第10章:迷宮回廊 BACK NEXT


プラム盆地を攻略し、カンパネルラ地方の大半を手中に収めたエルは、
いよいよ軍を本拠地のカンパネルラ城に進めた。


プラム盆地からカンパネルラまでの日程は3日。
街道上にある村や町の住民はことごとく逃げ出し、
もはや彼らの進軍を止めるものはなかった。





そのカンパネルラ城の城主、リリシアは自室に籠っていた。

ルピナス河の戦いで脱出し、身一つでこの城まで戻ってきたのだが、
側近のグレイシアは敗残兵と共にアネットに退却中であり、
もう一人の側近マーテルは捕虜となった。
大敗北により完全に精神を打ちのめされたリリシアの顔は涙で腫れあがり、
その涙さえ枯れて尽き果て、日々を無気力に過ごしていた。
この様子に部下の兵士たちは必死に励ますも、効果はなかった。

もはや、高貴で気高い彼女の姿はどこにもない。


「リリシア様!人間の軍がもうすぐそこまで迫っています!どうか我々に出撃の許可を!」
「…なりませんわ。」
「ですがっ!籠城していては勝ち目はありません!
ここは野戦で敵の出鼻をくじき…!」
「それができるなら苦労いたしませんわ!
今出撃いたしましても、敵に蹂躙されてより苦境に立つだけですわ。」


その後、久しぶりに自室から出たリリシアは兵士たちに守備につくよう命じた。
主だった将軍がいない今となっては、彼女だけが命綱だった。
カンパネルラ守備部隊20000人は本格的に防衛体制を固め始めた。
市街地には警戒の鐘の音が鳴り響き、市民たちは家に避難する。


「ああ、とうとうこの街にも狂信者の軍団が…」
「愛する夫や子供たちのためにも、私たちは負けられない!」

守備兵たちの間にも緊張が走る。
この外周城壁を突破されたら一般市民を守る盾が失われることを意味する。
なんとしても守り抜かねばならない。






カンパネルラ城前方2キロの地点に陣取った十字軍の司令官幕舎では、
まず副軍団長以上の主要将軍のみを集めて戦略会議を行う。

「では全員、この図を見てくれ。」

エルが広げた羊皮紙には、カンパネルラ城の簡単な地形図が描かれていた。
この日のために事前に偵察兵を潜入させて、見取り図を書かせたのだが、
外周城壁と市街地の配置までしか判明せず、内部構造自体は
人間が立ち入ったことがないので一切が不明であった。

これに対して、早速ユニースが反応する。

「よくこれだけ調べ上げられたわね。上出来だわ。」
「肝心の内部構造は不明ですが、城下を占領できればあるいは…」

フィンもまた同様の意見を示す。

「調査によれば守備兵の数はおよそ20000人。俺たちの4分の1だ。
だが、そのまま攻めれば確実に被害は大きくなる。」
「エル様、でしたら挑発と偽退却を繰り返し、
敵を野戦に引き込むという案はどうでしょうか。」
「そうだな、やはりそれが鉄板だ。これでも釣れないようなら別の方法を考えよう。」

マティルダの案が採用され、十字軍は敵を城外におびき出すことにした。
このことは、全体の作戦会議で各師団に伝えられ、
後に攻撃の準備が行われる。


今回の戦いは未知の領域なので、慎重に準備を行う。
そのため、準備には丸一日をかけた。
そして次の日攻撃準備が整った全軍に対し、エルの演説があった。


「親愛なる兵士諸君!ついに我々はこの地方の本拠地に辿り着いた!
本拠地だけあって、敵の抵抗も激しいものが予測され
城内には複雑な迷宮が広がっているという!
だが、恐れることはない!なぜなら諸君は先日ルピナス河の戦いで
倍以上の軍を相手に大勝した!その強さをこの戦いでも十分に発揮し
一人ひとりがやるべきことを心得ていれば、勝利の女神は必ず微笑む!
この地に再び人間の繁栄を取り戻すべく、戦い抜こう!いいな!」

おーーーーーっ!!


エルの激励は、兵士たちの士気を大きく高めることに成功。
カンパネルラの晴れ渡った空に、90000人の喚声が響き渡った。
ここにカンパネルラ城の戦闘の火ぶたが切って落とされる。



カンパネルラ城を目の前にした十字軍は、
まずは守備兵に対して罵声を浴びせる。


「聞こえるかー能無しども!やるきあんのかー!」
「どうせ俺たちが怖くて立つのもやっとなんだろ!
その気持ち分からなくもないぞー!」
「あなた達が手に持ってるその長いものはナニ?
ただのツェンポ(杖)?それとも自慰の道具かしら?」
「さのばびっち!」
「ふぁっきん!」
「俺のケツを舐めろ!」
「びっち!」
「無職どーてー!」
「…ぷぎゃー。わろすわろす。」




「おのれニンゲンどもめ!調子に乗りやがって!」
「馬鹿にされたままで黙ってなどいられるか!出撃だ!」
「私たちの恐ろしさを思い知らせてあげるわ!」


十字軍の猛烈な罵声を浴びたカンパネルラ軍は
リリシアの統率能力が低下していたこともあって、
いともあっさりと挑発にかかり、出撃してきた。
しかも、ろくな陣形すら組まずバラバラに。


この光景を見たエルは、してやったと同時になんか呆れた。

「おーおー、これほどあっさりと引っかかるとはな。本気でバカかあいつら。」
「きっとここの兵士たちはリリシアさんと同じく、プライドが高いのでしょう。」
「いや、にしてもこんな低レベルな罵声すら耐えられないとは…」

ユリアの指摘通り、カンパネルラの守備隊は自分たちの腕に
絶対の自信を持っているため、名誉棄損は耐えられないものだったのだ。
あと、魔物が本来通り本能に忠実なのが災いした。


「よし!全軍退却!」
頃合いを見計らって、エルが退却命令を下す。もちろん偽退却だ。
「退却の合図をだしなさい!」
「退けー!」


ワーワー


「逃がしてなるものですか!追撃するわよ!」
「待て―!腰抜けはどっちだー!」
「捕まえたらたっぷり(性的な意味で)喰らい尽くしてあげるわ!」

血気にはやる魔物娘軍団は、人間の兵士たちと歩調を合わせることもなく
勝手に追撃を始めた。この時点ですでに12000人の兵士が出撃していた。
そのうち種族によって進軍速度の差が表れ始め、
密集していたカンパネルラ軍は散開してしまっていた。

これこそエルの思うつぼだ。


「退却はここまで!全軍反転して攻撃を開始せよ!」
「反転だ!攻撃せよ!」
「逃げるふりはここまでよ!」


ワーワー


彼が再び命令した途端、十字軍90000人は一斉に反転しカンパネルラ軍に襲いかかる。

「ユリアさん、サンライズをお願いします。」
「わかりました。」


Tu es la lumière blanche etc devenir un miroir

de son corps touche le soleil brillera et l'argentblende!




