連載小説
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0時限目 『会議は踊る、されど進まず』生徒一同:リーテン主神教会職員
実り溢れる山、緑々しい草原、広大な広い海……そんな豊富な自然に囲まれた小さな宗教国家があった。その国家の名は「リーテン」。穏やかな時間が流れるその国はこれからもそうであり続けるのだろうと誰もがそう思っていた……この凶報が伝わるまでは。

「………魔界第四王女であるデルエラと呼ばれるリリムの手により宗教国家レスカティエはなすすべもなく陥落。以降の教団による解放策戦も目ぼしい効果は無し。以上、主神教団の中央からの伝令になります。」

こぢんまりとした聖堂の中にハキハキとした声が響く。声の主は眼鏡をかけ正装に身を包んだ才女、ネーロ執政官。この国のNo2であり、内政と軍政を掌握する権力者だ。

「そうか……教団の栄華の象徴がこうもあっけなく魔物に打ち壊されようとは…」

対照的に、どこか頼りない自信の無さそうな声が答える。聖職者の衣装に身を包んだ彼は、ボル司教。大司教になることを夢にみてはや幾年……その夢がかなう日は来るかは定かではない。なお、宗教国家であるリーテンの一応の最高権力者である。

「で、どうすんのこれ。対岸の火事…では済まないでしょ。まぁ、ボクは可愛い魔物とキャッキャウフフできるならむしろ歓迎だけどさー」

聖騎士の衣装をオシャレな感じに着崩している軽い男……オランニェ騎士団長はへらへらと軽口を言ってのける。

「……遺憾の意を表明しよう」

「分かりました。ではそのように教団中央に伝令を出させましょう」

「す、少しお待ちくださいませ、ボル司教様。民は、魔物の恐怖に震え、そして怯えています。僭越ながら……主神様を奉る教会として言葉だけではなく行動を示す必要があると私は考えます。」

事務仕事的にこの案件を処理しようとする2人に待ったをかけたのは、小さなシスター、プティー司祭。大人しく引っ込み思案ではあるがボル司教の補佐を務め、国民に寄り添うことを信条とする良識人だ。

「そうだっ!今こそ剣を持て!薄汚れた魔物共をこの世から排除するのだっ!ボル司教のような軟弱な対応は看過できん!あぁ、できん!」

同じく消極的な案にNoを突きつけたのは、聖堂の中であるにも関わらず全身を聖騎士の鎧で包んだ大男、ロート副団長である。

「そしてよく言った!プティー司祭よ!共に魔物どもを血の海に沈めようぞ!」

「そ、そこまで物騒なことは考えてないですぅ。ただ、魔物側と相互非干渉の約束を結ぶくらいはやったほうがいいかと……」

「なぁにぃ! ならん、それはならんぞプティー司祭。 その様な考え方は敗北主義者! 恥を知るのだプティー司祭!」

「はぁ……新しい雇先さがそうかなぁ……どう思うスイ?」
ロート副団長に詰め寄られ泣きそうになっているプティー司祭を見ながらひとり呟くのはこのリーテン主神教会で派遣職員として働いている精霊使いクローロン。相棒の純精霊であるスイと呼ばれた宙に浮く水の玉も呆れたようにふよふよと揺れる。

「ご主人それ今週で言うの7回目だよ」

「今日何曜日だっけ」

「火曜日だよ」

「昨日でもう6回も言ったのか……」

口癖は「新しい雇先さがそうかなぁ」であるがなんだかんだこの濃いメンバーの揃ったリーテン主神教会に長く身を置くほぼ正職員である。

「そもそも、あれほどの国力を持ったレスカティエが魔物の手によっていとも簡単に陥落したのですよ。この国の国力、軍事力で本当に魔物に勝てるとお思いですか?」

「勝てる! 我が国の騎士は1人が一騎当千! 必ずや戦いを勝利に導くだろう!」

「せ、戦争はいけません! 知能を持った生き物同士話し合いによって解決を…」

「戦争かぁ……戦場で負けて魔物さんに無理やり冒されるシチュエーションって興奮するよね」

「オ、オランニェ君。神聖な聖堂の中でそのような発言はやめたまえ…あと、服もちゃんと着崩さずに着てお願い」

―――『あーだ、こーだ』―――
―――『そーだ、こーだ』―――

《会議は踊る、されど進まず》

徹底的な理詰めで論を進めるネーロ執政官
武力を信じ、敗北主義を認めないロート副団長
民の生活を案じ、話し合いによる人魔相互不可侵を訴えるプティー司祭
エロイ魔物娘に夢を膨らませるオランニェ騎士団長
食い違う4人の手綱をまったく握ることができず、ただ場当たり的に当たり障りのない返答をするボル司祭
その様子を呆れ顔でただ見つめる派遣職員クローロンとパートナーのスイ

そんな時……終わりの見えぬ不毛な会議に光が差す。
「お待たせしたっす! 終わりの見えぬこの不毛な会議のために超すげーアイデアを持ってきたっすよ!」

聖堂の大扉を勢いよく開けて入ってきた彼は見習い騎士のクラルテ。リーテン主神教会の独特な(いつも不毛な言い争いが続いている)職場環境に馴染めず多くの見習い神官や騎士が入ってすぐ辞めていく中、唯一残った期待の新人である。

「おいこらぁ! クラルテてめぇ、今何時だと思ってやがる!お!」

「えっ、今は朝の9時10分すね」

「今日の会議は朝9時からだろうがぁ! 遅刻してんじゃねぇぞぉ!」

「まぁそれは置いておいて……聞いてください!俺の天才的なアイデアを!」

「さらっと無視すんなやぁ!」

期待の新人は、残念なことに他のメンバーに負けず劣らずの個性的な人である。

「俺は、皆にこの言葉を伝えたいっす。『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』」

「ふむ……たしか、霧の大陸に伝わる兵法書に記載されている言葉でしたね。確か意味は
『敵についても味方についても情勢をしっかり把握していれば、幾度戦っても敗れることはない』ですね」

