読切小説
[TOP]
探偵コレックの事件簿〜襲われた歌姫〜
うん、今日もいい天気だ。
俺はコレック、この町で事務所を開く探偵だ。
「先生、新聞とコーヒーです。」
「ああ、ありがとう・・・」
俺に声をかけてきたのはスフインクスのソノミ君。
とある事件の時に知り合い、その後この事務所に押しかけてきて、今では俺の助手をしている。
「いただきます・・・ぶはっ!な、なんだこりゃ!」
「あっ、すいません!砂糖と塩を間違えました。」
「失敗がベタ過ぎるぞ。すまないがもう一度入れなおしてきてくれ。」
「了解です。」
台所に走っていくソノミ君の足音を聞きながら俺は新聞に目を通した。
『白昼の街中で起きた騒動!犯人はケセランパサラン。』
『自警団に新たな仲間が加わる』
とりとめも無い記事に目を通していく。
おや?
俺はひとつの記事に目を留めた。
その記事はある事件を思い出させるものだった。






ある日のこと。
依頼がなかなか来ずに俺は事務所で暇を持て余していた。
やれやれ、平和なのもいいが探偵としては商売上がったりだ。
そんなことを考えていると、

ドドドドドド

「先生〜!大変です!大変です!」
そう言ってソノミ君が飛び込んできた。
「何事だ?買い物に行っていたはずじゃなかったのか?」
「事件発生です!先生!」
「事件と聞いては行かずにはいられないな。
場所は?」
「案内しますので出発しましょう!
さあ、行きますよ!」
言うなり俺は腕を掴まれる。
彼女のこの行動力は評価できるのだが・・・
「ち、ちょっと待った・・せめて何の事件か教えてくれーーーー!」
ソノミ君の馬鹿力の前に俺は有無を言わさず連れだされた。



「まったく、少しは落ち着いてくれよ・・・」
「すみません・・・先生・・・」
「それにしてもここは一体?」
ソノミ君に引っ張られて、気がついたら大きな屋敷の前にいた。
「でかい屋敷だな。」
「うちの事務所とは大違いですよ。」
「やかましい!」
俺たちが間抜けな会話をしていると屋敷から人が出てきた。
「おおっ、コレックじゃないか!」
「レスト!」
声の主は自警団のレスト。
昔、いくつかの事件を通して知り合い、今では俺の良い理解者になってくれている奴だ。
「実はこの屋敷で傷害事件が起きてね。ちょうど君に協力を頼もうと思っていた所なんだ。」
「自警団に協力しても損は無いか・・・
分かった、協力しよう。
ところでソノミ君。
どうやって君はこの事件のことを知ったんだい?」
「えっ?それは私の警察犬顔負けの鼻で事件の臭いを嗅ぎつけたんですよ。」
「スフインクスは猫じゃ無かったか?」
「気にしたら負けですよ。」



おっと大事なことを忘れてた。
「レスト。今回の事件の概要を説明して欲しいんだが。」
「ああそうだな。被害者はこの家の主でセイレーンのアイルさんだ。」
「ええっ!あの歌手のアイルさんですか!?」
「ソノミ君、話を中断させないでくれないか・・・」
「先生!彼女はその長身と美声で歌姫の異名を持つ、今をときめくトップアイドルなんですよ!」
「いや、俺はそんなの知らないが・・・」
「先生が流行に乗り遅れてるだけです。」
「ゴホン!!話を戻すぞ、コレック。アイルさんは額を置物で殴られ意識不明で今は病院にいる。
容疑者は4人の魔物だ。
住み込みのマネージャーの男によると被害者は今日はずっと家にいた。
尋ねてきたのは彼女に呼ばれたらしい4人の魔物だけだそうだ。
4人が帰ってから何時までも部屋から出てこない彼女を心配して合鍵を使って部屋に入ったら、部屋の真ん中で頭から血を流して倒れている所を発見した、というわけだ。
この家には防犯の魔法がかかっており、外部から無断で侵入することはできない。
よって犯人は4人の中の誰かだと私は考えている。」
「犯行の動機は?」
俺が言うとレストは1枚の紙を差し出した。
『お前は卑怯な手によって今の人気を得た。その様な卑怯者には私が死の鉄槌を下してやる!』
「これが今回の動機か?」
「うむ。彼によると一昨日そのメッセージがポストに届いたそうだ。」
「トップアイドルともなると敵も多くなるという事か。」
「レストさん、容疑者はどこにいるんですか?」
「今、部下に呼びに行かせてる。とりあえず、先に現場を見てくれ。」



