連載小説
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第二話 そして少女は押しかける
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その姿を見つけたのは、読むまでもなく書かれた内容を丸暗記した本を、三度目に読み返した時だった。
目を引いたのは、風に吹かれる長い金髪。
私の髪も金色ではあるけれど、少し赤みがかかった私に比べると薄く落ち着いた色をしていて、その時は綺麗だと思ったものだ。
それから顔を見て男だとわかって、少し驚いたぐらい。
けれど、その人が腰に提げている『それ』を見た瞬間に、すぐに緊張が全身に走る。

……剣。

親魔物領の街に挟まれたこの山道でそんなものを持って歩いているのは、冒険者だけ。
だから……あの人は、こらしめなきゃいけない人なんだ。

とても小さな私の身長を遙かに越す高さの所にある枝の上から、意を決して私は飛び降りた。
魔術を発動して衝撃を和らげて、音もなく着地する。

まず、この人が本当に冒険者かどうか確認しなければいけない。
もしそうなら――とは言っても経験上、十中八九そうなのだろうけれど――あの場所にこの人を誘い込んで……それから、懲らしめる。

心は、痛むけど……そういうタイプには見えないあの人だって、本当は悪い人なんだ。
放っておけば、また……

「……っ」

駄目……躊躇していると、よくないことばかり考えてしまう。
話しかけるのよ、私。

いつも通り……そうよ、これはまた同じことを繰り返すだけなんだから……






……その考えが大きく間違っていたことに、後に私は気付かされることになる。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜

















そこは、山の木々をくり抜いたかのように存在している平原。
頬を撫でる風は穏やかで、日差しも心地よく降り注ぐ。
ここで休めたら、きっと気分がいいのだろう、そう思わせる場所だった。

……壁のような形をした結界で周囲全てを覆われ、杖を向けられるような、そんなふざけた状況でさえなければ。

「『遊ぼう』だぁ?ふざけんなよクソガキ!!人に炎の玉ぶっ飛ばしといて何言ってやがる!!」
「そんなの、お兄ちゃんには言われたくない!!お兄ちゃんだって……“冒険者”なんでしょ!!」
「……ッ!!のぁっ!?」

全身を赤い服に包んだガキ、エリーが構えた杖を振るうと同時に、俺を目がけて放たれる炎の玉。
俺の身長を軽く越す大きさのそれは、俺が避けると地面にぶつかり、そこに派手に焦げ痕を残して消える。

冗談じゃねぇ!!こんなもんぶつけられるぐれぇ誰かに恨まれるようなことなんぞ、これまでやった覚えねぇぞ!!

「言ってる意味がわかんねぇんだよクソガキ!!冒険者だから!?それがなんだっつーんだよ!!」
「それもわからないなんて……!!」

何故か俺の言葉は怒りに触れたらしく、ガキはより険しい表情をして俺に杖を突きつける。

なんだ……!?
こいつ、ガキの癖に何でこんな顔をして睨んできやがる……!?

「もういいよ!!お兄ちゃんの言い訳なんか、聞かないもん!!」

話は終わりとばかりに杖は再び振られ、赤く輝いた髑髏の先端から炎が迸り俺へと襲いかかる。

くそっ……!!何でこんな事になってんのかわかんねぇけど、今はこの状況をどうにかするしか……!!

跳ねてかわしつつ、俺は走り出す。
魔術を使えようが所詮は小さな子供、体力で俺に敵うわけがねぇ!!
5メートル程度の距離、向かってくる炎を避けつつ一気に詰めて、杖を振るうばかりに気を取られて隙だらけのガキへと手を伸ばす。
狙うは……大事そうに抱えている杖!!
魔術は詳しくねぇけど、これさえ奪えばもう無茶はできねぇだろ……!!

―――ヒュン!!

……風の鳴る音が聞こえて、伸ばした俺の手が虚しく空を切る。
遠くに、綺麗に着地するエリーの姿が見えた。

「っ……!?っとぉ!!」

よろけそうになる身体を、すんでの所で足を前に突き出して支える。

い、今のは……!?

自分で見たものが、一瞬信じられなかった。
後ろに向けて軽い動作で地を蹴った小柄な少女が、人間には到底不可能な跳躍力で後ろにジャンプするなんて、ふざけた光景が。

あれも魔術か……!?くそっ、道理でやたらフィールドが広いと思ったら、このためか!!

