読切小説
[TOP]
ドラゴンを屈服させるたった一つのエロいやり方
 
 ―『私』は紛れも無く強かった。
 
 大地を踏みしめれば砕き、翼を揺らせば木を薙ぎ倒す大嵐が吹き荒れる。口からは全て溶かす豪炎を吐き、その爪は鋼鉄を容易く砕く。それでいて知能も高く、操る魔術は数え切れない。鱗は硬く並の剣では傷一つ着けるなんて不可能だ。
 
 ―『地上の王者』
 
 そう称されるのが『私』であり、『彼女達』であった。
 
 「……詰まらん」
 
 そんな私がいるのは埃に塗れた石畳が敷き詰められている幅広い一室だ。元々が訓練室か何かだったのだろう。所々、人を模した人形がそこかしらに転がっている。そして、私の目の前には四人の冒険者が立っていた。そこそこの手練なのだろう。それぞれが手に持つ武器はしっかりとしており、身を包む防具も一目で高級品だと分かる。隙無く私を見据え、修道服を着た女を中心に三角形の陣を敷く姿も様になっていた。
 
 ―けれども…詰まらない。
 
 「人里に迷惑を掛ける悪しきドラゴンめ!俺たちが倒してやる!!」
 
 私の真正面に立つ男――恐らくはこのパーティーのリーダーであろう男が高らかに宣言した。しっかりと手入れされた剣先を私に向けるその様はまるで伝説に語られる勇者のように見える。けれど、私にとって重要なのはその男そのものではない。語られた言葉の方だ。
 
 ―…別に何かしたと言うわけではないんだがな。
 
 『悪しきドラゴン』と呼ばれるような事は何もしていない。ただ、ここで…誰一つ寄り付かない廃棄された砦の中で慎ましやかに生きているだけだ。食事も近くにある集落から奪ったりしているのではなく、近くの野生生物を適当に狩って暮らしている。私が持つ『財宝』もこの砦の中に隠されていたもので、別に誰かから奪ったものではない。それなのに『悪しきドラゴン』呼ばわりされる事に納得がいかなかった。
 
 ―まぁ…別にこれが初めてではないから良いんだが。
 
 私がここに暮らしていると言う事を何処から聞きつけたのか、この廃れて埃塗れの砦に多くの冒険者が顔を出した。それは『ドラゴンを倒した』と言う勇名を求めての事なのか、それとも『財宝』を目当てにしているのか、私には分からない。しかし、私が歓迎されていないと言う事だけは良く分かっていた。
 
 ―まったく…詰まらない。
 
 私は静かに暮らしていたいだけなのに、その平穏をこうした冒険者や勇者紛いの人間が邪魔をする。それがとても詰まらなく…面倒だ。
 
 「さぁ行くぞ!皆!!所で俺、この戦いが終わったら幼馴染にプロポーズするんだ…」
 「えぇ!皆さんの回復は任せてください!後で私特製のパインサラダも待っていますからね!」
 「娘が結婚するまで死ぬわけにはいかないからなぁ!最初から全力で行かせて貰うぜぇ!」
 「お前の父親から、お前の事を頼まれているんだ。こんな所で死なせはしない!」
 
 『勇者』の号令に従い、パーティーが鬨の声を上げる。それを横目で見ながら、私は小さく溜め息を吐いた。装備から察するに『戦士』、『修道女』、『騎士』、そして『勇者』と言うパーティ構成。それぞれの役割を分担し、お互いに庇い合えるバランスの良いパーティーだと言えるだろう。そして、そんな連中はここまで乗り込んできただけあって私がドラゴン――地上の王者と呼ばれる種族であると知っても矛を収めてくれるつもりは無いらしい。
 
 ―まぁ…私の平穏な日々を脅かした罪は重い。
 
 同族の中では比較的、穏やかな私とは言え、決して怒らないという訳ではないのだ。いきなり乗り込んできた悪しきドラゴン呼ばわりした罪は私としては重い。流石に殺すつもりまでは無くとも多少、痛い目を見てもらおうと私は一つ魔術を紡いだ。それに応えるように私の体は膨れ上がり、視界がぐんっと上へと引き伸ばされる。
 
 「く…!それが貴様の本当の姿か!」
 
 ―まぁ…当たらずとも遠からずと言った所だな。
 
 魔術を使った今の私の姿は原初の竜、すなわち御伽噺で語られるような『ドラゴン』そのものになっているはずだ。つまり、それはさっきまでの私は『ドラゴン』そのものではなかった事でもある。
 
 ―ある日、私達の姿は変わってしまった。
 
 今までは誇り高い竜族として魔族とも距離を問っていた私達が、魔王の代変わりに寄る強力な魔力を受けて、人――しかも、メスに近い姿に変貌してしまったのだ。今でこそ魔術を使えば元に戻れるとは言え、当時の衝撃は大きく絶望と言った感情が最も適切であっただろう。特に、私は元々、オスであっただけに、かなりの時間が経った今でも、未だに馴染めない。
 
 ―まぁ、それはともかくとして。
 
 かと言って私達が弱くなったかと言えば応えは否だ。人の姿ではブレスは吐くことはできないが幾らでも魔術で代用が効くし、その爪の鋭さも力強さも健在である。寧ろ小回りが利く様になり、足りない分を魔術を学び、補おうとしている個体もいると聞く。それらは以前よりも遥かに強大な力を着けているだろう。そして…私はそれほど熱心ではないにせよ、魔術を学んだ側のドラゴンだ。
 
 ―さて…まずは軽く遊んでやるかな。
 
 そこまで考えて、私は大きく息を吸い込んだ。同時に身体中に流れる魔力が魔術に展開し、吸い込んだ空気を別の物へ書き換える。全力を出せば燃え上がるマグマにも近い温度にもなる術式を適当に手加減しながら、紡いで行く。
 
 「行くぞ!!」
 
 そんな私に向かって男達が殺到する。それを迎撃するように私もまたブレスを吐き出し――それが戦闘開始の合図となった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ぜぇはぁ……」
 「ば、馬鹿な…お、俺たちがこうもあっさりと……!?」
 「ば、化け物め…」
 「ま、まだだ…!まだ負けた訳では…!!」
 「詰まらん…」
 
 数分後、部屋は所々、焦げ、黒ずんだ色を晒している。全力でなくとも私のブレスは石畳程度なら容易く焦がしてしまう。埃だらけまま放置している時点で綺麗好きとは口が裂けても言えないが、何処か陰鬱な気分になるのは仕方が無い。
 
 「ふぅ…まったく…手応えの無い…」
 
 勇者気取りの連中はもう殆ど戦意を失っていた。面倒臭くて特にトドメも指していないが、武器と心が真っ二つに折れているのが一目で分かる。いきなりこの砦の中に入ってきて、私に向かって喧嘩を吹っかけた時の戦意はもはや無く、殺されるのを待つだけというような有様だ。
 
 ―結構、強そうに見えたんだけれどな…。
 
 いや、彼らは間違いなく強かったのだろう。言動自体は馬鹿っぽかったが、その実力は紛れも無く一流の冒険者の物であった。後衛もしっかり自分の役割を果たし、私のブレスに反応して防護魔法も掛けていた。前衛もしっかり自分の役割を理解し、時に全員で後衛を守り、一斉に攻撃したりと作戦も立てられているのは分かる。
 
 ―けれど、それでも私には勝てない。
 
 彼らの武器では私の鱗に傷一つ着ける事が出来ない。彼らの魔術よりも私のブレスの方が早い。彼らに私の爪を防ぐ術は無い。私の尻尾の一振りで陣形は壊滅する。そんな状態で私に勝てるはずが無い。殺すつもりは無かったので本気を出さなかったとは言え、数分後には戦闘不能者が続出し、武器も真っ二つに折れてしまった。これが本気であれば最初のブレスで骨も残さず、融けている。
 
 「…やれやれ……詰まらない…」
 
 口癖にもなった言葉を紡ぎながら、私はそっと肩を落とす。
 ……実を言えば少しだけ期待したのだ。この詰まらない日々に終止符を打ってくれるのではないか、と。私に敗北の味を知らしめ、誰からも忌避される人生の幕を閉じてくれるのではないか、と。しかし、結果はこの通りだ。奇跡など起こらず、私は未だ健在のままである。
 
 「ほら、とっとと逃げろ。このまま私の前に立つと今度こそ殺す事になるぞ」
 「…殺さないのか…?」
 
 脅えるような『勇者』の言葉に私は内心、溜め息を吐いた。信じてもらえるかは分からないが、私は今まで人間の命を奪ったことなど無い。ドラゴンと言うだけで好き好んで人間を食べると考える連中も居るが、根も葉もない考えだ。『昔』ならばいざ知らず、今のドラゴンにそんな事をする連中は殆どいないだろう。それは私とて同じことだ。
 
 「面倒だからな」
 「……」
 「だから、行け。これ以上、私に関わるな」
 
 投げかけた言葉に俯きながら、冒険者たちは震える膝に鞭を打って立ち上がった。そのまま折れた武器を拾って、後ろを向いて去っていった。何処か哀愁の漂うその背を私は見送る。以前は逃げると思った瞬間に不意打ちを受けて、あわやと言う所まで追い込まれたこともあるのだ。戦意は見えなかったとしても、油断はすべきではない。
 
 「……」
 
 そんな私の目線の先で殿を行く『勇者』がぴたりと立ち止まる。その背に訝しげな視線を送ると、男は戸惑うようにゆっくりと振り向いた。そこには迷うような感情がはっきりと表れていて、何かを言おうとしているのか口を開いては閉じる動作を数回、繰り返す。
 
 「……」
 「……」
 
 何を言うのかと思って沈黙する私の目の前で『勇者』は逡巡を見せ続ける。迷っている本人には悪いが、うじうじとそんな様子を見せられる私は面白くない。最初の頃はまだ待っててやろうという心の余裕もあったが、何度も何度もチラ見されている内に嫌気が指すのは仕方ないだろう。
 
 「…何だ?」
 「…いや…その…」
 
 さっきまでパーティーを鼓舞していた様子は何処に行ったのか『勇者』は視線を彷徨わせ続ける。その様子にもしかしたら、これが奴の本性なのかもしれない、などと思った。戦闘では過剰なくらい勇敢に前線に立ち、仲間に指示と檄を飛ばしていたが、良く見ればまだ少年と言って良い年頃である。剣を持ってドラゴンと戦っているよりは、友人と一緒に遊んでいる方が似合うだろう。
 
 ―まぁ、私には関係の無い話か。
 
 所詮、この男とは敵同士であり、一度、合間見えただけの関係だ。例え冒険者と言う因果な業の先で野たれ死んだとしても私の知る由ではない。こうして見逃すと言っている私ではあるが、人間相手に踏み込もうだなんて妄想にも似た考えを思ってはいないのだ。
 
 「俺たちは依頼を受けたんだ。人を食べるドラゴンがいるから退治してくれって…」
 「…ん?」
 
 ようやくポツリポツリと語りだした男の言葉に内心、私は首を傾げた。何度も言うように今の時代に人間を食べようなどと言う酔狂なドラゴンは存在しないのだ。多くの同族は平穏な日々を求めて、人気の無い場所に引きこもっている。それは私も同じで、近くには人の集落があるが、私は一度もそこに顔を出したことは無い。そんな状態でどうやって人間を食べているというのか理解に苦しむ。
 
 「そもそもドラゴンが本当に居るならギルドが放置する訳が無いし、まさか…と思って来たんだけれど…」
 「……なるほど」
 
 しかも、それは彼らが所属するギルドからの依頼ではなく、個人からの依頼らしい。そんな根も葉もない依頼をするのは誰だ…と思ったものの、心当たりが多すぎて正直、絞りきれなかった。少なくとも近くにある集落はドラゴンが住み着いていると言う事で毎日を脅えて暮らしているのは確実であろう。そして藁にも縋る気持ちで冒険者を募集していたとしても不思議ではない。ここに住み着く以前の場所でも、そうやって私は棲家を追い出されたのだ。ここで同じことが起こらないとは言い切れないだろう。
 
 ―やれやれ…また引越しを考えないといけないかな…。
 
 平穏な日々を望む私としては別に人里を荒らすつもりなんて全く無い。そもそも冒険者を相手にすること自体、面倒で詰まらない作業なのだから。しかし、そうやって依頼まで出ていると言う事は近々、本格的な討伐隊が編成されるだろう。流石に私とてそれを相手に取るのは面倒にもほどがある。
 
 ―…ホント…そっとしておいてくれれば何もしないのにな……。
 
 しかし、人は私達をドラゴンと言うだけで恐れ、虐げる。本人たちは別に虐げているつもりは無いのだろう。しかし、ようやく腰を落ち着けた所で住処を追い出される羽目になるのは私に限った話ではない。強力な装備に身を包んだ騎士団や神の加護を授かった勇者に追い回されれば、殆どの同族は住処を手放すことを選ぶ。人間がいない土地を探す方が難しい今の世界で私達の安住の地は何処にあるのだろうか、と私は小さく溜め息を吐いた。
 
 「…それだけか?」
 「…あぁ」
 「ならば、もう行け。これ以上、貴様の顔を見るのも億劫だ」
 
 その言葉を受けて、男はそっと立ち去っていった。その姿にはもう迷いが無い。恐らくさっきの情報を渡すつもりだったのだろう。どうしてそれでアレだけ迷う様子を見せたのか私には分からないが、個体差の激しい人間の事なんて一々、考えてはいられない。それよりも、魔術を維持し続けるのも面倒なので、術式を解き、人型に戻る方が先である。
 
 ―さて…それじゃあ…これからどうするか、考えない…ッ!!!
 
 そこまで思考した瞬間、突然膨れ上がった殺気に私の身体が大きく跳ねた。刻み込まれた戦いの本能が私の足を反射よりも早く前に出させる。しかし、それでも『それ』を避けきる事は出来ず、私の背から鋭い痛みが走った。
 
 ―そんな…!?
 
 人型であろうとなかろうと私の鱗の硬さは変わらない。どれも等しく鋼鉄を弾き、傷一つ着かない無敵の鎧だ。しかし、そんな鎧を切り裂いて、私の背に切り傷をつけるなんて今まで一度しか経験が無い。
 
 ―まさ…か…!?
 
 「は…!ドラゴンでも勝利の瞬間には気を抜くんだな!!」
 「お前…は…!!」
 
 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには両手にそれぞれ片刃の剣を持つ黒ずくめの男が居た。身体にしっかりとフィットしている黒い装束は、ここらでは見覚えの無い代物である。実戦と実用の中で鍛え上げられた細身の身体を見せ付けるようなその衣服は、夕暮れ時の紅い日の中に浮かび上がり、何処か異質にも感じた。
 全身を包み、肌を殆ど晒さないその装束から出る顔は間違いなく整っていると言えるだろう。紺碧の美しい瞳はまるで宝石のように逆光の中でもキラキラと輝いている。何処か熱を持つその視線には興奮の色が強く灯っていた。ざっくばらんに切り揃えられた艶のある髪は茶色と黒の中間のような色をしていて、目を引くものではないものの男の魅力にアクセントを加えている。顔立ちも何処か子供っぽくはあるものの、すっきりとした甘さを持つ。今は抑えきれない笑みに歪んでいるものの、優しい笑顔を浮かべればとても様になるに違いない。初心な少女であれば、優しく微笑んだだけでも胸を高鳴らせるだろう。
 
 「また懲りずに…!」
 「あぁ、リベンジに来たぜ」
 
 その男はここで私に初めて刃向かってきた人間である。ようやくここに腰を下ろして、落ち着き始めた頃にやってきたその男は冒険者にしては珍しく一人で…かつ洒落にならない実力を持っていた。無論、私が負けるほどではないとは言え、さっきのパーティーよりはよっぽど戦いにくい相手である。
 
 ―なにせ…相手には私の鱗を切り裂く刃がある。
 
 一体、誰が打ったのかは知らないが、紛れも無く業物であると言える二振りの剣は私の鱗と言えども容赦なく切り裂いていく。その上、奴は護るものもない所為かとても身軽で、逃げては攻撃し、攻撃しては逃げを繰り返していた。会った当時は初めて見る戦法に頭に血が上って、随分と苦労したのを覚えている。
 
 ―その上…逃がしてやろうと思ったら、隙を見て攻撃してくるし…。
 
 私が逃げる相手が攻撃してくるのではないか?と考えるようになったキッカケもこの男だ。これまで何度か私との戦いを繰り返しているこの男は本当に卑怯で、どんな手でも使ってくる。時にはプライドが無いのかと思うような手段まで講じてくるのだ。私がここ数ヶ月で急激に疑い深くなったのは間違いなくこの男の仕業であろう。
 
 ―だが……落ち着いていれば負ける相手ではない。
 
 今まで何度かの戦いを繰り返して思うが、本人自身の戦闘能力はそれほど高くは無い。身体能力だけで言えば、さっきの冒険者達とさほど大差無いだろう。しかし、どんな手段でも躊躇無く使う汚さと凄まじい発想力、そして私の鱗を切り裂く刃を持つこの男は、さっきのパーティーよりも余程、怖い。しかし、所詮は人間である。広範囲にブレスを吐けば、逃げることは出来ないし、尻尾の一撃で昏倒する。一撃さえ届けば、勝ち目は十二分にあるはずだ。
 
 「どうした…?また汚い策略でも思いついたのか?」
 「そうでなきゃお前みたいな化け物相手に顔を晒さねぇよ」
 
 軽口を叩くのは、相手の手を探りあうためだ。それこそ、この男は何をしてもおかしくはない。今の内に少しでもヒントを引き出そうと、私は言葉を交わす。そして、軽口に応えてくれる男の瞳には、自信に満ちていて持ってきた策略とやらに絶対の自信があるのを教えるようだ。
 
 「へぇ…参考までに教えてくれないか?」
 「そうだな……まぁ、ヒントくらいなら良いだろ」
 「…どういう風の吹き回しだ?」
 
 自分で言っておいてなんだが、まさかヒントでもくれるとは思わなかった。圧倒的に身体能力で負けているコイツのアドバンテージと言ったら、その策略くらいしかないのだから。その策略に絶対の自信でもあったとしても、ヒントだけでもくれるなんて正直、考えられない。
 
 ―それとも…嘘の情報を与えて混乱させるつもりか…?
 
