連載小説
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二人の主人公 前編 

「…んあ?」

薄暗い朝日の光に目が覚め、身体を起き上がらせる。
堅い道の上で寝たせいですこし痛い。

「ふわぁ…なんで俺はこんなとこで寝てるんだ、というよりここは何処だ?」

自分でも覚えが無い土地。
辺りは草原に囲まれ道が一本だけ続き、以前レジーナとアヤに会った街道に似てなくも無いが何か違う。
確か俺は商人達と街へ行って…それから船に乗るために宿をとって…それから。
…駄目だ、思い出せない。

「いや、でもこんな所は見たことが無い…妙な感じだ。」

そう、肌に合わないというか…馴染めてないというか…。
俺の存在自体が認められてないというか…。

「…そんなわけ無いか。」

多分寝ぼけて感覚がおかしくなっているんだろう。
俺がこんなとこにいる理由は第三者の力か夢遊病かは調べれば分かる事だ。
後者でない事を望むが…。

「とりあえず宿に戻ろう…こっちだったか?」

方角は分かっているので歩き出してみる事にした。
…ここにいても不安になるだけだからな。



「ん?」

道の先でなにやら騒がしくなってるのに気がついた。
声からして数人がなにかまくし立てる様に怒鳴ってるようだが…。

「丁度良い、道を尋ねてみるか。」

走って近づいて行くうちに全貌が見えてきた。
銀色に包まれた鎧の騎士達、十字架を象った旗、傍には魔物と夫らしき男性。
その目で捕らえた時、俺は気持ちが落胆していくのを感じた。

「…やれやれ。」

それだけでどういう状況かおおむね把握できる。
胸糞悪くなる前に早いとこ加勢しよう…無論、魔物に。


−−−−−−−−−。

「貴様ら…こんなものを引いて街で何をするつもりだ!!」

鎧に包まれた騎士たちは荷車を引くホルスタウロスと夫を囲みながら威圧する。
夫の方はまだ若そうな青年で、ホルスタウロスを守るようにして立ちふさがっていた。

「ぼ、僕達はただ…彼女から採れたミルクを街へ売りに行く所です…。」
「我ら教団の許可無しにミルクだと…魔物から採れた毒を人に飲ませようとしたのか?!」
「毒なんかじゃありません!!…彼女のミルクは栄養満点で沢山の人から買ってもらっているんです!」

威圧されながらも果敢に立ち向かい、青年の後ろでホルスタウロスは不安そうにびくびくと震えていた。

「ミルクと偽って隠れて毒をばら撒く…さては貴様、魔物の工作員だな?!人間の癖に魔族に寝返るとは…恥を知れ!!」
「そんな?!僕達はただの酪農家です、それに何回申請しても取り次いで貰えなかったじゃないですか!!」
「ええぃ黙れ!!…貴様のような魔物に穢れた者に神に代わって裁きを与える!!」