驚く暇も与えずに、エリーの炎は容赦なく俺を目指して何発も放たれる。

ただでさえ魔術で飛べる奴なのにこれじゃあ、近づくのは無理か……だったら……!!

走るのは諦めて、迫り来る炎をじっと待つ。

……右、左、それから、右!!

小ぶりな動きで軽く跳んで、炎の玉を回避してゆく。炎自体は何も考えずに一直線に放たれるだけだから、見切ってしまえば避けるのは容易かった。
そして、魔術を無限に放出など、いくら魔物でも出来る奴なんぞいる訳がない。
つーことは……!!

「……うおらぁっ!!」

炎の雨が止み、次の攻撃を放つその直前に、俺は腰に吊した剣を一本思いっきりぶん投げる!!
抜いてなんかねぇから、鞘に入りっぱなしの剣。
ビビって跳ばれねぇ程度に回避しながら少しずつ詰めたこの距離なら、避ける余裕なんかねぇだろ……!!

「……ひっ!!

ガツンッ!!

「なっ……!?」

その剣が、石の壁にでもぶつけたかのように鈍い音を立てて、小さな体に到達することなく地面に転がった。

何だ……!?何が起きた!?
あれじゃまるで、あいつの周囲に壁でも張ってあるみてぇに……!!

「……っ。なるほど、な……」

目を注意深く凝らして見ると、あいつの周りだけがかすかに白い光で覆われているのがわかる。

閉じこめる為の結界だけじゃなく、自分の周りにも結界を張ってやがったのか……こいつ、ただの無鉄砲なガキかと思ったが、随分と用意周到じゃねぇか……

どうする……?近づこうとしても跳んで逃げられるし、そもそもあの結界を破らないと傷一つつけられねぇぞ!?

けれど、俺が解答を導くのを大人しく待ってくれる訳もなく、思考がまとまらない間にも炎は俺を目がけて何発も発射される。
幸いなのは、今のところこいつの攻撃パターンが炎だけであるということだ。
これなら、近づかないようにしてりゃ当たらないのは楽勝……

「ぬぁっ!?」

突然俺の体勢が足から崩れ、地面に頭を打ち付けてしまった。
土は軟らかいから痛みはないが……そんなの、気にしてる場合じゃねぇ!!

「く……おぉぉ!!」

手をバネのようにして強引に身体を起こして、その場から離れる。
炎の玉が、俺の一瞬前に寝転んでいた場所を直撃した。

「……っ、はぁっ……!!」

今、反応がもう少し遅れたらぶち当たってた……いや。
考えてみれば、今のはすっ転んだところからしておかしい。
何かに躓いたみてぇだったけど、石っころ一つない平原で何に躓いたって……

「あのガキ……」

俺が躓いた場所は、やはり何の変哲もない地面。
ただし、その場所だけ不自然な程に綺麗な正方形の形に、俺の靴の高さを越す程度の杭のような盛り上がりができていた。

「……作りやがったな」

そんなものが最初からそこにあったら、遠目でも気付ける自信がある。
これは間違いなく、エリーと名乗るガキの仕業であろう。

あいつ、どんだけ魔術を有効活用しやがってんだ……!!
好き放題使いやがって、このままじゃ……!!

……いや。
それなら……好き放題、使わせてやろうじゃねぇか。

あんだけバンバン魔術打ち放題にしてんだ。
魔物の魔力がどんだけかは知らんが……少なくとも、魔力が切れねぇってことはねぇはず。
だったら、それを待ってやるまでだ。
あいつの攻撃を、避け続けて……こんなのはかなり消極的な方法だし、確実性もない。
それでも、杖を取り上げるのができねぇ以上、これしかねぇ、か……

「遊ぼう、か。……上等だ。思う存分、遊んでやるよ」

俺が潰れるか、てめぇが先に切れるか……勝負といこうじゃねぇか!!
















「…………はぁっ……はぁっ、はぁっ…………」
「…………っ」

何だよ……何なんだよ、これは……
俺の体力はもう、限界が近い。冒険者として普段から身体は鍛えてきたし、それに見合う時間は耐えたつもりだ。
実際、あいつだって辛そうな顔をしてるじゃねぇか……なのに。

どうして、攻撃が終わらない!?