 コイツに騙されたのはそれこそ一度や二度では利かない。自分の事ながら若干、情けないものの数えるのに五本の指では足りないだろう。余り真剣に聞きすぎても足元をすくわれかねないと、私は警戒しながら彼を見据えた。
 
 「別に。ただの気まぐれだ。…で、件のヒントだが……さっきのパーティにお前の退治を依頼したのは俺だ」
 「…は?」
 
 しかし、告げられた言葉はまったく脈絡が無くて、意味が分からない。彼らに依頼したのがコイツだとして、一体、どうしてヒントになるのか。私を混乱させるのが目的であればもっと効率的な嘘があるだろうに、どうして疑われるようなヒントを与えるのか。それがどうしても分からず、私は首を傾げた。
 
 「まぁ…所詮、メストカゲじゃ分かんねぇよ」
 「…ほぅ」
 
 珍しく挑発するような言葉を放つ男に冷たい視線を送る。何がしたいのかは分からないが、とりあえず私を怒らせたいのは確実らしい。比較的、温厚な私ではあるが、人間如きに馬鹿にされるのは我慢できない。その喧嘩買ってやろうと、一歩踏み出そうとした瞬間、私の視界はグラリと揺れた。
 
 「なっ……!!」
 
 足を前に出した事で何とか倒れこむことだけは耐えられたが、私の身体に変調が起こっているのは確実だ。それもただの変調ではない。全身が痺れてどうにも動きが鈍いのだ。まるで数時間正座した後のようなピリピリとした感覚が全身を包み、指先一つ動かすのも億劫になっている。
 
 「へっ…ようやく効いて来たかよ。遅いっての…」
 「貴様…ぁ!私に何をした…!?」
 
 その変調の原因は間違いなく目の前の男であろう。言葉だけでもその証明になるだろうが、その顔ににやつくいやらしい笑みを浮かべている事からも良く分かる。見ているだけでイラつくその顔を少しでも歪めてやろうと殺気を込めて睨めつけるが、相手は楽しそうな色を濃くするだけでまったく意に介していない。
 
 「ギルタブリルの麻痺毒をちょちょいと刀に…な。人間相手じゃ一瞬で動けなくなる純度100%だぜ?幾らお前でも効くだろ」
 「くっ…!!」
 
 ギルタブリル――砂漠の暗殺者とも言われる魔物娘の麻痺毒は確かに私達、ドラゴンにも通じる。私たちは毒の耐性にも優れているとは言え、それは所謂、一般的な毒物に対してだ。魔物娘が魔力と共に練り上げる特性の毒まではその範疇に入っていない。私の優れた肉体は、今まで発症こそ遅らせていたものの、こうして時間が経った事で抑えきれなくなってしまったのだろう。
 
 「…さっきの会話はその時間稼ぎか」
 「当たりだ。だが、正解するのが少し遅かったな。少々、慎重になりすぎたんじゃないか?」
 
 からかうような男の言葉にぐぅの音も出ない。今までの私の傾向を完全に逆手に取られた策略だ。さっきのパーティも恐らく最初の一太刀入れる為だけの生贄に過ぎなかったのだろう。誰しも勝利の瞬間は気を抜くものだ。その一瞬を狙って、この男はあの人の良さそうなパーティに依頼を出したに違いない。
 
 ―だが……!何とかならない訳ではない…!
 
 そもそも私と男の間には絶対的な身体能力の差があるのだ。多少、麻痺した所でそれは覆せるものではない。それに私は解毒の魔術も覚えている。それさえ唱えれば、幾らギルタブリルの毒とは言え解毒は十二分に可能だろう。そうなれば、形勢は逆転。相手に勝ち目は完全に無くなる。
 
 「…唱えられれば…な」
 「っ!!」
 
 心の中を読めれたような言葉に驚いて、男の方を見ると相変わらずにやついた笑みを浮かべていた。隙無く構えた剣が夕日を反射して、そんな事させるか、と全身で主張しているように感じる。それを見る私の背に、今まで一度も流れたことが無い冷や汗が一つつぅっと流れた。私を討伐しに来た騎士団と戦った時でさえ流れなかったそれは、それだけ私の本能に危機を教えている。
 
 ―このまま…戦っちゃ駄目だ…。
 
 しかし、竜の姿に戻ろうにも麻痺した今、複雑な術式を組むのには時間が掛かるだろう。その間をこの男が見逃してくれる筈が無い。解毒の魔術も同様だ。一瞬でも隙を見せれば、咽喉を掻き切られてしまうかもしれない。そう思うだけの凄みが、今の男にはあった。
 
 「考えは纏まったか?…それじゃ行くぜぇ!!」
 「く…!!」
 
 視線を低く倒し、低空から襲い掛かるように男の身体が私に迫る。確かな脚力に裏づけされたその速さはあっという間に最高速へと載り、私の懐へと入り込んだ。それを迎撃しようと私は拳を振り下ろすが、私の懐から通り抜けた男の影さえ掴むことが出来ない。
 
 ―しまっ…!!
 
 毒に身体が上手く動かない焦りの弊害だろう。この男がご丁寧に行くだなんて言う筈が無いと言う事をすっかり失念していた私は、コイツに後ろを取られてしまう。それに合わせて振り向こうとした私の背だが、体勢を崩した今、リカバリーするには遅く、再び鋭い痛みが走った。さっきの傷と合わせて交差するように走った痛みがジンジンと疼いて止まらない。
 
 ―なん…だ…?
 
 切られた部分から痛みを感じるのはさっきと同じだ。しかし、その部分から何処か甘い熱が私の全身に広がり始めている。初めて味わうその感覚に、ただでさえ混乱している私は困惑を隠しきれない。
 
 「どうした?何か気になる事でもあるのか?」
 「っ!お前の所為だろうが…!!」
 
 振り向き、正対した私の先で男はにやついた笑みを浮かべ続けていた。その表情から察するに何かをされているのは確実だ。しかし、確実であると分かっているのに、肝心な『何をされているのか』が分からない。毒を使っているとは言え、珍しく真正面に立たれているだけに、気味が悪いにも程がある。
 
 「何が俺の所為なのかなー?俺、人間如きだから分かんないなー」
 「ぐぅ…!!」
 
 からかう様な言葉に思わず足が出かけるが、それを必死に堪える。そもそもこの男が無駄な挑発をするはずがないのだ。ここで前に出た所で何か罠があるに違いない。特に今の私は再びギルタブリルの毒を受けた形になるのだ。下手に動き回れば、毒の周りも早くなる事だし、大人しく自分の変調を抑える事に徹した方が良い。特に今はさっきまでと違って私が夕日を背に受けた逆光となっている。地形的には有利なのは私の方なのだ。
 
 「来ないつもりか…?だけど…それじゃあジリ貧だ…なっ!」
 「っ!!」
 
 その言葉と同時に再び男が踏み込んでくる。相変わらずその速度は人間にしてはそこそこ速い。しかし、身体が麻痺していても、私の目まで衰えているわけではない。落ち着いていれば、しっかりとカウンターを入れることが出来る筈だ。そう考えて私はそっと後ろに重心を置く。
 
 ―落ち着け…集中しろ…!
 
 そう言い聞かせる私の懐に男が入り込んでくる。その手に持つ片手刀が閃く瞬間、私はそれに合わせて膝を一気に突き出した。
 
 ―取った……!!
 
 完全なタイミングに完全な角度。麻痺しているので力こそは入っていないので一撃で昏倒させるのは無理でも、大きなダメージを与えられるであろうと確信した一撃。しかし、それをまるで見越していたように男の身体が跳ね上がる。両手で私の膝に手を突いて、そのまま勢いを利用して私の後ろへ。まるで軽業のような動きに私は完全に対応を遅らせてしまった。そんな私に襲い掛かるのは三度目の刃と痛みだ。
 
 「ぐぅ…!どう…して…?」
 
 たたらを踏みながら、私は再び振り返った。その視線の先では逆光の中でその黒をより深くしながらも隠し切れない笑みを浮かべている男の姿がある。よっぽど今の私が滑稽なのだろう。今にも腹を抱えて笑い出しそうだ。勿論、ソレを見る私の気持ちと言うのは面白くない。しかし、それ以上に、完全に今の攻撃を見切られてしまった気持ちの方が大きかった。
 
 「どうしてってか?後ろに重心を置きすぎなんだよお前。それじゃあ、蹴りを撃ちますって言ってる様なモンだぜ?」
 
 呆れた様な指摘は今まで私には無い観点のものだった。そもそも私達にとって人型で戦うこと自体、滅多に無い事である。勿論、鋭利な爪や強固な鱗という物は健在だが、どうしても不慣れ感が否めない。その上、相手は人型の相手と戦うのに慣れている『人間』だ。その『人間』からすれば、私の不慣れな攻撃の先を読むのなんて容易いことなのかもしれない。
 
 「お前さ。人間、舐めてるだろ?」
 「っ…!!
 
 唐突に告げられた言葉は今まで効いたことが無いくらい冷たく暗いものだった。叩きつけられる様な暗い感情を感じて、私の全身が泡立った。しかし、それを表に出すのはどうにも悔しくて私は再び強く男を睨めつける。
 
 「分かるぜ。そりゃそれだけ大きな力を持ってるんだもんな。人間なんて蟻みたいなもんに感じてもおかしくねぇよ」
 「…………」
 
 しかし、その私に構わず、男は言葉を続ける。その視線は私ではなく、私の後ろ側にいる『何か』に向けられていた。恐らくだが…投げかけられる冷たい言葉はきっと私に向けているものではないのだろう。この男もまた何かを背負って、ここに来ているのかもしれない。
 
 ―けれど……!
 
 「だけどよ」
 
 そこで区切って男が大きく息を吐く。まるで煮え立つ感情を押さえ込もうとしている動作に、私の心も引き締まる。恐らくもう遊びは無い。次からは…本当に私を倒しに掛かってくる筈だ。
 
 「……あんま人間舐めてると…痛い目見るぞコラァァァ!!」
 「それは…こっちの台詞だ!!」
 
 叫び声にも近い、声を置き去りにして男は再び私へと肉薄する。それを迎え撃つ私の身体はもはや限界に近かった。全身の至る所に麻痺毒が回り、今にも膝が笑ってしまいそうなのを必死で堪えている。正直、それだけでも今すぐにでも倒れこんでしまいたいくらいだ。しかし、それを許さないように背中からじわじわと広がる形容しがたい熱が全身に広がり、下腹部に疼くような感覚を灯している。ソレがなんなのか私には分からない。分からないが…このままにしておくと取り返しの使い事になるのだけは分かる。
 
 ―だけど…私に出来るのはそう多くない。
 
 三度の傷を受け、さらに回ったギルタブリルの毒は私の身体を確実に蝕んでいる。今の私はもう万全の体調から比べ物にならないくらい力が落ちてしまっているだろう。一撃で倒すことが出来るという精神的拠り所でもあったアドバンテージは既に失ってしまっている。さらに今まで私の行動を先読みし続けていた男の予想を裏切ってカウンターをいれなければいけない。それはとてつもなく難しいだろう。しかし、やらなければ…私の命はきっと無い…!
 
 「疾ッッッ!!」
 
 気合の声と共に突き出された剣は一直線に私の腹へと向かっていた。鱗を貫くほどの鋭さを持つ剣である。人間よりも遥かに丈夫とは言え、露出した肌で受け止めきれる筈が無い。きっとあっさりと貫かれてしまうだろう。しかし、避けるには緩慢な動作しか出来ない私には難しい。
 
 ―ならば…迎え撃つ…!
 
 鋭い爪をタイミングを合わせて袈裟掛けのように振り下ろす。完全に一致したタイミング。完全に一致した距離。斬り伏せられ、地に沈む男――そうなるはずであった。
 
 「やっぱり甘いぜテメェ」
 「っ!!」
 
 途中で足を止めた男に届かず、私の腕が空を切る。同時に体勢を崩した私の腕に向かって、男の両手が煌いた。
 
 ―二閃。
 
 延ばした私の右手に新しい傷がつけられる。同時に走る甘い痺れ。それに反射的に腕を引き戻そうとした瞬間、男はさらに私の懐へと見込んできた。
 
 「なっ!!」
 「そっちの間合いなんざ…見切ってるんだよ!!」
 
 その言葉と共に再び二振りの剣が瞬いた。今度は左手に二つの傷が新しく加わり、私の全身を襲う痺れと甘い感覚がさらに燃え上がる。そんな私の脇を抜けて、男が私の後ろへと回った。
 
 ―駄目だ…!ふ、振りむかなきゃ……!!
 
 しかし、必死で動こうとする私の意志も虚しく、私の身体は動いてはくれない。身体中に広がった痺れがついに臨界点を超えたのだ。笑う膝を抑えることもできず、私はその場にガクッと膝を着いてしまう。心は必死にそれを叱咤しているが、一度、力尽きた私の身体はもう動いてはくれなかった。そんな私の後ろに男が立つのを感じる。もう抵抗する術は無い。このまま首を斬られるしか道は残されてはいないのだ。
 
 「足を止めた時点でお前の負けは決まってたんだよ」
 
 ―…負け…?私が…?
 
 後ろから聞こえる声に何処か他人事のような気持ちが浮かび上がってくる。だって、私は今まで無敗を誇ったドラゴンなのだ。『地上の王者』と呼ばれる一族なのだ。『勇者』と言う例外こそあれど、人間を見下して生きてきたし、負ける事なんて想像したことが無かった。けれど、今、膝を着いているのは私で、立っているのは『人間』である。そう思うと私の下腹部にドロドロとした熱が灯った。
 
 ―い、いや…これは…負けじゃない…!
 
 「み、認めるか…!こんな…こんな卑怯な手段で負けるなんて…!私は負けていないぞ…!!」
 
 思わずそう叫んでしまうのも仕方ないだろう。だって、私は単純な力で負けた訳ではないのだ。これが主神の加護を受けた『勇者』であればまだ納得が出来るかもしれない。しかし、相手は一流とは言え、ただの冒険者で、しかも毒を使った上での勝利だ。そんな勝利、認められるはずが無い。
 
 「あ…?でも、膝を屈してるのはテメェの方だろうよ?」
 「そ、それでも私は負けてない…!心までは屈していないからな…!!」
 
 呆れるような言葉に返した言葉は本心だ。確かに私の身体は負けてしまった。けれど、心は未だこの男に抗っている。強大な力を持つ代わりに、魔物娘の本能も強く受け継ぐドラゴンの特性から考えれば、それは異常なことだ。本来であれば負けた相手をオスと認めて、私の心は完全にこの男の物になっているはずなのだから。しかし、それは起きない。つまり…考えられることは私が負けていないと言う事だけだ。
 
 「心まで屈していない…ねぇ……」
 
 咀嚼するように言い返しながら、私の背でカチンと言う音が鳴った。金属同士が当たったようなその音は推察ではあるが、恐らく刀を納めたのだろう。同時に二つの場所から鳴ったのだから、そうとしか考えられない。
 
 「…私を殺しに来たんじゃないのか?」
 「最初からそんなつもりはねぇよ」
 
 てっきり私を殺しに来たと思っていた相手が、いきなり刃を収めたことで困惑を隠すことが出来ない。後ろを向いて、その表情を確認したい衝動に駆られるが、未だ麻痺毒の抜けきらない私の身体は動いてはくれなかった。
 
 「ただ、俺はお前が欲しかっただけだ」
 「…私が…?」
 
 ―そんな事を言われたのは初めてだ。
 
 魔王の代変わり前から人間と戦うのが面倒だと言って戦いに参加しなかった私は同族の中でも浮いた存在だった。父も母もそんな私を持て余していたに違いない。そもそも高い能力を持つ反面、ドラゴンは個人主義の者が多いのだ。少なくとも私の周りはそうで、同族の中でも浮いた存在だった私は一人の友人もいない。
 しかし、同族の中で浮いているからと言って人間に受け入れてもらえる筈も無い。だって、彼らにとって私は一律、『ドラゴン』と言う括りの中に配置される『化け物』なのだから。親元から離れ、一人暮らしていても冒険者や騎士団が差し向けられるように、私と人もまた今まで相容れない存在であった。
 
 「正確にはお前じゃなくてドラゴンが、だけどな」
 「…変わっているなお前」
 
 かつては畏怖の対象であった所為か未だにドラゴンは人喰いをしているだの人を殺すだのそんな噂が付き纏う。そんなドラゴンの前に立ち、好き好んで手に入れようとする馬鹿がいるとは今までの長い人生の中で思った事も無かった。そして勿論、私が他者に必要とされるだなんて事も。
 
 「自覚してるよ」
 
 言われ慣れているのか、どこか疲れた色を見せる言葉に内心、首を傾げた。しかし、それを口にする前に矢継ぎ早に男の言葉が掛かる。
 
 「まぁ、俺の目的の為にお前が必要なわけだ。その為にはお前に完全に敗北してもらわなきゃいけない」
 「な、何をする気だ…?」
 
 確認するように告げる言葉に私の背筋に再び冷や汗が浮かんだ。しかし、ここで弱気な態度を見せれば、それこそ負けたと認めるようなものである。ドラゴンとしてのプライドの為にも、そして、元とは言えオスのプライドの為にも、ここで弱気な所を見せられないと私は心を引き締めた。
 
 「何…ちょっと辱めるだけだ」
 「辱め…って…ちょ…おい!!」
 
 その言葉と同時に私の肩に男の手が掛かり、後ろへと引き倒されようとしていた。特に綺麗好きと言うわけではないとは言え、埃塗れの石畳の上に倒されるのは流石に嫌である。聞き逃せない言葉も聞こえているし、尚更だ。しかし、じたばたと暴れようとしても応えてくれる四肢は一つも無く、結局、私は何時の間にか敷かれていた男の上着の上にその背を預けることになる。
 
 「な、何を…!?」
 「初心なネンネじゃねぇんだから、分かるだろ…?」
 
 仰向けの状態で床に体を預ける私の顔を覗き込むようにして男が私の視界に入る。その顔にはさっきまでのいやらしい笑みとは別種の笑顔が浮んでいた。まるで抵抗出来ない玩具に向けるような表情に、『アレ』を連想した私の身体は再び寒気に包まれる。
 
 「やめろ…!!私はオスだぞ…!」
 「こんな胸しといて何がオスだよ」
 
 制止の言葉も意味無く、男の手は私の胸へと触れる。メスに変わってから邪魔で邪魔で仕方が無かった乳房は鱗越しにも男の体温を感じて、反応した。今まで触れるのが怖くてずっと放置していた所為だろうか。そっと外周を撫でる様な動きだけでも、ピクンと身体が跳ねて反応してしまう。
 
 ―まさ…か…私…感じ……て…!?
 
