読切小説
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ろんりー・まみー


 包帯だらけの女の子が、自宅の前の道路にピクリとも動かず倒れている。


 大学に行こうと玄関を開け、階段を降りようとした瞬間、倒れている女の子がそこにいた。
 その女の子は包帯で身体がぐるぐる巻きになっていて、しかも服を着ていなかった。
 僕は慌ててつまづきそうになりながらも階段を降り、その女の子に駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか?!」

 女の子は冷たいはずのアスファルトの上で仰向けになり、しかし安らかな顔で寝ていた。子供のようにあどけない顔つきは幼さを色濃く残している。
 日に焼けたような肌を隠すのは白い包帯だけで、上着は身に着けていない。お腹から腰にかけての部分と太ももは少しだけ肌が露出していて、肌の色も相成って健康的な肉付きに見えた。
 腰回りには古傷のような模様があるけれど、これはケガではないだろう。
 幸いと言っていいのか、胸や局部は包帯で何重にも覆われており目のやり場には困らない。が、胸は不自然なほど大きく膨らんでいた。
 背丈は僕より少し低い程度で、薄緑色の腰まで伸びたロングヘアはぼさっとしており、額に巻かれた包帯からぴょんとはみ出して跳ねている。前髪も目元を隠せるほど長かった。
 この女性、包帯だらけなのに外傷は見当たらず、近づくと寝息が聞こえてくる。

「生きてる……よな?」

 少なくとも遺体などではない事が分かって、僕はほっとする。
 しかし同時に、このわけのわからない状況をどうしたものかと悩むことになった。
 彼女はどこから来て、どうしてこんな所に寝ているんだ?

「すみません、あの、」

 静かに寝息を立てる彼女を起こそうと、僕は彼女の身体を包帯の上から揺すってみる。
 触った包帯はどこか不思議な感触がして、普通の布とはどこか違う。

「……?」

 何度か肩を揺らしてみると、女の子がゆっくりと目を開ける。しかし彼女の大きな眼は半眼ほどしか開かず、眠そうな表情を見せる。

「……」

 その無表情な顔のまま女の子は僕をじっと見つめている。純粋そうな瞳は犬猫のようにくりっとしていて、長い睫毛が印象的だった。 
 息はしているし、僅かにだが目も動いているので意識だってあるだろう。
 しかし、彼女は動かない。何もしゃべらない。

「だ、大丈夫、ですか?」

 僕はもう一度声を掛ける。

「……だいじょうぶ」

 静かな声で呟く彼女は慌てる様子もなく、ただひたすらにぼんやりしたままだった。






 ――それから十分後。
 僕は大学に行く予定を放棄し、彼女をなんとか起こしたあと、ひとまず僕の家に連れて行った。
 昨日めずらしく掃除をしておいたので、幸い部屋はあまり散らかっていない。

「狭いところだけど、どうぞ」

 女の子を家に上げるので僕は緊張していたが、彼女に緊張している様子はない。道路の上で寝ていた時と同じの無表情にも近い半眼のままで、目元が髪で隠れるせいか、どこかミステリアスな姿だった。
 ただ、彼女がじっとしているかというと、そうではない。
 彼女の視線はせわしなく動いていて、部屋の中をくまなく見渡したかと思うと、テレビやテーブルを調べるようにじっと見つめたり、そっと触ったりしていた。

「……やわらか」

  部屋を歩き回る彼女はカーペットの上に立つと動きをぴたっと止め、そのままカーペットの上に座る。それからその感触を確かめるようにすりすりと手で撫でていた。
 
「あ、はい座布団」

 クローゼットからクッションを出して僕が手渡すと、彼女は少し目を見開いた。

「! もっと、やわらか……!」

 女の子はもの珍しそうにクッションをじろじろ眺め、むにむにとつまんでその柔らかさを確かめていた。すると今度は床に置いて、楽しそうにぽむぽむと叩きはじめる。
 変な子だなあと思いながらも、犬や猫を見つめるような気分で僕は彼女の行動を観察していた。
 しばらくして彼女はカーペットの上で体育座りになって、太ももと胸の間にクッションをぎゅっと挟んだ体勢になった。表情は作らないままだったが、なぜか満足そうだ。
 テーブルを挟むようにして彼女の向かいに僕が座り、彼女に質問する。

「えーと……まず、君の名前は?」
「……? なまえ……は、」

 少し悩むような仕草の後、思い付いたように彼女は右腕に巻かれた自分の包帯を何回か捲っていく。
 すると、包帯の裏には『27』という数字が点在するように、一定の間隔で印字されていた。

「これ」
 
 少女はその『27』という番号を指さして答える。
 表情には出さなかったが、その異様な包帯を見て僕はぎょっとした。
 この包帯も彼女も、どう考えても普通じゃない。 一体この少女は何者なんだ?

「二十七……ってことは、にな、ちゃん?」
「……? ごしゅじんさま、『27ばん』って、よんでた。
 なまえは、ほかのひとに、つけてもらえ、って」
「そう、なんだ……。じゃあ、とりあえず『ニナ』でいいのかな」
「にな?」
「そう。君の名前」
「にな。わかった」

 こくん、と少女が、ニナが大きくうなずく。

「じゃあ君は自分の事を……たとえばどこから来たか、とか覚えてる?」
「……うーんと、わたしは、になは……まもので、」
「え?」
「にながいたのは……すなの、さばくの……」
「砂漠?」
「そう、そこで……、なに、してたっけ……」
 
 砂漠、ということは海外から来たんだろうか。
 確かに見た目――染めたような不自然さのない薄緑色の頭髪からして日本人ではない。
 しかし、たどたどしくもちゃんと日本語は喋っている。

