連載小説
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波乱の嫁入り
「わたくし…、この方の妻になります!」

マルガレーテが放った言葉は瑞姫、朱鷺子、亜莉亜は驚愕する。
リリム自ら求婚して来たのだ。
その意味が分からない五人ではなかったが、爆弾発言にも等しい唐突な宣言に最も驚いたのは凱である。

「わたくしは決めました! 何があろうとも、母の理想に反しようとも、わたくしは龍堂さ…、いいえ、凱さんを夫とします!」

一度名乗っただけの名前を覚えている辺り、割と記憶力は良いらしい。
エルノールがこれに口を挟む。

「夫にすると宣言するのは結構じゃが、ちゃんと下調べしたのか?」
「……何を仰りたいんですの?」

何処となく挑発的なエルノールに対し、マルガレーテの言葉に冷たさが宿る。

「お主は今の兄上の事を調べて来ておらん、と言うておるんじゃ」
「その事ですの……。この方に宿る魔力を辿れば、すぐに分かりますわ。凱さんの婚約者とは、此処にいる皆様ですわね。それに――」
「それに……、何じゃ?」
「貴女がたバフォメットが『兄上』と呼ぶのは夫とする殿方のみ。それ程までにこの方を好いているのが見え見えですわよ?」
「はぁ……、全く……。流石はリリムじゃのう、その通りじゃ。わしも含め、此処におる魔物娘達は全て、兄上の婚約者じゃ。お主はそれでも、この者の妻となる覚悟があるのか?」

さっきとは打って変わって、熱意を込めた言葉がエルノールから発せられる。
だが、マルガレーテは怯まずに答えた。

「ええ。この方がどれだけの魔物娘と結ばれていようと、わたくしには関係ありませんわ」

その毅然とした姿勢に、制服姿が凛々しく映えていた。

「……分かった。自分で妻となると言ったんじゃ、もう何も言うまいよ」
「いやしくもこのマルガレーテ、夫と決めたからには何としてでも添い遂げますわ。……どうぞお覚悟を」

最後の一言を凱に向けて放つと、捕食者の如き笑みを浮かべる。
魔物娘、それも魔王の娘に夫と定められた者には逃げ場など、何処にも無い。

「うふふ……、さあ、わたくしとの伽は……、この寮の一室でさせて頂きますわ。夜は長いですもの……、ね?」

妖しい笑みを浮かべるマルガレーテ。

瑞姫に何かあった時に抑え込めるようにする為、エルノールは他の三人を学園長室へ連れて行ったのだった――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

エルノール達が特別寮を出て少しした後、マルガレーテと凱は特別寮の一室に居た。
マルガレーテは凱の体をじっくりと見回し、淫らな手つきで感触を確かめる。

「ふふ……、あの時より更に逞しくなってますのね。そしてわたくし達魔物娘、それも四人と身体を交わした事で宿る魔力……。まだまだ大きくなりそうですわ。……では……、始めましょうか♪」
「!!?!」

