読切小説
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使われし男の……
「朱美!? これは一体!?」
「どうもこうもない。見ての通りだ」
「なっ!?」
 朱美はこれまで丁寧な言葉遣いをしていた。それなのに氷のように冷たく突き放したような話し方をする。これが本性なのか……源三郎はめまいがするかのような気持ちに襲われていた。
 十五で元服し、苦労し城に勤めて早二十年……真面目ではあるが少々偏屈で要領が悪い、道具を大事にはするがケチ臭い……そんな源三郎はなかなか出世できずにいた。今は藩の勘定所の一役人だ。周囲の者が出世し結婚するなか、偏屈な自分は相手もおらずに焦り始めたが、それでもようやくそれなりの立場になれたこの頃……その時に出会ったのが朱美であった。自分に懐いてくる朱美に源三郎は心を開き、共に暮らそうとしていたのだが……その朱美に深夜、大事な話があると廃寺に呼び出された。大雨が降っていたが、傘をさして雨の中、山道を抜けて指定された寺に向かったら……これである。朱美は今、小太刀を構えて源三郎の目の前に立っていた。さらにその背後には頭巾で顔を隠した男が一人。手には抜身の刀が握られている。問答無用で源三郎を斬るつもりだ。
 震える手で源三郎は刀を抜く。無銘の安刀であるが、よく手入れされている。だが腰が引けている構えではその刀の見栄えは竹刀にも及ばなかった。朱美はせせら笑う。
「そんな震えた手で斬れるのか? 女の私を斬ることもできぬぞ」
 少し前までは豪雨が降っていたが、それは今は嘘のように晴れており、荒れ寺は静まり返っていた。故に朱美の声はいやらしいまでに源三郎の耳に響く。
「お、お主……お主は一体!?」
 虚勢を張って源三郎は怒鳴る。一体何者だと尋ねながら、源三郎はもう分かっていた。認めたくはないが。朱美は他国の忍だ。源三郎に色を使って近寄り、内情を探るのが彼女の任務だったのだ。そしてもはや源三郎は用済みと言ったところか。
「切腹前に貴様の殿に告げ口されるのも困るのでな、おとなしくこの荒れ寺の無縁仏になってもらおう」
 朱美が左手を挙げる。始末侍がツッと間合いを詰めてきた。相当な手練だ。おそらくは勝てまい。それでも精一杯の抵抗をして討ち死にをしようと源三郎は震える手を強引に押さえこみ、構えた。
 始末侍が襲いかかってきた。速い。体を開いてかわそうとしたが少し遅かった。源三郎の胸が浅く斬られる。血がつつと肌を伝い落ちるが、まだ致命傷ではない。源三郎は刀を振りかぶった。上段に構えた刀を振り下ろす。始末侍は軽く後ろに跳んで躱した。そして胴を払いにかかる。慌てて刀を構えなおし、源三郎はその刃を受け止めた。あまり良い手ではない。相手の動きを止めることができるが自分の動きも止めるのだ。そしてそれが敵の狙いなのだ。静観していた朱美が小太刀を構えて源三郎に突進してきた。これで脇腹を突き刺し、抉り、命を絶つつもりであろう。もう自分は助かるまい。
『これまでか……』
 それでもその痛みに耐え、せめて一太刀でもこの二人に浴びせよう……源三郎は歯を食いしばる。
 だがその時だった。ものすごい轟音が荒れ寺に響き渡った。穴だらけの障子戸が外側から吹き飛び、傷んだ床の上に転がる。それと同時に何かの影が流星のように飛び込み、源三郎と朱美の間を割って入った。
ガキィイン
 鈍い金属音が辺りに響く。朱美の小太刀が寺の床に転がっていた。あっけにとられる一同。その間に飛び込んできた影がさらに動く。源三郎とつばぜり合いをしていた始末侍の懐に潜り込んだ。どすんと言う鈍い音がしたと思うと、ぐえっと押しつぶされたかのような悲鳴が始末侍の口から漏れる。そのまま彼は目をぐりんと上に向け、倒れこんだ。どうやらみぞおちに一撃が入ったらしい。
