連載小説
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なかなか信じてくれない
「それ、異世界って奴じゃねえの?」
僕の話を聞いたレイジはそんな推測をした。
驚いたことに、レイジは僕の魔法を見たからか、すんなり僕の話を信じてくれた。僕がもともと居た世界や魔法はもちろん魔物の話まで。
でもさすがに信じてくれない部分もあった。

「魔物が全て美少女ってさすがに出来すぎだろ」
「本当だよ〜!」
「しかも、どの魔物も淫乱ってさすがに都合良すぎじゃないか?」
「でも事実だよ」
「有り得ない。どこの誰の妄想だよ?お前の妄想か」
「酷いな〜」
「お前の言っている事がほとんど真実だって事は信じてやるよ。さっきの魔法も、魔物の事も。でもさすがに美少女で淫乱で男を愛するために生まれたって言うのは信じられん」
「僕もその魔物だっていうのに?」
「そう見えねえから信憑性に欠けるんだろ。それにダンピールって半人半魔の吸血鬼だろ?ならほぼ人間じゃねぇか」
はあ、こう言う時に人間みたいな姿が仇になるとは思わなかった。
今までは人間に紛れるのがほとんどで、こう、信じてもらうために正体を晒すなんて事はなかったからこれ以上どうすれば良いのか。

「……………………はぁ」
長い間の開いたレイジのため息。
仕方ない。この話は一旦打ち切ろう。
「ところでレイジ、本当に良いの?」
「ああ」
「でも家族とかは?」
「姉貴が一人いる」
「へぇ、宜しくやってるんだ?」
「やってねえよ!」
僕は今レイジの自宅にいる。
なんとレイジは僕を泊めてくれると言ってくれたのだ!
レイジは優しい子だよ。野宿する僕が可哀想になったからなんて赤くなって言うんだよ?
僕の分の部屋も分けてくれるし、本当に親切だよね!
「そのお姉さんは?」
「知らん。いつもどっかの国をうろうろして、帰ってくるのは年に二、三回程度だ」
「じゃあ、いつも1人なんだ。こんな立派なお家があるのに」
「……まぁな」
こっちの世界はアパートって言う大きな建物の一室を自分の家として借りる物があるらしいけど、レイジの場合はほぼ一軒家だ。一人暮らしの場合はアパートの方が良いらしいんだけど、彼はここで一人で暮らしているという事か。
は〜、大変だな〜。こんな家で1人暮らしだなんて。
「もしかして僕を泊めてくれるのって寂しいからなの?」
「寂しいって訳じゃねえよ。お前を泊めんのはただ単に放っとけなかったからだ」
「まったくも〜、可愛いやつめ!照れながら言うんじゃないの!」
「五月蠅ぇ!照れてねぇよ!黙ってろ!」
慌てた様子でレイジは怒鳴る。
素直じゃないな〜。

「寂しいなら僕を嫁に貰っても良いよ?」

「は?」
……あれ、反応が薄い。
「いや、だから僕を嫁に貰っても……」
「寝言は寝てから言え」
「いやいや、本気だよ?」
「例の婿探しか?正直言って誰でも良いんだろ?」
「誰でも良かったらとっくの昔に結婚してるよ!」
失礼だな〜。僕にも好みって物はあるよ。
「じゃあ、お前の性格が悪くて男に逃げられるんだな」
「知ってる?魔物ってほとんどが男を攫ってるけど、皆夫婦仲睦まじく生活してるんだよ」
「嘘だろ?自分を攫った女を愛せるってさすがにおかしいだろ。気が狂ってる」
へ〜。レイジには狂って見えるんだ。
「じゃあ、狂ってみる?」
「なっ!?」
僕は身を乗り出して胡坐を掻くレイジに迫ってみる。鼻の先がくっつきそうなくらいに。
ああ、何だろう?ドキドキしてきたな。このまま彼を襲ってみたくなる。
僕の手がレイジの胸に触れる。暖かい彼の胸から微かに心臓の鼓動を感じる。
「どう?」
このままキスでもしてやろうか?僕は半人半魔と言っても列記とした魔物だ。このまま襲えばレイジも僕の魔力にあてられて行き着く所まで行き着くだろう。そう思うと体が火照ってくる。無性に彼の血が吸いたくなってきた。
僕は徐々に顔を近付ける。もう近付け過ぎて彼の顔を認識できなくなる。もう少し近付ければ唇が触れる。
と、その時、
「……っ!」
「うわっ!」
レイジが僕の腹を蹴って突き放した。
「もう、痛いな〜」
倒れた僕がレイジを見ると、レイジは立ち上がって僕を見返していた。
でもすぐ視線を伏せてため息を吐いた。
「……はぁ、もう七時だ。飯にするぞ」
レイジはそう言って部屋を出て行った。
……今のレイジの顔、何だか寂しそうだったな。
「……ふふ」
んも〜、素直じゃないな。



