連載小説
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前編
「む……」
 浜辺を歩いていた浪人、黒岩政寅は前方に見えたものに軽く唸り、まゆを寄せた。大人が四人いる。その近くにこの辺りの村の子であろう小さな影がいた。そしてその背後には……大きな塊のような物が転がっている。一見、岩や魚の山にも見えるが……目を凝らすとひっくり返った亀の甲羅のような物と分かる。
「さては魔の者か……」
 歩みを止めず、その集まりに近づきながら、政寅は一人つぶやいた。独り言は一人であり続けたゆえについてしまった癖だ。近づくにつれ、影ははっきりとしてきて姿もわかってきた。四人の大人は見慣れない格好であった。少なくともジパングや霧の国では見られない。ゆったりとした服を着て杖を持っている女、胸元に何か大きな飾りを下げて杖を持っている男、屈強そうで斧を持っている男、そして青い外套を纏い美しい装飾が施された剣を持つ一番手慣れていそうな青年……武装していることに政寅の緊張は高まっていく。子どもは少年であった。格好は粗末なジパングの衣装。やはり近くに村があり、そこの者だろう。近くに転がっているのはやはり亀の甲羅であった。
「そこを退け、子ども……そうすれば命だけは助ける」
 腰の剣に手をかけながら青年は少年に詰め寄る。少年は一歩後ろに下がるが、甲羅をかばうようにしてどかない。
「ダメだ……海のミコさまに手を上げるとバチが当たるだ」
「くだらない……主神の加護がそのようなバチとやらを受け付けないでしょう」
 少年の言葉を鼻で笑ったのは胸に飾りを下げた男だ。おそらく向こうの国の僧侶なのだろう。
「どかねぇのなら、お前ごとぶった切ってやっていいんだぜ?」
 嗜虐的に、斧を持った男が笑った。女は杖を構える。何も言っていないが、仲間を止める様子はなくむしろ自分もその行動をする……その意思を無言で表していた。
 無視しても良かった。とは言うものの、引き返して迂回するのも面倒だ。そしてそのまま横を通り過ぎるのも不自然だ。正面切って政寅は声をかけることにした。
「どうも、お四方……子ども相手に何やら物騒だな?」
 突然の乱入者に四人は素早く武器を構えて向き直った。その顔が引きつる。
 これだ……と政寅は腹の中で呻く。自分の顔を見た者は皆、このような反応をする。無理もないと政寅は自嘲し、唇を歪めた。幼き頃の病の影響で、政寅の顔の左半分はやけどでもしたかのように爛れている。今は編笠で隠されているが、側頭部も同じように灼けており、頭髪がない。この顔を恐れる物は多かった。実の母親ですら。ゆえに政寅は誰ともめおとになれなかった。仕官をしようとすれば煙たがれる。他にすることがないゆえ、剣を持って諸国を旅していた。
 乱入者の風貌にあっけに取られていた一行であったが、すぐに気を取り直したようだ。
「なんだてめえ、何しに来た!? 邪魔するつもりかオラァ!?」
「我らはイルトスト王国の者……魔物を根絶やしにするべく、この国に来た」
 斧を持った男がすごみ、胸に飾りを下げた男が静かに、だが不穏な調子で名乗る。
「邪魔はしないで欲しいのよね。でなければ……」
「貴様を魔物に誑かされている、同等の者として処刑する!」
「はぁ……」
 杖を持つ女と、筆頭格の男の言葉に政寅はため息をついた。噂には聞いたことがあったが、この者らが「勇者」とその仲間と言うことであろう。どのような存在かは四人の言葉が雄弁に物語っている。
 そして……話は通じない。このようにお高く止まった者は自分が絶対優位だと思って疑っていない。このまま引き下がってやっても良かった。政寅は旅の者……子どもや魔の者がどうなろうと、関係ない。だが、四人の態度には腹に据えかねる者があった。
