ……!?」


***************



「いやぁ、ご苦労だったね、バジル君!一時はどうなる事かと思ったけど……君を雇って正解だったよ!」
「…………」

ラスポーネルの海賊船の船長室にて、ラスポーネルは上機嫌な様子で高価な椅子に座りながら黄金の髑髏を眺めていた。俺は壁に背を預ける形で黙々とラスポーネルの話を聞いている。

「いやぁ、あの時は君を省いて悪かったねぇ!最初から君も一緒に居てもらうべきだったよ!今度の報酬は特別にサービスしてあげるからねぇ!」

こんな奴に褒められても嬉しくない!
何より……メアリーとキッドには悪い事をしてしまった。
だが、仮にも二人があの状況で更に暴れまわったら…………ラスポーネルの事だ。きっとあれ以上に残虐な手段で二人を追い詰めようとしただろう。言い訳がましいかもしれないが、あの二人への被害を最小限に止めるには……こうするしかなかった。


悪いが、二人には少しの間だけ辛抱してもらおう。
もう少しだけ我慢すれば……あいつらは助かる!

何故なら…………俺が……!


「……ま、何はともあれ秘宝を手に入れて満足だよ!これで吾輩の目的が達成される!この髑髏ちゃんはどうしても必要だからねぇ!」

そう言うと、ラスポーネルは黄金の髑髏を愛おしそうに優しく撫でた。
……そう言えば、ラスポーネルが求めてた秘宝と言うのは、その黄金の髑髏だったのか。
しかし、この様子と今の発言から……こいつはどうしても黄金の髑髏が欲しかったのだろうな。

「……で、目的とはなんだ?何故そんな物が欲しかったんだ?」

俺の質問に対し、ラスポーネルは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「フフフ……本音を言えば吾輩もすぐに話してあげたいんだけどねぇ、ここは敢えてもう少しだけ黙っておこう」
「…………」
「……と、思ったけど……吾輩を助けてくれたお礼に、一つだけスペシャルヒントを教えてあげよう!」

大げさにもビシッと人差し指を立てて話し始めた。
それにしても…………ウザい!





「ヒントは…………『T』だよ!」




…………は?
T……だと?


「なんだ?Tって……あのTか?」
「そう!ヒントは『T』!イニシャルTだよ!」


……何を言ってるんだ、こいつは?
Tと言われても……全く分からない。

「さぁ、ヒントはお終い。もう部屋に戻ってくれて結構だよ。目的地に着くまでにのんびりしたまえ」

……自分から呼んでおいて、なんだ……。ただ自慢がしたかっただけか?
不服に思いながらも、俺は無言で船長室を出て行った。

……それにしても……『T』とは何の話だ?

「てぃー……ティー……ティー……」

思わず連呼してしまったが……さっぱり分からない。
一体何が…………。


「……いや、そんな事を考えるのは後だ……」


自分に言い聞かせながら、俺はメアリーとキッドを救出する方法を考え出した。


しかし……どうしても悪い予感だけは振り払う事が出来ないでいた…………!
12/09/11 21:51更新 / シャークドン
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■作者メッセージ
いや〜、ようやく物語も中盤に差し掛かりました。
連載でこんなに長く投稿したのは初めてです……。

キッドとメアリーが攫われた事により、サフィア達はどうするのか?
バジルは二人を救出する事が出来るのか?
そして……ラスポーネルが言う『T』の正体とは……?

と言うわけで、読んでくださってありがとうございました!

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