読切小説
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目覚めし欲
『何でしょうか? 何かが聞こえます……それに、何かいい匂いがします……』

 とある森で張られたテントの中で女の眠りが破られた。その女はただの女ではない。側頭部と腰から対になって純白の翼が生えていた。神聖なる、天の使いであることを示す翼が。しかし彼女の頭には輪はない。寝袋にくるまっている彼女の横には物々しいクレイモアと厳つい鎧が置かれている。ヴァルキリーなのだ。
 ヴァルキリーとは主神の声に従って勇者や英雄となるべき人に付き添って彼らを助ける中級天使である。このヴァルキリー、ヒルダもまたそのうちの一人だ。当然彼女にも、付き添っている勇者がいる。今、横で寝ているはずのシルズだ。
 そのシルズの物なのだろうか。荒い息遣いとうめき声のような物が、まだ覚醒しきっていないヒルダの耳に響いていた。

「あ、あ……ヒルダ……」

 小さい声であったが、呼び声が聞こえた。確かにシルズの物だ。その声はやけに切なくヒルダには聞こえられた。まるで外に締め出されている犬が、中に入れてくれとねだるかのような。

『シルズ……? どうしたのでしょうか?』

 シルズの声、自分の名前、鼻孔をくすぐる匂い……何が起きているのか確かめるべく、ヒルダは目を開いた。明かりがないテントの中では、始めは何も見えない。だが徐々に闇に目が慣れると、天使であり人より能力が高く夜目も効くヒルダはぼんやりと輪郭だけでも把握することができた。そしてそれだけで十分であった。ヒルダの目が大きく見開かれる。素早く跳ね起き、ヒルダは身構えた。薄衣姿でも、無防備には見えない。

「シルズ!? あなたは一体何をしているのですか!?」

 一喝されたシルズの動きが固まる。右手は下腹部にあり、怒張した彼のモノを握っていた。そう、あろうことか彼はパートナーのヴァルキリーの横で自慰をしていたのだ。
 二人が信じる神は猥りがましい事を禁止している。生殖のための性行為ですら秘めるべき事とされているのに、快楽を得るためだけの交わり、そして自慰が許されるはずがない。シルズがしていたことはその禁忌を破るものであった。
 テントの中に重苦しい沈黙が降りる。しばらくして、彫像のように固まっていたシルズが動いた。右手を未だに張り詰めた肉棒から離す。そして弾かれたようにテントの隅に移り、ナイフを取り出した!

「……!」

 考えたり言葉を発するより先に身体が動いた。低い姿勢のままヒルダがシルズに飛びかかる。だが彼との間合いを詰めている間に、シルズがナイフを己の首に押し当てているのは分かった。

「させません!」

 勇者であり男であるシルズであるが、人外の存在でありましてや神の使いであるヴァルキリーには勝てない。彼は腕を捻り上げられ、痛みでナイフを取り落とした。そのままヒルダに組み伏せられる。

「やめろ! 死なせろ! 死なせてくれ! そうでなきゃ殺せ!」
「そうはさせません! 何故このようなことをしたかハッキリと告白し、その上で主神様の判断を仰ぎます!」

 シルズが叫んだが、それをさらに上回る声量でヒルダが怒鳴りつけた。ここが宿屋などであったら即座に苦情が隣の部屋などから来たことだっただろう。
 再びテントの中に沈黙の帳が降りる。その間、二人はまるで戦いの前であるかのように睨み合っていた。