 それは余りにも認めたく無い事実だった。だって、私は今の姿になる前はオスであって…こんなメスの快感なんて想像したことも無い。さらに触れているのはさっきまで敵対していた卑怯な男で、好きでも何でもない相手である。それなのに、毒の所為か火照った私の身体ははっきりと反応を示し、私の下腹部にピリピリと甘い痺れを走らせた。
 
 「うっわ…でけぇ…」
 「ば…かぁ…!触るなぁぁ…!!」
 
 恐らく男自身、意図したものではなかったのだろう。呆然としたように漏らした言葉に私の顔が真っ赤に染まる。効率よく男を誘う為か、私の乳房は豊満と言っても良い位だ。男の大きな手でも包みきれないのだから。それは私も認めるところである。しかし、事実と言われたいと言う事は一致するとは限らない。少なくとも今の私には男の言葉は受け入れたくはないものであった。
 
 「鱗越しにも柔らかさが分かるってすげぇなおい…」
 「うぅ…ほ、褒められている気がしない……!」
 
 感動したような色を強めに込める男の言葉もまた受け入れたくは無い。身体がどうであれ、私の精神は未だにオスなのだ。少なくとも自分ではそう思っている。それなのにメスのセックスアピール部分を褒められて嬉しいと思えるはずが無いだろう。
 
 「うぅぅ…ホント、もう勘弁してくれ…」
 「お前が負けを認めるなら、何時でも止めるぞ」
 
 余りの恥ずかしさに弱音を少し漏らしてしまうものの、交換条件として提示された男の言葉を受け入れることが出来ない。何度も言うが私にだってプライドがあるのだ。汚い手段を使った男の方が強いだなんて認められるはずが無い。
 
 「そんな事出来る訳無いだろう…!?」
 「じゃあ、このままだな」
 「う…うぅ…」
 
 私にとって死刑宣告にも等しい男の言葉を受け、彼の手が私の胸を遠慮なく触れ始める。既に最初のような外周をそっと撫でるような生易しい触れ方ではない。柔らかい乳肉に指先を埋めようとしているような触れ方――いや、揉み方に変わっている。鱗越しではあるものの、地上の王者にあるまじき柔らかいその部分は、彼の手の中でもにゅもにゅとその形を変え、何処かむず痒い感覚を下腹部に落とし続けていた。
 
 「う…ふぅ…」
 「…どうした?息が荒くなっているぞ?」
 「お、お前の気のせいじゃないのか?自意識過剰にも程がある…ぞ…!」
 
 強がってみるものの男の言う通りなのは誰の目にも明白だろう。さっきから身体中に広がる甘い熱は胸の快感と結びついて、はっきりとした興奮へと変わっている。それはまだ欲情と名づけられるようなものではないが、私の肌を汗ばませ、火照った身体を覚まそうと胸を上下させていた。
 
 「大体…!私は元ではあるがオスなんだぞ…!そんな…相手の…胸を触って楽しい…のか…?」
 「そう言われても実際、お前の昔の姿なんて知らないわけだしなぁ」
 
 反撃とばかりに昔の話を持ち出すが、男はまるで怯んだ様子を見せない。それどころかその顔に浮かべる笑みを濃くした。普段なら何とも思わないその笑顔は私の背筋にゾクリと冷たい感覚を残す。身体が動けば、今すぐにでも引っ叩いてやるのに、それが出来ない今、私は無防備に彼の玩具になるしかないのだとそう教えるような笑みだったからだ。
 
 ―お、落ち着け…!流石に…そこまで酷い事はされないはずだ…!
 
 どんな目的か知らないが、コイツは私を欲しがっている。その為に私の心を折りにきているだけだ。その時点で手荒な真似は決して出来ないし、今こうして愛撫を繰り返しているというのはコイツが手荒な手段を使うつもりはない証であろう。本当に心を折るのにその…そう言う事をするのであれば、毒が回りきった今が絶好の好機なのだから。しかし、それをしないで愛撫で無為に時間を過ごすと言うのはこの男自身、そこまでやるつもりは無いと言う事だ。
 
 ―だから…毒が消えるまで耐えれば…!
 
 元々、ドラゴンは毒にも強い耐性と人間とは比べ物にならない再生力を持つのだ。刀傷は既に半ばふさがり、そこから入り込んだ毒に対しても免疫機能が反応している。人間ならばどうかは知らないが、そう遠くないうちに解毒は完了するであろう。そうすれば、反撃の芽は幾らでもある。どれだけ不埒な真似をされても、毒が消えるまで我慢すれば、この男を八つ裂きにする事が出来る筈だ。
 
 「それに……今のお前は美人だしな」
 「…は?」
 
 ―美人?私が…?
 
 そんな風に必死で堪えようとする私の耳にまったく予想だにしない言葉が投げかけられる。余りにも予想出来なさ過ぎて、思わず聞き返してしまったくらいだ。それも当然だろう。だって、私は元々オスで、今の姿があまり好きではないのだ。鏡を見る事自体、滅多にしない。水を飲む時に水鏡に顔が映るときがあるが、釣り目で三白眼の不機嫌そうなメスが映る。人間の美的感覚は知らないが、何時も不機嫌そうに眼を吊り上げる女が美しいとは決して言わないだろう。
 
 「気の強そうな釣りあがった眼に、綺麗系で整えられてる。髪も艶やかで綺麗なストレートしてるじゃないか」
 
 まぁ、お前は別に手入してる訳じゃないんだろうけどな、と男は小さく笑った。それはさっきまでの残酷ささえ感じる表情とは違い、何処か子供めいた無邪気さが強い。それを見ているとさっきまでの表情がまるで私の心を折るためのブラフに見える。
 
 「胸もでかいし、肌もすべすべだ。ついでに言えば感度も良い。それだけ揃えば十二分に良い女だろう」
 「なっ!?ななななな!?」
 
 しかし、今の私にはそれがブラフかどうかなんて判断する余裕は無かった。何せさっきまで敵対していた男にいきなり口説かれ出したのだ。しかも、とても恥ずかしい言葉を伴って。聞いているだけで顔に熱が灯るような言葉の羅列は、私が今まで請けたことの無い物であった。そして、勿論、一度だって向けられるとも思ったことが無い。そんな言葉に耐性なんてあるはずがなく、私の思考は一時、完全に凍り付いてしまった。
 
 「はは、何だ。良い女って言われて照れてるのかよ」
 「ち、違っ…!あ、余りにも馬鹿馬鹿しすぎて呆れているだけだ!」
 
 ―そう。だって…馬鹿馬鹿しすぎる。
 
 私はドラゴンで奴は人間だ。私が本気になれば、男を殺す手段は両手では足りない。爪先に少し力を入れるだけで、男は真っ二つに引き裂かれるのだから。そんな相手に良い女だなんて人間の価値観を当てはめることなんて、正直、どうかしてるとしか思えない。そう。思えないはずだ。
 
 ―な、なのに…どうして私の胸は高鳴っているんだ…?
 
 まるで全力で戦っている時のように心臓の鼓動が早く脈打つ。それは私の鼓膜を打ち、若干五月蝿い位だ。しかし、どれだけ五月蝿いと思っても私の鼓動は収まってはくれない。
 
 「そうかもな。だけど…俺は本気だぞ」
 「な、何がだ…?」
 「馬鹿馬鹿しいと言われても必ずお前を手に入れてやる」
 
 ―キュンと胸が疼いた。
 
 真剣な眼でこちらを見据える男から告げられた言葉はまるで魔法のようだ。ただでさえドックンドックンと働きすぎな心臓に更なる試練を与えるのだから。胸が苦しくて、疼く気持ちのままに掻き毟りたい衝動にさえ駆られた。しかし、麻痺毒で動けない今の私には何も出来ない。ただ、彼の宝石のような眼を真正面から見据えるくらいだ。そして、その眼がまた私の胸を高鳴らせ、疼かせる。
 
 ―わ、私はどうしたんだ…!?
 
 まるで病気にでもかかったような様子に困惑を隠せない。今までこんな気持ちになった事は、こんな不調を訴えたことは無かったのだ。どんな病でも弾き返す健康優良児だったのだから。けれど、今はそれがまるで嘘のように全てがおかしい。最初の一太刀を受けてから、まるで歯車がずれた様に上手くいかないのだ。
 
 「だから…降参するのは早い内が良いぞ」
 「や…ぁ…!」
 
 しかし、どれだけ困惑しても男が待ってくれることは無い。その手は再び動き出し、私の乳肉を揉む。さっきよりもより激しくなった愛撫を受け入れて、鱗越しに私の胸が揺れた。まるで悦んでいるようなその動作に私の顔がさらに赤くなってしまう。
 
 「ふ…ぁ……」
 
 高鳴る心臓を乳肉越しに触れられている所為だろうか。さっきよりも濃くなった興奮が私に荒い吐息を吐かせる。けれど、それは別に私が感じているというわけではない。そう。絶対に違う。さっきの毒が回って身体が火照っているだけで、それ以外では決して無い。
 
 「随分と我慢するじゃないか」
 「と、当然だ…!こんなもので負けを認めるものか…!」
 「それじゃあ…これはどうだ?」
 「ひぅぅ…!」
 
 そう言って男は鱗越しに私の胸の頂点を一気に押し込んだ。そこは私の胸の中で最も敏感であろう場所の真上であり…押し込まれた『ソレ』がさっきとは違うビリビリとした感覚を下腹部へと齎す。
 
 「はは…!随分と可愛らしい声を上げるじゃないか」
 「やめ…ば…かぁぁ…!」
 
 楽しそうな男を止めようと声を上げるが、コイツは止めてはくれない。胸を弄ぶようにグリグリと指を埋め込んでいる。直接、触れられているわけではないとは言え、その感覚は揉まれているだけとは比べ物にならない。思わず身体が逃げようとするくらいだ。
 
 「やっぱりお前、感度良いな。つーか自分で触ったりしなかったのか?」
 「わ、私はオス…なんだぞ…!さ、触っ…ひゃうっ…てみたいと…思ったことも無い…!」
 「へぇ…そりゃ勿体無いな…」
 
 私の言葉の間も男の指はグリグリと私の乳首を押し込んで行く。それを柔軟に受け入れる私の胸の中では乳首がむくむくと起き上がり始めていた。私は人間の生理現象に詳しいわけではないが、確かこれは人間の女が感じている時に見せる兆候だったと思う。…そして、それを見せていると言う事は、こんな男に好き勝手、弄ばれて私も感じていると言う事で……!!
 
 ―認めない…!絶対に認めないぞ…!
 
 オスとしても、ドラゴンとしてもそんな事、認められるはずが無かった。もし、認めてしまえば自分の中の重大な何かが崩れてしまいそうにさえ感じるのだから。
 
 「これだけ感度の胸を今までほったらかしにするなんてな」
 「…逆の立場…で…ぇ…くぅ…お前は…やる…と思う…か?」
 「残念だが俺は好奇心旺盛だからな。多分、やる」
 「こ、のぉ…変態…!」
 
 卑怯な上に変態属性まで追加された男に負ける訳にはいかない。その気持ちを込めて、言葉と共にきっと睨めつけるが、コイツは何処吹く風と言わんばかりに気にしていない。マイペースに私の胸を楽しみ続けるだけだ。まるで遠慮を見せないまま私の身体を好き勝手する男に対して、何も出来ない自分に惨めささえ感じてしまう。
 
 「変態で結構。んじゃ…次はご開帳と行こうか」
 「何を…ひゃあ!」
 
 そんな私にさらなる惨めさを与えるように男の手が私の胸に掛かる。しかし、それはさっきまでの揉むようなものでも、乳首を押し込むような動きではない。鱗を掴み、引き剥がそうとするものだ。それを反射的に止めようとして、手が少しだけ動くが、私の胸を覆う鱗は何の抵抗もなくそっと私から離れてしまう。
 
 「…うわ…すげ…」
 「や…め…見るな…ぁ!」
 
 呆然とした様に見つめる男の視線から胸を護ろうと少しだけ動く腕で隠そうとする。しかし、そんな動きさえ許しては貰えず、私の腕は男の、しかも片手で上着の上に縫い付けられるように押し付けられてしまった。まるで人間のメスのように軽々と、だ。身体が何時も通りであれば幾らでも吹き飛ばしてやるのに、マトモな抵抗も出来ない状況に私の胸に再び強い惨めさと形容しがたい熱い熱が灯る。
 
 ―何…これ…?
 
 さっきの感じた胸の疼きにも似たその熱は心臓に宿り、全身へと駆け巡っていく。まるで私の身体に何かを教えるようなそれは、未だ形を伴ってはいない。いないが、血液と共に全身へと運ばれ、各所で根付くその熱は確実に私の抵抗する気力を奪い始めていた。
 
 「隠すなって。これだけ綺麗なんだから、隠す方が損だぞ」
 「例え損でもお前に見せる胸なんか無い…!」
 
 その熱に逆らうようにはっきりと言い放つが、男は私の手を離してくれるつもりはなさそうだった。寧ろ、惨めな私の状況をさらに加速させるようにジロジロと無遠慮に見つめてくる。完全にその肌を露出してふるふると揺れる豊満な胸はその視線さえ感じ取り、じくじくとした甘い疼きを私に齎していた。
 
 ―あぁ…わ、私…見られてる…!こ、こんな男に…胸を……!!
 
 その疼きが屈辱的な感情と結びつき、私の胸に再び熱を灯す。私の気力を根こそぎ奪おうとするその熱が、また全身へと巡り、腕からそっと力が抜けた。それを感じたのだろう。男の手も私の腕から離れ、胸の外周をそっと撫ではじめる。
 
 「ひぁぁ…!!」
 
 感覚が伝わっていたとは言え、私の鱗ははっきりと防護の役割を果たしてくれていたのだろう。さっきよりもより鮮烈に感じる感覚に私の口から無様な声が漏れ出た。普段ならば決して言わない情け無い声に私の顔に再び熱が灯る。
 
 ―これでは本当に人間のメスのようではないか…!!
 
 そうは思うものの、抵抗する手段はまるで無い。それならば、せめて声だけは出すまいと私はきゅっと歯を噛み締めた。
 
 「なんだ…?もう抵抗するのを諦めたのか?」
 
 ―違う。抵抗するのを諦めた訳じゃない…!
 
 からかうような男の言葉にはっきりとそう返してやりたかった。しかし、下手に口を開ければ、また変な声が出てしまうだろう。こうしている間にも男のゴツゴツとした手がさわさわとアンダーの辺りを撫でているのだ。さらに、そこから生まれるむず痒いようなピリピリとするような感覚はどれだけ撫でられても慣れる事は無い。
 
 「せめて声だけでもって所か?それじゃもう辱めを受け入れる前提じゃねぇか」
 
 ―ち、違う…!!
 
 そう否定する言葉はさっきよりも弱い。男の言葉はさっきまでの私の心を的確に射ていたからだ。正直に言えば図星も図星だ。抵抗せずに口を閉じるなんて、勝者ではなく敗者の矜恃ではないか。そういう考えは私の中にだってあった。
 
 「諦めるくらいなら認めろよ。お前は俺に負けたんだってな。そうだって認めるのなら…いや、頷くだけでも…ここで止めてやるよ」
 
 ―その言葉は今まで聞いた中で一番、優しかった。
 
 ぶっきらぼうな言い方は変わらないが、その声に篭る感情は少しだけ暖かい。どんな目的の為かは分からないが、コイツ本来の性格は優しいのかもしれない。思わずそんな事を思ってしまうくらい…それは暖かかった。思わずそれに身を委ねて、私の首は頷こうとしてしまいそうになる。けれど…寸での所でさっきの熱によって抑えこまれていた私のプライドが眼を覚まし、それを阻んだ。さっきまではアレだけ完全に抑え込んでいたのに、今更、何故プライドを解放したのか。私自身、それが分からないまま、そっと男から目を背ける。
 
 「…そうかい。じゃあ……後悔すんなよ」
 
 結局、眼を逸らした私に冷たく言い放しながら、男の両手は撫でるのではなく、揉みしだく愛撫に移行する。少し乱暴にぎゅっと掴まれる感覚は、私が今まで味わってきたどんな感覚よりも鮮烈だ。麻痺しているはずの首を大きく後ろに逸らし、咽喉元の逆鱗さえ晒してしまう。しかし、今はそれを構っている余裕など無い。さっきから確かに感じていたビリビリとした感覚が、はっきりとした意思を持って私の全身に流れたのだから。
 
 「くぅ…っ!!」
 
 声を漏らさなかったのはただの意地であったと言って良い。少しでも気を抜けば、さっきよりも甘い声を漏らしていたことだろう。それくらい、男の手から与えられる感覚は激しく強かった。さっきまでのがお遊びに思えるくらい、もう私が快感と認めるしかないくらいはっきりとした感覚が私の全身に流れ、下腹部の奥に溜まり始める。
 
 ―なん…だ…これは…!?
 
