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MCP-178 - 廃村に生きる神話
 
MCP-178 - 廃村に生きる神話

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識別番号: MCP-178

オブジェクトクラス: Goetia

特別収容プロトコル: 現在MCP-178を確実に財団施設へ収容する手順は確立されておらず、今後新たなMCP-178別個体が出現した場合は新規の特別収容プロトコルを構築して下さい。現存するMCP-178個体であるMCP-178-1は、財団が立入規制区域として偽装した半径3kmの指定したエリア-835に滞在するよう要請し、外縁部に配置された機動部隊δ-9("群雲")は区域周辺に人が不用意に侵入しないよう常時監視を行って下さい。

機動部隊δ-9はエリア-835の気象観測情報の変化を財団本部へ逐一報告することが義務付けられています。緊急プロトコル"ナルカミ"は、観測される気象に大幅な乱れが発生した場合に発令されるプロトコルです。上記プロトコルの発令時には、機動部隊δ-9は速やかにエリア-835中心から10km圏内の村落の住民を誘導し退避させて下さい。

月毎に以下の物資がMCP-178-1の元へ届けられます。

糧食 4400kcal × 30日
・布地 1m × 1m 1枚
・乾電池 12本
・灯油 10 L(冬季は45 L)

また、希望があれば以下の物資を送って下さい。

・雨具、ビニールシート
・軍手、長靴、スコップを含む工具
・除虫スプレー
・蚊取り線香
・家庭用医薬品

MCP-178-1側からその他の要望があった場合、財団本部のMCP-178-1担当研究員である████博士の許可を得た上でリストに加えて下さい。


説明: MCP-178は上半身は人間女性型ですが、脚部以下の下半身や腕部がReptilia(爬虫綱)に近い身体構造を有する魔物娘です。しかし、MCP-178-1から了承を得て回収した鱗の断片や毛髪から抽出したDNAの解析結果は、現存する全ての爬虫綱と合致しませんでした(ヒトゲノムとは██%の一致)。MCP-███やMCP-███に近縁な存在であると考えられますが、長大な下半身(尾部と呼称)の後背側に一列に生えた赤色の毛や、頭部に伸びている角状構造の形状はこれまでのいかなるMCPにも類似していません。現在MCP-178はMCP-178-1の1体のみ確認されています。

MCP-178-1は████年██月██日に、日本の███県████連峰███山で初めて存在が確認されました。発見者となった████氏は近郊の██市から山菜狩りに近くの山に訪れた際にMCP-178-1と遭遇しました。その後の氏の「遥か向こうの山頂から大きな緑色の紐がくねりながら飛んでいった」という通報に██県警察署の警察官として潜伏していたエージェント・イチノが注目し、MCPが関与する疑いがあるとして財団に報告され発見に至りました。その後の経緯は収容作戦ログを参照して下さい。

MCP-178-1は自身の特性として、未知の現実改変能力を備えています。MCP-178-1はその強力な特性を、広域の天候を望むように変化させるためにのみ行使する場合があるようです。能力はこれまでの観測結果から、MCP-178-1を中心として半径0.5km〜半径███kmにまで影響範囲を拡大できる可能性が示唆されています。

現在までに確認されたMCP-178-1の代表的な現実改変の内容は以下の通りです。

・雲量0・快晴のエリア-835を、能力行使の15分後に雲量9・雨天に改変する
・50mm/1hの大雨を3mm/1hの弱い雨に改変する
・雲量不明の雲と霧を一帯に発生させる
・40m/s以上の激しい風でエリア上空の雲を除去する
・███mm/1hの局地的豪雨を発生させる※1

上記の現実改変能力の脅威度やMCP-178-1自身が有する長距離飛行能力から、MCP-178のオブジェクトクラスをGoetiaからVoynichへと再分類するための検討が行われています。却下されました。今後新たに問題が発生しない限りVoynichへの変更はありません。 - ████博士




 収容作戦ログ・MCP-178-1-1:

目的: MCP-178-1の捜索と対話接触
日時: ████年6月14日
人員: 対話を行うDクラス職員1名、サポート用の財団職員2名
装備: 財団標準の個人装備と通信機に加え、登山用具、3日分の携行糧食

※MCP-178-1への心理的負担を鑑みて、これ以上の人員でエリアに向かうことは不適であると判断された。同様の理由で財団所有の輸送ヘリコプターも使用不可。

※D-2811は前職での経験から登山に熟知しているため今作戦に抜擢された。██年前の幼少期に家族を火災で父以外の全員を亡くしており(その父親も█年前に病死している)、現在まで独身。性格診断はやや無気力傾向にあったが、財団作製の複合形式心理検査の結果から作戦に支障なしと判断された。


 《████年 6月14日 6時00分 録音開始》

████博士: テスト。こちらの声は聞こえてるか?

隊員A: はい、問題なく聞こえます。

隊員B: 同じく。

████博士: (少し時間を置いてから)……D-2811?

D-2811: ああ。

████博士: この任務における通信は全て録音されている。情報として残すため、こちらへの返事はきちんと行うように。

D-2811: そうか。

████博士: ……まあいい。では、指定エリアへの進入を開始してくれ。

隊員A: 了解しました。おいD-2811、大丈夫か?

D-2811: ああ、分かってる。給料分はやるさ。

隊員B: おいおい……。

 (エリア進入から4時間が経過)

隊員A: ――村、があるな。本部が得た衛星画像の通り、山中に農村があった。……信じられん。今は誰もいないようだが、こんな険しい山奥に人が住んでいたのか。

████博士: 資料によれば、1███年に最後の住居者が亡くなったようだ。若者は山を降り、やがて老人が居なくなればそんなものだろう。

隊員A: なるほど、かなり前ですね。家も畑も全て廃墟になっていることを確認した後キャンプを設営し、先に進みます。

D-2811: おい、████(隊員Bの苗字)つったか。

隊員B: (息を荒くして)あ、ああ、どうした?

D-2811: お前、登山慣れてないだろ。

隊員B: えっ?

D-2811: ……枝や石は踏むな。ここは斜角のある山だから上半身も前に倒しとけ。もう少し小幅で歩くと疲れも少ない。

隊員B: わ、分かった。ありがとう。

 (その後3日間周辺の捜索を続けたがMCP-178発見に至らなかったため、一度隊員達に撤退命令を出した)


 付記: キャンプの設営までは問題なく進んでいたが、やはりそう上手くはいかないか。目撃報告によればかなり近い地点にまで捜索が及んだはずなのだが。より捜索範囲を広げる必要があるだろうか? 人員負担は大きくなりそうだが……。 - ████博士




 収容作戦ログ・MCP-178-1-2:

日時: ████年6月23日
目的: MCP-178-1-1作戦と同様
人員: 同上
装備: 同上

※MCP-178-1-1作戦から更に探索範囲を拡大し、より███山の山頂方面の広範囲を探索するように人員に指示を出した。

※2日間は成果が得られなかった。状況が変化したのは3日目午前、D-2811による単独での探索時。


 《████年6月25日 11時28分》

D-2811: 博士、山頂付近で泉を発見した。

████博士: 泉を? 私の手元にある衛星画像では確認できないが。

D-2811: 小さな泉だ。周りの木々に埋もれている。

████博士: なるほど、上空から見えないわけだ。

D-2811: 奥の切り立った斜面に洞穴が見える。そこまで探索してから一度キャンプまで帰還を……。

MCP-178-1: まさか、ヒトの子がここまで来るとは。

D-2811: ……アンタはヒトの子じゃなさそうだな。

████博士: D-2811、今の声は?

D-2811: 多分、博士の想像してる通りだ。録音されてるんだろ? えー、今から対象との対話を試みる。

MCP-178-1: いったい何なのですか、先程から話しかけているその黒いカタマリは? いえ、知っています。キカイというモノですね?

D-2811: 機械というか、通信機だ。そういうアンタは、妙に時代がかった服装をしてるな。

MCP-178-1: 時代…………時代、時代。

D-2811: なんだ?