軽やかに指を鳴らすと、マルガレーテの足元から魔力による触手が湧き出て、一斉に凱に襲いかかる。
触手が凱の手足をしっかりと捉え、一切の動きをさせない。

「な……何を……っ!」
「わたくしの夫となる方ですもの。わたくしの自由にさせて貰いますわ♪」

笑顔のまま、マルガレーテは凱の服を丁寧に剥ぎ取っていく。
パンツを脱がせる頃には、彼女の表情が陶酔したものとなっていた。

「何て凄い匂いですの……。初めてとはいえ……、お酒に酔った気分ですわぁ……」

甘い声が凱の下半身の付近からじわりと響くと、不意に彼の股間に淫靡な感触が伝わる。
マルガレーテの手が凱の肉槍を包み込んだのだ。

「太くて……硬い……。あぁ……、わたくしの指が、火傷しちゃいそうですわ」

切なく甘い声と共に、手のひらにぴったりと納まる熱い肉茎。
肉茎は更に脈打ち、まるでマルガレーテを欲するようにも取れる。

「ふふふ、こんなに脈打ってるという事は……、わたくしの事が欲しいのですね。いいですわ」

淫らな笑顔を浮かべながらマルガレーテは男根をしごきだす。
程無く男根の最先端から漏れ出したヌルヌルした滴を亀頭に、カリ首に、竿に万遍なく塗りたくられ、止められる事も無く彼女の指と掌で扱かれる。
何の変哲も無いマルガレーテの指技でも反応するのは、何も彼女の流す魔力だけでは無い。
凱自身の身体が、魔物娘でなければ性的反応の出来ない身体になっていたからでもあったのだ。
種族としては高位の者達と契りを結んだ事の影響は、このような形でも表れていたのである。

「あらあらぁ、そんなにいいんですの? 嬉しいですわぁ♪」

くすくすと微笑みながら、肉槍をしごく手は速度を上げている。
そのギャップとえげつなさは、凱をたちまち陶酔の彼方に誘っていく。
だが、マルガレーテは突然その速度を緩め、止めた。

「……あなただけイっちゃったら、困りますわ。罰を与えましょう。えいっ」

彼女は触手を巧みに操り、凱をベッドへと固定する。足を持ち上げさせ、尻の穴まで丸見えの状態にしてしまう。

「まぁ……、何ていやらしい匂い……。どこまでわたくしを狂わせるおつもりですの?」

微かに熱い吐息を漏らしながら、マルガレーテの顔が凱の尻に迫る。
凱の方も緊張と羞恥のせいで、汗がじわりと出始めている。

「んもう……。そんなに固くならないで……、ちゅるぅっ」

そう言うと、彼から流れ出す汗を唇と舌で拭い始める。
マルガレーテの唇と舌が触れる度、凱の身体の奥底から突き上がる興奮。
男の全身をしつこいくらい舐め回したマルガレーテは、当初の行動であるアナル舐めにかかった。

「んぎいぃっ?!」

今まで味わったことの無い感覚が凱を襲う。
まして、魔王の娘がアナルから襲いかかるなんて夢にも思わない話だ。

「レロレロ……お力をお抜きになって。んじゅぷ、奥まで……、んじゅぷ……舐められないですわ。全てを、開放して下さいませ……チュパ……チュパ……じゅるるぅ…」

ねっとりと貼り付くようで、なおかつ巧みに突き入れるリリムの舌が凱の尻穴に絡み付く。
声にもならない状態でよがり、震える愛しいオスの狂態に、マルガレーテの魔物娘としての本能が更に滾る。

「んぷ……、はぁ……。あぁ、もう止められませんわ……。今宵はわたくしに、たっぷりと犯されて貰いますわ!」

またしても触手を操り、今度はベッドに座る体勢に凱の体を固定した。
その様はさながら椅子と言った所か。
間髪入れず、制服を一枚一枚見せつけるように脱ぎ捨て、ショーツだけの姿になる。

「ほら……、あなたのせいですのよ? こんなにもわたくしのが濡れて……、あなたを欲しがってますのよ?」

愛液でびしょびしょに濡れたショーツをゆっくりと、秘部を見せつけながら抜き取り――

「うふふ♪ えいっ!」

ショーツを凱の顔に被せる。

その様はかつての漫画の主人公――と言うのはさておいて、手足を固定されている凱に抵抗の余地も無く、あっさりと顔をショーツで覆われてしまった。
なおも愛液を垂れ流す女陰に肉槍を宛がいながら、マルガレーテは背面座位の姿勢を取る。