「シルズ……確認します。あなたは主神の教えに背き、オ……オナニーという、快楽のための行為を行っていたのですね?」
「……」

 シルズは黙ったままであったが、やがて観念したようにこくりと頷いた。ごまかしようがない。間抜けな絵面ではあるが、彼は未だに下半身を露出したままであり、その逸物は熱り立っている。分かりきっている状況であったが、シルズの肯定の仕草を見てヒルダの顔が苦虫を噛み潰したかのような表情になった。
 品行方正な勇者だとヒルダはシルズを評価していた。セントラクル王国で彼と出会い、この半年間ずっと二人は寝食を共にし、剣を振り、旅をしていた。シルズは情に溢れてはいるがそれに流されることはなく、敬虔な教徒であり、悪には毅然と立ち向かうが無駄に血は流すまいとする、勇者の鏡のような人物であった。勇者という立場を振りかざして横暴を働くこともない。ヴァルキリーのヒルダのことも大切に扱い、彼女の助言や叱責も素直に受け入れていた。アマゾネスの襲撃の撃退、商業ルートで障壁となっていたゴブリン山賊団の放逐、人間の山賊団からの人質救出……上げた功績も大きい。彼に付いているヴァルキリーとしては鼻が高かったものだ。その勇者がなぜ……ヒルダの失望は大きかった。
 しかし、とヒルダは考える。思い起こしてみれば、このような事態になる予兆のような物があった。とある貧しい街を通った時だ。ヒルダがおつかいのために彼から目を離していた時、シルズは三人の娼婦に迫られていたのだ。彼は断っていたのだが、その断り方はやや頼りなかった。もう少ししたら押し切られていたかもしれない。幸い、戻ってきたヒルダが烈火の如く怒って娼婦達を追い払って何事もなかったのだが……その時から彼は戦いや稽古の時、集中力を少し欠くことが出てきた。勇者でも男、そのようなことに興味はあるかもしれない。だが信仰心がその邪な興味を抑えてくれてくれると思っていた。

「それなのに、なぜこのようなことを……」
「……」

 シルズからの答えはない。

「いずれにせよ、許されざることです。主神に言葉をいただき、裁きを……」
「うるさい!」

 不意にシルズが大声を上げてヴァルキリーの言葉を遮る。まさかこの期に及んで観念していないのか……ヒルダは驚愕した。しかし、この後勇者が吐き出した告白の内容はその衝撃などはるかに上回る代物であった。

「みんな……みんなヒルダが悪いんだ!」
「私が……!? 私がいったい何を!」

 逆恨みのように言い切られ、ヒルダの頭に血が上る。怒りと同時に戸惑いを覚える。自慰の禁忌の責任を自分に押し付けられてパニックに陥っていた。そのヒルダにシルズは叫ぶ。

「何をって! 存在その物だよ! 戦いの時は大っきな胸を揺らして! のしかかっている今だって俺の目の前で揺らして! 抱きついてきて押し当ててきたりもしたし! 俺の前に立った時はお尻を見せつけて! この間なんか魔物や女に襲われたら大変だからとか言って風呂も一緒に入ったりなんかして! しかもそれが綺麗なヒルダだよ! 俺だって男だよ! なのに……なのに……!」

 これまでも相当我慢を重ねていたのだろう。そこにヒルダの叱責だ。火薬の樽の山に松明を放り込んで爆発させたかのような、激しく、そして苦しげな感情の吐露であった。
 そこまで彼を追い詰めていたとは思わなかったヒルダはショックだった。加えて、その原因が自分にあることも。あまり誇りとは思わなかったが、自分の容姿は悪くはないと思っていた。神の使いであるから見栄えが悪いといけないという考えはあった。それが逆に勇者にとって仇となっていたとは。加えて胸の大きさや戦いの時に揺れることは自分ではどうしようもない。とても歯がゆいことだ。
 シルズの言葉を受けたヒルダの手から力が抜ける。だがシルズは抵抗しない。彼も分かっているのだ。ああは叫んだが、結局は自分が悪いのだと。さらに、内容がヒルダを苦しめていることも。それがなおさらヒルダを悲しませた。

『ああ……!』

 ヒルダは天を仰ぎ見る。目にはテントの天井しか映っていないが、彼女はその先を、遥か彼方を見ていた。

『神よ……私はどうすればいいのですか!?』

 自分の勇者が獣欲に捕らわれている、しかもその原因が自分……今突きつけられている現状は彼女の手に余る代物であった。困り果てた彼女は天界の自分の主に問いかける。
 性を嫌う主神がどのように答えるか……やはり勇者を処刑するように言われるかもしれない。あるいは、自分も命を絶てと命じられてもおかしくない。罵倒を受けることもあるだろう。いや、あるいは無視され、延々とこの状況に苦しむようにしてくるかもしれない。祈るような気持ちで……いや、ヒルダは祈った。

