読切小説
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Fellowship of Cave
 気づいた時には遅かった。
 踏み出した足元が崩れ、少女は駆けていた勢いのまま、落とし穴の中に転がり落ちる。

 彼女の頭の中を占めていた怒りが恐怖へ、一瞬にして変わる。
そして、次に感じたのは穴の底へと叩きつけられた痛みだった。

「…っ…」
 それでも闘志が残っていたのは、ちっぽけな矜持(プライド)のお蔭か。
少女はすぐさま、身体を捻って立ち上がろうとする。
だが、穴の中に張り巡らされた細いロープが彼女の華奢な身体に絡まり、その動きを縛っていた。

 さながら蜘蛛の巣にかかった蝶のよう。
彼女が穴の底でもがいていると、頭上から嘲笑が響いてきた。

「あははっ…! 間抜けなエルフが引っかかったよ! 皆、こっちにおいで!」
 穴の縁から豚の耳を持った獣人、オークが顔を覗かせ、ニヤニヤと笑った。
そのオークの声につられて、次々とオークたちが集まってくる。
 ロープに絡め取られたエルフは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしてオーク達を睨みつけた。
しかし、それは最後のささやかな抵抗に過ぎなかった。
 丸腰の。多勢に無勢とくれば、最早抗う術は無い。

「妙な真似はするんじゃないよ? 大人しく上がってきな」
 リーダーらしいオークの1人が手にした戦鎚(ハンマー)を誇示しながら、エルフの少女にそう命令する。

 従いたくはない。
 チラリとそんな考えが頭をよぎる。
だが、木漏れ日を浴びて鈍く光る槍の穂先にズラリと囲まれている事を思い出し、彼女は大人しく従った。

 冷静になればロープから抜け出る事は容易い。
こんなちゃちな罠に嵌ったかと思うと自分が心底情けなかった。
暗澹たる想いで穴の中で立ち上がる。
「手を伸ばしな」
 すると穴の傍で屈みこんだオーク達が手を差し出してくる。
その手に屈辱を感じ、少女はピタリと動きを止めた。
 エルフの矜持にかけて、魔物の手など借りたくない。
「早くしなっ」
 苛立ったオークの声に少女はしぶしぶと手を伸ばす。
2人のオークによって、エルフの少女は穴の中から引き上げられた。

「さて、金目のモノを出してもらおうか?」
 リーダーが尊大な口調で少女にそう言った。
「…そんなものは持って無いわ」
 彼女はエルフの矜持を守ろうと精一杯、恐怖を抑えながら、そう答えた。
「あたしは生意気な女は嫌いなんだ。出さないっていうんなら奪い取るだけさ」
 リーダーの女は鮫のように笑った。
「おい。このエルフの身体を調べな!」
「…姉御、調べろったって…。こいつ、裸なんですけど」
 酷薄な笑みを浮かべるリーダーに周りのオークたちは戸惑いの視線を向ける。

 事実、エルフの少女が身につけているのはわずかな下着のみだった。
どう見てもオークたちが欲する財宝を隠している様子はない。
「ああん? 長い髪の毛とか、下着の中とか隠せる場所はあるだろ! 早く調べるんだよ!」
 リーダーの短気にオークたちは仕方ないといった表情で少女へと手を伸ばしてきた。

「さ、触らないで!」
 身をかわし、逃れようとするが、それも叶わない。
あっと言う間に取り押さえられ、オークたちの指先が彼女の白い肌を這い回る。
「…ぃやっ! …やだっ…! …は…離して…っ!」
 汚らわしい指が蠢く度、嫌悪感とは別の感覚が少女の背筋を駆け上った。

「…姉御、やっぱり何もありませんよ」
 悪夢のような時間が続き、やがてオークたちも納得したのか。唐突に彼女の身体を解放した。
 少女は荒い息をつきながら、地面に膝をつく。
不意に涙がこぼれる。ただ触れられただけで、彼女の矜持はズタズタになった。

「高貴なエルフ様ともあろうものが財宝の1つも持ってないのかい」
 リーダーはそう吐き捨てると苛立たしげに地面を蹴った。
「…しょうがないね。この娘を連れて帰るよ」
 彼女は値踏みするような目で少女を見下ろす。
「連れて帰ってどうするんです?」
 オークの1人がきょとんとした顔でそう尋ねてくる。
今まで彼女たちは金品を奪った事はあっても人を攫った事は無かった。
「…そりゃ、お前…連れて帰って…何かさせるんだよ!」
「何かって、何を?」
 リーダーの女も深い考えがあった訳ではないようで途端にしどろもどろになる。
「ええい! とにかく連れて帰りゃいいんだ! 後の事は…後で考えるよ!」
「はぁ、姉御がそう言うなら…」
 リーダーが怒鳴ると周囲のオークたちは曖昧な表情で頷いた。

「とりあえず、武器以外は返してやんな。裸じゃ、森は抜けられないからね」
 リーダーの言葉にエルフの少女の足元へ彼女の服が投げ返された。
 彼女はのろのろと服を身につけ始める。流石に何時までも下着姿のままは嫌だった。
少女が身支度を整えているとオークのリーダーである女が不躾な視線を向けてきた。

「そういや、あんたの名前を聞いていなかったね。
あたしはヴィーニ。あんたは?」
 妙に馴れ馴れしく女が尋ねてくる。
勿論、答えたくなどない。
けれど、黙っていると、どんどん心が萎えていきそうだった。
「私はアステラセアカルデュオイデア。…誇り高きマグノリオプシードの一族に……連なる娘よ」
 背筋を伸ばし、胸を張って名乗る。
己が何者であるかを思い出すために。

