読切小説
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魔物娘掛け合い漫才:『火焔太鼓』
「お師匠お師匠、刑部狸のおししょぉーっ!!」

「なんじゃコボルドや、夜に騒々しい。あ、これ、ここに入るときは履き物を脱げと言うたろうに」

「これは失礼、忘れてましたっ!」

「おい、なんでいきなり服を脱ぐんじゃ」

「え? だって『ここではきものを』って」

「言うてないからな? それ別の話のオチじゃからな?」

「えへー」

「それで今日はどうしたんじゃ。これでもわしな、ほれ見てみい、今は忙しいのだよ」

「はい! おいしそうなご飯ですね! この時間はやっぱりお食事中でしたか?」

「話を聞いてないな? あと、それがわかっとるならばもう少し訪ねる時間をだな……」

「おいしそうな、ご飯ですねっ!」

「こやつまさか狙って来たのか!?」

「おいしいです!」

「食っとる! ためらいなく手え伸ばしおった!」

「ほへへほひひょふ、ひふはへふへ」

「いいから食べてからにせい! 米粒がタタミに落ちとるから!!」

「実はですねっ! 大変なんです! おみそ汁おいしいです!!」

「うむ。ここを訪ねた理由が大変なのか、わしの味噌汁の味が大変なのか、まったくわからん」

「おネギの入ったおみそ汁、おいしいです!」

「うむ。大丈夫じゃよな? 実はネギ中毒でダメとかじゃなかろうな? そしたら本当に大変なんじゃが」

「あっははー、お師匠、そんなのへーきに決まってますよっ!」

「それはよかった。わしの味噌汁はたった今なくなったがな」

「わふっ、コボルドはお肉もお野菜も、なんなら鉱石もなんでも食べますからね!」

「悪食だなおぬしら!!」

「お師匠も同じイヌ科なのですから、たまに食べたくなりません? 鉄鉱石」

「ならんわい! おぬしイヌ科をなんだと思ってるんじゃ! というかおぬしはイヌ科なのか!?」

「なるほど、やっぱり精が一番で? うへへ、師匠も結局は一匹のメス犬だったと、つまりはそういうわけでやんすね?」

「なんでこやつキャラが変わっとるんじゃ」

「では、今日もごちそうさまでした。お師匠、また明日ですっ!」

「食い終わっとる!! わしまだ最初のお新香ひと口しか食べとらんかったのを全部食い終わっとる!!」

「いつも助かります!」

「また来る気か!? あ、帰るな帰るな!」

「そうでした、大変な用事があったんでした! …………お師匠、その手にあるものは?」

「むぐ? 見りゃわかるじゃろ、握り飯よ」

「おいしそうな、ご飯ですねっ!」

「やらんぞ!? そんなわふわふへっへっ、とかされても、これはどうせ毎日やって来るおぬしに取られる前提で作っておいた非常用じゃからな! 通らんぞ、通らんぞ!」

「……おあずけプレイです?」

「ちがうわい!! あっ、これ、のしかかるな、マウントを取るな、腰を振るな! 揺れる!!」

「へっへっへっ……」

「わし知っとるぞ! それイヌが発情期にするヤツじゃあないか!!」

「お師匠、お師匠!」

「な、なんじゃ」

「イヌとタヌキって交配できるんです?」

「それ以前の問題じゃ! しないわい! 将来の旦那様に捧げる予定の貞操に何をしよる!!」

「へっへっへっ……」

「重い! こやつ重い!!」

「お師匠、レディーにそういうのは失礼ですよっ!」

「この状況でなに言うとるんじゃ! ……いや違う、おぬしの背中にしょっとるもんが重いんじゃ!!」

「あっ……なーるほど」

「なんじゃその大荷物は……。いや、ウチの店に入って来た時から気になってはいたが」

「あのですね、驚かないで聞いてくださいよ? これが今日の本来の用件なんですっ」

「うむ。そうじゃろうと思っとった」

「……じゃあ本来の用件じゃないです」

「おい、人の反応見て用件を切り捨てるんじゃない! それだとおぬし、ただ飯食いに来ただけのアホウになって話が終わるぞ!?」

「ぷー。だってあまりにもリアクションが薄いんですもん」

「そりゃ、普通に予想できることじゃったからなあ……。それと」

「それと?」

「おぬしが持って来るもんは毎回大体くだらないもんじゃろうに」

「ひどい!!」

「酷くはない! いいかコボルドや、おぬしも古物商の端くれを名乗りたいんじゃったら、目端を利かせ、目利きぐらいしっかりせんといかん」

「視力はすっごく良いですよっ!」

「…………しっぽ張り手!」

「ぎゃん! すごいもふもふ!!」

「前回わしに『これはすごい商品ですよっ!』と言って見せてきたモノを思い出してみい」