――ヒルダ……

 澄んだ神の声が頭の中に小さく響く。返事が来たことに少しだけ安堵しながらも、その後の内容をヒルダは待った。勇者、そして自分にくだされる判断とは……

――彼を受け入れるのです……
「な、なんですって!?」

 思わずヒルダは声に出して神に問いかけ返す。神の声は変わらない。

――彼を受け入れるのです……そうしなければ起こりうるさらなる悲劇も、賢い貴女なら分かるはずです、ヴァルキリー・ヒルダ……
『さらなる……悲劇……』

 神の声の通りだ。すぐにその"悲劇"が脳内で再現される。獣欲を溜め込み爆発した勇者は過ちを犯すかもしれない。子孫のためではなく、快楽のために交わる。前の街のように、娼婦と交わるかもしれない。いや、それはまだマシだ。女を犯すかもしれない……もはや勇者や教団の倫理問題ではなく、犯罪だ。あるいは、勇者や教団関係者として禁忌中の禁忌、魔物と交わることだって十分考えられる。
 それらを防ぐためにはどうすればいいのか……神の言うとおりだ。色欲の闇に今は捕らわれている彼を許し、そこから助けることだ。そうだ。自分がこの身を盾にしなければ、さらなる悲劇が起こるのだ。

『しかし、それは今までの教義とは異なるのではないでしょうか……?』

 神の戦乙女の頭に、微かに答えへの疑問が起こる。だがそれはすぐに神の声と自分が出した答えに掻き消されてしまった。
 ずるずるとヒルダは身体をシルズの足元に移動させる。どうしたのかとシルズは訊ねるがヒルダは答えない。ヴァルキリーの澄んだ蒼い目は勇者の欲棒に注がれている。それは未だに固く張り詰めていた。そっと指先で根本を掴んでみると熱く滾っており、内側から破裂するのではないかとすら思える。
 どうするべきか……聖の戦乙女は"知らない"。だが、身体が何者かに突かれたかのように動いた。そっとヒルダは口を開けて、自らの顔をシルズの股間に埋めていく。勇者のペニスにヴァルキリーの吐息がかかり、そして口内へと消えていく。

「ヒ、ヒ、ヒルダ!?」

 飛び上がらんばかりにシルズは驚いた。それもそうだろう。先ほど、自分の自慰を破廉恥だと言い切り、その罪で罰しようとした神の戦士が、自分の生殖器を咥えているのだ。その態度と行動の変わりぶりに驚かないはずがない。だが一方で咥えているのは自分が密かに想いを寄せていた女だ。嬉しくないはずがない。口内の温かさと快感もあって男は身体を震わせる。
 戦乙女の口が軽く閉じられ、肉竿にくちびるが這わされた。それだけでは終わらない。誰に教わったわけでもないのにヒルダはペニスに舌も添えていた。さらに口の中に唾液を溜め込み、それをペニスにねっとりとまとわりつかせる。そうしてからヒルダはゆっくりと頭を動かし始めた。たっぷりと乗った唾液が潤滑剤となり、くちびるとの摩擦を心地よいものにする。

「あ、あ、ヒル……ダ……あっ!」

 自分以外の者の身体……それも温かくぬめった口に愛撫され、シルズは声を上げる。いかに敬虔な神の使徒で、強き勇者でも、経験したことのない女の身体の前には無力であった。
 本来であればシルズはヒルダを殴るなり突き飛ばすなりしてこの口唇愛撫から逃れなければならない。だが快感で身体は動かなかった。それでも理性を総動員してヴァルキリーに止めるように言う。

「だ、ダメだ……ヒルダ……こんなの……うぅう!」
「ん、んちゅ……神が……こうしろと仰せなのです……」

 フェラチオを中断し、ヒルダは囁く。やはり羞恥心はあるのか、目はシルズに向けない。顔は伏せたままだ。しかし、ペニスに添えられている右手は快感を途切らせないよう、根本で細かく上下してしごいていた。ヒルダは続ける。