##########

 アステラセアカルデュオイデア、通称アステは森の奥深くに暮らすエルフの一族に生まれた。
 閉鎖的な集落で他のエルフたちによって、育てられた彼女は。
他のエルフたちと同様に森の守護者としての誇りと禁欲を教え込まれた。

 そんな彼女が身体の疼きに気づいたのはホンのひと月前の事だった。
 アステは自らの異変に気づき、それを病だと思い、年嵩のエルフに助言を求めた。
だが、それは病などでは無かった。
 性欲。
 告げられたのは集落のエルフたちが最もタブーとする欲望についてだった。

 年嵩のエルフは口にするのも恐ろしそうにアステに性欲を抑えるように命じた。
 彼女はそれに従い、穢れた情動を追い出そうと必死に耐えた。
しかし、耐えれば耐えるほど、淫欲は少女の身体を苛んだ。
そして、その苦しみに彼女は屈し、半ば無意識に自らの手で火照る身体を慰めてしまった。

 こうして、アステは禁を破ってしまった。
さらに悪い事に彼女の行為は直ぐに集落中へ知れ渡る事となった。

 ある朝、アステは仲間のエルフたちによって、集落の中央にある広場へと引きずり出された。

その時の事は今でも。そして、これから先も決して忘れられそうに無い。

 周囲を取り囲み、遠巻きに自分を見つめる目は全て酷く冷たく。そして侮蔑に満ちたものだった。
 親しかった友人も。我が娘のように可愛がってくれた大人たちも。
等しく無表情に心無い視線でアステの身体を射抜いていた。

「アステラセアカルデュオイデア。淫魔に堕ちた者として、集落から追放する」
 集落の長から冷酷にそう告げられ、少女は集落から追放された。
投げ捨てられるように渡されたのはわずかな手荷物のみ。

 半狂乱になって、集落に戻ろうとした彼女を出迎えたのは。
かつての仲間たちから向けられた鏃(やじり)の冷たい光だった。
拒絶を表わす威嚇の矢が降り注ぎ、絶望した少女は命からがら逃げ出した。

##########

 手の平で掬い上げた泉の水を被れば。
アステの年頃の娘らしいしなやかな肢体に当たって、雫が跳ねた。

 集落を追われた少女は当てもなく森の中を彷徨っていた。
幸いにして、森の中で生まれ育ったエルフである彼女が飢えや渇きに悩まされる事は無かった。
今までも狩りの途中で野宿した事もある。
渡された手荷物にも、森の中で生きていける最低限の装備が含まれていた。

 落ち込んでいても空腹は彼女を苛んだ。それに身体を動かしている方が少しは気が紛れた。
獲物を求め、そして少しでも集落から遠ざかるように点々と移動していく。
集落に帰れない事は分かり切っていた。
よしんば、帰れたとしても。最早、あそこには彼女の居場所は無いだろう。

 油断すれば、悲しみと孤独が彼女の心を支配しようとする。
アステはぎゅっと口を一文字に結び、水に濡れた手の平を肌に滑らせた。
身体をべとつかせていた汗が皮膚から流れ落ちていく。

 木漏れ日が差す森に湧く小さな泉。
 アステは一糸纏わぬ姿になり、泉で身を清めていた。

 両手で水を掬い上げては自らの肌へとかける。
時には濡れた手で肌をこすって手入れする。冷たい水が心地良い。

 水浴びを終え、泉から出ようとした時、不意にそよ風が彼女の濡れた肢体を撫でた。
そよ風に少女の敏感な場所をくすぐられ、彼女の心臓が跳ね上がった。
「…っぁ…っ!」
そして、身体の奥からドロリとした熱が背筋を這い上がってくる。
 性欲。それが抑えられない波となってアステの身体を震わせる。
思わず、胸と股の間に伸びそうになった指を彼女は意志の力で何とか止めた。
 これ以上、禁を破る訳にはいかない。
そんな思いが少女の自制心を支える。
たった、一度の過ちが、アステを今の境遇に追い込んだ。
これ以上、罪を重ねれば、この先、どうなるか分からない。
 湧き上がる劣情。罪の恐怖と劣情への嫌悪。
そして、一度だけ味わった快楽への期待。
それらがごちゃまぜになり、アステの心の中で渦を巻く。

 少女は必死にせめぎあう心を制御しようと耐える。
その為か、周囲への警戒がおろそかになっていた。

 ガサリ。突然、背後で茂みの揺れる音が響いた。
その音にアステは我に返り、慌てて振り向く。

そこにいたのは豚の耳を持った獣人オークの少女だった。
「あ…」
 互いの視線が絡み合う。驚いたオークの少女はポカンと口を開いた。
だが、驚いたのはアステも同じだった。
なぜならオークの少女は彼女の荷物を抱えていたからだ。
「返して!」
 アステが叫ぶのと、オークの少女が踵を返したのは同時だった。
 少女は茂みを突き破り、一目散に逃げ出していく。
 アステは追いかけようとして、自分が裸である事を思い出した。
 慌てて下着と靴だけを身につけて追いかける。
盗まれたのは弓と短剣、それから小さな背負い袋。彼女のなけなしの全財産だった。

 下着を身につけるというハンデがあってもアステは直ぐに盗人の少女へと追いついた。
 森の中はエルフの領域だ。
足を取る下生えも苔も、行く手を阻む木の枝も彼女には何の障害でもない。
それに対してオークの少女は下生えや苔で何度も転びそうになりながら、張り出した枝に身体中を引っかかれながらも必死に逃げていた。

