連載小説
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09「ドラゴン娘はどらげない(後編)」
「ただいまより第八回ロボTRY全国大会・更紗地区予選会、決勝戦を開始します!!」

 中央公園に設営された仮設闘技場。時刻は夕方。
 アナウンスに観客たちが一斉に騒めき、映画「GUNHED」のスコア(楽曲)「Island 8jo」が鳴り響く中、二体の人型重機が左右のパドックからバトルステージへとゆっくり歩を進める。

「ロボの出囃子なら、でーんでんでん、でんでどんどんってのも捨てがたいよな♪」
「『DECISIVE BATTLE』な。出囃子ゆーなや怒られっぞ……」

 一方は空色──スカイブルーとホワイトに塗り分けられた機体。

 頭部の額に当たるところから、斜め上に真っ直ぐ伸びた一本ツノ。腕と脚の形状が左右で違っていて、重量のバランスをとるためにカウリング(外装)の一部がハンドメイドのものに換装されている。両肩と胸部にあと付けされたダメージマーカーの色はオレンジ。

「明緑館学園、チーム・モノアイガールズ!」

 もう一方は龍の意匠を施された、蒼玉色──サファイアブルーのカウリングを纏った機体。

 大きく開いた龍の口内に埋め込まれた顔、太めの腕と脚に生えた台形型のフィン。そのいわゆるスーパー系≠ネ見た目は、対戦相手と(いろいろな意味で)真逆の印象を植え付ける。共通の箇所に取り付けられたダメージマーカーの色は白。

「深山高校工業科、チーム・蒼の龍騎士!」

 ステージ中央に設けられた待機線に歩を進め、向かい合う二体のメガパペット。観客席のボルテージが上がっていく中、それぞれの機体の斜め後ろで有線操縦器(プロポ)を手にしたプレイヤー二人──海老原甲介と志度愁斗の間には、逆に冷えたような緊張感が高まっていく。
 甲介のさらに後ろ、フィールドの外にはタブレット端末を抱えて立つサイクロプス娘ホノカの、愁斗の後ろには折り畳みの長机と椅子が置かれ、そこに座ってノートパソコンを覗き込む奥田柾輝と胡来瑠偉の姿があった。

『パーツの交換だけで済んだからよかったですけど、次からはせめてひと言声をかけてから持ち出してほしいですね』
『全くっす。一人で秘密の特訓だなんて、先輩らしくないっすよ──』
「いや、その……悪かった」

 インカムから聞こえてくる二人の苦言に、愁斗は一瞬バツの悪そうな表情を浮かべ、それでも謝罪の言葉を口にする。
 なお、ロボット重機特区でもある更紗市では、道路でメガパペットを歩かせる(移動させる)際には、操縦者とは別の人間を誘導係≠ニして随行することが暗黙の了解である。そういった意味でも愁斗の行動はあまり褒められたものじゃない。

 ──ま、「一人で」じゃなかったんだけどな……

 そう胸中でつぶやき、対戦相手──甲介とホノカのさらに向こうを見やる。
 観客席に集まった、二人を応援する明緑館学園の生徒の面々。その中にいる、明らかにヒト以外のパーツを身につけた異形の女子たち──

「魔物娘……か」

 頭にツノやら手脚がモフモフやら、尻尾があったり下半身がクモだったり髪の毛の中から触手がうねうねしていたり……と、人外度マシマシな彼女らのひとり、自分の機体と同じ色をした龍の意匠をもつ少女と目が合った。

「…………」

 目元を赤らめぎこちなく笑みを浮かべるドラゴン娘に、愁斗は微かに表情を崩し、小さくうなずいた。

 …………………………………………
 ……………………
 …………

 二日前、夜の高架下広場──

「あー、え、えっと、シュウトく……じゃなかった、お──お前が操るそのヒトガタでっ、わ、わたしに一撃入れて、みろっ! そっ、そうすれば……えっと、あ、蒼き龍を名乗ること、み、認めてやらないことも、ないっ!」
「…………」