怒鳴っていた騎士が剣を引き抜き、青年に向けた。
きらりと光る刀身に青年は身を固めた。

「コウちゃん…逃げて…。」
「大丈夫…君だけは絶対に守ってみせる。」

足を震わせながらも手を広げ愛する者を守る。
その勇気に一人の男が動かされていた。

パチッ…パチッ…パチッ…。

「…ん?」
「…え?」

どこからともなく拍手が聞こえ、騎士たちは辺りを見回した。
注意深く聞くとそれは荷車の積荷の方から聞こえた。

「いやぁ、感動した。」

いつの間に乗ったのか馬車からアレスが降りてきて、拍手を続けながら青年のもとへと歩いていく。
彼は青年の手を握り締めて言った。

「俺も長く旅をしてきたがお前ほど勇気を持った男はいなかった、種別を超え愛する妻を守るその勇気…気に入ったよ。」
「は、はぁ…。」

青年は手を握られどうして良いか分からず生返事をした。
後ろのホルスタウロスも同じ状況であった。

「おい、貴様!!」

急に出てきたアレスの首元へ騎士は怒鳴りながら剣を当てる。
少しでも力を入れれば首が切れてしまうほどの距離だ。

「舐めた真似をして、貴様もこいつらの仲間か?!」

脅しにも関わらず平然とアレスは振り向き、その剣を掴んだ。

「だったらなんだ?」
「ぐっ…?!」

騎士が剣で振り払おうとしたが掴まれた剣は動かない。
額から汗が吹き出、歯を食いしばるも剣はびくともしなかった。

「お前らの目は節穴か、こんな幸せそうな夫婦の何処が魔物の工作員に見えるんだ?…それともわざとやってるのか?」
「ぐぐぐっ…は、放せっ!!」
「どちらにしても俺は許しはしないがな。」

アレスはさっと剣を放し、反動で騎士は後ろへと転んでしまった。
周りの騎士達が抱き起こすも顔を真っ赤にしてその手を払いのける。

「くそ、殺せ!…我ら教団の力を見せ付けるのだ!!」

次々に剣を引き抜き、アレスに剣先を向ける。
彼はそれでも涼しい顔をしていた。

「…殺す気で来るんだな、なら多少痛い目にあっても恨むなよ?」

アレスは鞄に添えられたこん棒を取り出して目の前の騎士に向かっていった。


…………。


「つ、強すぎる。」
「ただのこん棒なのに…何故?」

地面にひれ伏す騎士たちが顔を酷く腫らしながら呟いた。
象徴ともいえる銀の鎧は何の効果もなくアレスによってガラクタにされていた。

「手頃な奴がこれしか無くてな…。」

ボロボロになったこん棒を捨て、改めて騎士達を威圧する。

「まだやるって言うなら手加減無しの素手でしてやるが?」
「け、結構です!!」
「お慈悲をぉ!!!」

泣き叫びながら騎士たちは逃げ帰っていった。
後にはアレスと夫婦だけが残った。

−−−−−−−。


「あ、あの…助けていただいて、ありがとうございました!!」

青年は俺に深々とお礼を述べた。
後ろのホルスタウロスも習って小さくお辞儀する。

「礼を言われるほどでもない、それより…えーと?」
「僕はコウ、こっちがシェリルです。」
「アレスだ、お前達のように堂々と夫婦になってるのを見るのは(ロイスを入れて)二回目だ。」
「…そうなんですか?」
「あぁ、魔王が死んで色々と辛いだろうが…頑張って欲しい。」
「…は?」

俺の言葉に何故か二人はぽかんと口を開けた。

「なんだ、変な事言ったか?」
「いや、魔王が死んだって…何の話です?」
「…?」

俺は何か妙な気分に陥った。
さっきもそうだったがこの感覚は一体?

「…知らなかったのか?二〜三年も前の話だぞ?」
「二〜三年前…魔王様は今でもご健在ですよ?」
「なんだって?!」

俺が思わず叫ぶと二人はビクっと身体を震わせた。

「わ、悪い…少し考えさせてくれ。」

心配そうに見る二人をおいて俺は少し考えた。

たしかに魔王ヴェンは今でも生きている。
この夫婦が言ってる事も実際は正しい。
だが問題は何故それを知っているかだ、これを知っているのは一部の魔物と俺ぐらいだ。
彼女達にとって魔王が生きているというのは戦争を引き起こすほどの情報だ。
セラやアヤが言うはずもないし…親魔物派には伝えてある?
いやそんなはずは無い…ヴェンが例外を作るとは思えないからな。
本当に魔物の工作員?…それこそありえない。
…いやまてよ?