「……ぼーっとしてた」
「えっ」
「まいにち、ぼーっとして、……だれかくるまで、まってた」
「うーん……? 誰か、君を育ててくれた人とかはいないの?」 

 僕がそう言うと、彼女は少し姿勢を正す。
 半眼のままではあったけれど、何かに気が付いたような感じだった。

「……わんわんみたいな、ごしゅじんさまがいた。わんわんってよぶと、よくおこった。
 にな、ごしゅじんに言われて、ぼーっと、してた」
「??」

 何が何やらさっぱり分からない。
 彼女は僕の困惑など気にせず、そのまま言葉を続ける。

「でも、たしか……このまえ、わんわん……ちがう、ごしゅじんさまによばれて……。
 じっけん? っていうの、した。
 わたしは、ねてるだけでいいって、いってた」

 そこまで話すと彼女は、太ももと上半身の間にあるクッションに顔を埋める。
 もしかして話したくない事情だったのかも――と思ったが、単にクッションの柔らかい感触を楽しんでいるだけみたいだった。
 彼女はクッションの表面に顎をこすりつけたり、ほっぺをぽんぽん当てたりしている。
 ……どうにも顔つきと行動のせいで見た目より幼く見えてしまう。

「じゃあ、そこには自分で帰れない?」
「……ねてて、きがついたら……さっきのとこ、いた。
 ここ、どこか、わからない。 さばく、どっちかわからない」
「えーっ、と……」

 聞けば聞くほど、僕には手に負えないような重大な事件のような気がする。 
 保護した所まではともかく、ここから先は警察に相談すべきことだ。
 いたって普通の学生である僕が首を突っ込む事ではない。

「……わたし、さばく、かえれない、」

 僕がテーブルに肘をついて悩んでいると、彼女が呟いた。

「だから、ここ、いたい」
「……え、」
「ここ、すごくやわらかい。ごはんも、ある。
 ここに、いたい」
「いやまあ、そうだけど、」

 何を言い出すのかと思えば、それはとんでもない発言だった。
 僕はすぐにそれを諌めようとしたが、

「……さばくいたとき、かたいもの、ばっかり。
 それに……いつも、だれも、きてくれない。
 たいくつだから、ぼーっとして、なんにもかんがえなかった」

 ぽつりとつぶやくその顔が、僕にはどうしても表情のない顔に見えなかった。

「でも……」
「めいわく……かけない……! すこしのおみずと、ごはん、だけでいい。
 あ。 あと、これ」

 そう言いながら彼女はクッションをぽむぽむと叩く。
 それは厄介事を抱えるだけにしか思えないのに、僕は彼女のお願いを断れそうになかった。

「……うーん、じゃあ、数日だけね。
 そこに帰るのにも色々と手続きとかありそうだから……」
「にな、いても……いい?」
「うん」

 彼女の言葉に僕が頷くと、彼女は少しだけ口元を緩める。

「……うれしい。あり、がとう」
「何日かの間だけだからね。分かってくれてるかどうか微妙だけど」
「なんにちか……だけ。わかった。
 じゃあ、これからは、ごしゅじんさま。わんわんじゃないけど、ごしゅじん。
 ここにいるあいだ、ごしゅじんさまって、よぶ」
「う、うん……まあ、いいけど」

 彼女は体育座りをしたまま、澄んだ目で僕をじっと見つめる。

「……ごしゅじんさま、おなかすいた。
 ごはん、たべたい」
「えっ」

 そのままニナはじーっと訴えるような視線を送ってくるので、仕方なくごはんを用意することにした。






「ごめん、食パンしかないや。
 今日の大学の帰りに買い物行く予定だったから」
「……」

 トースターで焼いたパンにバターを塗り、それから牛乳をコップに入れて彼女に出す。
 しかし彼女はテーブルの上のそれらをじーっと見つめたまま動かない。

「……ちがう」
「うーん、でも今はこれしかなくて……」
「わたし、たべるの……おとこのひと」
「え?」
「おとこのひとの……せいえき」
「せ、精液?」

 彼女の喋った単語でうろたえる僕を横目に、彼女は四つん這いで僕の方へすり寄ってくる。
 僕と彼女の距離はじりじりと縮まって、包帯の匂いと砂のような匂いが混じった香りがした。
 恥ずかしがる様子もなく、彼女は僕の股間にそっと触れる。
 
「ちょ、ちょっと!」
「うごいちゃ、だめ」

 その細い腕からは考えられない力で彼女は無理やり僕のズボンを脱がそうとする。
 抵抗もむなしく、僕は簡単にズボンをはぎ取られ、下着も脱がされてしまった。
 露わになった僕の股間に彼女は鼻を寄せて、くんくんと匂いを嗅いでくる。

「おとこのひとの、におい……」

 ニナに下着を脱がされ、目の前で性器を見つめられる羞恥心で僕は顔が真っ赤になる。
 僕の意思とは裏腹にもうペニスは強く勃起していて、彼女の目前に晒されていた。
 
「……いただき、ます」

 動かないようにするためか、小さな両手がペニスの根元を掴んだ。
 ニナは舌を伸ばし、ぺろっ、とペニスをなぞるように舐める。
 れろれろと、亀頭にたっぷり唾液をなじませるみたいに。
 ざらっとした舌の感触が敏感な亀頭を刺激し、びくんと僕は腰を浮かせそうになる。

「う、ううっ……」
「んー、んっ」

 次にニナは舌を裏筋のあたりにちろちろと這わせ、溝まで執拗にぬるりと舌を沿わせてくる。
 ペニスはすぐに二ナの唾液でヌルヌルにされてしまった。
 だが舌は動きを止めず、男の弱い部分を的確に、かつ激しく舐め回してくるのだ。
 ぺろっ、れろっ。
 にゅるる、にちゅっ、ぬちゅっ。 

「……はやく」 
「に、にな……ちょっとっ、」

 するとニナは亀頭を口に含んで、口内をもぐもぐと動かしてくる。
 舌で何度か尿道のあたりをぐりぐりと撫で、吸い付くように愛撫をしてきた。
 そして少しずつ顔を沈めていき、ペニスをその温かい口内へと飲み込んでいく。
 ペニスを奥まで飲み込むと、ちゅうっと吸い付きながら顔を上げ、
 さらにまたペニスを咥え込む――というピストン運動を繰り返す。

