連載小説
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洞窟の向こう
あれ、ここどこ?
見渡すとそこには「魔王城くらいあるんじゃないの?」ってぐらい大きな建物がそこかしこに見える街が広がっていた。

ある日僕が婿探しに旅をしていたらとある山岳地帯で探求心をくすぐられる様な大きな洞窟を見つけたんだ。
早速入ってみると一本道で何もなくて、壁と天井が一体になった半円柱型の形をしていてやけに綺麗に整っていてさ、一番奥の出口を抜けたらどこかの山みたいな所に出て、見知らぬ風景が僕の眼に飛び込んで来たんだよ。

「もしかしてあの洞窟、海越え山越え新大陸まで繋がってたのかな!?早速探検!っと行きたい所だけどさすがに予想外だから戻って準備を……あれ?」

振り返ってみるとさっきの洞窟が無い!
「どう言う事!?さっきまでここに大きな口広げていたくせに!」
何かの魔法かな?転移とかそう言った類の。いや、洞窟を転移させるなんて魔法聞いたことないし!
「ええっと、とりあえずどうしよう?やっぱりあの街を探索して、あれば宿を取って、ついでに婿探しを……」

「−−−−?」

え?

僕はとっさに振り向くと十代後半の見知らぬ少年、それもジパング人らしき人物が立っていた。
「えっと、誰?」
少年は首を傾げる。
「−−−−−−?」
やばい、全然言葉が理解できないし理解されてない!
見た目はジパングっぽいけど喋っている言葉は発音の仕方とかが似ているけど全然違う!
なにこれ何この少年!?マジでここ新大陸なのかな!?
「−−−−−−?」
何だかもの凄く怪訝な顔してる。
このまま分からず仕舞いだと最悪良くない誤解が生まれるかもしれない。とりあえず魔法を使って言語感覚を相手に合わせよう。でもそのためには相手の、つまり少年の頭に触れないといけない。
「えっとちょっとそのまま動かないでね」
僕は言葉とともにじっとしててとジェスチャーする。分かってくれるかどうか分からないけど。
僕は少年に歩み寄ろうとした。でも、

「−−?」

少年は後ずさった。
まずい。言葉ばかりかジェスチャーすら分かってもらえていない。
それとも僕が魔物だって気付い後ずさっているのかな?って事は反魔物領なのここ!?そういえば魔力のかけらも感じられないし。
まずい!もしこの少年が逃げて街中に言いふらしたらかなりやばい事になる!
かくなるうえは……。

「−−−−−−!」

少年が叫びながら背を向け逃げた。僕はそれを狙い、剣と一緒に携えた鞭を握る。
「てい!」
そして少年に向けて鞭を振った。
「−−っ!」
鞭は見事に首に命中した。どうだ!僕のこの華麗で的確な鞭捌き!惚れてもいいぞ?
少年は気絶し、その場で倒れた。
「ふう、あぶないあぶない。指名手配されちゃぁたまったもんじゃないからね」
僕は気絶し瞼を閉じた少年に歩み寄った。