MCP-178-1: そうですね。たまに空に上がって見下ろす地上の風景も、もうかなり変わってしまいました。鉄の塔が幾つも建ち、道は灰色になり、そこを四角いモノが数多と走り……。

D-2811: …………。

MCP-178-1: お引き取りください。ここはあなた方の来る場所ではありませんよ。

D-2811: アンタに用があって来たんだが。

MCP-178-1: 私にはありません。

D-2811: あっ、おい。……悪い、博士。飛んで逃げられた。だが、この辺りが住処で間違いなさそうだ。多分あの洞穴だろう。

████博士: 通信機越しに会話は聞いていた。キャンプで隊員達と合流して帰投し、一度詳細な報告を上げてくれ。

D-2811: ああ。


 付記: あの無愛想の報告によるとMCP-178-1は下半身が爬虫類の身体で、上半身にはツノやらカギ爪が存在しているらしい。しかも、身体をくねらせながら飛び上がっていった? そりゃ、まるで昔話の██じゃないか。それに断片的な会話を聞く限りでは、かなり収容が難しいタイプのMCPに感じる。これは厄介な案件だ、D-2811に対話を任せていて大丈夫なのだろうか? - ████博士




 収容作戦ログ・MCP-178-1-6:

日時: ████年8月10日
目的: MCP-178-1との対話接触、収容要請
人員: D-2811と他隊員2名
装備: MCP-178-1-2と同様


※MCP-178-1-2から複数回の探索と接触を行ったが、依然として目立つ成果は得られなかった。

※他隊員は何人か交代しているが、D-2811は彼自身からの要望もあり任務を継続している。


 《████年8月12日 17時41分》

MCP-178-1: あなたも懲りませんね。

D-2811: 仕事なんだよ。

MCP-178-1: ……酔狂な、森の夜はヒトの子には危険極まりないというのに。

D-2811: そんなものは知ってる。おいアンタ、とっとと財団に収容されてくれねえか。

MCP-178-1: またそれですか。お断りします。

D-2811: 理由は説明したよな。

MCP-178-1: あなた方の言うMCPの事ですね。確かに私も似たようなモノであり、それにヒトの子では扱いきれないような大きな力も持っています。……持っていました。

D-2811: ああ。雨降らしたりするのが本当ならな。伝説みてえだな、おい。

MCP-178-1: …………そんなモノではありません。昔はヒトの子に乞われて恵雨を降らせたこの力も、今はもう限りなく弱まっています。何度も来ているなら見たでしょう。私がこの身体を得た時には既に遅く、かつての信奉者らの子達はみな山を去った後でした。

D-2811: ……よく分からないが、あの村の事か? それならアンタもここを離れればいいだろ。

MCP-178-1: 私が離れることはありません。この場所は私の身体の一部であり、魂の一部のようなものですから。

D-2811: こんな辺鄙な山奥に、魂の一部なんてご大層なものを置いておく意味があるのか?

MCP-178-1: 私自身が山の一部なのです。これも時代なのでしょう。我々がヒトの子にとって必要であった時代は過ぎ去り、生きる意味を失い、後はただ自身が終わるのを静かに待つのみになりました。

D-2811: 死ぬってことかよ。

MCP-178-1: はい。先程言ったように、私の昔持っていた力は既に底をついています。ヒトの子らと会うこともなければ、害を為すこともないと約束しましょう。それでは。

D-2811: おいっ! 博士、対象が飛び去った。

████博士: 分かった。帰投してくれ。

D-2811: チッ。…………了解。
 

 付記: MCP-178-1の自己申告が真実であるならば、MCP-178は潜在的にはVoynichクラスの改変能力を持っているが現在はもう使用不能である、ということになる。収容に反対する理由にも虚偽はなさそうだ。また、どうやら人との関わりを避ける気質のようであるから、無闇に会うことは逆に要らぬ禍根を残しかねない。よってクラス分類はGoetiaとして、対話接触の回数は今後縮小することに決定した。 - ████博士