「……はやく、らひてっ」
「はぁっ、ああ、」

 にゅむっ、にゅむっ。じゅるっ、じゅるるっ。
 ちゃぷっ、ちゅぷっ……。
 二ナのピストン運動はどんどん激しくなり、吸い付きも強くなる。
 その強烈な愛撫に、僕はもう耐えられそうになかった。

「ううっ、で、出ちゃう、ニナ……っ!」

 ペニスを咥え込んだニナの口内に、僕は思い切り射精してしまう。
 びゅくん、びくんと飛び散る精液をニナはごくごく飲みほしていき、さらに吸い付きを強くする。
 射精されながらペニスにちゅうっと吸い付かれる刺激は、まさに夢見心地だった。

「あ、あぅぅ……」

 最後の一滴まで舐めとろうと、彼女はまたペニスに舌を這わせる。
 僕のペニスは綺麗に舐めつくされ、満足そうに彼女が息を吐いた。

「んっ、ごくっ、ごくん、ぷはっ……。
 ……せいえき、いっぱい……まんぞく」

 僕を上目遣いで見上げるニナの目はとても純粋で、つぶらだった。
 その目には、ここに匿ってもらう為の打算や、色仕掛けを仕掛けるような狡猾さは見当たらない。
 口元を拭いながらニナはカーペットの上で横になり、クッションを挟んで膝を抱え、猫のように丸くなる。
 そして無表情のまま、目を瞑った。 

「……ニナ、これからは僕が許すまで、こういうことはしちゃダメだからね」
「どういう、こと?」

 僕の言葉に反応して、ニナはぱちっと目を開ける。

「精をあげるのは、僕が良いって言った時だけ、ってこと」
「……うん」
「それと、この家からは勝手に出ちゃだめ。……分かった?」
「……わかった」

 寝転んだまま彼女は頷き、それからまた目を瞑る。
 ニナが安らかな寝息を立てはじめるのはすぐだった。
 パンとコーヒーは手付かずで、もう冷めている。ニナは普通の食事を取る気はないのだろうか?

「……うーん」

 僕は頭を掻きながら、この子をどうするか、そして今からでも大学に行くべきかどうか迷っていた。








 僕が大学から自宅へ帰ってきたのは夜の七時ごろである。
 講義を聞いている間もニナのことで頭がいっぱいで、全く集中できなかった。
 僕は1K間取りのアパートの階段を上り、玄関を開ける。部屋の電気は付いていなかった。

「ニナ?」

 声を掛けながら部屋の電気を付けると、カーペットに寝転んだままのニナがいた、僕が大学に行く前と位置はほとんど変わっていない。
 どうやらニナは寝ているようで、まだ起きる様子はない。
 僕はとりあえず彼女を起こそうと、包帯の巻かれていない頬のあたりにそっと触れる。
 その瞬間、

「ふゃっ!」

 ニナの身体がびくん、と跳ねた。同時に一瞬だけ表情が変わり、すぐにいつもの仏頂面になる。
 ほんの少し頬を触っただけなのに、ニナの反応はあまりにも激しい。
 僕もびっくりして声を上げそうになった。
 そして表情を動かさないまま、ゆっくりニナが口を開く。

「……おはよう」
「お、おはよう。もう夜だけど」

 結局ニナの事をどうするか、考えは纏まらなかった。
 警察に行こうにも『道端に包帯だらけの女の子が寝てました』なんて言えるわけがない。
 それに、こんな身柄も素性も分からない子の居場所を探してもらえるんだろうか。
 どうしよう? どうすればいい?
 頭を抱える僕にニナは、

「……ごはん、」

 と、朝のように強引にすり寄ってくるのだった。







 ニナに『ごはん』をあげ、僕も夕飯を食べ終える。

「ニナ。ほんとにこういうご飯はいらないの?」
「……いらない。もう、おなかいっぱい」

 結局、夜もニナは普通の食事を取らなかったけれど、お腹を空かせている様子はない。 
 お腹を鳴らしたりはしてないから、今の所は大丈夫なのだろうけど……。
 適当にテレビを点けておくと、ニナも興味を持ったのかテレビの方を向いた。
 そのうちホラー番組が始まって、ニナはいつもの仏頂面でそれを見ている。

「……(ぽむぽむ)」

 単調なシーンが続いていると興味を無くして、クッションを叩く。

「……!(ぎゅっ)」

 霊が出て驚かせる場面では目をじっとつむっていたし、手や足はびくっと動いていた。
 無表情に思えるニナだけど、何も感じていないわけではないらしい。


 そうしてニナとテレビを見ている途中、突然インターホンが鳴る。


 立ち上がって受話器を僕が取ると、そこから密やかな女性の声がした。

「すまないが、こちらに『27番』が邪魔していないか」

 『27番』という単語に僕は背筋が凍る。
 言うまでもなくそれは、ニナと関係する誰かがここに来た、という事だった。

「あなたは……?」
「彼女の主人……いや、”管理人”という事になっている。
 時間が許せば、僭越ながらお話しさせていただきたい……のだが」
「……分かりました」

 受話器を置き、玄関から覗き窓を確認する。
 そこにいるのはすっぽりと頭から黒いローブを被った、いかにも怪しい人物だ。他に人影はなく、窓の外の様子も一応伺ったが、怪しい人物はいない。
 彼女の言葉を鵜呑みにしたわけではないが、ニナの素性を知る為にも、このまま来客者を追い返す事はできなかった。
 僕が玄関の鍵を開けチェーンを外すと、ゆっくり扉が開いていく。

「……お、お邪魔する」

 黒のローブを被った女は深く礼をする。背は僕と同じぐらいで、はっきりとは分からないが痩せ気味に見えた。
 端整な顔立ちはローブの下からでも伺えて、暗緑の長い髪が顔の横から二つ垂れている。
 その髪や首元には金に光る妙なアクセサリーのようなものが付いていた。
 ローブの陰で目元は暗いが、そこから覗く鋭い目つきは中性的で、気高さを感じる。