考えを一度切り、再び青年の方に向きなおす。

「お前さっき…健在だと言っていたが、最近で会った事あるのか?」
「いえ、お会いした事は無いですが…シェリルが会った事あるみたいで。」
「私が魔界へミルクを売りに行ったとき魔王様が買い取ってくれたんです、とても綺麗ななお方でご健在そうでしたよ?」
「綺麗って…男なのに?」
「へ…?魔王様は列記としたサキュバス種で女性ですよ?」
「…。」

駄目だ、本格的に分からなくなってきた。
何を言っても何を聞いても全て食い違う。
まるで俺の知らない世界へきてしまったようだ。

「ちょっと待て…今確認を取る。」
「…確認?」

俺はイヤリングを通してヴェンに交信してみた。

「ヴェン、ちょっとおかしなことになってるんだが…。」

訝しげに見る二人を余所に俺はヴェンに話しかけた…だが。

「おい、ヴェン…どうした、聞こえないのか?!」

何度聞いてもヴェンが応答する事は無かった。
今までの事を考えてヴェンが音信不通なのはありえない。
為す術なく俺は脱力する。

「あの…大丈夫ですか?」
「あぁ…すこし休ませてくれ。」

俺はその場に座り込んで頭を抱えた。
思考が追いついてないせいで頭痛がする。

「良かったら…これ飲んでください、売れ残りで申し訳ないですけど。」

青年は俺に荷車の積荷からポッドを渡してくれた。
中には半分ぐらいミルクが入っていた。

「良いのか、大事な商品だろう?」
「助けてもらったお礼です、それでどうか気持ちを落ち着かせてください。」
「…ありがとう。」

貰ったミルクをゴクゴクと飲み干していく。
新鮮でほんのり甘く、身体中に染み渡っていくのを感じた。
ふうっと一息つき、心を落ち着かせる。

「すまないな…ところでこの辺りに街は無いか?」
「でしたら先ほど僕達が売りに行っていた街『ディアド』が一番近いです。」
「ちなみに聞いておくがそこに港はあるか?」
「いいえ?この辺りには海はありませんので…。」

半ば予想していた答え、元のところへ戻れるのか心配になってきた。

「ですが…あそこはちょっとあって…。」

少し訳ありのように話す青年。
その理由を俺は先ほどの騎士から大体の予想は出来ていた。

「あいつ等みたいなのがいるんだろ?」
「ええ、でも…それだけじゃないんです。」
「…というと?」
「行って確かめた方が早いです…ではこれで。」
「本当に、ありがとうございました。」

軽く挨拶し、二人は行ってしまった。

「…。」

見たことの無い場所。
記憶と違う世界。
繋がらない交信。

正直これだけで判断するのは危険だ。
落ち着いて行動するためにはもっと情報がいる。
まだマシなのは彼女達がいるって事ぐらいだろうか?

「どちらにせよ、行ってみないとな。」

俺が進むと決めた頃には既に午後を過ぎていた。

−−−−−。

「…変わった人ね。」

上空で歩き出した男性を見下ろしながら、リリムは呟いた。
その姿は漆黒の翼に包まれ、角も生えていない美しい女性。
彼女が男性を見て感じたのはそれだった。

「ディアドの街の方ね…行ってみよう。」

黒い翼を広げ、彼女は男性を追いかけていった。


−−−−−−。


「なんだ…これは?」

しばらく歩いて街の入り口に着いた時に出た言葉だ。
そのわけは俺の目の前にある立て札の内容だ。
…立て札にはこう書かれている。

『人間は左へ進んでください、魔物は右へ進んでください。』

見ると門の真ん中から一本の線が敷かれており、建物ごと綺麗に分断されていた。
この線より…という意味だろう。

「どうやったらこんな事になるんだ?」

確かに魔物を嫌う街が殆どだがこんな中途半端に規制された街は見たことが無い。
これでは線を越えてしまえばいいだけの話だ。
こんなことして何になる?
コウの行っていた事はこれだったのか。

