読切小説
[TOP]
君の(ぴー)は。
「えーっと…」
「……状況を確認すると?」
 とある日曜の昼下がり、一羽のガンダルヴァと一人の青年が同じ部屋で床に座り込んで首を捻っていた。
「今日の朝起きたら僕がこうなっていて……」
 ガンダルヴァが口を開く。続いて青年が口を開いた。
「私がこうなっていた……」
 一人称は、一般的に考えればらしからぬ物がそれぞれの口から出た。そして二人は揃ってため息をつく。
「もうびっくりだよ……僕が香織になっていて……」
「私が義弘になっているだなんて……」
 ここにいるのはガンダルヴァの羽山香織と人間の男性である臼井義弘。同じ学校に通う高校生であり、恋人同士だ。だが今、二人の口から語られたとおり、二人は入れ替わっていた。起きたら臼井義弘は羽山香織の姿になっており彼女の部屋で目を覚ました。一方の羽山香織も起きたら臼井義弘の姿になっており彼の部屋で目を覚ました。
 そう、二人は入れ替わってしまったのだ。
 青天の霹靂な事態に二人はパニックに陥りかけたが、幸い二人は知らぬ仲ではないどころか親密で身体も何度も重ねた恋人同士。連絡を取り合い、とりあえず香織の家で落ち合ったのだ。ちなみに集まるのが香織の家になったのは、義弘がガンダルヴァの身体に慣れていないと考えたからだ。慣れていない状態で空を飛んだら怪我では済まない。仕方なく香織は義弘の身体を使って二足歩行をして自分の家に戻った。幸い、誰かに会って義弘のフリをすることにはならなかった。
「親をごまかすのが大変だったけどね……」
「私もよ……義弘が普段、親とどう会話するか知らないし」
 香織が自分の親の前で義弘の真似をする分には問題なかった。その様子は何度も見ていた。こうして入れ替わった二人はなんとか合流を果たした。さて、問題はここからだ。
「どうやったら戻るんだろうね?」
「うーん……そもそもどうして入れ替わったか……それが分かったら戻る方法もあるのかもしれないけど……」
 二人は再び首を捻る。昨日何をしていたかを話し合ってみても、それらしい物は思い当たらない。いつも通り学校の宿題をして、いつも通り電話して、いつも通り寝た。そして朝になった時にコレだ。
「じゃあもう一回寝たら元に戻るかな?」
「……でも今、眠くないよね……」
 一つ思いついたこの案も今は実行に移せそうにない。他に案はないか……二人はしばらく考え続けていたが、やがてそれを放棄した。最初に音を上げたのは義弘のほうであった。考えても仕方がないと思ったのもあるが……もう一つ、考えを妨げられる事態が生じていた。
「あ、あのさ香織……と、トイレを借りてもいいか?」
「いまさら何言ってるの、と言うかここは私の家だし今義弘は私の身体になってるんだし、気にしなくていいで……」
 言葉は最後まで続かなかった。そう言えば自分の彼は女性の身体がどうやって用を足しているのか分かっているのだろうか。事によっては一緒にトイレに入って手伝わなければならないだろうか。
 どうするべきかと考えながら、彼氏の姿を借りている香織は元の自分の身体を見た。義弘は股間を羽で押さえているが……目は力が入っておらず、口は半開きだ。用足しを我慢する顔ではない。少なくとも自分はそうならない。
 ガンダルヴァの表情、ガンダルヴァの特性、トイレを求めている義弘……この三つが香織の中で素早く繋がり、一つの仮説を導き出す。
「えー……替え下着、いるかな?」
 ぎくりとした表情を、香織の顔は浮かべた。香織は自分の中で出した仮説を確信した。ガンダルヴァは香りを糧にする種族。当然、番の男の匂いを嗅いだら発情する。そう、目の前にいるガンダルヴァのように。そして股間を濡らしてしまっている……。
「……ごめん」
「いいよ別に。私もたまにやっちゃうから。それよりさ……」
 気づけば義弘の身体にも反応が出ていた。股間が隆起し、デニムパンツがテントを作っている。自覚するとさらに硬度は増し、痛いくらいになった。こうなったらやることは一つだ。
「せっかくだから……エッチ、する?」
「い、いやいやいや! 待て待て! なんでこんな時に!? ってか何だよ、せっかくだからって!?」