「あなたの言う『27番』――ニナは、確かにここにいます。上がってください」
「う……うむ。 失礼する」
 
 女はきょろきょろと顔を左右させながら部屋に上がる。そのときローブの裾を踏んで躓きそうになっていた。

「なにか気になる事でも?」
「あ……いや、すまない。その……て、なんだ」
「え?」

 言葉が聞き取れず、僕は聞き返す。

「……お、オトコの家に入るの……初めてなんだ」

 何を言っているんだと思ったが、彼女の顔は冗談を言っているようには見えない。被ったローブの陰になっていても頬が赤いのが、僕にも分かった。
 僕はその言葉に目を丸くしながら、部屋に続く扉を開ける。

「おお、27番! 心配したぞ、まったく……だが元気そうでなによりだ」
「……あ。まえのごしゅじんさま」

 ローブの女性はニナを見ると駆け寄り、彼女の頭を撫でていた。

「……ん? 前のご主人?」
「いまは、ごしゅじん、あのひと」

 そう言ってニナが僕を指さす。
 その様子を見て、ローブの女性が振り返って僕を見る。

「……。なるほど、な」
「あなたは彼女が……ニナが誰なのか知っているんですか?」
「ニナ? ……ああ、そういうことか。
 分かった。彼女について少し話をしよう」
「お願いします。……どうぞ、座ってください」
「ああ、ありがとう」

 座布団を敷いて僕とローブの女性はテーブルに着き、向かい合って座る。
 ニナは体育座りのままテレビに齧りついていた。

「まず、君は魔物というものを知っているか?」
「魔物? 何の話ですか?」
「そこにいる27番……いや、ニナだったか。
 彼女はマミーという魔物だ。あの体を包む包帯と、腰回りにある模様が特徴になる」
「マミー……というと、包帯でぐるぐる巻きの怪物ですか?」
「そうだな、前時代はそれに近い姿だったとも言われている。
 彼女もまた、死者が魔力を得て、現生に蘇った魔物だ」
「魔物……って言っても、あの子がそんな恐ろしいものには見えません」
「まあ姿はともかく、彼女が魔物であるのは確かだ。
 ……彼女の様子を見ると、君はどうやら彼女に『精』を与えたらしいな」

 ぎくり、と僕の身体が反応する。
 彼女の方から襲ってきたとはいえ、あんな幼気な子を相手に淫らな事をしたのは心が痛い。

「うっ、そ、それは、」
「あの落ち着いた様子をみれば、彼女が飢えていないのは分かる。
 マミーという魔物は、男の精を食料として生きているのだ。
 ひとたび飢えれば、君を力づくでも押し倒してしまうだろう」
「そ、そんな話あるわけが……」

 事情の分かる誰かが来たかと思うと、到底信じられないような単語ばかりが飛び出してくる。
 しかし、ローブの女性は真面目な表情を保ったまま。

「すべて事実だ。種は違えど私もまたアヌビスという魔物――この姿を見てみるといい」

 そう言って、ローブの女性はかぶりを振って頭のローブを取る。 
 そこには犬のようなふさっとした黒い耳がぴょこんと二つ立って動いていた。
 
「……コスプレじゃあないんですか?」
「こすぷれ? なんだそれは」
「こんなもの、本物のわけが――」

 僕はすっくと立ち上がり、その女性の黒い犬耳をつまんでやる。

「ちょ、こら――みゃっ!」

 毛に覆われたそれは柔らかく、ぴくん、びくんと脈動している。僕が力を入れると、触ってない片方の耳がぴくっと跳ねた。
 ……動いている。脈も神経もちゃんとある。

「い、い、いきなり何をするかっ!」
「ほ、本物……なんですか……?」
「あああ、当たり、前だっ、に、にぎにぎするなっ! はやっ、はなへっ……!」

 僕が手を放すと、女性は崩れた表情を直しながら僕を睨む。

「ふう、ふう……まったく、人の耳に気安く触れるんじゃない!」
「……疑って、すみません」
「わ、分かればいいんだ……とにかく話を戻そう。
 私がそうであるように、彼女もまた魔物であることは理解できたか?」
「まだ半信半疑ですが……一応は」
「よし。……そこで、君に頼みがある」

 犬耳の女性はこほん、と一度咳払いをする。

「彼女――ニナを、しばらくここに置いてやってはくれないか」
「あの子を……? どうしてです?」

 僕の家に彼女を置いて、一体何の意味があるのか。
 そう聞こうとした瞬間、
 
「……彼女は生前、みなし子だったそうでな」

 犬耳の女性はとても悲しそうに呟く。
 それ横で聞いているはずのニナは無表情のままで、言葉の意味など理解していないかのように黙ってテレビを見ていた。
 ニナはその事を覚えていないのだろうか。
 それとも、覚えているけれど聞いていない振りをしているのか――。

「そうは見えんかもしれんが、この子は繊細で、とても寂しがり屋だ。
 しかし私では、その穴を埋めてやることができない。
 あの子が求めているのは『精』だけではないからな……」
「……」
「私は管理者であると同時にまた、彼女たちの親代わりでもある。
 だから頼む、このとおりだ」

 そう言って彼女は頭を下げる。犬耳も少し垂れていた。

「あ、頭を上げてください。
 僕に出来ることなら力添えはしますが……」
「……ごしゅじん、」

 さっきまでテレビを見ていたニナは表情を変えないまま、僕たちの方を向く。

「わたし……まだ、ここにいたい」

 静かに、しかしはっきりとそう言ったニナの顔を見て、僕は答える。

「分かりました」
 



 


 それからあの犬耳の女性――アヌビスという魔物は、マミーであるニナの特徴を説明してくれた。
 食事は今まで通り、『精』があれば何も問題はないそうだ。
 そして、何か用があれば連絡をくれ、と携帯電話の番号(魔物でも使っているらしい)を僕に伝えた後、それから彼女は帰っていった。
 そして「無愛想な子だが、優しくしてやってほしい」、と。

