連載小説
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ピアノしか弾けない天才
 見知らぬ天井が俺を出迎える。そうか…寮(一軒家)に引っ越したんだった…、それで昨日鼻血を出して倒れて… いや、忘れよう。
まだ起きそうにない体に鞭を打って起き上がる。置き時計は5時を少し過ぎたあたりを指す。

「取り合えず顔洗って…ピアノ弾いて…ふわぁ〜」

おぼつかない足取りで洗面所まで向かう。洗面所も高そうなシンクで正直怖い。今まで庶民だったからね…

顔を冷たい水で濡らすと幾分か目が冴える、体も起きてきたようだ。先ほどよりも軽い足取りで防音室へ向かう。

「春だしそれにちなんだ曲を弾こうかな…」

少し考えた後おもむろに演奏を始める。曲はヴィヴァルディの「四季」より「春」
蝶が舞ったり花が咲くような旋律はやっぱり心地がいい。まるで春の陽気を浴びてるみたいだ。



なんだかんだ1時間くらい弾いてたな…時計は6時くらい

「あら?お早いですね」

 食堂ではもうすでにフィロップさんが料理を作っているようだ。いい匂いが食堂を包んでいる。

「きっききき昨日は申し訳ありませんでした」
「気にしないでください。それより大丈夫ですか? かなりの量の鼻血でしたし」
「もう大丈夫です」

それ以上の会話が無く静寂が訪れる。まるでコンテストで弾く一瞬前のあの時みたいだ、しかしその静寂を破ったのは。

ぐぅううぅう

俺のお腹の音だった。恥ずかしくて顔に血が上っていくのがわかる。

「お腹が減っているのですね。まだこれしか準備できていませんが…どうぞ」

彼女はまだ温かいクロワッサンを渡してくれる。ほんのりバターの味がして美味しい

「美味しいです、朝はパン派なので毎日食べたいくらいです」
「よかった。なら毎日頑張って作ります。さぁスープも出来上がったので召し上がってください」

そうして出てきたのは真っ赤なトマトスープ。これも美味しかった。トマトのフレッシュな酸っぱさと塩味のバランスが完璧だ。

「美味しいです、フィロップさん」
「褒めたってメインのオムレツくらいしか出てきませんよ///」

最後に出てきたのはオムレツ。中はトロトロでこれまた美味しかった。

 食事を終え歯を磨き今日の支度をする。ムジーカ学園は制服の着用が自由で、制服を着ている人から完全に私服を着ている人もいる。
俺はワイシャツだけ着て上からお気に入りのマウンテンパーカーを着る。

「バス停までちゃんとたどり着けますか? 大丈夫ですか?」
「フィロップさんは心配性だなぁ、大丈夫ですよ…多分」

と言っても迷いそうなんだよなぁ…ここバカ広いし。

「それに今日は生活必需品を買いに行きますから早く帰ってきてくださいね」
「わかりました」

ピンポーン

インターホンが鳴る。こんな朝に誰かと思い見てみるとアルバス君が来ていた

「よぉ、おはよう。お前が迷わないように来てやったぜ」
「助かるよアルバス君」
「アルバス様、どうかご主人様をお願いします」

 2人は楽しそうに談笑しながら歩きだす。いいですねぇ青春ですねぇ

「さて見送りも終わり。これからは私の時間です」

さてここで話のメインは私フィロップへ少しの間移ります。

「まずお皿洗いから…」

ごしごしとお皿を洗います。しかし

「拓斗様…実にいい食べっぷりでしたね」

自然と笑みがこぼれる、私達キキーモラは主人に褒められると底抜けなく喜んでしまう種族だ。

さて皿洗いも終わり次はお掃除です。ですがまだ新築一戸建てなので汚い所がありません。1部屋を除いて。

そう、拓斗さまのお部屋です。それは昨日、気絶した拓斗様をお運びになる際中見たのですが、段ボール箱からあふれるほどの楽譜が床に散乱していました。恐らく段ボールが自然に落ちてこうなったのでしょうが、足の踏み場もありませんでした。