「えいっ!!」
「う……おぉっ!!」

炎の玉を、身体を掠めそうなギリギリのタイミングで避けるのが消耗を防ぐためなのか、それとも大きく動く体力の余裕がないからか、自分でもわからなくなってきた。

これしか無いと思っていた最後の策の失敗を薄々理解してはいても、それを認めて立ち止まる訳にもいかず、ひたすら身体を動かし続ける。

炎って実はそんなに魔力を消費しないとかそんなのあったのか?畜生、魔術の勉強なんかろくにしてねぇからそういうのはさっぱりわかんねぇよ!!あぁくそ、武器振り回す方がかっこいいぜ!!なんてほざいて勉強サボった過去の自分をぶん殴りてぇ!!

疲れた脳がろくに回るわけもなく、意味もない思考ばかりがぐるぐると回る。このままじゃ……ジリ貧だ。


……そもそも、何でこんなことになってんだ?
帰ろうとしてたらガキに声かけられて、でもそいつが実は通り魔の正体で、結界に閉じこめられて、翻弄されて……

「あー……」

やべぇ……格好わりぃな、俺。
相手は、ただのガキだっていうのによ……!!

沸々と、腹の底から何かが込みあげてくるのを感じて、それはそのまま口から飛び出た。

「……舐めんなよ、ガキぃ!!」

後のことなんぞ何も考えずに、俺はもう一度エリーに向かって走り出す。
体力を残すことなんかは、頭になかった。
ムカつくから、一発ぶん殴る。ただ、それだけを考えていた俺は、完全に頭に血が上っていたのだろう。

エリーが何故か炎を飛ばさないことにも、気付けなかったのだから。

「このっ……!!」

気がつけば、結界があることも忘れて、俺は至近距離まで近づいたエリーへと殴りかかっていた。













…………その腕が止まったのは、結界の存在に気付いたからではなく。

「ひっ……や、やぁっ……」

杖を持つ手をガタガタと振るわせて、泣きそうな顔で縮こまるその小さな姿を、見てしまったから。

「っ……あっ……!!」

風の鳴る音がして、慌てたエリーの姿が遙か後ろへと大きく跳んでいく。
千載一遇のチャンスを逃してしまったことになるが、そんなことはもうどうでもよかった。

あいつ……今、怯えてた?
俺を……自分よりでっけぇ奴が拳を向けてくるのを、怖がって……

……俺、何してんだ?
ちいせぇガキ相手に怒鳴って、剣放り投げて、挙げ句の果てにはブチ切れて殴ろうとして……俺の昔憧れた冒険者ってのは、こんな奴だったのか?

……違ぇだろ。

閉じこめてこようが、小細工してこようが、炎飛ばしてこようが。
それ以前に、俺の目の前にいるあいつは……ただの、小さな女の子だろうが!!

「おい!!ちょっと待て、ガキ!!」
「……っ!?」

俺がやるのは杖を取り上げることでも、あいつの魔力を失くすことでも、ましてや剣を投げることでもねぇ!!

「お前はなんでこんなことしやがる!?俺が冒険者ってことが、何の関係があるってんだよ!!」

あいつの周りの結界……俺を拒絶するあの壁を、取っ払ってやることだ!!

「……またそれ!?お兄ちゃん、なんでここまでしてもわからないの!?」

相変わらず、エリーの声には怒りと憎しみのようなものが込められていて、表情も険しい。
けど、それを聞かねぇことには俺だって……何よりお前だって、何も変わんねぇんだよ!!

「あぁわかんねぇよ!!俺は恨まれるようなことした記憶なんざねぇし、冒険者って仕事を恨む理由なんて普通はねぇだろうが!!」
「何言ってるの!?お兄ちゃん、エリーを馬鹿にしてるの!?」

俺は何一つとして間違ったことを言ったつもりはないのにお気に召した様子はなく、それどころか更に怒りを増したようで。

何だ、あいつ……?
何か……根本的な所で噛み合ってねぇような気がするんだが……

「冒険者さんって……エリーみたいなちっちゃい子に無理矢理おちんちん入れちゃう人でしょ!!」
「……はぁぁぁぁっ!?」

俺の予感は、どうやら見事に当たっていたらしい……最悪な形で。

「アホか、何言ってんだてめぇ!?俺等がんなことするわけねぇだろ!!」

叫びながらも、心の中では多少ほっとしているところもあった。

こいつは、『ただの』勘違いをしているだけなんだと。
この騒動も、誤解を解けばすぐに終わってくれるのだと。

……そんなことで、ここまでのことをする訳がないというのに。



「まだしらばっくれるの!?エリー見たもん!!冒険者さんが魔女の子を路地裏に連れていくところ!!」



その衝撃は、俺の息を詰まらせる。
俺を睨む少女の表情が、それが下らない嘘などではないことを如実に語っていて。

「あの子わんわん泣いてたよ!!それなのに、冒険者さんは数人がかりで無理矢理服を脱がせて……!!酷いよ!!あの子が何をしたって言うの!?エリーが懲らしめなかったらあの子、初めてがなくなっちゃってたんだよ!?」