中央の部隊を優しく光が包み込む。

ユリアは大規模な支援魔法「サンライズ」を唱え、
激戦が予想される中央部の30000人の戦闘能力を底上げした。
その対象には、エルを始めとした将軍たちも含まれる。


「セルディア将軍!これは一体…!?」
「どやらユリア様の支援魔法のようだね。これで心置きなく戦えるぞ!
ラルカ!僕の戦車隊の後に続け!」
「はいっ!」

十字軍の先頭を切ったのは本隊の第一師団のセルディア戦車隊だ。
挑発によっていきりたち、味方と大きく離れてしまったケンタウルスたちは
たちまち蹂躙され、後続のアマゾネスやリザードマン達も
戦車隊の勢いに押されてなすすべもなく撃破されていく。

「ふはははは!脇が甘いわ!」
方や右翼方面では、ジョゼの率いる重装甲部隊による怒涛の鉄の津波が
乱れた隊列で向かってくるカンパネルラ兵をのみこんでいき、
「まったく、おつむが弱いねぇ。自分たちの仕出かしたことを悔やむんだな。」
方や左翼方面では、ディートリヒ率いる軽装歩兵の大軍が
視野狭窄状態のカンパネルラ軍を側面から切り倒していく。
「ルピナス河であなた達のお友達が味わった恐怖を再現してあげましょう!」
さらにユニース率いる第四師団が左右から襲いかかり、
当たるを幸いに、敵兵を粉砕する。
「お仕置きタイムだ♪」
そして総司令官のエルも、自ら先頭に立って
鬼神の如き強さを発揮していた。


「まずい!深入りしすぎた!」
「退け、退けっ!退却だ!これ以上は勝ち目はない!」
「なにをいってるの!このまま馬鹿にされるくらいなら死んだ方がましよ!」
「あら、あのパラディン私の好み!」
「こんなときに一目ぼれしてんじゃないわよ!」
「だから逃げろってんやろうが!早くしないといてまうぞ!」


こうして、カンパネルラ軍の挑発による怒りの声が
混乱による悲鳴に変化するのに、そう時間はかからなかった。

これが十字軍の罠だと知った時にはもう遅い。
指揮系統がほとんど機能していないカンパネルラ軍は、
大混乱を起こし、瞬く間に敗走を始めた。


しかし、悪夢はそれだけでは終わらない。

「俺たちにとって今こそ最大のチャンスだ!損害を気にせず雪崩れ込め!」
「私たちも続け!立ち直る隙さえ与えることなく攻め立てよ!」

第四軍団、シキの弓騎兵部隊とリシュテイルの教会騎士団が、
撤退するカンパネルラ兵を利用して、退却兵のために開けてあった城門から
付け入りの要領で突入していった。

守備兵にしてみれば、急いで門を閉めようにも
味方が入ってきているため閉められず、
弓矢を撃って迎撃しようにも、味方を巻き込む恐れがあるので
うかつに攻撃することはできない。
こうした迷いが致命傷となり、外周城壁はいともあっさり突破された。
その後は若干市街戦があった程度で、カンパネルラ軍は城の中にこもってしまった。




この日の戦闘で、カンパネルラ軍はその6割を失った。
普通、3割の損害で「全滅」、5割の損害で「壊滅」と表記するゆえ、
損害6割という数字がいかに大きいものか…


「エルやったわ!大戦果よ!」
「いや、まだこんなのは前座に過ぎん。真打はこれからだな。」

喜ぶユニースを抑え、エルは目の前に聳え立つ美しくも堅牢なカンパネルラ城を見上げた。
頼みの綱の外周城壁が突破され、市街地が制圧されてもなお
その気高い雰囲気を失うことなく屹立していた。
カンパネルラ地方のシンボルともいえるこの城を落とすのは、
並大抵の苦労では済まないだろう。





「申し訳ありません…リリシア様…」
「だからあれほど言ったでしょう。正面から戦っても勝ち目はありませんわ。
それに、あなたたちは軽率すぎますわ。以後、命令には確実に従うようになさいませ。」
「申し訳…」
「申し訳ないはもう結構ですわ!さっさと迎え撃つ準備をなさいませ!」
「は、はいっ!」

部下のラミアを一喝して追い払うが、未だに気分は晴れない。
それもそのはず。最低一週間は耐えられると見込んで配置した守備兵は、
自分がしっかりと統率できていないばかりに、挑発に乗って出撃した揚句
大損害を被り、あまつさえ敵の侵入を許してしまったのだ。

「グレイシア…、マーテル…、
結局あなた方がいなければ私は何もできませんわ…。」

統率する将軍がいない軍ほど惨めなものはない。
今後も組織的な戦いは期待できないだろう。
頼みの綱は自ら数年かけて築いたこの城のみ。



降伏?
いくらプライドを粉々に打ち砕かれたとしても、
彼女の頭には始めから選択肢になかった。



ここで、カンパネルラ城について少し補足する。
カンパネルラ城は自由都市アネットと違い、魔物が一から作った城である。
魔物が人化してから100年経つとはいえ、いまだに魔物は
人間のような築城方法を確立しているとは言えなかった。
それはどういうことか。
確かにカンパネルラ城はれっきとした「城」であり、
軍勢が攻めてきた時に備えた城壁や塔が建っている。

しかし、大きく違うのは内部構造だ。

魔物が作る城、それ即ち迷宮(ダンジョン)。
城下町には人も住めるように整備されているが、
城の内部は通路や部屋が複雑に入り組む作りになっており、
一応守るのには適しているが、生活や仕事をするうえで不便極まりない。
エントランスから入って玉座にたどりつくまでに最低でも半日かかるのだから、
いかに高難易度のダンジョン的な構造かは想像に難くないだろう。

総司令官であると同時に、冒険者ギルド長であるエルには、
この城がどれだけ厄介なものであるかを、十分理解していた。



十字軍は市街地に陣どり、住民が逃げ出した後の施設を
とりあえず有効活用することにした。
だが、兵士たちはなぜかあまり住居に入りたがらない。
その原因は、ある噂が流れていたからである。


「おい、知ってるか?
魔物と一緒に住んでいる連中は、暇さえあれば交尾していたらしいぞ。」
「うらやましいつっちゃあうらやましいが、夫になった奴も大変だろうに。」
「それでな、奴らあまりにも交わりまくるから、寝室の匂いが凄まじいらしいぜ。」
「なんだ、愛液のいい匂いがするのか?」
「アホか。むしろ精液の臭いでイカ臭いんだとよ。」
「まじかよ!?うわー、俺寝室で疲れを取りたいと思ってたのに、
行く気失せたじゃねーか!」
「しかも、だ。中には所構わず交尾する奴らもいるから…」
「家の至る所で体液が付着してる可能性もあるんじゃないかと。」
「えーっ!?そりゃヤバイだろ!」
「それだったら野外の方がまだましだぜ。」
「あーあ、市街地なんかに陣取るからテント立てられねえよ。」

かなりの偏見を含んだ噂だったが、
少なくとも家が荒らされる被害が減ったことはよしとしよう。



そして、司令部は街の中心部にあった宿泊施設を使うことにした。
大きな食堂があるので、会議をするのにはうってつけだ。

その食堂には現在、十字軍の将軍が一堂に集まり
今後の予定を決めるための会議を開いていた。


     〜会議のため名前付き台詞タイム〜



エル「諸君、城壁突破ご苦労。まずは第一の難関を突破できた。
   シキとリシュテイルもあの大混戦の中、実にいいタイミングだった。」

リシュテイル「いえ、私は自分の役目を果たしたまでです。」

シキ「お褒めいただいて嬉しいです!」

エル「では、次なる目標はいよいよカンパネルラ城内だ。
   城内の構造はほぼ不明。そのうえ本格的なダンジョンだ。
   いままでとは勝手が違ってくるだろう。」

リノアン「…大軍の利点を生かせないのも問題ですね。」

マントイフェル「純粋な実力勝負ってことですかね。
        もちろん負ける気はしませんが、不安でもあります。」

ディートリヒ「本来なら、こういった迷宮攻略は俺たち軍人の専門外だ。
       突然高難易度のダンジョンに挑めっつわれてもなぁ」

エル「ディートリヒの言うとおり、大半の兵士はダンジョンに入った経験すら持たない。
   そんなのを何の考えもなしに投入するのは愚の骨頂だろう。」

ユニース「ゾンビ取りがゾンビになって帰ってくるなんてシャレにならないわね…」

エル「いいか、しばらくの間は慎重に攻略するんだ。
   こんなところで兵を消耗していては割に合わないからな。
   兵士たちは最低でも五人一組で行動させるよう徹底させろ。」