「気合を入れましょうフィロップ」

意を決して楽譜の森へ足を踏み入れる。部屋は案の定楽譜まみれになっておりました。拓斗様はなぜこれで今日驚かなかったのでしょうか…

散らかった楽譜を手に取りある違和感を覚えます。その楽譜は全て手書きで上にはО・takutoとサインが書かれていました。もしこれがすべて拓斗様の手書きなら総量は軽く見積もっても1000枚以上あるこの楽譜全てを手で書いたことになります。

拓斗様はピアノの天才とは受け持つ前から聞いてはいたのですがまさかこれほどとは…

取り合えず楽譜をひとまとめにし段ボールの中に戻す。楽譜以外の荷物も少し散乱しているようでそれも片付けるようにしましょう。

散乱したものの中には服もあり、年相応のカジュアルな物が多いのを見て少し安心感を覚えました。

「えっと、服は…こっち。ズボンは…ここ。パンツは…パンツ!!??」

落ち着くのですフィロップ。理性を取り戻すのですフィロップここで吸ったら戻れなくなります

スゥー ハァー スゥー ハァー

甘く、年頃の新鮮な精の香りがする。ついつい何度も嗅いでいるうちにおマンコの方が寂しくなり、つい拓斗様のパンツで敏感になったクリを刺激する。

「あっん、はぁ、ああんっ はぁ…ごめんなさい拓斗様。こんな従者れごめんなさいぃ」ぷしっぷしゅー

そこでイってしまい、暫くの間気絶していました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

時間は少し戻り拓斗視点へ

 俺はアルバス君と一緒に家を出る。友達と登校なんて初めてでわくわくするなぁ

「アルバス君は部活はどこに行くつもり?」

何気なく聞いてみる

「俺か?どこにも入るつもりはねぇよ」
「そうなの?」
「あぁ,コンクールとかに集中したいからな」

そっか、特待生なんだから結果を残さなきゃいけないのか、それなら部活に行かないのも納得だ。

そこからファッションの事だったり、ピアノの事だったりを話しているうちに学校へ着く。
と言ってもまだ授業は始まらず学校説明や部活動説明会。この学園都市の大まかなエリア説明を受けるくらいだった。

「って事で説明終わりっ。時間余ったしレクリでもしよっか。楽器もって音楽室へレッツゴ〜」

俺たちは音楽室へ向かう。やはりこの階段はキツイ

「皆のマイ楽器は全部持ってきてくれてるみたいだね。じゃあ皆のレベルをいま一度確かめたいしここで演奏してもらおっか。まずはアリアさんからでいい?」
「はい」

アリアさんは歩いて壇上の上に行く

「では…」

すぅ…と息を吸い、声が発せられる。その瞬間オペラハウスの情景が頭の中に浮かぶ。
それほどの声量、技量が彼女にはある。その歌声は歌う事のスペシャリストであるセイレーンにも、いや。俺が聴いたことのあるどのセイレーンの歌声より素晴らしかった。種族的な差を努力だけで超えたのだ。

「〜〜〜〜〜〜〜    終わりました」

自然と皆拍手を送る。次であろうアルバス君が気押されていないだろうか

「上手かったろ、あいつ」
「うん、やっぱりここはレベル高いね」
「実はあいつ俺の幼馴染でよ。昔はよく俺が演奏で、あいつが歌を歌う演奏会をしたんだ。今じゃめっきり話しかけてくれないがよ…」

昔を懐かしむように語り掛けてくれるアルバス君。アルバス君の幼馴染ならレベルが高いのも納得だ。

「じゃあ次は〜アルバス。頑張ってね」
「おっ、呼ばれた。じゃ行くわ」
「うん、頑張って」

背中からもやる気が満ちている、どうやら心配は杞憂だったようだ。

ピアノ椅子に座り、一度深呼吸をし。弾き始める

曲は情熱大陸のジャズアレンジ。いろいろな音源を聴いたが聴いた事の無いアレンジ。恐らく彼のオリジナルアレンジ、しかもソロまで入っている。
先ほどまでオペラハウスの中だった音楽室はもうすでに彼のワンマンライブ会場へ変化していた

弾き終わり椅子から立つ彼を皆とても大きな拍手で迎える。

「凄いね!やっぱりアルバス君は上手いし僕も頑張らなきゃ」

その後数人演奏をし僕の番が回ってくる
アルバス君に負けないようにちょっとだけ頑張っちゃおう。ピアノ椅子に座りさらりと鍵盤を撫で、頬を軽く叩き、自分を切り替え演奏に入る

