読切小説
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年に1度の大決戦!!
 その決戦の始まりは、とある些細な出来事だった。

 当時8歳の魔物の子供が、突然欲情してしまい、前から気になっていたあの子を押し倒してしまった。

 その原因を大人達が探ってみると、畑の中にサソリのような形をした1匹の虫がいた…………

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「皆の者、今年もとうとうこの日がやって来た!!
 去年は皆の畑が全て食い潰されてしまったが、今年はそうはいかない!!
 皆、気合いは入っているかーーー!!」

「「「おぉ!!」」」

「畑の作物に命を賭けれるかーーー!!」

「「「おぉ!!」」」

「今年こそは、絶対に守り抜くぞーーー!!」

「「「おぉーー!!」」」

「それでは、解散!!」

 その日の村は、何かが違っていた。
 あちこちで、『アイツ等が来る』、『アイツ等か…』等と囁かれており、男達は、完全武装をしていた。

 そして、『アイツ等』が来たのは、男達が解散してものの数分後の事だった。

「『アイツ等』が来たぞーーーーー!!」

 突然、バリケードの外にいた男が叫んだ。

「数は、数はいくらだ!!」

「数500、その内の1体はリーダーです!!」

「…よし、それでは男達は前へ、女達は家の中へ避難するんだ!!
 例外として、魔法が使える女達は、火属性以外の攻撃で『アイツ等』を対処すること、良いな!!」

「「「はい!!」」」

「もうそろそろ来るぞ、各々、武器を構えろーー!!」

 皆が、隊長の指示で武器を構えたときだった。
 『アイツ等』は、バリケードを越えて村の中へと進入してきた。

「それじゃあリーン、そっちは頼んだぞ?」

 リーンと呼ばれたアヌビスの女性は軽く頷いて、

「分かっている。貴方も無茶はしないでね?」

「あぁ、分かっている。」

 と軽く交わした後で、別れた。

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 『アイツ等』の姿は異様だった。
 まず、全身が黒く、そして鉄の様な鎧を持っていた。
 外見はサソリだが、犬と同じくらいの大きさであり、尻尾には目が1つ在った。
 俗に言う『魔界甲殻虫』と呼ばれる、農家の天敵だった。

「昔は一隊を率いていた俺の実力を見よ!!」

 そう言って、隊長と呼ばれた男が逃げていく虫たちに棍棒の1振りをお見舞いする。
 すると、それに当たった虫たちは数メートルほど吹っ飛んだ後、来た道を引き返していく。

「おぉ、隊長、凄いです!!」

「ボヤボヤ言ってないで、お前も働けぇ!!」

 隊長の叱責が飛ぶ中、虫たちは村の中へとどんどん進入してくる。

「よぉし、お前等、その調子だ!!
 そのままガンガン追い払え!!」

「はい……ヘブッ!!」

 答えた男に、虫たちの尻尾の先から発射された黒い塊が、男の顔面に直撃した。

「おい、大丈夫か!!」

「はい、何とか!!」

 どうやら、男は無事だったようだ。

「よし、お前達は、自分の畑を守れ!!
 此処に居る残りは俺が片付ける!!」

「はい、どうかご武運を!!」

 そうして、男達は自分の畑へと戻っていった。

「オラオラ、もっと掛かってこいや!!」

 隊長は、50匹は居るであろう残りの虫たちを片付けに単身で突っ込んでいった。

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 一方、女性陣はかなり余裕をもって虫たちに対処していた。

「水よ、壁となりて我が身を守れ…スプラッシュ・ウォール!!」

「全く…魔力の使いすぎだぞ。
 …サンダーボール!!」

 リーンの攻撃を受けた虫たちは少しの間感電していたが、そこから回復すると一目散に逃げ出した。

「フッ……他愛もない。」

 そう言いつつも、現場を的確に判断し対処していく。

「雷よ我にt……あうっ!!」

 呪文の詠唱中だったサキュバスのアイネは、虫たちの尻尾から発射された黒い塊を受けてしまった。

「大丈夫か、アイネ!!」

「貴方ぁ〜、今行くからぁ〜!!」

 アイネの蕩けきった表情で、愛する夫の所へと一目散に飛んでいった。

「クソ、1人犠牲が出てしまった!!」

 あの黒い塊は実は魔力の塊であり、男性が受けても何とも無いが、魔物娘が受けてしまうと発情し、目の前で作物が食い荒らされようが関係無く夫の元へと向かってしまう効果がある。

「皆、怯むんじゃない!!
 各自持てる力を出し切って対処しろ!!」

 そう言って、リーンが指示を出しているときだった。

「ギチギチギチギチッ!!」

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「これで…最後だぁ!!」

 そう言って、この辺りの虫を全て追い払った時だった。

「ギチギチギチギチッ!!」

 と言う声にも似た音が、リーン達のいる方から聞こえてきた。
 それは、隊長が最もよく知る音であり、この決戦の勝敗を決める音でもあった。

「くっそ……リーネ、今行くぞ!!」

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「くっ……まさかこの私がここまで追い詰められるなんて…ハッ!!」