「やってみろ!」
 言葉とともに政寅は砂浜を蹴り上げた。砂塵が舞い、視界が煙る。突然の政宗の行動に目を守るべく、四人は顔を覆う。だがそれが致命的だ。
「うっ!」
 胸に飾りを下げた男がうめき声を上げる。みぞおちに、政寅の刀の柄頭がめり込んでいた。力なく男は崩れ落ち、動かなくなった。
「おのれ卑怯者!」
 筆頭格の男……彼が勇者だろう、それが斬りかかってくる。政寅はその刃を躱した。だが打ち合わない。彼と、斧を持った男とはまともにやりあわない方がいい。それなりに修羅場をくぐり抜けた政寅は武器の構えだけでその力量を見抜いていた。目指すは女。
「ひっ……!」
 政寅の奇襲に女は固まってしまう。身を守ることも忘れてしまったようだ。彼女の腹を政宗は刀の背で薙ぐ。女は悶絶して砂浜に倒れ伏した。
「さて、このくらいにしようか。お主らの行動は頭に来たが、別に命を奪おうとは思わぬ。だが、もしまだかかってくるようであれば……」
 政寅は刃の切っ先を女の鼻先に向ける。女が息を飲んだ。
「おっと、飛び道具もあるゆえ、下手な真似をするのも薦めぬぞ」
 懐に手を突っ込んで政寅は続ける。これは嘘だ。彼の懐にあるのはちり紙と僅かな路銀程度。手裏剣や石つぶてなどはない。だが相手はそれを察するすべはない。
 異国の男たちは顔を見合わせ、武器をしまった。それを見て政寅は女から離れる。だが刀は抜身のまま。いつでも斬る準備はできていることを示す。
「……」
 斧持ちが首飾りを下げた男を、勇者らしき者が女を連れ、一行はそそくさと去っていった。
 ごとんと大きな音がする。振り向いてみると、ひっくり返っていた亀の甲羅が元に戻っていた。その中から女が現れた。やはり魔の者だったようだ。確か海和尚と言ったか……
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「あ、ああ、そうだべ。助かったださ、おさむらいさん」
 二人は頭を下げる。その顔はやはりかすかな恐れはあったが……命の恩人に対してはそれ以上の気持ちがあったようだ。人に冷たくされて過ごしてきたが故にあまり人と関わり合おうとしない政寅であるが、こういうことがあるからたまに仏心を出してしまう。
「礼には及ばん。さらばだ」
「待ってください!」
 背を向けて去ろうとする政寅に、亀和尚が声を上げた。そのまま無視して去ってもよかったが……政寅は足を止め、振り向いた。
「助けてくださったお礼です。私が仕えます宮殿にいらしてくださらないでしょうか?」
「宮殿? 宮殿なぞどこにある?」
 政寅は唇を曲げる。今まで来た道に宮殿のような立派な建物はなかったし、これから先にある情報もない。政寅の疑問ももっともであった。それに対し、海和尚は手元を口で押さえて軽く笑う。
「海に住まう魔の者が陸に宮殿をこさえるはずがありませぬ。さあ、ご案内いたしますよ?」
 あなたも助けてくれたから、一緒ですよ、と海和尚は横にいる少年も誘った。馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、特に行く宛のない身。いつ戦いや病や飢えで命果てるともしれない。また、村に泊まれなければ野宿をするしかない。なればこの魔の者の誘いに乗るのもまた一興か。政寅は無表情のまま、うなずいたのであった。




 政寅と少年・弥助は海和尚に手を繋がれ、水中に潜っていった。不思議なことに、水の中でも呼吸ができた。これが、魔の者の力か……人智を超えた力に政寅は戦慄する。先ほどはひっくり返って何もできていなかったが、もし本気を出して襲いかかってこられたら……自分でも勝てないだろう。そう政寅は思った。
