読切小説
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『無い』が『在る』物
 昔々あるところに謎掛けとお菓子作りが大好きな変人が居ました。そこまで昔ではないし変わった人でも良いと思うのですが、上からの指示でこう表現しておきます。
 彼は我等が偉大なるバフォメット様の菓子を献上せよという要求を愚かにも拒否し、それどころか謎掛けを出して来ました。この表現に関しても同上。
 曰く、「『無い』が確かに『在る』物とは何か」。
 バフォ様は一体どういう意味かと男に問いました。しかし男はこう言い返しました。
「胸に手を当てて考えろ」
 まるで意味が分かりません。『無い』のに『有る』とは言葉が矛盾しています。
 その晩、バフォ様は寝ながら考えました。『無い』が確かに『在る』物。胸に手を当てても虚しくなるだけです。
 『見えるけど見えないもの』の方が元ネタがあるのでよほどマトモな謎解きです。
 困り果てたバフォ様は、サバトのメンバーに問いました。
 『無い』が『在る』物とはなんぞや。
 その問いにとある魔女が答えました。
「『無い』が『在る』物、それは数字です。0(無い)という数字が在るでしょう。」
 それを聞き、嬉々として男の元を訪れたバフォ様は数字だと答えました。
 しかし男は首を横に振り、こう言いました。
「胸に手を当てて、もう一度考えてこい」
 バフォ様はもう一度サバトにて問いました。
 しかし、いくつもの案が出ても、その全てに男は首を横に振り、「胸に手を当てて考えろ」と突っ返しました。
 何度も突き返され、まるで検討もつかないので、バフォ様は男への質問を募る事にしました。
「それは目に見えるものか」
「それは誰かが持っているものか。ならば、どのような者が持っているのか」
「それは小さな物か」
「それは誰かに渡せるようなものか」
「それには触れられるのか」
「それは大人の持つ物か」
 それらの質問に対し、男はこう答えた。
「それは目に見える。『無い』し『在る』事を目視できる」
「バフォ様も持っている」
「確かに小さな物だ」
「大きさは関係ないが、渡せない物だ」
「手の届く所にはあるが、触れられる者は限られている」
「一部の例外的な大人は持っている」
 そして最後にこう付け加えた。
「何度も言っているが、『胸に手を当てて考えろ』」

 持ち帰ってきた質問の答えを言うと、『お兄ちゃん』のうちの一人が手をあげた。曰く、
「『手の届く所にあるのに触れられる者が限られる物』に触れられるのはそれを持つ者と限られた男だけであろうか。もしそうならば答えが分かった」
 そう前置きし、『お兄ちゃん』は言った。
「それは貧乳です」
 何故か、バフォ様は問いました。
「貧乳のことを胸が無いとは言いますが、たとえ貧乳でも胸は存在しています」
 イマイチ釈然としないながらも男に答えを告げました。しかし男は自分の答えとは当たらずとも遠からずと告げました。
 『胸に手を当てて考えろ』の真意と本当の答えが分かったバフォ様はこう聞きました。
「其我が胸の事を侮辱する言葉に非ず」
「然り」
「其幼女の胸也」
「然り」
 その後、紆余曲折の末に彼はサバト入ったそうな。
めでたしめでたし。
16/10/29 13:56更新 / ウマノホネ

■作者メッセージ
多分これが一番酷い謎掛けだと思います。

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