連載小説
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第一章 遭遇と捕囚
「この奥に誠実の宝玉があるんだね?」
 とある洞窟の入り口にて、革鎧に身を包み、マントに身を包んでいる青年が訊ねるようにして言う。青年と言っても、少年からようやく上がりたてと言った年頃だ。
「ああ、そうらしい」
 答えたのは隣にいた、スケイルアーマーで身を固めている女性が答えた。青年より背がやや高く、歳も彼よりは上に見え、面影は少し青年に似ている。
「よーし、じゃあちゃちゃっと踏破して宿でゆっくり寝よう!」
「もう、メープルちゃんとしてください」
 明るい調子で持っている杖を掲げる三角帽子をかぶりローブに身を包んだ少女と、それを諌める法衣をはおり神官帽をかぶった少女……格好こそ違うが、そして髪色も少し異なっていたが少女の顔は瓜二つであった。青年より年下に見える。
 彼らはイルトスト王国から出発した、勇者の一行である。勇者 セイン、女戦士 サフィ、魔女 メープル、女神官 アンバー……そろそろ冒険に慣れ始めたころだ。この四人は今、誠実の洞窟と呼ばれる洞窟に来ていた。目的は、とある賢者に依頼された、洞窟の奥に安置されていると言われている宝玉"誠実の宝玉"。

 洞窟の探索は拍子抜けるくらいに障壁がなかった。時々、子供騙しなトラップがあったが、メープルが気づいて処理をした。1時間も歩いたらあっという間に最深部に到達した。
「これが"誠実の宝玉"かな?」
 最深部の部屋に安置されていたのは、大きな紫水晶であった。
「きれいですね」
「これを持って帰ったら賢者が次の道を示してくれるんだな?」
 紫水晶の宝玉の輝きにアンバーもサフィもここが敵地であることを忘れて見惚れる。だが……
「どうかな……」
 水晶を前にして明るい調子だった一行の中で唯一難しい顔をしていたのはメープルであった。
「この水晶、そんな大層な名前がつけられるほど魔力を感じないんだけど……」
「それもそーだよね!」
 メープルの言葉を肯定する声が背後からした。だがその声はセインでもサフィでもアンバーでもなかった。
 一行が驚いて振り向くと、洞窟の天井からべチャリと何かが堕ちてきた。安置されていた紫水晶よりもさらに濃く深い色の粘体だ。その形は女の人を模している。にへらと笑っている顔は幼い印象を受けるが、女性と判断した材料である胸はとても立派だ。その胸元には子どもが落書きしたかのような顔の球体が埋まっている。ダークスライムだ!
「だってそれ、偽物だもん」
「本物は盗られたら大変だから、2ヶ月前に引越ししておいたわ」
 さらにもう一体、湧き水のように地面から現れた。胸の大きさは先の個体にまさるともおとらないが、背丈は高く、喋り方からも大人な雰囲気が漂っている。
 プラムとフランと名乗った二体のダークスライムはじわじわと、セインたち一行ににじり寄る。そのダークスライムからセインを守るように、サフィとメープルとアンバーが彼を囲った。
「お、おい……僕が前衛なんだから僕が前に出ないと」
「黙って、お兄ちゃん。こいつら、お兄ちゃんが狙いだよ」
 押し殺した声でメープルが言う。実の兄妹ではないが、セインがいくつか年上ということもあって彼女は彼を「お兄ちゃん」と呼び、よく甘える。しかし今はその甘えもなくかなり緊迫した声だ。
「魔物娘は……その……エッチすぎて、男の人を襲います……」
 その内容に羞恥を覚えりんごのように真っ赤になりながら、メープルが解説する。
 彼女の解説の通りだ。魔王が代替わりしてサキュバス系の魔物が魔族を束ねる王となったとき、魔物たちは変わった。人を殺し喰らう魔物から、人を愛し性的な意味で喰らう魔物娘に。
 魔物娘は番となる男を求めて襲いかかってくる。だから……
「私達が戦ったほうが良い。セインは支援を頼む……!」