「ここが現場だ。」
レストにそういわれ俺達は家の2階にあるアイルさんの部屋にやってきた。
広い部屋に豪勢な家具。
いかにもアイドルらしい部屋だな。
「自由に調べてくれて構わない。質問があれば答えよう。ただしあまり現場を荒らさないでくれ。」
「よし・・・さあ、ソノミ君!調査を始めるぞ!」
「了解です!」


俺はまず部屋のドアを調べた。
別に変わったところは無いな。
鍵も壊されてないようだ。
「レスト、この部屋に入るにはこのドアを通るしかないのか?」
「いや、窓がある。ここは2階だが窓には鍵が掛かっていなかったようだ。」


「先生!大発見です!」
「どうした?ソノミ君。」
「こんな物が窓枠の所に落ちていました。」
「これは・・・・植物の蔦?」
窓の外に植物が生えてる様子はないし・・・
なぜこんな所に蔦が?
「ソノミ君。これは重大な手がかりになるかもしれない。引き続き調査してくれ。」
「了解です!」


次に俺は部屋の中の物を調べた。
壁の棚にはいろんなものが並んでいる。
賞状・・・剣・・・盾・・・トロフィー・・・
「この剣は本物か?」
「本物だ、コレック。なんでも知り合いのデュラハンの結婚式で歌った時に貰ったものらしい。」
なるほどな。
おや、一箇所妙な隙間が出来てる・・・
「ああ、そこに犯行に使われた置物が置かれていたそうだ。」
「どんな置物だったんだ?」
「これだ。」
そう言ってレストはセイレーンの形をした小さな置物を取り出した。
血がこびり付いており、その中に犯人のものだろう手形が残っている。
これが凶器で間違いなさそうだ・・・


「先生!また大発見です。これを・・。」
今度は白い羽か・・・
「どこに落ちてたんだ?」
「ベッドの傍です。枕やマットレスの中にある物ではないようです。」
鳥か何かのものだろうか・・・


最後に俺はアイルさんが倒れていた場所を調べた。
周りには家具などは置かれていない。
床を調べたが特に変わったところは無かった。


さて、もう現場の調査はこれ位でいいだろう。
「どうだ、コレック。何か分かったか?」
「うん、いくつか気になる点は見つかった。」
「そうか。今容疑者が集まったらしいから話を聞いてくれ。」





レストに連れて来られた一室には4人の魔物がいた。
「なあ、帰らせてくれよ。」
「僕達何もしてないのです。」
「早く、犯人を見つけてくださいませ。」
「言っとくが、わしは犯人ではないぞ。」
容疑者はドワーフ、マンドラゴラ、エンジェル、バフォメットか・・・
よし、順番に話を聞いてみるか。


「ちよっといいかな?」
「あん?お前さん誰だ?」
「俺はコレック。探偵だ。事件のことを聞かせて欲しいんだが。」
「おう、いいぜ。」
「まず名前とここに来た理由を教えてくれ。」
「おれっちはドワーフのポルクだ。金細工師をやってる。アイルさんはお得意さまでな。
今日は急ぎの注文があるとかで呼び出されたんだ。」
「注文の内容は?」
「分かんねぇ。アイルさんには会えなかったからな。」
「部屋には入っていないんだな。」
「そうだよ。まあその気になれば鍵ぐらい開けられるけどな。」


「話を聞かせてくれないか?」
「僕はマンドラゴラのペルです。近くで花屋をやってます。」
「今日は何の用事でここに?」
「花の注文を取りに来たのです。」
「何で花が欲しいと?」
「分かんないです。でもアイルさん、店に来たときはそわそわしてました。」
「部屋には入ってないのか?」
「マネージャーさんと話しただけで家には入ってないです。」


「少し話を・・・」
「私はエンジェルのベラと申します。近くの教会で働いていますわ。」
「なぜ今日はここに来たんだ?」
「歌ですわ。」
「歌?」
「ええ、何か新しい歌が出来たから聞いて欲しいと。」
「じゃあ、アイルさんには会ったのか?」
「いえ。アイルさんは調子が悪いとかで今日は引き取りました。」