 ソイツは、リーネだけを残して他を全て倒した。
 その尻尾の目は潰れており、剣による傷跡もあった。

「クソッ……はあっ!!」

 リーネは短いかけ声と共に、サンダーボールを数十個ほど相手に穿った。

「……やったか?」

 そんな希望は、甲殻虫特有の音でかき消された。

「ギチギチ……」

 ソイツは、サンダーボールをまともに食らってもまだ悠然と立っていた。

「ギチギチ……ギチィ!!」

 ソイツは尻尾の先をリーネに合わせたかと思いきや、小さい奴らとは違うまるでレーザーを彷彿とさせるような攻撃をリーネにしてきた。

「まだだぁ!!」

 リーネは最後の力を振り絞って、防御陣を展開、発動させ何とかその場をしのいだ。

「ギチギチィ…」

 対するソイツはそんな攻撃をしても、まだ余裕が在るかのように悔しがっていた。

「ギチギチィ!!」

 そしてソイツはリーネに向かってもう1度同じ攻撃を穿った。

「もう…ダメ…なのか?」

 リーネがそう思った時だった。

「うおぉーーーーーー!!」

 誰かが、ソイツの尻尾に棍棒で打撃を与え、リーネからその軌道をそらした。

「だ…誰……だ…?」

「ったく、無理しやがって。
 俺に言ったことなのに、お前が守れないなんてなぁ?
 世の中珍しい事もあるもんだぜ。」

「ハハ…全く、私らしくも無いわね……。」

「そうだな…リーネは何処か安全な所で休んでいてくれ。
 アイツは、俺1人で何とかする。」

「うん…そうするわ。」

 そう言って、建物の影へと隠れるリーネ。
 隊長はそれを確認した後、ソイツに向かって言い放った。

「よう、今年もまた来やがったな?
 去年は俺達の完敗だった……だが、俺達はお前のその尻尾にある目を潰した!!
 今年は完全に…お前を倒す!!」

 広間でにらみ合っていた隊長とソイツは、一斉にその間合いを縮めた。

「うぉぉーーーー!!」

 隊長は甲殻虫達の弱点である、唯一柔らかい部分である頭めがけて棍棒を振り下ろした。
 対するソイツは左の人ほどの大きさがある鋏で防御、その後同じ大きさの右の鋏で隊長をなぎ払おうとした。

「甘いわぁーー!!」

 隊長はそれをバックステップで難なく回避し、再び間合いを詰め頭を狙う。
 そんな押収が幾度となく続いたときだった。

「はぁ…はぁ…お前の力…そんなモンじゃ無いだろ…。」

「ギチギチギチ……。」

 両方とも共に疲れ切っており、間合いを十分に取って相手が動いて仕掛けるのを待っている時だった。

「ギチギチ……ギチィ!!」

 突然ソイツが尻尾を天へと挙げたと思うと、特大の魔力の塊の玉を数回穿った。

「な、何を……しているんだ?」

 それから隊長はあることに気付いた。

「雨…か?
 いや…これは……魔力!?
 まさか!?」

 そう、ソイツが天へと穿っていたのは、魔力の雨を降らせる為だったのだ。

「くっそーーー!!」

 そう言いながら隊長は、ソイツに向かって間合いを詰めた。
 だが半分程しか詰められないまま、誰かに後ろから押し倒された。

「こんな時に……って、リーネ!?」

「はふぅ…貴方ぁ、私のココがジンジンするのぉ。
 だから、私のここを慰めてぇ…?」

 その光景にそっぽを向いて畑へと向かうソイツ。
 今此処で、村の敗北が決まった。

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「くっそー…今年もダメだったかー……。」

「まぁ良いじゃないの。
 確かに作物は全滅だったけど、誰も怪我はしていないみたいだし。」

 確かに、村の畑という畑は全て虫達に食い荒らされていた。

「来年もあるし、次は彼らに負けないようにしっかりと準備をしないとね♥」

「ああ、そうだな。」

 そんな訳で、今年の秋の大決戦は虫達の勝利で幕を閉じたのだった。
13/02/09 23:58更新 / @kiya

■作者メッセージ
 はいそんな訳で、まだ世に出てないであろう魔界甲殻虫と人間達の話でした。
 しっかしコレ、他に虫とか出てくることはあっても、魔物化しちゃうだけで魔界甲殻虫が出てくる話って無いよね?
 …という事は、初だったり!?

 魔界甲殻虫の詳しい設定は、同人誌『魔界自然紀行』に載ってます!!
 他にも、魔界の特産品のあれこれが載っていますので、是非に買うことをオススメします!!

 ではノシ

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