読切小説
[TOP]
リュウさん
「じゃあ、よろしくお願いします。リュウさん。」

「はい!不束者ですがよろしくお願いしますね!」

話は少し前にさかのぼる。
家にリュウさんが来ることになった。
以前から自分の住むアパートの隣の部屋に住んでいたのだが、ここ最近物騒だからという理由で自分の部屋に転がり込んでくることになった。
大家さん曰く最近は魔物相手でもストーカーするという命知らず…もとい美貌に惹かれる変質者が結構いるらしい。
そういった事情から断ることもできず、自分はリュウさんを受け入れることになったのだ。
面識こそあれど正直パーソナルスペースを半分明け渡すというのはためらうものがあったのだが、家賃、食費光熱費その他もろもろ
折半という条件は金欠気味な自分にとって垂涎ものだったのでありがたい話でも合った。
それにリュウさんも同居してみればおしとやかで静謐でそうした中できらりと光る元気の良さ。
昨今まれにみる気立てのいい人、とでもいえばいいだろうか。どことなく古風な感じに自分は惹かれて行った。同居して正解だったと思う。
もともといいところのお屋敷の出だったり神としてあがめられていた経緯もあって女性としては100点満点だ。

はっきり言って最高だ。

最高…なのだが…

「ふぅ…おもしろいですねぇ…このぴーゆーじーびーというゲームは!」

「あの…リュウさん。」

「さて次は気分を変えてこのふぉーとない…」

「ちょっと待てぇ!!」

「あら?」

即落ちしてしまった。(ゲームの面白さに)


きっかけは初日の出来事。

自分は親睦を深めるために適当にゲームでもしようと思ったのだ。
初めは色とりどりのゲーム機に目をキラキラさせていた彼女を見てかわいいなぁと思い一緒になって遊んでいたのだが…。
次第にゲームにどっぷりとハマって行き…始めは分担作業だった家事も今では自分一人でやる状態になってしまっていた。

「ゲームばっかりしてちゃだめですよリュウさん。もう何日外に出ていないと思っているんですか。」

「それは大丈夫です。神様とは基本引きこもるものですし。それに私最近まで自宅の社に20年ほど仕事で幽閉されていましたのでこの程度引きこもりのうちには入っていません。」

「キラキラした笑顔からさらりとすごい情報出てきた!?引きこもるなら引きこもるで少しは家事をやってくださいよ!」

「そうは言いましても基本神様ですので…豊作祈願を受けたら神通力で適当に台風を逸らしたりとかぐらいしかできませんよ?」

「地味にすごいこと言ってるけれど何の足しにもならない!?」

「いいじゃないですかぁ。私年二回働けば収支全部プラスになるんですからぁ。」

家賃折半を差し引いても限度というものはある。
初めのうちは何かしてくれるだろうとも思ったし、女性の前だったから家事ぐらい楽勝とかちょっとかっこつけてみたいと思った自分もいた。
だが…淡い期待こそ抱いていたが彼女は何もしない。
ゲームを勧めた原因は確かに自分にある。だが悪いのは自分かと言われたらそれはないと思いたい。要は限度を知らないのだ。
かあちゃんごめんよ。俺が中学の時ずっとゲームしてたのをこんな気持ちで見ていたんだな…。
今になって召使同然の自分の立場に何となく因果を感じてしまう。