「えー? 二人ともエッチな気分になっているしここでおあずけはないと思うんだけど?」
 せっかく、互いの身体の感じ方も分かる貴重な体験ができそうなのに、と言いながら香織は立ち上がり、義弘に、自分の本来の身体に近づく。義弘も立ち上がり迫る自分の身体から逃げようとするが、発情しているガンダルヴァの身体には力が入らない。それどころか勃起することでより強くなった精の匂いで身体が官能の炎で燃え上がる。上がっていく熱を排出しようとするかのようにダラダラと肉壷は蜜を垂れ流した。溢れ出た粘液はショーツで受け止められて冷たくなる。その感覚が慣れていない義弘には気持ちが悪くて仕方がない。だがそれ以上に、掻きたくても掻けないような、この身の置き所のない身体の感覚がもどかしく不快だ。
「大丈夫大丈夫。私の身体のことはちゃーんと私が分かっているから。今義弘がどうなっちゃっているのかも。どうしたら良いかも」
「だ、だからって……」
 自分を気持ちよくしてくる相手の見た目は男の自分自身だ。あの決して良い見栄えとは言えない肉棒を咥えたり身体に受け入れるのは、心は男であるならば、どうしても抵抗がある、と義弘は訴える。自分が相手にその肉棒を突っ込んでおきながら何だが。
「仕方がないなぁ……」
 香織はつぶやき、自分のタンスを開けた。すぐに目的の物は見つけ出した。ニット生地のヘアバンドだ。それを元の自分に被せる。だが止める位置は頭ではなく、顔だ。完全ではないが、義弘の視界が奪われる。これによって得られるメリットは二つ。一つは先程の精神的な抵抗が薄れること。そしてもう一つは……
 かちゃかちゃと、香織はベルトを外し、デニムパンツごとトランクスを脱ぎ捨てる。ぶるんと勢い良くはち切れんばかりに勃起したペニスが現れた。普通の人間の嗅覚ならあまり分からないだろう。だが魔物娘の身体は敏感にその変化を感じ取る。まして、視界を奪われて他の感覚が敏感になっている、今の義弘なら。
「あ……」
 ガンダルヴァの口から熱っぽい吐息が漏れた。所在なげに太ももをこすり合わせ、もじもじとしている。効果はてきめんだと、義弘の顔をした香織はにんまりと笑った。
 そっと義弘の手を取り、香織は自分のベッドに押し倒す。視界を奪われている義弘はそれにおとなしく従った。義弘が無抵抗なのをいいことに、香織は服を脱がせていく。Tシャツを脱がせると、すぐにぷるんと豊かな乳房が現れた。ブラはつけ慣れてなかったから諦めたのだろう。続いて香織は、自分の元の身体が穿いているショートパンツを下のショーツごと脱がせた。義弘が嫌がって羽でそれを妨げ、股間を隠そうとするが、気にすることなく素早く抜き去る。ショーツのクロッチと女性器は糸でつながっていた。
 自分は普段、こんなイヤラシイ姿を彼に見せていたのか……そう思うと、香織は義弘の身体の頬を紅潮させた。その見た目に、そして秘密の花園から漂う魅惑の芳香にペニスがひくりと動いた。
 すぐにでも挿れてみたかったが……さすがにそれは義弘が可愛そうだと思った。ちゃんと一回くらいイカせて、身体がほぐれるまではおあずけだ。
 そっと、ぷるぷるした胸を下から持ち上げてみる。自分でも何度か触ってみたが、その手応えはずっしりと重く、それでいて柔らかい。力を込めるとむにゅりと指は沈み込むが弾力を持って押し返してくる。持ち上げたり放したりしてみると、たぷたぷと波紋を形成して揺れた。その様子を他人の目から見るというのもなかなか新鮮だ。
「あ、あっ……香織、何をして……」
 視界を封じられている義弘が声を上げた。おっと、自分のものだった胸に夢中になって、気持ちよくしてやるのを忘れていた。
 さわさわと軽く、香織は自分の胸の先端を指先で擦った。あくまで軽く。強く抓まれるのも嫌いではないが、優しい方が好きだ。自分の羽先で愛撫するのと同じように。果たして。
「ひあっ! あっ! くすぐった……ふあああ!」
 情けないくらいの嬌声がガンダルヴァの身体を借りている義弘の口から上がった。身体を震わせ、さらにその上に乗っている胸をぷるぷると揺らす。