 宙に浮かんだまま背中の膜翼をひと打ちさせる異形の少女。愁斗は手にしたプロポを操作し機体の動作を選択、トリガーに指を掛けると、

「大丈夫、なのか?」
「──! ……どっ、ドラゴンをみっ見くびるなっ。当たっても蚊に刺されたほどにしか感じない、わっ!」
「…………」

 ──それって、単に痛覚が爬虫類並みに鈍いってだけじゃ……

 ……なんて思われていることに全く気づかず、わたしのこと心配してくれてるやっぱりシュウトくん優しい〜と脳内でくねくね身悶えしながら、ドラゴン娘──半龍半人の姿で初対面のふりをして¥D斗の特訓相手を申し出たヒビキは、空中でエラそうにふんぞり返る。

「っていうか、人型重機と生身の人間がやり合うのは御法度なんだけどな」

 小声でつぶやきながらも、プロポのトリガーを弾く愁斗。
 キュイイイイイッ──アクチュエータ音を響かせて、メガパペット〈蒼龍〉がホバリングする彼女と相対し、構えをとった。
 だが、やはり抵抗があるのかそのまま様子をうかがう。

「……う、あ、こ、来ないならっ、こっ、こっちからいくぞっ!」
「わかった……なら遠慮しないっ」

 機体が一歩前に踏み込み、右のマニピュレータを繰り出す。練習用にリミッターがかかっているとは思えない、鋭い一撃。
 それを宙に浮いたまま横移動でかわすと、ヒビキは間髪入れずに放たれた左のナックルをバク転で逸らし、そのまま伸び切った腕を尻尾で弾くように払いとばした。

「──!?」

 なんだかんだ言ってもドラゴン。荒事に無縁な女子高生やってても、地上最強の魔物娘という二つ名は伊達じゃない。
 左腕を弾かれたまましばし硬直。そして〈蒼龍〉は基本姿勢に戻り、ゆっくりと構えをとり直した。

「…………」
「あ、いやその、えっと……は──反撃しないとは、い、言ってないぞっ!」
「……上等っ」

 その開き直りに愁斗はニッと歯を見せ、楽しげな……好戦的な笑みを浮かべる。
 その表情に胸とへその下をキュンキュンさせながら、ヒビキは背中の膜翼を羽ばたかせ、自分の鱗と同じ色のメガパペットに向かっていった。



 ……人型重機とドラゴン娘のスパーリング?は、夜遅くまで続いた。

 …………………………………………
 ……………………
 …………

 場面は再び今に戻る。

 試合開始のシグナルと同時に、甲介の操るメガパペットTX−44改〈ブラウホルン〉と愁斗の機体RFー28BD〈蒼龍〉が、互いに足音を響かせ、真っ正面からぶつかり合う。
 プロポの周囲に展開したFTディスプレイから動作を選択、エンターキーであるトリガーを人差し指で弾く。互いの機体は相手が繰り出したマニピュレータを払い除け、カウンターでナックルを放つ。

「……!」

 甲介はとっさに動作制動(キャンセル)をかけ、機体を右へ回避させる。だがそれを読んでいた愁斗は〈蒼龍〉の腰部を旋回させて〈ブラウホルン〉の左肩に一撃を入れてきた。

「……ちっ」

 半身をずらしてダメージマーカーへの直撃を防ぐ。伸びた相手の腕部をつかませてパワー戦に持ち込もうとした甲介だったが、愁斗はそれを嫌って機体を後ろに下げ間合いを取ろうとする。
 プロポから伸びたケーブルを払う。動作コマンドを呼び出し、トリガーを弾く甲介。〈ブラウホルン〉はあとずさる〈蒼龍〉との間を詰める。が──

「コースケくんっ!」

 サイクロプス娘の声が響いた。
 後ろに下がりかけた〈蒼龍〉がいきなり前へ踏み込み、右の貫手を繰り出してくる。鋭い突きが〈ブラウホルン〉の左肩を捉え、その一撃で取り付けられたダメージマーカーの色がオレンジから白へと変わると、ピシリとひび割れて肩のカウリング共々脱落した。

「やった!」

 観客席で両手を握りしめ、ヒビキが小声でつぶやく。
 彼女との特訓で愁斗が身につけた、力を一点に集中する攻撃。だが、甲介は受けた左肩の損壊を無視して一本ツノの機体をさらに前へと進ませる。その右腕が唸りを上げ、掌底を放った。

 ガッ──!