「主様には指一本触れさせませぬ」
 凛とした女の声が響いた。その飛び込んできた者の声であった。背丈も五尺(150cm)ほど。大きな傘を開いて肩に担いでおり、その顔は良く見えない……いや、顔はともかく、その傘は本当に"背負って"いるのだろうか? 背負うにしては柄が見当たらない……
「……っ!」
 驚いている源三郎に向かって、朱美の手が閃いた。素早く女がかばうように源三郎の前に立ち、傘を広げる。女は両手を広げており、やはりその傘は女が"持っている"ようには見えない。だがなんであれ、それが源三郎を救った。布団に何かがぶつかったかのような鈍い音がし、続けて床に何かが突き立つ。八方手裏剣だ。
「イヤーッ!」
 裂帛の気合と共に、女が朱美に飛びかかる。その動きは洗練されておらず、獣を思わせたが勢いはあった。空中で傘が折りたたまれる。その傘が一閃し、朱美の首に叩きこまれた。声もなく朱美は床にぐにゃりと崩れ落ちる。
 朱美が気絶したのを確認してから女は源三郎の方に向き直った。一人でに傘が開く。
「主様、ご無事でしたか! いえ、胸のお怪我が……今手当を……」
 源三郎を横にし、女は小袖を裂いて包帯代わりにする。
「いや、あ、ああ……助かった。どこの誰かはわからぬが礼を言う」
 源三郎が答えると、女はプッと不満気に頬を膨らませた。
「主様、私をお忘れですか? 雨の日はいつも一緒だったのに……さっきも外に置かれるまで一緒でしたのに……」
 恨みがましい調子でその女は言う。はてと源三郎は首を傾げた。女っ気がなかった源三郎は、接した女は朱美を除けば母や姉妹、そうでなければ城の女中と挨拶を交わす程度だ。いつも一緒と言われるような女はいない……
 女は濡れ光っている、漆のように黒い髪を持っていた。その下にある顔は整っており凛とした雰囲気を持ちながらも、くりくりとよく動く黒目や膨らんでいる頬はあどげない可愛らしさがある。薄手の小袖を身にまとっており、やはり濡れていた。そのためか身体にぴっちりと小袖は張り付いており胸と尻の存在を主張している。色仕掛けをしてきた朱美にも勝るとも劣らない艶を持った身体だ。そして何より目を引くのは彼女の背後で開いている傘だ。やはりこの傘は彼女に持たれているわけではない。女の頭を守るかのようにぷかぷかと頭の上で浮いている。
『いや待った……』
 ふとその傘を見ていて源三郎は思い至った。この傘は確かに見覚えがある。この小豆色の傘は……そう、確か自分が使っている傘だ。もうかなり長いこと使っており、その内側の様子は良く見ている。それを考えれば、女が「さっきも外に置かれるまで」という言葉も理解できる。つまりこの女は……
「唐傘おばけ……付喪の妖かしか……」
「お分かりになりましたか、主様!」
 膨らませていた頬を収め、唐傘おばけの女は嬉しそうに飛び跳ねる。
 古来よりここジパングでは、大切に扱った物には恩の念が、雑に扱った物は怨の念が籠もり、持ち主の元に向かうと言う……この唐傘おばけもそうして生まれたのであろう。
「不安で不安で仕方がなかったのですよ? 主様が斬られ、このまま荒れ寺の入り口で持ち主を失った傘として捨てられてしまうのではと……気が気ではなかったのですよ? でもその気持ちと主様がそれまで大切に扱ってくれたことに対する気持ちが、こうして主様の助太刀としてこの身を現すことができたのです」
「さようか……いや、本当に世話になった。お主は命の恩人だ。その……」
 名前を呼ぼうとして源三郎は詰まった。相手は元々、傘である。名前などないのだ。開いた口が所在なげにぱくぱくと動く。
 主の気持ちを察した唐傘おばけが助け舟を出す。
「どうぞ、主様のお好きなようにお呼びください。私は主様の道具でありますから……」
「む、むぅ……」