レミィ「私達将軍はどうしますか!」

サン「私たちもダンジョンに潜ってみたいのですが…」

エル「行きたいなら止めはしない。だが、絶対に単独行動はするな。」

レミ&サン『はいっ!』

セルディア「だったら僕はパスだな。戦車は城には入れないんだなこれが。」

ティモ「セルディア様。そういう場合には降りて戦えばいいのでは?」

シキ「俺は遊牧民だから、あえて馬に乗って戦うとするか。」

バーミリオン「馬で行くって…、階段あったらどうすんだよ。上がれねえぞ。」

シキ「ケンタウルスもいるんだから大丈夫だ!」

マントイフェル「ああ、それは一理あるかもね。」

フィン「城内では馬の機動力はないに等しいです。無理して馬に乗ることはないでしょう。
    いえ、むしろ行動範囲に支障をきたすのでなるべく下馬したほうがいいでしょう。」

エルウィン「第四軍団は騎兵大将が多いのです。細心の注意を払いたいところです。
      あ、エル司令官。紅茶をお注ぎいたしましょうか?」

マティルダ「いえ、私がやります!」

ユリア「どうぞ、エルさん。」

エル「わざわざありがとうございます。」

マティルダ「先を越された!?」

ジョゼ「じゃあ俺にも一杯よろしく!」

マティルダ「自分で入れなさいよ。」

ジョゼ「なにー!」

ディートリヒ「おいこら、人によって態度を変えんなや。」

リュシテイル「そこっ、私語は慎むように!(キビッ)」

ディートリヒ「ったく、相変わらずアヌビスみてーな奴だな…」

エル「…話は済んだか?じゃあ最後に俺から一つ。
   城内にある宝箱及び物品は、発見者に処分権を与えるものとする。」

全員『!!』

エル「さらに、階層の図を作成した者、新たなフロアに一番乗りした者、
   有用と思われる素材を持ち帰った者、などには
   司令部から直接報酬を与えることとする。」

エレイン「鹵獲した物を自由にしていいのですか?」

ラルカ「一番乗りしたらご褒美をもらえるんですか!?どのくらいですか!」

エル「報酬の額はあとで発表する。
   もちろん、それなりに期待できる額にするつもりだ。」

レミィ「よっしゃあ!燃えてきたわ!」

サン「うん、がんばろうね!」

フィン「…よろしいのですか?被害が増すものと思われますが。」

エル「未知の領域はこうでもしないと誰も行きたがらないだろう。」

メリア「ほっほっほ、若い物は三大欲求が強いですからねぇ。」

ビルフォード「肉食い放題だったら最高だぜ!」

ラルカ「お金をためて新しい弓を…!」

チェルシー「お金の代わりにエル様の口付けが欲しいです♪」

マティルダ&ユニース『却下!!』

エル「おまえら将軍なんだから、もっと望みを高く持とうな…」



この後、将軍たちによって報酬の額や賞品などが議論されたが、
まさか徹夜することになろうとは、誰も思わなかったという。







その翌日、各師団の将軍たちは十字軍の兵士たちに
カンパネルラ城攻略に関する諸注意と、探索で発見した物は
例外的に発見者の自由とすることを発表した。
特別報酬の額もその場で発表され、にわかに兵士たちの士気が上がってきた。
エルとユリアは、ともに陣営の巡回をしながら言葉を交わしていた。


「エルさん。兵士のみなさんはやる気満々のようですね。」
「ええ、ですが一部ではまだ洞窟探検気分が抜けきっていません。
恐らく初めの数日間は手痛い打撃を被るでしょう。
ダンジョン探索はそう言った失敗や撤退の繰り返しを経てなされるのです。」
「エルさんも過去の沢山の迷宮を踏破してきたのですよね。
エルさんから見て今回の迷宮はいかがでしょう?」
「とにかく長い道程になる…としか言えませんね。
攻略には下手をすれば2ヶ月近くかかるかもしれません。」
「それほど…」
「ですが、俺にも考えがないわけでもありません。」
「何か打つ手があるんですか。」
「劇的に変わるとまではいきませんが、ある程度楽になるかもしれません。
ただ、あと10日ほど待つ必要があります。それまでは、
手持ちの兵士と将軍たちと協力して探索を進めるしかありません。」
「では私は衛生兵と共に、怪我人の治療に当たりますね。」
「ええ、よろしくお願いします。」


実は、エルとユニースとユリアの三人が本気で攻略に取り組めば、
最低でも2週間程度で攻略できるだろう。
しかし、総司令官がダンジョンの奥深くまで潜ってしまうと
とっさの事態に対応できなくなってしまうのだ。

(…大丈夫だ。『神の災い』のときに比べればまだ簡単な方だ。
このようなところで手間取っている暇はない。)

「不安ですか、エルさん。」
「いえ、ご心配には及びません。兵士たちの活躍に期待しましょう。」

彼が手塩にかけて育てたロンドネルの精鋭ならともかく、
十字軍兵士個々人はまだ錬度が高いとは言えないとエルは考えていた。
もっとも、彼が要求するスペックは無茶にもほどがあるのだが、
そうでなくても兵士対魔物では未だに分が悪い。
それをドクトリン(兵士運用方法)の工夫で
質的な優位を保っているのが現状だったのだ。

あとは実戦で鍛えるしかない。








そして次の日、本格的なカンパネルラ城攻略が開始された。

「いくぞ!俺に続け!」
『オーーッ!!』

まずはシキが兵士たちの先頭に立って進撃を開始する。
彼の後ろには、続々とグループ分けされた兵士たちが続く。

「これ以上私たちの住処を穢させるな!撃退せよ!」
『オーーッ!!』

魔物たちも城の窓から、弓を構えて迎撃の構えを見せる。


十字軍はまず、正門の扉を打ち破らなければならない。
ここで最初の激しい攻防戦が行われた。
重装歩兵が城壁の打ち壊しに取り掛かり、
カンパネルラ軍はエルフやケンタウルスなどの
弓を得意とする魔物が、必死に弓矢を放つ。


「ちっ、意外と残ってるな。こっちもやられっぱなしでは済まされない。」

シキもまた馬上で連弩を構え、窓から顔をのぞかせる魔物たちを撃ち抜いていく。

「魔物の皆さ〜ん、本日は矢の出血大サービスを行っていまーす♪
遠慮はいりませんので、存分に受け取ってくだサーイ☆」


バヒュヒュヒュヒュヒュ!!


シキの攻撃に合わせて、彼の配下の弓騎兵たちもまた反撃を開始。
壮絶な矢の打ち合いが展開された。


「シキ!!城門はどうだぃ?」
「おう、本隊師団長のディートリヒさんか!見ての通りだ!
今、破城槌(お寺の鐘つきみたいな兵器)を組み立てて打ち壊してるところだ。」
「うむ、ならこのまま順調に……」


ピシャァァン!!ドカァァッ!!


「何だ今の落雷のような音は!?」
「て、敵の魔法攻撃ですディートリヒ様!落雷や火球が降り注いできます!」
「あんだって!?クソッタレ油断したな!あんなのが破城槌に命中したらえれぇことに…」

しかし、ディートリヒの懸念は早速的中した。
命中した炎魔法が破城槌を炎上させたのだ。
城門を打ち破るのに効果的な兵器が、早速破壊された。

「あきらめるな!何個でも丸太を持ってこい!なんとしても打ち破るぞ!」


だが、何度も攻撃しても城門は非常に堅固で打ち破れる気配がなかなか見えない。
投石機は狭い市街地では組み立てられず、新兵器の弩砲はまだ配備されていないからだ。
ついにはティモクレイアとバーミリオンの魔道士二人が動員された。

「潰れろ!【メテオストライク(隕石召喚)】!」

バーミリオンが魔力を惜しまず火炎隕石を降らせ、城門にぶちこむ。
これにより城門が大分ダメージを受けてきた。

「これは追加だ!【コキュートス(絶対零度)】!」

火炎隕石の直撃で熱せられた城門を、ティモクレイアの魔法で急激に冷やす。
後は…



「うりゃああぁぁぁぁ!!」

ドゴオオォォォン!!