 先端に香織は気を惹かれた。胸を愛撫するのは自分自身でもやっていたが……これはできない。さすがにそこまで胸は大きくない。試すなら今だ。
 香織は自分の身体の胸を口に含んだ。軽く歯を立て、舌で転がす。
「ひゃっ! うあ、かお、り……ひあぁあん!」
 まるで香織に授乳させるかのように、義弘の翼の腕が香織の頭に回った。引き剥がそうとしているのかむしろ逆に押し付けようとしているのか分からない。そんな彼の反応にくすくすと笑いながら香織は口での乳首の感触を楽しむ。
『へぇ、本当にグミみたいなんだね』
 元の自分の身体の乳首は興奮のため尖っている。微かにイヤラシイ匂いすらした。ガンダルヴァだからか、女性がそもそもそうなのか。赤ん坊の時に母親にしたこと意外は、香織は他の女性の胸をしゃぶったりしたことがないから分からない。だからこそ夢中になった。それでも、義弘の反応は注意深く見ている。
 香織を抱えながら身を捩っている義弘。特に腰が動いていた。きっと、胸からの快感が全身に回って、びりびりと子宮を疼かせているのだ。自分の身体だから分かる。そしてその状態で指を入れると、気持ちいい。
 少し早いような気もするが、十分に濡れているから大丈夫だろう。香織は片手を空けた。そして下腹部へと伸ばしていく。目が見えない義弘は香織が何をしようとしているかは感づかない。だが、すぐに知ることになる。
「あ、あ、あああっ!? 何が入ってるの……!? まさか……!?」
「うぅん、まだおちんちんは入ってないよ。私の指〜♪」
 証拠とばかりに、香織は指を曲げ伸ばししたりぐるぐると動かして膣内をかき回す。ペニスではできない動きだ。義弘が身体を仰け反らせて嬌声をあげる。
「おちんちんはもっと気持ちいいんだから♪ でも、とりあえず指でイカせてあげる」
「や、やめ……ふああっ!」
 抗議の声をあげようとした義弘だがすぐに中断させられる。痒い所を掻かれるような感覚……なんと気持ちいいことか。満たされる快感によって、淫らな吐息が口から漏れる。
『うわ……私のココ……すごくイヤラシイことになってる……』
 普段は見ることのない自分の性器を見て、一方の香織はごくりと喉を鳴らした。その下の口はだらしなく涎を垂らして行儀の悪い音を立てている。自分が彼に愛撫されている時はこんなふうになっているのか、と香織は食い入るように、もともとの自分の身体を見つめた。その身体に限界が迫ろうとしている。
「や、いや……! かお、り……やめ……あっ! こわい……!」
 高ぶってきた自分のでありながら自分のではない声に香織はハッとした。イキそうになっているのだ。慣れない快感の恐怖からか、義弘は羽を伸ばして香織の手をどけようとする。それを香織は押さえ込んだ。
「それはイキそうになっているんだよ。大丈夫。すぐとっても気持ちよくなるから……力を抜いて……」
 これから義弘が味わうであろうオーガズムの甘美な快感を脳内で反芻しながら、香織は舌なめずりをした。自分の身体がイク瞬間を……普段であれば見ることのできないそのイヤラシイ瞬間を見逃すまいと、じっと義弘を見ながら。
 その時はすぐに来た。
「うあ、うあああああああっ!!」
 部屋中にガンダルヴァの声が響き渡る。彼女の身体がアクメを迎えた。慣れない女の身体のオーガズムに義弘は声を押さえることができなかった。びくびくと身体を震わせ、悲鳴のように声を上げる。
「うわぁ……」
 その様子を香織は恍惚とした様子で見続けた。苦しげでいながらせつなそうに寄せられた眉、必死で息を吸おうにも声が出てしまう口、攀じれる身体……全てが淫らだ。自分は義弘にイカされるたびにこんな姿を見せていたのかと思うと、羞恥心と同時に魔物娘としての矜持が沸き起こる。そして、その姿を見て官能を掻き立てられた身体は、素直に反応を見せていた。
 身体を弛緩させ、荒い息をついている義弘。さてどうしてやろうかと香織は股間をいきり立たせて考える。その時、荒い呼吸に併せて上下し、揺れる胸が目に入った。なるほど、もしかしたら貴重な経験ができるかもしれない。
