連載小説
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リフォームと剣と手紙
私はトニーと付き合う、いや、結婚した。ついでと言うわけではないがミラも一夫多妻の形で加わっている。
正直、日本人の私には重婚は若干抵抗があるのだが、ミラの気持ちも無下にはしたくないので二人ともトニーと結婚した。普段が普段なので気付きにくいが、ミラはあれでも純情である。
それから私達の生活は少し変わった。
まず、ミラがいつも以上に積極的になった。これは私が五月蝿く言わなくなっただけだが、抑えがなくなったせいかだいたい毎晩セックスしている。
トニーもトニーで構わない様子だった。どうやら彼は基本甘い様で結婚してからはミラにしょっちゅう押し倒されてもまんざらでもなく受け入れていた。
私が五月蝿く言わなくなったのは、ただ単にもう結婚しているからだ。今までは手順も踏まずそのままセックスに入ろうとしていたから口出ししていただけだ。それに、もう愛し合っているのに止めろと言うのは違うだろう。
私も週に三回はセックスしている。だいたいは素直になれず遠慮してしまうのだが、ミラに強引に参加させられたり、二人きりの時等につい手を出してしまう。
本当はもうちょっと甘い恋人同士のセックスをしたいのだが、ミラも居るし、抑えが効かなくなって襲う形になったりと、若干強引になってしまう事が多いのが悩みだ。
と何だかんだで私達の仲は深まっていた。

私達は今、洞窟を大きく改装している。
これからの生活、まず間違いなく私達の間には子供が産まれる。その子達の為にも必要最低限の物しか揃っていないこの洞窟ではその必要があると判断したのだ。
リフォームにはレブラムの村人に手伝ってもらった。
レブラム村は魔物に対して寛容な村だった。村人は私達がネレイスと知っても親切に接してくれたのだ。お陰で魔物の姿のままでいられる。
彼らには感謝しなければ。
その中にはクレア達も居た。


「クレア、それにカイル。お疲れ様」
「ありがとうアヤカ」
昼の休憩にクレア夫婦に差し入れを渡す。
「はは、僕の分まである。ありがとう」
笑いながら受け取ったのはクレアの夫、カイルだ。呼び捨てなのは本人の希望である。固いのはあまり好きではない様だ。
カイルは綺麗な赤毛を伸ばしていて、中々イケメンだった。終始笑顔で妙にミステリアスな雰囲気を漂わせている。
「いえ、うちの改装を手伝って貰っているのだから当然でしょ?」
「そうかな?」
彼は不思議そうな顔をする。……こっちの世界だと当然じゃないの?
「済まない。彼は個人主義と言うか、変わっていてな」
「……そう」
「はは、困らせてごめんね?」
「いえ、小さい事だし大丈夫よ」
私は笑って返す。クレアは妙な人と結婚したものだ。
「そう言えば遅くなってしまったが、アヤカ、結婚おめでとう」
「ありがとう。後でトニーとミラにも言ってあげて」
「ああ、そうするよ」
因みにトニーとミラは離れた所でレブラムの人達と会話をしていた。
「それにしても重婚か…………。大変じゃない?」
カイルが面白そうに呟く。何故こんな楽しそうに聞くのだろう?
「今はそうでもないけど、これからが大変そうね。ミラなんか毎晩しているし」
「その分子沢山だ」
「ええ、子供が増える分にはいいけど、その分手が余りそうな気がするのよね」
「子育てなら手伝うよ。娘達も連れてくれば喜ぶだろうし」
カイルは心なしか楽しそうだった。もしかして子供が好きなのだろうか?
「まぁ、カイルもその気の様だしな。もし子育てに苦労したら言ってくれて構わない」
「そう。ありがとう。正直不安で仕方なかったから、助かるわ」
私は感謝を込めて頭を下げる。
「そう言えば、私達は重婚したわけだけど、そもそも重婚する人って少ないのかしら?」
日本では重婚は認められない。養子縁組を使えば事実上の重婚は成立するのだが、基本重婚など出来ないし、どんなに愛し合っても関係ない。
私はただ好奇心でそう聞いた。
「いや、そうでもない。重婚を好んでする種族も居るし、私達の友人にも重婚している者が居る」
「そうなの?」
「ああ、ダークヴァルキリーとエキドナと龍を嫁に持ってな。最初聞いたときは呆れたものだった」
「…………」
嫁三人。想像しただけでも疲れて来そうな人数だ。
「しかも毎日三人も相手しているそうだから感嘆する。そう言えば最近はどうしてるんだろうな。子供が出来たと言う話も聞かないが」
「……黙ってたけど十六年も前から良く嫁三人から逃げて『匿ってくれ』って押し掛けてくるんだ」
「……本当か?姿を見た覚えはないが」
クレアは少し驚く。
段々会話の軸が二人の方に逸れている気がする。
「うん。来る度に『朝から晩まで性交祥ばかりで刀も触れられない!子供の相手は任せてくれて構わないから暫く匿ってくれ‼』って泣きすがってくるんだ」
「はは、妻より刀か。彼らしいな」
こっちの世界の男性は随分大変な思いをしているようだ。
「で、来る度に子供達に剣を教えて貰ってるんだ」
「……道理で剣の腕が上達していると思ったらそう言う事か」
「黙ってたのはクレアは三人が脅されて言いそうな気がするから」
「脅されるって何を?」
「えっと、クレアの寝顔写真とかパジャーー」
「分かった!良く分かったから人前でそれを言わないでくれ‼」
さらっと言い出すカイルを赤くなったクレアが止める。
「ーーゴホン‼……まぁ話は分かった。取り敢えず帰ったら一度話そうか。それにさっきからアヤカが置いてけぼりになっている」
「おっと、ごめんね」
「別に良いわよ。それにもうそろそろ作業再開みたいだし」
「そうか。では行くか」
私達は腰を上げ、作業を再開した。