 そのようなことを考えているうちに、海底に大きな建物が見えた。城壁のようなものはない。海の中ゆえ上から外敵も来るであろうから無意味と考えられているのだろう。敷地を示す程度の低い壁がある程度だ。だが、門は立派であった。朱塗りの、巨大な門だ。丁寧に手入れされているのだろう。海底だというのにその門には藻や貝などはへばりついていない。
 海和尚と彼女に連れられている政寅と弥助が近づくと、門がひとりでに内側へと開いた。その門を海和尚は二人の手を引いて躊躇なくくぐる。
 中に入って政宗は驚いた。樹氷に色をつけたような鮮やかな植物、珊瑚があちこちで庭を彩っている。その周囲を下半身は魚の物だが上半身は美女である人魚が優雅に泳いでいた。中には、男と一緒に泳いでいる者もいた。番なのだろう。今、政宗を連れてきた者以外の海和尚も何人か見受けられる。
「門から歓迎の準備ができていなくて申し訳ありません。すぐに乙姫様に伝えて歓迎の宴をいたしますね」
「いや、何もそこまで……」
 政寅は言いかけたが、海和尚は聞かず、ずんずんと奥へと泳いでいく。そしてあっという間に政寅は宮殿の大広間に通された。
「……!」
 その玉座にいる者に政寅は目を疑った。これまでに見たことがないほど、美女であった。丸く、いたずら好きそうにキラキラと光る目、漆のような黒い髪、可憐なくちびる……胸は豊満で、男の目を釘付けにしてやまない。肌もきめ細かく、まるで真珠のようである。だが、驚くべき事は他にもあった。女が玉座に座っていたが、彼女も人ではなかった。腰から下は蛇の胴体のような物が伸びているが、甲殻で覆われており、幾節か分かれて作られていた。頭にも人ならざる物がある。漆のような黒髪をかき分けて、角が生えている。だが、それらは決して不気味ではない。むしろそのことすら美しいと感じられる。
 彼女が海和尚の言っていた乙姫。ジパングの海の魔の者を統べる姫である。
「……はい、この者たちが私を陸で助けてくださった者たちにございます」
 海和尚が自分の事を紹介しているが、そのことすらどこか遠くの出来事のように政寅は感じていた。それだけ、乙姫の美しさに惹かれていた。
「政寅様、弥助様、表を上げてくださいませ……政寅様は上げたままでいらっしゃいますが」
 自分の名を呼ばれ、政寅はハッとした。乙姫の美しさに惹かれ、ずっと見ていたのだ。恥じ入って政寅は顔を伏せてしまう。だが、彼が顔を伏せた理由はもう一つあった。自分の醜い顔を見られた。そのことを恥じ入ったのだ。
「表を上げてくださいませ、政寅様」
「いや、しかし……拙者のような者が……」
「上げてくださいませ、政寅様。でないと私、怒ってしまいますわ」
 乙姫の言葉にぴくんと海和尚の身体が震えた。そして肘で政寅をつつく。
「言うとおりになさってくださいませ、政寅殿……意外と乙姫様はわがままで機嫌を悪くされると……」
「聞こえてますわよ、麻里」
 ぴしゃりと乙姫が海和尚、麻里を窘める。なるほど、姫としての威厳も備わっている。さすがに彼女を怒らせるのはまずいと判断した政寅は顔を上げた。思わず腰を抜かしかけた。
 乙姫が自分の目の前に着ていた。その美しい顔、豊満な胸が目に飛び込んでくる。さらに驚くべきことに乙姫は政寅の顔を両手で包み込むようにしてきたのだ。慈しむように。
「ああ、これが私の麻里を守って下さった方のお顔なのですね……見ることができて良かったです」
 その顔は引きつったりしていない。
「……拙者の顔が怖くないのですか?」
「怖いはずなどありませぬ。なんといっても恩人の顔なのですから」