「くすくす♪ これであなたはわたくしのモノ……。反論は認めませんわよ? では……えぇい!」

そのまま己の体重に身を任せながら、女陰に肉茎を埋め込んでいく……と同時に膣の中で弾ける感覚が痛みと共に襲う。

「んぐあぁぅ! お……、んおぉおおぉぉぉぉおおおお!」

痛みが膣内から響き渡り、体中に緊張が走る。
けれど痛みを上書きするかのように、メスとしての喜びが脳髄へ駆け昇って来た。

「おぉ、おぉん♪ こ、これが……これが……あああああああ、お母様! これがぁあぁぁぁぁ!」

挿入しただけなのに、この世のものとは思えない、極上の快感がリリムの身体を支配する。
夫を得た証とでも言うのだろうか。
破瓜の血は彼女を本当のメスへと誘うサインであるかのようだった。

「っ、ぁ……ッ」

一方、凱は歯を食いしばり、漏れでそうな声を、達しそうな己を無理矢理に耐える。
ぬるぬると肉のヒダを掻き分けて挿入させられただけなのに、意識を失くす程気持ちいい。
気持ちいい、なんて表現など生温い、快感と言う名の暴力だった。
敏感な亀頭に、カリ首に、竿に、やわやわとした膣肉が甘く吸い付いてくる。
ぞくぞくと全身を貫くような快感は止まる事無く、ふわふわと飛びそうな意識を気力で繋ぎ止めた。

マルガレーテはそんな凱に構う筈も無く、蜜壺できゅっと肉棒を締めつける。
無邪気にえいっえいっと上下に抽送すると、ぬぷぬぷと淫靡な音をを立てながら、きゅっ、きゅっと快感の波が互いの身体に押し寄せる。
逃げ出すことも出来ず、その度に凱は無様に身体が快感に打ち震えていた。

「あはぁ……んぅ、気持ちいいんですのぉ?」

後方に視線を送りながら放たれる熱っぽい声色はとても愛おしく、それでいて身体中を蝕むように染みこんでいく。

「まだ、ですわ♪ こんな、程度、では……終わり、ません、わ、よ?」

言うが早いか、ぬちゃりと接合部が糸を引いて、彼女の身体が浮いたかと思いきや、薄く離れただけで、すぐにまた押しつけるようにその身に怒張が沈められる。
堪らず凱は、ビクビクと堪えきれずに身体を震わせる。
何度も何度も確かめるように薄く揺すられ、そのたびにヒダに肉棒を撫で上げられては、歯茎が痛くなるほどに食いしばる。

「ンっ、ふっんぅッ、ッ、んっンッ、んっ……!」

ずちゅ、ぐちゅ、ぱちゅんと品の無い淫音を聞く度、変な吐息が溢れだす。
しかも顔に被せられたショーツから放つ淫猥な臭気が、凱の身体の興奮状態を維持させているのだ。

チカチカと視界を白い星が彩っている。
聞こえる音も段々とぼやけ、絶頂の準備を身体が勝手に始めてしまう。
容赦の無い責めが絶え間無く、快楽を上書きしていた。

「ふっ、う、ンぐ、ぅ……っ!」
「我慢は、身体に、良く、ない、です、わよ?」
「うお、ぁ……っ!」

マルガレーテの動きが激しくなる。
擦りつけるようであった甘い腰使いが急に乱れ、貪るように何度もねぶり回す。
膣肉がきゅうきゅうと甘く肉棒を捕え、ずるずるとギリギリまで抜いたと思えば、再び肉襞を掻き分け、こつんと何かに当たる程、激しく腰を打ち付ける。

――逃げたい。でも、このままでいたい

矛盾する思考回路に構う事無く、マルガレーテは何度も何度も腰を動かす。
二人しかいない部屋に、熱っぽい吐息が二つ絡まって、卑猥な水音に溶かされていく。

「ぃ、あっ、ふ、ン、んっ、あっ、ぁ……」
「限界? ねぇ、もう、イっ、ちゃう、ん、です、の?」

途切れ途切れの声は余裕に満ちている。
歯の隙間から漏れる凱の喘ぎ声を聞いた途端、彼女はぐりっと最奥部を亀頭に押し当てた。

――いっぱい、いっぱい出してくださいませ!