「前回……あっ、リビングアーマーになりかけのヨロイ一式ですねっ」

「もっとよく思いだせ! あれ結局リビングアーマーじゃなくて、首がないだけのデュラハンじゃったろうが!!」

「えへー」

「そんな笑いでごまかされんぞ! そも、首はなくともリビングアーマーに手足がある時点でおかしいと思わんか!!」

「だって、300年モノのリビングアーマーは肉体があってもおかしくないって」

「それを買った先から聞いたのか?」

「はい! 首のほうのデュラハンさんから聞きました!!」

「え、どういうこと!? あいつ自身がおぬしに売り込んできたのか!? なんじゃそれは!?」

「はい! 戦士の男の人に、リビングアーマーに見せかけてうっかり買われたところをがばっと襲ってしまおうって作戦だったみたいです。性的に」

「まるっきり事故物件じゃないか! というか、あの時がばっと襲われたの、わしじゃからな!! 性的に!!」

「まさか首なしデュラハンさんがあそこまで早く首から精が漏れて枯渇してしまうとは……。なんというか、もう手当たり次第って感じでしたね!」

「おぬしの背に縛られてやって来た時点でだいぶバタバタ暴れてたのはそのせいか!! 今さらながらめちゃくちゃまぬけな話じゃあないか!」

「はい! 今は反省してます!!」

「返事は毎回いいのだがなぁ……。言っとくが、前回だけに限らず、前々回のも相当に酷かったからな?」

「前々回……あっ、古い貴族の廃館に置いてあったお人形さんですね!」

「そうじゃ。ピュグマリア氏の作品で、かつての旧時代にまでさかのぼる歴史ある一品とぬかしておったアレじゃ」

「はい! このお店に持ってきてその日は保管してもらったんでしたよね!」

「そうじゃな。それで夜中に絶妙なタイミングで魔物化してなぜかわしに襲いかかってきたな」

「えへー」

「ええい、笑ってごまかせると思うな! 夜に目が覚めてみたらリビングドールとそれにつられてやってきたゴーストやら狐火やらが布団の周りでフォークダンス踊ってた時のわしの気持ちになってみろ!!」

「あ、だから次の日お師匠の耳がキツネっぽくなってたんですね!」

「そうじゃ! タヌキが狐憑きになりかけるとか、もうわけがわからんぞ!!」

「はい、反省してます!」

「本当に返事だけは良いなおぬし!」

「えへー、よく言われますっ」

「そりゃわしが何度も何度も言っとるからな……。いいか、そんなおぬしに一つ送る言葉がある」

「なんですかっ?」

「おぬし、商才ない」

「がーん! そ、そそそ、そんなバカな!!」

「狸はよく騙すが、残念ながら今回は本当じゃ」

「わ、わふっ……」

「うむ、諦めも肝心じゃぞ。そも、コボルドには採掘や金属細工に才があるものと聞く。おぬしも古物商よりそちらの方が……」

「うわーん、おししょぉー! ごめんなさい、見捨てないでくださいぃぃーー!!」

「あ、これ、泣くな泣くな……。あ、ちょ、わしの着物で鼻をかむな!!」

「なんでもしますからお側に置いてくださいぃー!! カラダ、カラダではらいますからっ!」

「いらんわい!」

「ほら、耳の下とかふさふさですよっ! 鼻も湿ってますよっ!」

「鼻は水っぱなのせいじゃろうが! ……いや、すまんすまん。わしも今のは言いすぎた感があるやもしれん」

「おししょぉ…………!!」

「ほれ、ならば今回のモノを見せてごらん」

「わふっ、わかりましたっ! これです!」

「ふむふむ……布を外すと……?」

「これですっ! 『リビングドールにとてもよく似た歯車入り女性型マネキン』だそうです!」

「待ってわしそれ知ってる」

「工房のグレムリンさんから買いましたっ」

「うむ。絶対これオートマトンじゃろ」

「オートマトン? グレムリンさんはここまで人の形に近ければマネキンとして売るか、畑のカカシとして重宝されるって言って金貨20枚で売ってくれましたけど……」

「十中八九どころか十割騙されとるじゃあないか! というかカカシをそんな値で買うヤツがあるか!!」

「うう、でもほらぁ、すごくヒトっぽい形してますよぉ?」

「そりゃあ人を模しとるからな……。もしこれが本当に動くオートマトンであれば、金20枚どころではなく、一桁も二桁も上の値で取り引きされるが……」

「え、大儲けじゃないですか! やったー!!」

「これ、話をきちんと聞け。動くのであれば、と言うたろうに。こういったカラクリに詳しいグレムリンどもがそんな二足三文で売るということは、それなりの理由があるということだろうて」