 そう言って乙姫は手で政寅の顔を撫でた。甲殻に包まれ先端からは全てを切り裂いてしまいそうな爪が伸びているが、それでいて柔らかく、温かかった。それだけで政寅は魂を抜かれたかのように呆けてしまいそうになる。
「さあ、今宵は宴を開きますよ! 政寅様も弥助様も、ぜひ参加してくださいませ」
 弥助とは誰だったか……それすら思い出すのに時間がかかるほど、政寅は呆けていた。ただ、ぼんやりと美しき深海の姫を見ているだけであった。



 海の底の宮殿、乙姫が住まう城、竜宮城……そこでの宴は急ごしらえとは思えないほど豪盛な物であった。料理は様々な海産物が出てくる。どこから仕入れてくるのか、米を始めとする陸の物も出てきた。今、政寅が手に持っている酒もそうだ。そしてそれは今まで飲んできたどの酒よりも香り高く、澄んでおり、キレが良かった。
「ささ、政寅さま、もう一献……」
 乙姫自らが酌をしてくれる。ごく自然に。過去に女郎が酌をしてくれたこともあったが、やはりその時は顔の怖さがあってぎこちなかったが、乙姫にそのぎこちなさはない。
 そうして注がれるがままに酒を飲んでいたが、だいぶ酔いが回ってしまったみたいだ。顔が少し赤らんでいる。だが彼の顔が赤いのは酒のせいばかりではない。
「では、お酒はやめておきますか?」
 酒の徳利を持つ乙姫は、人間であれば膝を崩しているような形で政寅の横に座っている。そして、上半身を軽くではあるが、彼の身体にもたせかけていた。嫌でも緊張する。女を女郎などで抱いたことはあるが、このような美女にここまで触れられたのは始めてだ。初心な少年のように政寅は固くなる。
 ちなみに、少年と言えば一緒に竜宮城に来た弥助であるが、彼はここに連れてきた海和尚、麻里とともにいた。人魚の舞いを見たり、楽しそうに麻里と話したりして過ごしている。
「いかがなさいましたか?」
 乙姫が尋ねる。いや、なんでもない、と答える政寅はやや上の空だ。乙姫が身体をさらにすり寄せたため、腕にむにゅりと何かが当たった。もちろん、乙姫の胸だ。
 政寅の様子に乙姫はくすくすと笑いながら、彼の杯に酒を注ぐ。そうしてから、ふわりと水中に浮き上がった。忘れそうになるがここは水中である。忘れることができるほど地上と同じように過ごせているのは、乙姫の魔力のおかげである。
 本来、海の魔物娘と番になった男は「海神の儀式」という物を受け、水中でも生きられるようにする必要がある。だが竜宮城では乙姫の力によって、海神の儀式を行っていない通常の人間であっても地上と同じ様に活動する事が可能なのだ。また、衣服や物品が濡れる事も無く、地に足を付いて歩く事もでき、今政寅がしているように食事もできる。これらを一人で、自分の魔力だけで行える乙姫の力は相当の物である。
「一つ目の余興と行きましょう。政寅様が酔ってお眠りにならないうちに、見ていただきたき物がございます」
 それが一体何かを尋ねるより先に、乙姫は泳ぎだす。そして自ら、舞う人魚の群れの中に身を踊らせた。乙姫の意図を察して、楽団が音楽を変えた。
「ふふふ」
 扇子を広げ、乙姫は構える。口元を扇子で覆い、視線を政寅に投げてよこす。決して鋭い視線ではない。だが政寅は胸を押さえた。射抜かれたかとすら思える視線であった。
 音楽に合わせて乙姫は舞い始める。優雅に、波に任せて動く泡のように、揺れ舞う。ひらひらと動く扇子と羽衣がその優雅さをさらに魅せた。
「おお……」
 注がれた酒を飲むのも忘れ、政寅は乙姫の舞いに見惚れる。一瞬、彼女と目が合う。くすりと彼女が笑った気がした。
