連載小説
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僕は女性に縁がない。
正月のある日。
僕、豊橋 空也(とよはし くうや)はコタツに入ってうとうとしていた。
目の前のテレビには、正月お決まりのマラソンが映っている。
正直いいって、つまらない。
毎年のことだが、なんで正月のテレビはこんなにもつまらないのが多いんだろう。
大晦日のテレビはどれを見ようか迷うほどなのに。

二次元趣味も多少あるモノの、基本的にはクルマ一筋。
彼女がいたことは、これまで一度もない。
僕の見た目や体力もさることながら、その趣味も原因らしい。

そう言うわけで誰と連んでどこかに行くわけでもなく、このゆるい時間を過ごしていたのであった。

・・・

昨年末のある飲み会での話だった。
「豊橋くん、今度クルマ買うんだって?」
ある女の子が、脈絡もなく聞いてきた。まぁ、僕もそれなりに話題に出していたので車種を訊かれてもおかしくはないだろう。
「あぁ、正確には『乗れる状態にまで修復が完了した』ってところだよ。ちなみに車種はファミリアね。」
「・・・なんかあまり聞かない名前だけど、いつのクルマなの?」
・・・そうか。主流の乗用車シリーズはもう13年前にブランド廃止になったんだ。
それなら致し方ないと思っていたのだが・・・彼女は苦虫を噛み潰したような顔でこう言ってのけた。
「今時そんな古いのわざわざ直して乗るわけ?」

でも、それだけならまだ想定の範囲内だ。
ところがこのクソ女、俺の逆鱗に触れてきた。
(※空也の一人称は、普段は「僕」ですが怒ると「俺」になるという設定です。)
「みんな見てみて〜ここに今時ミニバンの良さを理解できないクズ男がいま〜す♪」

この一言に、俺はブチ切れた。俺はミニバンが大嫌いなのだ。彼女もそれを知っているのだ。
一次会もお開きになったので二次会のカラオケに行こうという話になった(同僚曰く、俺がブチ切れる寸前だったのは理解していたようで二次会をカラオケにしようとしたのは思いっきりシャウトしてもらってなだめる意味もあったらしい。)のだが、そんな段になってさらにあのクソ女が挑発する発言をぶちかました。怒りのあまり、何と言われたかは覚えていない。
そして次の瞬間、俺はキレた。
そのクソ女を思いっきりビンタしていたのだ。
まさかビンタするとは普段の「僕」からは予想できなかったようで、みんな唖然としていた。
「こんなクソ女と一緒にいられるか!! 俺はもう帰る!!」

・・・

繁華街のはずれのパーキングメーター。
そこに停まっている、ワインレッドのセダン。
これが、件のファミリアGT-X。今で言うランエボやWRX STIのような、世界ラリー選手権での勝利を狙って開発グレードで、ハッチバックに続きスポーツセダンも作られたのだ。
しかしながら今や完全にマイナー車。中古車屋の不良在庫(と言うか廃車)置き場にいたところ一目惚れしてしまい、半年間の修復期間を経て今に至るのである。

仕上がったばかりの愛車のシートに座り込み、僕はレッドブルの缶を開ける。

「・・・ふぅ。」
少し冷静さを取り戻し、フロントガラス越しにビルの隙間から覗く夜空を眺めていた。

どうも僕は、人と同じであることを極端に嫌うところがある。
でなければ、わざわざ手間を掛けてこいつになんか乗らずにランエボを買うに決まってる。
だから、あんな失礼なことを言われるのは想定していた。はずだった。

だけど、いざ言われるとこんなにも気持ちが滅入るのか・・・
さすがに、これは想定外であった。

そう言えば、こいつを手に入れてからの数ヶ月の着信履歴を見てみると9割方が地元のマツダディーラーか部品屋か塗料屋だった。そう、元々僕は友達が少なかったのだ。
そして、それはこれからも変わらない。そう、思っていた。