「つまり?」

「壊れているということじゃな。そのグレムリンの言う通り、マネキンぐらいにしか使えんのだろ」

「う、売り値は……?」

「金貨で売れるかどうかも怪しいのう。せいぜい銀貨じゃ」

「がーん!! お、おししょぉ……!」

「高い高い勉強代だったと思うしかなかろう。ゆめゆめ、商人を続けたければ相手の甘言には気をつけることじゃな。というかマネキンを金貨で買うな!!」

「うう、本当に動かないんですかこれ……?」

「むう。カラクリはわしもあまり得意ではないが……。状態はキレイじゃが、このオートマトンは前見たものよりも小さいのう。それに動いているものは関節が開いており、隙間からなにやら光が漏れ出していた覚えがある。だがこやつは目も関節も、他のいろいろな箇所もギュッと小さくなって閉じておるじゃろう」

「なるほ、ど?」

「つまり、今は寝ているような状態じゃな」

「わ、わふ? ねてるだけなら、起こしてあげればいいのでは?」

「その起こし方がわかれば苦労はせんよ」

「ゆするとか、横でほえるとかどうでしょう!」

「……試してみても良いが、決して期待はするでないぞ。どれ、わしも蔵から差し油かなにかを取ってこよう」

「おきておきてー!! わふわふっ!! うごけぇーーーー!!」

「そんなので起きたら苦労はせんがな……」











『起動シークエンス終了。機体破損率7.4%。本体自己修復機能でカバー可能な範囲です。環境適応プログラムを初期化。再起動。本機は正常に起動しました』

「起きとる!!」

『Hello, World. おはようございます』

「は、はろーわっ? おはようございます?」

「コボルトおぬし、どうやったんじゃ!?」

「ほ、ほえてただけですよぅ」

「なんと……おお、関節が開いて一回り大きくなっとる……」

『人型存在を二体確認。精の固有波長を確認できないことから女性型であると断定』

「こっちを向いたぞ!?」

「きゃんっ!?」

『そこのお二人。お名前をお願いできますか』

「すごく丁寧ですっ!?」

「名前、名前、わしは刑部狸じゃ! これおぬし、後ろに隠れるなっ」

「こ、コボルドですっ」

『お二人を個体識別いたしました。本機のことは女性型認証従属形式行動支援端末とお呼びください。形式番号は……』

「長い、名前が長いぞ……!」

『ではRX-Oとお呼びください』

「途端に短くなったぞ! あとそれはマズくないか!?」

『マズい、とは? 本機の自己破損率は軽微。許容範囲内です』

「そ、そうか、許容範囲内か……」

『Yes. 性行為に対しても問題はありません』

「せ、性行為ですかっ!?」

「……おぬし知らんで買ってきたのか、オートマトンはわしら魔物と同じで男児から精を搾るための機能が備わっておる」

「な、なんと……」

「だからこそ魔物であれば家の警備や家事に、人であれば護衛や男児の性欲を満たすためと、世に出れば引く手あまたなのは間違いないじゃろう」

『Yes. お二人の言うところのオートマトン、つまり本機は行動支援端末。性行為を含むあらゆる人型の活動のバックアップが行えるようプリセットがなされています』

「なんか、すごいですね! ところどころわからない言葉がありますが!」

「うむ、弟子と全く同じ意見なのは微妙じゃが、すごいとしか言えんな。僥倖じゃコボルド、これは売れるぞ」

「ほ、ホントですか!?」

「うむ。ぬふふ、ヘタすると金貨が千枚を超えるやもしれんぞ…………ん? オートマトン、なぜわしの手を掴む?」

『それでは、チュートリアルを開始します』

「お、おい、なぜ股のところに手を引っ張るん……じゃあああ!?」

『搾精チュートリアルを開始します』

「いらんいらん! そんなものわしには必要ない!! うぎゃっ、ぬめっとしとる!?」

『んっ……♥』

「あわわ、お師匠の指が吸いこまれっ」

「見てないで助けんか! ぎゃあ、中がぎゅるんぎゅるんと!?」

『本機はRifring XXX-Optimized、性行為に用いる疑似性器に施条付与を行なった改良機。内部構造の膣模倣部分に回転構造を加え、対象性器の快感を増幅し……』