レミィが城門に対し猛烈な飛び蹴りを放つ。
構造変化によってぼろぼろになっていた城門は、こうして止めを刺され崩れ落ちた。


「すごいねレミィ!」
「ふっ、私にかかればこんなものよ!」
親友のサンがレミィの快挙をたたえた。

「よーし!城門を破ればこっちのものだ!」
「突入!突入!容赦は無用だ!」


ワーワー


「リリシア様にお知らせしなさい!敵が城門を突破したわ!」
「わかった、後は任せたわ!」

城門の守備隊長をしていたデュラハンが部下のハーピーを伝令に行かせた。
その守備隊長は、数分後に十字軍の猛攻を受けて討ち取られた…




城内での戦いも熾烈を極めた。

なにせ、まだ10000人以上のが残っているのだ。
その内訳の7割は人間の兵士とはいえ、それに加えて一般市民だった魔物もいる。
ダンジョン内のエンカウント率は驚異的だった。

内部構造はそこらの王国の王城のような美しい作りの回廊になっており、
一見するとダンジョンのようには見えない。
しかし、迷う。恐ろしいほど迷う。
通路と部屋が複雑に入り組み、方向感覚を狂わせる。

エルが心配したとおり、ダンジョン攻略に慣れていない兵士たちは
右往左往し、先に進むどころではなかった。


「マントイフェル将軍!この部屋はさっき来ました!」
「おいおい、またこのパターンかよ。どうなってるんだここは?」

マントイフェルとクルツもまた、一個中隊の兵士を率いて進んでいるが、
一向に次の階層への階段が見当たらない。

「クルツ、地図ではどうなってる?」
「もはや地図どころじゃありません。こんなんなってます。」
「ぐちゃぐちゃだな…。先に進むどころか、帰れなくなるぞ。」
「どうしますか?マントイフェル将軍。」
「今日はもう引き上げだ。どの道今日中に次の階層に到達するのは無理だ。
それよりも、これ、どうすっかな…」

マントイフェルは、物資に混ざって運ばれている宝箱に目をやる。
これは、2時間ほど前にたまたま見つけた物で、他にもいくつか宝箱があったが
この宝箱だけ中身を確認していない。
そして宝箱の蓋には『ミミック在中。取扱注意』の札が貼ってある。

「zzz………」
「いびきが聞こえるとか、不気味でたまらんな…」

生憎、宝箱の鍵を持っていなかったので封をして持ち帰ることにした。
正直中にどんな子が入っているか気になるのだが。


「マントイフェル将軍は、ミミックを見たことがあるんですか?」
「まあ、何度かな。たまに帝都の宝箱にまぎれてることがあるから、
定期的にチェックする羽目になったな。行方不明者も何人か出た。」
「…、思うのですが。定期的にチェックに来るからこそ寄ってきやすいのでは?」
「な、なんだってぇ!!」

ミミックは、意外と人が多いとこならどこにでも行くらしい。

「でも私は知識として知っているだけなので、実物は見たことがありません。
どんな格好をしているのですか?」
「んー、大抵幼女。ちっちゃい子。」
「小さくないと箱には入れないからですからね?」
「おい、もっと別の反応はないのか。」

と、そこに別の通路からバーミリオンの部隊が姿を現した。

「なんだ、マントイフェルさんじゃないか。こんなところにいたのか。」
「おう、バーミリオンか。俺たちは今から帰るところだ。」
「何だもう帰るのか。もう少し探索しても…、ちょっとまて。
その宝箱からなにやら異様な魔力を感じるんだが。」
「分かるのか。さすが優秀な魔道士は違うな。貼ってある札を見てみろ。」
「ミミック在中って…、瀬戸物じゃねえんだから…。」
「zzz………」
「しかもいびきかいて寝てやがるよ。この修羅場でマイペースな奴だ。」
「一応何かに使えそうだから持って帰ることにした。文句あるか?」
「このロリコn」
「シャラップ!決して邪な目的ではない!これは総司令官にお見せするのだ!」
「あっそ。」



結局この日に次の階層に行けた部隊はいなかった。
異常なまでのエンカウント率と、複雑な内部構造の前には
とてつもない時間の消費でしかなかった。



マントイフェルとクルツ、それにバーミリオンは
早速ミミックをエルに見せに来た。

「エル司令官、鹵獲した物を持ってきました。」
「鹵獲した物をわざわざ?別に自分の部隊で好きにしていいんだぞ。」
「いえ、それがですね…」
「危険物ですので私たちの手に負えません。」

ガチャガチャガチャガチャ!!
「――!――――!!」

起きた時に備えて鎖でがんじがらめにしたのが功をなし、
ミミックはふたを開けようともがいている。

「ミミックを持ってきたのかお前ら…」
「どうしたんですかエルさん、その動く宝箱は?」
「ああユリアさん。これがミミックです。中に入っています。」
「あらあら、まあまあ…」

ガチャガチャガチャガチャ!!
「――!――――!!」

「なんだなんだ?」
「どうしたのですかエル司令官。何か面白い物でも?」
「へえ、ミミックですか。私初めて見ました。」

他の将軍も、物々しさを察して集まってきた。
あわれミミックは、晒し者にされることが確定した。

「いいか、良く聞け。これは本気で危険物だ。
下手に開けると誘惑魔法をかけられて、場合によっては理性が飛ぶぞ。」
「ではどうしろと?」
マントイフェルが改めてエルに処分方法を問うた。
「ミミックの弱点は鍵穴だ。鍵を差し込めばこいつは無力化する。誰かやってみろ。」
「じゃあ、私がやりますわ♪」
「チェルシーか…」
「いざとなったら私が引きずり出して、あんなことやこんなことを…」
「お前本当に反魔物国の将軍か!?」

なにはともあれ、チェルシーが鍵を開けることになった。

「はいはいミミックちゃん♪痛いのは最初だけですからね♪」
チェルシーは宝の鍵(市販)を鍵穴に挿入する。

カチャッ



「いやあぁぁぁぁっ!!」
『!!』



シーン…

あたりは微妙な静寂に包まれた。
さっきまで蠢いていた宝箱も、なぜかおとなしくなってしまった。

まず静寂を破ったのはユリアだった。

「あのー、エルさん。」
「なんでしょう?」
「死んじゃったのですかね…この子…」
「それはないと思いますが、何分こんな反応は初めてで。
おかしいな?普通ならこんな嬌声は上げないはずなんだが…。
チェルシー。試しに鎖をはずしてゆっくり開けてみろ。」
「アイアイサー。」

命じられたチェルシーは慎重に鎖をはずす。
すると、宝箱のふたがゆっくりと開き…

ギイィィ…

「ぁ…ぅ…」
『………………』

中には紫色の薄いパジャマを着た黒髪の女の子が入っていた。
なぜか顔は赤く上気し、息遣いも少々くぐもっている。
姿勢はちょうどお尻が穴にはまって抜けないみたいな感じだ。

「あらー、なかなかカワイイコじゃない♪」
「ちぇ、チェルシー将軍!ソレは仮にも魔物ですから下手に近づかない方が…」
「大丈夫よ。たぶん。」

焦るラルカを押しとどめ、箱の中をじっくり観察する。


ざわ…ざわ…


「よくあんな箱の中に入っていられたね。」
「これも魔物の神秘って奴か?」
「全員冷静なところを見るとこの中でロリコンは0人か。つまらん。」
「そんな精神異常者をエル司令官が将軍に任命するわけないでしょう。」

ちなみに、いま全国一億二千万人のサバト信者を敵に回す発言をしたのは、
キビッでおなじみのリュシテイル将軍だ。


「はいはいみなさん。この子がさっき悲鳴をあげた原因が分かったわよ。」
「ほう、どうだった?」
「この子ね、入ってる態勢が悪くて、鍵穴から入れた鍵の先端部が
パジャマ越しにこの子の下腹部の女の子の穴にプスッて♪」

シーン…

本日二度目の微妙な静寂。


「あっ…あうっ…ああっ…」
「ちなみにまだ入ってます♪」
「早く抜いてあげようよ!これじゃあ私たちが性的にいじめてるみたいじゃない!」
「みたいじゃなくて、もういじめてると思います。」
「そう思うんだったらさっさと抜きなさいっ!」

見るに堪えなくなったマティルダが、自分で鍵を鍵穴から引っこ抜く。

「ひゃうっ…!」
「ね、先端に透明な液体が♪」
「ユリア様!」「はいっ!」


ぽいっ

ドゴオオオォオォォン!!