 自覚してようやく気付いたが、私の下腹部は胸とは比べ物にならないくらい甘い疼きを走らせていた。今までは無意識的に目を背けていたのだろうか。ズキズキとウズウズと走る感覚に気付いてしまった今、止まる事は無い。私の理性を一気に切り崩し、もっと触って欲しいと、快感が欲しいと訴え始める。
 
 ―ば…かな…!そんな事言えるか…!!
 
 そもそも拒絶したのは私の方なのだ。その上、私はコイツの事を別に好いているわけじゃない。そんな相手にもっと触って欲しいと、激しい快感が欲しいと言える訳が無いだろう。しかし、強大な力を持つ反面、理性よりも本能の方が先行する傾向にあるドラゴンが理性で本能を抑えきれる時間なんてそう多くは無い。このままではジリ貧なのは誰の眼から見ても明らかだった。
 
 「どうした…?まるで熱に浮かされた顔をしてるぞ」
 
 ―その元凶が何を抜け抜けと…!!
 
 私の気持ちも知らず、遠慮なく揉み続ける男を再びきっと睨めつける。しかし、男はそれをまるで意にも介さない。にやにやとした笑みを浮かべて、私の心を折ろうとしている。
 
 「仕方ないよな。これだけ感度が良い胸なんだから。声を我慢するのも一苦労だろうなぁ…」
 「ひっ…ぅ…」
 
 感情が篭っていないにも程がある言葉がゾリゾリと私の耳を犯す。仕方ないんじゃないかと、一苦労だと、そんな羅列が私の脳を麻痺させ、声をあげてもいいんじゃないかとそんな気持ちさえ浮かび上がる。それを一々必死に否定して回るが、それも段々、弱まり始めた。そして、そんな私に止めを刺すように男は意地悪そうな笑みのまま、口を開く。
 
 「知ってるか…?思いっきり嬌声を上げると気持ち良いんだぞ?」
 
 ―キモチイイ……?
 
 その言葉が私の理性に穴を穿つトドメとなった。そこから溢れ出した本能が一気に私の口へと殺到し、しっかりと閉じたそこを開いていく。後に残るのは開放感と快感への期待のみ。あっさりと折れた決意に対する後悔はそこにはなかった。
 
 「んぁああああっ♪」
 「はは…よっぽど我慢してたんだな…」
 
 口から思いっきり漏らす声はさっきまでとは比べ物にならないくらい甘い。少しの間とは言え、声を漏らすのを我慢していた所為だろうか。私の胸の中で熟成されたような言葉たちは、まるでメスがオネダリするような甘く切ないものだ。しかし、それを自覚して尚、私の咽喉は止まってはくれない。男の指が胸に少しでも食い込むたびに甘く痺れる快感を感じて、言葉を漏らし続ける。
 
 「ひあああっ♪きゅぅぅぅっ♪」
 「…こうして感じてる姿はホント、可愛いな」
 
 ―可愛い…?私が…?
 
 恐らく伝えるつもりなんてなかったのであろう小さな呟きは私の敏感な耳に届いた。可愛いという基準が私には分からない。別に私は人間の文化や価値観に精通しているわけではないのだ。しかし、それでも私の本能はその意味を理解しているのか、私の胸に暖かいモノを灯す。
 
 「しっかし…舌まで突き出しちゃって…まるで犬みたいだぞお前」
 
 からかうような言葉も勿論、私には届いている。しかし、今更、口を閉じることは出来ない。屈辱的な行為だと分かっているのに甘い言葉が飛び出て止まらないのだ。まるで男にオネダリするように、誘うように、何度も何度も嬌声を漏らす。それに興奮しているのか、私の胸を揉む男の手も少しずつエスカレートして、より激しいものに変わっていった。
 
 「きゅぅぅぅぅんっ♪」
 
 胸の根元か胸を締め付けるような愛撫に私は嬌声を上げる。勿論、それはさっきまでの揉み方には無かったものだ。鈍い痛すら感じる中で、それ以上の快感が私の下腹部へとドロドロと溜まる。しかし、それで終わるはずがなく、今度は頭頂部の乳輪の辺りを中指と人差し指の間で押し込まれた。敏感な乳首の周りさえ責められるのもさっきまでは無かったことである。
 
 「んあぁぁ……ぁっ♪」
 
 鮮やかなサーモンピンクの乳輪を押し込まれると自然、頭頂部の乳首にも刺激が届く。それは勿論、はっきりとした快感だ。しかし、それでもやはり物足りない感が否めない。理性の殆どを快感に飲み込まれてしまった私には、下腹部からもっともっとと要求される本能が全てなのだから。
 
 ―触って…もっと触って欲しい…っ乳首も…一杯…ぃ…っ。
 
 けれど、未だ私に残るプライドが男にそうオネダリするのを許さない。勿論、このまま我慢すれば、コイツは何れ焦れて、乳首も責め始めるだろう。しかし、今の私にはその『何時か』を待つことが出来ないのだ。情けないくらい堪え性の無い身体が、早く乳首を触ってもらえるようにとその頭を回転させ始める。
 
 ―どうしたら…プライドを傷つけずにコイツに触れてもらえる…?
 
 その思考自体が既にプライドを捨て去っているも同然だと私の何処かは気付いていた。しかし、今はそれから思い切り目を背けるしかない。認めてしまえばそれこそ私の唯一とも言える支えが、アイデンティティーが崩れかねないのだから。
 
 ―プライド…そうだ…これなら……。
 
 「ふ…ふん…!そ、そんなもので私をぉ…あく…っ♪屈服させられると思ったら大間違い…だ…ぞ…ぉ」
 「へぇ……」
 
 挑発する言葉を聞いて、男の顔に面白そうな色が浮んだ。まさかこの期に及んで反抗されるとまでは思っていなかったのだろう。その顔には驚きの色さえ見て取れた。一矢報いた感覚に胸中で握り拳を作りながらも、ここで油断をする訳にはいかない。何せ今の私の目的は反意を示すのではなく、挑発し、さらに愛撫をエスカレートさせる事なのだから。
 
 「さっきから喘ぎ声ばっかあげてるメストカゲの癖して中々、強がってくれるじゃねぇか」
 「お前が…ぁ下手だから…くんっ♪振りをしてやっている…だけ…だからな…ぁ♪」
 「言ってくれるじゃないか。なら…遠慮は要らないな」
 
 その言葉と同時に男の両手がそっと私の胸から離れた。ずっと胸に押し当てられていた熱くて硬い感覚が離れ、何処か薄ら寒く感じる。しかし、自分で胸を暖める必要は無く、仕切りなおすようにコイツの両手が私の胸の頂点を摘むようにして伸びてきた。
 
 ―あぁ…っ♪もう少し…もう少しで触ってもらえる…ぅ♪
 
 まるで焦らすようにゆっくりと伸びる男の両手に私の咽喉はごくりと鳴った。下腹部では切ないほど疼きが強くなっていて、乳首を触ってもらえるのを今か今かと待っていた。そんな私の目の前で、乳首をそっと男の指が触れて――
 
 「はっそんな挑発に誰が乗るかよ」
 「…え?」
 
 ―触れてはもらえなかった。
 
 そのまま乳首をスルーした男の右手は私の胸をさっきまでと同じように激しく揉みあげる。根元から乳首へ。まるで絞り上げるように。その感覚は勿論、強い快感となって私に認識されている。けれど…けれど、乳首は触ってもらえない。
 
 「やだぁ…や…だぁぁ…っ」
 
 その不満が私の中で爆発し、子供のような声を上げる。まるで駄々をこねるように身体を捻るが、それも男の手に押さえつけられれば何の抗議にもならない。しかし、それでも期待を裏切られた私の本能は止まらない。触ってくれると思ったのに、もっと気持ち良くしてくれると思ったのに、と不平不満を弾けさせる。それが私の身体を今、必死に動かしていた。
 
 「何だよ…そんなに触って欲しかったのか?」
 「う…うぅ……っ!」
 
 悪戯っぽい笑みを浮かべる男はきっと私の気持ちなんてお見通しなのだろう。その眼には勝ち誇った色が浮んでいる。それを見ている私が惨めになるくらいだ。そして、その惨めさが私の心に触れて、もう意地を張っても意味が無いんじゃないかと告げてくる。身体中に飛び散って根付いた熱も同様にだ。しかし、その一方で生まれてから百年以上、共に合ったプライドと心は中々、折れず、素直に触って欲しいと言う事が出来ない。
 
 「言えば何時でも触ってやるぜ。言えば…だけどな」
 「あぁぁっ!」
 
 そう言って、男の右手は焦らすように私の胸を撫でる。さわさわとむず痒い感覚だけ残すようなそれは貪欲な面を剥き出しにした本能を抑える事に何の役にも立たない。寧ろ、中途半端に加えられる刺激が、私の中の欲情を炙り、忘れさせないようにしているようだ。
 
 ―う…うぅ…負けたくない…負けたくない…のにぃ……っ!!
 
 男の手管は経験の無い私にとっては、太刀打ちの出来ないものであった。我慢する事も、反撃することも許されず、ただまな板の上の乗せられた魚のように料理されるのを待つだけなのだろう。さっきからどんな行動も読まれ、先回りされているのだ。その絶望感と敗北感は私の中に確かに溜まり、さっきの熱と相まって、私の中の『何か』を変質させ始めていた。
 
 ―でも…ま…だぁ…!!
 
 「う、自惚れてるんじゃないぞ人間…よ…!」
 
 それでも私の一線は譲れない。今まで確かに私の中に通っていた芯は折れない。私の中の『何か』は確かに変質している。それは認めよう。だが、それでも最後の一瞬まで私は諦めまいと、そんな意思を込めて男を見据えた。
 
 「…なるほど。下手に焦らしても無意味だなこれは」
 
 そんな私の強情な様子を見て、男は一つ溜め息を吐いた。まるで見せ付けるようなそれはポーズなのか、或いは本心なのか。私には分からない。分からないが…男が何か決心したのは私の目にもはっきりと伝わってきた。
 
 「なら……快感で屈してもらうしかないよな」
 「んああぁぁぁっ♪」
 
 宣言するような言葉と共に男の右手が私の乳首に襲い掛かる。ずっと焦らされ続けたそこはもはや完全に硬くなっていて、ピンと桜色の姿を男の目の前に晒していた。それを中ほどから折るようコイツの親指と人差し指が挟み込む。ぎゅっと押しつぶされるような感覚と共に私の体に走るのはビリビリと電気にも似た快感。そして…胸と下腹部に根付くような甘い甘い痺れだ。
 
 ―な、何だ…これ…っ!?おかし…いぃ…っ!!
 
 待ち望んだ快感に悦び狂う私の身体とは裏腹に、私の頭ははっきりと『異常』を訴えていた。だって…それは気持ち良過ぎるのだ。甘くて甘くて頭に霞が掛かったように何も考えられなくなってしまう。全身が悦ぶのと反比例するかのように、私の頭は混乱を深めていった。
 
 「ひぅ…っ♪きゅうぅぅ…っ♪」
 「はは…っ!胸だけで随分と気持ち良さそうじゃないか」
 
 男の言葉通り、私の身体に走る快感はもう抑え切れないものになっていた。首が倒れるだけでは飽き足らず、背筋すら痺れるようにびくびくと浮き上がってしまう。勿論、その背にはゾクゾクとした寒気にも似た感覚に連動するように、鳥肌と汗が浮んでいた。
 
 「まだ片方だけだぞ?これが両方になったら、お前、イくんじゃないか?」
 
 ―イ…く……?
 
 それは聞いた事のない言葉だ。しかし、男の言葉尻からそれが『キモチイイ』事であるのは私の本能が理解した。そして、貪欲で好奇心旺盛な本能がそれを求め始める。イキタイイキタイと下腹部で…いや、その奥にある子宮で訴え始める。勿論、乳首から与えられる快感で霞がかった理性では、それを抑えることが出来ない。それが何を求めているのか分からないまま、私の口は開いた。
 
 「イきたい…ぃ♪イかせてぇ…イかせてぇぇ…っ♪」
 「…良いぞ。たっぷりイかせてやる」
 
 甘い私の懇願に応えて、男の左手が伸びる。しかし、それは私の胸ではない。もっと下の…引き締まったウエストよりも下にある部分だ。鎧のような鱗に包まれたそこは男の手によってあっさりと守りを解かれて、夕日の下に晒されてしまう。
 
 「うわ…もうぐちゃぐちゃじゃねぇか…」
 
 ―は、恥ずかしい……!!
 
 何が恥ずかしいのか私には分からない。分からないが、そこに触れられていると言う事、そしてぐちゃぐちゃと言う言葉がどうしても私の中の羞恥心を掻きたてる。思わず快楽に霞の掛かったような思考がそっと男から眼を離そうとするくらいだ。
 
 「や…そこ…いやぁ……」
 
 そんな私の口から出るのも弱気な言葉だ。そこはどうしても触れてほしくは無いと言う感情と、今すぐにでも触れて欲しいと言う相反する感情が渦巻いている。自分でも整理できない感情が弱気な言葉となって溢れたのだ。けれど、男はそれを聞き入れる様子は無い。寧ろその勝ち誇った笑みを濃くして、私に甘く囁いた。
 
 「待ってろ。…今、気持ち良くしてやるからな」
 
 その言葉の意味を理解する暇さえなく、クチュリと言う音と共に触れられた私の『ソコ』から激しい快楽が這い上がってきた。いや、自分でも怖くて触ったことが無いそこから湧き上がる『モノ』はもう快楽と言う言葉には相応しくない代物だったのだろう。何せそれは激しすぎて一種、苦痛でもあったのだから。強すぎて、気持ち良くて、甘い感覚がそのまま私の中を這い上がり、子宮へと直撃する。そのまま疼く私の中で暴れまわって、私の目の前にチカチカと小さな星を瞬かせた。
 
 「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!」
 
 声が出ないほどの衝撃は私の全身を這い回って止まらない。背筋を浮かせるだけでは飽き足らず、私の腰もまるで壊れたようにガクガクと震えた。しかし、それでも快楽の波は収まらず、私の身体中を駆け巡る。まるで、激流に飲み込まれるように私の爪の先から髪の毛の先まで全てが全て快楽に染まっていくのだ。それはとても激しく、辛くて、苦痛で、頭が真っ白になって、それでいて…例えようも無く甘美であった。
 
 「ふ…あぁ…ぁ♪」
 
 それが収まったのはどれくらい時間が経ってからなのか。チカチカと瞬いた星が消えた頃には私の身体は完全に脱力していた。もはや痙攣する余力も失ったように私の身体は彼の上着に身を委ねている。頭の何処かでそんな今の私が無様に映ったが、そんな感情は未だ尾を引く快楽の余韻の中に消えていった。
 
 「凄いな…まだ陰唇触っただけだぞ…それでイくのかよ…」
 
 何処か遠い場所から男の感心したような声が聞こえる。焦点の定まらないぼんやりとした眼をそちらに向けると、何処か心配しているような顔が私に向けられていた。初めて見る男の表情に何かあったのかと思うが、さっきからどうにも頭が上手く働かない。ううん。働きたくない。それよりも今はこの快感に浸っていたいと、私は思考を放棄した。
 
 「おい…大丈夫か…?」
 「あ…はぁぁ…♪」
 「…あぁ、駄目だ。完全にイってやがる……」
 
 ギルタブリルの毒って媚薬の効果もあったけどこれ大丈夫なのかよ…と続ける男の言葉から察するにこれが『イった』状態なのだろう。確かにこれはキモチイイ。いや…気持ち良すぎる。頭の中はピンク色の霞が掛かって、何も考えられない。開きっぱなしで空気と嬌声だけが漏れ出る私の口はだらしなく唾液がこぼれていることだろう。身体中はいまだにジンジンと淫らな熱を灯していて、汗が止まらず、私の身体に艶やかな色を与えている。
 
 ―デモ…タリナイ…。
 
 そう。足りない。確かに『イく』のは気持ち良かった。けれど、足りない。これじゃない。その違和感が子宮から消えてくれない。そして、その違和感が貪欲なドラゴンの本能を呼び覚まして、もっともっともっともっともっともっともっともっとと告げてくるのだ。
 
 「もっと…ぉ…♪」
 「あ…?」
 「もっとイかせて…気持ち良く…してぇぇ…♪」
 
 懇願する私にもはや恥も外聞も無かった。ただ、本能に支配された気持ちのまま、男にオネダリを繰り返す。もっと激しいのを、私が満足出来る『イく』を欲しいと、熱に浮かされたような眼で。
 