その後、リビングに来てみると良い匂いが鼻を通過した。塩コショウとかの香ばしい香りだ。
キッチンに寄ると、レイジがフライパンを使って料理をしていた。
「良い匂いだね。何作ってるの?」
「野菜炒めのバター風味だ」
ワオ、料理人ですか。
「席に座って待っていてくれないか?テレビでも見ていてくれ」
「テレビ?なにそれ」
「……そっちの世界にはないのか?」
「うん」
レイジは料理をしながら説明し始めた。
「……テレビって言うのは、……そうだな、情報収集機って言えば分かるか?」
「手紙とか、新聞とか?」
「ああ、こっちの世界は電気とか電波で成り立ってるんだ。まぁ、世界全土って訳じゃねぇけどな。で、テレビは情報機関が送る情報を流し、それを映像で映す物なんだ。分かるか?」
「要は映像が映るって言う奴?」
「そんなもんだ。最近は娯楽番組も多いから見ると良い」
「へ〜、この世界ってすごいね」
「言われて見ればそうだな」
「わかった。じゃあ、料理、楽しみに待ってるね」
「そこの机の上にリモコンって言う黒くてボタンが付いてる奴があるからそれの電源って所を押せば見れるぞ」
あら、本当に親切だね。レイジは。



「飯出来たぞ」
と言うわけでテレビで暇を潰しているとレイジが皿に盛られた野菜炒めとスープ、そしてあまり馴染みのない白い粒の山を食卓の上に置いた。
「レイジ、この白いの、何?」
「米」
「米?何か聞いた様な憶えが……」
確かジパングあたりにあったような……。
「日本の主食だ。味が薄いから野菜炒めと合わせて食うと良い」
「へぇ、じゃあいただきます」
まずは野菜炒めを一口。
「うん、美味しい!料理上手いね!」
「どうも。……箸、使った事あるのか?」
「え?あ、うん。旅している時にジパングって言う風情ある所で何度かね」
「黄金の国ってか」
「え、何それ?」
「いや、何でもない」
うん?まあ良いや。僕はそのまま箸を進めた。
それにしてもこのテレビって面白いな。



食事の後、僕はお風呂に入るために服を脱いでいる。脱いだ服は、この大きな口開けた機械に入れればいいのかな?服入ってるし。
まあ良いや。入れちゃえ!
と言うわけで脱いだ服を入れた後、風呂場の扉を開けて中に入る。
「ん?うわあああぁあああ!?」
「やぁ、レイジ。お邪魔するよ」
すると先に入っていたレイジが何を驚いたのか悲鳴を上げた。
「何勝手に入ってきてんだよ!人が入ってる時に入るか普通!?」
「入るよ普通。それともお姉さんの裸体は少年には刺激が強いか?」
「俺とそう変わらねぇ歳のくせに何言ってやがる!」
そう言いつつも視線が胸とか股間に行ったり来たりしている。分かりやすいな〜。
「まぁまぁ騒がない。ご近所迷惑だよ?」
「なら出てけ!」
「僕はせめてもの恩返しに背中でも流そうかな〜と思って来ただけなんだけどな〜」
僕はキラキラした視線でレイジを見つめる。
「グっ……!け、結構だ。恩返しなら別にしてくれ!」
レイジは一度怯んだけど立て直した。惜しいな〜。
「あ、なるほど〜、恩返しはベッドでギッタンバッタンが良いのか〜」
「ふざけんな!止めろ!」
「良いじゃない別に。こんな美少女に背中を流して貰えるなんて経験もう一生できないかも知れないんだよ?」
「余計なお世話だ!出てけ!」
は〜、これは崩れそうにないな〜。
「分かったよ。君が崩れそうにないからここは引いておこう」
強行突破しようものなら最悪追い出されるかも知れない。
僕はレイジから背を向けて風呂場から出ていく事にした。
「じゃあね。君のベッドで待ってるよ」
「テメェの部屋に戻ってろ!」
「そっか。僕の部屋でシタいんだ」
「そっちの思考から離れろ!」
無理だよ魔物なんだから。
15/01/02 01:59更新 / アスク
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■作者メッセージ
明けましておめでとうございます。
元旦に間に合いませんでした。

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