急に馬鹿らしくなり俺は迷わず右の方へ行った。

「ちょ、ちょっとあんた!!」

左の方から男が急に俺の腕を引っ張って線を越えさせようとしてきた。

「立て札を読まなかったのかよ?!そっちは魔物の領域だ!!」
「だから?」
「だからって…あんた食い殺されてぇのかよ?!悪い事は言わねぇ、早くこっちに来い!!」
「余計なお世話だ。」

俺は男の腕を振り解き、街の中へと入っていった。

残された男が一人愚痴る。

「けっ…人の好意を無駄にしやがって、死にたがりが…。」

男がとぼとぼと帰ろうとすると同じようにローブを着た女性が右へ入っていくのが見えた。

「あんたも!!そっちは魔物しかいねぇって!!」

男が止めようとすると女性は顔だけを向けた。
その顔が見えたとき、男は魔法をかけられたように動かなくなった。

「ご忠告どうも、でも心配いらないわ。」

女性は少し早足で街に入っていった。

「そ、そりゃ失礼…。」

男はそのままぼーっと惚けたように家路へと帰っていった。


………。


「これはすごいな…。」

街並みを見ながら俺は驚いていた。
何処を見ても魔物だらけ、買い物をしてる者も出店を開いている者も曲芸をしている者も
皆魔物しかいない。
時折人間も混じってはいるが殆どが男だ。
親魔物派のとはいえこれほど大きな…それも隠れてもいない街は初めてだ。
…いや、やはりあり得ない。
こんな所があればあの勇者や王国が黙っているはずが無い。
教団はいるものの中途半端な境界線を引いてるだけだし、やはりこの世界は…。

「……。」

…さっきから明らかに俺の後をぴったりついて来ている奴がいる。
それも一歩間違えれば勘違いしそうなほどに手馴れた動き、危うく見過ごす所だった。
気付かれないように辺りの店を観光しながら歩いていく。

(どうやら俺にもファンが出来たらしいな。)

俺は何気なく方向転換し、薄暗い路地の方へと入っていく。
すると同じようにローブを着込んだ女性が路地へと入ってきた。

「…?」

追いかけていた筈の男が急に消え、ローブの女性は立ち止まった。
女性はきょろきょろと辺りを見回したが男の姿は見えなかった。

「変ね…確かにここに入ったと思ったのだけれど…見失ったわ。」
「いいや、ここにいるぜ?」
「?!」

後ろから声をかけられて女性がすごい勢いで振り向く。
その顔は驚いたというよりもどちらかといえば関心に近い顔だった。

「…いつの間にまわり込んだのかしら?」
「それを教えてもいいが…その前にあんたの事を教えて欲しいな?」
「あら、そういうのはまず自分から名乗るものじゃない?」
「張り付いておいてよく言う…まあいい、俺はアレス…お前は?」
「ミリアよ、よろしく。」

軽く握手を交わしたとき、一瞬だが魅了を感じた。
顔を見たときも感じたがこのミリアという女性もどうやら魔物らしい。
それも…とびきりの美人だ。
それだけにここまで完璧に正体を隠せる奴も見たことが無いな。

「それで、俺に何か用か?」
「用って程でもないわ、ただ興味があっただけ。」
「興味?」
「そう、話でもしようかと思って。…今度はこちらの番、質問に答えて?」
「回り込んだ方法、理由?」
「両方よ。」
「…そうだな。」

俺は少し考えて、正直に言うことにした。
ミリアは性格から考えて恐らく嘘やごまかしは嫌いなタイプだ。

「方法は簡単だ、お前がいないと思っていたところに実はいた、それだけだ。」
「随分と大雑把な答えね?」
「だがそれだけに効果はある、空気に溶け込めば人も透明になれる。」
「参考にするわ、…理由は?」
「俺も興味があったからさ、今俺はちょっと取り残された気分になっていてな…。」
「取り残された気分って?」
「自分の当たり前だった常識が急に夢物語になった、世間知らずの俺に尾行がついたら何かあると思わないか?」
「それが私ってわけ…残念だけど、私は貴方を見るのは今日が始めてよ?」
「そうか…。」

