読切小説
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メガネ×ブレード
 ――――黒須中学剣道部、全国大会優勝!
 会場でその光景を目の当たりにした瞬間、影藤理沙子(かげとう・りさこ)の胸は嬉しいような誇らしいような温かい気持ちで満たされた。見事優勝を勝ち取った剣道部部長、剣道雄(つるぎ・みちお)は、理沙子の家の近所に住み、小さいころからなにかと世話を焼いてくれた上級生。そして彼女がほのかな思いを寄せる憧れの人なのだ。
 その興奮冷めやらぬ翌日の月曜日。朝の身支度を念入りに済ませた理沙子は、試合の時は声かけられなかったけど、絶対にお祝いしなきゃ! と決意してランドセルを背負うと、足取りも軽く通学路へ足を進めた。
 澄み渡った夏空から彼女を祝福しているかのように暖かな日差しが降り注いでいる。
 ほどなくして前方に見知った後姿が飛び込んでくる。十把一絡げの学生服姿の中に埋もれていようと見間違えようはずもない、剣道雄その人だ。
 勇んで駆け寄り、全国大会優勝おめでとうございます! と声をかけようとした矢先、理沙子の目に信じがたい物が映る。彼と同じ黒須中学生徒であることを表すブレザー姿の、道雄と親しげに言葉を交わす女生徒の姿に彼女の足取りはたちまち重さを取り戻し、あいさつのタイミングも失ってしまう。
「あ、リサちゃんおはよう!」
「おはよう、ございます……ぜ、全国大会優勝されたんですよね、おめでとうございます」
 背後の気配に気づいた道雄が先んじて声をかけてくれたが、理沙子にできたのは必死の作り笑いと、どうにか絞り出せた祝いの言葉を伝えることだけだ。
「ありがとう、リサちゃんも遅れないようにね」
 小学校の校門を抜ける理沙子の背に狙いすましたかのように届く「あの子誰?」「近所に住んでる子なんだ」という残酷な言葉。彼らと別れた後、朝の晴れやかな気持ちはすっかりしぼんでしまっていた。

 それからというもの彼女は、学校で指示されても気づかない、体育でボールの直撃を食らうなどの些細なミスを連発し、傷口へ塩をすり込まれるようにドツボにはまってゆく。
 目に見える落ち込みぶりを友人に心配されつつも、どうにかこうにか放課後を迎えて帰宅した理沙子は、自室のベッドで枕に顔を埋めてふさぎ込んでいた。
(考えても見れば当然だよね。道雄さんかっこいいもん、彼女くらいできてたっておかしくないよ……)
 ゆっくりと心の内で育んだ数年越しの淡い思いを他の女の存在と「近所に住んでる子」の一言で切って捨てられた痛みはいかほどのものだったのだろう?
 齢11歳という思春期に足をかけた少女の繊細な心はヤスリ掛けされたように傷つき、あふれ出る悲しみに濡れていた。
「理沙子―、お母さん用事で出かけなくちゃいけないから代わりに夕飯のお買い物行ってきて頂戴」
 そこへ飛び込む母の声。渋々階段を降りた理沙子は、涙をごまかすために洗面所で顔を洗い髪を整え、トレードマークの眼鏡をかけなおしてお使いへ出かけた。
 一見普段通りだが、頭頂でアンテナのように跳ねる癖っ毛も、心なしか萎れて見える。
 朝とは打って変わって空を分厚く包み込む、一雨来そうな程どんよりとした雲が暗澹たる彼女の心持を表しているように感じられてならない。