「シルズの欲望を受け止める盾となれと……」
「いや、でもそれは……はぅう」

 勇者の言葉は続かなかった。再びヒルダがシルズのモノを咥えこんでいた。先ほどより速く、頭が上下する。じゅるじゅると聖なる存在らしからぬ下品な音がテントの中で響く。
 激しくなったのは頭の動きだけではない。その口の中では舌の動きも活発になっていた。亀頭、裏筋、カリ首……それら敏感な部分を舐めまわしている。

「あ、あああ……ヒルダぁ……」

 快楽を感じている様子のシルズをちらりと見る。自信が着いたのか、ヒルダの舌使いがより熱を帯びた。娼婦も顔負けのフェラチオがシルズを襲う。しかもそれをしているのはヴァルキリーのヒルダ……ぞくぞくとした興奮が脊髄を通り全身へと回る……

「うあっ、ダメ……で……」

 出ると言い切れなかった。いくらなんでも自分の汚液で神の戦乙女の口を汚すのはまずいと思ったから、口は離してもらいたかったのに。暴発にも近かった。腰の疼きが一瞬で弾け、ペニスがヴァルキリーの口の中で脈打つ。射精していた。

「んんっ!? んん、んんんん!?」

 急に口の中に放たれた青臭く粘着く液体にヒルダは目を白黒させる。だが口は離さず、精液を一滴も漏らすまいとばかりに口で受け止める。頭の声がそうせよと、バレエの背景音楽の如くささやいていたこともあるが、無意識のうちにやっていた。
 やがて射精が治まった。ヒルダは自分の口からシルズの肉棒を離す。出したばかりだと言うのに、彼は剛直を保ったままだ。無理もない。性に多感な若き男なのだ。一度や二度では満足するはずがない。

「まだ……苦しそうですね……」

 ヒルダがそれを見てつぶやく。話しているのにその口からは白濁液は溢れない。つまり、飲んでしまったのだ。その事実に勇者は萎えていないペニスをひくつかせた。
 どうするべきか……神に伺うまでもなく、答えがヒルダの頭の中に響きわたっていた。

――あなたの大事なところで受け入れてあげなさい
――彼を気持ちよくさせてあげなさい
――心と身体を使って彼をあなたのことしか考えられないようにしてあげなさい


 無言でヴァルキリーは勇者に跨った。薄衣は脱ぎ捨て、全てを勇者の前にさらけ出す。長い黄金色の髪、彼の目を奪ってやまなかった、柔らかくツンと上向きな大きめの胸、くびれた腹回り、安産型の腰……それらを包む肌は剣を手にとって戦う者とは思えないほど白く、シミや傷ひとつなく、陶磁器を思わせた。穢れ無きヴァルキリーの肢体に思わず勇者は喉をごくりと鳴らす。そして……まだ何も侵入を許していない女の園は、愛撫をされていないと言うのにすでにシルズを受け入れる準備を整えていた。

「ひ、ヒルダ……何もそんなことをしなくても……」
「ダメです。私がこうしてシルズを止めなければ……私がシルズの全てを受け止めなければ……私が、私だけが……」

 そう言いながらゆるゆるとヒルダは腰を落としていく。戦乙女の濡れそぼったヴァギナに勇者のペニスが触れた。そのまま腰が落とされていく。わずかにヒルダの顔が苦痛に歪んだが、止まらない。勇者がヴァルキリーの処女地に迎えられていく。

「あ、ひぅ……! 奥まで……シルズが……!」
「ヒルダ……あ、ぅあ……!」

 二人の声が深夜の森の中のテントに響く。獣しかその声は聞いていない。しかし、もし仮にこの交わりが宿や泊められた教会などでなされていても、二人は声を押しとどめられなかっただろう。それだけの快感だった。
 ヒルダの中は陶磁器のような外見とは裏腹に信じられないほど熱かった。凹凸豊かな膣襞は愛液をたっぷりと滲ませながら入ってきた男根に纏い付く。戦乙女として鍛え上げられた筋肉がそれを後押しし、さらに締め付けた。童貞だった勇者にこの極上の膣に耐えろと言うのは少々キツい話だ。
 それだと言うのに戦乙女は残酷であった。挿入だけで果ててしまいそうだった勇者に対して、腰の律動を開始したのだ。馬に乗っているかのように、ヴァルキリーの腰が跳ね始める。膣襞が、締め付けている筋肉が、シルズのペニスをしごきぬく。