 「チッ…スイッチが入ったか……」
 
 そんな私の目の前で男が小さく舌打ちをする。どうやらこの事態はコイツにとっても予想外であったらしい。未だ彼を嫌う私の心は一瞬だけ、それに喜びの声を上げた。しかし、それも完全に目覚めたドラゴンの本能によって上書きされ、あっという間に隅の方へと追いやられていく。
 
 「つーか…お前、自分で自慰の一つもした事無いのかよ…」
 「じぃ…?しらにゃい…ぃ」
 「自分で胸や性器触ったりした事が無いのかって事だよ」
 
 呆れたように言う男の台詞に、緩んだ頭で記憶を掘り返すが、そんな事をした覚えはまったくない。そもそもドラゴンにとって、性器を触ると言う事は生殖行為の時くらいなものだ。本能に忠実な反面、それ以外に余り頓着しないのは多分、私だけの特性ではあるまい。
 
 「触らにゃい…ぃ…らって…ドラゴン…だからぁ…」
 「ドラゴンだからって…訳わかんねぇよ…つっても今、意味のある問答を期待しても無理そうだな…」
 「あはぁ……♪」
 
 困ったように頭をガリガリ掻く様子に笑みが浮んでしまうのは、私がコイツの事をまだ認めてはいないからだ。認めていないからこそ、彼が困る姿を見るのが楽しい。面白い。きっとそうだ。頭がぼんやりしてちゃんと考えられないけれど、きっとそう。
 
 「またイかせて欲しいなら、負けを認めろ…って分かんないよな多分」
 
 実は分かっているとは顔に出さない。そっちの方が楽しいし、面白いのだ。そんな問答よりも私を気持ち良くして欲しいと言う気持ちも強い。本能と理性が手を組んで、分からない振りをしろと言っているのだ。男に見抜かれないよう、判っていると言う事を億尾に出さないのはそう難しいことではなかった。
 
 「じゃあ……するぞ」
 「はぁい…♪」
 
 諦めたように私に向き合う男に意外なほど素直な言葉が出た。それは私が敗北を認めたからか、私自身にも分からない。けれど、男がもう一度してくれるのが無性に嬉しく、甘い気持ちを私の胸に灯す。まだ自分でも整理できないその気持ちに首を傾げながら、私の両手は男の首に回った。
 
 「ちょ…おい…」
 「してぇ…♪」
 
 急に動いた私の腕に殴られると思ったのだろうか。やけに焦った声を上げて、コイツは抗議する。それに一瞬だけ私の理性が目を覚まし、今すぐこの男を倒せと告げた。このままだと大変な事になってしまうと。その為にコイツを倒さなければいけないと。しかし、今の私にとって、与えられる快感が最上であり、殴るのなんて持っての外だ。それよりも早くキモチイイ事をして欲しいとあっという間に欲情に上書きされ、ぎゅっと抱き寄せる。それに興奮したのだろうか。男の熱がぐんっと上がり、荒い息が私の敏感な肌に触れる。
 
 ―あれぇ…でも…私…どうしてコイツの首を抱いているんだ…?
 
 一瞬だけ浮んだ素朴な疑問。普通に考えれば、別に抱かなくても構わない。ただ、キモチイイ事をしてもらえればそれで良いのだから。どうしてだろうと首を捻る前にその問いは、答えが出る前に快楽を求める本能によって押し流されて消えて行く。
 
 「まったく…」
 「ひゃんっ♪」
 
 呆れたような声と共に男の手が私の胸に触れた。未だジンジンと疼き続けるそこを男の手が無遠慮に鷲掴みにするのだ。それは苦痛さえ感じるような強いものなのだろう。しかし、快感と言うものを教え込まされてしまった私にとって、それは苦痛ではなく快楽でしかない。ぐにぐにと思いっきり胸を歪ませて谷間に寄せるような激しい愛撫であっても、指を食い込ませ胸の奥に触れるような強い愛撫であっても、メスの快楽に目覚めた私はもう気持ち良くって仕方が無いのだ。
 
 「ひゅぅぅ…っ♪ 下ぁぁ…下…もぉぉ…っ♪」
 
 ―ケレド、タリナイ。
 
 勿論、キモチイイのはキモチイイ。しかし、ジンジンと疼きを残す今の私でも胸だけで『イく』事は出来ない。さっきの『イく』快感を覚えてしまった私の子宮もきゅんきゅんと唸って、これじゃ足りないと主張する。もっと下の、ううん。性器からの快楽を寄越せと叫んでいる。
 
 「分かってるって……ったく…キャラ変わりすぎだろ…」
 
 そんな私に愚痴を漏らしながら、男の左手がそっと私の内股を撫でる。水も無いのにべとべとと濡れているそこはとても敏感で、さわさわとむず痒い感覚にもはっきりとした快感へと変換した。しかし、それは子宮には届かない。何処か物足りない感覚がその上の性器で止まってじゅんと熱いモノを漏らさせる。それはべっとりと粘つくように熱く、私の中を敏感にするようだ。
 
 「ふぁぁ…っひ…あぁぁ…っ♪」
 
 胸と太股。両方から与えられる快楽が私の意識を掻き乱す。一つ一つだけでも気持ち良くって堪らないのに、両方からの刺激なのだ。そんなモノに耐えられるはずがない。もう私の頭の中はこの快感の事で一杯になって、他の事なんて何も考えられなかった。コイツがさっきまで嫌っていた相手だとか、敵対しているはずだとか、そんな事は思考の彼方へと吹き飛び、ただ、快楽を享受するだけの甘い甘い囁きしか残ってはいない。
 
 ―声を出せば…キモチイイ……んだよ…な……。
 
 さっきから恥も外聞も無く、嬌声を漏らしている。それはまるで子供が甘えるような情けの無い声だ。それが私の中の羞恥を掻きたて、快感を増幅させることに私の高い知能は気付いている。では、それがもっと恥ずかしいことならばどうだろう?もっと恥ずかしい台詞を、もっと恥ずかしいシチュエーションで言ったら…もっと気持ち良くなれるのではないか?
 
 「あはぁ…っ♪ 胸イイ…っ♪ キモチイイ…っ♪ びりびりってしゅりぅ…っ♪」
 「お…まっ…!!」
 
 その疑問に答えを出そうと漏らした私の声に真っ赤になって男が反応する。私が言っていることは男にとっても恥ずかしい事であったらしい。そして…勿論、私にとってもそうだ。未だ胸に残るプライドがじくじくと刺激され、「地上の王者の私がこんな恥ずかしい言葉を口にしているなんて…」と羞恥心が止まらない。そして、その感覚が私の中の快感を増幅し、背筋にゾクゾクとした背徳の感覚を走らせる。自分で自分を甚振る様なそれは余りにも甘く、切ない響きをもって、私の骨の髄に染みこんだ。
 
 「太股もっ♪じくじくしてぇ…ぇ♪性器びりびりするぅ…っ♪」
 
 そして、一度、染みこんでしまったそれはもう取れない。快楽を求めるドラゴンの本能が、一度、覚えてしまったのだから。もっともっとと貪欲に快楽を求める私の子宮がもっと言えともっと自分を辱めろと囁き続けるのだ。それを止めるはずの理性はもはや無く、私の身体はエスカレートする欲求に振り回され始めている。それは男も同じなのだろう。愛撫を繰り返しながら、戸惑ったような色を顔に浮かべて私を見ている。
 
 「お胸空いてる……ぅ♪触ってぇ…空いてるお胸の乳首も触ってぇぇ…っ♪なんでも良いからぁ…っ♪」
 「ちょ…おい!」
 
 そんな男の身体をさらに抱き寄せて、私の胸を密着させる。瞬間、ピンっと張った乳首が男の装束と擦れてビリビリと新しい快感が私の頭に突き刺さる。思わずぎゅっと歯をかみ締めてしまうほどの衝撃に私の視界は揺れた。思いの他、強い快感に一瞬動くことを忘れた私の身体は数瞬のタイムラグの後、私に嬌声を吐き出させる。
 
 「ひ…っあぁぁあぁぁぁぁああっ♪」
 
 ―キモチイイ…っこれ…キモチイイ…っ!!
 
 何がよかったのかは分からない。男の装束がしっかりとした作りをしていて硬かったのが良かったのか、或いはコイツの体温を間近ではっきりと感じる事が出来たのか。安心感にも似た甘くてドロドロとした感覚は私の骨の髄を溶かそうとしているようだ。ドロドロとじくじくと幾らでも湧き出る快楽は私の思考をそれ一色に染め上げる。
 
 「あぁぁ…っ♪もっとしてぇ…ぎゅってしてぇ…♪ひぃぃぃぃぃんっ♪」
 
 そして、もっとそれを貰おうと身体を捩じらせてオネダリした瞬間、慣れ親しんだビリビリと言う快楽が下腹部に突き刺さる。さっき『イく』間際に味わっていた快感とそれは酷似している事から、乳首と服が擦れて歪んだのだろう。しかし、両方の乳首から生まれる快感は単純に考えてさきほどの二倍だ。その上、太股からの快感が、抱き締めたことから発生する不思議な快感が、私の身体の中に渦巻いている。それらは一つの方向性を持って私の背を押して、再びさっきの『イく』へと足を進めさせようとしていた。
 
 ―アァ…デモ…コレジャナイ…!!
 
 けれど、それは所詮、さっき味わったものだ。今から向かえる『イく』は私の身体がバラバラになってしまいそうなくらい気持ち良いのは疑いようもない事だろう。しかし、それでは駄目なのだ。私の本能が求めているのは、これではない。何を求めているのか私にさえ分からないが…兎も角、これでは私は満足する事が出来ないのは明らかだ。
 
 「やぁぁ…っ♪ やぁぁぁ……っ♪」
 
 自分でも分からない欲求のまま、私の声は嫌と続ける。しかし、身体は『イく』へと向かうのを止めないのだ。ぎゅっと内股同士をすり合わせるように男のゴツゴツとした暖かい手を挟んで逃がさない。男の首回った手はさらなる力を込めて、より密着させようとする。その下では、私の乳首がピクンと立ち上がり、右へ左へと揺れる感覚を快感へと置き換えていた。
 
 「ふぁ…ぁぁ…♪ イくイくイくイくイくぅぅぅ…っ♪」
 
 どれだけ嫌でも、その身体の流れには逆らえない。頭の中は真っ白になって、快楽に染め上げられるのを待っていて、私の視界の端にはチカチカと瞬いている。焦点はズれてしまい、何処かぼやけた視界が不安で、男の体温に意識を向けた。子宮からはぐわりと燃え上がる熱の固まりが起き上がり、弾ける瞬間を待っている。
 
 そして、『イく』数秒前、男の手が親指の先が私の性器に触れた。
 
 それは何かの偶然であったのかも知れない。もしかしたらコイツが私が不満げにしていることを知っていたのかも知れない。けれど、私にとってはどちらも変わらない。結局の所、それが引き金となって、私は子宮に溜め込んだ熱と欲求不満を一気に弾けさせ、全身を揺らした。
 
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 
 衝撃。快楽。苦痛。安心感。二回目と言っても、まだ慣れる気配さえ見えない感覚が私の中に弾けて回る。まるで私の中に別の生き物が暴れまわっているようなのだから。快楽と言うその化け物は、私の身体中を荒らして周り、びくびくと跳ねさせる。敏感になった私の身体はそれを苦痛とさえ受け取るのだ。けれど、それがまた私の中の背徳感を呼び、じくじくと子宮に淫らな熱を齎す。
 
 「ふああああああああっ♪」
 
 一通り衝撃が走り回り、声を上げられるようになっても私の中に蠢く化け物は止まらない。寧ろもっともっとと貪欲に私の身体を蹂躙し続ける。私の胸も、その先の乳首も、太股も、そしてその先の性器も。どれもこれも敏感に指せ、さらなる快楽を生み出した。そして、それが通り過ぎ、再び子宮へと戻った後、私の身体にはじくじくとした感覚だけが残る。
 
 ―アァ……キモチイイ……ィ…♪
 
 余韻に身を委ねられるころになってようやく私の思考がそう言葉を漏らした。しかし、同時に欲求不満で仕方が無い。確かに今の『イく』はさっきよりも強かった。それは認めよう。けれど、方向性が似ているのだ。まるで肉を食べたい時に木の実を無理矢理、食べさせられるような感覚である。勿論、腹は膨れるが、欲求不満は収まらない。寧ろ、木の実を食べる度に、不満を大きく燃え上がらせるものだろう。
 
 ―何が……何がタリナイ……?
 
 『イく』のお陰か少しばかり冷静になった思考で私は考える。しかし、そう言った経験がまるで無い私にとって、それは無為にも程がある。何せ理性で考えても、経験の無い私では答えなど出るわけが無いのだから。本能に身を委ねなければ、この不満は解決しないだろう。そう思って私の右手はそっと男の首を離れて、下腹部――子宮の上へと置かれた。そこはもっとも『イく』の影響を受けていて、疼くような感覚が収まらない。きゅんきゅんと唸って、切なくて、何度も内股を摩り合わせさせていた。
 
 「もう…良いだろ…?頼むから負けを認めてくれよ…」
 
 そんな私の目の前で困ったように男が言った。その声に潤んだ瞳を向けるが、やはりそこには声と同じく困ったような顔がある。…いや、瞳だけは爛々と別の色に輝いている。息も荒く、顔も上気して興奮の色が見えた。興奮しているのに困っているとは如何言う事なのだろう?…考えても分からず、私はじっと男の目を見据えた。
 
 ―そこには同じ色をした私の瞳が映っている。
 
 あぁ、そうか。と私の本能は理解した。つまりコイツも欲求不満なのだ。何故かは分からないが、男は本能を必死に御して、欲求を押さえつけようとしている。しかし、今、その限界を迎えているのだろう。だからこそ、コイツの顔には困ったような色が色濃く浮んでいるのだ。
 
 ―不憫な奴……。
 
 何故かは分からないが、そんな気持ちが浮かび上がってきた。既に本能に支配された身だからだろうか。男の姿がとても窮屈そうに見えた。ふと何とかしてやりたいという衝動に駆られる。しかし、私は男が何を求めているのかも分からず、左手で慰めるようにそっと頬を撫でた。
 
 「…お前…」
 
 呆然とするように声を漏らす男に何か言おうと口を開く。しかし、自分でもなんなのか良く分からない衝動は言葉にならず、口からもれ出るのは甘い吐息と快楽の余韻だけ。それが妙に悲しくて、辛い。さっきまでは自分を追い詰めるように考えなくても言葉が出るのに、今は何も分からないのが胸を鷲掴みにされるように悲しいくて辛いのだ。
 
 「……俺だって男なんだぞ。そんな事をされたら誤解したくなるし…我慢できなくなる」
 
 そんな私の手に合わせる様に、男は右手を重ね合わせた。私よりも小さな手が伝える体温が鱗越しでも分かる。それは暖かくて、何処か安心する響きを伴っていた。
 
 「これ以上…我慢は無理だ。犯したくなる。…だから、負けを認めてくれ。そうすればこれ以上、何もしない」
 
 ―…犯す……?アァ、ソウカ……。
 
 子供に言い聞かせるような優しい声に私はようやく何を欲しているのかを悟った。いや…もう目を背けてはいられなくなったというのが正解なのだろう。私だって、これが生殖行為であることは知っているのだ。ここまで強い快感を伴うとは知らなかったが…行き着く果てはただ一つ。男性器を女性器の中に挿入れて、子供を成す行為だ。今まではその前段階。人間の文化で言えば前戯と言った段階なのだろう。しかし…私はそれで満足することは出来なかった…。そして、私はメスでコイツはオス。…と言う事は、考えられるのは一つしかない。
 
 ―私は…コイツに犯して欲しかったんだ……。
 
 忌々しい私の本能が求めている。コイツが私よりも強いオスだと認めろと。私のメスの部分にたっぷり精液を受けて、本能も理性も屈服しろと。地上の王者ではなく、男が言う通り『メストカゲ』に堕ちてしまえと。心も身体も私よりも強いオスに捧げろと。叫んでいる。求めている。唸っている。
 
 ―欲しい……っ!犯して欲しい……っ!!
 