□□□□

 頼まれたものを一通り買い揃え、家路につく少女は道すがら奇妙なものを目にした。
 この近所では珍しい占い屋だ。それもきちんとした店舗ではなく、屋台のように道端に椅子と机を持ち込んだ占い師が営む小規模なものである。
「そこの可愛らしいお嬢さん、ちょっといいかしら?」
 真っ黒なローブに身を包んだ女占い師の声を耳にして、理沙子は従う以外の行動が取れなかった。料金表に書かれた値段は充分手持ちの予算で賄える範疇だったが、普段ならこんな胡散臭い店にお金を落とすような無駄遣いなど決してしなかっただろう。
 にもかかわらず従わざるを得なかったのはその声色とフードの奥から覗く、抜けるような美貌に同性ながらハートを撃ち抜かれてしまったからだ。
 女の理沙子でさえこうだったのだ、世の男が相手なら誘蛾灯に群がる羽虫のようにダース単位で引き寄せられ、いいカモにされていただろう。
「貴女、恋の悩みを抱えているわね?」
「え?」
「相手は年上、そしてすでに付き合っている相手がいるかもしれない……違うかしら?」
「な、何でわかったんですか!?」
 ズバズバと悩みを言い当てられ、理沙子はすっかり相手を信用して胸襟を開いてしまう。
 その顔つきから西洋人だと思しき、TVや雑誌で見かけるモデルやアイドルが一山幾らのジャガイモにしか見えなくなってしまいそうなほどの美貌の占い師に手を取られ、少女は頭が綿菓子にでもなったかのようなぼんやりとした気持ちで言われるがままに淡く切ない恋の悩みを吐露していた。
「――――そっか。……ねえ理沙子ちゃん、絶対に恋がかなう素敵なおまじない、教えてあげようか?」
 事情を聴いた占い師が慈愛に満ちた笑みを浮かべて理沙子の頬に触れる。
「そんなのあるんですか? ――――お願いします! お金が必要なら家から持ってきますから! だから……!!」
 想い人を諦められない幼き少女は、甘い誘惑に乗せられるまま頷き、縋り付いてしまう。
 ――――それが悪魔の誘惑であるとも知らずに。
「その言葉を待っていたわ!」
「……え?」
 フードを脱いだ占い師の素顔は脱ぐ前と同じく美しいものだった。予想外だったのは膝まで伸びたその髪が極上の絹糸のように白く、瞳も上質のルビーを磨き上げたように紅く透き通っていたこと――――雪のような素肌も相まって、白ウサギなどに見られるアルビノという、人間では滅多にお目にかかれない浮世離れした様相を呈していることぐらいだろう。
 だが注目すべきはそこではない。彼女の耳はファンタジーに出てくるエルフさながらにツンと尖り、その側頭部からはヤギやヒツジを思わせるねじくれた角が生え、その豊満かつメリハリの効いた肉体を覆い隠していたローブはいつの間にやら蝙蝠のような翼へと変じ、鮮血のように紅い革のオーバーニ―ブーツとマイクロビキニに包まれた艶やかな姿態を露わにしていた。
 トドメに安産型の肉付きのいい尻から延びるのは、鏃のような先端を持つ細い尻尾。どこからどう見ても紛うことなき悪魔そのものの姿が、理沙子の目の前で艶然たる笑みを浮かべていたのだ。
「きゃああああああああああ!」
 理沙子は目前で起きた怪異に悲鳴を上げ踵を返して逃げ出そうとするが、釈迦の掌に乗せられた孫悟空とでも言おうか、どれだけ走ってもその場を離れることができず、蜃気楼のように距離の変わらない住宅へ向かう徒労感にへたり込んでしまう。
「ウフフフフ……この辺りは結界で囲んじゃってるから逃げても無駄よ」
「イヤ……来ないで、来ないでぇ!」
 にじり寄る元占い師の女悪魔から少しでも逃れようと、涙目になりながら必死に後ずさる少女を、当の女悪魔はサディスティックな笑みを浮かべつつ歩くペースを上げて追いつめてゆく。
「あらあらそんなに怖がらないで頂戴な。別に理沙子ちゃんを食べたりしないし、恋のおまじないだって本当にしてあげるつもりなのよ?」
「ほ、本当ですか?」
「魔界のプリンセス、テニアの名に賭けて誓うわ。それともこの目が嘘をついているように見える?」
 目線を合わせるためにしゃがみ、理沙子の涙を指先でそっと拭い去るテニアの吸い込まれそうな瞳には、惚れ惚れするような力強い筆致で「大嘘」と書かれていた。
(嘘だこれー!!)