 アステは軽やかな足取りで距離を詰めていき、一気にオークの少女へと飛び掛ろうとする。
その時、彼女の耳にかすかな風切り音が聴こえた。
アステは反射的に身体を捻り、木陰に身を隠す。
一瞬遅れて、彼女が隠れた木の幹に石の礫(つぶて)がぶつかり、甲高い音を立てた。
続けて、幾つもの石礫が飛来し、そこらかしこでポコポコと奇妙な音色を奏でる。

 アステは鋭い視線を石礫が飛んできた方へ向ける。
すると木立の向こうに投石器(スリング)を構えたオークたちの姿があった。
おそらく盗人オークの仲間だろう。
彼女たちはアステの動きを牽制する様に次々と石礫を投げつけてくる。
 オークたちの狙いはアステをこの場に釘づけにする事だろう。
果たして、その目論見は半ば成功しかかっている。
今こうしている間にも盗人の少女との距離はどんどん開いていた。

 そんな手に嵌ってたまるか…!
 アステは心の中で苛立ちの叫びを上げると石礫が飛んでくる一瞬の隙をついて、木陰から飛び出した。
 そこに雨あられと石礫が集中する。
しかし、それはひとつも彼女に命中しなかった。
元々、投石器による攻撃は牽制の為のモノで命中精度は低い。
 最初に当たりそうになったのもマグレだろう。

「待ちなさい!」
 彼女は飛び出した勢いのまま、逃げるオークの少女に追いすがった。
「ひゃっ…!?」
 間近で聴こえた怒声に盗人の少女が後ろを振り返り、悲鳴を上げる。
 エルフの手が素早く盗人の腕に伸び――。

 次の瞬間、アステの肩口に飛来した赤い果実がぶつかり、べちゃりと潰れた。
その果実は半ば腐っていたらしく、甘ったるい腐敗臭を放つ。
「…っ!?」
 予期せぬ出来事に驚いた彼女は思わず足を止めてしまった。

「あ、姉御!」
 アステを我に返らせたのは盗人の少女が上げた嬉しそうな声だった。
 気づけば、いつの間にか、数メートル先に1人のオークの女が立っていた。
彼女の手に握られているのは投石器と数個の赤い果実。
 盗人の少女はそのオークの女へと駆け寄っていく。
「良くやったよ、ネグル。早く行きな」
 オークは赤い弾丸が装填された投石器を振り回しながら、歯を剥き出しにして笑う。
「了解(ヤー)っ!」
 ネグルと呼ばれた盗人の少女は女とすれ違い、そのまま逃げていく。
「逃がさない…!」
「おっと、ここから先は通行止めさ!」
 慌てて追いかけようとするアステの前に女が立ち塞がった。
「どきなさい!」
「ハッ、聞けない相談だよ!」
 オークの答えと共に果実が弾丸となって、アステへ真正面から迫った。
「はぁっ!!」
 エルフの少女は気合を吐きながら拳を突き出し、それを迎撃した。
ぐちゃりと拳に触れた果実が爆ぜて、彼女の腕を赤く染める。
 アステは構わず、矢のように突き進んだ。
「くっ、いい度胸だ!」
 オークは手にした果物を直接投げて牽制しつつ、じりじりと後退していく。
だが、それも直ぐに弾切れになり、女は恥も外聞もなく背を向けて逃げ出した。
「待て! 赦さない!」
 魔物から赦しがたい所業の数々を受けたアステは、いささか頭に血が上っていた。
怒りに目が眩み、彼女はオークの後を追う。

 それが罠だとも知らずに。
そして、アステはオークたちに囚われの身となった。

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 アステが連れて来られたのは山肌にポッカリと空いた洞窟だった。
どうやら、ここがオークたちの根城らしい。

 不愉快なオークに相応しい住処だと彼女は心の中で皮肉を漏らす。
だが同時に自分がこんな所に押し込められるかと思うと憂鬱な気分だった。

「ホラ、ぼさっとしてないで早く入りな!」
 オークの1人に乱暴に背を押され、エルフの少女は洞窟の中へと踏み込んだ。
澱んで湿った空気の臭いが鼻をつく。
 彼女は顔をしかめ、重い足取りで洞窟へと入っていった。

 洞窟の中は幾つもの道筋に枝分かれしていた。
しかし、オークたちは揃って、1つの方向へと向かっていく。
彼女たちに前後を挟まれているアステも仕方なく同じ方向へと進んだ。

 しばらく進むと彼女たちは大きな広間へと出た。
そこは一軒家が建ちそうな程の巨大な空洞だった。

 広間に辿り着いたオークたちは各自銘銘に腰を下ろし、休息を取り始める。
 この場所は彼女たちの居間といった所だろうか。
そこらかしこにクッションやらオークの私物やらが転がり、酷い有様だった。

 アステが所在無さげに立ち竦んでいると、ヴィーニと名乗ったオークが声をかけてきた。
「こいつでも使いな」
 ヴィーニはボロ切れのようになったクッションをアステへと押し付けてくる。
腕の中の塊を恐る恐る見下ろすと、クッションからカビの臭いが漂ってきた。
正直、地面に直接座った方がマシかもしれない。
「夕食まで好きにしな」
 ヴィーニは短くそう告げると、それきり興味を失くした様に少女から離れていった。

 てっきりどこかに閉じ込められるものかと思っていたが。
そんな様子は無さそうだった。

 逆に言えば誰も。アステの事など気にしていなかった。
 彼女は唇を噛み締めると、その場に力なく座り込んだ。

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 小一時間程経っただろうか。
 アステがぼんやりと膝を抱えて座っていると数人のオークが広間に入って来た。
彼女たちは大きな鍋を持った少女を先頭に山盛りのパンの篭やら食器やらを抱えてゾロゾロと姿を現す。