 胸部のダメージマーカーをかばって腰を引いた〈蒼龍〉だったが、〈ブラウホルン〉の右手は打点を上げてその顔面を捉えた。
 龍の意匠を持つヘッドギアにクラック(亀裂)が入る。さらに伸びた右腕を捩じ切ろうとつかみかかってくる相手を振りほどき、愁斗は今度こそ自機を下がらせた。
 甲介も再度のフェイントを嫌ってプロポを操作し、間合いを取り直す。

「あいつ、はなっから頭を狙って……っ!」
「距離センサをやられたっ! 愁斗、横へ回れっ!」

 赤く「ALERT」と表示されたディスプレイをにらみつけ、瑠偉と柾輝が口元のマイクに叫ぶ。
 「わかった」と返事をして、自機を真横から見れるよう位置を変える愁斗。そして視線をずらし、対戦相手の顔をうかがう。

「……ホノカちゃんごめん。今度こそボロボロになるかもしれない」
『前に言ったはず、だよ。壊れたら何度でも、修理する、って──』

 インカム越しに聞こえてきた返事に、甲介は一瞬だけ後ろを振り向きうなずくと、プロポから伸びたケーブルをムチのようにしならせて愁斗に向き直った。

「…………」

 笑っている。ケモノが牙を剥くような、鋭い笑み──
 そうか、こいつも俺と同類か……愁斗もニヤリと似たような笑みを浮かべると、プロポを持ち直した。

 歓声の中、二体の人型重機は再びぶつかり合う。

 互いに間を詰め、握りしめた拳を放つ。
 腕甲で払いのける。位置を変えて再度拳を繰り出す。腰部を捻ってかわす。さらに踏み込み、マニピュレータを開いてつかみかかる。カウンターを合わせる。

 ガッ──!

 〈ブラウホルン〉の左拳が今度こそ〈蒼龍〉の胸部を捉え、ダメージマーカーを直撃する。破片が飛び散り、表示されていた色が白からオレンジに変わって二、三回点滅したあと、その光が消えてしまう。
 打突の衝撃でひしゃげた自機のマニピュレータ(指)をちらっと見やり、

「……これで1−1だ」
「上等っ!」

 ダメージマーカーのポイントがイーブンになったことを告げる甲介。愁斗はそれに短く応えて、プロポのトリガーを弾いた。



 仮設闘技場の外に建てられた大型モニター。そこに映る、傷だらけになりながら取っ組み合う二体のメガパペット──

「無様な戦い方だ」

 画面を憎々しげに見上げ、彼──立花菱大付属高校のイキリ太郎もとい神原ジンは吐き捨てるように言い放った。

「あの程度の攻撃マニューバ、僕なら一発も貰わずにカウンターだけで秒殺できるっ。そうっ、機体に邪悪な魔法がかけられてさえいなければっ!」

 握りしめた拳を震わせ、奥歯をぎりりとくいしばる。
 自分の機体に魔法をかけられズルされたから負けた──それがいつの間にか彼の中では真実≠ノなっていた。自分の作り話(妄言)を自分自身が信じ込んでしまうタイプだった。
 あと本人的にはモノローグのつもりなのだろうが、自己アピール癖があるせいか声が無意識にでかい。

「ままー、あのおにいちゃん、だれとはなしてるのー?」
「しっ、目を合わせちゃダメよっ!」

 ……なので彼のまわりには、公園の中であるにもかかわらず誰もいなかったりする(笑)。

「だがっ、潰し合っているなら好都合っ! 更紗地区代表に相応しくないお前たちを本戦に行かせるわけにはいかないっ!」

 化け物女に魂を売った人類の裏切り者と、自分の誘いを無下にした愚かな恥知らずに鉄槌を。
 足元に置いた真っ赤な金属製の円柱──家庭用消火器に目をやり、ジンは口の端を歪めた。
 明緑館学園と深山高校、どちらが勝つにしろ、双方の機体がボロボロになるのは間違いない。試合終了時点でマーシャルよりも先にバトルステージへ飛び込み、「爆発するぞっ!」とか叫んで二機にこの消火器の中身を浴びせてやるのだ。
 モータースポーツにおいて、マシン火災の消火には二酸化炭素消火器を使用するのが常識である。粉末消火器を使うと機械部品や電装系の細かいところに消火剤が入り込んでしまい、結果マシンが使い物にならなくなってしまう。