少しは期待したんだがそう簡単にはいかないか。
俺が少し落胆していると急にミリアが離れていった。

「…話はもういいのか?」
「ええ、今日はこれで充分よ、続きはお茶でも飲みながらゆっくりとしましょう?」
「続き…あるのか?」
「あなたが私を覚えていたらね…失礼するわ。」

そうして彼女は路地の奥へと消えていった。
本当なら詳しい話をしたかったが先に行っちまった。
多分追いかけても無駄だろう、そんな気がする。

「…厄介なお相手に目をつけられたな。」

一人ごちりながら街の方へと戻っていった。


−−−−−。

「アレス…か。」

歩きながら先ほどの男性を思い浮かべる。
隠し通す気は無かったけど、彼は私を魔物だと一瞬で見抜いていた。
魅了していなかったとはいえ私の顔を見て平静を保てる人はそうはいない。
身のこなし、話し方、魅了を感じない精神力、そして魔物に対する優しさ、どれをとっても今までの男性とは違い、夫候補としてもいいかもしれないと思った。
けれど…。

「…彼には謎が多すぎるわ。」

最初に思った彼の第一印象がそれ。
話を続けなかったのもそれが理由。
誘うのはもう少し違う形で仲良くなってからにしよう。
きっかけでもあれば良いのだけれど…。

そうして私は広場の方へ歩いていった。


−−−−−−−。


「酒場?」

出店の品物を買ったついでに酒場の場所を聞いてみた。
情報といえば酒場が一番手に入りやすいからだ。

「なるべく人気な所だ、知らないか?」
「酒場ね…。」

店主のラミアが顎に手を当てて考えた。
これほどの街なら酒場ぐらいありそうだが…。

「この辺りで有名なのはやっぱり『フレイム』ね、この先真っ直ぐ行った所にあるわ。」
「ありがとう、恩に着る。」
「ねぇ、それより今夜空いてる?良かったらうちに来ない?」
「そうしたいが今は緊急だ、暇が出来たらな。」
「それは残念…。」

礼を言い、言われたとおりに酒場の方へと向かった。
先ほどから彼女達に歩いてるだけで何回も声をかけられている。
俺が必死になって旅をしてるのが馬鹿らしくなるほどだ。
…案外こういう街で探す方がずっと楽なのかもしれない、今までを否定するつもりは無いが。

「ここか、…?」

ようやく『フレイム』と書かれた看板を見つけたのだが何故か入り口で人だかりが出来ていた。
人というよりは全員魔物だが、皆不安そうに中を覗いている。
その中の一人のアルラウネに聞いてみた。

「おい、何かあったのか?」
「そ、それが−」
「貴様、誰の許可を得て店など開いているのだ!!」

このまくし立てるような言い方。
今日で二回聞く羽目になるとは思わなかった。

「仕事熱心なやつめ…、ちょっと失礼する。」

彼女達を掻き分けながら店内へと入っていった。

「貴様、何とか言ったらどうだ!!」
「だから、今更何を訳のわからない事言ってんだい?!」

中では予想通りの状況だった。
銀の代わりなのか胴の鎧を着た騎士が数人、店主と思われるサラマンダーに怒鳴り散らしていた。
店主も負けじと言い返す。

「急にドタドタと入り込んできたと思ったら…てめぇらは礼儀ってもんを知らねぇのか?!」
「貴様は教団の許可無しに店を開いている、これは明らかに法に反する行為だ。」
「うちの店は昔っからここにあるんだ、景気が良くなったと思ったらベルゼブブみてぇに集りに来やがって、…これ以上騒ぐんなら叩き出すよ!!」
「我ら教団の命に背く気か、魔物の分際でいい気になるな?」

一触即発ともいえる状況。
周りには逃げ遅れたのか客が残っていた。
テーブルの下でガタガタと震えるアリス、今にも加勢しようと剣を手にするアマゾネス、箱の隙間から様子を伺うミミック、沢山の彼女達がこの街にはいるようだ。
…早く安心させてやらないと。

俺はそのまま中へと歩き出した。

(ちょ、ちょっと?!)
(馬鹿、あいつ何してんのよ?!)
(誰か、あの男止めて!!)