 ジャベリンを構えながらサフィは揺るぎない声で言う。女であれば興味がないであろうから、セインが助かる可能性が上がる。だから、サフィはもちろん、本来であれば後ろに周り支援をするメープルやアンバーが前に出て盾になる作戦であった。
「いや、それはダメだろ!? 僕は勇者だし……みんなを守らないと……!」
「だーいじょうぶだいじょうぶ。いつもお兄ちゃんはメープルたちを守ってくれてるんだから、今回はドーンと後ろで構えてなさい!」
 セインの反論にメープルはちょっと振り向いてニヤリと不敵に笑ってみせる。あとサフィも、と彼女は普段から自分を前衛として守ってくれる女戦士の存在も付け加えた。
 会話をしている間にもダークスライムたちはにじりよってきていた。さらにいい手を考えている猶予もないし、三人のセインを守ろうとする覚悟は本物だ。セインも覚悟を決めた。
「えーい♪」
 ダークスライムのプラムが粘体の触手を伸ばしてくる。サフィが槍で薙ぎ、その触手を打ち払った。
「うわ、あぶなっ!?」
 鋭い反撃にプラムは慌てて触手を引っ込める。粘体でできているとはいえ、当たれば痛いものは痛いのだ。
 サフィが槍を引き戻すより先に、フランが触手を伸ばしてその身体の自由を奪おうとする。
「させないよ! 火炎弾!」
 メープルの杖の先から魔力の炎がほとばしった。ジュっと音を立ててフランの一部が灼かれる。
「あちちちち!?」
「ナイスだ、メープル!」
「へへ〜ん♪」
 サフィに褒められメープルは得意げに鼻の下をこすった。
「神様……みんなを守る力をお貸しください……うん、これで攻撃しやすくなったはずです!」
 アンバーはそう呟き、胸元で組んでいた手を解き、目を開いた。彼女の祈りに応えたかのように、サフィの持つ槍が淡く光り輝いた。
「くっ……」
 今のところ何もできることがないセイン。せいぜいブーメランなどの投擲武器を投げるくらいだが、彼の本業でないこともあり彼女らと比べると見劣りしてしまう。悔しさに歯噛みをした。
「セイン……いつも言っているが」
「お兄ちゃんが力になりたいって思うなら……」
 セインの心を読んだかのように、彼の隣にいたサフィとメープルが小さく囁いた。
「何ができるかじゃなくて、何をしたいのかを考えよう?」
「僕が……したいこと……」
 メープルの言葉にセインはつぶやく。
『僕は……みんなを守りたい……みんなを守りたいんだ! でも……そのために……何をするんだ?』
「大丈夫、セインは普段から守ってくれていますよ。今回は私達の番と言うだけです」
 思考の森をぐるぐると回っているセインにアンバーが囁いた。
 彼が悩んでいる間に戦局はセイン有利に傾く。いくら身体能力に優れる魔物娘とて、知恵と連携をもって挑む人間には、無策では勝てない。
「うわーッ! もうムリーっ!」
「あ、ちょっとプラム!」
 叫び声を上げてプラムは背を向けて撤退する。フランが声をかけるが振り向かない。
「これで4対1……まだやるつもりか?」
 補助魔法を受けて光るジャベリンを向けながらサフィは尋ねる。対してフランは不敵に笑ってみせるた。
「ふふ、むしろ私が彼を独り占めできるからちょうどいいわ」
 再びダークスライムは触手を伸ばす。サフィが槍で横薙ぎに払うが、触手を引っ込めスウェーバックしてフランはそれを躱す。その躱したタイミングを狙ってメープルが火炎弾を放つが、それもスライムならではの柔らかさでフランは躱した。さらにそこにセインがサブ武器であるブーメランを投げつけるが、それもかろうじてダークスライムは躱した。
「あら、勇者サマに直接攻撃されちゃうなんて、嫌われたものね。さすがに私も傷ついちゃうわ」
 フランはしょげたような声を出してみせる。まだまだ余裕がありそうだ。とはいえ、防戦一方である。セインたちの攻撃を全て躱しているフランであるが、先程の一回を除けば手を出せずにいた。
「いつまで続けるつもりですか? 私達の体力が尽きるまでですか?」
 そのための補助魔法もまだあるぞと言わんばかりに杖を構えながら、アンバーが尋ねる。フランは笑みを崩さない。