マティルダユリアは、
空中に放り投げた宝の鍵をユリアビームで粉砕するという驚異の連携を見せた。


「さて、ミミックを無力化したのはいいとして、処分をどうするかだが。」
「飼うのは?」
「反魔物軍が魔物を飼ってどうする…。あとこいつの食糧はアレだぞ。」
「逃がすしかないっしょ。」
「ですが、今後の研究のためにとっておくのも悪くないのでは?」
「いくら魔物とはいえ、人道に反したことをすべきではありません。(キビッ)」
「じゃ、やっぱ逃がすのか。」

これがカーター率いる第二軍団だったら殺処分という選択肢もあっただろうが、
無抵抗な幼い女の子を簡単に殺せるような冷酷な将軍はいなかった。
教会騎士団のリュシテイルでさえこのありさまである。
かといっても、飼うことはサキュバス並みに難しい。


結局逃がした。パジャマ姿のままで。


「次にミミックに出会ったらきちんと戦闘して倒しておけ!いいな!」
『ははっ…』






そんなこんなで、翌日も、そのまた次の日も全軍で城内を探索。
その間に、エルは兵士が90000人いても無駄だろうと言うことで、
セルディアに30000人を連れてアネット攻略部隊へ送ることにした。

このため残る60000人が城内の攻略にあたっている。

三日目になってようやく次の階層への階段を見つけ、
じわりじわりと迷宮を侵攻していく。

もちろん初めて階段を見つけた部隊には多大な報奨金がもたらされた。
これが、さらに兵士たちのやる気に火をつけ、
当初に比べれば進行速度も少しではあるが、上がってきている。


そして、数日が過ぎた頃…


「エル様!増援部隊が到着いたしました!」
「わかった。」

司令部で経過の推移を見守っていたエルのもとに、
マティルダから援軍到着の報がもたらされる。

エルが町の中心に出ると、そこには装備もばらばらな戦闘集団が揃っていた。
ある者は動きやすい軽装備。ある者は身を守るために重装歩兵よりも重装備。
男女比もまちまちだ。

「冒険者諸君、長い道程をご苦労だった。
今回の依頼についてはある程度聞いているだろうが、端的に言えば目の前の迷宮の攻略だ。
我々十字軍はダンジョンに慣れていないこともあって若干苦戦している。
そのため、探検に慣れた諸君に活躍してもらおうというわけだ。
ダンジョン内で得たアイテムは発見者の自由とし、功績著しい者には多大な恩賞を与える。
私からは以上だ。分からないことがあればギルドの代わりに司令部に顔を出すといい。
今からすぐにでも攻略に取り掛かってもいいし、準備に時間を費やすのも自由だ。」
『わかりました!』



エルは、カンパネルラの攻略を見込んでロンドネルを始めとする各地の冒険者ギルドに
カンパネルラ攻略を依頼として貼り出していた。それに応じたギルドが
この日、十字軍陣営に到着したのだった。


「エルさんが言ってた考えとは、このことだったんですね。」
「餅は餅屋です。彼らにがいれば、探索もだいぶ楽になるでしょう。
もっとも、冒険者を捨て駒にしていると見られるかもしれませんが。」



エルが期待したとおり、熟練冒険者の投入によって戦局は大きく変わった。
彼らはこれまで培ったダンジョン攻略技術を駆使して、難所を次々と突破していったのだ。
数日も経過すると、十字軍は冒険者を先頭に階層を一気に駆け上がり、
ついには後2階層登ればボスまでたどり着けるところまでいったしまった。





「リリシア様…」
「ええ、分かっておりますわ。敵が迫っているのですのね。」
「このままではこの部屋に到達するのも時間の問題ではないかと!」
「しかし滑稽ですわね…。この美しく気高いカンパネルラ城が
わずか一回の進攻によって陥落寸前まで陥るなんて…。」
「申し訳ありません、我々が不甲斐ないばかりに。」
「ですが、私はここで屈するわけにはまいりませんわ!」

リリシアは、ボスが座るような玉座から立ち上がると、
剣を手に取り玉座の間から出ようとする。

「お待ちくださいリリシア様!どちらへ…」
「決まっていますわ。私が最前線に立ちますの!」
「いけません!もしリリシア様の身に何かあれば我々は!」
「そんなことを言っている暇はありませんわ!」

部下のラミアの制止も聞かず、リリシアは最前線へと赴いた。




十字軍の先頭は、オージェ率いる傭兵部隊と熟練冒険者の一団だ。
数々のトラップを乗り越え、侵入者を拒む迷宮をくぐり抜け、
次の階層まで目前に迫った。

「これ以上は先に進ませないぜ!」
「私たちはカンパネルラの誇りにかけて一歩も引かない!」

「無駄な抵抗を!道を開けろ!」


ワーワー


相変わらずの高いエンカウント率に、
一歩も引く姿勢を見せないカンパネルラ兵たち。
出会うたびに激戦を繰り広げる彼らだったが、
オージェ率いる戦闘部隊は勇敢に戦いこれを撃破する。

「さあみんな!いよいよ次の階層を抜ければボスだ!」
『おーっ』

冒険者たちは階段に向かって一直線に進む。
しかし、またしてもエンカウント。

「オージェ将軍!敵と遭遇しました!」
「またか!敵の数は?」
「デュラハンが一体のみです!」
「なんだって!?」


リリシアが現れた!!


「おーっほっほっほっほ!よくぞここまでたどり着きましたわね!
褒めて差し上げてますわ!ですが、この先には一歩たりとも進ませませんわ!」
「リリシアだって!?このダンジョンのボスじゃないか!?」
「ボスが出たぞ!」
「かかれ!」

思わぬ強敵の出現に一瞬驚いたものの、
傭兵や冒険者たちは怖気づくことなく一斉に彼女に挑みかかる。

ある者は剣を振い、ある者は斧を打ち降ろし、ある者は魔法を放つ。

「その程度ですの?余裕ですわ!」

彼女はそのすべての攻撃を回避し、
逆に反撃とばかりに妖剣カンパネルラを一閃させる。

シュパアァァン!