「同じこと聞くの飽きてきたな・・・」
「これ!わしにもキチンと話を聞かぬか!」
「分かったよ・・・名前は?」
「わしは泣く子も黙るバフォメットのレグルじゃ!この町の集会所で定期的にサバトを開いておる!」
「・・・ここに来た理由は?」
「知らん!なんかわしに頼みたいことがあるとか言って呼び出されたのじゃ。」
「サバトのトップがわざわざ足をはこんだのか?」
「わしは広い心の持ち主じゃからの。しかしあやつめ・・・呼びつけておいて結局顔を見せんとは・・・」
「あんたも部屋には入ってないのか?」
「入っとらんよ。入ろうと思えば魔法で入れるがさすがに失礼じゃからのう。」





「どうだ、コレック?」
「ふむ、大体事件の真相は分かったと思う。すまないが考えをまとめたいから少し外に出させてもらうよ。ソノミ君悪いけどちょっと飲み物を買ってきてくれないか?」
「あのぅ、私の分は・・」
「仕方ないな。
よし、じゃあ一緒にソノミ君の分としてアイスも買っていいぞ。」
「いってきまーす!!」
「なんて現金なんだ・・・」


「ペロペロ、美味し〜い。」
屋敷の外でアイスを頬張るソノミ君の横で俺はコーヒーを飲みながら考えをまとめる。
「さて、ソノミ君。この事件に関して君の意見を聞かせてくれないか。」
「ふえ?先生は犯人が分かってるんじゃないんですか?」
「一応、君の考えの聞いておこうと思ってね。」
「そうですね。まず怪しいのはポルクさんですね。
部屋の鍵は開けれるって言ってましたから。
あ、でも空を飛べるベラさんや蔦を伸ばせるペルさんなら開いてた窓から入れたかもしれませんね。
う〜ん、それにレグルさんなら魔法で簡単に部屋の中に入れるかも・・・
あれ?結局誰が犯人か分からなくなってきました・・・」
「もういいよ・・・ソノミ君。事件関係者を現場に集めてくれ。」
「おおっ!ついに先生の推理が始まりますね!」
屋敷の中に走っていく彼女を見ながら俺は残ったコーヒーを飲みつつ後を追った。



俺が現場に入ると、関係者は全員集まっていた。
「先生、全員集めました!」
「コレック本当に犯人が分かったのか?」
「まさかおれっちだっていうなよ。」
「ぼ、僕でも無いです。」
「私も違いますわ。」
「わしもじゃ!」
興奮した皆を俺は手で鎮める。
「ではまず結論から言おう。犯人はあなただ。」
そう言って出した俺の指先に全員の視線が集まった。
そこにいたのは・・・・






「マネージャーの男!!」
「そうだ。彼がこの事件の犯人だ。」
俺の言葉に一同が騒然となった。
「先生!彼は容疑者として挙がってなかったのに、なんで彼が犯人なんですか?」
「容疑者としてあがってなかったのはレストが勝手にそう判断していただけだ。
まずこの事件は一見計画的に見えるが実際は突発的なものだと俺は考えた。」
「と言うと?」
「現場には本物の剣があった。
予告状まで出す位の殺意を持つ犯人がなぜ剣を使わず、置物を使うんだ?
もしくは凶器を外部から持ってくることも出来たはずだ。
つまりこの犯行はアイルさんに前から殺意を持っているものじゃない可能性が高い。
するとあの予告状は偽者だった可能性がある。」
「じゃあ先生、部屋に落ちてた蔦や羽は?」
「多分、彼が置いたものだな。犯行をごまかすため咄嗟に細工したんだろう。大体、本当に部屋に侵入したなら自分の痕跡は消していくはずだ。
あからさまな痕跡が残っているペルさんやベラさんは犯人じゃない。
住み込みマネージャーとして働いて、部屋の合鍵を持っている彼にとって現場は密室でもなんでもないわけだから細工するのも簡単だ。」
「ということは・・・」
「おそらくマネージャーがとった行動はこうだ。
何らかの理由によってアイルさんを殴ってしまった彼は捕まるのが怖くなり、咄嗟に細工をした。
部屋に蔦と羽を置き、さらに偽の脅迫状を書いてレストに見せ、アイルさんに殺意を持つ人物がいるように見せかけた。こんなところだろう。」
俺がそこまで話すと男は口を開いた。
「待ってください!では僕が彼女を殴ったという証拠があるんですか?」
そこで俺は最後の一手を突きつける。
「アイルさんはソノミ君の話によると長身だと聞いている。
対して容疑者となっている彼女らの体型はどうだ?
ドワーフ、マンドラゴラ、エンジェル、バフォメット。
体格の小さい彼女達が何も無いところでアイルさんの額を置物で殴ることはできない。
今日、この屋敷にいてアイルの額を殴れる体格を持っているのはあんただけだ。」
「う、う、うわあああああああっ!!!」
俺の最後の一手に観念した男は叫びながら出口へ疾走する。
しかし、

「ソノミキーーーック!!」

バゴッ!!!