 そう突然言われても困る……結婚したことがない源三郎なのだから、もちろん名前を着けたことなどもない。源三郎は頬を掻いた。ちょうどその時、一時的に止んでいた雨が降りだした。やや取ってつけた感じはあるが、いい感じかもしれない。閃いた名前を源三郎は提案してみる。
「では雨衣と呼ばせてもらおう……良いだろうか?」
「雨に対しての衣……ちょうど私にあった名前でございますね、ありがとうございます!」
 雨の名に反して、唐傘おばけの雨衣は太陽のような笑みを見せる。邪気のない、眩しい笑顔であった。
 それに比べ……源三郎は気絶している朱美に目を移す。
「所詮はワシもこやつにとっては道具であったか……使われてしもうたな」
「……道具を使う、という表現がもったいのうございます。この人は主様を『使い捨て』ました。とても人や物を大事にする人に見えませぬ!」
 笑顔から変わって目を釣り上げ、雨衣はその顔を怒りに変える。道具を大事に使えば恩の念が宿るが、雑に扱えば怨の念が宿る。その怨の念が宿ったかのようだった。
 それ以上は見たくはないとばかりに雨衣は朱美から目を反らす。そして立ち上がった。
「大変でしたね主様……帰りましょう。お家へ……」
「……いや、帰れぬ……」
 雨衣の笑顔とは逆に源三郎は沈んだ声を出す。それもそうだ。今は命拾いしたが、源三郎は他国の忍に情報を流した者だ。過失であるとはいえ、これは国に対する反逆、それも色香に抜かされた、醜態をさらした者である。そのような者が今まで通り生活できるだろうか……いや、良くて切腹だ。
 だが、源三郎の答えと説明に雨衣は少し首を傾げただけだ。そして笑ってみせる。
「そこのところは私が……いえ、雨衣がなんとかします。だから、帰りましょう。さあ……外は雨が降っていますが、雨衣が傘になりますよ、使ってくださいまし」
 どうするか源三郎は迷ったが、やがて立ち上がった。彼女は家に帰りたがっているように見えたし、命の恩人だ。何よりこの可愛らしい女の提案を断ることなどできなかった。
『これではまた、女に騙されかねぬな』
 自分の弱さに苦笑しながらも源三郎は外に出て雨を傘で受け止めている雨衣の横に立った。そして廃寺を後にする。

 雨は寺を出る頃はしとしとと小降りであったが、すぐにまた激しい物となった。
 大きな傘ではあるが、それでも二人が並んで入るとなると少々狭い。時々、雨衣の身体と源三郎の身体はぶつかり合った。女体が当たる度に源三郎は頬を熱くする。朱美と何度も肌を重ねてはいるが、それでも女の肌という物は男を呼び覚ます。また、さっきは命の危機を感じたのだ。その昂ぶりがオスの気持ちに繋がってしまったのかもしれない。
 雨衣もまた、源三郎の身体がぶつかる度に身体を竦めた。少し前は手練の忍に躊躇なく襲いかかり気絶させた妖かしと言うのに、その様子は見た目通り初心な乙女である。しかし不思議なことに、今は下り坂だと言うのに雨衣の息は上がっていた。
「雨衣……大丈夫か? 疲れたようであれば休むが……」
「え、いえ、その……疲れてはおりませぬが……」
 答えの歯切れも悪い。一体どうしたのだろうかと源三郎は訝しむ。
 そうしているうちに、森の小さな広間に出た。ここまでくれば城下町まで半刻もかからず入ることができるだろう。しかし、雨衣の様子が心配な源三郎はそこで一休みすることを提案した。源三郎の言葉に驚いたように丸い目をさらに丸くする雨衣。
「休むのですか? 雨衣はまだ大丈夫ですが……それとも主様、お傷が痛みますか?」
「あ、ああ、そうなのだ。ということで休もう」
 まあひりひりと痛むがそんな休んで治るような物ではない。しかしそれを口実に源三郎は休むことを主張する。源三郎の様子に困惑している様子の雨衣だったが、やがて合点したように笑って頷いた。だがその笑みが少し不気味に見えたのは、雨衣が妖かしという偏見があるからだろうか……?