 一度ベッドから離れ、香織は机の引き出しを開けた。中から取り出すのはローション。それも香りにこだわるガンダルヴァならではの香り付けがされた、香織が最近自分で配合した一品である。ここは使い所だろう。
 ベッドに戻った香織はローションの蓋を開け、たらりと胸の谷間に零した。ひゃっ、と義弘が声を上げる。
「ああ、ごめんごめん。冷たかった?」
 そう謝るがローションを垂らす手は止めない。あっという間にガンダルヴァの豊かな胸は粘液にまみれる。その身体を香織はまたいだ。ちょうど、固く張りつめた肉棒が胸の谷間に来るように。そしてそっと、自分の物だった胸を寄せた。あまり温かくはないが、その柔らかさは膣肉や腹とはまた異なる絶妙な柔らかさがあった。さっきの指でも感じた、程よく弾力を持って押し返してくる柔らかさ。
「香織、何を……?」
 視界を奪われている義弘が不安げな声を上げる。逸物が柔らかな胸に包まれる感触に夢中になっていた香織はハッと現実に戻った。
「ごめんごめん。ちょっとおっぱいに夢中になってた。でもさ……何をって、義弘も分かってんでしょ? ほら、自分でも手を添えてよ」
 楽しそうに言いながら香織は義弘の翼の手をとり、胸に添えさせた。一度離れた双丘が再び寄り、熱り立った肉をふんわりと包み込む。程よい圧迫感に調節して香織は義弘にその強さを保つように言った。そして腰を動かし始める。自分が義弘にまたがって腰を動かすのと同じであったため、その動きは最初から滑らかであった。
 にちゃにちゃと下品な水音がガンダルヴァの胸から沸き立つ。摩擦によって冷たかったローションも徐々に温くなっていった。
「こするだけでも気持ちいいなぁ♪」
 腰の動きを止めぬまま香織は歌うように言う。圧迫されしごきぬかれるだけでも快感を得て射精に至る男の身体。加えて今、自分の身体がそれを胸でいやらしくしていると言うビジョンが香織を興奮させた。
 一方の義弘の方も涼しい顔はしていられない。一度達した魔物娘の身体は敏感になっており、胸をこすられるだけでも感じてしまうのに、さらに高揚させる要素がある。一つはローションの香り……やはりガンダルヴァが自分で配合したアロマは官能の雰囲気を漂わせ、男も女もソノ気にさせる。もう一つは……胸に挟まれているペニスからの精の香り……香織は気付いていないが、しごかれることによって快感が蓄積してきたその肉砲は先走り汁を漏らしつつあった。その匂いが魔物娘の身体をより燃え上がらせる。
 気付いたら義弘は頼まれてもいないのに胸を動かし始めた。圧迫したり緩めたり、胸を上下させてしごいたり。
「義弘、ノリノリだね♪ 自分からおっぱい動かしているよ♪」
「だって……だって……」
 心は義弘のままだが身体は魔物娘の香織のものだ。本能に突き動かされ男を喜ばせる動きは止まらない。
 そして香織とて心は彼女の物だが身体は彼のものだ。魔物娘の身体によって、快感の先へと導かれる。
「あっ……!」
 ぞわりと腰の奥から疼きが沸き起こる。それを何か理解する間もなく、止まらない。
「う、あっ!」
 短い声を上げて香織は腰を突き出した。胸の谷間からひょこりと先端が覗く。そこから白濁の液がどぷりと溢れ出た。妨げるものなく勢い良く放たれた精液は、褐色肌の魔物娘の顔を白く染めた。
「はぁ、はぁ……おお、すごく出た……♪」
 白濁液にまみれた自分の顔を見て、香織は一仕事終えたかのように満足げに微笑んだ。精液を身体にかけられた時の姿は鏡で見たこともあったが、こうして見てみるとなかなかにいやらしい。
 その淫らな姿に、借りている義弘の身体が反応する。目の前のいやらしいガンダルヴァに種付けをしたいと主張する。
「ああ、ふああ……かおりぃ……」
 一方の義弘の方はすっかりとろけきっていた。魔物娘を恍惚とさせる、匂いにこだわるガンダルヴァが口を揃えて至高の芳香と言う、精液の匂い……それを鼻がある顔にかけられたのだ。無事でいられるはずがない。
 はしたなく足を軽く広げ、その中央からは精液に劣らない白濁の愛液を滴らせていた。ガンダルヴァの身体も、種付けを望んでいる。
「…………」
 無言で香織は、ガンダルヴァの脚を広げて借りている義弘の身体を割り入れた。ああ、と義弘は声を上げたが何も言わない。
