連載小説
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『お前の望む宝物』 -前編-
「ッ! これで、とどめだぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

俺は灼熱の吐息を掻い潜り渾身の力を込めて奇跡の一撃を振るう。
そして…… 銀色の刃が巨大な竜の腹の皮を破り、肉を裂き、その中の臓物を深々と貫いた。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

竜は己の体内を突き進む異物の存在に悲鳴をあげ、身を捩り、そして遂に……

倒した

数時間の激闘の末に遂にッ!遂にッ!遂にッ!
先程まで見上げていた巨躯は遂に地に伏し、この場に立つのは唯一人。
……勝利者である俺だけだ。

「よッッッッッッッッしゃぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」

叫んだ

倒れた竜に向けてなけなしの体力を使い、高らかに勝利を宣言する。
興奮はいまだに冷めない、体内を駆け巡る血で心臓が爆発しそうだ。
自分の叫び声に頭がクラクラする、もしかしなくてもこのままぶっ倒れちまいそうだ。

いや、まだだ。 まだ倒れるわけにはいかない。
俺の目的は竜を倒すことじゃあないのだから。
俺は手持ちの瓶の中に僅かに残った回復薬を舐める様に飲む。
ほんの少しだけだが体力は回復した。

「ヘヘッ わざわざ危険を冒してまで竜の巣に挑戦したんだ。 手ぶらじゃあ帰れないぜ」

竜の宝

竜がそれまでの生涯を賭けて貯め込んだ巨万の富。
一介の冒険者如きの安い命では恐らくは釣り合わないであろう圧倒的価値。
それを得る為に今までどれ程の無謀な挑戦者の血が流れただろうか。
俺自身、欲をかいて一人で挑戦したのは失敗だったかと何度も思った。

だが!

俺は勝利した! そうだ、俺が勝利者だ!!!
つまり……

「俺の勝ちだ! お前の全ては俺様が戴いて行くぜェ。 悪く思わんでくれよ、ドラゴンさんよォ」

俺は竜の顔の前に堂々と立ち、そう宣言してやった。

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……うぅ。 負けてしまいました。
割と本気でしたのに…………

ああ、もう、耳元で叫ばないでください。 うるさいですよ。
そんなに嬉しかったですか? はいはい、わたしの負けですよぅ。





……彼みたいなニンゲンは初めてです。

わたしの宝が目当てなのだろう、ニンゲンが巣を尋ねてくるのはそんなに珍しくありません。
…でも、大抵は仲間をつれてやって来きます。 少なくとも一人で来るなんてあり得ません。
なのに彼は一人でここへ来た。

彼を最初に見た時は、どこかのマヌケが私の巣穴に迷い込んだのかと思いました。
なのに彼は剣に手を掛けこう言った。

『宝をよこせ』 ……と。

勿論、そんな事を言われて 『ハイ、わかりました』 なんて言うつもりはありません。
私は爪を振り上げ、火球で威嚇しました。
大抵のニンゲンはコレだけで逃げ帰る。 今まではそうでした。

しかし、彼は違いました。
余程自分の腕に自身があるのだろう、彼は剣を抜くと私に向かって突撃してきた。

そして……
数時間の激闘の末にわたしは敗れ、彼は勝利した。





うぅ、痛いです。
致命傷ではないようですが、いくらドラゴンでも剣で刺されるのは流石に痛いですよぅ。

うぅ…… ん? なんですか?
お前、わたしにまだ何か用ですか? 見ての通りもう戦う力なんてありませんよぅ。

気がつくと先程まで喜びに打ち震え、叫び声をあげていた男が、わたしの目の前に立っていた。
……そして、彼はこう宣言した。

『俺の勝ちだ! お前の全ては俺様が戴いて行くぜェ。 悪く思わんでくれよ、ドラゴンさんよォ』

うぅ、わかりました。 負けてしまいましたからね。 お前の望み通りにわたしの宝を……………
……え?

…………わたしの全てですか?



…………………………………………………………………………………………………ぇ?

ふぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!?

も、も、も、も、も、もしかして
お前の欲しい物って、わたしですかぁあああああああああああああああああああああああ?

ハッ! そうか! 理解しました! そういうことですか!
お前が一人でここまで来たのはそういうことですか!
お前はあえて一人でわたしと戦うことでその思いをわたしに伝えようとしたのですね。

わたしに一人で挑むだなんて、最初っからおかしいとおもっていたのですよぅ。
しかも! しかもですよ!
お前、一人で勝ちました! わたしと肩を並べるだけの強さがあるとわたしに見せつけました!
なかなかカッコイイじゃあないですか!

そこまでされて 『お前が欲しい』 だなんて言われたら…………
うぅ、しかたないです。 認めるしかありませんね。

わかりました。 では、わたしがお前の……

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閃光

視界を焼き尽くす白い光が竜の巨躯から発せられる。
え? ちょっと待て。
俺は不意の出来事に戸惑う。

…………まさか、まだ戦えるのか?
嫌な予感が頭をよぎる。

俺は警鐘を打ち鳴らす肉体に従い自然な動作で剣を…… 剣を……



………………



………しまったぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
剣、竜の腹に刺したまんまだぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!

ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!!
いや、待て! 落ち着け、落ち着くんだ!!! 落ち着いて素数を数えるんだッ!!!

徒手空拳で竜と戦うか? 全力でこの場から逃げるか?
……………NO、断念。 つーか無理、だって体力ないし。

支離滅裂な思考が脳内を掻き乱す。
そうこうしているうちに、竜の体から発せられていた光は次第に落ち着いて行く。

まて、まだ心の準備ができてないんだ!

…そんな俺の想いが竜に伝わるはずもなく、閃光はやがて完全に消失した。
そして、その中心地には……

身長、約150cm。
頭上に頂く二本の角、四肢を覆う煌緑の鱗。
そして、その背には雄々しき翼。

そこにはヒトではない一人の少女が立っていた。

「喜べ、ニンゲン。 お前の想いは理解しました。 わたしはお前にもらわれてやります」

少女はそう言って一度言葉を切り、そして俺を指差して高らかに宣言した。

「今からわたしは、お前の嫁です」

誇らしげにそう言った少女の顔は ……僅かに赤かった。


10/08/06 23:23更新 / 植木鉢
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■作者メッセージ
魔物嫁シリーズ(と言っていいのかはわからんが)第二弾。
とりあえず前編です。(途中で気力が尽きたわけじゃないんですよ、ハイ)
巡り逢った魔物娘からの唐突な嫁宣言。 植木鉢はこのパターンが何故か好き。
……自分だけですか?

今回は王道ファンタジーには欠かせない、皆さんご存じドラゴンです。
ドラ娘さんのあの足を見ていると足蹴にされたい。 ……そんな気持ちになるんだ。
うん、もしも出会うことがあったならその時は是非踏んでください。 お願いします。

おい、お吸物はどーした
……なんて言わないでください。 だって続きがどうしても書けないし。

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