読切小説
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病みそうな君へ・・・

とある山里の入り口に一組の男女

「元気でね」
「ああ。君も、体に気をつけて」
「向こうでうまくいったら手紙を出すね?」
「君の成功を祈っているよ」
ちょっと悲しそうな寂しそうな顔を一瞬した女の子。けどすぐに笑顔で別れを言った
「じゃ、さようなら」
「さようなら」
そういうと、彼女は馬車に乗っていった
そんな彼女にいつまでも手を振り続けた

「・・・元気でな・・・」
彼女が乗った馬車を目に焼き付けるように見、そうして立ち去る
「・・・はぁ」
自然とため息が口から漏れる
結局、思いを告げることなく見送ってしまった
自分の不甲斐なさを呪う

僕は、この山里で放牧をして暮らしている
そして、彼女は里で唯一の薬屋の娘
幼い頃から一緒に育ってきた幼馴染
いつからか、僕は彼女に惹かれていた
いつも、薬屋に頼まれた薬の材料を得るために山へ入り薬草を採っていた
時々彼女も手伝うそんな関係
それが当たり前になっていた
ある日、薬剤師になってみてはどうだろうかという話が、彼女にもちあがった
ここではなく、きちんとしたところで知識を持ったほうがいいと・・・
僕は・・・賛成した。彼女のためならばそれもいいそう思っていた
彼女は少し嫌がったようだが、結局周りの勧めで決心したようだ

僕はその時、まだ自分の心に気づいていなかったんだ
大きな街に行って、そこで修行のために働きながら薬剤師を目指す
その話を聞いたときに、僕の心がはじめて軋んだ
働きながらでは当分・・・いや何年もここへは帰って来れないだろう
折角、決心をした彼女の気が変わることを恐れて、僕は心にそのことを封印した

・・・・・・・・・・・・・

「はぁ・・・」

“わん!わんわんわん!!”

ぼぅっとしていたらしい。僕の頼もしいパートナー、放牧犬のロンがひつじ達を柵の中に入れ終わったと呼びに来てくれた
急いで柵の扉を閉める
「今日もお疲れ様。・・・最近ぼけっとしていることが多いよな・・・このままじゃまずいよなぁ」

そういうと、とぼとぼと家の中に入り、ロンと共に夕飯を食べた

その晩、僕は気分転換に小高い丘に来ていた
ここからは里や遠くの山などが一望でき、考え事をしたいときにいつも来る場所だった
今日はお茶と簡単な夜食を持ってきた。このままじゃいけない
思いを断ち切るため一晩じっくりと考えよう。そう思っていた・・・



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とある場所・・・

『ぶつぶつぶつ・・・』
なんだかぶつぶつ呟いている者がいた
『はぁ・・・』
頭はうな垂れ肩は落ち、自慢の羽もどこかしな垂れているようだ
『なにが“ピクシーちゃん!わたしにもおにいちゃんが出来たんだよ〜”っだ!わたしだって!わたしだってぇ!!ぐすっ・・・』
どうやら悔し涙を流している模様・・・
『確かに、わたしはいろいろキャラが被っているわよ!ロリな子だって数えればきりがないし、こんな姿だからフェアリーと被っちゃっているのは仕方がないし、悪戯好きなんていわれてもロリな子みんな悪戯好きじゃない!・・・やってらんない!酒でも飲んで寝てやるぅ!!』
『・・・・・・・・・はぁ』
『・・・・・・はぁ。なんでこうなっちゃうんだろうな・・・』


「・・・ため息ばかりつくと、幸福が逃げるって聞いたことない?」
『?!・・・だれ?』



丘の上には先客がいた。どうやら女の子。うなだれた様子で物思いにふけっているらしい
切り株の上にちょこんと腰掛けて、時折何事かを呟いているようだ
“はぁ。なんでこうなっちゃうんだろうな・・・”
そう聞こえた
はぁ〜 とため息をつく回数をつい数えてしまった
僕が来てから7回
とんでもなく落ち込んでいるのだろうな・・・