 小さな渦を作るかのように乙姫はくるくると周る。その周囲をお供の人魚たちが踊り華を添える。だが政寅の目は乙姫にしかない。その一挙一動を見逃すまいとするかのように、食い入るように見つめている。そのように政寅が見つめているのを分かっているかのように、乙姫は時々、彼に笑みを見せるのであった。
 音楽と踊りは続く。だがその調子は徐々に変わり、いつの間にか激しい物に変化していた。まるで嵐を思わせるような……そんな激しさがあった。
 それに併せて乙姫の踊りも激しい物となる。激しく回り、手を振り身体をそらし、水中で宙返りを見せたりする。激しさのあまり、着物は少し乱れている。だが決してだらしなさや淫靡さのような物は見られない。それもまた乙姫の持つ魅力か。
 激しい舞いはしばらくの間続いたが、やがてまた元の穏やかな物に変わっていった。この一連の音楽と舞い……それはまさに、海を、そして乙姫の気持ちを表したかのような物であった。穏やかで恵みを与え、時に激しく荒れる……だが最終的には穏やかでありなくてはならないことを感じさせる……そのような舞いであった。
「乙姫様……お見事にございました」
 自分の隣に戻ってきた乙姫に政寅は頭を下げる。下げざるを得ないほど感服していた。乙姫の舞いは武に生き続け芸事には決して明るくはない政寅の心を打つものであった。
「政寅様にお喜びいただけてとても嬉しゅうございます」
 軽く頬を紅潮させて乙姫はニコリと微笑んだ。その手にはまた新たな徳利。政寅はその酒を受ける。
「まるで海や乙姫様を感じられる舞でござった」
「アハハ、いやですわ政寅様。そのような高尚な物ではございませぬ。私達は自らが愉しみ、そして見る者を愉しませるために踊っているだけございます。でも……そう言っていただけると本当に嬉しゅうございます」
 弾けたように笑う乙姫。その笑顔と笑い声は深海の姫とは思わせない気さくさがあった。彼女の笑いは、普段めったに笑うことのない政寅の顔にも笑みを浮かばせる。
 乙姫の明るさに突き動かされたかのように、ぐいっと政寅は杯を煽った。だが、今まで飲んだ酒が溜まっていたか、それともその酒を勢い良く飲み過ぎたか、酔いで目が重たくなる。
「すまぬ、乙姫様……どうやら飲み過ぎたみたいで……とんだ醜態を……」
 首ががくんと前に垂れ、腕からは力が抜ける。さらに上体まで倒れそうになったところに乙姫が手で彼の身体を支えた。
「ふふ、構いませぬ。第二の余興までぐっすりと、おやすみくださいませ……」
 政寅の目が完全に閉じられ、意識が闇に飲まれる直前に見たのは、いやに紅く見える乙姫の、魅惑的な笑みを浮かべるくちびるであった。
 


 じゅぷっ、じゅぷっと濡れた音が響く。くぐもった女の声が合間に聞こえる。闇の中で政寅の意識は現実の世界へ舞い戻った。
『は……!? ここは、一体……!?』
 記憶を整理する。自分は寂れた浜辺で海和尚と少年を異国の者から救い、海中の宮殿にやってきてもてなされた……不思議なことだ。
「夢、か……」
 一人、政寅はつぶやく。そう考えればだいたいは合点が行く。だが逸物がベタベタした感じがするのは何であろうか。また、聞こえてくる声は幻聴ではない。そして、その声がはっきりとした言葉で話しかけてきた。
「まあ、何をおっしゃっているのですか、政寅様。夢などではなくここは現実……」
 歌うような調子で話しかけて声はもちろん乙姫の物だ。仰天して政寅は上体を起こす。果たして、乙姫であった。政寅の股座に座り込み、埋めていた顔を上げて上目遣いでこちらを見ている。衣服は宴の時と同じ羽衣であったが、それは舞いの時以上に乱れており、豊満な乳房がこぼれ落ちむき出しになっていた。
 一方、いつの間にか政寅は産まれたままの姿にされていた。そして股間の逸物は今まで自分が見たことがないほどいきり立っており、濡れ光っている。乙姫の唾だ。一気に酔いが覚めた。