聞いているだけで俺まで痛くなってくるような、悲痛な叫び。
それでも、思い出すのも苦しそうな表情で語る少女を直視することに比べたら、それは遙かにマシなもので。

「ま、待て!!そいつは本当に冒険者だったのかよ!?そいつが自分で名乗ったとでも……」
「言ってたよ!!『冒険者の俺がこんなところで……』って!!自分が悪いから懲らしめられたのに、反省もしないで!!」
「ぐっ……!!」

そんな、クソ野郎のせいでこいつは……俺は……!!

……殴り飛ばしたかった。こいつの馬鹿な勘違いの原因となったその男達も、それに気付かずにこいつを殴ろうとした自分自身も。

「もうわかったでしょ!?だから、エリーはお兄ちゃん達を懲らしめるの!!もう、エリーの前であんなこと……二度とさせないんだから!!」

大きく振るわれた杖が、炎の玉を発射する。

「違う……俺は……俺達は……!!」

……多分、俺が何を言ってもあいつの結界は破れないのだろう。
そりゃそうだ。目の前で、冒険者はこんなもんなんだと見せつけられちまっているのだから。

だったら……俺が、あいつにできることは、何だ?

反射的に躱そうとした足を止めて、炎の玉に向き合う。

これは……あいつの心だ。冒険者を憎む、エリーっつうガキの心そのものなんだ。
それは避けるのが正解か?その言葉を無視して、力で押さえつけるのが正しいのか?

……んなもん、絶対に違ぇ!!

「……来やがれ!!」

向かってくる炎の玉が、狙い通りに俺をめがけてぶち当たった。
それは俺の肌の表面の至る所を焦がし、服もあちこちが燃え尽きてボロボロになる。

「はぁっ……はぁっ……ぜぇっ……」

全身が焼け付く痛みというのは想像を絶していて、指同士が擦れるだけでもヒリヒリを濃縮したような鋭い痛みが襲いかかってくる。

でも……まだ、倒れるわけにはいかねぇよな。

「あ……え……!?な、なんで……」

直撃したことに、当の本人は戸惑っているようだった。
そりゃあ、あんなのは避けようと思えばいくらでも避けることはできたし、あいつ自身も当たると思っていて打ったわけではないのだろう。
けどよ……それじゃあ、何の意味もねぇんだよ!!

「俺は……んなこたぁ、しねぇ。だから……こんなこと、もうやめろ……!!」
「ひっ……!!こ、来ないで……!!」

ふらつく足で一歩ずつ近づくと、半分泣きながらエリーは炎を放ってくる。
魔術使って距離を取るとか、考えつかねぇみたいだな……ちょうど、いい。

一発目。
上着が完全に燃え尽きた。

二発目。
右腕が、肩の辺りから黒く染まった。

三発目。
痛ぇ。熱ぃ。とにかく痛ぇし、熱い。

立つのって、こんなに辛かったか……?
身体がヒリヒリする。頭がぼんやりしてきやがる。
それでも、足だけはどうにか前へと動かす。
ここで寝っ転がった方が、楽になれるのはわかってる。

それでも、まだ……止まって、たまるか……!!

「なんで……なんで!?お兄ちゃん、なんで避けないの!?こんなに、こんなに……!!」

……おいおい、てめぇがやったんだろうがよ。
なのに、てめぇの方が辛そうにしてるってのはどういうことだ?
手なんかもう、杖を持ってるのが奇跡なぐらいガタガタしてるじゃねぇか。

「なんで、だと……?」

まぁ、いい。
せっかくだ、質問に答えてやろうじゃねぇか。

「炎飛ばす、ガキがいたら……受け止めてやんのが、冒険者なんだよ……!!」

ようやく、特徴的な赤い帽子を見下ろせる所まで辿り着いた。
力の入らない腕を、少しずつ伸ばしていく。

「だから……ビクビク、すんな。少なくとも、俺は……ルベルクス、リークは……んなこと、しねぇ……!!」

あー……やべぇ、そろそろ限界かもしんねぇ……
足に力、入んねぇ……
もうちょい、保てよ……

「そんな結界(もん)……最初から、いらねぇんだよ……!!」

せめて……あいつの答えを……!!