「・・・ため息ばかりつくと、幸福が逃げるって聞いたことない?」
と、何か声を掛けてあげたくてついそう言ってしまった
『だれ?』
こちらを振り返った女の子。その姿に少し驚いた
頭に角がある。よく見ると透けた羽がある
妖精とか言うものだろうか?
「 フェアリーさん?」
しょんぼりしていた女の子が親の仇を見つけたがごとく、くわっと睨むと
『違うわよ!!』
と叫んだ
「うわぁ!ご、ごめん」
『あんたねぇ!確かに似ているわよ!でもねぇわたしは、ピクシー!あんな能天気そうに、あはは〜♪としか言っていないようなヤツと一緒にしないで!』
「どっちも同じじゃないか」
『なんか言った!?』
「いいえ」
『はぁ・・・。わたしはねぇあんたみたいにフェアリーとピクシー間違える人が多いから悩んでいるの』
「・・・ごめんなさい」
『・・・はぁ。で?あんたはなんでここにいるの?』
「ちょっと悩みがあってさ。僕は悩みがあるときはいつもここに来て考え事をするんだよ」
『特に深刻なものの様でもなさそうだけど・・・。まぁいいわ、わたしに話してみなさい』
「え?い、いや。人に話すようなものでもないし・・・」
『いいから話なさい!フェアリーと間違えたバツよ!』
「・・・わかったよ。じゃぁ・・・」
そして、僕は見知らぬピクシーに事の顛末を話し始めた・・・

「僕は最近、人を好きになるということを知ったんだ。知ると同時に叶わぬものになっちゃったけどね」
『・・・叶わぬもの?』
「幼馴染がいたんだ。薬屋の娘で、いつも一緒にいたんだ。このままずっと一緒だと思っていたけど、大きな街に薬のことをきちんと学んではどうかっていう話になってね」
『あんたはどうしたの?』
「賛成した。彼女のためになることならいいと思ったんだ。・・・けど、働きながら薬学を学ぶから何年も掛かるって聞いてから、僕の心は大きく軋んだんだ。いつも一緒だった子がいなくなってしまう。それを考えると心が痛かった。なんで心が痛いんだかわからなかった。でも、この話は彼女のためでもあるし、僕は賛成してしまった。考えれば考えるほど嫌な気分になってね。このことについて心の中に封印することにしたんだ・・・」
『あんた、馬鹿ねぇ』
「別れの時に、気が付いたんだ僕は彼女が好きだったんだってね・・・」
『・・・近くにいすぎて気づかなかったっていう典型的な例ね。いなくなって初めてわかったっていう・・・』
「・・・うん」
『それであんたはどうしたいの?』
「わからない。だからこそ、ここに来てじっくり考えようと思ったんだけど・・・」
『そう・・・』
「君は?君も悩みかあるんだよね?・・・よかったら話してみない?」

ちょっと悩んだ素振りを見せると、ピクシーさんは『なんであんたなんかに・・・』とか言いながら話してくれた

『・・・結局ね・・・いろいろなライバルがいすぎて、好きな人が出来てもとられちゃったり、わたし自身が素直になれなくて・・・はぁ・・・なんであんたなんかに愚痴言ってんだろ・・・』
「・・・なんて言っていいかわからないけど・・・そのうちいいことあるよ」
『あんたね!人事みたいに!!・・・って人事か・・・はぁ・・・』
「落ち着いてよ・・・ほら!ハーブティ!」
ますます落ち込んで行くピクシーさんを落ち着かせる為に僕は、持ってきたお茶と夜食を差し出した
『食べ物なんかで釣られないわよ!!』

きゅぅぅぅぅ・・・

匂いにつられて、可愛らしい音が鳴り響いた
『・・・』
「・・・」
『・・・そういえば何も食べないで飛び出して来ちゃったんだっけ・・・』
暗くてよく見えないけど・・・真っ赤になっているんだろうなぁ
僕はそこに夜食とお茶を置くと、少しの間その場から離れた