「申し訳ありません、やはり主様も我慢が出来なかったのですね?」
「な、何の話だ、雨衣? いや、傷は我慢しようと思えばできるのだが……」
 突然の咬み合わない言葉に今度は源三郎が困惑する番であった。混乱する余り、傷を口実に休みたいと言った割には今度は大丈夫だと言ってしまう。そして何より源三郎が疑問に思ったのは、雨衣が「主様も」と言ったことであった。つまり、雨衣はなにかを我慢していたと言うことになる……
 考えている間に雨衣が動き出した。突然、源三郎に抱きついたのだ。傘の妖かしだからか、傘をさしていたと言うのにその身体は濡れている。しかし雨衣の身体は、彼女が物体ではなく生命を有する者であることを象徴するかのように熱かった。
「う、雨衣……?」
「ああ、主様……いえ、源三郎様……お慕い申し上げております……ただの傘だった時からずっと大切に使っていただいた時から物であると言うのに気持ちは高まり、今はもう我慢ができなくて……」
 戸惑う源三郎を余所に雨衣は雨あられと思いの丈を源三郎に打ち付ける。突然源三郎の顔に両手をかけたかと思うと、強引に自分の方に引き寄せた。そのままくちびるを女らしからぬ荒々しさで奪う。抵抗も忘れ、源三郎は目を白黒させた。
 どのくらい接吻を強制されていたのだろうか。口を離された時は源三郎は空気を吸おうと息が上がっていた。雨衣も息が上がっている。だがそれは空気を求めるばかりではない。吐き出す息は熱く甘い。
「源三郎様……雨衣はもう我慢できませぬ。さあ、ここで情を交わしましょう……!」
 概して魔物というものは色欲が強い。この唐傘おばけの雨衣もそのようだ。すっかりその気になって発情している。いや、あるいは身体がぶつかり合っていた時から彼女は男を、いや、源三郎を求めていたのかもしれない。
 雨衣が外だと言うのに小袖の合わせ目をくつろげ、脱衣を始める。艶かしく濡れた白い肌、丸みを帯びた肩、柔らかそうな乳房が露わになる。その美しさは朱美など比べ物にならないくらいだ。思わず源三郎は喉を鳴らす。だがここが外だと言うことが源三郎の獣欲に歯止めをかけていた。
「う、雨衣……よさぬか、ここは外だぞ……!」
「ですから早くお家に帰ろうと申しましたのに……でも、もう我慢できませぬ。源三郎様もですよね? 源三郎様のお珍宝、凄く硬く、熱くなっております……!」
 雨衣は手を伸ばし、源三郎の股間に袴の上から触れる。彼女にそうされて初めて源三郎は自分の逸物が勃起している事に気付いた。そのまま雨衣は源三郎の肉棒を撫で擦る。美しい唐傘の付喪神の手で股間を慰められる……その事実だけでそのまま下帯に精を放ってしまいそうだ。立っているのが億劫になり、ぬかるんだ地面に転がってしまいそうである。それに雨衣は気づいたようであった。
「源三郎様、このまま交わるのはいけませんか?」
「そうじゃな……風邪も引いてしまうことじゃろう。だから……」
「いいえ、家までは待てませぬ。それなら唐傘おばけの秘技をお見せします!」
 秘技とはなにか……それを訊ねるより先に源三郎は風呂敷か何かを頭に被せられたように感じた。雨衣の傘が閉じたのだと理解するのは、視界が真っ暗になってからであった。


 すぐに視力は戻ってきた。だが世界は小豆色だ。森の中にいたはずなのに世界は小豆色が広がるばかり……いや、広がっているのだろうか。手をのばそうとするとすぐに何かにぶつかってしまう。広さは半畳もないのではないだろうか。そしてふわふわしており、自分が立っているのか寝ているのか分からない、不思議な感覚もあった。
