連載小説
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後編
「んっ・・・」

サフィアが再び目を覚ましたのは上質なベッドの中であった。首から下を心地よい感覚が包んでいる。
奪われた魔力も全回復しており、胸の宝玉も青く輝き、破られたヒーロースーツも元通りに修繕されている。
さらに、ベッドの脇に何者かが立っている気配を感じ、気配のした方向を寝ぼけ眼を擦りながら向くと。

「どうやら起きたようだな。」
「・・・!」

なんと、サフィアのベッドの脇に立っていたのはネクロネビュラであった。

「何故貴様がここにいる!?」
「落ち着け、サフィアよ。まずはいきなりだが私の方から言わせて貰うことがある。」

ネクロネビュラは驚くサフィアを落ち着いた口調で諭すと、一歩後ろへと下がり、膝と手を付き、頭を地面に打ち込むように下ろし、土下座した。

「ほっ、本当に申し訳ありませぇぇぇぇぇんっ!」
「えっ?」
「あのような大変卑劣極まりない行為をしてしまいっ!本当にっ!申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁっ!」

サフィアは子供のように大声で泣き、ひれ伏し詫びるネクロネビュラを見てきょとんとしてしまう。自分と戦っていた時や、自分を凌辱していた時の高圧的で堂々とした態度から一変し、小動物のように身を震わせ縮こまるギャップに戸惑いを隠せなかったのだ。

「うわぁぁぁぁんっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
「貴様の方こそ落ち着け、ネクロネビュラ。焦らずに自分のペースで言ってみろ。」
「は、はい、実は・・・僕・・・」

カポッ

ネクロネビュラは涙声でヘルメットを取る。
中からは美少女と見間違う程の可愛らしい顔が現れた。女性だが美青年に近い顔立ちのサフィアとは対照的だ。

「お前は・・・龍二ではないか!?」
「うん・・・そうだよ・・・蒼ちゃん・・・」

ネクロネビュラ改め、彼の名は龍二。本名滝崎龍二(たきさき りゅうじ)。
サフィアこと竜星蒼の幼馴染である。
小さい頃から家が近く、家同士の付き合いもそれなりにあった。
小学生の時、青い髪の毛が原因で悪ガキにイジメられていた時に庇ってくれ、一緒に手を繋いで帰ってくれた。
中学生の時、俳優となっても身体と金しか見ない連中とは違い自分の良い所も悪い所もしっかり見つめて受け入れ、無二の親友のように接してくれた。
高校生の時、進路で不安になって悩んでいた自分を励まし、安心させてくれ、彼自身も自らの進路に向けてひた向きに努力する。
蒼はそんな彼を心から尊敬していた。
彼女は大人になり龍二と離れ離れになっも決して彼への思いは冷めてはおらず、彼のように人を助けられる強さを持った人物になりたいと思いながら仕事の帰路についていた所を、青白いローブを羽織った謎の女性に呼び止められ、異空間へと連れられ、強靭な戦闘能力を持つドラゴンへと魔物化させられ、人々の平穏を脅かす悪を打ち倒す蒼星戦士サフィアとしての使命を与えられた。
(角や尻尾が出ていると俳優活動に支障をきたすという蒼の要望に答えて、謎の女性が魔物の姿と魔物化する以前の姿と切り替えられるようにブレスレットを変身用アイテムとして渡された。)

「蒼ちゃん・・・実は・・・僕・・・蒼ちゃんのこと・・・好きだったんだ・・・」
「ッ!?」

龍二の突然の告白にサフィア改め蒼が顔を赤くする。

「そ、そうか・・・」
「かっこ良くて頭もいいし、強いし、、人に好かれているし・・・そんな風に良い所がたくさんあっていっつも輝いていた蒼ちゃんを見ていたら、何も目立ったところのないような僕は釣り合わないと思って・・・そのせいで、ついこの間久しぶりに会って話をしていた時に蒼ちゃんのことが好きだっていうことを切り出せなかったんだ・・・」
「・・・・。」
「それで、落ち込みながら家に帰っている途中で・・・」

〜龍二の回想〜

「はぁ・・・」

才能溢れる蒼と平凡な自分を天秤にかけ、プロポーズを断念してしまったことに対する後悔と肯定が入り混じった心を胸にトボトボと夜道を歩く龍二。

「結局伝えられなかったなぁ・・・まぁ、どうせ僕みたいな奴なんかが蒼ちゃんを幸せにできるわけがないんだ・・・」

そんな彼に後ろから声が掛けられた。

「おい、そこのお前!な〜んかシケたツラしてやがんな〜?」
「だっ、誰!?」

ガラの悪い声に驚いて振り向くと、そこには自分より少し背の高い白衣を着た男がいた。
顔はヒヒのようで、逆三角のサングラスを掛け、髪をモヒカンにしている。

「お前、なんかしくじっちまったような面してんなぁ?何かあったのか〜?」
「は、はい・・・ずっと前から好きだった幼馴染と久しぶりに再開したのですが、彼女は有名なモデルになっていて、しがないアルバイトの今の自分にはあまりにも釣り合わないので、プロポーズすることはおこがましいので結局止めたんです・・・」
「ほほぉう・・・そのモデルさんってのは竜星蒼だろ?」