「縁結びならまかせろー」
 バリバリ
「やめてえええええええええ!!」
 音を立てて破り去られる理沙子の衣服。一瞬でも悪魔なんかを信じた私が馬鹿だった! と後悔してももう遅い。小学五年生の穢れを知らぬ柔肌は風前の灯火、今や淫蕩極まる魔性の指技に犯されんとしていた。
「やだやだやだー! 助けて道雄おにいちゃああああああん!!」
 ――――閑静な住宅地に絹を裂く悲鳴と数瞬ののちに少女の嬌声がこだました。しかしそれを耳にした「人間」は誰もいない。

□□□□

 影藤理沙子が襲われたのと時を同じくして、黒須中学校にも魔の手が迫っていた。
 空から、陸から、学校を埋め尽くさんばかりの“魔物娘”たちが周辺の住宅地を飲み込みながら雲霞のごとく殺到したのだ。
 悲鳴と嬌声が町を埋め尽くした。
 スキュラやクラーケン、ローパーの粘液を滴らせる触手が、蜂女ホーネットやサソリ女
ギルタブリルの鋭利な毒針が、サキュバスその他有象無象の雄を求めて蠢く肉穴が獲物を求めて襲い掛かる。
 男はたちまち衣服を引きはがされて犯され、女も同じく老若の区別なくその貞操を貪られ魔物娘の同族と成り果てた。この場にもしも冷静に周囲を見渡せるものがいたなら、容姿に恵まれない女子や女教師が、整形手術でもしたのかと思えるような美女への大変身を成し遂げるという驚愕の光景を目の当たりにしていただろう。
 そんな中、校舎内にひしめく人外の美女たちが繰り広げる酒池肉林の饗宴を掻い潜り、脱出を図ろうとする一人の男子生徒がいた。
 部活を終え家路につこうとしていた剣道雄である。剣を得意とし、男との勝負に生きるリザードマンやサラマンダーの襲撃から辛うじて逃れることに成功した彼は、無事な場所を探してこの惨状を外部に伝えるべく校舎の裏門から自転車で駆け出した。
「いったい何がどうなってるんだ!? 漫画じゃあるまいしあんな……あんな化け物が現れるなんて!!」
 一心不乱にペダルを漕ぐ道雄にヘルメットを被る余裕などありはしない。道すがら目にした小学校で、黄色いカバー付きランドセルの幼女に逆輪姦されていた教師の姿を思えば、この非常時にいちいちルールを守る気にはとてもなれなかった。

 どうにか無事に自宅へたどり着いた道雄は、自転車を乱暴に乗り捨てて玄関に息を切らして駆け込むと、電話の受話器を取り110番をプッシュする。いままで携帯を使わなかったのは、安全かどうかもわからない外でのんきに携帯を使って奴らに見つかることを恐れていたからだ。
『――――はい、こちら黒須警察署です』
 短いコール音の後に受け答え担当だろう婦人警官が出た。
「け、警察ですか? 大変なんです、黒須中に化け物……女、コスプレしたレイプ魔の集団が押し寄せて大変なことに! しょ、小学校もなんです! 早く何とかしてください!!」
 途切れ途切れになりつつも、なんとか状況を伝える道雄。この非常時でも「化け物が現れた」などというイタズラ扱いされかねない発言を誤魔化す程度の冷静さが残っていたのは彼にとって幸いだった。

『ああ、それなら問題ないわよ』

「――――――――は?」
 しかし、彼に届いたのは耳を疑うような返事だった。
『ねえボクぅ、その声からして精通終わってるんでしょ? 童貞? 今穿いてるパンツ何色? オナニーは……』
 ――――ガチャン!
 警察も、もう駄目だった! 受話器からあふれ出る卑猥な言葉の数々に、もはや国家権力すらも奴らの手に落ちたと知った道雄は、受話器をたたきつけ力なく崩れ落ちる。
「道雄―、いったい何を騒いでるの?」
 そんな時、キッチンから届いた母親の声が彼を呼び戻す。
「か、母さん! 無事だったんだね?」
 普段通りの様子に彼は安堵した。良かった、家はまだ無事だったんだ! やっと出会えた平穏に心の箍(たが)が緩み、その瞳には涙さえにじむ。
 だがその平穏は、玄関に続くリビングのドアが開いた瞬間、無残にも打ち破られることとなった。
 現れた母は角も翼も鋭利な爪もなく、人間といっても問題ない程度には普段通りだった――――20代前半といっても通じるほど若く美しくなっていることと、鱗に包まれたその下半身を除いては。
「くぁwせdrtgyふじこlp;@:」
 アナコンダと見紛うような大きさの蛇女――――ラミアと成り果てた母の姿に狂乱した道雄は、言葉にならない悲鳴を上げてわが家を飛び出した。

