連載小説
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フレッドが語る 出会い(バトル?)
ふぅ……淹れたてのお茶は身にしみるわい。
さてと、話の続きをするとしようかの、ワシらとルミネの出会いの話を。
まあそんなに堅くならんでええぞ、むしろ堅くなる必要ゼロじゃから。


あれは山賊討伐の一件から半年がたったころのことじゃ。
ある町に駐留していたワシらのもとに、サキュバス討伐の依頼が巡って来た。
「とある山岳地帯にて教会騎士団がサキュバスらしき魔物の出現を確認、それに加えてその地域は複数回にわたり略奪行為を働いていたオーガの生息域とも重複するためこれと共に討伐してほしい」
これが依頼内容じゃった。
要するに、オーガとサキュバスの同時討伐の依頼じゃ。
どちらも高い戦闘能力を誇る上位の魔物。
特にサキュバスと言えば魔王の卷族であり上位の魔物の代名詞として使われる魔物。それとオーガの同時討伐などかつての勇者も成し遂げたことのないような困難極まりない依頼じゃ。
しかし、クロードはこの依頼を受けた。
サキュバスは何かしたわけでもないようじゃが、オーガの方は人から物を略奪していたのだから討伐の必要があるだろうと判断したんじゃ。
「それに、会ってみたら何か分かるかもしれないだろ?」
とも言った。
何か分かる、その意味するところは簡単じゃ。
人間と魔物が本当に対立し続ける意味が果たしてあるのか、その答えをつかむに至る何らかのきっかけに、魔物のどちらかがなるかもしれないと思っておったのじゃろう。
「王国最辺境の魔物討伐依頼がここまで届くってことは、火急なんだな。」
そう言ったクロードは、雇った御者に一番近くの町まで行くよう指示した。


五日ほどかけてワシらは目的の村にたどりついた。
そこには賞金目当ての冒険者や討伐のために訪れた教会の騎士たちも多くたむろしていて、宿はすでに満員じゃった。
仕方なくワシらは宿で休むのを諦めてさっそく出発した。
ただ、野山だけは地元の猟師に安全な場所を案内してもらった、いくら勇者パーティでも罠を相手にはどうしようもないからの。
「こっちです、勇者殿。」
まだ若い猟師に案内されながら、ワシらは森を進む。
「あんたが第一発見者だっけ? サキュバスの。」
「そうです、この森には地元の人間でもうちの家の者しか足を踏み入れませんので。」
「この森で見たのか?」
「はい、サキュバスと若い男の二人連れでした。」
冷静に猟師は答える、どうやら以前も複数回案内をさせられたことがあるようで、既にこんなやり取りも慣れ親しんでしまったのじゃろう。
「若い男……インキュバスか?」
クロードが呟く。
サキュバスと共に行動する人間の男は、ほとんどがインキュバスという特殊な人間に作り替えられて肉奴隷にされるといわれる。
これも中途半端にデマが混じっておるのう、肉奴隷じゃなくて夫じゃから。
森を分け入って行くと、やがて猟師が足を止めた。
「私が案内できるのはここまでです、この先は地元の人間でも足を踏み入れないような野山の奥地になっています。」
「そうか、案内ありがとう、駄賃に貰っといてくれ、昔拾った品だ。」
そう言うとクロードは猟師に光る石の入った袋を投げて渡した。
拾った品というのはウソではないが、それは昔山賊討伐の依頼を受けた時に山賊のアジトで拾った宝石と思われる石じゃ。
誰かが盗まれたという話も聞かんかったのでそのまま報酬代わりに貰っておいたが、いざ持っているとなると地味に邪魔な品物だったんじゃ。
厄介払いと駄賃を兼ねた実にクロードらしい選択じゃな。
「さてと、行くか。」
背負っていた棒を構えてクロードが言う。
シェルシェも魔法書を用意し、ワシもメイスを、マーロもクロスボウを構える。地元の住民でも来ないような森の奥深く、魔物がいないとしても厄介な野生動物はおるかもしれん。
毒蛇とか、熊あたりが。