 マミーは砂漠に生きる魔物なので風呂に入る習慣はないらしい。
 彼女も自分から入りたがる事はないはずだと聞いたので、ひとまず僕だけ入る。
 お風呂から上がって僕が着替えると、

「……においがする」

 と、僕の髪の匂いをニナがくんくんと嗅いできた。
 さすがに僕も照れくさかったけど、「優しくしてやってほしい」という言葉を思い出し、ニナの好きにさせておいた。
 まるで動物のように遠慮なく身体を近づけてくるので、色々と困ってしまう。
 もう日が変わりそうな時間になっていたので、寝る支度を始める。
 
「ニナ、ベッドで寝る?」
「べっど?」
「これのこと。こっちの方が、カーペットより寝やすいはずだよ」

 僕が手招きすると、ニナはベッドの上に恐る恐る上がると、布団や毛布の柔らかさを確かめているのか、ぽんぽんと手や足で布団や枕を叩いていた。

「……ふわふわ」
「じゃあ、ニナはこっちね」

 ニナの気が済むまで様子を見て、落ち着いたところでニナを寝かせて枕を置き、布団を掛けてやる。 

「……ふわふわ、ふたつに、はさまれた」
「よし、じゃあおやすみ」

 僕は床に古いマットレスを敷いて、そこに予備の毛布を使って寝る。
 テレビを消して、それから電気を消すと、部屋の中は静けさに包まれる。

「……ごしゅじん。
 どうして、にな、いてもいい?」
「え?」
「ごしゅじん、ごはんくれる、にな、ごはんもらう。
 けど、にな、なにもかえせない。 ごしゅじん、そんする」
「損なんかしないよ。 そんなこと考えなくても大丈夫だから」
「まえのごしゅじんも……こたえ、いわなかった。
 うれしいのに――なのに、せつない」
「ニナ……」
「それに……ごはんくれるとき、ごしゅじん、いつもくるしそう。
 にな、ごしゅじん、げんきにしたい」
「……え?」
「にな、やわらかいのぎゅっとすると、げんきになる。
 だからごしゅじんに、になのこと、ぎゅっとしてほしい」
「ぎゅっと、って……」
「にな、あのぽむぽむほどじゃないけど、やわらかい。
 ぎゅっとしたら、ごしゅじんも、げんきになるから」
 
 ニナの身体をぎゅっと抱きしめる……それはとても魅力的な行為だった。
 僕はごくりと唾を飲み込んでゆっくり起き上がり、ニナの寝ているベッドに近づく、
 これはやましいコトじゃない、ニナの気持ちを理解し、満足させてあげるための行為だ――。
 心の中で言い訳しながら、僕は声を掛ける。
 
「じゃあ……入るよ」

 僕はそっと布団の中に入っていく。中はほんのりとニナの身体で温もっていた。
 暗い部屋の中、薄らと見えるニナの身体。
 ほのかに漂ってくる包帯と肌の匂い。
 ベッドは大きい方だが、二人で並んで寝るとなるとさすがに狭い。どうしても僕とニナはそれなりにくっついて寝る必要がある。
 向かい合うのは流石に気恥ずかしいので、 

「えと、ニナ。こっちに背中を向けてくれるかな」

 僕の言葉に従って、仰向けだったニナはぐるんと寝返り、僕に背中を向ける。
 薄緑色のニナの長い髪はふわっとしていて、砂漠に住む魔物のはずなのにトリートメントをしたみたいに綺麗だ。うっすらと若草のようないい匂いがする。

「……」

 いざ布団に入ると、緊張して中々近づくことができない。 
 ゆっくり、ゆっくりと僕はニナにくっつき、細い肩に包帯の上から手を這わせる。
 ニナの体温は包帯越しでも熱く感じるほど温かい。

「……ん」

 その感触が心地よくてさわさわと触れていると、ニナがわずかに声を漏らす。
 手を動かし、少しだけ肌が露出している腋のあたりへ手をやると―― 

「ふゃ……!」

 ニナがびくっと震えて、驚きの声を上げる。
 マミーは包帯を身体に巻いているけど、その下の肌は非常に敏感になっているらしい。
 これはアヌビスさんが教えてくれた通りだ。

「んん……」

 もぞもぞとニナが身体を動かす。
 ほんとはもっと触れていたいけど、あんまり触ると不機嫌になるかもしれない。
 僕はニナの腰あたりに腕を這わせ、そこからやんわりと抱きしめる。

「うん……柔らかい、ね」

 ニナの身体は程よく肉付いていて、とても温かい。
 体をくっつけると彼女の髪や肌の匂いがより強くなって、頭が痺れそうになる。
 確かにニナの言うとおり、ぎゅっとしていると元気が出てきそうだ。

「……にな、もっと、やわらかいとこ、ある」

 ニナの温かな手がそっと僕の手を掴む。
 そしてそのまま胸のほうへ持ち上げて、僕の手がふんわりとした弾力の何かに当たる。
 それはおそらくニナの乳房。

「ちょ、ちょっとニナ」
「ん……ここ、やわらかい……から」

 触るだけで気恥ずかしいその場所を、ニナは簡単に僕の手に納めさせる。
 僕もその感触を確かめたくて、思わず掴む力に手を入れてしまう。
 
「……あっ、」

 ふくよかな心地が手から伝わって、安心する気持ちと、興奮して落ち着かない気持ちが混ざり合う。
 揉みほぐすたびにニナの口から熱っぽい声が漏れて、ますます僕は変な気分になっていく。