 今までは霞のように形を伴わなかった欲求不満がはっきりとした方向性を得て、形を得る。それはもはや今までの非ではなかった。形になっていない状態でさえ我慢が出来なかったのだから。はっきりとした解消を見つけて、抑えられる理性はもう私には残っていない。私に残っているのはただ、素直にそれを認めることが出来ないプライドだけだ。
 
 「この期に及んで尻込みするようなへタレに…誰が…負けを認めるものか……!」
 
 そのプライドのまま私の口からはっきりとした意思が飛び出す。それは表面的には拒絶であり、内面的には受容だ。その言葉の裏側には「尻込みさえしなければ認める」と言う意思が込められているのだから。
 
 「…そうか」
 
 それに気付いたのか、男は小さく溜め息を吐いて眼を閉じた。まるで考え込むような数瞬の仕草。それを待っている間、私の胸はこれから始まるであろうキモチイイ事に期待を高め、ドキドキと高鳴っている。それが最高潮へと達しようとした瞬間、男は決意したように目を開き、はっきりと私に宣言した。
 
 「…じゃあ、犯すぞ」
 「…や、やってみろ…」
 
 内心の高まりを隠すように返しながら、私の左手はそっと彼の頬から離れた。それに頷きながら、男は身体を移動させ、私の足の間に膝立ちになる。そのまま見せ付けるように装束を脱ぎだし、私の前に黒い肉棒を晒した。
 
 ―…う…あぁぁ……っ♪
 
 もう限界だったのだろう。誰の眼からも分かるくらいの怒張となっているソコは、触れてもいないのに先端から先走りさえ漏らしていた。夕日が落ち、夜の帳が顔を出し始めた部屋の中で、ピクピクと揺れるその肉の剣は離れていても分かるくらい濃厚なオスの香りを放っている。嗅いでいるだけで子宮が疼いて、熱い液体が漏れ出てくるそれに思わず私の咽喉がゴクリとなってしまう。
 
 ―こ、これで私は犯される…のか……。
 
 男の腹に着きそうなほど反り返ったソレはまるで凶器だ。長さだけでも私の手と同じくらいであり、太さなど私の指二本分くらいになるのだから。その上、今までどれだけのメスを鳴かせてきたのか薄黒く染まった皮が何処かグロテスクでさえある。それなのに頭頂部の亀頭は鮮やかなピンク色をしているのだから分からない。お世辞にも可愛らしいとは言えないソレは、見ているだけで期待に私の胸を高鳴らせる。
 
 「…認めるなら、今が最後だぞ?」
 「だ、誰が…!!」
 
 そんな私の様子を怖気づいていると思ったのだろうか。念押しするように男がそう言った。それに目を背けて言い放ちつつも、どうしても気になってしまい、私の視線は男の肉棒へと向けられてしまう。私の身体に収まりきるか不安になるくらい大きな肉棒は、その度にピクピク震えてまるで威嚇しているようにも見えた。
 
 「…分かった」
 
 最後通牒が受け入れられなかった事に頷きながら、男は私の太股に触れた。それだけでビクンと太股が揺れるのは、期待しているのか或いは怖がっているのか。それさえも分からないまま、押し広げようとする男の手に従って、私はそこを開いた。
 
 「濡れてる…」
 「い、一々、言わなくて良い…!!」
 
 確認するような男の言葉通り、私のソコは濡れまくりだった。如何してかは経験の無い私には分からないが、濡れる内股が空気で冷えて、不快なくらいだ。それでいて、女性器の奥はまるでマグマでも煮えたぎっているように熱いのだから人間の身体…いや、メスの身体と言うのは良く分からない。
 
 「挿入れるぞ…」
 
 そんな私の目の前で、男がそっと『ソコ』に手を触れた。水浴びの時に数度ほど見たことがあるが、ぴっちりと閉じた皮を開いたのだろう。敏感な粘膜越しにそれが分かる。私の敏感な肢体はそれだけで身体を跳ねさせて『イく』に至りそうになるのだから。今もビリビリとした感覚が女性器を駆け上がり、子宮へと飛び込んでいっている。
 
 「あ…あぁ…」
 
 ―そう頷いた瞬間、私の身体を衝撃が貫いた。
 
 大きい。熱い。苦しい。ナニコレ。異物感。圧迫感――そして快感。
 
 何か大きなモノが粘膜に押し当てられ、それが熱いと感じた瞬間に、いっきに私の女性器は押し広げられた。それが男性器が入ったと瞬間なのだと感じるよりも先に、押し広げられる感覚に苦痛を覚える。求めていた交わりとはまるで違う苦しいだけの感覚に、私が後悔した頃、挿入されたモノに対し、身体が異物感を覚える。それを吐き出そうとするようにぎゅっと私の女性器が締まるが、鋼のように硬いソレんはまるで効果が無く、寧ろこちらが圧迫されてしまう。
 
 ―そして襲い来るのは快感。
 
 空気すら入らないと思うくらい限界まで広げられた瞬間、私の女性器から甘い甘い痺れが駆け上る。子宮に直接、繋がっている所為だろうか。駆け上がる快感に対して、子宮がすぐさまドロドロの液体を吐き出して反応を返す。まるでもっと早く上に昇ってきて欲しいと言うようにドロドロと絶え間なく。それを潤滑油にしてさらに男性器が進んだ瞬間、私の咽喉から甘い甘い声が漏れ出た。
 
 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♪」
 
 ―キモチイイッキモチイイッキモチイイキモチイイキモチイイキモチイイキモチイイキモチイイッ♪
 
 それは充足だった。今までずっと満たされない欲求の。ただ、それはさっきまで覚えていたものとは違う。ずっとずっと私の根底にくすぶり続けていた欲求が、今、この場で初めて充足しているのだ。
 ドラゴンとて魔物娘である。その本質はどうしてもサキュバスに近いものになってしまう。無論、魔力も体力も他の魔物娘の追従を許さない我々は他の連中と違い、孤高であろうとする。しかし、それでもオスを求める本質は変わらない。サキュバスとドラゴンのが混ざり合ったような本能は、強いオスに服従しろと、それがドラゴンなのだと、それが幸せであるとずっと囁き続けてきた。そして…今、こうして私は犯されている。メスとして、私の認めたオスに犯され、今まで目を背け続けてきた欲求が満たされている。それが幸せで気持ち良くて、頭が一杯になってしまった。
 
 「あぁぁっ♪きゅぅ…ぅっ♪」
 
 甘い声を漏らしながら、いつの間にか私の両足は男の腰をがっちりと捕まえていた。二度と手放さないようにか、それとももっと奥に来て欲しがっているのか、それさえも理解できないほど私の頭は快感と充足感で一杯になっている。しかし、大きすぎるそれは今の私では上手くコントロールする事が出来ず、涙と言う形で私の目尻から零れていった。
 
 「わ、悪い…痛かったか…?」
 
 そんな私を見て、焦ったように男が腰を止める。一度もオスを受け入れたことの無い女性器を鳴らすようにゆっくりと中ほどまで進んだのに、いきなり立ち止まることに子宮が不満の声をあげた。ギチギチと押し広げられる感覚が気持ち良くて、支配されていると心の底から思えるのに、どうしてそこで立ち止まるのかと私の心が糾弾した。けれど、私の思考は気遣ってくれる男の優しさが何故か嬉しくて、また一粒、目尻に涙が浮んだ。
 
 「いい…からぁ…っ♪ してぇ…♪」
 
 ポロポロと充足の涙を流しながら、必死で訴える。もう子宮は欲求不満で限界に近いのだ。今にも爆発してしまいそうな欲求が渦巻いて、止まらない。来てくれないのであれば自分から行こうと私に自分から腰を押し付けようとさえさせていた。
 
 「…分かった。じゃあ…遠慮なくするぞ」
 
 何処か納得していないような表情を浮かべながら、男性器が再び私の女性器をゴリゴリと広げる。無論、それは苦しい事だ。一度もオスを受け入れたことの無い器官で、これだけ大きなモノを挿入れられているのだから。しかし、限界まで押し広げられる感覚が、まるで蹂躙されているようで私の欲求を満たす。このオスの物にされているんだと思えて、嬉しくて仕方が無い。そしてそれらの感覚によって子宮で苦痛が快感へと変換される。
 
 ―アァァ…キモチイイ…ッキモチイイ……ッ!!
 
 ビリビリと子宮で響くような快楽の群れはお互いに絡み合って止まらない。二つが二つじゃなく、三つにも四つにもなるのだ。女性器は感じる部分が一つだけではないからだろうか。お互いに相乗効果を伴って、快感が底上げされていく。前戯の時であればとっくの昔に『イく』だっただろう程の快感が私の子宮に渦巻いているのだ。しかし、それは未だ絶頂と言う形を伴わず、まるで青天井のように際限無く溜まっていく。
 
 ―私…壊れるかもしれない……。
 
 ドンドンと積み上がっていく快感にそんな恐怖さえ覚える。…いや、恐怖だけではない。期待もだ。前戯の時でさえ身体中がバラバラになりそうだったのに、これが弾けた時、どれだけの快感になるのか。その時、私は壊れるかもしれない。いや、壊して欲しいと、プライドも何もかも投げ捨ててキモチイイ事だけ受け入れるメスになりたいと、そう願っている。
 
 「あはぁぁ…♪来てぇぇ…っ♪奥まで…おきゅまでぇぇ…ッ♪」
 
 その気持ちが現れたのか、私の足だけでなく手も彼の背中に回る。まるで受け入れるような仕草に、プライドが疼くのを感じ、私の女性器が一瞬、きゅっと締まった。それに耐えるように男は小さく、歯を食い縛る。初めて見るその様子に未だ折れないプライドが喜ぶのもつかの間、女性器の最奥まで進んだ亀頭にとって意識を掻き乱されてしまう。
 
 ―う…あぁぁ…コレ…はぁ……♪
 
 ゾクリと背筋に何かが走った。ぐにぐにと押し広げられる感覚はさっきまでと変わらず、気持ち良い。しかし、それは明確に何かが違った。それを上手く表現する事が出来ない。だが、何かがズレており…それが私の中の芯をドロリと溶かし始める。
 
 ―燃え…るぅ…♪
 
 まるで男性器の熱が移ったような熱が子宮から全身に広がる。淫らで甘いその熱は、さっきまでの興奮を上書きするように高め、私を敏感にしていった。暖かいを通り越して、熱いくらいのその熱が、渦巻き、身体中がじんじんと疼いた瞬間、男性器の先がコツンと、私の奥の何かを叩いた。
 
 「ひっ――――――っ♪」
 
 その瞬間、私の意識が飛ぶ。まるで身体を置いていくように一人だけ先に行って、帰ってこない。視界も狭まり、まるで肺が痙攣しているように息が出来なかった。しかし、それに苦しさを感じる事は無い。先行した意識に感覚がついていかず、私の身体は一人、襲ってくる感覚に身悶えを繰り返していた。
 
 「ひっ…あぁ……っ♪あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ♪♪」
 
 ようやく追いついた意識が返ってきた瞬間、私は『ソレ』が『イく』であると認識する。けれど、それは今までとは比べ物にならないものであった。身体中に広がった熱が弾けて、ビクビクと痙攣するのが止まらない。それどころか子宮から生まれでた快楽が、また私の身体中を這いずり回っているのだ。キモチイイキモチイイキモチイイ。まるで私の全てを快楽で塗りつぶすようなそれに私の意識が途切れる。しかし、途切れた意識もすぐ快楽によって起こされてしまうのだ。
 
 「あっあぁっ♪あぁぁぁぁっ♪」
 
 ―キモチイイキモチイイキモチイイキモチイイィィィっ♪
 
 苦痛なんて無かった。いや、感じる余裕すら私には無かったのだ。ただ、身体中が快感を感じる為の器官になったようにそれだけしか感じられない。視覚も、触覚も、味覚も、嗅覚も、聴覚も全て快感を感じる為だけにあり、それだけに始終する。あまりの快感に跳ねる私の身体をぎゅっと抱き締めるゴツゴツした感覚を感じながら、その男の心配そうな顔を見つめながら、首筋から立ち上るオスの香りを嗅ぎながら、ぎゅちゅぎゅちゅと結合部でなる淫らな水音を聞きながら、全てを快楽へと変換し、私の『イく』のをさらに一段階、高いものへと変えていった。
 
 「あぁぁぁぁっ♪ ふぁぁぁああああっっ♪」
 
 いや、それだけではない。私の中の何かが変わっている。それがなんなのか快楽に翻弄され続ける私には分からない。けれど、私の女性器が痙攣する度に、暴れる私の女性器の奥を男の男性器が叩く度に、そして脱力した私の下腹部から何かの液体が噴出す度に、私の中の何かをズルズルと溶かして止まらない。
 
 「く…ぅぅ…!」
 
 そんな私の上で心配した顔を見せていた男の顔が歪んだ。興奮の所為で涙が止まらないのか潤みきって見えづらい視界の先にははっきりと興奮と欲情の色が見える。オスとしての経験も無い私には分からないが、恐らく、彼も気持ち良いのだろう。そう思うと快楽に染まった胸が少しだけ歓喜の念を覚える。しかし、それも一瞬の事で、それも『イく』に塗りつぶされるように消えていった。
 
 「うぁああああっ♪」
 
 そんな男の腰がゆっくりと動き出す。最初は感覚を確かめるように深い部分を擦りあげるように。それだけで私の快感は跳ね上がり、再び私を『イく』へと追い詰める。既に『イく』状態であるのに、それよりもさらに高いところへと押し上げようと、ゆるゆるとオスの味を教えるようと、彼の腰が動くのだ。そして、最奥で壁のような部分と触れ合う度に私の意識が弾け、途切れさせる。
 
 「ひゅぅんっ♪ひぅぅぅぅ…んっ♪」
 
 ケダモノの遠吠えのように思いっきり叫ばなければ、どうにかなってしまいそうだった。いや、多分、私はどうにかなっているんだろう。腰は砕けてまるで動かず、身体中、全部が快楽を感じる部分に堕ちてしまっているのだから。鋼を切り裂く腕も、大地を砕く足も、嵐を巻き起こす翼も、人間を軽々と薙ぎ倒す尻尾も、全部、子宮から与えられる悦楽に蕩けきっている。地上の王者がそんな醜態を晒すなんて今まで考えてことが無かった。
 
 ―デモ…キモチイイ…キモチイイ…キモチイイッ♪♪
 
 地上の王者だろうとキモチイイのは変わらない。勝てない。抗えない。本当にメストカゲになったように、プライドも何もかも投げ捨てて、全身で悦楽を享受するだけだ。
 
 「う……ぐぅ…!」
 
 ―アァ…彼モキモチイイ……っ♪
 
 欲情を顔一杯に浮かべるその表情は、彼が悦んでくれている証拠だろう。それがまた私の子宮にきゅんと甘い熱を灯す。何故かは分からない。分からないが、そんな彼を見るだけで私の身体も喜び、いや、悦び、きゅんと女性器を締め付けてしまう。
 
 「んきゅぅぅぅぅぅっ♪」
 
 そして、締め付けた分、よりはっきりと彼のオスを感じてしまうことになる。さっきまでは感じる余裕が無かった太い幹の逞しさも、その中に流れる血液も、まるで傘のように大きく広がるカリ首も、その先端にある鈴口も…そこから漏れる先走りの味さえ分かるようだ。まるで私の子宮が、本能が、必死で自分のオスの味を覚えようとしているかのように、鮮烈なイメージとしてそれらが私の中に焼きつく。
 
 ―モット……モットコノ味ヲシリタイ…っ♪
 
 意識してしまったらもう止まらない。焼きつくイメージを求めるように、私の腰が動き出す。前後に動けばどうなのか。左右に動けばどうなのか。味わう快感さえ記憶するように、私の腰は前後左右に動き出す。その度に男性器がまた別の部分と擦れ、まるで違った快感を私に齎した。それら一つ一つを子宮が覚えて、『イく』へと結びつける。
 
 「あっはぁぁ……♪ ひ…あぁ…っ♪」
 
 流石の私も『イく』に慣れ始めて、最初の程の衝撃は無くなる。しかし、それは気持ち良くない事と同義ではない。寧ろ、落ち着いた分、はっきりと快感であると感じる事が出来るのだ。例えるならそれは水を受ける器が大きくなった事だろう。受ける水の量や性質は変わらないが、受け入れられる量は比べ物にならないくらい増えたのだ。
 
 「あ…っ♪きゅぅぅ……っ♪」
 
 力尽きたように声を漏らしながらも、私の腰は止まらない。もっともっとと甘えるように時に彼へと押し付け、時に逃げ、時に左右に揺れる。それに応えるように彼もまた奥だけを往復するモノからどんどんと力強い抽送へと変わっていった。今はもう中ほどから奥までを一気に蹂躙されている。そう。蹂躙だ。大きい肉棒で、中から一気にゴツンと子宮の壁までぶつかるのだから。その度に『イく』へと押し上げられている私にとって、それは蹂躙や陵辱以外の何者でもなかった。尊厳や意地と言ったようなモノを砕く冷酷な刃にも等しかったのだ。
 
 ―アァ…ソウカ…♪
 
 そこまで考えて私はさっきからじわじわと溶け出しているものの正体を理解した。それは…プライドだ。私の中に唯一残ったそれが彼の一つ毎にじわじわと消えていっている。元オスであるという考えも、地上の王者として人間を見下していた過去も、何もかもが子宮で解けて、潤滑油になっているようだ。ドロドロと『私』自身を解け出して、新しい何かに変わろうとしている。
 
 ―消える。『私』が消える。消えてしまう。
 
 それは何とも形容しがたい感覚だった。私の根幹に位置していたアイデンティティが解けているのだ。征服されているのだ。今までずっと支えにしていたプライドが下らないものに成り下がっているのだ。それはある意味、何者にも勝る恐怖であろう。思わず身体を抱きかかえたいくらい怖い事であった。しかし…現実は違う。私の腕は彼を抱き寄せ、逃がさないように捕まえている。胸に宿るのは恐怖だけでなく、歓喜と安心感もある。何もかも溶け出し、言葉遣いさえ本能が組み替えていった後の新しい自分を受け入れる気持ちさえあった。それらは生まれるたびに子宮から生まれる『イく』で流されてしまうが、何度も何度も湧き出して止まらない。
 
 「消し…てぇ…♪私…をぉ…消してぇぇ…♪」
 
 ついに漏れ出たオネダリに彼は小さく頷いてくれた。意味が分かっているのか、はたまた単なる睦言の一種だと思っているのか私には分からない。けれど、私を受け入れてくれた彼に満足感を感じる。この人であれば大丈夫だと、この人に服従したいと、私の中の何かが言った。
 
 「愛してぇ…愛して…もっとぉ…♪」
 
 未だ私の中のプライドは残っている。それが全て溶け出すのはもう少し先だろう。けれど、私にとって、それはもう些細な問題であった。完全に私の本能が、彼を私のオスだと認めてしまったのだから。服従したいと、子宮まで支配されたいと、そう心から願ってしまったのだから。その願いの前には弱まったプライドなんて藁も同然である。身を委ねたいと言う欲求に対して何も出来ないまま、ただ溶け出すだけだ。
 