脳髄に直接響くような声が、凱の思考をショートさせた。

「んぁ……あっ……ぁぁあぁぁ!」
「はあぁぁっ! んんぅ……っ♪」

どくんっ! どくっ! びゅるるん! と、心臓が脈打つような音が鼓膜に響き、ぶるぶると放尿のように身体が震える共に凱の陰茎から白濁が噴出された。
とどまる事を知らない白濁はマルガレーテの子宮を余す事無く満たし、彼女もまた、これを受け容れる。
何度も痙攣するようにびゅっ! びゅっ! と出ていく感触に、理性は瞬く間に削られ、ただただ快楽の余韻に喘ぐ以外に出来ない。

「いっぱい出しましたわね♪」

今の凱には解放とか、そのような思考が浮かんでこない。
微睡のような脱力感以上に、先の四人の時のような陶酔感が彼の中にあるのだ。
朱色に染まった頬がつやつやと上気し、くすくすと妖しくも優美な笑みを浮かべる彼女。

「今宵は……素敵な思い出になりましたわ……♪」

結合したまま、視線だけを後ろに向けて語りかけるマルガレーテ。
凱も快楽に酔いしれながらも、彼女の視線を必死に捕らえ放さなかった。

「まあ、わたくしの目をしっかりと見るなんて……。やっぱり、わたくしの勘に間違いはありませんでしたわ……。あなたこそ、わたくしの夫に相応しいお方♪」

言い終えるが早いか、マルガレーテは凱に被せていた自分のショーツを剥ぎ取り、自分の唇を彼の唇と重ね合わせた。
凱は驚きつつも抵抗しないどころか、彼女の唇に舌を割り入れる。
負けじと舌を絡めるマルガレーテだが、それはもう、互いを想い合い、愛し合う者同士と化していた。

舌と唾液の絡み合う音が二人の耳に響き続け、何度も何度も求め合う。

「あぁん♪ また感じてきちゃいましたわぁ♪」

再び愛の交わりを求めだしたマルガレーテによって、凱は拘束を解かれる。
けれど彼はそのままの姿勢で、婚約者となったリリムの豊満な胸を、掌で包み込む。

「きゃん♪ 大胆ですのね♪ 今度はもっと、搾り取りますわ♪」

ゆっくりと腰が動き始める。
精液と愛液が潤滑油と化し、先のまぐわいよりもスムーズかつ大胆になる。
ぐじゅ、ぱちゅんと水音が弾ける度に愛しいオスの掌で乳首が擦れていた。
膣肉が擦れるのと二重の快感がマルガレーテを襲う。

「あぁっ! ふあぁっ! あふぅん! んっ! んぅぅっ! ひぃぃ〜ん!」

それでも彼女は抽送を止めようとはしない。
もっともっと気持ち良くなりたかったのだ。
夫を得たから、と満足出来ない。

真に理想としていたオスならば尚更だった。

ドラゴンだけでなくバフォメットとまで契りを交わした《凱(オス)》の精は、生半可なインキュバスとは比べようも無いくらい強く、濃い。
それがこれからますます強くなるのは疑う余地も無い。

そんなオスを夫に出来る事が嬉しかった。
自分を受け入れてくれた事が嬉しかった。

嬉しさは快楽を倍増し、自分達が壊れても構わないくらい行為を激しくしていく。

「あっ! そんな! もう、いき、そう、だ、なん、てぇ! いや……、いや! まだ、い、き、たく、ない……んぁぁ!」

今度はマルガレーテの身体全体の感度が上がり、全身性感帯として出来上がってしまった。
イヤイヤと頭を振りつつも、彼女はこの快感を止めたく無かった。
もっとこの感覚を味わいたい、と心から願っているのだ。

けれど、絶頂と射精は容赦無かった。

二人の目の前に白い星が舞い散った瞬間、凱の肉槍から更に熱い白濁が噴き出し、マルガレーテは狂ったように身体を強張らせて絶頂に達した。

ベッドに倒れ込んだ二人はただひたすらに快感の余韻に耽る。
部屋に籠るリリムの魔力は、人間が迂闊に入れば即魔物化してしまう程の濃度で満ちていた。

初めての体験にして初めての快感――
ひたすらに凱との出会いを反芻するマルガレーテ。
二年以上前のふとした出会いが、今こうして幸せな形で実ったのだ。

――わたくしが歩んできた道は間違っていなかった……!