選んだ曲はショパン:12の練習曲作品10−4番。嵐のような曲で正直あんまり得意じゃない。でもアルバス君もあれだけ頑張ったんだから僕も頑張んなきゃな。



何とかミスなく弾き終えることができた…おっとと、立ち上がんなきゃ、俺はピアノ椅子から立ち上がりみんなの方を見る、しかし誰も拍手をくれない。もしかしてヘタクソだったのだろうか…俺も自覚できていないミスをしていたのだろうか…

「拓斗君、今乗って本気で演奏した?」
「 ? いえ、そこまで本気出したわけじゃないです」

音楽室がざわつく

「やっぱり噂になってたあれだよね」「拓斗君だったんだ」「あれで本気じゃないって凄い…」

「あー皆落ち着いて落ち着いて。時間もいい頃なので今日はここで解散です」
「おいタクト、逃げるぞ」

急にアルバス君に手を掴まれ走らされる、外にはたった2分の演奏なのにいつの間にか野次馬だらけになっていた

「いい演奏しやがって。外まで野次馬だらけだぜ。天才」
「何のこと? 天才?」

アルバス君は目をまんまるにする、しかし直後に大笑いをする

「あっはは、そうだよな。タクトは絶対自分で自分の天才だなんて思ってないもんな」

その後俺が音楽特待生の中で噂になっていた天才の正体だった事とかを聞いた。

「そんな天才だなて…」
「実際お前は俺らより10こ位ステージがちげぇよ」

暫く走り着いたところはなんと壁。しかしアルバス君が壁の中にめり込んでいく、俺も意を決して壁に突っ込んでいくとなんとそこには10畳くらいの隠し部屋が。なんで学校にこんな所があるんだ…

「すげぇだろここ、卒業生がヤリ部屋として作った部屋らしい。防音に探知阻害の魔法までかかってる」
「この私物はアルバス君の?」

部屋の中には本棚や机、小さな冷蔵庫にベッドなどもあった

「いや、これは元からあった」
「じゃあ今使ってる人の私物なんじゃ…」
「それは安心しろ、何と前の所有者が卒業してから早い者勝ちで次の所有者が決まって、負けたらそもそも入る事すらできないらしい。メモ書きに書いてあった」

だとしても学校にゲーム機は問題だろう…いや、こっちの世界ではいいのか…?

「でだ、そのうちここにグランドピアノを置いて俺たちだけの秘密の練習場所兼休憩室にしないか?」
「確かにグランドピアノ置けるスペースはあるし音楽室じゃ今日みたいになるかもしれないしね」

音響がどうなるかは未知数だけどまぁダメだったら休憩室にすればいいしいっか

「じゃあまずはグランドピアノからだな。まぁ学校にに頼めばすぐに手に入るから大丈夫」
「この学校どうなってるの…?」
「資金源などは俺もよくわからん」

まさか違法な事じゃないよな…少し怖いな。

「じゃあとりあえずグランドピアノの件は任せたよ」
「おう」

「じゃあそろそろ帰んなきゃ…だけどまた人だかりできちゃうかもな…」
「じゃあこのポータル使うか。行先は俺んちだけどどうせご近所さんだし」
「ありがとうアルバス君」

俺らはこっそり教室まで荷物を取りに行き、ポータルで帰る。

「じゃあまた明日」
「おう、またな」

アルバス君と別れドアを開ける

「ご主人様、おかえりなさい」
「うん、ただいま」
「思ったより早かったですね。アルバス様にお礼は言いましたでしょうか?」

優しい口調で聞いてくるフィロップさん。少し顔が赤いのが大丈夫だろうか?

「顔が少し赤いですが大丈夫ですか?」
「ももももちろんです」
「よかった、風邪でも引いてたらどうしようかと思いましたよ」

ドキドキ、拓斗君の初めてのお使いへ続く
22/11/04 00:01更新 / photon
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■作者メッセージ
「なんで僕の服が洗濯されてるんですか?」
ギクッ「そっそそれは一回洗濯してからしまった方がいいからです」
「そうなんですね。やっぱり僕にはフィロップさんが居なきゃダメダメだな」

(バレなくてよかった…)

第2話どうだったでしょう。天才音街拓斗くんの演奏力を書きたく難しい曲を弾かせました。

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