 どこをどう走ったかも思い出せないほど駆け回った道雄は、いつしか黒と紫のマーブル模様の蠢く不可思議な空間に迷い込んだことに気づき、途方に暮れてしまう。
「なんだよ……なんなんだよもう! 学校には化け物が攻めてくるし母さんまでああなっちまうし、そもそもここはいったいどこなんだよ!?」
 振り向いても出口などはなく、足元も確かな足場の感触こそあれど肉眼では背景との区別がつかない。いくら剣道で鍛えているとはいえ、次から次に押し寄せる非日常にくたびれ果てた彼は、自棄気味に言葉を吐き出すと力なくその場にへたり込んでしまう。

『なんだなんだと訊かれたら、答えてあげるが世の情け』
「――――?」
 不意に不思議空間へよく通った女の声がこだまする。周囲を見渡すと、暗い色の空間をそこだけ切り抜いたような白い影が見えた。
 絶句。少年にできたのは彼女の美しさに目を奪われ、金魚のように口をパクパクさせながらむせ返るような色香に股間を膨らませることだけだ。
「ご機嫌よう、剣道雄君。私はリリムのテニア、魔物娘たちにこの街を襲わせた張本人よ」
 心を蕩かすような魔性の声色が彼の背筋を振るわせる。魔界最強のサキュバスである魔王と、人類最強の勇者の娘たる上級淫魔、リリムにしてみれば、ウインク一つで男を落とすことすら造作もない。
 事実、道雄は彼女が人外の存在であり、この事件の黒幕だと聞かされても敵意をぶつけることさえできずその視線を釘づけにされている。
 尻尾を巻いて這いつくばった犬か、はたまた檻の中のハムスターか。無力な彼の姿にサディスティックな感情をくすぐられたテニアは、恰好の悪戯をひらめいた子供のような笑みを浮かべると、不定形な文様が絶えず蠢く何処とも知れない空間の奥へ声をかけた。
「恋のキューピッドになろうとおもって君を連れてきたんだけど……そんなガチガチでこの子の相手が務まるかな? ガチガチなのはおちんちんだけで充分よ? ――――貴女も待ちきれないでしょう、そろそろこっちへいらっしゃいな」
 奥から現れたその小さな影を目にした瞬間、凍り付いていた道雄の時間が動き出した。
 雷に打たれたかのように戒めを解かれた少年は、臓腑から絞り出すように途切れ途切れの悲鳴じみた叫びをあげる。
「そ、そんな…………嘘だ! リサちゃんが!!」
 よどみない足取りでテニアの隣へと並び立った少女は、爬虫類を思わせる鱗に覆われた手足と尻尾、ヒレ状の耳を備えている以外は、頭頂で一筋跳ねたショートカットの栗色の髪も、黒いメタルフレームに縁どられた楕円形の眼鏡も、子犬のように愛嬌のある可愛らしい顔も、毎日のように顔を合わせている妹のような小学生、影藤理沙子に瓜二つだった。
 考えても見れば、小学校が奴らの手に落ちたのを見た時点でこうなっていることは予測できたはずなのだ。
 もしあの時、一目散に逃げ出したりなどせず理沙子の安否を確認していれば、彼女が化け物の仲間に成り下がってしまうことは防げたのではないか? 道雄は悔やんでも悔やみきれない顔で膝を折り、声も枯れよと慟哭した。
「もう、いつまでもメソメソしてちゃダメだよ」
 そんな彼の気持ちなどお構いなしに、リザードマンと化した理沙子は這いつくばる道雄の手元へ一本の片刃剣を放る。それを見て泣きはらした顔を上げる道雄へ、理沙子は自身の持つ細身の両刃剣を突きつけて信じがたい一言を言い放った。
「うふふ……それじゃあ道雄お兄ちゃん――――はじめようか!」