 それまで雑談や模様の書かれた木札(おそらくオークのゲームだろう)で暇を潰していたオークたちは跳ね起きるように立ち上がり、一斉に食事に群がった。

 そんな光景を虚ろな目で眺めていると不意に木のお椀がアステの目の前に差し出された。
 驚いて見上げると黒い耳を持ったオークの少女がいつの間にか彼女の傍に立っていた。
彼女の顔にアステは見覚えがあった。アステから荷物を盗んだ盗人の少女。
確か、ネグルと呼ばれていた少女。

「ん…」
 ネグルは無表情にお椀と木のスプーンを差し出してくる。
食べろという事だろう。
 アステは戸惑いながら、それを受け取った。
初めはオークの食事がどんなものかと戦々恐々としていたが意外とまともなものだった。
木の椀に入ったシチューの香ばしい匂いが彼女の食欲を刺激する。
 アステは思い切って、シチューを掬い、スプーンを口に入れた。
 何日ぶりの事だろうか。口の中に肉と野菜の味わいが広がる。
さすがに材料も器具も足らず、野宿の最中は汁物を口にしていなかった。
「どう?」
 ネグルがそう尋ねてくる。
料理の感想を聞いているのだろう。
「…美味しい」
 アステは素直にそう答えた後、無心にシチューを口へと運んだ。
「良かった。わりと自信作」
 どうやらネグルが作ったらしい。
オークの少女は嬉しそうに笑うとアステの傍に腰を下ろし、自分の料理を食べ始めた。

 しばし、お互い無言で料理を食べる。
すっかりシチューを平らげたアステは満足気に息をついた。
「ご馳走様…」
 思わず本音がポロリと漏れてしまう。
「ん…」
 ネグルは笑顔でアステから空になった木椀を受け取った。
「あ」
 アステは差し出されたオークの少女の腕を見て、驚きの声を上げた。
ネグルの腕に真新しい傷が幾筋も刻まれていた。
おそらく昼間、逃げる際に木の枝でひっかかれてできたものだろう。
流れ出た血は乾いて固まっていたが傷口は手当てもされず放置されている。
「貴女、その腕…」
 それを目にしたアステは心配そうな声を出した。
「ん、これ? 別に大した事ないよ」
 ネグルはさして気にした様子もなく、そう答えた。
「破傷風になったら、どうするの。見せて」
 アステはネグルの手を掴むと傷口をじっくりと観察した。
さほど深い傷ではない。けれど、傷口を汚れたままにしておくのは良くない。
 彼女は清潔な水と布を求めて、周囲に視線を巡らせた。
だが、そんなものは此処では望めない。
 アステは一瞬で決断するとネグルの傷口に舌を這わせた。
「っ……くすぐったいよ…!」
 突然、腕を舐められて、黒耳の少女は身を捩る。
「じっとしてなさい」
 アステは少女に構わず傷口の汚れを舐め取った。
彼女は口の中に含んだ異物を空になった食器に吐き出す。
その後、ポケットから取り出したハンカチで傷口を覆うように腕へと巻きつけた。
「これでいいわ。後は定期的に当て布を替える事。勿論、清潔な布よ」
 アステは手早く手当てを終えると少女にそう言い聞かせる。

 ネグルはしげしげと自分の腕に巻かれたハンカチを眺めた後。
不意に破顔すると無邪気に微笑んだ。
「ありがとう…アステ…」
「!」
 面と向かって礼を言われると何だか照れ臭かった。
けれど、不思議と悪い気分はしない。
「べ、別にお礼を言われるほどの事はしてないわ…」
 エルフの少女はほんのりと顔を赤らめてそう答えた。

##########

 その日の真夜中。

 オークたちが寝静まったのを見計らった後。
アステは寝床にしていたクッションから音もなく身を起こした。
そして、足音を立てないように慎重に岩の通路を進んでいく。
目指すのは、洞窟の外。

 気配を消して、進んでいくとポッカリと空いた出口から月の光が差し込んでいるのが見えた。
 彼女は逸る気持ちを抑えて、より慎重なってに近づいていく。
洞窟の前に見張りがいるかもしれない。
そんな彼女の予想に反して、出口の周りには誰もいなかった。

 アステがいささか拍子抜けしていると真横から聞き覚えのある声が聴こえてきた。
「夜に洞窟の外に出るのは止(よ)すんだね。…狼の餌食には、なりたくないだろう?」
 アステは声に反応し、弾かれたようにそちらへ身構えた。
見ると洞窟の脇にある大きな石にヴィーニが腰を下ろし、煙管(パイプ)を吹かしていた。
 彼女の口からゆっくりと煙が吐き出されると辺りにミントの香りが漂う。
「あんたもやるかい?」
 ヴィーニは気安い口調で煙管を差し出してくる。
「…遠慮しておくわ」
 アステは油断なく身構えたまま、彼女のささやかな厚意を突っぱねた。
「じゃ、あたしだけ遠慮なく」
 ヴィーニは小さく苦笑を浮かべた後、再び紫煙を燻(くゆ)らせる。