 「手放さないで…っ…一人にしない……でぇ…♪」
 
 そして完全に折れた心から漏れ出すのはずっとひた隠しにしてきた私の本音だ。
 本当は寂しかった。一人なんて嫌だったのだ。だからこそ、私は何度も人里近い場所に居を構えた。勿論、そこに人間なぞどうでも良いと言う気持ちもある。しかし、何度も騎士や勇者に追い回されている私は、人間に見つかるという面倒臭さも理解しているのだ。しかし、私はまるで惹かれるように、人里近い場所に腰を下ろしてしまう。そして見つかった後も、すぐには逃げ出さず、人間を待っていたのだ。それは私がずっと心の何処かで受け入れてくれる『誰か』を求めていたからだろう。決して私を捨てない『誰か』を欲していたからだろう。そして…それを押さえつけていたプライドが弱まった今、それが口から漏れ出て止まらないのだ。
 
 「分かってる…」
 
 彼はそう言って、私に顔を近づけてくれた。一体、何をしようとしているのか快楽で思考の働かない私では分からない。しかし、本能が眼を閉じろと囁き、私の瞼がそっと堕ちる。眼を閉じた事で鋭敏になった感覚が、ぱちゅぱちゅと肉同士がぶつかり合う淫らな音と、ぐちゅぐちゅと絡み合う粘液の音をよりはっきりと認識させる。さらに、女性器の襞一つ一つが男性器に蹂躙されるのが分かった。
 
 ―キモチイイ……ぃ…っ♪
 
 数え切れないほど浮んだその言葉に胸を躍らせた瞬間、私の唇にそっと柔らかいものが押し当てられた。それを知覚した瞬間、何かぬるぬるとしたものが私の唇を割って口腔の中に入ってくる。何処か生暖かいそれが這いずりまわるのは普通であれば不快であっただろう。しかし、それが彼の舌であると確信めいた気持ちで感じた私は、歓迎するように舌を突き出した。
 
 「んっ…♪ちゅ…ぅ……っ♪」
 
 粘膜同士が擦れ合う感覚は気持ち良さで言えば女性器には敵わない。しかし、それ以上に甘いのだ。トロトロの粘液同士を擦り合わせるようにお互いが踊り、絡み合うたびに、私の胸に暖かいものが宿り、身体中へと広がっていく。混ぜ合わされた粘液はまるで果実のジュースのように甘く、癖になってしまいそうだ。その上、粘膜同士が触れるたびに緩やかで甘い快感が湧き上がる。それらがぐるぐると私の胸の中に渦巻いて、『イく』で荒れた心を癒してくれるようだ。
 
 ―暖か…い……♪
 
 既に日は落ちて、完全に夜の帳に包まれていると言うのに、その感覚はまるで日の下にいるように暖かかった。そこからまた新しい感情が想起するが、ようやく芽を出したそれに名前を着けることは出来ない。舌同士の愛撫中であっても、未だ動き続ける彼の腰が私にそれだけの余裕を与えてくれないのだ。
 
 「ちゅぱ……ぁ♪」
 
 そんな淫らな音と共にそっと彼の顔が離れた。お互いの口から糸を引き、私の身体に落ちてくる。べったりと顔を塗らすが、お互いの唾液だと思えばそれほど汚らわしいとは思わなかった。それよりも今は、暖かいこの愛撫が途切れたのが不満で、開いた私の眼はじぃっと彼の顔を見据えた。
 
 「…これ…ナニ…?」
 「ナニって…キス…だな…」
 
 余裕の無い表情を浮かべながらも私の問いに応えてくれる。そんな彼に嬉しさを感じる反面、キスを止めた彼に不満な気持ちは収まらない。
 
 「じゃあ…もっとぉ…んぁ…っ♪…もっとキス頂戴…♪」
 「いや…つっても…」
 
 オネダリしてみたが、彼は乗り気ではないようだ。腰まで止めて、迷うような表情を見せている。プライドも半ばからポキリと折れ、彼のメストカゲに堕ちた私はそんな様子を見て尚、強要することは出来ない。それならば、もっと気持ちの良い事を、淫らな台詞を教えて貰い、気持ち良くなろうと、低脳であると見下していた人間相手に媚びた声を漏らした。
 
 「じゃあ、教えて…ぇ♪」
 「何を…?」
 「もっと…エッチな事…一杯、私に教えて…ぇ♪」
 
 その言葉に興奮したのか、彼の男性器が私の中で跳ねた。丁度、奥に触れていたのでぐりゅんと壁を抉って、再び私を絶頂へと押し上げる。それに腰を跳ねさせながら、嬌声を漏らす私の前で男の顔からさらに余裕が消えていった。さっきからはぁはぁと荒い息を吐いていたが、理性の色を失った今の様子はまるでケダモノのようにも見える。
 
 「あはぁぁっ♪」
 
 そんなケダモノに犯されると思っただけで、私の女性器がきゅんと疼く。それどころかまるで犯して欲しいとおねだりするように男性器に絡みつき始めた。それに小さく呻いた彼を見ながら、私は小さく問いかける。
 
 「これはぁ……っ♪私に入ってるこれ…何ぃ…♪」
 「ち、チンポ…だ…!」
 
 再びゴツゴツと腰を振るって、最奥に男性器――いや、チンポを叩きつけながら、彼は搾り出すように言った。チンポ――その淫らな響きは私の胸を打ち、快感をさらに高まらせる。きっと普段は決して口にしちゃいけないような淫語なのだろう。しかし、恥ずかしい言葉を漏らす快感を知ってしまった私は、本能に背を押されながら、それを発した。
 
 「チンポぉ…チンポチンポチンポぉっ♪ チンポ良いのぉっ♪ キモチイイ…っ♪」
 「うっくぅ…っ」
 
 口走った淫語に彼も反応し、ピクンとオチンポが揺れる。それどころか私の中でさらに大きくなりさえした。一回り大きくなったチンポはさっきとは比べ物にならない存在感で私の女性器を大きく揺らす。膨れ上がったカリ首なんて、まるで肉ほど引っ張られそうだ。しかし、それがまるで痛くなく激しい快楽の呼び水になっている。
 
 「じゃあぁ…っ♪ これはぁ……ぁ♪ 入ってる場所ぉ…っ♪」
 「マンコ…だ!」
 「ふぁぁんっ♪マンコマンコぉ…っ♪チンポがマンコに入ってじゅぶじゅぶ良いぃっ♪」
 
 淫らな言葉の響きが私の中に響いて止まらない。性的な知識のまるでない私でさえ、すぐに淫語だと分かるその言葉を放つたびに私の中にゾクゾクとした寒気を伴った背徳感が走る。自分の言った言葉に自分で興奮し、自分で自分を辱めているような感覚に私の視界が白く染まる。言葉だけで軽く『イく』状態になってしまった事に快楽の中で驚きさえ感じた。
 
 「良い…っ♪ 良すぎるぅ…っ♪ マンコじゅぽじゅぽされるの良いぃ…っ♪ 頭の中『イく』で一杯だよぉ…っ♪」
 
 甘えたようにそう叫びながら、訪れる軽い『イく』の群れに流されないように、さらに強く男を抱き締める。ぎゅっと押しつぶされた乳首からビリリと快感が走り、「あんっ♪」と小さく声を上げてしまった。しかし、それ以上に彼の首筋から漂ってくる強いオスの匂いに心奪われてしまう。さっきキスされていた時には夢中であまり気にしなかった独特の汗臭い匂いは私の子宮を疼かせて止まらない。まるでこの匂いのオスに私は支配されているのだと教え込まれているようだ。そして、貪欲な私の本能はそれをさらに味わおうと、そっと私の口をそこに近づけさせる。
 
 「うぁ…ちょ…何を…」
 「ん…っ♪ちゅ…れろぉぉ…っ♪」
 
 彼が驚いた声を上げるのは、私が首筋を舐め上げているからだろう。けれど、本気で嫌がっているわけではない。彼の手は未だ私の身体を固定するように私の腰に置かれているし、振り払う様子はまるで見えないのだから。それならば、遠慮する必要は無い、と私はそっと目を閉じて、舌から感じる男の味に身を委ねた。
 
 ―塩ッポイ…。
 
 それはさっきのキスから予想していたような甘いものでは決して無かった。それどころか何処か塩っぽい。しかし、それが不味いかと言えば決してそうではなかった。いや、オス臭さと相まって、本能に支配された私には美味しいとさえ感じられる。
 
 「美味しい…ぃ♪ アナタ美味しいよぉ…♪」
 
 絶頂に流される中で陶酔の感情を強く感じながら、私はそっと眼を開けた。触れるくらいに近づいている首筋からは相変わらず香り立つようなオス臭い香りが漂う。しかし、その中で何処か私の香りもするのだ。まるで大事なモノに名前を着けるような感覚に私の胸に暖かい物が宿る。それがどうしてなのかは分からないが、ともかく、私の中の『何か』はケダモノがやるようなマーキングに満足したらしい。
 
 「く…そぉ…!そんなん言われたら…我慢できない…だろうが…ぁ!」
 「ひぁぁぁぁっ♪♪」
 
 そんな私に向かって、完全にケダモノと化した男が大きく腰を振るい始める。それはまるでチンポでマンコの奥を貫こうとしているようだ。入り口まで大きく引いて、一気に子宮の入り口まで擦り上げる衝撃は今までと比べ物にならない。子宮の中がたぷたぷと揺れて、ドロドロの粘液を幾らでも吐き出させている。湧き上がる『イく』は止まらず、何度も何度も私の視界をチカチカと点滅させた。
 
 「あはぁぁ♪ 我慢なんてしないでぇ…っ♪ もっともっとしてぇっ♪ マンコ征服してっ♪ 屈服させてっ♪ 一杯、『イく』を頂戴…っ♪」
 
 最初の頃であったならば苦痛でしかない激しい抽送。しかし、ドラゴンの順応力を惜しみなく発揮する私にとって、それは快感の波でしかなかった。何度も何度も『イく』へと至り、その中で再び『イく』になる。下腹部からは粘液が止まらず、時折、失禁しているように何かを漏らしていた。尿とはまた違う感覚に、自分でさえ戸惑いながらも、荒れ狂う快感に押し流されないように、私はぎゅっと彼にしがみつく。
 
 「あぁ…!征服してやる…!お前を…全部、俺のモノに…愛液でドロドロの子宮まで全部…っ全部、俺のモノだ…!!」
 
 ―嬉シイ…っ♪
 
 独占欲を丸出しにしたオスの言葉にメスの本能が大きく揺らぐ。嫌っていないオスにそこまで言われて喜ばないメスは決していないだろう。…いや…そう言えば…私は元々、オスなんだっけ…?…ううん。そんなのはどうでも良い…。この嬉しさと気持ち良さの前じゃ、そんなのはきっと些細な問題だ。それよりも今は私のオスに心を割きたい。
 
 「だから…覚えろ…!エロい言葉も幾らでも教えてやる…!頭まで…言葉まで俺色に染めてやるからな…!」
 「うんっ♪ うんっ♪ 教えてぇっ♪ 一杯、覚えるからぁっ♪ 一杯、覚えて気持ち良くするからぁっ♪」
 
 ぎゅっと抱きついた私の耳元でたたきつけるように言葉を紡ぐ。その全てが、どれも淫らで、頭の中を真っ白に染めるような代物だ。私もそれをリピートして、刻み込むように覚える。それだけで彼のオスはビクビクと満足そうに震えて、私に新しい快感をくれる。
 
 ―愛液。
 それはメスが感じている時に出る淫らな粘液。
 
 ―子宮口。
 それは今もゴツゴツと叩かれている私のとても敏感な場所。
 
 ―クリトリス。
 陰核。彼の腰が私に押し当てられる度にピリピリとする場所。乳首のように硬くなる。
 
 ―ソシテ、ザーメン。
 オスが『イく』と先端から吐き出される精液の事。或いは子種汁。それをメスの子宮が受けると、妊娠して、新しい子供が出来る。
 
 それは甘美過ぎる感覚だった。ドラゴンにとって、子供を産むと言う事は大きな意味を持つ。次世代に命を残すと言う事は本能に支配されたドラゴンにとって人生の意味にも近い。けれど、多くの者がそこに至らず、その寿命を終えていると聞く。今のドラゴンは下賎だと、低脳であると見下す人間のオスとでしか子供を作れないのだから。そんな相手と交わるくらいならば、命を絶ったほうがマシだと多くの者が思うだろう。実際、私もそうだった。
 
 ―デモ…私ハ妊娠出来ル…っ♪
 
 私の事を打ち倒したオスがいる。征服しようとしているオスがいる。屈服させようとしているオスがいる。その優秀なザーメンを私の子宮にたっぷり受けて、次世代を産み出す事が出来る。その幸せは今までの私の価値観を吹き飛ばすには十分すぎるものだった。下賎だと低脳だと脆弱であると見下していたオスに…ううん。彼に孕ませて欲しいと恥も外聞も無くそう思ってしまう。
 
 「子種汁、一杯頂戴ぃっ♪ 孕ませてねぇっ♪ ザーメンも一滴残らず、びゅるびゅるって頂戴っ♪ しきぅまでじぇんぶ征服してねぇっ♪」
 
 その悦びを叩きつけるように、甘い甘いオネダリを繰り返す。そこにはもう私がオスであったという自意識は殆ど存在していない。言葉遣いもまるでメスが使うようなモノに自然と改められてしまった。それは、もうかつてのアイデンティティは殆ど解け出してなくなってしまった証なのだろう。しかし、今の私にとって、過去まで彼によって塗り替えられる感覚は間違いなく甘美なモノであった。
 
 「あぁ…! やるからな…! 全部、くれてやる…! だから、安心して孕めよ…! 俺の子を……っ!!」
 
 ―嬉シイッ嬉シイ嬉シイ嬉シイッ♪♪
 
 ケダモノそのものの表情で孕ませると繰り返す彼の様子に私の子宮が歓喜で踊る。子宮の中からさらに愛液がドロドロと漏れ出して、結合部は洪水のようになっていた。しかし、それでもまだ足りないのか私の子宮は悦び狂い、絶頂を繰り返す。いや、もうずっとイきっぱなしであると表現した方が正しいかもしれない。絶頂が続き、イっていない時間の方が短いくらいなのだから。軽いのから深いのまで寄せては返す絶頂の波は未だ終わる気配が見えない。
 
 「うんっうんっ♪ 子宮のお口にびゅるびゅる射精してねぇっ♪ 愛液垂れ流しのしきぅ待ってるからぁっ♪ 孕ませて欲しくてきゅんきゅん唸って待ってるからぁぁっ♪」
 
 教えてもらった淫語を口走った瞬間、彼のオスは今までに無い震えを発揮し、私のマンコの中で暴れ始める。肉襞に押し付けられるような感覚に私はまた軽い絶頂を覚えた。しかし、それに浸る暇も無く、さらに一回り大きくなったチンポに私の全身が驚きに震える。
 
 「ひぁぁっ♪お、大ききゅ…っ♪まら大きくぅぅぅ…っ♪」
 
 ただでさえ大きかったオスが再び大きくなる感覚に私のマンコは悦ぶように絡みつく。しかし、触れたチンポの感覚は今までに感じた中で最高の硬さと、熱を持っていた。ただでさえ熱い肉棒は今やまるでマグマのようだ。触れているマンコ肉が溶けてしまいそうな感覚に、私の脳髄がじくりと甘い汁を漏らす。それだけでなく、触れる肉襞が膨れ上がったカリ首や亀頭に蹂躙され、子宮にビリリと快楽を贈った。
 
 ―何カ、来ルゥ…ッ♪
 
 それが何なのか私には分からない。けれど、それがとても『大事』な事なのは良く分かった。それを受け入れるようにぎゅっと収縮したマンコがチンポを今まで以上の強引さで奥へ奥へと誘っていく。まるで来るべき瞬間を子宮の手前で受け入れようとする動きに、私の身体の熱がさらに燃え上がった。
 
 「射精るぞ…! もう…! 射精るから…なぁぁ…!!」
 
 苦悶にも近い声でそう告げる彼の言葉で私はようやくそれが待ち望んだ『ザーメン』を放つ動作であることを理解する。そして、その瞬間、私の身体に歓喜の嵐が吹き荒れて、ぎゅっと身体を縮こまらせた。まるで甘えるようなその動作は自然、彼の背中や腰に回っていた私の四肢を引き寄せることになる。これ以上ない程、密着した感覚に、安心感と心地良さを感じた瞬間、チンポが子宮口を叩き、マグマのように熱い何かが私の子宮へと注ぎ込まれた。
 
 「〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♪♪」
 
 それは今までに無い快感だった。熱い熱い精液が、ザーメンが、子種汁が、私の子宮へと飛び込んでいく。待ち望んだオスのザーメンに私の子宮は悦んで、今までで最大の絶頂を開放する。一気に身体中に波及したその波は、私の身体を大きく震わせて止まらない。彼の身体を抱きとめるような腕も足もびくびくと震えて、今にも解けてしまいそうだ。しかし、何故か私の身体はそれを必死になって堪えて、ぎゅっと彼を抱き締め続ける。
 
 「う…くぅ…!!」
 
 そんな私の胸の中で、彼が小さく声を上げる。それはさっきまでの苦悶だけでなく、興奮と陶酔に塗れた声だ。彼もまた私の射精する事に強い快楽を得ているのだろう。そう思うと私の子宮がさらに悦び、快感を増長させる。まるで精液を燃料にして燃え上がるような私の身体は青天井のように快楽を増幅させていた。けれど、それに恐怖を感じる事はまるで無い。おかしなことに激しい快感の中で、強い充足と安心感を感じているのだ。このオスに着いていけば大丈夫だと言わんばかりに、私の身体が、本能が、彼のザーメンを得て子宮の中から染められる事に安心感と充足を享受している。
 