「や、やめてくだされ! 乙姫様……かような……ぐっ!」
「やめて欲しい? 政寅様のココはそうはおっしゃっていませんが……」
 そっと乙姫は手で政寅の肉刀を握りこみ、ゆるやかに上下に動かした。深海の姫の手と唾がにちゃにちゃと下品な音を立てる。それだけで腰が浮かせてしまいそうなほどの快感が政寅の身体を駆け巡る。
「はふっ……なにゆえ、このようなことを……」
「なぜ? 簡単なことではございませぬか。私はあなた様に惚れた……それだけでございます」
 政寅の問いかけに、肉棒を握る手を止めないまま、当然のことのようにあっさりと乙姫は言った。政寅が口を開くより先に続ける。
「身を挺して私の部下をかばってくださった……それだけでも、嬉しかったです。それどころか撃退までなさってくださったその強さ……ええ、ええ。詳しいことは麻里や空の魔物からも聞きましたわ。なんでも一人で異国の勇者たち四人を相手取った……並ならぬ強さですわ」
「いえ、その……はうっ」
 あれは奇襲が上手く行っただけであり、全員を倒したわけではない。正直にそう言おうと思ったが、まるで言わせないと言わんばかりに、乙姫は政寅の乳首を転がした。ビリビリと電撃のような快感が走り、政寅は言葉を途切れさせた。
「それに、あんなに私の舞いを見てくださったなんて……牡らしく、目をギラギラさせて……ふふ、あんなに見られて私、舞いの最中だと言うのに濡れてしまいましたわ」
 そして情欲と、舞いの後の熱にのぼせた乙姫はそのまま、酔った政寅に媚薬入りの酒を飲ませ、寝所に連れ込んだ……そういうことだ。
 飲み込めてきた。それでもまだ政寅には抵抗があった。
「いけませぬ、乙姫様……拙者は一介の浪人……海の姫がそのような者と交わるなど……」
「まあっ! 愛だ恋だ惚れた腫れた……そのような気持ちに身分など関係ありませぬ」
 政寅の言葉はやんわりと、だが力強く、乙姫によって封じられてしまう。
「それに……私の顔は……」
「気にしませぬ。だからこそ、私は進んでこうしているのではありませぬか?」
 そうだ。もし義理で政寅を宴や床でもてなすのであれば、適当に侍女や女郎などをあてがえば良いのだ。あるいは、酒に酔って寝てしまったのであれば、そのまま放置すれば良い。乙姫がそれをわざわざ自ら身を開くと言うことは……
「……」
 政寅の身体から力が抜けた。否定する要素はもう特にない。それに酔いはある程度覚めたが、完全には抜けきっていない。考えるのが面倒になったのだ。
「ふふふ……ご奉仕させてくださいませ」
 彼が思考を止め堕ちたことを確信した乙姫は再び口唇愛撫に戻った。亀頭を咥え込んで吸い、かと思えば口を離して竿を舌で舐め上げ、かと思えば玉袋と中身をぱくりと咥え込んで舌で舐め転がす……海と同じように、乙姫の攻めは姿をめまぐるしく変えた。単調ではない攻めに政寅は思わず快感で呻く。
「ふふっ」
 一度攻めを中断した乙姫が顔を上げ、首をかしげた。まるで壁や樹の幹から覗いているかのようだ。そしていたずらっぽくニンマリと笑った。
 また、乙姫は政寅の逸物を咥え込んだ。今度は上からだ。亀頭から竿と半ばまで咥え込む。そこから引き抜いてはまた咥え込み……舌とくちびるで政寅の肉刀を扱き抜く。じゅっぷじゅっぷといやらしい水音を立てるその上下運動は徐々に速くなっていく。
「あがっ……乙姫様、それ以上されると……!」
 腰の疼きを感じ、政寅は手加減を要求する。だが乙姫はまたニィっといたずらっぽく笑っただけで、攻めの手を緩めない。それどころかますます激しくしてくる。奉仕とは名ばかりの、乙姫の情欲に任せた攻めが政寅を襲う。耐えられなかった。