「んぅっ……」

 ……だめだ、これ以上触っていると僕の方が我慢できなくなりそうだ。
 股間は痛いぐらいに膨らんでいて、でも今それを処理するわけにはいかない。

「に、ニナ。もうじゅうぶん元気になったから、そろそろ寝よう」
「……ん……」

 僕は半ば無理やり手をひっこめ、ニナから少しだけ離れる。
 離れ際に漏れた声は抑揚のない、静かな声だった。

「おやすみ、ニナ」

 熱くなる身体を抑えながら、僕は強引に目を閉じた。
 明日は金曜だ、明日が終わればニナの面倒もちゃんと見てあげられるだろう――。






 
 ――朝目が覚めると、ニナは横に居なかった。
 代わりに感じる暖かな感触と重み。
 僕の上で寝転んで、がっしりとしがみ付いたまま動かないニナ。

「……おはよう」

 僕が声を掛けると、ニナの身体がぴくりと動く。
 そのままずりずりと動いて僕の下半身の方へ動き、僕のズボンに手が掛かる。

「ご、ごはん?」

 生理現象ではあるが、僕の股間は大きく膨らんでいる。
 今日も朝から搾られてしまうのか――と思ったが、ニナの手はそのまま動かない。

「……い」

 すると、ゆっくりニナの手が僕のズボンから離れていく。
 それからニナの身体は布団から這い出て、カーペットの上でうつぶせになる。
  
「……いら……ない」
「え?」
 
 「いらない」と言ったのに気づくまで、少し時間が掛かった。

「どうしたの?体調でも悪い?」
「…………ない……よ……」

 ニナは突っ伏したままで、その声には明らかに力がない。
 そういえば昨日最初に会った時も中々起きてなかったし、もしかしたら朝が弱いのだろうか。
 ともかく、今日は僕も大学に遅刻できない。
 早く用意をして出発しないと。
 
「じゃあニナ、僕は出かけるから……留守番は頼むね」
「……」

 ニナの微かな返事のあと、寝息が聞こえた。
 ほんの少し心配しつつも、急がないと遅刻してしまう時間になっていたので僕は慌てて家を飛び出す。







――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ――身体が乾く。渇く。
 潤したい。満たされたい。

 ああ、だめ、抑えないと。
 これ以上、迷惑かけちゃだめ。

 襲いたい。襲いたい。襲いたい。
 満たしたい。満たしたい。満たしたい。
 
 このやわらかいの、ご主人の匂い。
 体が熱い。あそこを触りたくて、仕方ない。

 だめ。ごしゅじんは、優しいひと。
 これいじょう、ねだっちゃだめ。

 助けて。助けて。たすけて。

 もうだめ。
 がまんできない。

 あと一分。
 あといっぷんだけ。

 がまんして。
 
 あと、いっぷん だけ   

 がまん、

 もう、

 だめ




――――――――――――――――――――――――――――――――――









 大学から帰ってきて、買ってきた物を置きながら玄関に入る。
 金曜の夜と言う事もあって僕はそれなりに上機嫌だ。
 冷蔵庫に食糧品を入れ終えてから、そして部屋に続くドアを開けた。

 その瞬間、むわっとした濃い匂いが鼻を突く。
 それはニナの身体の匂いを何倍も濃くしたような、とても淫らな匂い。
 部屋の中には、身体にある包帯を殆ど解いてベッドの上に寝ているニナの姿があった。
 ベッドでうつ伏せになったままニナは、大きく深呼吸をしている。
 
「ごしゅじんっ……すーっ、はーっ……」
「ニナ……?」

 僕は慌ててベッドの上のニナに駆け寄る。
 近づくと匂いがさらに強くなって鼻をくすぐり、頭がくらっとした。
 解かれた包帯はニナの身体の下になっていて、なにかの液体でじっとり濡れている。 
 彼女の身体を起こし、仰向けにして寝かせようとすると、

「んやあっ……」
 
 ニナの素肌に触ったせいか、艶っぽい声が上がる。
 肌にはいくつも汗が浮いていて、触れるととにかく熱く感じる。
 それに下半身のあたりは汗以外にも液体だらけになっていた。

「……ごしゅ、じん……っ」
「に、ニナ――んむっ、」

 ニナは僕の首に手を回し、とつぜん顔を近づけてキスをしてきた。
 ぬるっとした唾液まみれの舌が、強引に僕の唇をこじ開けてくる。
 くちゅ、ぬちゅっと、卑猥な水音が響いた。

「んうっ、ん、」

 激しく、けれど丁寧にニナの舌が口の中を蠢いて、僕の唇と唾液を渡しあう。 
 ニナの顔はいつものようにあまり表情が無いけれど、顔は真っ赤になっている。
 息も荒いし体温も高く、まるで風邪を引いているみたいだ。

「……はぁっ……はぁっ、」

 ニナは少し離れたかと思うと、僕をすごい力で僕を持ち上げてベッドに引き込んでくる。
 僕は色んな液体で濡れたベッドに寝かされて、その上からニナに伸し掛かられた。

「ちょ……ちょっと、ニナ……!」

 ニナの力は予想以上で、男の僕でさえ抵抗できない。
 僕のズボンと下着は無理やりはぎ取られ、それからニナが小さく舌なめずりをする。

「ごしゅ、じん、の、おちんちん」

 我慢出来ないとねだるようにニナが体をよじらせる。
 精一杯に勃起した僕のペニスを何度かぺろぺろと舐めた。

「おいし、そう、」

 そして愛おしそうに、ぬるぬるに濡れそぼった自分の膣穴を擦り付ける。
 くにゅ、くにゅっと彼女の入り口がペニスをゆっくりと撫でた。
 ぷにっとした心地いい膣肉の感触と共に、亀頭へ愛液が塗りつけられていく。
 焦らすようなニナの腰使いに、僕も興奮を隠せなかった。

「あ……おちんちん……はいっ、ちゃう……っ」

 亀頭の先端が膣の入り口にめり込んでいく。
 ちゅっ、ずぶっ――ずにゅっ。
 そのまま一気にニナは腰を落とし、根元までペニスを飲み込んでしまった。
 ねっとりと熱い肉壁が、優しくまったりとペニスを締め付ける。
 その温もりだけでペニスが溶けてしまいそうなほどの快感が走った。