「…私が逃げ出す機会(チャンス)を伺っていた事に気づいていたの?」
 余裕を見せるオークに苛立ちが込もった口調で少女はそう尋ねた。
「いんや、サッパリ」
 ヴィーニはしれっとそう答える。
「あたしが此処でタバコを吹かしていたら、たまたま、あんたが逃げ出そうとした。ただの偶然さ」
 彼女は人を食ったような態度でそう続けた。
「それにしても」
 不意にオークは意地の悪い笑みを浮かべ、じろじろとアステの顔を見つめた。
「何よ…?」
 不快な視線にさらされ、エルフの少女が身を固くする。
「タダ飯を食って、その後逃げ出すとは。高貴なエルフ様ともあろうものが、ずいぶんな了見だねぇ」
 嫌味ったらしい口ぶりでヴィーニがそう嘲笑う。
「な…!」
 アステは見る見る顔を赤く染め、怒りの表情で口をパクパクさせた。
「あたしらオークでも。受けた恩を仇で返すような真似はしないさねぇ」
「どうしろって…言うのよ?」
 怒気を滲ませた低い声でエルフの少女がそう問う。
「さてねぇ…少しは自分で考えな。頭ってのは考える為に付いてんだ」
 どこか愉快そうに笑いながらオークの女は答えた。
「分かったわよ…やってやろうじゃない…!」
 アステはまるで宣戦布告のようにそう答えると踵を返して洞窟の中へと戻っていった。
その背中を、ヴィーニはどこか優しい眼差しで見送った。

##########

 翌朝。
 惰眠を貪っていたオークたちはエルフの少女に叩き起こされた。
そして、寝ぼけ眼のまま、洞窟の外に追い出される。
「一体何なの…?」
「さあ?」
 訳も分からず戸惑い顔を交わす彼女たちに朝食が配られた。
「アステが大掃除するって」
 昨夜の残り物のシチューが入った木椀を配りながらネグルがそう答える。
「大掃除?」
 予想だにしない答えに、オークたちは不思議そうな表情を浮かべた。

 まずは脱ぎ散らかされた服やら汚れたクッションやら何やら私物を全て片付ける。
 一纏めにしたそれらの内、洗濯できる物は近くの小川に運んで丁寧に水洗いの予定。
 食事を終えたオークの尻を引っぱたき、洗濯の手順を指示して任せる。
オークたちはアステの異様な剣幕にしぶしぶとではあったが従ってくれた。
 洗濯は洗濯グループに任せ、次の作業に取りかかる。

「アステ、持ってきたよ〜」
「ありがとう、ネグル」
 ネグルに頼んで棒切れや板、布といった廃材を集めてもらった。
それらを使って、即席の掃除道具を作る。
出来上がった道具を掃除グループに渡して、掃除に取りかかってもらう。
 洞窟の中は地面が剥き出しの為、塵ひとつ落ちてないとはいかないだろう。
それでも蜘蛛の巣や埃を払えば。そして、大きな石を取り除き、地面を均せば見違える筈だ。

 続いて余った廃材を利用して、箱や棚を作ってもらう。
地面へ無造作に物が置かれているから見た目が汚いのだ。
きちんと整理整頓すれば、スペースを広く有効に使える。
そう説明するとオークたちも納得し、意外にも器用な手先を見せ、工作に精を出してくれた。

 工作も1グループに任せ、アステは残ったオークたちを率いて森へと出かけた。
目的は食材の確保。
 オークたちに食べられる野草やキノコを教えて採取してもらう。

 十分な食材を確保した後は根城に引き上げて、アステ自ら料理の腕を振るう。
別に自分が楽する為ではない。毒草や毒キノコが混じらないようにチェックする為だ。
それに大所帯の食事を用意するのも一苦労だった。

 大掃除が終わり、料理が完成した事には日もとっぷりと暮れていた。
 アステは満足気に広間を見渡した。
そこには見違えるように綺麗になった広間の姿があった。

 一日中、それぞれに重労働に取り組んでくれたオークたちはぐったりとクッションに横たわっていた。けれど、彼女たちの顔にはどこか清清しい表情が浮かんでいる。
「おっ、スゴイじゃないか、これは」
 そこへひょっこりとヴィーニが広間へと入って来た。
「姉御、今まで何処にいたんですか〜!」
 それに気づいたオークの1人が疲れた顔で恨めしそうな声を上げた。
「何だか、面倒な事になりそうだったからね。森で昼寝してた」
 ヴィーニは悪びれもせず、そう答えながら、アステの横を通り過ぎた。
 エルフの少女が誇らしげな視線を送るとオークの女は不敵な笑顔を浮かべた。
「…やるじゃないか」
 ヴィーニはすれ違い様にそう呟くと、ふかふかになったクッションにどっかりと腰を下ろした。

その後は賑やかな夕食になった。

##########

 夕食の後、アステは洞窟の外で風に当たっていた。
その隣には昨夜と同じようにヴィーニが石に座ってタバコを吸っていた。
「これで文句は無いでしょう?」
 長い沈黙の後、エルフの少女はそう切り出した。
「ま、いいんじゃないの。とりあえず、アンタの料理は美味かったよ」
 オークの女は煙管を口から離すと笑いながら答える。
 アステが作った料理は思いの外、好評だった。
ネグルを始めとした何人かのオークたちから作り方を教えてくれとせがまれる程に。
 自分を慕ってくれる黒耳の少女の事を想うとアステの心は温かくなった。…けれど。
彼女はゆっくりと頭(かぶり)を振り、その想いを振り払った。

「…明日の朝。ここから出て行くわ」
 アステは静かな声でそう告げた。

「ずいぶん急な話じゃないか」
 オークの女はチラリとアステの横顔を見て、落ち着いた声でそう吐き出した。
「貴女に言われた借りは今日ので返せた筈よ」
 少女は視線を合わせようともせず、淡々と続ける。
「それとも捕まっている手前。逃げようとすれば、力づくで止められるのかしら?」
 アステは皮肉気にそう言って…。
心の片隅に。引き止めて欲しい自分がいるのを感じていた。

 仲間を失い、孤独に苛まれていた少女は。
ホンの少しだけ、オークたちが暮らすこの場所に安らぎを見いだしていた。
 あれ程、毛嫌いしていた魔物たちなのに。
自分に良くしてくれるともなれば、現金なものだ。
 アステは心の中で自嘲気味にそう想った。

