《 衣食住の住 ： ジャイアントアントの活躍 》

　前述した通り、地震によって家を失った人々は、教会や公民館など、地域の施設・建物へと避難した。
　しかし、それらの場所も壁や天井のヒビ割れといった軽微なものから、建物全体が崩落寸前といった深刻なものまで、様々な被害を受けていた。
　また当然の事ながら、それぞれの個人や家族を仕切るつい立てなどあろうはずも無く、被災者達は着替えすらもままならない、自由の消えた窮屈な生活を強いられる事となった。

　それだけに、被災者に対する住宅支援は、食料支援と並ぶ最重要の課題であった。
　我が国はもちろん、支援に駆けつけてくれた近隣諸国からも仮設住宅用の資材が集められ、昼夜を問わない急ピッチの建設作業が進められていった。

　そんな中……魔物界一の建築技術を誇る彼女達が、我々にとって願っても無いほどのありがたい贈り物をしてくれたのである。


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☆とあるジャイアントアントの証言

　そうだね。

「突然の出来事に困っている人間の皆さんのために、仮の住処を作ってあげましょう」

　そう仰ったのは、私達の女王様だね。

　ほら、もともとこの国の人達は、私達魔物とも対等に付き合ってくれてたでしょ？　それも、昔からず〜っと、ず〜っと、さ。
　だからきっと、私達のご先祖様も色々なかたちで人間のお世話になった事があると思うんだよ。
　女王様の決定には、そんな歴史に対する恩返しの意味も込められてたんだと思う。
　そしてその思いは、現場に出て働く私達も同じだったんだよね。

　まず私達は、それまで進めていた作業を全部中止して、地震の悪影響を受けていないしっかりとした土地を探したんだ。
　『地下に仮の住処を作りました……けど、余震が来て崩落しました』なんて、洒落にもならないからね。それにそんな欠陥品は、ジャイアントアントとしての誇りが許さないよ。
　幸い、街から程近い丘のあたりに、しっかりと引き締まりつつも工事しやすい、最適な場所があったんだ。いやいや、あれは本当に絶妙の場所と地質だったね！

　で、場所と工事計画さえ決定すれば、あとはもう速攻さ。
　特に、今回は非常時って事で、内装なんかには凝らなかったからね。頑丈で、雨風をしのげて、暑さ寒さにもきちんと対応出来る仮の住処。私達が本気を出せば、あっという間だよ。
　さらに途中からは、別の集団のジャイアントアント達も加わってね。
　何を隠そう、私達の女王様の妹君ご一行さ。そう、妹君も違う場所で女王になられてるんだ。
　お互いに良く知った間柄だから、合流した後は作業スピードが三倍増しになった感じだったね。

　ん……？　その仮設住宅作りに関する連絡をくれていれば、我々人間も手伝ったのに？

　おいおいおい、バカ言っちゃいけないよ。
　色んな意味で、そりゃダメさ。

　例えば、そうだなぁ……あぁほら、私達が地上を移動する時の様子とか、知ってるかい？
　うん、そう。私達はフェロモンを撒いて、それを道しるべに列を作って動くんだ。
　で、そのフェロモンには、人間の男をイチコロにしちゃう秘密の成分が含まれていてだねぇ……ほら、もうわかっただろう？
　『困っている人間を助けるための住宅づくり』なのに、あんた達に声をかけて近づけさせたら【人間助けのフリをした婿さん捕獲大作戦】になっちゃうからね。
　それでなくても建築作業中の私達は、疲れとフェロモンでムンムンムラムラしてるんだから。そこにちょいと良い男なんかが近づいて来たひにゃ……獅子の檻に生肉を放り込むのと同じ状態になっちゃうよ。

　それに、あんた達人間は地下工事に不慣れだろ？
　足手まといとまでは言わないけど、やっぱりどうしても作業効率が低下しちゃうと思うんだ。
　え〜っと、こういうのをジパングの表現で何て言うんだったっけな……あぁ、餅は餅屋、だ。「物事にはそれぞれ専門家がいるのだから、素人は大人しくしてなさいね」って、だいたいそんな感じの言葉さ。

　ふふふ……住宅の完成と進呈を告げる女王様の親書が騎士団経由で届いた時は、驚いたかい？
　けどまぁ、結構な数の困っている人達を助けられたんだから、その辺は許しておくれよ。
　人間助けなんて、ちょっと柄じゃないかもなぁ……なんて思ってたけど、私達ジャイアントアントの技がお役に立てたなら、何よりさ。

　憩える場所、帰るべき家があるってのは、とっても大切な事だからね。


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　〈 ※レポート制作局補足説明 〉

　彼女達が作り上げてくれた地下仮設住宅は、その場所の地質を完璧に把握した素晴らしい空間であった。

【私達が作り上げたこの場所を、突然の厄災に苦しむ人々を癒す、仮の住処としてお使い下さい。飾り気の無い住居で申し訳ございませんが、その安全性と快適性はジャイアントアントの名にかけて保証いたします……　〜　騎士団経由で届けられた、ジャイアントアントの女王の親書より抜粋】

　我々に、彼女達の厚意を拒む理由は何も無かった。
　そのあたたかな心遣いに応えるべく、その地下仮設住宅には高齢者、傷病人、妊婦、小さな子供を抱える家族などを優先して入居させる措置をとり、最大限に活用させていただいた。

　また、今回の出来事を踏まえ、彼女達から地下工事の手法を学ぶ交流学習会も発足した。
　この会には、国内各地の土木建築関係者、救援部隊員など多くの者が参加し、未来の『もしも』に備えた知識、技術の研鑽に努めている。

　……なお、会を通じて互いに心を通わせ合い、愛を生み出し、彼女達の巣へ永久就職してしまった者が出た事もここに記しておく。