「がっ!?」「ひいっ!」「うぐはっ…」

彼女の一振りで一気に十数人の戦死者が出た。

「すごい…、なんという強さだ…!」

オージェが感心している間にも、挑みかかる者たちが片っ端から戦闘不能になっていく。
おまけに、こちらはリリシアに一傷も与えられない。
あまりの実力差に、彼らは怯んでしまった。

「おーっほっほっほ!始めの威勢はどこへ行きましたの?
ま、あなた方のような下種に、私に触れようなど百億年早いですわ!」
「仕方ない…、いったん退くぞ!」

リリシア一人相手に大きな被害を出したオージェの部隊と冒険者たちは
退却を余儀なくされた。
そして後続の部隊も次々と同じ目にあっていった。





先頭部隊苦戦の報はすぐにミーティアによってエルのもとに伝わった。

「ほう…、リリシア自身が出てきたのか。」
「うん!あのデュラハン凄く強くてね!
私たちじゃ一傷すら与えられないの!」
「確かに、なにせああ見えても元々魔王軍の親衛隊長だった奴だ。
強さはユニースにも匹敵するだろう。」
「どうするの?エルさんが行くしかないのかな?」

エルならば彼女を相手することくらいわけないだろう。
だが、先述の通りエルは司令部を離れられない身なのだ。
となればリリシアにまともに対抗できるのは、軍団長のユニースか
副軍団長のフィンかマティルダだろう。

「ミーティア。マティルダとフィンとユニースを呼んできてくれ。」
「わかった!」


呼び出しを受けた三人はすぐに司令部に集まった。

「三人も聞いての通り、リリシアによって先頭部隊に大被害が出ているらしい。」
「では私たちに出撃しろと?」
フィンはこんなことを言っているが、実はけっこう乗り気だ。
「俺はここで指揮を取らなければならないが、誰か代わってくれないか?」
「いえ!エル様の手を煩わせるまでもありません!私が行きます!」
「何言ってんのよエル。ここに『明星のユニース』っていう最強の女がいるじゃない。」
「エル司令官は指揮に専念していてください。我々が何とかしましょう。」
「そうか、正直三人ともいなくなるといろいろ大変なのだが、
この際強力な戦力を手元に置いてあっても仕方ない。三人の手でボスを討ち取ってこい。」
『ははっ!』
「あ、エル。そのまえにユリア様を連れて行っていい?」
「本人の了承を得れば問題ない。」
「わかったわ。ユリア様には危険な目に合わせないと約束するわ。」


その後、野戦病院に立ち寄ってユリアと合流したユニース達は
再び司令部に戻ってダンジョン内の地図を見ることにした。

「攻撃開始から2週間、やっとここまで正確な内部構造が分かりましたね。」
「これはまたすごいですね…、迷宮を作ったリリシアは相当才能あるわ。」

地図を眺めるユリアとマティルダは早々にため息を漏らす。

「なんか見るだけで面倒になってきたわ!ショートカットとかないのかしら!」
「ユニース様。そのような都合のいいものを敵が用意していると思いますか?」
「だってこんなに複雑だったら『人がギリギリ通れる隙間』とか『○海磁軸』とか
用意してあるのが普通でしょ!っていうかこの中で生活してる奴らの気が知れないわ!」
「そんなユグドラシルっぽい迷宮みたいなことはないと思いますが。」
「うーん、勢いで倒してくると言った手前、厳しいわね…」

フィンとユニースも改めて迷宮の複雑さにげんなりした。
これでは、進むのも退くのも難しい。迷って味方とはぐれればお終いだ。
どうしたものかと考え込む四人がいる食堂に、二人の将軍が入ってきた。


「くっそー!俺の筋肉をもってしても突破できねえなんて!」
「だから言ったでしょうビルフォード将軍!罠に注意してくれって!」
「罠なんてめんどくせえよ!どんな障害でも筋肉で乗り越えるまでだ!」
「それで何回退却すりゃ気がすむんですか!」

筋肉将軍ことビルフォードと、自称正義の熱血漢ユノだった。

「あら、二人とももう帰ってきたの?」
「ええまあ、ちょいと罠に引っかかってしまって…」
「鋼鉄の肉体を誇るあなたが引き返せざるを得ないような罠っていったい?」
「えーっとですね、踏んだ途端に気がついたら周りを巻き込んで入口に戻ってるという…」
「最悪だー!!」

こういうダンジョンではある意味最もいやらしい罠だろう。

「これは想像以上にしんどそうね…」
「ですがこのまま考えていても埒が明きません。準備が出来次第出発しましょう。」
「あ、よかったら俺たち二人も同行しますぜ。」
「今度こそこの筋肉の活躍を見せて差し上げましょう!」
「あまり勝手な行動はしないようにね…」

結局彼らは地図を頼りに最前線を目指すことにした。
すでに破壊され、あまつさえ入口が拡張されている門からは、
大勢の兵士たちが出入りしている。
ここから最前線までは少なくとも半日かかるだろう。


「うーん、どこかに別の入口みたいなのはないかしら?」
「まだそんなことを言うのですかユニース様…」

ユニースはこの期に及んでもショートカットにこだわっているようだった。

「ユリア様だったら空を飛べるはずですから、窓からショートカット出来ますけどね。」
「一人だけでショートカットしても危ないですよ。」
「空を…飛ぶ?」
「ええ、ユリア様はエンジェルなので空を飛べるんですよ。うらやましいですよね。」
「だったら俺たちは壁を登っていけばいいんじゃねぇの?」

『!!』

「そうよ!その手があったわ!」
「ど、どうしたんですかユニースさん?」
「みんな!ショートカットのためにこの壁を登るわよ!」
「正気ですかユニース様!?」

フィンはユニースの提案に驚愕した。
ダンジョンになっているような城を外壁から登っていくなど正気の沙汰ではない。
だが…


「お任せ下さい軍団長!この筋肉にかかればこんな壁を登るなどわけありません!」
「俺もロッククライミングは大得意でさぁ!」

ビルフォードとユノという脳筋二人はやる気満々だ。

「そうですね、ユニース様!敵の裏をかいてみましょう!」
「私も援護します!頑張りましょう!」
「ええ、私たちならきっとできるわ!やってやりましょう!」
「…ふぅ」


こうして、外壁から頂上を目指すという無謀な試みを開始した彼らは、
自分たちの強靭な身体にものを言わせて、登っていく。
足場には、用意しておいた釘や短剣などを打ちこんで確保する。
時には、城壁のわずかな隙間に手や足をかけ、決死のロッククライミングを敢行した。

「ぬおおおおお!俺の筋肉に不可能はない!」
「山に聳える垂直な崖に比べりゃこんなの楽勝だぜ!」

「本当に私たちは人間離れしてますね…」
「大丈夫フィン?ついてこれてる?」
「ええ…、多少きついですがなんとか。」
「分かりました!私が援護します……【光り在れ!】」

ユリアの疲労回復魔法が彼らを包んだ。

「いよっしゃあああああ!!これで元気百倍!筋力万倍だぜ!」
「登っても疲れないとかやばいぜ!」


幸いにも、城内にいる魔物や人間たちは目の前で起きている激戦に気を取られており
外壁を登ってくる彼らの存在には全く気がつかなかった。
そして登ること2時間。ついに彼らは最上階と思われる窓に到達した。

「みてマティルダ!ベランダがあるわ!」
「ええ、あそこから侵入しましょう!」

ベランダに降り立った彼らは窓を破壊し、部屋の中に乗り込む。
もはやここまでくると一種のテロリストだ。
ついでに、ここはリリシアの寝室だ。

「しっかしえらい豪華な部屋よね。帝国の女王並みじゃない?」
「ユニース様の部屋は結構質素ですからね。うらやましいですか?」
「冗談。こんな豪華な部屋なんて逆に落ち着かないわ。」
「それについては私も同感です。」

マティルダとユニースの会話にユリアが同意を示す。
彼らユリス諸国同盟の将軍たちは、贅沢に慣れていないのかもしれない。

「っと、そんなこと言ってる暇はないわ!突入開始!」
『応!』


ユニース達はリリシアの寝室から出ると、中心部に向かってひた走る。
さすがに居住区域があるだけあって迷いやすい構造ではない。

「え、うそ!?何でこんなところに敵が!?」
「一体どこから忍び込んだというの!?」
「誰か!急いでリリシア様を呼びに行って!」

「逃さん。」

ザシュシュシュシュ!!