 いつも見慣れた子犬のようにおとなしく気弱な彼女からは想像もつかないほど自信に満ちた宣戦布告と、それを空中に腰掛けながら面白そうに眺めるテニアの様子に覚悟を決めた少年は、その拳で涙をぬぐい毅然と言い放つ。
「そこの、テニアとか言ったな。俺が勝ったらリサちゃんを元に戻せ」
「ええ、約束するわ。貴方の望むようにしてあげる。それと最初に言っておくけれど、その剣は魔界鉄っていう特別な金属で出来ていて、切っても傷つかないようになってるから安心して振るうといいわよ」
 言うこと全部を信じるつもりはないが、少しは気が楽になった。道雄は渡された片刃剣を両手で握りしめると、試合と同じ気持ちで理沙子と相対する。
「メエエエエエエエエエエエエエエエン!」
(ぐうっ! ……なんて力だ。これじゃあリサちゃんの体は、本当に人間じゃなくなっちゃったってことなのか……?)
 開始直後の頭部への一撃を辛うじて防いだ道雄は、理沙子の小さな体からは想像もつかないほどの重い一撃に舌を巻き、一人の剣士として改めて強敵との戦いに血を沸かせた。
 自分より背の低い相手との戦いはやりづらくはあるが、やってやれないほどでもない。
 得物は鉄と呼ばれるような金属で出来ているとは思えないほど軽く、普段振っている竹刀とさほど変わらない。先ほどから刃を交えるたびに鳴り響く金属音が、まるで後付の効果音に思えてしまいそうなほどだ。
 またしても彼を襲う重い一撃。胴狙いの横薙ぎをシャツ一枚でどうにか躱し、踏み込んだ道雄は剣を握る右手親指を狙って小手を繰り出す。
「あうっ!? ――――やっぱり強いなあ道雄お兄ちゃんは」
 一進一退の攻防の中で彼が勝ち取った初めての戦果に、理沙子は口角を上げて想い人を褒め称える。
「これでも全国優勝してるんだ、昨日今日始めたリサちゃんには負けないよ」
「――――今度はこっちの番だ!」
 さらに数合打ち合ったのち、道雄は果敢に攻めへ転じた。面も胴もすべて防がれてしまったが、その裂帛の気合いとともに振るわれる強烈な一振り一振りは理沙子を次第に追いつめてゆく。
「痛っ……右手がっ!?」
 いったん身を引いた理沙子は度重なるこの剣撃の中、右手にダメージが蓄積していることにようやく気が付いた。
 今までのは全部、これを狙って……!
「でも! ――――メエエエエエエエエエエエエエエエン!!」
「それを待っていたんだ!!」
 振り下ろされた破れかぶれの一撃を上から押さえつけ、円を描くように捻じ伏せた道雄は、そのまま彼女の剣を跳ね上げてしまう。万全であればその手から剣が離れることは無かっただろうが、最初に受けた小手と、何度も右手を狙って打ち込まれ続けたダメージが、彼女の右手から握力をジワジワと奪っていたのだ。
「そんな!?」
「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 無手となった理沙子に打ち込まれる胴薙ぎ。その迫力を受けてとっさに目をつむり、衝撃に身をこわばらせるが、その痛みは一向にやってこない。
 恐る恐る目を開けた彼女が見たものは、自身の胸元で寸止めされた白刃の輝きだ。
「俺の、勝ちだね」
 その一言に緊張の糸を断ち切られたかのようにへたり込んだ理沙子は、自らの敗北に頬を染めてただ頷いた。