「そうなればあの身の程知らずどもも、出場を棄権するしかないっ! そしてこの僕が繰り上げで地区代表に選出されるっ! そうっ、運命の風は吹いてくるんじゃないっ。自らが吹かせるんだっ!」

「ままー、あのおにいちゃん、なにひとりでイキってるのー?」
「だから目を合わせちゃダメっ!」

 某国F1GPのテレビ中継中に解説者が「最低ですよここのスタッフ。(中略)ホント最低ですね」と憤った行為から思いついたのか? 咎められたら「善意の緊急措置」で押し通すつもりなのだろうが、当然そんなのが通るわけないし、そもそもモーターと人工筋肉で駆動するメガパペットは、中に火薬でも仕込まない限りアニメみたく爆発なんてしない。
 しかし視野狭窄ならぬ思考狭窄に陥っているジンは、その顔に薄ら笑いを浮かべ、消火器を手に意気揚々と闘技場へ乗り込もうとして、

「……!!」

 背後からいきなり肩をつかまれた。
 ビクッとさせられたことに腹を立て、すかさず「誰だっ!?」とキレ気味に振り返ると……

「シン地球防衛隊NTRだッ! 民間人は下がっていろッ!!」
「「「ソルジャーッ!!」」」


 わんだばわんだばわんだばわんだばわんだばだばだばだっ、ハッ!

「…………」

 水を差された……というより民間人=モブ扱いされたことに、ジンは憤怒の表情を浮かべて脈絡なく現れたレザースーツ姿の一団を睨みつけ、手にした消火器を無意識のうちにぎゅっと握りしめた。



 試合時間の五分を過ぎ、ダメージマーカーは双方とも全壊。損傷が激しく立っているのがやっとの機体を三分間のインターバルでできる限りリペアした甲介&ホノカ、そして蒼の龍騎士の三人だったが、

「ホノカちゃん、こっちはあとどれくらい動ける?」
『もってあと数秒。……でも、向こうも同じ』

 右腕だけで構えをとる〈ブラウホルン〉は、四肢のカウリング(外装)にいくつもの亀裂が入り、左腕はフレームを折られ、駆動用リンゲルを垂らしながら肩部から力なくぶら下がっている。両手の指は完全に潰れて原型をとどめておらず、凄まじい打突が繰り返されたことを物語っている。

『本来なら時間を稼いで、相手の自滅を待つのがセオリーですが──』
『こっちも立ってるのがやっとですからねー』

 対する〈蒼龍〉は右肩のカウリングが脱落してフレームがむき出しになり、頭部は半壊。蒼玉色の胸甲はダメージマーカーが引きちぎられ、いくつも大きな亀裂が入っている。両膝部からは駆動用リンゲルが断続的に漏れ続けているが、下手に流出を止めると脚部が完全に動かなくなってしまう──という状態だ。

 もはや、どちらが最後まで立っていられるか、一秒でも長く動いていられるかで勝負がつく……

「あいつも、次の一撃で決めてくる」

 待機線にふらつきながら立つ相手機と、その横で童顔に似合わない好戦的な笑みを浮かべてこっちを睨み付けてくるプレイヤー。その顔を見返し、愁斗はインカムから聞こえてくる声にそう応えた。

「あんなになって勝てるのかよ? ホノカとコースケ」
「わからん……だが、あいつらはまだ、あきらめてない──」

 観客席では関西弁眼鏡男子の彼方を挟んで、ゲイザー娘ナギとヴァルキリーのルミナが固唾を飲む……が、

「勝って……シュウトくん」

 横でゴツい爪のついた指を組み、祈るようにつぶやくドラゴン娘の姿に、二人は即座に反応した。

「ひ、ヒビキお前っ、やっぱホノカが言ってたとおり、あのツンツン頭とデキてたのかぁっ!?」「つ、ついに他所の学び舎の生徒にまで魔物娘の毒牙がぁぁっ! ええいそこに直れドラゴンっ! 成敗してくれるっ!!」
「え? え? え? な、なな何? わ──わたし、な、何かした?」