「ん〜〜〜ゲーム面白い!こんなものがあるだなんて!書に尊び芸に通ずるのアホくさくなってまいりました!」

「そもそも今までリュウさんどうやって一人暮らししてたんですか。」

「家はお風呂と寝るためだけに使っておりましたので。それ以外は基本実家です!」

「マリーアントワネットだってそんなことしないぞ…。ともかく家事を覚えましょう。それまでゲームは禁止です。」

「まあ。供物をささげないというなら容赦なく飢饉にでもしますよ。」

「加減を考えてくださいよ!?じゃあこうしましょう。ゲームで勝負。それで負けたほうが勝った方の言うことを聞く。それでどうですか?」

「まあそれはよいのですか?こう見えて私は結構ゲーム上手になりましたけれど。」

「構いませんよ。自分が勝ったら家事を手伝ってもらいます。」

「では私が勝ったらネット通販でこれと同じハードをあと3台買いますからね。」

「なんでそんなに!?」

「ディスクを入れ替えるの面倒になって3台買ったらスムーズになったとコメント欄に…」

「待ってくださいさりげなくモニタも分配器もOAタップもカートに入れてますよね!?ブレーカー落ちますよここの電力だと!」

「それは部屋を暗くしますので…」

「マジで体を壊す奴だからやめてほしい。」

そんなこんなで自分とリュウさんはゲーム対決をすることになった。
同居したての頃はほんの数本ゲームが置いてあるだけだったのだが今ではほとんどリュウさんの購入したゲームの山で見えなくなってしまっている。
…まあゲームなんて大抵ジャンルが同じなら操作の仕方も同じだしぶっつけ本番でもなんとかなるだろう。

「ではゲームを選びますね!じゃん!格闘ゲーム〜!こんなこともあろうか」

ガチャガタンバタン…

「…ではゲームを選びますね!じゃん!格闘ゲーム〜!こんなこともあろうかとアケコンは2台買っておきました。」

「崩れたゲームの山はちゃんと片づけてくださいね。それと自分は普通のコントローラーでいいです。」

「…舐めてらっしゃるのですか?」

「そんな怖い顔するのやめてください。最近の格闘ゲームってストーリーモードが充実しているのでこれで十分だったんですよ。」

「これから神に挑むというのにずいぶんと弱気ですね。ですがいいでしょう。これは試練です。あなたには神の威光を思い知らせて
 あげましょう!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第一ラウンド リュウVS自分 競技種目…格闘ゲーム
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「日夜私が格闘ゲームで鍛えこんだ腕前を見せてあげましょう!」

「え?最近TPSばっかりでしたよねリュウさ…」

「隙あり!」

「強パンチ」counter!

「くっ差し込みますね!では今度はこっちが…」

「強パンチ」counter!

「こっ…この」

「強パンチ」counter!

「……っ!」

「強パンチ」counter!

………
……


「ひっく…ひっく…」

「じゃあとりあえず簡単なところから洗濯物たたんでしまうところから始めましょうか。」

「鬼よ…あなたは鬼よ!」

「そういわないでください。勝っちゃったんですから。」

「なんで空対空で私が必ず一方的に負けるのぉ…なんで強パンチいっぱいささるのぉ…ひっく…」

「リュウさん。ゲームが得意なのと喧嘩が得意なのは全然違いますよ。」

「格ゲーは喧嘩かどうかで片付いたりしないわよぉ…ちょっとは手加減しなさいよぉ…うう…」

「いいですけれど手加減して負けたらどうなされるおつもりですか?」

「腹立ちますね!私神様ですよ!もういいです切り替えていきます!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第二ラウンド リュウVS自分 競技種目…TPS
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いつか一緒にやろうと思ってもう一台モニタとPCを用意しておきました!」

「ありがたいですが押入れに布団が入らなくなるので今後は止めてくださいよ…」

「さあ勝負です!」

「…むぅ…さすがは最近までやりこんでいただけありますね。どこにいるのかさっぱりわかりません。」

「…こんな時まであなたは普通のコントローラーで操作するのね…」

「ゲームなんてゲーム機でしかやりませんので…あっこれジャンプか。」

(ふふ…ごめんなさいね。実力差があるところ悪いけれどここは神通力を使わせてもらうわ…あなたを見つけた瞬間私が体感する
 時間を急激に遅くして思考時間を圧縮させるその名も神龍リフレックス…!家事なんて絶対するものですか。)

「おかしいですね。リュウさんならこのゴミ箱に隠れてると思ってるんですけれど。」

「それはどういう意味…!見つけたっ…!」

「あっゴキブリ…。」

「そこだぁーっ!神龍リフレックスー!」

「が自分のマシンのエアフローからでてきたのでちぃゆぅぅうぅぅぅぅぅううぅぉおおおおおっとぅおうぅうおうぼっぅつ

(えっ!?ゴキブリ!?やだ!?うそ!?なんで!?押入れにPCしまってたから!?うそでしょ!?あんなゆっくり動いて…!?ひぃぃいい〜〜!?!?!?目が!いまゴキと目があった!?た…たすっ…たすけっ…!!!?!?)