『・・・ごちそうさま・・・』
とても小さかったけどそんな声が聞こえた
『少し食べたら気が落ち着いてきたわ・・・って…くちゃん!』
かわいらしいくしゃみが聞こえた
「夜は冷えるんだだから、そんな格好はだめだよ」
『あたしのこのスク水がダメだっているの?』
「ダメというか・・・寒くない?・・・というかスク水って何?それ、レオタードとかいうのじゃないの?」
『スク水はスク水よ!・・・って一応水着らしいわよ?・・・レオタード?・・・そ、そういう意見もあるわよね・・・』
「水着?ピクシーさんは水の中を泳ぐときがあるの?それより空で優雅に踊るんでしょ?だったらレオタードでもいいじゃない?」
『・・・』
なぜか黙り込んでしまった。そんなおかしなこと言ったかな?
『水着・・・レオタード・・・って…くちゃん!』
「・・・今日はもう遅いし寒いから僕の家に来なよ。僕はヨインツ。君は?」
『わたしは・・・リリス。ピクシーのリリスよ。行っていいの?あんた・・・ヨ、ヨインツの家に』
「うん。他にロンがいるけど。ロンは放牧犬だからきっと遊び相手が増えたと思って喜びそうだな」
『犬?噛まない?』
「ロンはそんなことしないよ。でも好きなものを舐める癖があるから気をつけてね」
『なめる・・・。大丈夫よわたしは常に飛んでいるから』
「そう?じゃあ行こうか」


家に着くと物音に反応してロンが起きてきた
リリスを見るとめずらしいいのか、遊び相手が出来たと思ったのか
ロンが頬ずりしながらぺろぺろとリリスをなめはじめた
『ちょっと!こら!わんこ!!やめて!すすぐったい!!』
「ロン!ストップ!だめだよ!お客様なんだから!」
と、突然ロンは彼女の首飾りを銜えると飛び跳ねて器用にもはずしてしまった
『こら!!だめ!』
「ロン!ダメじゃないか!!返すんだ!」
部屋の中で追いかけっこがはじまったが、一喝するとすまなそうにロンは頭を下げた

わうん・・・

「ごめん。こんないたずらするような子じゃないんだけど・・・」
『いいわよ・・・もう・・・。ロン?あんたにあげる。大事にするのよ?』
首飾りを返そうとすると、そう言った
「・・・ごめん」
『ああっ!あんた・・・ヨインツまで・・・いいって言ってんだからとっておきなさい!それよりも、なめられたせいでべとべとしてるわ!タオルか何かない?』
「・・・それならお風呂に入るといいよ。まだ温かいはず」
『・・・じゃ、悪いけど使わしてもらうわ』
そういうと、風呂へ飛んでいった
残された首飾りを手にとって見てみる
よくわからないもので出来ている
それはとてもきらきらしていてきれいなものだった
それでロンもつい、それに反応してしまったのだろう

しばらくすると彼女は風呂から出てきた
『すっきりしたわ。ありがとう』
「一応、君の布団出しておいたから」
『いいわよ・・・ヨインツ?あなたはどこで寝ているの?』
奥の部屋のベットを指差すと
『じゃあ。あそこの片隅でいいわ。わたし小さいからお邪魔にはならないでしょう?』
「え?で、でも」
『じゃぁ・・・そういうことで!』

「はぁ。ロン・・・僕らも寝ようか・・・」

そうして、僕らとよくわからないピクシーさんとの生活が始まった
一応、いつまででもいていいとは言ってあるけれど・・・


その日、朝から何か違和感があった
朝早くから支度して羊達を放牧する
日も高くなり羊小屋の掃除に取り掛かったけれどやはり何かがおかしい
・・・なんだろう?
見慣れたはずの小屋の中になんだか違和感がある
木桶ってこんなに大きかったっけ?
スキってこんなに重かったっけ?
あるものあるもの一つ一つに違和感を感じて仕方がない・・・

ワンワンワンワン!!


ロンが吠えている。おかしい、こんな時間に吠えるなんてことはないのだが・・・
なんだろうか
まさか草原になんかの獣でも入ってきてしまったのだろうか?

急いで外に飛び出るとそこには・・・
ロンと、その周りをおちょくるかのように飛び回るリリスがいた

「ローーーン!」
ワン!