「あっ、うあ……ヒル……ダ……!」
「んっ、んあっ……あああっ……」

 喉を反らせて天を仰ぎ見ながらヒルダは腰を動かす。今は彼女は彼の声を聞いていなかった。神の声を聞いている。

――そう、その調子です……そうやって男を悦ばせるのです……
『シルズは……気持ちいいのですか?』
――当然です。彼を見てみなさい……

 頭の声に従い、ヒルダはシルズに目を向ける。東洋の刀のように鋭くも身体に生える翼のように柔らかな慈愛に満ち、今は本人も気づいていない情欲に潤んだ蒼い目を。その目に映る勇者の目もとろけている。歯を食いしばっているのはなぜか? 我慢をしているだけだ……すぐにヒルダは見抜いた。
 シルズが声を上げる。ヒルダの腰が男を屈服させるべくいよいよ本格的に動き始めたのだ。用足しをするかのようにはしたなく脚を広げ、戦乙女は己の尻を持ち上げては叩き落とし、持ち上げては叩き落とした。動かしているのは尻だけではない。戦いで鍛えられた脚のバネを使っているので、全身がシルズの上で跳ねていた。胸がぶるんぶるんと激しく揺れ、黄金色の髪が風に靡く旗のように宙を舞う。その様は、まさに快楽を貪る魔物そのもの……
 そう、ヒルダは魔物娘の魔力に侵食され始めていた。神の加護のおかげですぐに完全な魔物にはならない。だが確実に侵されている。先ほどからヒルダが聞いている神の声は彼女が信じる神の声ではない。実は、魔に染まっている自分自身の声だ。
 しかし、ヒルダはそれに気づかない。皮肉にも神の加護がその侵食の感知を妨げている形となっていた。ヒルダは神から与えられた使命と思い込んで勇者を犯し、その欲望を自分の身に受けようとする。
 もちろん、ヴァルキリーからの女の味に溺れているシルズが気付けるはずもない。そしてその身体に二度目の絶頂が迫ろうとしていた。

「やめ、ヒルダ……! 出るっ……また出るっ……!
「大丈夫です……いくらでも……シルズの欲望を私の身体に吐いてください……」
「な、なんて事を言って……ぁっ、あああああ!」

 ヒルダの露骨で淫らな言葉が言霊にでもなったかのように、シルズがオーガズムを迎えた。処女であったその身体に勇者の体液が染みこんでいく。
 ヴァルキリーは目を軽く閉じ、うっとりとした様子で下腹部に広がるそれを味わった。だが、自分がそれを楽しんでいるという自覚はない。幸か不幸か。
 しかし、目を閉じていたヒルダの眉がわずかに不快そうに寄った。自分の膣内で射精をしている男性器だが、それはまだ力を失わないのだ。複雑な表情でヒルダはシルズを見下ろす。

「シルズ……まだ満足できないのですか?」
「……すまない」
「困った勇者ですね……私がいないとどうなっていたことか……」

 おそらくこの勇者の性欲は並ではない。人間の女であったらその女の身が持たなかっただろう。何人もの妻を持つことになったかもしれない。魔物娘と結ばれた日には延々と交わり続けたであろう。自分も魔物娘になりつつあることに気づいていないヒルダは半ば呆れながら考える。
 だが、ヒルダは自分の肉鞘からシルズの肉剣を抜いた。これで終わりにするつもりか。そうではなかった。彼女はテントの床に尻をついた。身体を半分起こした状態で右手を下腹部に持っていく。そして二本の指で自分の柔肉を開いてみせた。戦乙女の秘花はまだ蜜を垂らしており、さらにその奥では先ほど勇者が出した牡汁が波打っている。