 香織はペニスに手を添え、ガンダルヴァの秘裂にその先端を宛てがった。膣口は意外と肛門に近いところにある。自分の身体だからよく分かっているのに、いざ男の身体でその入口を探し当てるのには意外と苦労した。固く張り詰めているペニスも意外としなるのも難点だった。それでもなんとか、そこを探り当てる。
 迷いはない。香織はそのまま腰を沈めた。借りている恋人の身体を使って、自分の身体を犯す。
「あ、あ、ああああっ!」
「ん、これは……!」
 二人の声が絡まり合った。何度も交わった二人の身体。だが今はその身体を交換している。異性の身体による快感はまた別物であった。
 義弘は、自分の大事なところに入ってきた、元は自分のモノである剛直に悶えた。内に入った圧倒的な存在感は自分の敏感なところをこすり圧迫して全身に快感を送り込む。声が出るのを抑えられない。
 一方の香織もまたペニスに絡みついてくる、元は自分の身体の柔肉に驚いていた。たっぷりと濡れているそれは凹凸が多く、少し動かしただけでそれが肉棒をこすり立ててくる。そして何より温かい。義弘のペニスを受け入れたときも熱いと思ったが、自分の膣肉もこんなに熱を持っているのかと気付かされる。
 気付いたら香織は抽送を始めていた。やはり動きは前後に動く騎乗位と一緒であったため、戸惑いはない。
「ああ、すごい……! 私のおまんこ……こんなに気持ちいいんだ……!」
「う、あ……!」
 感動している香織は口走るが、義弘は何も言えない。一突きされるごとに衝撃が性器から脊髄を通って脳へと伝わる。その衝撃は重たく、だが心地よく、義弘に口を聞かせることを許さなかった。
 普段は繋がったままキスをしたり手で愛撫をしたり体位を変えたりしてセックスを楽しむ二人であったが、この時ばかりは互いの性器の快感に夢中になっていた。快感はどんどん蓄積していく。風船を膨らませていくかのように。そしてそれは破裂やがて破裂しそうになる。
「か、かおり……! も、もう……!」
 先程味わった絶頂の予感……ジェットコースターが頂上を目指して上りもうすぐに下りそうな恐怖すら伴う感覚……それが義弘の身体に再び起こっていた。思わず義弘は翼を広げて自分の身体に抱きつく。
 自分もよくこんな感じになるなとニヤニヤするが、涼しげな顔とは言えない。自分にも、ぞわぞわとした疼きが、陰嚢や会陰のあたりに沸き起こっていた。
「いいよ、イッて……私も出そう……いいよね、いいよね!? もともと私の身体なんだし!」
 自分と相手を追い込むべく、香織は抽送の速度を上げた。ベッドが悲鳴を上げるが気にしない。いや、気にすることなどできない。
「イク、イク……んぁああああああ!」
 先に我慢できなくなったのは義弘の方だった。階下に家族がいたら聞こえたかもしれないくらいの絶叫を上げる。自分のペニスを受け入れるのは抵抗があると言っておきながら、身体は魔物娘。痙攣しながらもより結合が深くなるように自分からぐいぐいと下腹部を押し付けて、精液を受け止めようとする。その腰は相手もイカせようとうねっていた。
 セックスでイクとき、自分はこんなにいやらしい仕草をしているのか……そう思いながら、香織は自分の身体の中に思いっきり射精をした。
 自分が義弘の精液を受け止めるとき、この上ない充実感がある。今、こうしてとろけている義弘もイキながらその快感を味わっていることだろう。
 一方、その充実感を与えている男の身体の絶頂は、女の物とはかなり違った。自分がイクときはまるで爆発が起きたかのような快感だが、男の身体のオーガズムは、精液と同様、放出と言った感じであった。そして充足感はその後でやってくる。一仕事を終えたと言うかのような充足感。
『いろいろ違うんだなぁ……』
 そう思いながら、香織はガンダルヴァの身体の上に倒れ伏した。抽送と放精の疲労が一気に来た。セックス後、男がすぐに寝てしまうというのもよく分かる。一方の義弘は慣れない快感からか、気絶をしてしまったようだ。その義弘を抱きまくらにして、香織も心地よい疲労感から眠りに誘われて目を閉じた。