「――あぁぁぁぁっ♪ ――うぅぅぅぅっ♪」

 ニナの身体がびくん、と大きく痙攣する。ニナの口が開いて、そこから唾液が僕の胸に垂れる。
 力の抜けたようなだらしない表情は、初めて見るニナの表情だった。
 同時に膣が動いて、ぎゅっ、ぎゅっと締め付けてくる。
 それは強烈で、ペニスを握りこむみたいに激しい圧迫感。
 
「――、まだ……ま、だぁ……もっとぉ……っ♪」
「あ、あぅぅ……っ」

 突然ニナの身体が動き始め、腰を振り乱す。
 ぬぷっ、ずちゅっ、にちゅっ。
 ぬりゅっ、にゅるるっ。
 ずぶりと膣の奥まで腰を沈めて、ぐちゅりぐちゅりと音を立ててながら上下に動く。
 そのピストン運動はとにかく激しく、無我夢中に。
 熱い肉壁は無数のヒダでペニスを擦り、カリをぐにぐにと刺激し続ける。

「――っ♪ ――ぁ♪」

 ニナの声はもう声にならず、ただただ甘い声を絞り出し続ける。
 目の前で狂い乱れるニナの痴態と、喘ぎ続ける表情がとても印象的で、愛おしい。

「あ、あぁぁっ……」

 僕のペニスはもう我慢できず、射精してしまう。
 どくん、どくんと脈打って、ニナの膣奥へたっぷりと精を吐き出した。

「ぁ――♪ きたぁっ……♪ しぇいえきぃっ……♪」

 歓喜の声を上げながらも、ニナの腰の動きは止まらない。
 精液を搾り尽くそうとするかのように膣は収縮し、吸い取っていく。
 腰の動きはさらに激しさを増して、僕の頭の中は快楽に支配される。

「ひぁ――あ、ぁ、っ♪ もっと、、ぉ……♪」

 涙と涎を振り乱しながら、喘ぎ続けるニナ。
 そんな彼女にどうしようもなく興奮して、僕のペニスは萎えようとしない。
 二度目の射精もすぐそこまで来ていた。

「ぁぁ――、うぅ――っ、――っ……♪」

 ぐちゃぐちゃの液体で体中を汚しながら、意識を失うまで僕とニナは絡み合っていた。
 まるで理性を失くした動物のように。














「……じん。 ……しゅじん。
 ごしゅじん……だいじょうぶ……?」

 ニナの声。
 温かい感触と若草の香りが、僕の身体を包んでいる。
 僕の胸にニナの頭があって、僕を覆うみたいにニナが抱きついていた。
 彼女は裸同然の姿になっていて、申し訳程度に包帯が巻いてある程度だった。
 そしてそれは僕も同じで、なぜか僕の身体にも少し包帯が巻き付いている。ニナが巻いてくれたのだろうか?
 
「ん……」
「……あ、ごしゅじん……!」

 僕が腕を動かすと、ニナの嬉しそうな声が聞こえる。
 そしてさっきまで何をしていたのかぼんやり思い出して、急に僕の顔が熱くなっていった。

「に、ニナ? これは一体……」

 ニナは僕が声を掛けると、うつむいて僕の胸に顔を押し付ける。

「……ごしゅじん……ぐすっ……」

 押し殺したようにすすり泣くニナの声。
 状況が分からない僕は困惑したままだ。

「やだ……すてないで……ごしゅじん……おとうさん……!おねがい!すてないで!
 にな、これからいいこになる、いいこになるから……すて、ないでっ……」

 僕にしがみ付くニナの両腕にぐっと力が入って、ぎゅっと抱きしめられる。

「ごしゅじん……!ゆるして……おとうさん……ぐすっ……ごしゅじん……!」

 ニナは何度も叫んで、その度に嗚咽を漏らす。
 お父さん。ご主人。ニナの口からはその言葉が混ざり合っていた。
 もしかしたら僕は、ニナの哀しい思い出を呼び覚ましてしまったのかもしれない。

「落ち着いて、ニナ。僕はどこにも行ったりしないから」

 僕の胸で泣き続けるニナの頭を僕はそっと撫でる。
 ぴんと跳ねた薄緑色の髪を梳かすように、ゆっくり、ゆっくりと。

「……ぐす、……ぐすっ……ほんと、に……?」
「大丈夫、大丈夫だよ。
 ずーっと、抱きしめていてあげる」

 柔らかい髪を撫でるうちに、ニナの嗚咽は少しずつ収まっていく。

「……ごめんなさい……ありがとう……」

 それからニナが落ち着くまで、僕はニナを抱いている事にした。



 そして数分後。
 ニナは落ち着いたみたいだけど、まだ顔は上げてくれない。

「……ごしゅじん、になのこと、きらいになった?」
 にな、やくそく、やぶった……から」
「そんなわけないよ。ニナは僕のために気を遣ってくれてたんだから」
「……でも……」

 今日の朝に『ごはん』をねだらなかったのは、きっとニナも我慢していたんだろう。
 どうしてそんな事をしたのか、今なら僕にも分かる気がする。

「……にな、ごはんないと、へんになる。くるしくなる。
 むねのなか、きゅっとなって……なんにも、わからなく、なって。
 けど、ごはんもらうたび、ごしゅじん……くるしそう。
 つらくて、なきそうなかお……してる……」

 ニナはまた泣き出しそうな声になって、僕の胸に顔を押し付ける。
 僕は彼女の脇に手を添えて抱き抱え、、ごろん、と寝返りをうった。
 今度は僕が、ニナの上で伸し掛かる位置になる。

「ごめんね、ニナ。
 僕がちゃんと言わなかったせいで、辛い思いをさせちゃったみたいだ」
「ごしゅ、じん……?」
「大丈夫、僕はニナにごはんをあげるのも、ニナと一緒に居るのも、とっても楽しいよ。
 だから……僕はもっと、ニナを喜ばせたい」