「源三郎様……」
「ぬわ!?」
 なぜ気づかなかったのだろうか。雨衣が目の前にいた。源三郎の胸にしなだれかかっている。彼女の胸が源三郎の胸板で潰れてひしゃげた。その艶めかしい姿に源三郎の心臓は内側から裂けそうになる。
「そ、それにしても雨衣……ここは?」
「ここは雨衣の傘の中……ここには誰も入ってきませぬ。外の傘はどんな刃も、種子島の弾も、妖術も通しませぬ。ここは二人だけの世界でございます……」
 傘の中と言う割には雨衣の頭には傘が浮いているのは疑問なのだが……そこは妖かしなのだろう。突き詰めようにも人の常識など通用しない。
 二人だけの、自分の世界に引き込んだ唐傘おばけはさらに大胆になる。頭の後ろ側から何かがにゅるりと伸びる。表面がぬめぬめした粘液を滴らせている、桃色のなめくじのような軟体。それが巨大な舌だというのを理解するのに幾ばくかの時間を源三郎には要した。分かると驚きはしたが、恐怖は感じなかった。もはや妖かしと言う存在に慣れてしまったのか、それともその舌が雨衣の物だからか……後者なのかもしれない。なぜなら源三郎はあの舌で自分の逸物をねぶられる様を想像してソコを引くつかせてしまったのだから。
 まだ抜身になってないというのに肉刀の動きを察したか、雨衣はにんまりと笑う。
「雨衣の舌を味わってみたいですか? どうぞ、雨衣の舌を使って気持ちよくなってくださいませ」
 歌うように言いながら雨衣の手はせわしなく動きまわり、袴を、小袖を剥いていった。女妖かしに魅せられている源三郎はなすがままだ。
 とうとう源三郎は褌一丁と言う格好になる。もはや逸物の滾りは隠しようがない。褌を内側から破らんとするばかりの勃起に雨衣は目を輝かせる。
「ああ、源三郎様のお珍宝……なんて立派な……! ああ、熱い……!」
 舌を使うと言うことも忘れて、自分も生まれたままの姿になった雨衣は源三郎の男根に右手を伸ばす。左手は我慢できないとばかりに自分の女陰をいじっていた。
 少し前にも雨衣に手で触られていたが、袴の上からと直接触るのでは天と地ほどの差がある。思わず源三郎は身を捩って快感から逃れようとした。
「あ……! 逃げないでくださいませ!」
 素早く雨衣の舌が伸び、ぎゅるりと源三郎の身体を縛り上げた。源三郎の腕の自由が効かなくなる。しかしあまり源三郎は意に介さない。そもそも本気でこの妖かしから逃げようとしたわけではない。それよりその舌のぬめりにより期待が高まってしまったと言うのが事実だ。
 だが雨衣の方はそうではなかったようだ。逃げないでと言った声はかなり切羽詰まっていたし、動きは反射的な物であった。もしかしたら、意外と彼女は寂しがり屋なのかもしれない。それが雨衣に限ったことなのか、それとも唐傘おばけに、あるいは妖かしに共通することなのかは分からないが。
 舌で縛り上げてから雨衣は、自分が舌で源三郎を愛撫すると言っていたことを思い出したようだ。源三郎を縛り上げてなお、舌の長さには余裕があった。雨衣はその残った舌を源三郎の熱り立った肉棒に巻きつけた。
「む、ぬぅうう!」
 思わず源三郎は声を漏らした。朱美に誑かされていた源三郎だ。女を知らないわけではない。口唇で愛されたことももちろんある。だが人間離れした妖かしから与えられる快楽は、それもまた人間離れしていた。
 舌ややはりぬめっている。だがそれだけではない。舌と言うのは肉の塊だ。その肉にぎゅうぎゅうと押しつぶされ、もみくちゃにされるのは人間の舌ではできないことだ。その圧力が加わった状態でさらに雨衣は舌を動かし、しごきはじめる。