 いきなりずいっと顔と触手の先を近づけるナギと、手にしたハリセンの切っ先(って言うのかね?)を向けてくるルミナに、ヒビキは目を白黒させる。

「もうっ、ナギもルミナも何やってんのよ」
「ったく、空気読めやお前ら……」

 横からルミナちゃん係≠ネどと認識されだしている文葉が、そして反対から彼方が溜め息混じりに三人の間に割って入ろうとした。だが直後巻き起こった大歓声に、彼らの視線はバトルステージへと向けられる。

 00:00:04 試合再開のシグナルと同時に、二体の人型重機が地面を蹴ってとび出す──

 00:01:03 ふらつく挙動を無理矢理立て直し、足首と膝の関節が軋み音を上げる──

 00:02:18 間合いに入って制動、脚部の亀裂から駆動用リンゲルが一斉に噴き出す──

 00:03:39 動く方の腕を振りかぶって、勢いのまま拳を放つ──

「……!」

 踏み込む〈蒼龍〉の膝関節が一瞬力を失って、機体ががくりと沈み込む。〈ブラウホルン〉の右腕が宙を切り、バランスを大きく崩した。

「もらった!」

 短くつぶやき、愁斗はプロポを操作しトリガーを引き絞る。だが自機はそれに応えず、次の瞬間前へと倒れ込み、それを正面から受け止めた格好になった相手機も、右腕を伸ばしたまま膝を折って擱座してしまう。
 ボクサーがクリンチをするかのように、二機は互いに相手へともたれかかって動きを止めた。

「「「…………」」」

 ステージが、観客席が静まり返る。
 そして、アナウンスが流れる。

「第八回ロボTRY全国大会・更紗地区予選会決勝戦…………Winner! チーム・モノアイガールズ!!」

 僅差で〈ブラウホルン〉の方が持ちこたえていたようだ。

「か、勝った……」
「コースケくんっ!」

 その場にへたり込む甲介。駆け寄るホノカ。

「…………」

 愁斗は大きく息を吐くと、プロポを左手に持ち直し、対戦相手の二人に近づいて右手を伸ばした。
 その手をとって、甲介はゆっくりと立ち上がった。
 ぱち……ぱち……ぱちぱちぱち…………観客席からまばらに聞こえていた拍手の音が、やがて大きくステージ中に響いた。
 機体をボロボロにしながらも、全国大会への出場権を手にした甲介とホノカ。その実感を二人が少しずつ意識し始めたその時、

「シュウトく──いや、あ、その……」

 膜翼を開いて飛び上がったヒビキが、隣に舞い降りてきた。愁斗は甲介の手を離すと、ドラゴン娘に向き直った。

「わるい、特訓手伝ってくれたのに負けちまった」
「あ、えっと……」

 肩をすくめて苦笑を浮かべる愁斗にどう声をかけていいかわからず、戸惑うヒビキ。
 意を決して顔を近づけ、耳元でささやく。

「お、お前が強いのは、ドラゴンであるこのわ──わたしが認めている。だっ、だから胸を張れっ」
「ああ……ありがとな、ヒビキさん」
「へ……?」

 ヒビキの目が点になった。
 「へ?」「は?」「あ?」「え?」「うそっ?」と顔を真っ赤にしてひとしきりテンパると、

「い、いいいいいつからきききき気づいてたのっ!?」
「いや最初から」
「なななななんでぇっ!?」
「…………」

 目尻に涙を浮かべて詰め寄ってきたドラゴン娘に、愁斗はわざとらしくはあぁと溜め息を吐いて頭に手をやった。

「あのなあ……、ツノや尻尾や羽根がついたくらいで好きになった女の子がわからなくなるなんて、俺そこまで鈍くねーぞ」
「ふひゃあああっ!!」

 しれっと告白めいたことを言われて見つめられ、ヒビキの顔は奇声と、ボンッといった破裂音とともにさらに赤くなった。
 膜翼ばさばさ、尻尾をびったんびったん。

「脈絡もなく魔物娘の話題を振ってきたから、もしやとは思っていましたが──」
「でも、流石にドラゴンなんて大物だとは思わなかったっすよ、ヒビキさん」

 そう言いながらニヤニヤと近づいてくる柾輝と瑠偉だが、そんな彼らもまた別の魔物娘にロックオンされているということに、今はまだ気づいていない。

「いいいいや、そ──その、え、え、えっと、あ、あの、それは……その、ななななんていうか──」
「お前らなあ……」

 呆れたようにつぶやくと、愁斗は未だわちゃわちゃするヒビキに向き直った。

「ひゃっ! えっと、ち──違う、違うのシュウトくんっ、あ、あれはそのっ、なんて言うか、ち、ちょっとドラゴンらしいとこ見せようと……うがあああああああっ!!(頭抱えて超赤面)」
「落ち着けって……あー、その、あ──改めて、俺とこれからも付き合ってくれるか? ヒビキさん」
「え、あ、あのっ、えっと、そのっ、はっはいっ! よ、喜んでっ! …………えと、えっと、わ、我が背に、のっ、乗る者よっ!」