「ん、あぁ?」
「お、目覚めたか少年」
「う、わああぁぁぁ!」
驚いて唐突に頭を上げた少年の顔が僕の顔とぶつかる。
「いったああああぁぁぁ!」
「いつつ……。何するんだよ……いきなり顔を上げないでくれ」
現在、僕は彼に膝枕をしている状態で、さらに彼の顔を膝枕してから目が覚めるまでずっと覗き込んでいた。その間ずっと思ってたんだけどなかなか良い顔しているんだよね。まさにクールなイケメンって感じの。少年のくせに。もしかしたら歳的にもう青年とも言って良いんじゃないかな?
「何なんだお前っ!……てあれ?日本語喋ってる?」
「おお、少年!やっと言葉が通じたな!あのままあの町に逃げ込まれたらどうしようかと不安になっていたところだ!」
「……」
少年は呆然と僕の顔を凝視している。なんだか状況が理解できていない様だ。
……うん、何だか可愛いな。ちょっとばかりイタズラしたくなったぞ。
「ところで少年、僕の膝枕の寝心地はどうだい?」
「え?」
キョトンとした少年が無意識か僕の脚に触れる。しかも太ももあたりに。
「んっ!」
ほう、やるなこの少年。思わず感じちゃったじゃないか。
「ふ、ぁっ!」
さらに揉むときた。
「…………っ!」
少年はまるで茹で上がるみたいに真っ赤になる。
「うわああああぁぁ!」
「おっと」
少年はまた急に顔を上げた。さすがに二度も顔をぶつける僕じゃない。
「な、何なんだお前!」
「さあ、何でしょう?」
ふふ、この慌て様、想像していたより可愛いな。
少年は深呼吸すると僕からの問題に素直に答えた。
「……時代遅れのコスプレ女」
「時代遅れって何さ」
何か地味に傷つくな。
「僕はアン。アンジェラ・ナイル。婿探しの旅で世界各地を廻っている」
「は?婿?」
「君の名前は何だい、少年?」
「……外岡零次。お前みたいに名乗るならレイジ・トオカだ」
おお、なんて親切な。
「そうか。レイジか。君はここで何をしているんだい?」
そう聞くと、レイジはなぜか顔をしかめた。
「……散歩だよ。あんたこそこんな所で何してんだ」
「さっき言ったじゃないか。旅だよ」
「いくら旅でもここまで来るか普通」
「それがさ、さっき僕の探求心をくすぐるような奇妙な洞窟があってさ、そこを通り抜けたらここに出てきたんだよ」
「洞窟?そんなもん見当たらねえぞ?」
それが問題なんだよね〜。
「さっきあそこらへんにあった筈なのにいつの間にか消えていたんだ。何か心当たりないかな?」
「…………」
あれ?黙り込んじゃった。
「心当たり有るの?」
「……いや、何でもない」
何だか怪しいな?まあ良いや。
「ところでレイジ、できれば僕は宿を取りたいんだけど良い所知ってる?」
僕の質問にレイジは「は?」なんて声を上げる。
「宿?ってかその格好で街中歩く気か?」
レイジは僕の体を上から下まで見やり、驚いている。そしてちゃっかり赤くしている。少年には僕の服装は過激か〜。可愛いな。
「え?何か問題でも?」
もしかして僕の恰好、彼らからしてみればかなり異質な恰好なのかな。
そういえばレイジが来ている服はシャツやコートと言ったシンプルな物だ。
「ねえ、レイジ、もしかして僕、変かな?」
「愚問だ」
マジか〜。
「そうか〜。変なんだ〜。これかなり気に入ってるんだけどな〜。毎日着替えずにいるくらい」
「いやさすがに着替えろよ!」
「は〜、仕方ない。で、レイジ。どこかに泊まれる宿知らない?」
「この街にはそんなものは無い。少なくとも俺は知らない」
だろうね。宿って言葉も聞きなれていないご様子だ。
「そうか〜、知らないのか〜。仕方ない。今日はここで野宿だな」
「は?ちょっと待て。その格好でか!?」
「そうだよ?」
何驚いてるのこの子は?
「寒くないのか?それにここ、ヒルとかもいるんだぞ!?」
「大丈夫。僕野宿は慣れっこだし、温度とか虫とかは魔法で何とかなる」
「は?魔法?」
ん?あれ、本当に何かおかしいぞ。この少年、魔法も知らないの?
「あんたマジで頭おかしいんじゃないのか?魔法なんてある訳ないだろ」
え?嘘、そういう人?魔法否定論者なのレイジ?
「いやいやあるよ。僕が君とこうして話しているのも魔法だし」
「いやいや無い無い。あったら世界はとっくに魔法であふれてる」
「え?あふれてないの?」
「……お前頭大丈夫か?」
レイジは本当に可愛そうな目で僕を見てくる。
何だか面白くないな〜。
「じゃあ、見せてあげよう!僕のとっておきの魔法を!」
「はいはい。期待せずに見てやるよ」
レイジはとうとう呆れて座り込んだ。
僕は振り返ってトンネルがあったあたりの場所にある崖に目を付けた。
「じゃあ、あの崖の壁を僕の魔法で削ってやろう!ただ削るのもアレだからこの服の装飾の花模様でも描いてみせようじゃないか!」
「へぃへぃ」
ふふん。今に見ていろよ。
僕は意識を集中させて魔法を発動する。本来なら詠唱が必要だが、僕ほどの上級者になるとそれもいらなくなる。詠唱はいわゆる初心者の為の安全装置や簡単ツールでしかない。
「ほっ!」
僕は腕を弧を描くように振った。
すると、

「なっ!」

ガリッとした音とともに壁が削れた。
これは魔法で鎌鼬を発現し、それを意のままに操っているのだ。
僕はそのままもう一度弧を描き、壁を削る。
「よし。できた!」
「……」
少年は唖然としている。
そう、僕はこの顔が見たかったんだ。
14/12/31 01:17更新 / アスク
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■作者メッセージ
ダンピールさんの恰好は基本的にクロスさんのデザインと同じものだと解釈してください。

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