「来なさい、勇者シルズ……これもあなたを立派な勇者にするためです。女に溺れたりしないようにするために……」
「いや、これでは……」

 ますます溺れてしまう。目の前の女に、ヒルダという女に。しかしもうすでにそのヴァルキリーと、ただの旅のパートナーという関係を飛び越えてしまい、あまつさえその処女地に自らの体液すら注いでしまった。それも自分がその戦乙女に劣情を抱いてしまったからだ。ヒルダに反論する筋合いはない。さらに、目の前の女の誘惑に抗えるほど、彼は強くはなかった。
 ヒルダにシルズは覆いかぶさった。そして触れてみたいと願ってやまなかった乳房を鷲掴みにする。小さな嬌声をヒルダが上げた。そのままパン生地でもこね回すかのように双乳を弄ぶ。その柔らかさと肌触りは男を夢中にさせた。

「し、シルズ……それは少し痛いです……もう少し優しく……」
「す、すまない……」

 謝り、力こそ加減したが、その手は離れない。それどころか今度は口を近づけた。頂点でぷくりと立ち上がっている突起ごと口に入れ、舌であめ玉でも舐めるかのように転がす。
 挿入と前戯が逆になっている。かと言って後戯でもない。現に二度の射精をした勇者のペニスはへそを叩くまでに反り返って勃っている。だが、今は胸を触りたいと言うのが勇者の欲望なのだ。その希望にヴァルキリーは身体を委ねて応える。
 やがてシルズは満足したのか、胸から手を離した。痛いと思うくらいにペニスが疼いてきたのだ。シルズの行動から察し、ヒルダは膝を広げる。そしてその生殖器に己のそれを押し当てた。
 しかし、女性の膣口というものは男が思うより下に位置する。加えてヒルダのそこは一度の挿入と胸への愛撫でぬめり、逆に挿入を困難にしていた。焦る勇者に神の使いは救いの手を出す。

「ほら、ここですよ」

 軽く肉竿を握り、自分の膣口に亀頭を嵌らせる。そこからは男の番だ。シルズが腰を押し進める。一度挿入した肉洞はすんなりと男を迎え入れた。だが締め付けのキツさは残っている。奥まで分身を送り込んだシルズはぶるぶると身体を震わせた。
 このまま腰を思いっきり振りたいが、それは少しもったいないと勇者は贅沢にも考えていた。せっかく憧れていた戦乙女と一つになれたのだ。その時間をもう少し味わっていたい。繋がっている喜びを望んでいるぶん、ある意味シルズはヒルダと比べて肉欲に流されていないと言えた。五十歩百歩の状況ではあるが。
 シルズは左肘をヒルダの横に突いた。空いている右手はヴァルキリーの黄金色の髪を梳いたり、天界の者特有の白い翼を撫でたりした。ヒルダがくすぐったそうに頭を軽くよじり、そしてその鋭い目を不思議そうに丸くする。

「シルズ……何をしているのですか?」
「いや……ヒルダを大事にしたいなと思って撫でているだけだ……」
「……大事にするのは当たり前です。欲だけで交わろうとするなど、魔物や獣と同じです」

 自分も魔物になりかけているのに、先ほどはメス獣となって腰を振っていたのに、神の使命だと思い込んでいるヴァルキリーは鼻を鳴らしてみせる。しかしその胸の内には、自分の勇者に大事にされているという喜びと誇りが湧き水のように起こっていた。
 ヒルダを優しく撫でていたシルズ。だがいつまでもそうしているわけにもいかない。彼の身体は無意識のうちに腰を前後に揺り動かし、女の身体に精を注ぐことを叫んでいた。シルズがそれを自覚したのはヒルダが腰の律動に喘ぎ声を上げてからだ。

「すまない、ヒルダ……動くぞ」
「んっ、あ……もう動いているではありませんか」

 そう言うヒルダの目はもう鋭くない。蒼の目からは悦楽の涙が盛り上がっており、目尻からこぼれ落ちた。
 先ほどまで処女だったヒルダを気遣っているからか、あるいは始めて自ら腰を動かすのに慣れていないだけか、始めはシルズの動きは小さかった。始めは。時間が経過するにつれ、彼の腰使いは大きく、大胆になっていく。さすがに二度の射精を経ているため、すぐに限界は訪れない。それでも少し先延ばしにしただけ。ヒルダの膣はそれだけ男から精を搾る能力に秀でていた。