フィンはその圧倒的な速さで魔物たちを切り刻んでいく。
彼は騎乗している時はエルに匹敵するほど早いが、徒歩でもずば抜けた速さを誇る。
それに加え、彼が装備している勇者の剣は追加効果で連撃を容易にし、
目にもとまらぬ剣さばきを見せる。

そしてビルフォードやユノもまたその巨体から繰り出す破壊力抜群の一撃で
どんな敵だろうと次々に粉砕していく。

この奇襲により最上階層は大混乱に陥った。





「リリシア様!一大事です!」
「なんですの?そのように慌てて。」
「どこからか侵入した敵部隊が最上階を襲撃しました!」
「な!なんですって!いったいどこからそんな者らが!」

この知らせを聞いてリリシアは急いで玉座の間に戻ることにした。

そして、リリシアが戻った時にはすでに最上階は修羅場と化していた。
玉座付近にいた彼女の親衛隊はユリアの支援魔法によって
強化されたユニース達によって殆ど倒されていた。

「わ、わたくしが手塩にかけて育てた親衛隊が!
許せませんわ!これ以上好き勝手させてなるものですか!
そこの人間ども!カンパネルラ一の実力者であるこのリリシアがお相手いたしますわ!」

「来たわねリリシア!あなたを倒せばこのの攻略は完了するわ。
十字軍第四軍団長ユニース・ラ・テル・ブルーシェアが受けて立つわ!」

ここに、ユニースとリリシアの一騎打ちが実現した。


ギン!カァン!キィン!

「さあ!私の華麗な剣技の前にひれ伏しなさいませっ!」
「なーにいってんのこの首なしがっ!
この星槍グランヴァリネがあなたの胸に大穴をあけるわよ!」


リリシアの振う黄金の長剣とユニースが繰り出す白銀の槍が火花を散らす。
二人の動きは尋常ではなく、近付くだけで巻き添えを喰らって死人が出そうな勢いだ。

ダダダダダダッ!

カキィン!カカキン!ガキューン!ガァン!キン!

両者の腕前はほぼ互角。お互いが繰り出す技の数々が相殺しあうものの、
周囲の柱や置物などが巻き添えとなって破壊され、
床にも衝撃波と思われる傷跡が深々と刻まれていく。

「はあっ!せいやあ!本気で行きますわよ!」

リリシアが剣を振るえばたちまち周囲の空気が裂けて真空刃が発生し…

「ふんっ!とりゃあっ!覚悟はいい!」

ユニースが槍を繰り出すたびに穂先から光が飛ぶ。

キュワーン!ガンガキン!カカカン!キィン!グァン!カキィン!

もはやこのふたりは人の形をした台風だった。
ただひたすら相手を打ち倒すため、周囲の惨状など気にも留めない。


「おのれっ!人間のくせになかなかやるじゃありませんこと!」
「そっちこそ!こんなに強い魔物と戦ったのは初めてだわ!」
「ですが最後に勝つのはわたくしですわ!それを証明してみせましょう!」
「その証明は私が完膚なきまで否定して見せるわ!」
「ほざきなさい!人間ごと気がわたくしに勝てると思って!」
「人間はあなたが思っているほど弱い生き物ばかりじゃないのよ!」

打ち合いは数十合にも及んだ。
長時間戦っているというのに二人の呼吸は一糸乱れず、
常に必殺の一撃を打ちこむ機会を狙っていた。

だが、このままでは数日戦っても決着がつかないばかりか、
下手すれば数十分後には二人の打ち合いの余波が最上階を崩壊させかねない。

現に、最上階の天井は一部崩れ落ち、床の所々に大穴があいている。


「さてリリシア。あなたと私の腕は互角と見たわ!」
「ええ、どうやらそのようですわね!」
「だけどね、私はあなたにない強さを持ってるのよ!」
「ふん、なんなんですのそれは!もったいぶらず使えばよろしくてよ!」
「そう?だったら遠慮なく!マティルダ、参戦しなさい!」
「わかりました!マティルダ・フォン・ベッケンバウアー助太刀いたします!」
「な、なんですって!?」

ユニースは一騎打ちでは決着がつかないと見て連携戦に移行した。
一方のリリシアは、一番信頼できる部下のグレイシアはここにはいない。
さらに親衛隊のデュラハン達はもはや壊滅状態。
リリシアは二対一で戦わなければならないのだ。
その上…



Tu es la lumière blanche etc devenir un miroir

de son corps touche le soleil brillera et l'argentblende!


シュパアアァァァァッ!!

ユリアの唱えたサンライズが二人を包む。

「くっ!エンジェルまでいたんですの!?」
「あ、私の存在に気がついてなかったんですね…」
「行くわよリリシア!エル様からもらったこの槍で、
あなたをヴァルハラ送りにしてあげるわ!」

すこしいじけるユリアだったが、
そんなことはかまわずマティルダはリリシアに打ち掛かる。


ガン!カキューン!カァンカカカァン!ガキィン!キカァン!!

ユニース相手でも互角だったリリシアだったが、
二人の連携攻撃の前にはかなりの劣勢を強いられた。

ズドンッ!

「くっ!まだ、倒れるわけにはっ!」

二方面からの攻撃を受け切れず、リリシアがついにダメージを受け
わき腹から大量の血が流れた。

「今よマティルダ!一気に追いつめるわ!」
「はいユニース様!」

この二人の猛攻に耐えるだけの力はもはやリリシアには残っていない。
その後も数発の攻撃を受け、顔を苦痛にゆがませる。
それでも戦い続けられるのは、彼女のデュラハンとしての誇りが
ボロボロの彼女を掻き立てるからである。

しかし…

ガガガガガガガガガッ!!

「痛っ!くあああっ!」
ユニースの螺旋突きがリリシアの身体を硬直させる。その隙に…

「はあああぁぁぁっ!!」
ズドオォン!!
「―――――――――っ!!!」


わた…くし…、まけて…し…まいました…わ


マティルダの必殺の一撃がリリシアの胸を突貫した。
その衝撃で十歩分の距離を後退し、その場に崩れ落ちた。


「やった!リリシアを討ち取ったわ!」
「やりましたねユニース様!」
「あなたのおけげよマティルダ。本当に強くなったわね。」
「いえいえ、これもユリア様の加護のおかげです。」


「お二人とも、お怪我はありませんか!?」
「ええ、ユリア様。私たちは無事です。」
「それはなによりですが、急いでこの階層から脱出しなくてはなりません!」
「へ?」
「ユニースさんとリリシアさんの戦いでこの階層は崩壊寸前です!
フィンさんたちはすでに階段から脱出しています!」
「げっ!いつの間にこんなことになってるのよ!」

ユリアの指摘通り、天井は崩壊寸前。
あたりは粉砕された壁や柱の残骸が広がり、
床には無数のクレーターが出現している。


「お二方!こちらです!」

ユリアは二人を先導しながら廊下を走る。
しかし、彼女が二人を連れてきたのは先ほど不法侵入した部屋のベランダだった。


「ゆ、ユリア様!ここは階段ではなくベランダですよ!」
「まさか私たちにここから飛び降りろと!?」
「残念ながら階段は崩壊してしまいました。ですからここは私がお助けします!
いいですか、片手で私の手を握ってください…」
「何かお考えがあるのですね。」
「わかりました。」

ユニースは右手を。マティルダは左手を握る。

「奇跡の羽をその身に宿し、大いなる空を駆けよ…【エンジェルウィング(天使の羽)】!」


ヒュウウウゥゥゥゥン!