 包帯の解けたニナの身体は肉付きの良さが露わになり、日に焼けた肌が鮮やかに映える。
 その柔らかそうなお腹をくにっと触ると、

「んやっ……! に、にな……そこ、びんかん、だめ、」

 色っぽい声でニナは身体をくねらせ、硬い表情を崩しそうになる。
 人間とは違い、マミーの素肌は非常に敏感だ。
 僕は更に下へ手を滑らせ、おへそから下腹部へ、恥骨を通って、むにっと柔らかい太腿へ。
 肌が指をなぞるたび、ニナは嬌声を漏らした。

「やぁ、んぅ、ごしゅ、じんっ……にな、おかひく、なるっ……」
「いいよ、もっとニナがヘンになる所、見せて……!」
「ふゃぁ、ああっ……あ、あたま、まっひろ、にぃっ――ひゃぅぅっ!」

 内股の敏感な部分を思いっきり撫でてあげると、ニナの身体が大きく痙攣し、絶頂を迎えた。
 それから両足を開かせて、そこにあるおまんこを晒け出させる。
 ヒクヒクとニナの股間は卑猥に蠢いて、ぱくぱくと入り口を開閉させていた。
 早く欲しい、とおねだりをするみたいに。

「ニナ、入れるよ……!」
「ふぇ……?あぁっ……ら、らめぇ……いま、びくん、びくんってぇ……んみゃぁっ!?」

 絶頂を迎えたばかりのニナに、僕は容赦なく自分のペニスを突き入れる。
 ぐにゅっ、ぐにゅっと脈動し続ける膣内は熱く、どろどろになっている。
 さっきあれだけ乱れていたのに、締め付けは全く緩むことがない。
 じっとりと絡みつく肉壺は、まさに極上の快楽。

「き、気持ちいいよ、ニナっ!ぬるぬるで、ぐちょぐちょで……っ」
「あぁっ、にな、になぁ、ほんろに、ひゃぁっ、うぅっ、だめぇっ――!」

 ずちゅ、ずちゅっ!
 ぬぷっ、ぬぷぷっ、ぬちゅっ!
 ピストンを続けるたび、ニナの身体は更に痙攣しつづけ、快感に打ち震えている。
 
「ひぁぅ、うぅっ、んあぁっ、うぅ――っ♪」

 さらに僕はニナの乳房を揉んで、指で乳首をこりこりと転がす。
 力なく開いたニナの唇から涎がこぼれ、瞳は涙で滲んで焦点が合わなくなっていた。
 ニナの表情はもうだらしなく緩んでいて、たまらなく愛おしい。
 もう抗う元気さえないのか、少しずつニナの声は言葉にならなくなっていた。

「で、出るよ……ニナぁ……っ」 
「ぁ――、んぅ――……っ♪」

 僕はペニスを奥まで突き入れると、ニナの中に残らず注いだ。
 びゅくん、びくん、どぷぷっ……。
 搾り取られるようなその感覚に、僕の頭の中も真っ白になってゆく。
 
「は――っ、はぁ――っ、んん――……♪」 

 ペニスを膣から引き抜くと、少しずつニナの痙攣も収まっていく。
 それでもまだ余韻に浸っているのか、焦点の合わない目で嬌声を漏らし続けている。
 普段は絶対に見れない、快楽にとろけてしまったニナの表情。
 そんな愛おしいニナの頭を、僕はぎゅっと抱きしめる。
 
「ごしゅ、じん……っ、ごしゅじん……♪

 震えて力の入らない体で、ニナもぎゅっと僕を抱きしめてくれた。











 ……ベッドはもうびちゃびちゃで、掃除するのにとても時間が掛かった。
 それでも何とか昼には二人とも起きて、一仕事の後ベッドにまた戻る。
 今日が土曜日で助かった、というところだ。

 二人で布団に入り、きゅっとニナの頭を抱きしめながら、髪を撫でる。
 ……そうだ、明日の予定を思い付いた。

「明日は、いっしょに服を買いに行こうか」
「……ふく?」
「うん。包帯だけだと、色々不便だから」
「……にな、ほうたいでも、さむくない」
「うーんと、そうかもしれないけど、そうじゃなくて……
 包帯しか着てないと、ニナがお出かけできないから」
「……ふく、あったら、いっしょにそと、いける?」
「うん。 もちろんだよ」
「!……じゃあ、ふく、きる! ……あ……でも、」

 ニナの嬉しそうな声。
 と思ったら、今度は落ち込むような声になっていく。
 僕の胸の中でニナの頬が熱くなっていく、気がした。

「……にな、ちょっと、うそついてる」
「え?」
「にな ……むねのとこ……おおきく、したくて。ほうたい、いっぱい……つかってた。
 だから、ほんとはもっと、ちっちゃい……。
 ごしゅじん……おおきいほうが、いい、よね……?」

 思ったよりニナは深刻そうな声で話す。
 もう昨日の夜から僕はずっと、彼女の身体を眺めてきているのに――。
 それがなんだが面白くて、僕は少し吹き出してしまった。

「……わらった!」

 ほんの少しだけれど、怒ったような声を出しながら、ニナが僕の身体をぽかぽかと叩いてくる。
 今どんな表情で、ニナは僕に怒っているんだろう。
 
「ごめんごめん、ちゃんと綺麗な服を見つけてあげるから、許して」

 こうしてニナが、僕に確かな感情を返してくれるようになる――。
 それだけでとても、布団の中は温かくなっていく気がした。

15/02/20 23:15更新 / しおやき

■作者メッセージ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

前回でゲイザーちゃんが(実質)20作書けたので一区切りになりました。
というわけで、今回はマミーちゃんです。
言葉ではなく行動で、無表情に甘えてくる子がぼくはだいすきなのです。そんな雰囲気をクロス様のマミーちゃんから感じ取りました。

これまでゲイザーちゃん一辺倒ではありましたが、私は生涯一人の魔物しか愛さないジョースター家のような聖人にはなれないようです。
もちろんゲイザーちゃんはまだまだ書くけどね!!ね!!

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