「そうっす!そうっす! このリーテンを守る為にどうするかを考える前に考えるべきこと、それはなぜレスカティエが魔物の手によって簡単に陥落したかってことっす。レスカティエ程の強国が自分たちの国の事をしっかりと理解できていなかったとは考えられないっす!つまり、レスカティエの敗因は敵、つまり魔物を知らなかったことなんすよ!」

「ほぉ……新人のくせに割と本質をついてくるじゃねぇか」

「まぁ確かに精霊達であっても互いに得意とする属性と不得意とする属性があるし……同じように魔物についても得意・不得意があるかもしれないね」

「…宗教国家レスカティエは己を知っていた……ですか」

「ん? どうしたんすかネーロ執政官様」

「いえ、別に」

「ま、これが俺の超絶完璧でスペシャルデラックスな策戦っす。どうっすか?どうっすか?」

「んー、僕としては調査を名目に魔物娘ちゃんたちと楽しいことが出来そうだし賛成でいいよぉ」

「まぁ、理論的におかしい箇所は無いですし、執政官としても異存はありません。費用もさして掛かりそうにないですし」

「わ、私も平和的なその案でいいと思います」

「……敵の弱点を探るという点では評価する」

「とりあえず、この会議が終わるなら何でもいいよ。ここで決めないと夜まで続きそうだしね」

自身満々のクラルテに対して、各自、意気込みや目的は違えど同意を示す。
そして、全員の視線が今まで黙って話し合いを見ていた(というよりも話す機会を掴めずにいた)ボル司教に集まる。

「クラルテ君、1つ質問いいかな」

「どうぞ、どうぞ、何なりとっす!」

「その……魔物について私たちに教えてくれる当てはあるのかな?」

ボル司教の疑問に、聖堂が静まり返る。ボル司教の問いはもっともだ。自分たちが知らないことを知る為にはその知らない知識を持った人物に教えを乞わなければならない。この場合、魔物に関する詳しい知識を持った者とは、魔物そのものや魔物と結ばれたインキュバス、それに魔物をある程度許容した親魔物国家の住民等である。そしてこの場にいる全員は知っている、これらの存在と自分達反魔物国家が交わることのない水と油だということを…。

「…………」

「…………」

「……、ロート先輩、いやロート副団長様ほどの力があれば、魔物の1匹や2匹捕まえてくることなんて楽なもんっすよね!いやー、いい先輩を持って俺は幸せ者っすねー」

「てめぇ! 旗色が悪くなったからってこっちにすり寄ってくるんじゃねぇ!女落とすなら団長にでも任せておけや!」

「え、魔物娘とキャッキャウフフしてきていいの!? ちょっと、婚姻状貰ってくる!あ、後で証人の所に署名頼むね」

「ま、魔物との婚姻等は、聖書により禁止されているのでそういうのはダメですぅ!」

「ボル司教、プティー司祭、異端審問の準備を。被告はオランニェ騎士団長です」

「……なぁスイ、お昼ご飯何にしようか」

「ご主人、会議が1日ぶっ続けルートに入ったからって現実逃避してはダメだよ」

―――『あーだ、こーだ』―――
―――『そーだ、こーだ』―――

《会議は踊る、されど進まずpart.2》

そして時は進み25時30分(翌日の深夜1時30分)

「はぁ…はぁ…、で、では、…各自が担当となった週に1回、魔物に関する知識を有した特別講師を招いて魔物に対する勉強会を開くということでいいですね」

「ぜぇ…ぜぇ…もし、勉強会を開けなかった場合は……給料の減給措置を3ヵ月だ。逃げ徳は許さねぇ…」

「はぁ…ぜぇ…いや、まだオレは……納得してないっすよ……なんで第1週目の担当が…はぁ…はぁ…俺なんすか」

すやすや…… 「!はっ、すみませんちょっと意識飛んでました。見習い騎士クラルテさんには大変申し訳ないのですが……作戦の提案者兼一番の新人ということで……ご理解とご納得をいただきたいのですぅ…ねむい……」

「だからさぁ……僕に全部任せてくれればよかったのにぃ……この時間帯はしんどいね流石に」

「…………………」
「ご主人、ご主人!なんかやっと決まりそうですよ。気を確かに持って」
「賛成します…賛成します…賛成します」

「で、では……ネーロ執政官の提案に賛同する者は挙手を……う、うむ…私の目には現実か幻覚か定かではないが全員が手を挙げているように見えるのでこれで会議を終了する。閉廷閉廷…」


16時間30分の死闘(会議)を終えたリーテン主神教会の職員一同。
『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』をテーマに、魔物について学ぶことを決意する。
彼らは、魔物について学ぶ中で何を思いそして何を選ぶのであろうか?
……そもそも特別講師は見つかるのであろうか?
これは魔物に対抗するために魔物を理解しようと特別講師の魔物さんに魔物についてレクチャーしてもらうリーテン主神教会の職員のお話である。
18/09/07 21:18更新 / みかん畑
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■作者メッセージ
☆次回までの宿題☆【知識・理解】
以下の空欄A~Dを埋めよ。

魔物達が男性を求める理由は( A )、( B )、( C )の3つの欲望とされている。これに加えて、アンデッド達は更に4つ目の強い欲望を持つ。それは( D )である。

                             出題者:ラタトスク

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