「ぬ、あ、あああ……!」

 すぐに腰に疼きが起こる。我慢はもう効かない。過去に自慰で禁忌を幾度か破っていた勇者はそれを知っている。ラストスパートとばかりに、自分の射精欲に忠実に腰を動かし、女肉で己の肉棒をしごく。結合部がぐちゅぐちゅと鳴る音に加え、パンパンと勇者の太ももと戦乙女の尻がぶつかり合う肉の音が響く。

「このまま……このままイクぞ、ヒルダ!」
「んあぁあああ! あ、あひぃ!」

 ヒルダからの応えはない。昂った喘ぎ声だけがヴァルキリーの口から上がる。侵食してきている魔力と先ほど受けた精の影響か、初体験にして彼女は絶頂しようとしていた。高いところに登って行き、そのまま落ちるのではないかと言う恐怖感がヒルダを襲っている。本当のところはシルズに少しペースを落とすように頼みたかった。だがシルズの抽送がそれを許さない。ヴァルキリーの身体は快楽の頂点を目指して弾かれたように高まっていく。
 そして二人の身体に限界が訪れた。

「く、あ、ヒル……ぬああああ!」
「シルズ……ぅ、あああああ!」

 性を極めた二つの遠吠えがテントの中から森へと響いた。





「……今夜のことは、神の命だからです」
「はい……」

 低く女の声がテントの中に篭もる。応える男の声もまた重苦しい。
 今夜の交わりは、二人は後悔はしていなかった。それでも、神の教えから考えれば罪ではあるのだ。
 だからヴァルキリーは言う。神の命だからと。今回は許されたが、次は分からない。しかしそれは、本人は無自覚ながらどこか自分に言い聞かせている節もあった。

「立派な勇者になるためには、欲に溺れるようなことがあってはならないのです。いいですね?」
「……はい」
「それではもう夜も遅いです。寝ましょう。おやすみなさい、シルズ……」
「おやすみ、ヒルダ……」

 寝袋にくるまり、二人は背中合わせとなって眠る。激しい情交の疲れもあったからか、すぐに寝息の音がまだどこか淫らな空気が漂うテントの中に響いた。





 このヴァルキリーはもはや今までのヴァルキリーではいられない。今夜と言わず、また勇者と身体を重ねることになるだろう。「神の命だから」「勇者のため」と、無自覚の内に言い訳をしながら。
 果たしてヒルダが無自覚だった欲望に気づき、受け入れて聖なる存在を辞めるか、気付かずに白き魔の戦乙女となるか……それは先の話で誰にも分からない。
 ただ、本人たちはまだ無自覚で、どちらに転ぶにせよやがて気付くことがもう一つある。それは、今回の交わりはケダモノと違い、互いを思う気持ちがあった事……いつになるかは分からない。だが、いずれ気付く。
14/05/07 23:54更新 / 沈黙の天使

■作者メッセージ
ぜぇ、ぜぇ……沈黙の天使としては、名前の通り沈黙するわけにはイカなかったのですよ! このヴァルキリー!
という訳で書かせていただきました、ヴァルキリーSS。
当初の予定としてはショタ勇者が魔物娘の発情の呪いを書けられて、ヴァルキリーさんが神の声に従って優しくヌイてあげるなんて感じに考えていたのですが……なぜかショタ勇者はだいぶ変わって寝ているヴァルキリーさんをオカズにオナっちゃう変態勇者になってしまいましたww ま、性に多感なお年ごろで性欲爆発しちゃっていたんだから仕方がないw 加えてSS中には書けませんでしたが、ヴァルキリーの能力で性欲が膨れ上がったのも原因の一つでもありました。でも隣に美女が寝ていたら我慢ができなくなると言うのが人間というもので(殴)

というわけでいかがだったでしょうか? 図鑑の解説書を読まなくてもヴァルキリーの特色や魅力を感じていただけたら幸いです。
それではまた次のSSでお会いしましょう♪

……もう2時半やないか、また明日からハードだと言うのに……

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