「源三郎様……いかがでございましょうか? 雨衣の舌は……?」
「ああ、物凄く心地良い……」
「それはとてもうれしゅうございます! もっと……もっと気持ち良くなってくださいませ……雨衣の舌に、源三郎様の淫液を……!」
 源三郎の答えに雨衣は破顔一笑。巨大舌での愛撫にも熱が篭もる。しごくのを時々やめ、露出した亀頭に舌先を這わせてぬるぬると唾液を塗りこんだ。雨衣の舌はもはや舌というより变化自在な触手のようなものであった。一匹の生き物のようなその舌は獲物を縛り上げて、糧となる精液を搾り取ろうとする……まるで舌自体が一匹の魔物のようであった。
 その魔物に、獲物となる源三郎は屈服しようとしている。ぶるぶると身体が震え、腰の疼きがこらえられなくなってきた。縛り上げている男の様子から唐傘おばけは終わりの時が近いことを察する。巨大な舌とは別に、口からの舌で源三郎の乳首を舐めて刺激していた雨衣は、彼を舌から見上げる。
「放ってしまいそうですか、源三郎様? どうぞ、そのままお出しください」
 そのまま牛の乳を搾るかのようにぎゅっと舌で源三郎の逸物を絞り上げた。こらえられない。源三郎の牡の滾りが外界へと迸る。その粘っこい液は桃色の巨大な舌にかかった。じゅるじゅると音を立ててその精液は吸収されていく。舌は味を感じる器官……男の味に雨衣の顔は恍惚でとろける。
「これが源三郎様のお味……もっと、もっと欲しゅうございます……」
 精液の味に興奮したか、雨衣は脚をもじもじと擦り合わせ、熱にうなされたかのようにつぶやく。手は股間に伸びており、合わされている太ももを割って秘裂に伸び、蜜壺をぐちゅぐちゅと音を立てていじっている。その淫靡な自慰の様子に源三郎の肉刀は雨衣の舌に包まれたまま、また力を取り戻す。獣の欲がこの牝の中に入って快感を貪りたいと暴れていた。
 雨衣は魔物、それが分からぬ道理はない。舌での拘束を雨衣は解く。そして源三郎に尻を向け、何もない空間に手をついて四つん這いになった。桃のように美しい丸みと割れ目を持った尻……その下に淫花が蜜を垂らしながら咲いている。その花弁を雨衣は二本の指でくつろげて見せた。
「どうぞ、源三郎様……来てください。お珍宝、一度出したと言うのにビキビキに熱り立って、さぞお苦しいことでしょう……雨衣の身体を使っておさめてくださいませ……」
 何かが切れたかのようだった。源三郎は雨衣の尻を鷲掴みにする。肉刀の切っ先を女肉にめり込ませ……そのまま一息に貫いた。さすがの雨衣も苦しそうな声を上げる。それが源三郎に理性を取り戻させた。
「雨衣、まさか……生娘だったのでは……」
 考えてみれば雨衣は付喪神の魔物娘として生を受けて、一日も経っていないのである。この問いは間抜けとも言えた。その事と自分が獣性に囚われていたことに源三郎は渋い顔をする。腰も動かそうとしない。
 しかし当の雨衣はそのことより源三郎が苦り切っていることが嫌らしい。振り返るその顔は悲しそうだ。
「どうしました、源三郎さま……雨衣のおまんこ……気持ち良くないのですか?」
「い、いや……気持ちいい……まるで幾百幾千の舌が絡みついてくるかのようで……たまらぬ……! 朱美などとは比べ物にならないくらい……」
 今度は雨衣が苦い顔をする番であった。ふるふると自分から腰を振って、源三郎の言葉を快感で途切らせる。
「二度とその女の名前を口に出さないでくださいませ……私だけを使ってくださいませ……!」