「…いや、止めやしないよ。好きにしな」
 数瞬の沈黙の後、耳に届いたのはあっさりとした答え。

 少女は自分が落胆しているのを感じた。
それと同時に諦めにも似た感情を覚えた事も。
 所詮、エルフとオーク。お互いに心を寄せ合ってもそれは一時的な事。
自分を納得させるようにそう結論づける。

「だけどね、アステ。あんた、何処に行こうって言うんだい?」
 唐突に。ヴィーニの真剣な声色が少女の耳に飛び込んだ。
「何処へ…って…」
 思いがけない女の言葉に内心の動揺が震える声に表れてしまう。
「あんた、はぐれ者なんだろ?」
 真実を言い当てた決定的な言葉。
そう言われたアステは思わず女の方へと振り向いてしまう。
これでは全て正直に白状しているのも同然だ。
「どうして…?」
どうして分かったのか。アステは驚きのあまり掠れた声を上げた。
「森の奥に住むエルフが。こんな森の浅い場所を1人でウロウロしている訳はないからねぇ。最初に会った時から分かっていたよ」
 最初から見透かされていたのか。
少女の心に生まれた苦い思いは女が続けて発した言葉によって消える事となる。
「アステ、あたしたちの仲間にならないかい?」
 仲間。
…仲間? 私がヴィーニたち、オークの仲間に?
 その言葉は彼女の心を激しく揺さぶった。
 孤独な彼女が求めていたもの。
だが、期待が大きい反面。反発する心も大きい。

 エルフとして育てられてきた彼女にとって。
森の外で暮らす人間も魔物も全ては忌避すべき存在だった。
特に魔物は先の魔王の代替わりを経て、エルフたちが最も嫌う淫らで浅ましい存在へと変貌した。
 アステの。エルフの価値観で最も嫌悪すべきもの。それが今の魔物姿だった。

 けれども今の自分にはお似合いの仲間かもしれない。
性欲に屈し、集落を追放された我が身。
今まで考えた事も無いような卑屈な考えが彼女の頭をよぎる。

 そして、そんな自分を彼女たちならば受け入れてくれるのではないか。
そんな期待が膨らんでいく。

 ヴィーニたちの仲間になるかどうか。
魔物の仲間になりたいのか。それともあくまでエルフとして生きるのか。
 相反する2つの想いがせめぎあい。彼女の心をかき乱す。

 だが、そんな想いとは裏腹に建前が思わず口をついてしまう。
「エルフが魔物の仲間になるわけないでしょ」
 突き放した冷たい言葉。
口に出して、後悔した言葉。

 それでもオークの女は優しい笑顔を崩さない。
「別にあたしはエルフを仲間に誘っているわけじゃないさ。
アステ、あんただからこそ、誘ったのさ」

 ヴィーニの言葉にアステは黙ったまま…答える事はできなかった。

「まあ、すぐに結論を出せとは言わないさ。ひと晩、ゆっくりと考えてみておくれ」
 少しだけ年上の彼女はそう言い残すと洞窟へと消えていった。

 その場には、答えの出せない少女のみが取り残された。

##########

 深夜。
 アステは一睡もできず、与えられた寝床でしきりに寝返りを繰り返していた。
ヴィーニたちの仲間になるかどうか。
その事だけが彼女の頭を占め、心を捕えて離さない。

 こんな状態ではとても眠れそうにない。
 少女は大きく溜息をつくと音を立てないようにゆっくりと身を起こした。
彼女の周りでは、すやすやとオークたちが寝息を立てていた。

 顔でも洗ってこよう。
少しでもサッパリしようとモヤモヤした気持ちを抱えたまま、立ち上がる。

 確か、台所に汲み置きの水があった筈だ。
ぼんやりとそう考えながら、暗闇の中を歩く。

 彼女が幾つ目かの分岐に差し掛かった時、その耳にかすかな呻き声が聴こえてきた。
少女は思わず立ち止まって耳を澄ませる。
 最初は誰かの寝言かとも思った。
けれど、はっきりと荒い息遣いと呻く様な声が聴こえてくる。
 何か異変があったのかもしれない。
 妙な胸騒ぎを覚えたアステは迷わず声のする方へと向かった。

 この先には寝室の1つがあった筈。記憶を辿りながら、エルフの少女は進んでいく。
近づくほどに苦しそうな高い声が大きくなっていく。

「何…これ…?」
 アステは寝室に踏み込み、その光景に絶句した。
そこには裸のオークの少女たちが互いの肢体を絡ませ、睦み合っていた。
 ランタンの淡い灯かりに少女たちの淫靡な痴態が浮かび上がっている。
彼女たちはお互いの身体の疼きを慰め合おうと身体全体を使って相手を愛撫していた。
「はぁっ…あれぇ…? あぁん…アステぇ…どうしたのぉ…?」
 その少女たちの中に黒耳のオーク、ネグルの姿もあった。
「っ…ネグル…どうして…?」
 心を許しかけていた少女のあられもない姿にアステの心は打ちのめされた。
「あっ…だってぇ……気持ちいいんだもん…! はぁん…アステもぉ…一緒にシよ…?」
 ネグルは快楽に蕩けた表情と甘い嬌声でアステを誘う。
 黒耳の少女は小柄だが肉付きの良い肢体を揺らし、自ら快楽を貪る。
彼女は自ら両脚を開き、ドロドロに濡れた秘所をアステへと魅せつける。
そこは張型によって拡げられ、抉られ、愛液を洪水のように滴らせてした。
 少女たちの喘ぎ声に。湿った水音に。アステの中の魔物の本能が疼き出す。
「っ…!」
 アステは自分を抑えられなくなり、その場から逃げ出した。
「ああっ…お…おまんこ…しゅごいぃ…!!」
 耳を塞ぎ、必死に身体の疼きを否定する。
 エルフの少女は訳も分からず闇の中を駆け抜けた。