心でそう呟きながら喜びの涙を流し、マルガレーテは深い深い安寧の闇に身を委ね、凱の身体の上で安らかな寝息を立てる。
凱もまた陶酔感に支配され、つられるように眠りに落ちていくのだった――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌朝――

二人は身体の重苦しさと共に目覚めた。
しかも結合したままで……。
幸いにもリリムの魔力が強く残っていたお陰で結合部が乾燥せずに済んだものの、そうでなければ大変な事になっていただろう。

女陰と陰茎が名残惜しそうに離れ、半日ぶりに向き合う二人。
そこにノック音が不意に響く。

「……どなたですの?」
『わしじゃ、エルノールじゃよ。瑞姫達も一緒じゃ』
「お待ち下さいませ。服を着てませんの」
『そうか、ならば急いでくれ』

急いで服を着て、身だしなみを整える凱とマルガレーテ。
終えたのを告げながら鍵を開け、エルノールらを迎え入れる。

「しかし、これはまた物凄い魔力を放ったもんじゃのう……、まあ良い。お主に急ぎ話があるんじゃ」

エルノールが切り出した話はこうだ。
――かつて瑞姫をドラゴンにした際に構築した結界を壊した犯人の手掛かりを掴めた事。
――その犯人が急進派の中に居る事。
この二つである。

実はマルガレーテには心当たりがあった。
瑞姫がドラゴンになった事を大々的に報道され、苦しめられていると聞いて胸を痛めていたのだ。
そして彼女自身もその手掛かりを密かに追い、辿り着いてはいた。
だが、決定的な証拠を見つけ出せないまま、今に至っている。

「急進派の主要な支部を締め上げるしか無かろうな」
「あまり気は進みませんが、止むを得ませんわね」

こうして六人全員が特別寮を出たのと同時に、彼らに向けて飛来する物体があった。
その正体は魔物娘、しかも急進派の中核を担う存在・デーモンだ。

「見つけたぞ。随分と魔王城にいないと思ったら、こんな所で油売ってやがんのか?」
「……っ!」
「さあ、さっさと返してもらおうか。私の家宝、【暁琥珀丸(ぎょうこはくまる)】を!」
「あれは魔王様の立ち会いで正式にわたくしに下賜された物。もうベアトリーチェさんの物ではありませんし、わたくしの手を離れてますわ」
「フンッ! そんな事はハナッから認めてない。私が認めんのだから、大人しく返すのが筋であろう。そんな事も分からんのか」

この会話にエルノールが割り込む。

「さっきから一方的じゃな。そしてその魔力、やはりお主か、ベアトリーチェとやら」
「大事な話の邪魔をして、何の事を言ってるんだ?」
「ほうほう、とぼけても無駄じゃぞ? 病院で作った結界の壊した奴の魔力と、お主の魔力が一致したんじゃからな」
「フンッ、そこまで探り当てるとはな。ええ、あの結界を壊したのは私だけど? だから何だっていうのさ? ドラゴンが誕生したのを隠す方が悪いのよ」