「うーん……」
「んー……」
 眠りに落ちていた香織と義弘はうめき声を上げた。情事の余韻が、頭の中では桃色のモヤが残っており、思考が回らない。うめき声に違和感を覚えるのにしばし時を要した。いや……正確には違和感ではない。
「ん?」
「あれ?」
 重たい目をこじ開ける。義弘は見た。目の前にガンダルヴァの彼女がいるのを。香織は見た。目の前に人間の彼氏がいるのを。覚えたのは違和感と言うより、安定感のようなもの。
 つまり
「もしかして」
「私達」
「「戻った?」」
 戻ったの部分が見事にシンクロした。慌てて自分の身体を触って確認してみる。顔、胸、腹、そして情事の跡が残っている性器……間違いなく、もともとの自分のものだった。互いに顔を見合わせてクスクスと二人は笑った。
「戻ったね」
「そうだな……一時はどうなるかと思ったよ……」
 どうして二人が入れ替わったかは分からないが、とりあえず戻ってくることはできたのだ。これで一安心とばかりに二人は身体の力を抜き、ベッドに身を沈めた。
 しばらくの間、二人は黙って互いを見ていた。さっきまで自分が入れ替わっていた身体を。しかし黙り続けているのも何か雰囲気が重い。香織は口を開いた。
「それで、どうだった? 私の身体は?」
「早速その話題かよ……」
「だって、気になるじゃん。どうだったの? 気持ちよかった? 男とどっちの方が気持ちよかった?」
 女性の、自分の身体の感覚を香織は義弘に訊ねた。義弘は苦笑していたがやがて真剣な顔つきになり、唸りながら首を捻った。迷った彼は姑息的に、香織に同じ質問を返した。
「私? うーん……男の身体も男の身体で気持ちよかったし、精液出した後のすっきり感とか女の身体以上だったけど……やっぱり今の身体の方が良いかなぁ……」
 単純な気持ち良さで言えばやはり女の身体の方が気持ちよかったし、何より精液を出された時の魔物娘ならではの充足感は男の身体では得られない。その点は迷いなく香織は今の身体の方に軍配を上げる。だからこそ……義弘が女の身体に夢中になったりしないか不安であった。
 義弘の答えは……
「まあ……気持ちよさで言えば確かに女の身体の方が良かったんだけど、やっぱり男の身体の方がいいかなぁ……そっちの方が慣れてるし、すっきりするし……それに……いや、なんでもない」
 最後、ごまかしたところは香織もなんとなく分かった。やはりペニスを受け入れるのには抵抗があったのだろう。セックス時は高まっていたから気にならなかったのであろうが、今冷静になるとやはり良い気分ではないらしい。だが一方でそれを彼女相手にやっている。だから義弘は言葉を濁したのだろう。
 別に良いのに、と香織は思う。精液を中に出されるのはもちろん、好きな男の身体の一部を自分の体内に受け入れることも喜ばしく思っている。気にすることはないのに……それを表そうとして香織は……
「じゃあ、比較のために……もう一回、シよ?」
 元の身体に戻ってのセックスをねだるのであった。
16/11/28 00:12更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)

■作者メッセージ
みなさん『君の名は。』は見ましたか? 私? 見てないんだなぁこれがorz
とにかく、入れ替わりネタを今年のうちにやりたかっただけです。私が見逃していただけで他にやっている人がいたらごめんなさい。

という訳でいかがだったでしょうか? 互いが相手の性別の快感に酔っている様子が表現できていたら幸いです。
なお、ヒロインの種族は「匂いを始めとする、男に近づかれるだけで発情しちゃう種族」「ちょっとイケイケ系で、入れ替わってもとりあえず『セックスする?』とか言っちゃう種族」で、ガンダルヴァに決まりました。他候補としてはバジリスクとか不思議の国系がいたんですけどね。相談に乗ってくださいました謎の人物貝殻さんに感謝です。
それにしても入れ替わりネタって主語とかが難しくなるわね……

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33