##########

「うるさいねぇ…何の騒ぎだい…?」
 アステが闇の中を駆けていると、その行く手に眠そうな声の女が立ち塞がった。
「きゃっ!」「うわっ!」
 急に止まる事もできずアステはその女へと激突する。
そして、2人揃って床へと倒れこんだ。

「…ぃたた…何だい、アステじゃないか。夜中に何をやってんだい…?」
 我に返ったアステの間近にヴィーニの呆れたような顔があった。
顔が近い。何より、自分がヴィーニを押し倒している。
先程、見た淫らな光景が少女の頭の中でフラッシュバックする。
「!!!」
 彼女は慌てて、起き上がり、身体を離した。

 動悸が早い。顔が、身体が熱い。
少女たちに狂宴に当てられたのか。
アステの華奢な身体はしきりに疼いていた。

「何なんだい、一体?」
 訳が分からないといった表情でヴィーニも起き上がり、眉を顰めた。
しかし、彼女は直ぐに通路の向こうから漏れ聞こえる嬌声に気づき愉快そうな笑みを浮かべた。
「今夜もヤってるみたいだね…。ははーん、アレを見ちまったのかい。
ウチには人間の男いないからねぇ。時々、仲間同士で慰めあっているのさ。
まあ、あんたには、ちょっと刺激が強すぎたかもしれないねぇ」
 オークの女はニヤニヤと笑いながら暢気にそう言ってくる。

 冗談じゃあない。
ちょっと刺激が強いとかいうレベルじゃあない。

 全身を絶え間なく襲う快楽への渇望が彼女の心を蝕んでいた。
目が眩み、世界が揺れる。

 肺が空気を求めるように快楽を求めて身体が震える。

「ちょっと、大丈夫かい? ずいぶん顔色が悪いようだけど」
 大丈夫なわけない。
だが、逆に疼きが大き過ぎて、全身が麻痺したように動かせなかった。
今すぐにでも自らを慰めなければ、気が狂ってしまいそうだった。
しかし、そんな衝動に苛まれながらも指一本動かせない。
「こいつは…マズイかもしれないね」
 ヴィーニも流石に少女の異変に気づいたようだった。
「やれやれ…手間のかかる娘だねぇ」
 彼女は嘆息するとエルフの華奢な身体を抱え上げ、自らの部屋に連れ帰った。

##########

 ヴィーニはアステをクッションの上へ横たわらせると自らはその対面に腰を下ろす。
その後、おもむろに少女の肢体を覆う衣服の前側を開いていく。
緑色の服の下から露になった白い肌はすでに桜色に上気していた。
「予想通り、綺麗なモンだ」
 愛しさとそして若干の嫉妬を込めて、オークの女はホウと息をつく。
そして、おもむろに両の手をアステの豊かな双丘へと伸ばした。
「あぁんぅ…っ!」
 胸を優しく揉まれ、指先で濃いピンク色の乳首を弄ばれ、少女の肢体が跳ねた。
乳房の先端は火が付いたように熱くなり、そこから生じた快楽が背筋をビリビリと駆け上る。
そこに到って、半ば放心状態にあったアステの意識が覚醒し、虚ろな目に焦点が合う。
「っ…!? …ヴィーニ…ひゃぅ…! …な…何を…してるの!?」
「何って、ナニ。…アステ、我慢するのは止めるんだね。
溜まったもんは定期的に吐き出さないと壊れちまうよ?」
 ヴィーニは説教しながらも胸を責める手は少しも緩めなかった。
「あぁっ…! …が…我慢なんか…してないぃ…!」
 喘ぎ声に甘い色を混じらせながらも少女は頑な態度で性欲を否定する。
だが、言葉とは裏腹に彼女の全身は快楽に打ち震え、抵抗する素振りさえ見せない。
「意地っ張りだねぇ。それじゃあ、素直になれるようにしてあげるよ」
 女は妖しく笑うと右手を胸から離し、少女の下腹部へと食指を動かす。
穢れを知らぬ少女の秘所を割れ目に沿って撫でる。
「…ぃやっ…! …そこは…汚い…ぁぅうんっ…!」
「汚くなんかないさね。ほら、こんなに糸を引いて、綺麗に光ってる」
 ヴィーニがヌラヌラと光る指先を広げて見せると指の間で愛液が糸を引いた。
「…そ…そんなの…知らない…!」
 アステは見たくないとでも言うように両手で自分の顔を覆い隠す。
そんな少女の身体をヴィーニは意地の悪い笑みを浮かべて、優しく犯した。
 彼女は人差し指でエルフの愛液を掬い取るとそれを陰核へと塗りたくる。
それと同時に中指と薬指の2本の指をアステの膣内へと沈めていく。
「ふあぁっ…! …な…なかにぃ…!! …あぅあぅぁっ…! …ゆびぃ…っ…!!」
 そのまま、人差し指で陰核を嬲りつつ、挿入した2本の指で膣の内壁を抉る。
秘所を2点責めされる未知の衝撃に少女は狂ったようによがり喘ぐ。

 自分で慰めるのではなく、誰かに疼きを満たして貰う事の喜び。
性行為への嫌悪感も。罪悪感も。
孤独も。恐怖も。理性も。
 少女を満たしてくれる幸福(しあわせ)が何もかも。
アステの心を蕩けせていく。