□□□□

「約束通り、リサちゃんを人間に……ん?」
 一息ついてテニアへ向き直った道雄は、勝利の報酬を毅然とした態度で要求しようとしたが、その返答は彼を困惑させるものでしかなかった。
「ふっふっふっふ、ふが四つ。私は望むようにするとは言ったけど――――」
「リサちゃんなにやってるんだい!?」
「」
 背後のはあはあ荒い息が気になって振り返れば、理沙子がその身を包んでいた革製のボディスーツを脱ぎ捨て、白い裸身を晒していた。
 第二次性徴に差し掛かってほのかに大人びてきた彼女のなだらかな曲線が鮮烈に目に焼き付き、道雄は悲鳴を上げる。
「おにいちゃん……体が熱いよぉ……」
 汗で湿ったなめらかな柔肌とかすかな膨らみが日焼けした腕に触れた途端、少年の竹刀が正眼の構えをとった。
 愛らしい全裸の少女にすがられて平然としていられる男はいない。それが思春期真っ盛りの男子中学生であればなおさらだ。
「だ、だめだよリサちゃん。君はまだ小学生じゃないか」
 それでも必死に理性でもって欲望を押しとどめようとした道雄だったが、必殺の一撃がとどめを刺す。
「私のココ、もうこんなになっちゃってるんだよ? 責任取ってよおにいちゃん」
 絡みついた尻尾によって引っ張られた右手が触れたのは、男子が求めてやまない憧れの場所。こんこんと湧き出す泉が潤す無毛の丘に咲き乱れる秘密の花園だ。

 リサコのこうげき! チョメチョメをさわらせる
 かいしんのいちげき!
 ミチオのりせいは たちきられた!

「リサちゃああああああああああああああん!!」
「きゃっ!」
 邪魔な学生服のズボンとボロボロのYシャツを脱ぎ捨ててトランクス姿になった道雄は、大上段に振りかぶった愛刀を持って理沙子を押し倒し、その小さな体へ躍りかかる。
 抱きしめられ腹の上でビクビクと脈打つ男性自身の感触に、少女の子宮は伴侶とのめくるめく逢瀬を期待してキュンとわなないた。
「お・に・い・ちゃ・ん♥ 理沙子ね、あの日がまだ来てないんだ」
 意味、分かるよね? と蠱惑的な響きを持って耳元で囁かれる魔法の言葉。発言した当の理沙子は、11歳だとは思えない妖艶な笑みを浮かべている。
 女の子は、生まれた時から女なのだ。
 彼女を組み敷いた野獣は、もう我慢できないとばかりに半ばまで鱗に覆われた脚を割り開くと、しとどに濡れそぼるぴったりと閉じたタテ筋についこの間一皮剥けたばかりの亀頭をあてがい、一切の気遣いもせず一息に押し入った。
 処女膜が引き裂かれ幼膣が押し広げられる感触に肺から空気が漏れる。だがその胸を満たしているのは苦痛ではなく、愛しい雄に処女を捧げられた喜びだ。
 そして突き当りへたどり着いた道雄が子宮への入口を押しつぶすようにして落ち着いた時、悦びが小規模な爆発を起こし内なる女の代弁者が覚醒する。
「きゅふううう♥ 口より先に子宮のファーストキス奪われちゃったあ♥」
 腰を振るケダモノのピストン運動に伴って子宮口へ浴びせられるキスの嵐。技術などお構いなしにヘコヘコと、自分が快楽を貪るために行われる独りよがりな交わりは程なくして終わりを迎えた。
 びゅるびゅると音を立てて吐き出され、子宮へと注がれる子種。
 やりたい盛りの活きのいい精子が子宮口を通り抜けてゆく快感に、少女は初めての絶頂を刻み付けられた。
「出てる……♥ おにいちゃんの精子が、私の子宮にいっぱい出てるよぉ……♥」
 愛しい男を絶対に離すまいと両脚でしがみつく「だいしゅきホールド」の体勢で濃密な精を味わった理沙子は、交合の余韻に浸りながらいまだに萎えない胎内の肉棒へ思いを馳せる。
 避妊など毛ほども考えずに行われた無責任な膣内射精に、ゴミ箱を妊娠させるだけだった少年猿は満足げに息を吐き、ようやく幾ばくかの理性を取り戻して眼下の少女と愛おしげな口づけを交わす。
「……順番、逆になっちゃったね」
「いいよ、おにいちゃんのキスも、エッチもすっごく気持ち良かったから」
 どちらともなく二人の上気した顔に気恥ずかしげな笑みが浮かんだ。