「お、おぉおう!」
 腰を突き上げ、政寅は精を放つ。一介の浪人がしょっちゅう女を買えるはずもなく、彼はかなりの女日照りが続いていた。それゆえ貯めこまれていた精の量は相当であった。
 どくどくと、海の姫の口内に浪人の精液が流し込まれていく。しかし乙姫は目を細めてその精を受け止め、そして喉を鳴らした。飲んでしまったのだ。
「気持ち良うございましたか、政寅様……?」
「あ、ああ……」
 久方ぶりの射精、それも海の姫という高貴な絶世の美女の可憐な口の中に……その射精は魂も抜けるのではないかと思うほど心地よかった。政寅の口調も呆けている。
 だが、これで終わりではない。これからが、乙姫が言っていた「第二の余興」の本番だ。
 くすくすと笑いながら、乙姫は羽衣を袖から落とした。彼女の裸身が現れる。そう、姫の高貴な秘密の場所も……闇の中でも分かるくらいに、彼女のそこは彼女自身が言っていたように、濡れ光っていた。政寅を求めて。
「さあ、宴は最高潮……」
 政寅の身体に重なりながら、乙姫は歌うように囁く。上体が倒され密着し、姫の柔らかな乳房が餅のようにひしゃげる。そして腰が落ち、一度精を放ってなお勃起を保っている政寅の逸物と、乙姫の濡れた花園が近づいていく。そして密着し……肉刀が肉壷を貫いた。
「う、お、お……」
 政寅は間抜けな声を上げる。それだけ、海の姫の肉壷は極上であった。先ほど口で精を放っていなかったら、瞬殺されていたかもしれない。
 中はたっぷりと濡れており、政寅の肉棒にその粘液がまぶされていく。まるで海底火山のように熱く、肉刀がその熱で溶けてしまうのではないかとすら彼は思った。柔らかでそれでいて締め付けはきつく、政寅から精を搾ろうとする意思が見えるかのようだ。だが何より特筆すべきは、肉壁にびっしりと備わったヒダであった。喩えるなら、イソギンチャク……それが政寅の肉棒をにゅるにゅると這いまわり、刺激してくるのだ。
 まだ乙姫は腰を動かしていないのに、天にも上るような快感であった。自分から腰を動かすなんてもちろん無理だ。政寅は乙姫の身体にしがみつくことしかできない。
 そんな政寅の様子に乙姫はくすくすと笑う。耳元に顔を寄せ、囁いた。
「私の身体と舞い……存分に愉しんでくださいませ」
「ま……」
 言い終わるや否や、乙姫は上半身を政寅に密着させたまま、腰をうねらせ始めた。肉襞が、膣口が、彼の亀頭やカリ首、竿を撫で扱く。軽く一往復……それだけで全てを蕩かしてしまいそうな快感が政寅の脳髄を犯す。
 一方、乙姫の方も涼しい顔ではなかった。彼が眠っている間、時々自分の指で慰めたりはしたものの、こうして政寅を受け入れるまではほとんどおあずけで奉仕をしていた状態だ。そこにようやく入ってきた待ち望んでいたもの、惚れた男の肉棒。焦らされた分だけ、快感は高められた。
 腰を動かすたびにカリ首が自分の肉壁を掻き、そして奥へと迎え入れると子どもの部屋の入り口をついてくれる。下腹部から全身に悦楽が回る。
「ああ、たまらない……♥」
 乙姫の淫らな舞いは徐々に熱を帯び、激しくなっていく。にちゃにちゃと、二人の結合部から卑猥な水音が響いた。
「ああ、政寅さま……♥」
 熱に浮かされたように乙姫はつぶやく。目の焦点は少しあっていないが、しっかりと政寅の目を見ている。そのまま彼女は彼に顔を寄せ、くちびるを重ねた。
 女郎を抱いたことはあったが、接吻の経験は政寅にはなかった。このような顔のため、向こうからはしてこなかったし、自分からもしなかった。それゆえ、政寅は乙姫の接吻を受け止めるだけで精一杯だ。口内を蹂躙されても、反撃の術を知らない。舌を絡められ、歯列をなぞられ、唾液を送り込まれても何もできない。