「あ、ああ……すまなかった。無粋であった。だが雨衣……お主は大丈夫なのか? 初めてだと言うのに……」
「大丈夫っ、大丈夫ですからぁ! 使ってください……道具は正しく、使ってください!」
 他の女の名前を出されて怒りと焦りの感情が出たのか、源三郎に貫かれたまま雨衣は喚く。そこまで言わせてさらに苦しめるようでは男が廃る。雨衣の腰を抱え、源三郎は腰を突き動かし始めた。男と女の嬌声が、二人だけの空間の中で絡み合い、響く。
「ああっ……! なかっ、擦れて……! ひぐっ、あうぅう!」
 ゆっくりと抜く時はカリ首が媚粘膜をずるずると擦り、突き入れられると子袋の入り口をこれでもかとばかりに圧迫される。もはや破瓜の痛みなどない。魔物は魔物らしく快楽を貪り、淫らな声を上げる。
 一方、後ろから獣の体勢で貫き、雨衣を攻めている源三郎も余裕はない。抜くときは名残惜しそうに雨衣の媚粘膜が絡みついてきて、突き進める時はその媚粘膜が敏感な亀頭を撫で回す。人外の膣は、そこもまた人並み外れていた。
「こ、こんなまんこ……知ってしまったら……」
 もう、後戻りなどできない。いや、今はまだこの身体を一部しか知っていない。少しの間挿入し、そしてさっきは舌で愛されただけだ。もっともっとこの身体を味わいたい。
 源三郎は手を前に回した。四つん這いになっていた雨衣の上体を起こす。やや強引ではあったが雨衣は文句を言わない。それどころかより密着できるよう、巨大な舌を使って自分と源三郎の身体を密着させる。雨衣の心遣いに感謝しながら源三郎は胸に手を這わせた。そのまま荒々しく揉みしだく。男にはない脂の乗ったその女の肉は柔らかく、それでも弾力を持って源三郎の指を押し返した。先端の尖りをいじると突く時とは違う、甲高い声が雨衣の口から漏れた。
 その嬌声が源三郎の取り戻しかけた理性を吹き飛ばした。乳房を鷲掴みにしたまま、猛然と源三郎は腰を動かす。源三郎の腿と雨衣の尻がぶつかり合い、乾いた肉の音を立てた。その合間にぐちゅぐちゅと卑猥な水音が立つ。結合部からあふれる雨衣の泡立った淫汁は空間に滴り落ち、吸収される。ここは雨衣の身体の中でもあるからだ。
 文字通り雨衣を、性欲の処理の道具として使っていた源三郎。その目的を今、達しようとしていた。雨衣の心地よい蜜壺によって射精が始まろうとしている。
「雨衣、出る……出すぞっ!」
 外に出すと言う遠慮すらなかった。雨衣もそれを望んでいる。生娘であった彼女であったがそこは魔物。性の歓喜を極めようとしていた。
「はひっ、らして、らしてくらさい! ういもおかひく……ひう、ひぐぅううう!」
 一足先に雨衣が絶頂を迎えた。自身の快楽を貪ると同時に、その身体が牡を悦ばせる道具として最大限の効力を発揮する。柔肉が肉棒にまとわりつき、媚粘液を塗りたくり、ぎゅうぎゅうと締め付ける。これに耐えられる男などいない。そして雨衣のこれを味わうのはこの男のみ。
「うぉおおおおお!」
 雄叫びを上げながら、源三郎は子種汁を、それまで大事に扱ってきた傘に、そして女となった雨衣の身体の中にぶちまけたのであった。




「あら、朝が来たようです」
「そ、そうなのか?」
 それからどれだけ交わっただろうか。雨衣が上になったり、源三郎が上になったり……どれだけ時が経ったかも分からない。傘の中は源三郎には雨衣しか見えないため、陽の光も分からない。だが、雨衣は分かるようであった。それもそうだろう、ここは雨衣の傘の中、雨衣の身体の中だ。雨衣の身体の一部は外にあるのだ。