「と、飛んでる!私達飛んでるわ!」
「すごい…!地面があんなに遠く…」

ユリアの背中にある羽がいつの間にか巨大化して眩しいくらいに輝く。
そして、一条の光となって勢いよく滑空していく。
三人の眼下には十字軍が陣取るカンパネルラ城下町と、城外の大きな湖が広がる。
まさに絶景だった。







「………っ、かはぁっ…、………」

最上階に一人取り残されたリリシアは、夥しい出血ながらもなんとか意識があった。
しかしながら、最上階の崩落は目前に迫っており、このままでは
失血死が先か崩壊による圧死が先かを待つしかない状態だった。

かつては魔王軍の親衛隊長の一角として勇名をほしいままにしていた彼女だったが、
そのうち魔物たちが次々と魔界を出て自分たちで国を作っていくのを見て、
魔王の下で働くよりも自分がトップに立ちたいという気持ちが強くなった。
そして、自分で国を作った。それも人間の勢力が強い地域に堂々と。
幾多の討伐軍を撃退してなお不敗。
その強さに憧れてリリシアのもとに身を寄せる魔物や人間たちは年々増えていった。
部下にも、自分の副官だったグレイシアと、軍師のマーテル。
さらにはフェデリカやツィーリンをはじめとする頼れる友人がいた。


それが、どうだろう。今では惨めな姿で死を待つのみ。
豪奢で華麗な日々はもう二度と戻ってこない。


ガラガラガラッ   ズズーン


フロアの南半分の床が崩壊した。


ドォォン   ズガアァン


玉座が瓦礫で埋まる。





「久しぶりなのです、リリシア。」


「…!?」

突然リリシアの目の前に何者かが現れる。
小さく凹凸に乏しい身体、桃色の髪に生えたヤギのような角。
そこにはバフォメットがいた。


「残念ながら、あなたにはまだ利用価値があるのです。
なので、ここで死なせるわけにはいかないのです。」

瞬間、リリシアを中心に魔法陣が発生すると同時に、
リリシアの身体はどこかに飛ばされた。

「さて、これで回収は済んだので…」

ガラガラドッシャーン!

「ぎぃやああぁぁぁあ!いたいいたい!痛いのです!
油断したのです!このままでは私が下敷きになってしまうのです!」


謎のバフォメットもまた、次の瞬間には姿を消した。











「カンパネルラ城の最上階が崩壊していく…。一体何があったんだ?」
司令部がある宿舎の三階から、エルは崩壊するカンパネルラ城を見ていた。
「ユリアさんやマティルダ達が心配だ!様子を見に行かなければ…」

「エル様!あれはなんでしょう!?」
「ん?どうした?」
「カンパネルラ城の方から光の矢みたいなのが!」

レミィとサンが指差す方向を見ると、一筋の光が滑空しながらこちらに向かってきている。

「まてよ。光の先端部にあるのは…、羽か!それも巨大な!」

この事態に気がついた将兵は全員が光の矢の行く手を見守っていた。
やがて、高度が下がってくるとその正体がユリアたちであることが判明した。

「天使様だ!天使様が光となって飛んでいるぞ!」
「それにユニース軍団長とマティルダ副軍団長もいっしょだ!」
「おお…、なんと神々しい光景でしょうか…」

エルもまた、このぶっ飛んだ事態に驚きを隠せないでいた。


「ユリアさん…あんなことが出来るんだな。こいつは驚きだ。」
「エル司令官!ユリア様はおそらく町の中心に降りてくるはずです!」
「私たちも迎えに行きましょう!」
「そうだな。行くぞ。」





やがて、ユリアたちはゆっくりと町の中心に降り立った。
すでに周囲にはエルを中心に人だかりが出来ていた。

「エルさん、ただ今戻りました。」
「ご苦労様です、ユリアさん。」

空から降りてきたというのに、まるでいつも通りのやり取りだ。

「エル!やったわ!リリシアを討ち取ってきたわよ!」
「エル様!私もリリシアにとどめを刺しました!」
「そうか、二人も無事で何よりだった。」

エルは三人と交互に握手する。

「兵士諸君!ついに我々は本拠地カンパネルラを攻略した!
これにより、残るは自由都市アネットのみ!
この地に人類の繁栄を取り戻す日は近いぞ!」
『おーーーっ!!』
「そして、全兵士がダンジョンから撤収し、
戦後処理を終えれば、お前たちに豪勢な料理をふるまってやるぞ!」
『いええぇぇぇぇい!!』


その後、迅速な戦後処理が開始される。
カンパネルラ城自体はもはや不要なので撤去することにした。
冒険者たちや兵士たちには褒美が配られる。

なお、ユニースは筋肉痛を訴えて寝込んでしまった。
そしてユリアは…

「エルさん、紅茶が入りましたよ。」
「これはユリアさん、わざわざありがとうございます。
しかし、ユリアさんが空を飛べることは聞いていましたが、
あれほどきれいに滑空できるものなんですね。」
「ええ、お恥ずかしながらハーピーなどには敵いませんが…」
「いつか俺もユリアさんと一緒に空を飛んでみたいものですね。
空から地上を見下ろすとはどんな気持ちなんでしょう。」
「ふふふ、エルさんと一緒であればいつでも大歓迎ですよ。」
「でも、今思うのですが…、それほどの飛翔能力があれば
城壁を登らずとも一瞬で最上階にたどりつけたのでは?」
「あ…」



まあ、なにはともあれカンパネルラは陥落した。
この時点でまだ開戦からわずか二カ月しか経過していなかった。
後はアネット攻略にどれだけの時間がかかるかが勝負だろう。

11/03/21 12:32 up


おまけ


リリシア
「おーっほっほっほっほ!ごきげんよう皆様!
世界で最も華麗で最も気高いデュラハン、リリシアですわ!
わたくしだけの言葉を聞くことが出来るこの時間を至福と思うがいいですわ!

へ…?なんですって?負けたキャラには用はないですって!?
あなた達は黙ってわたくしの話をお聞きなさい!さもなくばこの剣で八つ裂きにしますわよ!
コホン…見苦しいところをお見せしましたわ。

さて、今回の戦いはいかがでしょう。
わたくし的には負け戦ですので、それほど面白いとは思えませんが
長い時間をかけた苦労が報われれば嬉しいですわ。
なにせ迷宮の表現は非常に難しいですの。こればかりは図も用意できませんわ。
ですがそこはわたくしが作った素晴らしき迷宮!
セーブポイントも少なく、驚異のエンカウント率を誇る鬼仕様!
本来なら初見殺しとされてもおかしくありませんわ!

しかし…あのエンジェルはよりによって外壁から侵入すると言う
とんでもないことを仕出かしてくれましたわ!
これはもはやRPGに対する冒涜と言いましても差し支えありませんわ!
皆さんも参謀本部に文句をおっしゃっても結構ですのよ。
その上戦闘シーンがやはり少しイマイチですわね…
作者の皆様が苦戦する気持ちが非常によくわかりますわ。
どなたか参謀本部のためにバトルシーンのSS講座をやってもらえないものかしらね?
いえ、そのような都合のいい願望はともかくといたしまして、
これからも上達に励むべきですわね。
なお、わたくしの戦闘BGMは隠れた名曲、
『ARGENTEUM_ASTRUM』(リー○のアトリエのボス戦アレンジ)
を希望いたしますわ。気高いわたくしにぴったりの曲ですわ。

ふぅ…、それにしても生き残れたのはいいのですが
当分出番はなさそうですわね。ラジオ番組でものっとってやりましょうか?
ああ、わたくしにもっと出番を!


あ、そうそう忘れるところでしたわ。
物語の中盤で逃げてしまったミミックですが、その後の消息が不明ですわ。
見かけた方は勝手に使用するなりご自由にして下さって構いませんわ。
名前も勝手に決めてもらって結構ですわ。
かわいそうなので誰か拾ってやって下さいな。

ではそろそろお別れの時間ですわね。
皆様も再びわたくしが出ることを楽しみにしているといいですわ!
おーっほっほっほっほっほ!」

???「未練はないようですね。では行くのです。」

リリシア「え…ちょっと…わたくしを連れてどこへ……」

バーソロミュ
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