 つっかえながらも想い人──愁斗に応えたヒビキ。そのまま抱き合う二人に、観客席から「きゃーっ」といった嬌声(主に魔物娘たち)や口笛がとぶ。
 勝者なのに完全に蚊帳の外になった甲介とホノカは、互いに顔を見合わせて肩をすくめる。観客席にいたナギは「メガパペットプレイヤーってのは、試合後にみんなの前で魔物娘口説くのがデフォなんか?」と言って、パートナーの彼方にきししっと笑いかけた。



 明緑館学園高等部一年A組、ある日の昼──

 四時間目のチャイムが鳴って授業が終わり、生徒たちは、ある者は連れ立って食堂へ行き、別の者は席をくっつけてお弁当を広げている。
 そんな中ドラゴン娘ヒビキはひとり、作ってきたサンドイッチが入った紙袋を机の上に置いた。なお、姉のカナデは何かやらかしたらしく、学園長室へ呼び出しをくらっている。

 ──今ごろシュウトくんも、これ食べてくれてるかな……

 まわりから畏怖?されているのは相変わらずだが、ヒビキ自身は愁斗と付き合い始めてから気持ちに余裕が出てきたのか、クラスのそういった視線やら態度やらがあまり気にならなくなったようだ。
 ふと気配を感じて顔を上げると、目の前にクラスメイトの女子が二人立っていた。
 その手には、カラフルなナプキンに包まれたランチボックス──

「あ、あの……ヒビキ、さん」
「わ──わたしたちと一緒に、お、お弁当食べ、ない?」
「……!?」

 きょとんとした表情になり、次の瞬間ドラゴン娘は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

「うんっ!」

 to be continued...



─ appendix ─

 わんだばわんだばわんだばわんだばわんだばだばだばだっ、ハッ!

「ヒーローに憧れる気持ちはイタいほどわかるっ! だがっ、ここは我々NTRに任せて少年は今すぐ退避するんだっ!」
「「「ソルジャーッ!!」」」
「お前らの、お前らのせいでっ! この僕の緻密な計画が全て水の泡だっ! 反省しろっ!! 責任とれっ!! 謝罪会見動画をネットに上げろっ!!」
「「「ソルジャーッ!!」」」
「勇気と無謀を履き違えるな少年っ! キミははっきり言って足手まといなんだっ!!」
「「「ソルジャーッ!!」」」
「怪獣ごっこがしたいなら児童公園の砂場でやってろっ! 怒りに震えて涙が止まらないっ!!」
「「「ソルジャーッ!!」」」

「……どーでもいいのじゃが、逐一合いの手を入れんといかんのか? おヌシらは」

 暴発した粉末消火器の消化剤を頭からかぶって互いに真っ白けになったまま微妙に噛み合わない罵り合いを続けていたウ◯トラ防衛隊風レザースーツ姿の一団とイキリ少年神原ジンは、突然割って入ってきた甲高い声にタイミングを合わせたかのように振り向いた。
 そこにいたのは、うさんくさそうな半眼で見上げ返してくる小柄な少女。側頭部から山羊のそれに似た一対のツノを生やし、前腕とスカートから伸びた脚はふわふわした獣毛に覆われている……

「まあとにかくここから先は、マイシスターの恋路のために一歩たりとも行かせんのじゃ」
「「「……!!」」」

 仮設闘技場の入り口を背に、腰に手を当てフラットな胸を張って仁王立ちするバフォメット娘カナデ。その姿にいろいろと絶句する男たち。
 魔物は地球の平和を脅かすとか侵略者だとか主張している彼ら(自称)地球防衛隊NTRの面々だったが、実のところ魔物娘と遭遇するのはこれが初めてだったりする。