 収容作戦ログ・MCP-178-1-7:

日時: ████年8月26日
目的: MCP-178-1への収容要請 後述の理由により中止
人員: D-2811と他隊員2名
装備: MCP-178-1-2と同様


※予定されていた作戦行動は、████年最大規模とされる台風の接近により中断された。人員は極度の悪天候から財団施設に待機となり、次日に撤収する手筈となっていた。






 インシデント178-1-A:

日時: ████年8月26日
場所: ████連峰付近の財団施設
内容: Dクラス職員の脱走事案








 《████年8月26日 ██時52分 自動録音開始》


████博士: 君のGPS位置座標が待機施設から移動している。理由を説明してくれ。

D-2811: ………………。

████博士: D-2811? 早く答えろ!!

D-2811: ……理由って、そりゃ作戦だろうが。

████博士: MCP-178-1に関する作戦は中断の通達を出したはずだ。届いていなかったのか?

D-2811: ………………。

████博士: 今すぐに移動を止めろ! お前、何をしているのか分かってるのか!?

D-2811: ああ。分かってる。

████博士: ……ならば、どうして。

D-2811: どうしてもクソもないだろ。一応Dクラスとして雇われてるんだ、金の分の仕事はしないとな。

████博士: だから作戦は中止だと! 言っておくが、これは命令逸脱による重大な職務規定違反だぞ! お前のDクラス職員権限も剥奪されるだろう!

D-2811: 鏡見てる気分なんだよ。

████博士: ………………は?

D-2811: アンタだって、朝起きたら鏡くらい見るだろ。

████博士: お前、何を言って……。

D-2811: それなんだよ。アレを見てるとそんな気分になる。生きる理由なんてどうでもいいだろうが。好きにすりゃあいいじゃねえか。

████博士: …………D-2811、もう一度だけ言う。この悪天候だと山の中がどうなっているか、専門家だった君が知らないはずがないだろう。MCP-178-1については、これまでだって彼女1人で山中で暮らしてきたのだから……。

D-2811: アンタも聞いてただろ、アレの持つ力、弱くなってるって言ってたじゃねえか。

████博士: やめるんだ、君が死ぬぞ。

D-2811: そんときゃそんときだ。んじゃ、そろそろ――

████博士: ――――待てっ!!

D-2811: ……あ?

████博士: ……どうやら、そちらの備品ロッカールームの電子錠が解除されてしまっているようだ。財団標準装備の盗難でも起きれば大問題になる。今の私は手が離せないから、15分後にでもそちらの職員に連絡を行うことにする。

D-2811: アンタ、最高だぜ。

 《████年8月26日 ██時55分 通信終了》








補遺1: 脱走事案を起こしたDクラス職員は、████年8月27日午前に███山の廃村で発見されました。財団所有のヘリコプターで回収指揮を執っていた████博士助手にその場で治療診断を受けましたが、大きな傷病はありませんでした。当Dクラス職員は、財団での事情聴取の後に解雇処分となりました





補遺2: ████年8月27日の未明、████県████連峰上空に位置していた台風が突如として消失しています。熱帯低気圧が瞬時に消散したこの現象はMCP-178の現実改変能力と関係があるとされており、MCP-178が発揮した能力を財団が観測した事例としては初のケースとなりました。




補遺3: ████年現在、MCP-178-1の元へと届ける物資リストに下記の追加項目を検討中です。

・湯温計
・体温計
・ガーゼ・綿棒
・タオル類


 付記1: ついでにあの無愛想に小型の寝具※2でも投げつけてきてくれ。 - ████博士
 付記2: それもありますが、エリア-835をSafeクラスやGoetiaクラスのMCPの収容・滞在エリアとして活用するプランも早く検討しましょう。 - 博士助手・████




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※1. 事件後にMCP-178-1のパートナーから事情を聴取したところ、「触るトコをミスっちまった」との発言が得られました。

※2. 恐らく乳児用寝具の事を指しているものと考えられます。 - 博士助手・████
 
 
17/08/10 12:33更新 / しっぽ屋
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