読切小説
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精霊の国を照らす太陽
痛みで眠りから覚める。
男がムチを振るったからだ。

かつては平和な国であった。
小さいが、豊かな自然があり、優しい王によって平和に私達は暮らしていた。
人々はその自然の精霊達と共存し、良き友人として暮らしていた。

しかし数年前、精霊の力を狙った帝国によって国は滅び去り、我々は支配された。
特に精霊を使える素質がある者は老若男女問わず、強引に集められて兵士……、いや兵器として扱われていた。

監視役の男は目覚めた私に告げる。
次の戦争のために、候補生から優秀な者を選別しろと。

そのことに反感を持った私が気に入らなかったのだろう。
再び私を殴って、男は部屋を出ていった。

自国の民を、そして精霊を兵器として戦争の道具にされる……。
それ以上の悲しみはない……。

だがそれに抵抗できない私の無力さこそが一番……。



そしてとりあえずの選別を終えて、明日への報告に憂鬱を覚えたまま、眠りにつこうとしたその時だった。

「久しぶりだね……!」

そこにそれは居た。
かつて国が平和だった頃、一緒に過ごした私の一番の親友であった闇の精霊であった。

「悲しんでる……?」

彼女は優しく私の涙を拭き取ってくる。

「大丈夫だよ……!私が居るから……!」

精霊は私を抱きしめる。

「私達が手を合わせれば……!きっと……」

精霊の想いが伝わってくる……。

「そう、私達が力を合わせれば……!」

そして……、2人は私になった。








私はまだ普通の人間のふりをして時間をかけて準備をしていた。
その間に集められていた子供達も彼らからの縛りから解放していった。

私達は自然の力を使える……、そして自然の力は何よりも大きく、そして激しいのだ。








まず最初に水が変わった。
どろりと濁り切った水へと。
気づかない者はそれを飲み続けていた。
次第にその水は、より美しくなる水と噂になっていた。

次に土が変わった。
土地が荒れてた国の大地は次第に柔らかく滋養が豊富な土地へと変わっていった。
彼らはその事に目が奪われ、土地の植物が妖しく禍々しいものへと変化していく事に気づかなかった。

そして風が変わった。
きつく、強い風が吹いていたその国の風は優しく、そしてどこか甘い香りがするようになった。
時折りそれらの風が、人々の衣服を靡かせていった。

そして火が変わった。
街灯や松明、暖炉の火、それらは一斉に激しく燃えていった。
その炎は人々も巻き込まれていく。
しかし、その炎は服は焼いても身体を焼く事はなかった。
しかし人々の心にある情欲の炎は燃え盛っていく。

その炎を消そうと水をかけても、その水はまるで油のように炎をさらに燃やし、身体を焼く飢餓感を止めるために果実や植物を食べても、さらにそれは加速する。
風はさらに激しく燃えしていく……。

気づいたら人々は激しく交わっている者だらけだった。
その事態に気づいて一部のものは抵抗しようとするも、無駄だった。

空にそれはあった。
黒い太陽が。
黒い太陽の光は、人々の理性を焼き、本能を活性化させた。

室内でも、屋外でも光はさす。
剣を、杖を人々は手放していく。
燦々とそれは照らしていく。
ゆっくりと魔力を撒き散らかしながら。

黒い太陽は、ある人達に会っていた。
それは自分たちの国の王子とその妻であった。
その近くではさっきまでこの国を支配していた侵略者の王が、多数の女達に犯され愛されていた。

王子と妃は、黒い太陽に言う。
あなたのお陰で国は救われた、あなたが新しい王になってくれ。と

黒い太陽は言う。
私はただのヒトです。
自然を愛するただの……。
私はこの国を照らす黒い太陽で良いのです。と

そうしてかつて侵略者によって滅ぼされた国は蘇った。







黒い太陽は国の真上から眺めている。
ヒトと精霊が、力を合わせて生きている世界を。
濃い魔力の光が差し、どろりとした魔力溢れる水が流れ、柔らかく豊かな土の上で禍々しい植物が生えて、どろりとした風がゆっくり流れ、暖かくされど激しい炎が燃えている。

その中で人々は時に笑い、時に泣き、そして愛し快楽を分かち合う。
そんなかつての国以上の自然の力にあふれた国を眺めながら彼女は思った……。

「私も……彼氏欲しい……!」





24/01/19 20:00更新 / デーカルス

■作者メッセージ
今までの魔物化系だと一番リーダーが理性的な話だったり。
元が精霊を使ってた人々なので、元王国民は基本的に理性的なのが多かったり。
帝国側の方が理性飛んでるのが多いという裏設定

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