「んー、心配しなくてもそろそろ終わるんじゃないかな?」
 そうフランが言った次の瞬間だった。
「うわっ!? わっ!?」
 悲鳴を上げた者がいた。セインだ。他の三人が驚いて振り返ると、自分たちが守っていた勇者は、上半身を紫色の粘体で絡め取られていた。
「へへーん♪ つーかまーえた♪」
 楽しそうに叫んだのは、先ほど逃げ出したプラムであった。いや、逃げ出したのではない。逃げ出したと見せかけて洞窟の天井に回っていたのだ。そしてセインたちがフランに気を取られているスキにまんまと奇襲に成功したというわけだ。
「セイン!」
 慌てて三人は引き剥がそうとするがそれも間違いであった。全員の意識がセインと絡みつくプラムに向かっている間、フランはぬるぬると彼女らの足元を滑るようにして駆け抜け、そして下からセインに絡みついた。セインは全身、ダークスライムによって封じられてしまった。
「くそっ……!」
「このっ! 離れろ魔物め!」
 セインはもがくがべっとりと張り付いているダークスライム相手には意味がない。サフィが叫んで槍を構えようとしたが、その槍で攻撃するとセインまで貫いてしまう。本末転倒だ。メープルの火炎弾もセインごと焼いてしまう。
 アンバーも打つ手なし……かに見えた。
「……レスクチェンジ!」
 アンバーが呪文を唱え、杖を掲げた。その杖から光がほとばしり、アンバーの身体を包んで彼女自身が光を放つ。同時に、セインの身体も光りはじめた。
 そしてその光がひときわ強くなった次の瞬間、アンバーがいたところにはセインが立っていた。アンバーは、ダークスライムに包まれていた。
 術者と対象の位置を移し替える、特殊魔法、レスクチェンジ。囲まれた対象者を救出するが術者を危険にさらす自己犠牲の魔法である。これをアンバーは使った。
「アンバー、何を考えている!?」
「そうだよお姉ちゃん! 何しているのよ!?」
「行ってください! 早く! 私は大丈夫ですから!」
 救出された当人のセインと双子の妹のメープルが叫ぶが、それを上回る声でダークスライムと格闘しながらアンバーが叫んだ。その気迫にセインとメープルは怯む。
 一方、黙っていたサフィはうなずいた。
「行くぞ……セイン、メープル!」
「ちょっ、サフィ姉ちゃんまで!?」
「アンバーの覚悟は本物だ。なら私達もその覚悟に答えて撤退するべきだ! 違うか!?」
「ぐっ……でも」
 犠牲をもって助けられたがゆえにセインの声には苦渋が滲んでいる。
「早く! いつまで持つか分からないですから!」
 再び声を上げるアンバー。もともと前衛でないがゆえに、もがき抑え続けられるのも時間の問題だろう。
 三人は後ろ髪をひかれる思いで、もと来た道を疾走していった……
22/03/19 22:03更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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■作者メッセージ
さあ始まりました、新連載SS。こちらはお題箱 https://odaibako.net/detail/request/ded3ef68-1874-4603-bfb4-ad32b3ebbba4 よりいただいたリクエストです。「ダークスライム達に追い詰められていき、女キャラが魔物化させられ、その魔物化した女キャラが別の女キャラを魔物化という感じで女キャラ達が連鎖的に魔物化していき、最終的にはその魔物化したキャラ達と主人公とのハーレムが形成される…」
おー、ボリュームたっぷりですが、良いお題ですね。今回はお題箱でやらさせていただきます。

そんなわけで、次回からエロシーンですが、その前に「何か」が明かされます。早めにエロシーンの章を投稿しますね。

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