「ほんとう……なの……?」

掠れて、涙の混じった、小さな呟き。
それでも、俺を見上げる目には怒りも憎しみも、もう込められてはいなくて。

「お兄ちゃんは……エリーをいじめないの……?」

全身を焦がす火傷よりも、余程熱い気持ちを感じる。
だからこそ、俺はそいつにとびっきりの笑顔を返してやった。





「……当たり前だろうが、ばーか!!」





フッ―――

小さな音がして、エリーの周りの結界が消え失せた。
くしゃり、と赤い帽子を殆ど無意識に撫でてやる。



……そこが、俺の覚えている限界。

「……お兄ちゃん!?お兄ちゃん!!」

最後に聞いたのは、必死に兄を呼び続ける幼い声音だった。







それから、次に俺が目覚めたのは病院のベッドの上。
エリーと会った日から、まる三日はベッドの上で寝ていたらしい。
看護師が言うには、俺の傷は他の被害者よりも浅かったのだそうだ。そもそも、他の被害者にしたって重傷には違いなくとも命に別状はないらしいし……
あいつ……本当は最初から手加減してたんじゃねぇかって、そう思う。


そうそう、その犯人であるエリーの話なんだが、どうやら俺をここまで運んでくれたのはあいつらしい。
何でも、あの山道を偶々通りかかった旅のケンタウロスが「お兄ちゃんを助けて!!」って必死になっているあいつを発見したんだとか。
俺を預けてから、どっか行っちまったみてぇだけど……ナースの姉ちゃんが言うには、俺以外の被害者達の部屋を赤い服の女の子が訪れたんだと。
多分、勘違いで傷つけちまったことを反省してくれたんじゃねぇかと思う。
まぁ、そいつらの方はまだ目が覚めてないらしいから本格的な謝罪はもう少し先になるんだろうが……それは、あいつの役目だ。

それから、今のところ唯一意識のある通り魔事件の被害者ということで、医者やら自警団やらには襲われた当時の話を聞かされた。
けど、俺はそれを『後ろから訳がわからない内に襲われた』ということにして、適当にはぐらかしておいた。
本当は、捕まえるのが一番いいんだろうが……あいつの泣きそうな顔を思い出すと、な。
まぁ、後でギルドにぐらいは正直に伝えておくか……

あいつも……もう、変な勘違いしねぇといいんだがな。
俺を兄と呼んだ少女の顔を思い出しつつも、俺はそれから退院までの間を白いベッドの上でのんびりと過ごすのだった。


……ちなみに、退院までにナースの姉ちゃんを何人か話のついでにデートに誘ったが、綺麗に不発だった。
うーむ、「君の心はその服のように純白だな」という口説き文句のどこがまずかったんだ。






新魔物領スフィルラグの街、グランデム。
見慣れた住宅街の風景の中で、歩き慣れた石畳の上を歩く。

遠目に、屋根の青い2階建ての家が目に入る。
見間違えるわけがない、俺の家だ。

あぁ……家に安らぎを感じられるっつーのは、幸せだな……

柔らかいベッドの感触を思い出しながら、手慣れた動作で鍵を開ける。
そして、俺は玄関の扉を開けた――――――




「お帰りなさいお兄ちゃん!!」




……こうして俺達は、二度目の出会いを果たしたと言うわけだ。

13/05/11 16:30更新 / たんがん
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■作者メッセージ

こちらの更新はお久しぶりです、たんがんです。
勢いで連載を始めたはいいものの、安定したペースというのは難しいですね……(白目

体を張ってエリーを止めたルベルでしたが、彼の受難はまだまだ終わりません。
むしろ、ここからが本番のようなものですので、どうか見守っていてください。

冒頭の語り部が誰なのかは……言うまでもなくわかってしまうのでしょうww
では、『彼女』の雰囲気が何故大幅に異なるのか?
それについてはお話が進むにつれ判明することになるでしょう。

次回、エリーと一緒に初仕事!!の予定でございます。

それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。

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