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そんなこともあって、年を越した。
「仕方ない。その辺流してきますか。」
せっかくナンバーを付けて保険も間に合ったので、正月のドライブに行くことにしたのだ・・・
が、どういう訳か渋滞を避けて、避けて走っていると気が付いたら地元の神社に向かう道に追い込まれてしまったのであった・・・。

「・・・初詣か。行ってみるのも悪くないな。」

久しぶりに行った神社は、気が付くとカップルだらけだった。
では僕はと言うと、先に軽く触れた通り幼少期の頃からクルマ一筋できていた。幼稚園の頃は「トミカを買い与えておけば間違いない」と言われていたらしいし、その後いわゆる「レッツ&ゴー世代」の残党として今なおミニ四駆をやっていたりする。そしてクルマの趣味はと言うと読むマンガが「頭文字D」に「オーバーレブ!」、「湾岸MIDNIGHT」に「ナニワトモアレ」、「SS」、映画なら「TAXi」に「ワイルド・スピード」・・・と言うことからおわかりいただけるように、完全に走り屋のセンスであった。それであったがゆえに、女の子との縁はそうそうなかった。スポーツカーの類が世間から白い目で見られてしまう今であればなおさらだ。

おまけに勉強ができるわけでも、スポーツができるわけでもない。
顔が特別イケメンってわけでもない。

そう。僕に彼女など、できたら奇跡なのである----

そんな中、僕は縁起物を頂いた。
いくつかスポットがあったので適当に並んだら・・・自分の目の前でバイトの巫女さんが交代して神主さんのおっさんに代わったのであった。
こんな所にまで女に縁がないのかよと笑うしかない。

ただ、他の人に比べて心なしか少し縁起物が多いような気がした。気のせいだろうけど。

・・・

・・・周りはどこを見てもカップルだらけだし、縁起物の巫女さんにすら縁がなかった。
いつまでもこんな所にいても仕方ない、さっさと帰ろう。
縁起物をリアシートに置き、フロントドアのドアレバーに手を掛けようとした、その時であった。

「あのー。少し、お時間よろしいですか?」

え!?

ふと声がした方を振り返ると、そこには青黒いロングヘアーが美しい巫女さんがいた。
角が生えていることからすると、おそらくサキュバスだろう。
白衣と日袴をしっかりと着こなしてはいるのだが、その妖艶さとそのスタイルの良さ -そして大きなおっぱい- は隠し切れていなかった。ってか緋袴の帯でおっぱい強調してたような気さえした。
正直、めちゃくちゃエロい。露出なんて谷間すら一切ないのに、である。

「はい、なんでしょう。」
「実はですね、ただいま縁起物をお授けした方をご祈念して、神楽を龍神様に奉納して・・・」

・・・僕は、思わず彼女に見とれていた。
美しく、乱れの一つもないつやつやの黒髪。
全てを受け入れてくれそうな、優しい笑顔。
しわ一つない、巫女装束の完璧な着こなし。
そして、その巫女装束でも隠し切れない魅惑的なおっぱいとお尻のライン。

・・・正直、彼女の外見はモロにストライクだった。

「・・・もしもし。もしもーし?」
「は、っはいっ」
「ん?どうしました?」
「あ、ああぁいやそのぉぉ・・・!?!?」
僕は顔を真っ赤にして、あたふたしてしまっていた。

そして、彼女は僕に近づいてこう言った。
「ふふっ。もしかして、私に見とれちゃいました? ・・・それならそう、正直に言ってくれると嬉しいです♪」
満面の笑みで、僕の心臓がオーバーレブしそうだ。

すると、ついに彼女は僕にハグしてきた!?
「どうやら、そうみたいですね。お○ん○んもカタくなってます・・・♪
あ、そんなに照れないでくださいよ。カタくしてくれて、嬉しいんですから。

でしたら・・・あなたには、あなたにだけの私の特別なお神楽、お見せいたしますね。」
16/02/14 20:36更新 / ぜろトラ!
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■作者メッセージ
龍神様のお社で巫女さんがさっきゅん。
・・・何かが起こらない方がおかしいですよね。

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