「はあぁっ…!! …ヴィーニぃ…!! …なにかぁ…す…すごいのぉ…きちゃうぅっ…!!!」
 快楽の熱に犯された身体の奥から、今までとは段違いの熱さを秘めた何かがせり上がってくる。
「それがイクって事さぁっ! 遠慮はいらないよ! たっぷりおイキっ!!」
 ヴィーニはアステの限界が近い事を悟り、より一層、責めを激しくさせた。

「ひゃあああっ!! イクぅ!! イっちゃうううううぅぅぅぅぅっ!!!」

 限界の一点を越えた少女はその身を大きく仰け反らせる。
 アステの絶頂を迎えた膣が収縮し、ヴィーニの指を咥え込んだ。
それが更なる快楽を生み、彼女の尿道から大量の愛液を吹き出させる。
「…ぁあっ…はぁ…っ…ううぅっ……」
 少女は絶頂の余韻に浸りながら、荒い息を何度も吐き出した。

「…どうだい? これで少しは治まったかい?」
 ヴィーニはアステの呼吸が治まった頃を見計らって、優しい笑顔でそう尋ねる。
「うん…いっぱいイったから…もう平気…」
 エルフの少女は涙と涎で濡れた桜色の顔に幸せそうな微笑みを浮かべて答えた。
「そうかい…」
「ねぇ、ヴィーニ…」
 アステは濡れた瞳でヴィーニを見上げ、甘えるような声色で囁く。
「何だい?」
「…ありがと…ぅ……だ…ぃ…す…き…」
 彼女はゆっくりとそう呟いた後、目を閉じて安らかな寝息を立て始めた。
「…まったく、こうしていると可愛げもあるんだけどねぇ…」
 ヴィーニは苦笑しながら少女の髪を優しく撫でる。
オークの女は幸せそうに眠るエルフの隣に身を横たえると目を閉じた。

##########

 翌朝。

 先に目を覚ましたのはアステの方だった。
「ん…」
 何やら身体が温かいものに包まれている。
「んん…? んんん…!?」
 気がつけば、彼女はヴィーニの腕の中で眠っていた。
オークの逞しくも柔らかい腕はガッチリと少女の身体を包み込んでいた。
 アステは昨夜の情交を思い出し、猛烈な恥ずかしさに襲われた。
少女はヴィーニが目覚める前にその腕から逃れようと身体を捩った。
だが、それは無駄な抵抗だった。
それどころか彼女の動きが眠れるオークの目覚めを促した。
「ふぁ〜……もう少し寝かせておくれよ…昨夜は頑張ったんだよ…」
「あの…」
「……ん? …アステ、おはよ」
 ヴィーニはまだ寝ぼけているのか、暢気にそう挨拶してくる。
「は…離なさい…!」
 恥ずかしさが頂点に達したアステは力一杯ヴィーニの身体を突き飛ばした。
「んむぅっ!?」
 驚いた表情を浮かべ、オークの身体が地面の上を転がっていく。
「いきなり何すんだい!」
 数メートル転がった後、彼女はガバッと身を起こし抗議の声を上げた。
「知らないわよ!」
 少女も起き上がると顔を真っ赤にして怒鳴る。
「…全く、昨夜はあんなに可愛げがあったのに。ひと晩明けたらこれかい…」
 ヴィーニはわざとらしい声で文句を言ってくる。
「ななな何を言ってるのよ! 昨夜のは…無理矢理、貴女に犯されたんだから…」
 少女は耳まで顔を真っ赤にすると消え入りそうな声でそう応じた。

 やっぱり可愛げあるのはえっちの時だけらしい。
 このまま、言い争っても不毛だと悟ったヴィーニは強引に話題を変えた。
それはある意味本題でもあったが。

「それで夜が明けちまったけど…あんた、どうするつもりだい…?」
「そう…だったわね…」
 ヴィーニの言葉にアステは冷静さを取り戻し、黙り込んだ。
 アステはチラチラとヴィーニの顔を見ては、迷うように何度も視線を逸らした。
我ながら情けない事に、この期に及んでもまだ踏ん切りがつかなかった。

 そんな彼女の態度を見かねたのか。
 オークの女はひとつ溜息をつくと意地の悪い笑顔を浮かべた。
「あんたが此処からいなくなったら。
あたしが昨夜、あんたを犯したと皆に言いふらすかもしれないねぇ」
「な…!」
 その言葉を聞いたアステは何とも複雑な表情を浮かべた。
それは心底怒っている様でもあり、同時に嬉しそうでもあるふくざぁ〜つな表情。
「あたしを口止めしたかったら、いつまでも監視している事だねぇ」
 ヴィーニは目を細め、優しげに笑う。
「いいわよ…! いつまででも見張ってやろうじゃない…!」
 二度目の宣戦布告じみた台詞。
 その台詞を言うアステの表情には幸せそうな笑顔が浮かんでいた。

##########

 昔、ある地方の山道にオークの盗賊団が出没していた。
その一味にはエルフが加わっていたという噂もあったが真実は定かではない。
 彼女たち本人以外。盗賊の仲間について知る者はいない。
11/07/14 23:51更新 / 蔭ル。

■作者メッセージ
 オークさんは仲間で旦那さんを共有するようなので、きっと仲間を大切にすると思い立ち執筆。
まあ、力による上下関係を作るのは彼女たちの本能らしいので、おそらく仲間内の序列はあるだろうけど。

 今回、ストーリーの都合上、エルフたちが悪者になっているけど、
きっと彼女たちも仲間を大切にするとは思いますよ。

 それはさておき書いてて疑問に思った…。
エルフってどうやって殖えてきたんだろう?
男性の存在が明言されているドワーフと違って、エルフの設定は不明。
もしや、図鑑世界には男エルフはいなかったというオチですかね?

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