・・・おかしい
なんだかロンが大きい
近くに来るとなにか物珍しいのかしげしげと僕を見つめるロン
「なんだか、ロン・・・大きくなった?」
ぺろん
「あっこら!なめないでよ!!」
ぺろぺろぺろ
そんなロンから逃げ回りつつ僕は、そういえば昔小さい頃よくこんなことがあったなと思い出した

『あははははっは!ヨインツ?気が付いてないの?』
「リリス!笑ってないで助けてよ!」
『ヨインツはねー。縮んじゃったんだよー』
「・・・え?縮んだ??」
『ヨインツぜんぜん気が付かないで仕事に行っちゃうんだもの!面白そうだったからそのままにしちゃった!』
・・・違和感はそれだったのか
僕が縮んだから大きく見えたり、重かったりしたのか・・・
「リリス・・・君がやったのかい?」
『そうよ?ピクシーはね。人を大きくも小さくも出来るの!もちろん自分も含めてね!』
「・・・悪戯はだめじゃないか」
『あはは!ごめんなさい。小さくなったヨインツがあんまりにも可愛らしくて!』
「・・・もう!」


「ロン?久しぶりに背に乗っていいかい?」
わん!!
ロンはうれしそうに腰を落としてくれた
何年ぶりだろう?背がそこそこ大きくなってからは彼の背に乗ることなんて出来なくなってしまっていた
「ロン!いけ!!」
そう言うとロンは猛然と草原を走り始めた。落ちないようにしっかりと掴まる
「ははは!早い!早いよ!!・・・うわぁぁぁぁ!!」
と、突然ロンと僕の体が宙に浮いた
「ロン!いつの間に飛べるように・・・ってリリス!?」
『あはっ!バレた?二人があんまりにも楽しそうだったからつい・・・ね』
いつの間にかリリスが、僕とロンに取り付いてた
『さぁ!行くわよ?振り落とされないようにね?』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
わん!わんわんわんわんわん!!

見る見るうちに草原から離れていく
羊達が・・・
家が・・・
ゴマ粒のように小さくなっていく

『どう?びっくりしちゃって声も出ない?』
「・・・」
『まぁ、無理もないわよね。いままで地に足つけて暮らしていたんですもの』
「・・・・・・っ」
『こんなふうに飛べるなんて普通じゃ・・・』
「・・・っ!くくくっ!・・・あは・・・あははははは!!!」
『?!ヨインツ?』
「すごい!すごいよリリス!!空を飛ぶなんて!こんなにもすごいことだったなんて!」
『・・・怖くないの?』
「リリスがしっかり抱えてくれているんだもの!怖いはずがないよ!・・・ね?」
『・・・ヨインツ・・・。・・・さぁて!それじゃ、気合入れて行くわよ?』

いつしか、二人笑いあっていた。ロンも怖がっているかと思いきや、楽しんでいるようだ
いつまでも、僕達の笑い声が空に響いてた

そんな楽しい毎日がいつまでも続いていった



そんなある日、手紙が送られてきた
差出人は・・・幼馴染の彼女だ!
内容は・・・
里よりも大きな街で、その人の多さに驚いたこと
新しい環境で慣れないけれど頑張っていること
新しい知識を学べる楽しさ
そんなことが書かれていた

彼女も頑張っているんだと思うと、僕も頑張らないとなと思う

『ヨインツー?誰だったの?』
「里の人だよ。時々、手紙とか畑の作物とか届けてくれるんだ」
『ふーん。・・・手紙なんだ。誰から?』
「幼馴染からだよ!」
『・・・そう。それでなんて書いてあったの?』

彼女からの手紙
ついうれしくって、その内容をリリスに話した

『・・・ふ〜ん。確かにここは寂れているよね・・・。行ってみたい?そんな大きな街に・・・?』
「少しうらやましいよ。でも僕には羊達がいるしね・・・」
『ふ〜ん。・・・・・・はぁ』

その時、リリスは少しだけ悲しそうな寂しそうな顔をしてた
僕にはなんでそんな顔をしたのかわからなかった・・・



その朝、日も出ていない早くに目が覚めるといつも足元で丸まって寝ているリリスがいない・・・
・・・おかしいな。トイレかな?
トイレに行ってもあの子はいない
「ロン。起きて」
・・・く〜ん
「リリスがいなくなっちゃったんだ」
わふ?
「どこにいるかわからない?」
・・・
しばらくクンクンと鼻をひく付かせたロンだったが、申し訳なさそうに頭を下げた
「・・・まさか!出て行っちゃったの?」

信じられなかった。いつも笑顔でいたリリスがなぜ?突然・・・
「ロン!あの子の首飾りだよ!これで匂いを辿れるね?」
わん!