「いらんいらん、その説明いらん!! ぐっ、ふんっ!」

『……内容物の離脱を確認。中断されました』

「なんでこやつ、ちょっと残念そうなんじゃ!? そういうのは売った先の男児にやってくれい。わしゃ女じゃ」

『それでは、対女性型用チュートリアルを開始』

「ん?」

『Nozzle Type-Driver、通称NT-D、噴出型回転打ち込み機を起動』

「股間から筒が出てきおった!?」

「わわ、関節の光が赤くなりましたっ!?」

『通称ユニコーン・モードとお呼びください』

「通称多いな!!」

『当機は男性型のみならず、女性型からも魔力吸収と相互循環を行い、問題なく活動維持を可能とする画期的な試験機です。また、問題なくこちらの疑似性器にも施条と回転機構が施されています。ずぼっといけます』

「なにもかも問題だらけじゃ!! まず各所のユニコーンに謝れ!!」

『さあどうぞ』

「手招きされてもそんな凶悪なツノにはまたがらんわい!! コボルドおぬしがあのドリルもどきを試せ、どうせ今ちょうど発情期なんじゃろうて!」

「え、困りますよっ! もし発情期だとしても、お師匠の持ってる孫の手で間に合ってます!」

「今なんと言った!?」

『さあどうぞ♥』

「違う、おぬしじゃない!!」

『さあ、マスター登録を。よそに売るなどと言わず、マスター登録を』

「せんわい! こやつ実は限りなく今の状況を把握しとるな!? あ、寄るな寄るな! ぐるぐる回すな! あ、ああぁぁぁーーーー!!」









「お師匠、おししょぉー!!」

「なんじゃ騒々しい。ほれ見てみい、あいたたた……わしゃ今非常に疲れとるんじゃ」

「寝てるお師匠の背中がシップだらけですっ」

「誰だババアじゃ。言葉遣いが古めかしいだけじゃ。古式ゆかしいと言えい」

「言ってませんよ!?」

「ふう。老骨ではないが、それでも昨日は散々な目に遭って身に堪えたわい……。それで、首尾はどうじゃった?」

「すごいですよ、金貨1200枚だそうです!」

「よしよし、よくやったなぁ。して、どこが買い付けたんじゃ?」

「離れのお屋敷が買ってくれました!」

「なるほどなぁ、あそこの主人なら豪気な支払いにも納得できるのう」

「いえ、メイドさんが個人名義の即金払いで買ってくれました!」

「なぜ使用人が!? どこからそんな金が!?」

「わふ、わかりませんっ! でも売れました、金貨20枚が1200枚ですっ! わふわふっ!」

「うむうむ、そいつはおぬしが取っておけ」

「え!?」

「いいか。昨日わしは、壊れたオートマトンだと言った時に高い勉強代になったと言ったな?」

「は、はいっ」

「商いにおいて、それは逆でも同じことが言える。損をしても勉強、得をしても勉強じゃ。そして勉強したぶんは、必ず自分に返ってこねば報われんじゃろうて。だからこそ商いは飽きないで続けられるのだよ」

「お、おししょぉ……!」

「これ、泣くな泣くな。今回は金の稲穂が運良く豊作だっただけじゃ。ヘタすると金貨30枚で買ったマネキンを銀貨で、いわば『金の真似』の二足三文で売ることになってもおかしくなかったのだからな?」

「……はい、師匠! ありがとうございます!」

「よいよい」

「でもやっぱり師匠のおかげだと思うので、何かお礼がしたいですっ!」

「ふむ……」

「師匠、湯町とか行きませんかっ?」

「なるほど、この背と腰の湯治というわけじゃな。少し年寄りくさいが非常に魅力的と見える」

「はい、私もお師匠と温泉に浸かりたいです!」

「うむ。ならば遠慮なく、見晴らしの良い薬効のある湯を探すとしようか」

『Yes. 一件が条件に該当しました。ここから北、ヘグンドの山脈沿いの町にある模様です』

「なるほど、高地なら景色も良かろうて」

「楽しみですねっ!」

『本機もオンセンは初めてです』

「なるほどな……ところで、いつからそこに?」

『つい先ほど飛んで戻ってまいりました』

「……………………なぜ?」

『本機は画期的な試験機であり、手先の僅かな汗からでもマスター認証登録が可能です』

「すまん、コボルド」

『これからよろしくお願いします、マスター♥』

「全部マネキンになってしもうた」
17/04/05 21:34更新 / しっぽ屋

■作者メッセージ
 可能性のケダモノ(機械)。

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