ソノミ君に背後からとび蹴りをくらって取り押さえられた。
「ふっふーん!この私から逃げようなんて百億万年早いですよ!」
「お手柄だな、ソノミ君。」
「えへへ〜、もっと褒めてくださ〜い。」


「さて、どうしてこんな事をしたんだ?」
ソノミ君に圧し掛かられたままのマネージャーに俺は声をかける。
「か、彼女がいけないんだ・・・!」
「よく事情が分からないな?」
「僕は彼女が好きでマネージャーになった。そして最近プロポーズしたんだ・・・
でも彼女は『返事はちょっと待って』と言うばかりで・・・
きっと彼女は僕のことが嫌いなんだ・・・
今日だって『いい加減に好きか嫌いかはっきりしてくれ!』って言ったら『後ほんのちょっとだけ待って!』なんて言うからついカッとなって・・・
気がついたら彼女を殴ってたんだ・・・
それからはあんたの言う通りさ・・・」
なるほど、それが動機か・・・
だが、彼は思い違いをしているな。
「彼女はあんたのプロポーズを受ける気だったと思うぞ。」
「何!?」
「容疑者だった四人が屋敷に呼ばれた理由を考えてみるんだ。
その理由は結婚式だよ。
おそらく彼女はレグルさんに頼んでサバトの集会場を結婚式の会場として貸してもらい、ポルクさんとペルさんに会場の飾りつけを準備してもらおうとしたんだ。
そして自分で作ったラブソングをベラさんに聞いてもらおうとしたんだ。」
「そ、そんなの推測じゃ・・・」
「あ〜っ、面倒くさいですね!!
いいですか、アイルさんが本当にあなたが嫌いなら最初からあなたを住み込みのマネージャーになんてしませんよ!!」
おおっ!いい事を言ったなソノミ君。
「!!!じゃあ、僕は、僕は・・・ああああああっ!!!」
泣き崩れる男を前に全員が無言で立ち尽くしているとき、ドアの開く音がした。
「失礼します!レストさん、ちょっと・・・」
入ってきた男はレストに耳打ちをしている。
「ふむふむ、分かった。」
「レスト、何が分かったんだ?」
「吉報だ。
アイルさんが目を覚ましたそうだ。
幸い命に別状は無いらしい。」





「先生。新しいコーヒーです。」
記事を見ながら過去の事件を思い出していた俺の思考をソノミ君の声が現実に引き戻した。
「なぁ、ソノミ君この記事を見てくれ。」
「えっと、なになに、
『歌姫アイルさん結婚を期に活動再開!!結婚のお相手はマネージャー!!』
おお!あの事件の二人結婚したんですね!」
アイルさんは目を覚ました後、マネージャーのことをまったく責めず、事件は公にはならなかった。
彼女いわく、
「私が、彼にはっきりとした態度を取らなかったのが原因ですから。」
だそうだ。
マネージャーの方も彼女に対して責任を感じてるらしく、なにがあっても彼女と添い遂げる決心をしたようだ。
考えようによってはあの事件は一つの愛を作った事件なのかもしれないな。

ん?そういえば・・・
「なあ、ソノミ君。
君はどうして事件の最後でアイルさんがマネージャーのことが好きだと言えたんだ?」
「へっ?そんなの女の勘に決まってるじゃありませんか。」
彼女もようやく推理力が身についたと思ったが・・・
まあ、勘であんなことが言えるのも大したものかな。
そんな事を考えつつ、俺は新しいコーヒーに口を付けた。
10/12/05 21:06更新 / ビッグ・リッグス

■作者メッセージ
初の一人視点で書いてみました。
私はミステリーが好きなんですが魔物娘でミステリーの様な物が出来ないかと考えついて出来ました。
設定や展開が多少強引なのは許してください・・・
出来れば続きも書いていきたいです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33