ロンは任せろというかのように外へ駆け出した

どうやらあの丘の上に向かっているらしい
丘の麓に来ると、ロンは突然止まった
まるで、この先は任せるぞ!とでも言っているかのように僕を見上げている
「・・・ロン。行ってくる。少し待っていてね」
ロンは静かにその場に座ると僕を見送ってくれた



リリスはあの初めて出会った丘の上にいた
あの時と同じように切り株にちょこんと座って・・・

『・・・はぁ』

やっぱりため息をついている

「やっぱりここだったのか・・・」
『・・・』
「いったいどうしちゃったんだよ」
『・・・』
「なんで突然出て行ったんだ?何も言わずにさ」
『・・・だってヨインツ。幼馴染の女のことをすごく楽しげに語っていたじゃない!わたしよりもその女のほうがいいんでしょ?』
「リリス?」
『楽しげに話すヨインツを見てたら、とてもいてもたってもいられなくなったの!ここはわたしのいていい所じゃないんだって!あなたの心にはまだその女がいつまでもいて、ここに帰ってくるのをいつまでも待っているんじゃないかって思って!』
目いっぱいに涙を溜めながらリリスは叫ぶようにそう言った
「なんで?そう思ったんだ?いつまでもいていいに決まっているじゃないか!それに、僕はもう彼女のことを・・・」
『聞きたくない!それ以上聞きたくないよ!わたしは少しずつヨインツのことを好きになっちゃったのに、ヨインツの心にはまだあの女がいる!だから!だから、いたたまれなくなったの!』
リリスは手を耳にあてそう言うと、悲しそうに俯いた
「彼女のことは確かに、忘れるのに時間がかかるよ。でも、僕だってリリスのこと・・・好きになっちゃったんだ!」
『そんなとって付けたような嘘はいらないよ!』
『同情するなら愛をくれ!!』
そう言って後ろを向いてしまった彼女。小さな背中は、なんだかとても弱弱しく見えた
そんな彼女を僕は見ていてられなくなって・・・抱きしめた
『!』
「・・・確かに最初は同情があったよ。でもね・・・楽しかったんだ、君といた時間・・・かけがえのないものに思えたんだよ!これは嘘偽りないものだ。だから、戻ってきてよ!リリス。それに、ロンが寂しがっているんだ。遊び相手がいなくなっちゃったってさ」
『・・・ヨインツ。わたし・・・戻っていいの?』
「ああ!もちろんだともリリス!一緒に帰ろう?」
『・・・っ・・・ひっ・・・ひっく・・・ぐすっ・・・ふぇぇぇーーーーーーーーん!』
安心したのか・・・今まで引き摺っていた心の内が晴れたのかはわからない。彼女はいつまでも・・・いつまでも僕の腕の中で泣いていた


“わんわんっうぉん!!”

泣き終えるのを待っていたようにロンが吠えたのが聞こえた
「行こう?ロンが待ってる。いつまで待たせるんだって言っているよ?」
『・・・ヨインツ。・・・ありがとう。・・・・・・う・・・ん』
ち…ゅ
「・・・ちゅ・・・う…ん・・・リリス?」
『えへへ。ヨインツ・・・これからもよろしくね?』
「こちらこそ。リリス」

遠くの空に朝日が昇り始めた
リリスを連れて戻るとロンは、どうして行っちゃったんだとでも言うかのようにリリスにまとわり付いている
そして、ぺろぺろと彼女の顔を舐めまくっている
『ちょ・・・ロン!っあははは!やめて!くすぐったいって!!あははは!!』
素直に笑えるようになった彼女を見て、僕はもう大丈夫だなと思った
「さぁ、帰ろう?羊達も待っているだろうしね」

また忙しくそして、騒がしくなる。そんな予感に胸躍る
「リリス!おかえり!」
『うん!ただいま!』

彼女はそう言って
僕の腕に抱きつくと満面の笑みを返してくれた
その顔には最初に出会ったときの険はなく、やさしい笑顔に満ちていた
10/10/31 21:55更新 / 茶の頃

■作者メッセージ
タイトル・・・すげーいいかげん。てか思いつかなかった

某ssのピクシーが不憫で・・・書いてみました

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