一方その頃。クレア宅の近くの森林で、男はくしゃみをした。
「っくしゅん!」
「おじさん大丈夫?」
クレアの娘の一人、シェリアが心配そうに訪ねる。
「ああ。誰かが自分の噂話でもしていたのだろうな。……もしやあやつらではなかろうな?」
男の顔が一瞬恐怖に煽られる。
その様子にシェリアは首を傾げた。
男はこの森林で親友の娘達に剣の稽古をつけていた。双子とは幼い頃からの師弟の仲である。
「おじさん、みて」
シェリアの双子の妹、ティアが木刀を高速で振り、男に見せ付ける。
「おお。随分上達したものだ。だがまだ荒いな。それではまだ隙が出来る。返す軌道を意識すればもっと良くなるだろう」
「分かった」
男のアドバイスにティアは頷き、言われた所を意識して木刀を振る。
すると、途端に隙が小さくなった。
「凄いわ。もう取り込めてる」
「ああ。思った以上に上達している。このまま行けば免許皆伝も近…………」
男は固まった。この声はシェリアのものではない。
とすると出てくる選択肢は…………。
「……お、オルガ殿?」
油が切れた機械の様に顔が隣の女性に向く。
「あら、どうしたのかしら?」
「何故ここに?」
「貴方を連れ戻しに来たに決まってるじゃない。」
オルガと呼ばれたダークヴァルキリーはにっこりと笑みを作る。
「…………ティア、シェリア」
「「何?」」
男はキョトンとする双子に視線を向けた。
「今日はここまでだッーー!」
男は全力でダッシュした。
「待ちなさい‼」
オルガも彼を追ってダッシュ、と言うより翼で猛スピードの低空飛行を行った。
だが、男は速かった。オルガさえも引き離す程に。
このまま行けば彼女をまける。しかし、
「ぬお‼」
男の足元を太い鞭の様な物が襲う。彼はそれをギリギリで飛び越えた。
「この脚はジュディス殿か!」
「フフ、まさか今の一撃を避けるとは、流石私の旦那様です!」
声のする方向に向けば、エキドナのジュディスが微笑んでいた。それも獲物を狩る捕食者の目で。
「逃がしません‼」
男は背が凍り付きそうなのをこらえ、また走り出す。鍛え上げた身体は一キロをわずか一分で走り、レブラムの村を駆け抜ける。
村を抜けると、もう二人の姿は見えなかった。
男は辺りを警戒する。
「……まいたか」
「残念じゃが、そなたの負けじゃ」
「ーー!」
後ろからの声にハッとし、地を蹴る。
「ーーグッ!」
だが、腹に蛇の様な脚が巻き付き、引き戻される。
「我が伴侶はやはり流石じゃのぉ」
「……お光殿か」
「当たりじゃ。もう逃がさぬぞ?」
後ろから男に巻き付いた脚は蛇ではなく、龍であるお光のものだ。
「は、放せ!」
彼は彼女の脚から抜け出そうと足掻くが、疲れが溜まったか抜け出せない。
「フフ、観念するんじゃな」
「ミツ!」
「やっと捕まりましたね!」
男がやって来た方向からオルガとジュディスが追い付いた。
「そなたも罪なおのこよのぉ?こな麗しいおなごらを侍らせておると言うに」
「全くよ。毎度毎度何処に行っているのかと思えば、クレア達の子供に稽古をつけていたなんてね」
「貴方は私達の夫なのです。もう少しそれを自重して下さい」
三人が三人で意見する。
「自分は武士だ!剣に生き剣に死ぬ者だ!師が弟子に稽古をつける事の何が悪い‼」