それから一日半が経った。
結局何も現れないまま、ワシらは谷の合間を進んでおった。
オーガどころか野生動物すら現れん現状、道を間違えたんじゃないのかと思ったが、シェルシェが「こっちの方から複数の気配がする」と言うもんじゃからそれを頼りに進むことにした。
「む……前方、誰か戦っている。」
マーロが一番最初に気づいた。
確かに誰か戦っておる。
複数人の騎士と、灰色の髪に緑色の肌をして、ボロ切れのような服で必要最低限の部分だけを隠した魔物の女。
「オーガだな……」
騎士たちの剣をよけ、かいくぐり、一人一撃で殴り倒している。
圧倒的ともいえる戦力差じゃ、そのオーガは強過ぎる。
騎士たちがどんどん数を減らしていき、最後には一人も立ち上がらなくなる。
オーガがこちらに気づくのと同時、クロードが隙をついて突きを仕掛ける。
オーガはそれを反射的にガードする。
しかし、クロードの攻撃の厄介なのは「ガードが危険」なことにあるんじゃ。
ラギオン流棒術の基本技術「震撃」
対象の体全体に衝撃を伝わらせる技で、たとえガードしてもその衝撃が体に伝えられて、数秒動きが止まりそのあともしばらくは満足に動けなくなる。
ガード体制のまま体を硬直させるオーガ。
クロードはその隙に腹を狙って突きを放とうとして、
下から出現した氷柱に吹っ飛ばされた。
「起動、土巨人」
シェルシェが魔法書のページを開き、魔法の発動コードを呟く。
クロードの下の地面が形を変えて、高さ五メートルほどの土の巨人になったと思うと、クロードを空中で受け止める。
土巨人。
もともと対多人数、施設破壊・攻城など大火力を必要とするときのために開発されたシェルシェの得意魔法じゃ、移動できず巨人のリーチ内でしか戦闘能力はないんじゃが、攻撃力と防御力はかなりのもの。
オーガはマーロの銃撃をいとも簡単に避けて、後ろに逃げる。
「危なかったわね、ベルナ」
「うるせぇ、油断してたんだよ。」
いつの間に現れたのか、青色の長い髪をしたサキュバスが土巨人の少し前を飛んでいた。おそらくさっきの氷柱もこいつの魔法じゃろう。
サキュバスはゆっくりとベルナと呼んだオーガの隣に着地する。
「土巨人、攻撃。」
相手が何かするより先に、シェルシェは土巨人を動かした。
ゆっくりクロードを載せていない左腕を持ち上げたかと思うと、
ズドォン
手刀を二人に向けて叩きこんでおった。
二人はそれぞれ左右に移動して回避する。
「いきなりなんて乱暴ね。」
「すまんな、礼儀知らずな勇者とそのパーティで。」
巨人を下りてサキュバスに接近したクロードが頭を狙った突きを放つ。
ゴキン
しかしそれは出現した氷の盾に防がれ、
キキキィン
マーロの発射したクロスボウの矢も同じように氷の盾が防ぐ。
ベルナが後衛のワシらに向けて突っ込んでくる。
巨人が拳を握ってベルナを殴りつけるが、あっさり避けられる。
そのままベルナは地面にたたきつけられた拳を足場に跳躍し、
ズドォン
巨人の顎を殴りつけた。
巨人の顎にひびが入る。
人間だったら間違いなく顎を砕いていただろう一撃じゃったが、土でできた魔法の巨人に人間の急所は適用されん。
逆にベルナは巨人の右手に捕まり、地面にたたきつけられる。
地面がへこむほどの威力でたたきつけられたにもかかわらず、ベルナは起き上がると一度巨人の射程から退避する。
クロードとマーロが二人がかりでサキュバスに攻撃するが、ことごとく防御されては距離を開けられる。
「結構、強いな。」
「同感だ。」
クロードとマーロがワシらの方に戻ってくる。
「あなた、今勇者っていったかしら?」
サキュバスがクロードを見ながら言う。
「言ったよ、俺が勇者クロードだ。」
クロードがサキュバスをにらんだまま答える。
サキュバスは少し考えるように目を閉じると、
「クロードね。あなた、魔物は人間の敵だと思うかしら。」
「一概にそうとは言えないと思ってる。」
警戒態勢は崩さないまま、クロードはサキュバスの質問に答える。
サキュバスはにやりと笑ったかと思うと、
「なら安心してほしいわね、私たちはあなたの敵ではないから。」
そう言って、サキュバスとベルナは同時に戦闘態勢ではなくなる。
「どういうことだ?」
「この国では魔物は人間の敵なんて言う風に言われてるのよね? そしてたくさんの街や人々が魔物に襲われ滅び、殺されていったとも言われている。」
「そうだな、で?」
クロードは油断することなく二人を見つめている。
それもそうじゃろう、油断して攻撃されては洒落にならんからのう。
「場所を変えましょう、ついてきて。」
そう言うと、サキュバスは飛んでいく。
ワシらが従ってもいいものかと逡巡しておると、
「安心しろ、あいつは頭ん中危ないけど行動は基本的に安全だから。」
ベルナもそう言って、サキュバスの後を追う。