 そして、接吻によって我慢から気を逸らされてしまった。下肢から上る快感に堪えられなくなり、下腹部のマグマが煮えたぎっていく。
「ぷはぁ……ふふ……」
 乙姫が突然、接吻を止めた。政寅の様子を察したのだ。その証拠に目はやはりいたずらっぽく、笑っている。同時にその目は捕食者が獲物を仕留めた目をしていた。
 だが、乙姫とて無事ではない。身体の中に快感が蓄積しており、今にも爆発しそうだ。自分を、そして政寅を追い込むべく、彼女の淫らな舞いはいよいよ嵐のように激しくなった。
 このままだと、海の姫の中に射精してしまう。さすがにそれはまずい。そう思った政寅は身体を捩って乙姫の下から抜け出そうとしたが……
「行けませぬ♥」
「むっ!」
 乙姫の人ならざる下半身が蛇のように政寅の脚に絡みつき、ギシギシと締めあげた。これでは身動きが取れない。だが、身体の構造が異なる乙姫は動き続けることができる。せっせと彼女は淫らな舞いを続け、肉棒を自分の媚粘膜で擦り上げ、肉棒で自分の奥を穿つ。
「最後まで……ンアっ♥ 私の身体と舞いをお愉しみになって……♥ 私の奉仕を……うぅん♥ お受け取りください……♥ 気持ちよくなって……私の中に精を吐いてくださいっ……♥」
「し、しかしそれでは……はぁう!」
 もう口も開けない。再び腰に疼きが起こり、射精の準備が整えられる。そこまで来てしまってはもう止められない。蟻の戸渡りが収縮し、精が尿道を通り……そして送り出されるその先は乙姫の膣奥だ。
 一方、乙姫の方も限界であった。そして、政寅の射精が引き金となる。膣奥に叩きつけられた精液に魔物の身体が反応し、爆発した。
「うごぁああ!」
「ああああああっ!」
 二人の嬌声が寝所で絡まり合う。絶頂の嵐が二人の身体に吹き荒れた。嵐の海に投げ出されまいとするかのように、二人は互いの身体にしがみつきあう。その間も二人の身体は、快感の果ての反応が続いていた。政寅の肉刀は脈動し、乙姫の膣内にどくどくと子種を送り続ける。乙姫の肉壁はその子種汁をさらに搾り取ろうとするかのように収縮した。
 どのくらい時が経っただろうか。ようやく嵐は過ぎ去り、二人は身体を弛緩させた。乙姫の全体重が政寅にかかるが、それを受け止められないほど彼はヤワではない。だがすさまじい快感の果てに眠くなるのは、男の性質だ。まぶたが重くなる。
「私のご奉仕、お愉しみいただけましたでしょうか?」
 遠くで乙姫の上気した声が聞こえる。その声に、ああ、と短く答えたのち、政寅の意識は再び、闇の中へと消えたのであった。
16/09/14 20:49更新 / 沈黙の天使
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■作者メッセージ
「乙姫のSSがないぞ!」
 その叫びを聞き、僭越ながら筆を取ってみました。
 どうも、ご無沙汰しております、沈黙の天使です。リアルの仕事や他のSSでなかなかこちらに顔出しできていませんが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
 さて、そんなわけで書きました今回の乙姫SS……いかがだったでしょうか? 皆様のオカズになれば幸いです。願わくば、乙姫のSSが増えることを……このSSをきっかけに、ってのはちょっと願いすぎかぁ、たはは〜

 さて、竜宮城・乙姫関係で外せない玉手箱が出ていませんが、これは後編にとっておこうと思います、お楽しみに。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33