「貴方は武士である前に私達の夫よ‼」
「貴方は武士である前に私達の夫です‼」
「そなたは武士である前に我等の夫じゃ‼」

男は叫びは一瞬の内にはたかれる。
男は悲しくなってきた。
「良いであろう!朝から晩まで性交祥ばかりで、いつも刀に触れられぬではないか!少しは稽古をしても構わない筈だ!」
「「「構うわ!」」」
「ぅ!」
男はオルガ達の勢いに圧される。段々と涙目になってきた。
「な、何故だぁ!自分にとって刀は命と同じだ!刀に触れられぬなど、刀と離れるなど、…………あんまりではないかぁ!」
「「「……ゥッ!」」」
男の嗚咽が三人の心を突き刺す。
……不謹慎だが、三人は同情すると共にこう思っていた。

(((か、可愛い‼)))

「……うぅ…………あ」
涙を流す男の頬にオルガの手が触れる。
「……ごめんなさい。……貴方が剣道バカなのすっかり忘れてたわ」
男の手に、ジュディスの手が重なる。
「思えば私が好きになったのは貴方に確かな強さを感じたからです。その強さの源である刀から離そうなど、……申し訳ありません」
男の頭をお光が撫でる。
「そなたは武士であろう?そんな子童の様に泣くでない。それに我等はただそなたの子が欲しいだけじゃ」
「……こ、子供……?」
「そうよ。貴方が中々してくれないんだもの。十六年経っても未だに子供が出来ないじゃない」
「魔物にとってこれだけの年月で子供が出来ないと言うのはとてつもなく苦痛なのです。それは、貴方が刀を持てないのと同じ苦痛です」
「………………」
男は今更ながらに気づく。自分は、刀を持てないのと同じ苦痛を、十六年も彼女達に与えていたのかと。
「それに」
ジュディスは目を伏せる。そして放った言葉は、とても優しい声色だった。

「子供が出来なければ、後継ぎも出来ないじゃないですか」

「……………………!」
男は俯いた。そしてまた泣き出した。
「皆、……済まなかった!自分の事ばかりで、長い間苦痛を与えてしまった!自分は、武士失格だ!」
「大丈夫よ」
オルガは、もう一度頬を撫でる。
「これから創れば良いじゃない」
「ーー!」
「過ぎた事は仕方なかろう」
「貴方は私達の夫です。時間も一杯ありますし、挽回できるチャンスも沢山あります」
オルガ達は一様に微笑む。
「皆……」
「私達は貴方を愛しているわ。だからお願い」

「「「貴方との子供を、孕ませて下さい」」」

「あなた♥」「旦那様♥」「主殿♥」

男のそれぞれの頬、後頭部に彼女達の唇が重なる。

男、四月一日・言峰。三十二歳。インキュバスと化してから、見た目は未だに十六歳のままである。
彼らはこの後、無茶苦茶セックスした。


所海岸の洞窟に戻る。
時は夕暮れ。今日の改装作業は壁と扉を作って終わりである。
「ふう。きり良く終われたわね」
「ああ。後は漁船を調達して泊を造れば終わりだ」
「そうね。……ミラは?」
洞窟内を見回すが、ミラの姿は見当たらない。
「見てねえな」
「ただいま〜」
玄関から物音が立つ。何処かに出掛けていたのかミラは玄関から姿を表した。
「お帰りなさい。何処に行ってたの?」
「ああ、実はさっきハーピーの郵便が届いてね」
「郵便?」
「そうさ。古い知り合いのアンジェラって奴から手紙が届いたんだよ」
ここ、郵便なんて来るのね。意外だわ。……住所とかどうなっているのだろう?
ミラはさっそく封筒を破り、中身を取り出す。
その中身をみた瞬間、ミラは驚愕した。
「え、アンの奴結婚するのかい!?えっと、相手は………………レイジ、トオカ?」
え……。
「ちょっと、それ見せて‼」
「あ、ちょっと!」
「…………嘘」
私はミラから手紙を奪った。最近、こちらの言語を勉強しているので、ある程度は読解出来るようになった。そのため中身が確かに結婚式の招待状であると解る。そしてそこに書いてあるのは、確かに私の愛する弟の名前だった。
15/12/03 20:28更新 / アスク
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■作者メッセージ
今回のスペシャルゲストは四月一日と嫁三人ズです!
その中で一人、お光殿だけまだ前作に出てません。
彼女との馴れ初めはまた今度、『真の勇者とは』で書かせて頂きます。
察し付く方ももしかしたら居るかもしれませんが。
にしても十六年も逃げおおせると言うのはどうなんでしょうね?

次回はいよいよ零次君と再会します‼

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