しばらく歩かされて、たどりついたのは大きな盆地じゃった。
大体予想できた人もいるじゃろう、そう、今このクルツ自治領の中心が存在しておるこの盆地こそが、ワシらの出会いの場だったんじゃ。
「こんなところがあったんだな。」
「人間はこんなところまで滅多に来ないからな、知らんのも無理ないさ。」
ベルナに案内されたのは、岩壁を掘り出して作ったと思しき家じゃった。
「オレのうちだ。」
ドアはないがその代わりに大きな布がカーテンのように内と外を隔てておる。
入ってみると、さっきのサキュバスのほかに二人男がおった。
一人は仕立ての良い黒い紳士服の若い男、もう一人はどこかの傭兵のような、がっしりとした体格の三十代半ばほどの男。
「さて、自己紹介がまだだったわね、私はルミネ、見ての通りのサキュバスよ『今は』だけどね。黒服の男の人が私の愛する夫リカルドよ。」
「夫?」
「そうよ? 魔物は人間の男を夫にするの、一部特例はあるけどその夫と愛し合うことこそ魔物にとっての至上の喜び、食べちゃうなんてことしないわ。」
自信げにそこまで大きくはないが形の良い胸をそらして、ルミネと名乗ったサキュバスが言う。
「オレはベルナ、見ての通りのオーガで、そっちの男前が夫だ。」
「あら失礼ね、グリッツより私のリカルドの方が男前よ?」
「あんだとぉ!?」
夫の名前をベルナが言わずにルミネが言うのも妙な話じゃ。
「二人ともやめろ、俺たちのどっちが男前かなんて人の主観によるだろ。」
グリッツと言うらしい男が二人の争いを仲裁しようと割ってはいる。
「お前は男前じゃないと言われたことに不服じゃねぇのか!」
「俺はお前にとって最上の男ならそれ以外の女にどう思われようがどうでもいい。」
さらっとグリッツはそんなことを言う。
ベルナの顔が一瞬で真っ赤になり、口論が終わる。
「とりあえず、魔物は人と敵対しないってことで良いのか?」
「こっちは共存を求めてるけど、人間側が乱暴に敵対してくるのよ、この国なんて最悪ね、あちこちで腐った貴族が略奪してはそれを全部魔物のせいにしてる、教会もそれを黙認して略奪したお金の一部をもらったり、捕まえた魔物を変態に売るルートを作ってるんだもの。」
ますますどっちが「魔物」やら分らんくなることをルミネが言う。
ワシらもそのあたりのことは大方の予想がついておった、決定的な証拠もなかったし、目をそらしたいと思っておった傾向が強かったから考えんようにはしておったがの。
「まぁ、予想はしてたよ。」
「あら意外、盲目的に教会に尽くすボンクラだったらどうしようと思ってたところよ。」
「皮肉とかは別にいいから、俺たちを招いた本題に移れ。」
ルミネは性急なクロードの要求に微笑むと、そのままを口に出した。
「ちょっとした計画の賛同者を集めているのよ、あなた達にも協力してほしいわ。」
「計画の内容による。」
「この盆地に、人と魔物が共存する町を作るの。あなたは人と魔物の戦いに意味がないと思ってるんでしょう? だったら、ここを起点にすべての人の意見を替えればいいのよ。」
ルミネは大きく手を広げながら、そんなことを言う。
ワシは冗談じゃないと思った、そんなことができるはずない。とな。
マーロも同じ気持ちだったじゃろう。
シェルシェも無機質な瞳にいくらかの戸惑いの色を見せておった。
別にワシは魔物と人間が共存できんとはつゆほども思っておらんかったし、今もそうじゃ、その点もワシと仲間たちの意見は統一されておった。
しかし、このローディアナ王国で、それを実現させるのは不可能だとも意見が一致しておった。
「悪こそが魔物、教会はそれから人々を守る盾」それがこの王国の民に王国の上層部がすりこんできた意識じゃ。
それを替えることなど、不可能に近い。
しかし、クロードはそう思わんかったようじゃ。
「面白そうだな。」
そう言ったんじゃから。
「何年何十年かかるか分かんねー、俺の息子や、孫にまで下手したらとんでもない重荷を背負わせることになるかもしれん、だが、意味のない争いや、騙されて搾取される人々がいなくなるんなら、この賭け、乗ってみようか。」
そしてワシらの方を振り返ると、
「俺は乗る、はっきり言って地獄のようなことになるかもしれん。無理についてこいとは言わない、嫌なら今すぐ帰ってくれ。シェル・マーロ・フレッド。」
そうはっきり言ってのけおった。
迷いのない目をしておった、これは止めたって無駄じゃと悟ったわ。
最初に口を開いたのはシェルシェだった
「あなたがやるなら、私も一緒、いつも一緒だと誓ったから。」
次に返事をしたのはマーロ、
「乗りかかっちまった船だしなぁ……俺好みの魔物紹介してくれよ。」
ワシも少しだけ考えてから、
「お前らみたいなバカの集まり、放置はできん。」
そう答えた。
「満場一致ね、素晴らしい団結力だわ。」