初対面の相手が自分の想い人の名前を知っていることに驚く。

「な、何故蒼さんの名前を!?」
「そりゃ驚くし、知りてぇ気持ちもよ〜く分かる。だがな、とりあえずその前におめぇに聞かせて欲しい。」

男がサングラス越しから龍二に真面目な眼差しを向ける。

「なぁ?本当にそれはおめぇの本音か?」
「はい・・・僕よりも知力や才能や財力など、優れている所がある人間はいるので彼女、蒼さんにはそういう人間と結ばれて欲しいんです。」
「そうか、結構ソイツの事を考えてやってて良いじゃねぇか。だがな、もう一度聞かせて貰うぜ?それが本当におめぇの本音か?」
「・・・・・、いいえ。」
「なぁんだ?違ぇのか?」
「はい。確かにそう思っていることは事実ですが、本当にそうなって欲しいとは思いません!」

さっきまでうつ向いていた龍二が力強い大声で男の問いに答えた。

「ん〜?なぜだぁ〜?言って見ろ〜?」
「自分は蒼さんのことが好きです!彼女の傍に居たいんです!蒼さんが他の男に取られてしまうことは死ぬほど嫌です!これが僕の本音ですっ!」

龍二は溜まっていたものを爆発させるかのように男に向かって大粒の涙をこぼして叫ぶ。

「やっぱりそうじゃねぇーか!やっぱり好きなんだろ?結ばれて幸せになりてぇーんだろぉ?」
「はい!だけど・・・僕には・・・」
「蒼さんに相応しい実力がねぇ。そう言いてぇんだろ?」

その言葉を待っていましたというかのように男がニヤリと笑う。

「はい・・・。」
「なんだったら、俺様がおめぇに力を与えてやろうじゃねぇか。蒼さんをモノにできる力をな!」
「モ、モノにするって・・・」
「うるせぇ!そういう風に言うんじゃねぇ!バーロウッ!力がねぇなら力をつければ良いだけの話じゃねぇか!それにだ!力が全ての世の中じゃ優しさだ思いやりだなんざ無価値よ!そんな甘ったるいモンで動くほど人はチョロくねぇんだよ!動いたとしてもそれは動いたフリをしているだけであって利用されているだけなんだ!」
「・・・・。」
「蒼さんが他のおめぇより力がある男のモノになる前にそいつら以上の力をつけてモノにしちまえば良いだけの簡単なことなんだぜ?そう悩むなよ?」
「でも・・・」
「良いのかな〜?蒼さんが他の男のモノになっちまってもよ〜?」
「そ、それは・・・」
「さぁ!力が欲しいのか!欲しくねぇのか!ハッキリしろよ!」

龍二はしばらく男にどやされて戸惑い、沈黙していたが、決意を固めて口を開く。

「力は・・・欲しいです・・・!」
「いよぉ〜し!なぁ〜ら決まりだな!」

パチン!
ズアァァァ・・・・

男が指を鳴らすと、男の背後の景色が歪み、黒い穴が生じる。

「付いて来い!お望み通りおめぇに力を与えてやろう!」
「はい・・・!」

龍二は男に続いて黒い穴に入って行く。

ギュルルルルル・・・・

二人が完全に黒い穴の向こうに消えると、穴は時空を再び歪ませると消滅した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「それで、僕はドクター・マンドリルと名乗る人に怪人に改造されて、蒼ちゃんがヒーローをやっている事を知らされて、僕は蒼ちゃんと対当した時のために毎日与えられた力を上昇させたり、制御したりする特訓をしていたんだ・・・。」
「そうだったのか・・・。」
「本当に・・・ごめんなさい・・・。僕は、自分で培った訳でもない与えられただけの力を振りかざして君をモノにしようとした卑劣な男なんだ。」

龍二の目から男に自分の本音を暴露した時と同じように大粒の涙がこぼれる。

「許して貰えなくたっていい!償えることがあったら何でもする!」

蒼は、震えて泣きながらひざまづき、こちらを見上げる龍二に優しく微笑んだ。

「龍二・・・。確かにお前のやったことは卑劣なものだが、私はお前に対して怒りも無ければ恨みもない。むしろ嬉しいんだ。」
「え・・・?」
「それらのことは結局全部私のことを思ってやったんだろう?」
「うん・・・」
「少しやり方は悪いとはいえ、私に相応しい男になるべく頑張ってくれたのが嬉しいんだ。だからお前のことは責めもしないし、求めることもない。強いて言えば・・・あの時にメチャクチャに弄んでくれた責任を取って欲しいことくらいだ。」