………
……


「ひっく…ひっく…」

「いい機会ですから布団干しもお願いしますね。人が手を入れるだけでゴキは逃げるらしいですよ。」

「なんで私が気絶してる時に倒すのよぉ…」

「すいません。まさか気絶してるとは思わなくてゴキブリと一緒にリュウさん倒しちゃいました。」

「会話の中でも一緒にしないで!!しかも一機だけならともかく何十機も倒してるじゃない!」

「倒すたびにリュウさんのキャラが何人も湧いて出てきて不気味だったのでつい。」

「だから虫みたいに言わないでぇ〜!こうなったら…あなたの苦手なゲームで勝負です!」

「プライドのかけらもない発言ですがそんなにやりたくないですか?家事。」

「私はゲームがやりたいの!」

「自分はリュウさんと家事、一緒にやったら楽しいと思いますけれど。」

「…その言葉、正直うれしいけど…負けっぱなしで終われるわけありません!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第三ラウンド リュウVS自分 競技種目…落ちものパズルゲーム
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これなら勝てますね!さあかかってきなさい!神に背き愚かな人類よ!」

「くっ…すごい速さで積んでいますね。得意なんですか?」

「こう見えて隅から隅まで遊んでいます。落下する色も把握済みです!」

「今度こそ負けそうですね…ん?」

ピンポーン

「すみませーん!大家ですけれどー!」

「リュウさん。すみませんが大家のリリムさんが来ましたのでポーズしてもらっていいですか?」

「はい。」

「じゃあちょっと失礼します。はーい今行きますー。」

(ふふ…ごめんなさいね。二度ならず三度までも負けるわけにはいきません。ポーズを解除して…さらに相手を次の一手で負けるように限界まで積み上げる!さっきTPSで散々私をやっつけた恨みを受けなさい!)

「元気してた?リュウちゃん。あれから変なストーカーとかいない?」

「リリムさん!お久しぶりです〜大丈夫ですよ。」

「あらあら、ずいぶんと懐かしいもので遊んでるわねぇ。」

「知ってるんですか?そのゲーム。よければ代打ちお願いします。まだ始めたばっかりですけど。」

「あら?いいの?私これ結構得意よ?」

「ちょ…ちょっと待って!これ私とあなたの真剣勝負だから…!」

「リュウさんすみません。ちょっと自分リリムさんに三日後の納涼大会のビールの買い出しを頼まれてたのすっかり忘れてまして。出かけてきます。」

「あっ!まって!待ってよぉ!?行く!私も買い出し行くから…!お手伝いするから…!ね!?家事でしょそれ!?ねえってば!」

「であればリリムさんに麦茶をお願いします。」

「お構いなくて大丈夫よ。」

ガチャン

「あっ」

「じゃあはじめましょっかリュウちゃん。」

ピッ

G A M E O V E R
  -player 1 win-

「……。」

「……。」

「ふぅ〜ん。なるほどねぇ。」

「………あっ…あの…」

「ねえリュウちゃん。私、言ったわよね。絶対に迷惑をかけないことを条件に隣の人と同居させてあげてもいいって。」

「でっ…でもこれはゲームで…」

「ごめんねリュウちゃん。今日掃除でリュウちゃんが使ってた隣のお部屋を掃除してて全部聞いちゃってたの。」

「………。」

「………。」

「……あっ…ご…ごめんなさ…」

「大丈夫よリュウちゃん。同じ魔物同士だからひどいことはしないわ。でも…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

「反省はしたほうがいいと思うの、ね?」

「ひっ…!?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
裏ボス襲来 -extra matching-
リュウVSリリム(落ちものパズルゲームRating:champion現役ホルダー)
競技種目…落ちものパズルゲーム
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