それからは掛け値なしに忙しい時間じゃった。
表面上はルミネやベルナを討伐したことにして、勇者パーティとして各地を回りながら魔物との戦いに疑問を覚えているもの、教会や貴族の腐敗を嫌い野に下った者たちの中で特に信用できそうなものを味方につけて、徐々にクルツの民は増えていった。
それに各地で行き場を失っておった魔物たちや、内乱で済む場所を失った難民たちじゃ。それに魔物の奴隷たち。
そう言った者たちがクロードやルミネ、それにルミネに呼びつけられたツィリアの指導のもと、農地を拓き家畜を調達しながら共同して暮らし始めた。
しかしまぁ、そうなれば王国は黙っておらん。
やがて幕を開けたのは過酷な戦いの日々じゃった。
ん? もう行くのか。
次が控えておる? 何を言っておるんじゃ全部ワシに聞け。
もう腹いっぱいじゃと!? ワシはまだまだ話し足りんぞ!
ちょっと待て! 待たんか!


11/05/15 17:13更新 / なるつき
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■作者メッセージ
ベルナ プロフィール
ローディアナ王国クルツ盆地生まれ 魔物・オーガ 職業:なし?
もともとクルツの興る地で暮らしていたオーガ、酒蔵のブリジットの母親でもある。ルミネとは知己。オーガらしく豪快な性格で少し野蛮。
娘同様酒と祭りごとが大好き。

グリッツ・ローメル プロフィール
イグノー王国・大都市ティリンス出身 人間 職業:傭兵
ベルナの夫であり、クロードたちの出会いから数年前にベルナと交戦、敗北して彼女に誘拐され、そのまま交合勝負に引き分け夫になる。ブリジットの父。
落ち着いた性格だが、一度火がつくと止まらない。

震撃
初代クロードの祖父を開祖とするラギオン流棒術の基本技術。
対象の全身に衝撃を伝わらせ、動きを強制的に数秒止める。急所を狙えば一撃必殺も成立する。応用してあてた部分だけを強く揺らすことも可能。
クロード・ハロルドは棒でしか使えないが、ランスはなぜか素手で使える。

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