 二人抱き合って横たわり、闘いと性行の疲れを癒すために微睡む中、不意に理沙子が思い出したように口を開いた。
「……お兄ちゃん、他に好きな人がいるなら連れてきてもいいよ。愛人ぐらい許してあげるから」
「ぶっ! いきなり何言いだすんだリサちゃん?」
「え? だって今朝女の人と仲良さそうに……」
 何が何だかわからない様子の道雄に、理沙子は戸惑いを隠せない。
 だが今朝の女の一言に思い至った彼は起き上がると、得心が言ったように手を叩く。
「ああ! 太刀川さんのことか。彼女とはなんでもないよ、ただの友達なんだ」
「じゃ、じゃあ最初から私の勘違い……? なあんだ、落ち込んで損しちゃった」
 よくよく考えれば、まだ告白もしていない間柄で小学生相手に「近所の子」以外に何と呼べばいいのか。賢者モードになってそのことに思い至った理沙子は恥ずかしさでサラマンダーのようになった。びちびち跳ねる尻尾もその心境を全力で表している。
 そんな彼女に胸の奥から愛しさが込み上げてきた道雄は、その頭をくしゃくしゃと撫でまわし全身で愛を表現した。
「可愛い! リサちゃん超可愛い! こんなことならロリコンとか気にしないでさっさと告っとけばよかった!!」
「もう、なにそれ? 全部終わってから告(こく)るとか順番めちゃくちゃすぎだよ〜!」
 本当は両想いだった二人は、取り越し苦労な現実の喜劇のようなオチに、笑いが止まらないといった様子で散々じゃれ合った。
「――――これにて一件落着ね!」
 ここでテニアが綺麗にまとめようとしたが、いちゃつくのに忙しいバカップルは聞く耳を持たない。
「ちょっと無視しないでよ!」
「あ、まだ居たんですか白い人」
「もうこっちはいいんで他の人のところに行ってあげてくださいテニア様」
「何この扱い? 私姫なのよ? プリンセスなのよ? この後、さあ勝ったんだからリサちゃんを元に戻せ! なんて詰め寄ってくる道雄君に、望むようにするとは言ったが元に戻すなんて一言も言ってないわ! とか切り返してやろうと思ってたのに話の腰は折られるし台無しじゃないの!!」
「うわこの人ウザっ」(もうおにいちゃんは私にメロメロだから、逆らう心配はいらないのでテニア様は安心して魔界の勢力を広げるためにご活躍なさってください)
「理沙子ちゃん本音と建前が逆になってるじゃないのよおおおおおおおおおお!!」
 最初は道雄もドギマギしていたのに、童貞を捨てた途端に白い人扱いである。
 紅玉の瞳から盛大に涙をあふれさせて嗚咽するテニアは、高貴なはずの自分の扱いの酷さと、男を知って純粋さを失ってしまった理沙子の毒に嘆き悲しみ、うわーんこうなったら私も旦那様見つけて自棄チンポしてやるー! と子供のように泣きわめきながら異空間を抜けて何処かへ飛び去って行った。

 彼女の姿が見えなくなってから、互いに顔を見合わせた二人は笑い合うと互いに手を取り合って出口を目指す。もはや外の世界に、二人を引き裂く法律の壁は存在しないのだ。
「母さんにも紹介したいし、リサちゃんのご両親にも挨拶に行かなくちゃね!」
「――――うん!」
 愛と勇気の名のもとに、新たに生まれ変わった世界は彼らを祝福し、温かく迎えてくれることだろう。

 ―――― 一方そのころ、魔物に襲われて蛮族アマゾネスと化した太刀川は小学生を嬉々として逆レイプしていた。
13/11/04 21:08更新 / elder(エルダー)

■作者メッセージ
どうも、書き手としてはみなさんお久しぶりです。
今回の挿絵は一緒に同人サークルをやっている友人の宝火竜(ポカリ)さんに描いてもらいました。
昨日の杜の奇跡では念願の白い恋人ドリンクを手に入れることができたり、女の子にあーんしてもらえたりと楽しかったです。
本はさっぱり売れませんでしたが。

ちなみにテニア様の扱いがひどいのは仕様です。

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