………
……


「すいません。今戻りました。」

「あら、ずいぶんと早かったのね。ありがとう助かったわ。汗びっしょりじゃない。」

「積み下ろしまで一緒にやってきましたからね。物は全部倉庫に積んであります。」

「あら、うれしいわぁ。じゃああとはよろしくね♪」

「…ずいぶんと機嫌がいいな…戻りましたよリュウさ」

「ひっく…ひっく…うう…ひっく…」

「負けたんですか。」

player 1 win 1 lose 44
player 2 win 44 lose 1

「一回勝ってるじゃないですか。」

「勝ってません…私勝っていません…ぐすっ…一度も…!」

「…そう言わずに元気出してください。」

家主君へ

「ん?何この紙。」

家主君へ

私リュウは立会人リリムの元以下の契約を全うすることを誓います

1.乾いた洗濯物は率先して畳んでしまいます
2.布団は定期的に干します
3.遊んでいないゲームはちゃんとかたづけます
4.コントローラーは元あった場所にもどします
5.コンセント周りは必ず整理整頓します
6.掃除は必ずこまめに行います
7.忙しいときは代わりに買い物に出かけます
8.お風呂洗いをおこないます
9.読んだ本は必ず自分で棚に戻します
10.脱いだ服は必ず洗濯機へ入れます
11.使ったシャンプー、リンスは元あった場所にもどします
12.ドライヤーはケーブルをまいて元あった場所に戻します。
13.トイレの汚れは必ず気が付いたときに洗って落とします。
14.部屋の換気は必ず行います
15.ごみは必ず分別してゴミ箱に入れます
16.洗濯は晴れた日には進んで行います
17.洗濯機は必ず一日一回で済むようにします
18.お風呂掃除はちゃんとカビ掃除からおこないます
19.こまめに排水溝のフィルターはとりかえます
20.お風呂に漫画は持ち込みません
21.食器洗いは進んで行います
22.三角コーナー、排水溝はきれいにします
23.ちゃんとタライにお湯をためてから食器洗いを始めます
24.冷蔵庫の中は整理します
25.冷蔵庫を10秒以上あけっぱなしにしません
26.水は出しっぱなしにしません
27.トイレの芳香剤の残った入れ物だけの部分はこまめに処分します
28.トイレットペーパーの補充は気づいたときに行います
29.雑誌はこまめに縛って捨てます
30.使った食器はこまめに洗います
31.勝手に人のものを使いません
32.通販の段ボールはきちんとその日のうちに畳みます
33.はさみを出しっぱなしにしません
34.はがしたテープはきちんと分別します
35.ゴミ袋はあらかじめ分別できるように3つのごみ箱を準備します
36.ゴミ袋はこまめに取り替えます
37.その日のうちに必ずペットボトルのごみはこまめにつぶしてラベルとキャップを分別します
38.同居人の迷惑になるほどゲームはしません
39.休日は許可なく昼間までごろごろしません
40.夜遅くにゲームをするときは必ずヘッドフォンを着用します
41.話をするときはマルチプレイであっても中断します
42.同居人にガチャボタンを押させて外れても怒りません
43.布団にもぐっていつまでもソシャゲをしません

44.上記戒律を破りし場合(判読不能な字)の名において制裁を与える

契約履行者名:リュウ

立会人署名:(判読不明のサイン)

署名者___________←ここに名前書いてね♪リリムより☆


「…………。」

「ひっく…………ひぐっ…………。」

「あの…いったい何をしてたんですか…?あっ言いたくないなら言わなくてもいいです。まずはその…いったん落ち着いてから…」

「………る…」

「はい?」

「こころをいれかえていえのことをしますのでゆるしてください…」

「えええ…」

後日納涼祭はリュウさんのストレスにより一時天候が危ぶまれたが献身的な接待プレイにより快晴へと導かれ難を逃れた。


☆おしまい☆
18/06/10 22:48更新 / にもの

■作者メッセージ
世 の 中 ゲ ー ム が う ま い だ け じ ゃ 生 き て い け な い (真理)

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33