「雨は降っておりませぬ……まあ、どうでもいいのですが……源三郎様さえいれば……」
 そう言いながら雨衣は源三郎にしなだれかかり、胸と腹をその手で撫でる。ややもするとさらにもう一戦におよびそうだ。それを源三郎は留める。
「なあ、ワシももう一回交わりたいところであるが、やはり一度家に帰ろう……」
「どうしてでしょうか? ここにいれば二人だけでずっと交わっておられますのに……」
 雨衣が寂しそうな顔をする。目が潤んでいた。手も源三郎の腕にかけられ、名残惜しそうに引き止めるように引っ張られている。しかし源三郎は笑って言う。
「ここにずっといるのも魅力的なのだがな、やはり外で一緒に、お主と共に暮らしたい……」
「と、共に暮らすって、それって……」
「雨衣。ワシはお主を今まで傘として大事に扱ってきた。そんなお主がワシの命を救ってくれ、求めてくれた……そのお主に……惚れ申した」
 雨衣の顔が朱に染まる。源三郎も自分で言いながら、顔に熱が上るのを感じた。だがこれを言うのは男の役目だ。
「げ、源三郎様……」
「これからは、道具としてではなく、女として、大事にさせて欲しい」
「源三郎様!」
 雨の名に似合わぬ太陽のような笑みをまた浮かべ、雨衣は源三郎の胸に飛びついた。
「ああ、嬉しゅうございます! 雨衣を大事に扱ってくれた源三郎様にこのようにまで言っていただけるとは……ふつつか者ではございますが、これからも雨衣を大事に使ってくださいまし。雨衣も源三郎様を雨から、風から、あらゆる物からお守りいたします」
「ありがとう……頼んだぞ……」
 傘の中、二人だけの空間の中で二人は抱き合い、くちづけを交わしたのであった。
14/07/06 00:05更新 / 沈黙の天使

■作者メッセージ
「あの舌で舐めまわして貰ったらどんなに気持ちいいだろうか……そう考えて僕は思わず勃起してしまった」
なんて偽勇者のセリフが脳内に流れました、唐傘おばけを見た時は。
どうも、沈黙の天使です。

そんなわけで唐傘おばけを書いてみたのですがいかがでしょうか? 三作目となる付喪神系魔物娘のSSですが、今回は男が逆に「使われる」目にあって落ち込んで欲しいなと思って筆を取りました。
最初は現代SSでオタサーの姫みたいな女に振り回されて使い捨てられて……なんて感じで書こうと思ったのですが、いつの間にか時代劇風に……どうしてこうなったwww
どうしてこうなったと言えば、その当初の「男が使い捨てられて傷心する」って様子が、使い捨てられるとこまでは良かったものの傷心描写はほとんどなかったですねorz もっとそこのめくるめくドロドロ感も描きたかった……やっぱ私、ぬるいのかな……

さらに、書きたかったのに書けなかった要素としては、唐傘おばけの献身さと執着心もまたぬるかったですねぇ……一日で書こうとするとやっぱいろいろボロが出ますね、うーむ……

それでも一生懸命書きましたので(特にエロ!)楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、また次回のSSで。ごきげんよう。


PS ちなみに廃寺で気絶させられた女忍と始末侍ですが、事をこっそり見ていた魔物娘のくのいちによって女忍はくのいち化し、そのくのいちが始末侍とくっついて……結果、情報も敵国に漏れず、全てが円満に収まった……と言うことでひとつw

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33