蒼は龍二を自分のベッドまで抱き寄せる。

「それって・・・・」
「今日から私は、君のモノだ・・・♪これから・・・よろしく頼むぞ・・・♪」
「蒼ちゃんっ!ありがとうっ!絶対にっ!蒼ちゃんのこと幸せにするよっ!」
「ふふふふ・・・♪」

丁度二人がお互いの愛を深め合っている所へ乱入者が現れた。

「ガハハハハ!お熱いところすまんが邪魔させて貰うぞ〜!」
「マンドリル様・・・!」
「マンドリル・・・!」

部屋のドアを開けて現れたのはマンドリルだった。後ろには多くの戦闘員もいる。

「よくやったぞ!ネクロネビュラ!サフィアの懐柔に成功したようだなぁ!」

マンドリルとその部下たちがずけずけと二人に詰め寄る。

「マンドリル、話は聞かせて貰った。これ以上龍二には手は出させん!」
「なぁ〜に!心配すんじゃねぇ!悪さしにきたワケじゃねぇ!おめぇらに提案をしにきたんだ!」
「提案だと?」
「ああ、そうだ!それはな・・・」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜とある結婚式場〜

ここは、マンドリル軍団の基地の内部にある結婚式場。
周囲を白いハトが飛び交い、床に真紅と絨毯が敷かれたステージの中心にいるのは純白のウェディングドレスを着た蒼と黒いタキシードを着た龍二で、お互い手を握っている。

「暗黒帝王ネクロネビュラこと、滝崎龍二よ!青星戦士サフィアこと竜星蒼と共にこれからの人生を歩んで行くことを誓うか?」

神父服に身を包んだマンドリルが聖書を片手に龍二に問う。

「はい!誓いますっ!」
「うむ、よろしいっ!それではあちらの階段の下にある薔薇の輪をを潜り抜けて妻と共に新たな一歩を踏み出すが良い!」

龍二と蒼はマンドリルに見送られ、階段を降りていく。

ガッ!

「うわぁっ!」

運悪く龍二が階段でつまづいてしまった。

ガシイッ!

「あっ・・・」

転げ落ちる寸前の所を蒼がお姫様抱っこの姿勢でキャッチする。

「ネクロネビュラ・・・いや、龍二。せっかく大切な場面なのだから怪我なんてされたら困るぞ。」

蒼はそう言うと、龍二を抱き抱えてそのまま向こうの白い薔薇で彩られたアーチの元まで歩いてゆく。

「ちょ、ちょっと蒼ちゃんっ!恥ずかしいよぉ〜〜!」

龍二が恥ずかしさのあまり顔を両手で覆う。

「おーい!サフィアー!ネクロネビュラ様のこと泣かせたら承知しないぞー!」
「末長くお幸せにしろやバカヤロー!」

今までサフィアに倒された怪人が野次を次々と飛ばす。

「やれやれ、どっちが旦那なんだがわかんねぇな!えー、というわけで蒼星戦士サフィアと暗黒帝王ネクロネビュラの結婚式は閉幕だ!お前ら!二人に暖けぇエールを送ってやれ!」

パチパチパチパチ・・・・
ウワァァァァ〜ッ!!!

白い薔薇のアーチを潜る二人に暖かい歓声や拍手が浴びせられた。
19/01/29 21:37更新 / 消毒マンドリル
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■作者メッセージ
というわけで蒼星戦士サフィアのお話は完結です!ご愛読ありがとうございました〜!
一応この後番外編とかやったりするのでまだ完結はしません。

キャラ紹介

竜星蒼 戦闘力 普段400 変身時5200

女性とは思えないイケメンフェイスで若い女性や魔物娘を虜にする人気モデル。その正体は悪を打ち倒すために戦う正義のドラゴン、蒼星戦士サフィア。マンドリルを総本部の基地まで追い詰めたが、彼の最高傑作の怪人であるネクロネビュラにエネルギーを吸収されてフルボッコにされたあげく犯されてしまうが、和解して結婚した。
普段は魔力で胸の大きさを押さえて小さくしているが、本当はかなりでかい。ボインボインのばるんばるん。

滝崎龍二 戦闘力 改造前10 改造後5200
どこにでもいるようなアルバイトの青年で蒼の幼馴染。
蒼に思いを打ち明けられずにいた所をマンドリルにつけこまれ、暗黒帝王ネクロネビュラに改造される。
重力と闇の合体魔法でサフィアを敗北においやり、魔力を失って動けなくなった彼女にやりたい放題するが、やりすぎてしまったと謝った後、和解して結婚した。見た目が美少女のように可愛いためよくそっち系の性癖を持った悪い輩に絡まれる。

ドクター・マンドリル 戦闘力10
マンドリル軍団を率い、世界制服を企む悪の科学者。
いつも極悪人ぶっているがどこか抜けており、部下を大切に思い気にかける面があるなど、憎めない性格をしている。イメージはロックマンのワイリーに近い。

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