 ―アァ…私…モウコノオス無シジャ……♪
 
 子宮の奥まで彼の精液に征服されてしまった。俺がお前の主であると刻み込まれてしまった。それはもう誰にも覆すことが出来ない。神にだって、私にだって、彼にさえ。私はもう完全に彼の所有物になって、彼の子供を孕むこと事が、彼のザーメンを与えられる事が最高の幸せなのだと教え込まれてしまったのだから。
 
 ―アァ…幸セェ……♪
 
 終わらない絶頂の中で陶酔した気持ちを溶かし込む、私の中に何度も何度も彼はザーメンを放っていた。それは一分経っても終わらない。まるで無限の精力を持っているようにどぴゅどぷと精液を吐き出し続ける。その度に私は絶頂し、ぎゅっとマンコがオスを締め付けた。それにまた絶頂しているのか、小さく呻きながら、肉棒の先端から熱くて美味しい素敵な子種汁が噴出す。
 
 「う…あぁぁ………♪」
 
 結果として彼の射精が一段落着いたのは五分ほど経った頃だ。もう私の身体は完全に快楽に屈してしまって、殆ど力がないらない状態になってしまっている。かろうじて腕と足は彼の身体に回っているが、それ以外を動かす余力はまるで無い。正直、息をするのも億劫な感じだ。
 
 ―デモ……最高ォ…♪
 
 身体は重くてだるくて仕方が無い。けれど、その倦怠感が胸と子宮から湧き出る充足感を引き立てているようだった。時折、ビリリと走る余韻に背筋を浮かせながらも私はそれに浸るように身体を彼の上着に預け続ける。
 
 「はぁ……はぁ……」
 
 そんな私の上に覆いかぶさるようにして、男は大きく息を吐いた。私はよくは知らないが、多分、かなり疲れているのだろう。何処か無防備な姿にそう思う。今、襲えば簡単に命を奪われてしまうであろう姿に保護欲をそそられて、私の腕は自然と男の背を撫でた。
 
 「…ん……」
 
 それに心地良さそうな声を漏らして、お返しのように彼の手が私の頬を拭う。そこには快感や充足の所為で流れ続けた涙の後が沢山着いていた。最中は快楽を受け入れるのに必死だったので殆ど気にはならなかったが何処か不快だ。それに気付いてくれた事に快楽に荒れた胸がまた暖かくなる。
 
 「……ん…ぁ…♪」
 
 そんな私のマンコがピクリと締まった。別に意図した動きではない。ただ、暖かくなった胸に呼応するように子宮が唸り、きゅっと収縮させたのだ。しかし、それは彼にとっては火種にも等しかったらしい。射精を終えて、少しだけ小さくなったチンポに再び熱が灯って、私のマンコを大きく広げる。
 
 「あっはぁ…♪」
 
 それに私は無意識の内に歓喜の声を上げていた。男の顔を見上げると、その瞳にはまだケダモノのような色が強く残っている。彼もまだ満足してはいないらしい。そう思うと私の胸と子宮が高鳴って、きゅんきゅん疼く。
 
 ―モット……モットモットモットモットモットォ…っ♪
 
 強靭な身体を持つ反面、出生率の低いドラゴンの本能がより確実に受精しようと火が入る。こうなったらもはや私自身にも止める事が出来ない。…いや、そもそも止めようとさえ思わないか。だって、私は彼のメスであって、私の存在意義は彼の子供を産む為にあるのだから。それを阻もうなんて考える筈が無い。
 
 「……ね…ぇ♪」
 「…あぁ…俺もまだ…満足できそうに無い」
 
 そんな風に言葉を変わりながら、彼の手はそっと私の足を掴んだ。何をするのか分からないが、力を抜いた方が良いだろう。そう判断して、私の身体からはさっと力が抜ける。背中に回り続けた腕も離れて、彼の身体との間に僅かな隙間が出来た。その隙間だけでさえ…いや、彼と少しでも離れた事が私の中に寂しさを齎す。しかし、それを口に出す訳にもいかず、私は彼の動きに従って、横腹を床に着ける様な体勢になる。
 
 「もうちょっと足を広げられるか…?」
 「うん…♪」
 
 何をするのか分からないが、きっと気持ち良い事だろうと私の足は素直に大きく広がる。元々、柔軟性に富むドラゴンの身体は180度開脚も容易だ。ただ、体勢を変えたことでチンポとマンコの違う所が擦れ、生み出される快感に身体を制御するのが難しい。本能で身体を必死に制御しながら、私はそのままくるりと回ってうつ伏せで膝立ちになっているような姿勢になった。
 
 「よっし…と」
 
 お尻を突き上げてメスの部分が見られる感覚は恥ずかしい。まるでケダモノが交尾をするような態勢は私の中の恥辱感と期待を煽るが…彼の顔が見えないのが不安だった。思わず後ろを向いて彼を確認しようとした私を押さえつけるように熱いオスの身体が圧し掛かってくる。
 
 ―アァ…っ♪
 
 全身を覆われているような深く大きな密着は私の中に幸福感を想起させる。屈辱的な格好で、恥部を晒す姿が私が彼の物であると教え込まれているようだ。それら二つの感覚が交じり合い、未だじくじくと疼く私の全身をぶるりと振るわせた。
 
 「まだまだ教えてやるからな…お前が…骨の髄まで俺の物だって事を…!」
 
 そしてトドメとばかりに投げかけられるその言葉。それに私のメスは歓喜して止まらない。ぎゅっと収縮したマンコがまるでオネダリするように蠢き始める。それはさっきまでとは比べ物にならないくらいスムーズで、私にも彼にも強い快楽を与え始めている。さっきとはまた違う交わりに期待を弾けさせた身体はまた悦楽に堕ちようとしていた。
 
 「はいぃ…♪ してください…っ♪ 全部…全部、アナタの…ううん…ご主人の物に染め上げてくださいぃ…っ♪」
 
 ついに敬語まで使い始めた私に向かって、彼が微笑むような気配が伝わる。それでさえ今の私には嬉しい。私で喜んでくれているのだと、笑ってくれているのだと、ただそれだけで幸せにも近い感情を感じてしまう。それを恥だと思うようなプライドはもう私には残っておらず、私はもう完全に彼の『メストカゲ』へと堕ちており…――そして…これから先、数え切れないほど続くであろう子作りを開始した。
 
 
 
 
 
                       BAD END
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―……ヤりすぎた。
 
 そう思うのは行為の方なのか或いは回数の方なのか。…いや、両方だろう。と結論付け、俺は小さく溜め息を吐いた。
 
 辺りを見渡せば眼に入ってくるのは石造りの一室だ。元は何の部屋だったのかそこそこ広く、人形にも似た残骸がそこかしこに転がっている。もしかしたら、ドラゴンが大暴れしても大丈夫なくらいしっかりとした作りをしている事から、ここがまだキチンとした砦であった頃に訓練室として使われていた場所だったのかもしれない。
 
 そんな部屋には窓が幾つか取り付けられているがそこからは薄っすらと月の光が入り込んでいるだけだ。既に日は落ちて久しく、遠くからはフクロウの鳴き声さえ聞こえる。
 
 「…どーすんだよコレ…」
 
 そんな部屋に座り込む男が一人。そして、その視線の先には傷一つ無いシルクのような肌を晒し、胸を上下して安らかに眠る美女の姿がある。かなりの長身であり、その背は比較的、大柄の俺と比べても引けを取らない。しかし、身体はモデル体型と言っても良く、全体的にほっそりとしている。それでいて胸は掴みきれないほどのボリュームがあるのだから反則だ。しかも、その胸は一度、もみ始めれば癖になるような柔らかさと吸い付きを誇っている。それに何度、理性を飛ばしそうになったのか分からない。
 
 勿論、美女と言うだけあって、その顔もピカイチだ。今は眠っているので分かりづらいが、金色の三白眼で釣り目と言う気の強そうな顔な美人顔だ。すっと釣りあがった眉もそのイメージに拍車を掛けているだろう。アメジストのような美しい紫の長髪は艶やかで、揺れるたびにふんわりと甘い匂いがする。
 
 もし、街中を歩いていれば殆どの人間が振り返るであろう美貌の持ち主だ。…所々に張り付いた鱗や、角、そして翼さえなければ。
 
 ―ドラゴン。
 
 地上の王者として名高い種族。天災にも近い無慈悲な力を振るう最強にも近い種族。それが今、俺の膝の上で安らかな寝息を立てていた。
 
 「……ここまでやるつもりはなかったんだけどなぁ…」
 
 呟いてから浮ぶのはさっきまでの事だ。事情があってドラゴンの力が必要であった俺は絡め手ではあるが、彼女を倒した。ドラゴンが負けを認めれば、力を貸してくれるという話を本気にしての行為であったが…毒や奇襲と言った絡め手では効果が薄かったらしい。地に膝を着けることには成功したものの、一向に認めてはくれなかった。その心を折るつもりでレイプ紛いの事をして……そして、エスカレートしていく興奮の中でついついヤり過ぎてしまい……意識を完全に飛ばした彼女にようやく自分のやったことに気付いた訳である。
 
 ―しかし、言い訳になるかは分からないが、別に俺だってここまでするつもりはなかったのだ。
 
 目的の為に手段を選ぶつもりは無かったとは言え、レイプがどれだけ相手の心に傷を着けるかは理解している。それを喜んで行うほど、そこまで俺は外道ではない。敗北さえ認めてくれれば何時だって止めるつもりだったのだから。…けれど、彼女がイッた辺りから俺も何かおかしくなった。まるで熱に浮かされたように、彼女を求め、犯さなければいけない気がしたのだから。キスだってしてからその重大さに気付いたのである。
 
 ―ドラゴンの魔力か…はたまた俺の琴線に触れたのか。
 
 確かに媚毒に侵され、熱に浮かされて潤んだ瞳を向ける彼女は普段の様子からはまったく想像もできないくらい弱弱しいものであった。ギルタブリルの毒により敏感になった身体を始めて味わうであろう絶頂で跳ねさせる姿に嗜虐心と保護欲と言った相反する感情を掻き立てられ、冷静さを失ったのは否定しない。だが、それだけであるかと言うとどうにもそうは思えない。そう思うのは…彼女が何処か俺に似ているからか。
 
 「……悪いな」
 
 初めてであるのにインキュバスの相手をさせられ、不慣れな行為に気を失うまで責め抜かれた彼女の額を撫でながらそっと謝る。快楽で脂汗を浮かべていた所為か、何処かじっとりとしたその額にズキリと良心が痛んだ。しかし、それでも立ち止まるわけにはいかず、俺は小さく溜め息を吐く。
 
 ―…またアイツに拗ねられるな。
 
 脳裏に浮ぶのはドラゴンの鱗さえ切り裂く名刀を作り出したサイクロプスの事。ある依頼を受けた縁で、今までそこそこ仲良くしているソイツはこんな男の何処が良いのか惚れてくれているらしい。しかし、無口な彼女は何処か甘えん坊であり、拗ねる事が多々あるのだ。少し顔を見せなかっただけで、大きな瞳を潤ませて、口を利いてくれない――まぁ、元々、あんまり話すタイプではないのだけれど――彼女がドラゴンを手に入れるためにレイプしただなんて知ったらどうなるか。想像するだけでも背筋に冷たいものが走る。
 
 「しかし…流石に無事とはいかなかったからなぁ…」
 
 呟いて鞘に手を触れる。黒塗りの美しい鞘に収まっている刃は、ドラゴンの鱗を切り裂く鋭さを持っているが、切り続けられる程の頑丈さは持っていなかったらしい。さっとしか見ていないが、明らかに刃こぼれしている。あのまま戦っていれば、そう遠くない内に折れてしまっていただろう。そうでなくとも一撃を受ければ、『勇者』でもなんでもない俺の意識はあっさりと刈り取られていたに違いない。結果としては傷一つ無い完勝ではあるものの、自分の土俵に引きずり込み、汚い言葉で挑発して、ようやく手に入れた薄氷の勝利であった。
 
 ―でも…これでようやく借りを返せる…!
 
 思い返すのはかつての屈辱の日。あの日…俺はギルドからのクエストを受けて、仲間と共に冒険者が二人行方不明になったという廃坑へと向かった。俺も仲間も一線級の実力を持ち、その力も知っている。このメンバーであればどんな相手にだって負ける事はないだろうとそんな笑い話さえしていたのだ。
 
 ―けれど、その廃坑の先にいたのはドラゴンだった。
 
 それを知った時、俺は動けなかったのだ。まるで津波が目の前に迫っているような、強大で、押しつぶされそうなプレッシャーを感じて、まるで凍ってしまったように。それを助けたのは殿を任せられていたある男だった。奴は俺たちの前に立ち、盾として、俺たちを守り…そして行方が分からなくなってしまったのである。まぁ…死んでいる訳ではないんだろうが、ドラゴンに気に入られているのか、或いは最初に行方不明になった冒険者のように――俺たちがドラゴンと出会って一週間後に、結婚の手紙と冒険者としての登録抹消の届出出しやがったんだ…――ドラゴンに敗北した先で別の魔物娘にでも捕まっているのか定かではない。だが、あの時、一瞬振り返って見たドラゴンの眼から察するに…前者の可能性が高い気がする。
 
 ―まぁ、確認するのは出来ないんだがな。
 
 廃坑は何十もの施術によって厳重に封印され、奴の生死さえ確認できない。臭いものに蓋をするようなやり方だが、騎士団や勇者に頼れない親魔物領にあるギルドはそれが精一杯だ。だが、本気になったドラゴンを止められる魔術なんて人間には荷が重過ぎ、実際は迷い込む人間を防ぐ為の魔術に近い。それを突破できるのは人間では勇者か著名な魔術師くらいだろう。そして、その二つのどちらでもない俺はそれを破る事は出来ず、アイツが死んでいるのかいないのか…それさえも分からないと言うのが現状な訳だ。
 
 ―だから…俺はドラゴンを求めた。
 
 何十にも組み重なった術式を解くには、一流の魔術師が何日もかかって研究しなければ難しいだろう。そして、俺にはそんな金も伝手もない。それに突破した所でその先にはドラゴンがいる可能性が高い。必要であれば犠牲となった男を助けるつもりなので、戦闘になる可能性は大いにあるのだ。ならば、仲間は強力な方が…出来れば『奴』と同じドラゴンが良い。
 
 ―その前途は多難だったが…。
 
 ドラゴンそのものが目的な俺はソロを貫き通すしかない。しかし、パーティーを組んで尚、逃げ出すしかなかった相手にソロで勝つだなんて無謀にも程がある。そもそも自分の中に根付いたあの恐怖感――心臓を鷲掴みにされ、自分の生殺与奪を完全に相手に支配されているという身動きの取れない感覚を克服しなければいけない。その為、俺はドラゴンが居るという噂の場所を片っ端から調べ、喧嘩を売っていた訳だ。彼女達が本気で人間を殺そうとするのは少ないと知っているとは言え、それは無謀であっただろう。しかし、お陰で俺はドラゴンに対する人間の原初にも近い恐怖を克服し…大枚を叩いて、手に入れたギルタブリルの毒を使ってようやく勝つ事が出来たのだ。
 
 ―…そう。ドラゴンを手に入れた今……ようやくこれで俺の目的が達成される。
 
 そのはずなのに、胸が痛いのはどうしてなのだろうか。一人静かに暮らしていた彼女の平穏を俺が打ち破ってしまったからか。それとも胸痛いくらい悲痛に離さないでと呟く彼女の気持ちが分かるからか。それとも、彼女の一生を俺のような男に捧げさせる事になったからなのか。もやもやと黒い霞に覆われた心では答えが出ず、俺は小さく溜め息を吐いた。
 
 ―…せめて大事にしてやろう。
 
 レイプした後でこんな事を思うのは偽善でしかないが…別に変に虐げて喜ぶ趣味は無いのだ。ベッドは別であるが、女を泣かせる趣味は無い。特に俺が人生を狂わしたも同然の相手であるし、出来るだけ優しくしてやろうと安らかな寝顔を見てそう思う。
 
 「ん……っ」
 
 そんな俺の目の前で小さく声を上げながら、ゆっくりと、ソイツ―…いや、彼女が眼を開けた。そう言えば、名前も知らなかったっけ、と自嘲めいた笑みを浮かべながら、俺はその額をそっと撫でる。俺の目的に巻き込まれただけの彼女は、それだけで嬉しそうに眼を細めて、幸せそうな声を漏らした。
 
 「…とりあえず…自己紹介しようか」
 
 今更、こんな事言うのもアレだけどさ、とそう繋げて、俺は笑う。それに釣られるように彼女もまた優しげな笑みを浮べて――俺たちはこれから一生の付き合いになる相手に名前を告げあったのだった。
 
 
 
 
 
12/08/13 12:56更新 / デュラハンの婿

■作者メッセージ
ドラゴンさんはエロ堕ちシチュも似合うから困らない^q^
そんな訳でこんばんは。デュラハンの婿です。
以前はドラゴンさんが男を手に入れて強気ににゃんにゃんするお話を書いたので、今度は別のドラゴンさんが男に無理矢理にゃんにゃんされるお話を書いてみました。
無理矢理っぽく見えますが、負けている時点で本能が認めているも同然なので、ほのぼのレイプれす^q^
ですが、もし、読まれた方でご不快でしたら申し訳ありません(。。;


TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33