「ううううろうろうろうろうろたえるなああっ! よーぢょの姿をしているのはぁっ、我々を油断させるために違いないのだああああっ!!」
「「「ソルジャーッ!!」」」

 それでも男たちは、ざざざざっと動いてカナデを取り囲む。なし崩し的にその中に混ざってしまうイキリ少年。
 だが彼女がさっと右手を高く上げ、その頭上にいくつもの魔法陣がホログラムのように浮かび上がって回りだすと、ジンは途端に裏返った声を上げて人差し指を突きつける。

「おおおおお前ぇええっ! ままま魔法を人に向けて使うのは禁止されてるんだぞ知らないのかううう訴えるぞおおおっ!!」
「「「ソルジャーッ!!」」」

 普段から「魔法ガー魔法ガー」と口癖みたくわめいている彼だったが、実のところ魔法が行使されているのを見るのはこれが初めてだったりする。

「これは召喚陣じゃ。おヌシらに向けて放つ魔法じゃないからノーカンなのじゃ♪」
「しょ、ショーカン……だとっ!?」

召喚【しょう-かん】
1.(人を)呼び出すこと。特に裁判において被告人や証人、弁護士などに時間や場所を決めて出頭を命じること。2.ゲームやファンタジーで天使や悪魔などを呼び出すこと。英語のinvocation(conjuration)の訳語。

 男たちの見つめる先、宙に描かれた魔法陣は互いに重なり合いひとつにまとまると、凝った意匠の巨大なものへと変化した。
 はたしてそこから出現するのは巨大魔人か、それとも大型魔獣か……

「うおおおおぉっ!! ショーカン者がショーカン術でショーカン体をショーカンする前にショーカン陣を破壊してショーカンを阻止するんだあああっ!!」
「「「ソルジャーッ!!」」」

 いきなり鼻先に降下してきた魔法陣にびびって腰を引きそうになり、あわてて誤魔化すかように声を荒げる。
 手に手に得物(特殊警棒や改造エアガン等)を構え、それに向かって突撃する男たち。だがカナデは騒がずうろたえず、手にしたスマホの方に召喚の呪文を唱えた。

「あーもしもしポリスメン……じゃなくて警察ですかなのじゃ──」



 数分後、自称地球防衛隊NTRの面々は、バフォメット娘が召喚(笑)した警官たちによって凶器準備集合罪、騒乱罪の現行犯として連行されていった。
 当のカナデはハッタリの魔法陣をすぐさま消して「おっさんたちにかこまれてこわかったのじゃあ〜」とわざとらしく怯えてみせ、更紗署も魔物娘が集まるここで何かやらかすんじゃないか──と警戒していたらしく、男たちの主張や弁解は全く相手にされなかった。

「大丈夫かしっかりしろ出尾池ぃ〜っ!」
「立てっ、立つんだ加眞瀬ぇ〜っ!」
「お前の犠牲は無駄にしないぞ立河割ぃ〜っ!」

 なお、駆けつけてきた警官たちの姿に気付いてこっそりフェードアウトしようとしたジンだったが、手に消火器を持っていたことを見咎められ、無関係をわめき散らしながら一緒にドナドナされたことを追記しておく……

























「少年よ、こんなことに巻き込んで本当にすまないと思っているっ!」
「それ本当にすまないってナノいちミリも思ってない奴のセリフだろがああああっ!!」
23/04/02 22:31更新 / MONDO
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■作者メッセージ
 どうも、MONDOです。

 当初の予定ではホノカと甲介が敗退して、正体バレしていない(と、本人だけが思っている)ヒビキが愁斗たちと一緒に全国大会へ──というものでした。
 けど、それだとお話を続けにくいと考え直して主人公補正?を発動、この展開になりました。楽しんでいただけたなら幸いです。
 ラタトスク娘サーヤとバジリスク娘リコにロックオンされた、チーム・蒼の龍騎士の二人のエピソードも今後書ければとも思います。まあ、知らん間にくっついているかもしれませんが。(^^)

 次回は閑話を挟んで、ナギたちの日常を描いていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

ナギ「ホントに、ホントに次はアタシがメインなんだな? 今回あんだけしか出番なかったからマジで凹んでんだぞっ!」

 そ、それではまた…… (^^;

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