ベアトリーチェはさも当然に自分がやった事をあっさり認め、カラカラと嘲笑する。
更に笑ったかと思いきや、今度は冷酷な眼差しで六人を見下ろす。

「我々急進派のやり方にケチつけるってんなら――」
「わたしだけじゃなく、お兄さんを苦しめて楽しんでるだけの悪趣味オバサン達に何出来るの?」

瑞姫の静かな怒りが言葉となってベアトリーチェに叩きつけられ、彼女の顔にいくつもの青筋が浮かび上がった。

「オ……、オ、オバ……! きっっさぁまあああああぁ、いい度胸だなあぁ! だったら貴様から地獄見したらあぁ!!」

魔物娘の容姿は一様に端正だ。
そんな彼女達の怒りようはまさに柳眉倒豎(りゅうびとうじゅ:美しい女性が眉を吊り上げて怒る事)。
ベアトリーチェは一気に魔力を溜め込む。
瑞姫もろとも特別寮を破壊する魂胆だ。

だが、怒りで周りが見えなくなっていた彼女は完全に隙だらけ。
疾風迅雷の勢いで駆け抜けるマルガレーテの左腕に手甲が現われ、更にその手甲が展開して弓を形成していく。
しかも非常に素早い動作でベアトリーチェの背中を撃ち抜き、すかさず第二射・第三射も撃ち込む。
三射目を撃ち込まれたベアトリーチェはその瞬間に視界から消え去り、少し遅れて花火のような爆発音が遥か遠くで微かに鳴り響く。

何が起こったのか、全く分からない凱達だったが、マルガレーテは事も無げに弓を籠手の状態に戻していた。

「申し訳ございませんでしたわ。詳しいお話は後日、致しますわ……」

深々と頭を下げて詫びる彼女に、凱はそっと肩に手を置いた。

「もういいから。落ちついたら、改めて話を聞くよ」
「はい…」

彼女が持つ因縁は凱と同じように根が深いもののように思えた。
エルノールもこれ以上急進派の好き勝手にはさせられないと感じ、風星支部に戦闘訓練の強化を命じる。
これが吉と出るか凶と出るかなど、誰にも分かりはしない。
やらないで負けるよりは遥かにマシだ。

そこにマルガレーテが言葉を挟んで来た。

「皆様に引き合わせたい者がおります。必ずや、皆様に気に入って頂けると保証出来る者です」

如何なる者かを問い質しても「その者を連れて来るまでお教え出来ません」としか答えず、マルガレーテの意外な頑固さと口の固さを見せつける。
彼女は王魔界に一旦帰る旨を告げ、その日の内に魔王城に帰還する事になる。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一方その頃――

「く゛……そ゛、お゛お゛お゛……」

魔力を暴走させられ、花火の様にされたベアトリーチェはボロボロの状態で遥か離れた山中に墜落していた。
髪は所々が焼け縮れており、纏っている衣装もその体を成していない。
端的に言えば「タ○ム×カ△シリーズ」の悪役達が敗北した時の姿と言えば分かりやすいか?

「ゆ、る……ざ、ねえ……! がならず、ぶぢ、のめ……じで……やる」

幽鬼の如くゆらりと立ち上がるも、その足取りは覚束ない。
力を振り絞って翼を広げ、飛翔をしても殆ど同じ状態。

ベアトリーチェの顔は、悔し涙でぐしゃぐしゃになっていたのだった――
19/01/01 19:35更新 / rakshasa
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■作者メッセージ
<アイテム解説>

【暁琥珀丸(ぎょうこはくまる)】

かつてベアトリーチェが所持していた仕込み杖で、彼女の家に伝わる家宝だった。
頑丈さと刀身の美しさの両面を高次元で追求した造りによって、刀身の波紋が非常に綺麗で、美術品としても価値のある逸品。

マルガレーテがリューリィとの(喧嘩と言う名の)内戦の際、先に、しかも不意打ちを仕掛けてきたベアトリーチェを降して奪い取り、魔王の立ち会いの下で正式に下賜され、マルガレーテの所有となるが、現在は彼女の部下の所有となっている。

ベアトリーチェはこれに不服を唱え、何かにつけてマルガレーテに突っかかり、嫌がらせも行っている。

瑞姫の魔物娘化を大々的に公表させたのも、その仕返しと嫌がらせの一環だった。

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