周囲から小声が聞こえたが俺は気にせず、そのまま騎士達を通り過ぎカウンターへと座った。

「注文良いか?」
「悪いが後にしてくれ、あたしはこいつらを叩き出すのに忙しいんだ。」
「大丈夫…こいつらはもう帰るみたいだから、なぁ?」
「ん、なんだきさ−」

俺の顔を見た騎士が一瞬で引きつった顔をした。

「き、きき貴様は?!」
「よう。」

騎士は慌てて数歩下がり距離をとった。
よく見ると騎士の何人かは顔に包帯を巻いており「ひぃっ!!」と悲鳴を上げた。
訝しげに店主が俺を見る。

「あんた、…こいつらの知り合いかい?」
「あぁ、さっきも同じような事をしてたから懲らしめてやったんだが…どうやら足りなかったようだな。」
「ふん、抜かせっ!!」

躊躇なく剣を引き抜き、剣先を俺へと向ける。

「ここであったのも運の尽き、貴様の得意な立ち回りもこのような狭い場所では意味を成さない、それに加え我ら教団の孤高な戦術は場所を選ばない!!」
「てめぇ、どこの店が狭いって?!」
「姐さん落ち着いて!!」

横にいたリザードマンが掴みかかるのを何とか止める。
俺は立ち上がり、拳を鳴らした。

「ほう、やるのか?」
「貴様の穢れし命もここまでだ、先ほどまでの我らと思うなよ!!」
「それはすごい、で…一人でか?」
「何を言ってる、無論ここの全員で−」

揚々と後ろを振り返るが誰もいない。
よく見ると最後の一人が店から逃げ帰っていた。

「どうした、やるんだろ?」
「え…あ…。」

しどろもどろになる騎士の首を掴んで持ち上げる。

「はっきりしろっ!!」
「き、今日はちょ、調子が悪い、だ、だが次にあったときは−」
「そうか、なら。」

そのまま横に向かって思い切り振りかぶる。

「さっさと出て行けぇ!!」

店の窓に向かって投げ飛ばし、窓を突き破って騎士が転げ回った。

「ぐぉ…お、覚えておれ!!!」

外からお決まりの台詞が聞こえ、ガチャガチャと逃げていった。
粉々になったガラスを見て少し青ざめる。

「あ、すまない…窓ガラスが。」
「いいよいいよガラスの一枚や二枚、それより…あんた気に入ったよ!」

店主のサラマンダーが俺の肩を叩きながらくっ付いてきた。
尻尾の炎が先ほどとは違って勢い良く燃えている。

「あんたみたいに度胸のある人間は久しぶりだね、ここいらじゃ見ない顔だけど旅のもんかい?」
「まあ、そんな所だ…。」
「まずはディアドの街へようこそ、あんたのお陰で助かったよ…今日はあたしのおごりだ!!好きなだけ飲んできな?」
「…じゃあ、適当に。」
「はいよ、マリー!!とっておきを持ってきな?!」

店主の活きな声に店内は賑やかを取り戻していった。
気付けばいつの間にか俺の周りに人だかりが出来はじめていた。

「ねぇねぇ、あんたこれから予定ある?あたしの店に来ない??」
「貴様なかなか良い体格をしているな、後で私と一戦交えてみないか?」
「ねぇあなた、綺麗な蛇のお姉さんはお嫌い?」
「宿は決まってんのか?なんならあたしの家で泊まってけよ!」
「幼女に興味ないですか?今なら貴方をお兄ちゃんとしてサバトにお迎えします〜♪」
「いや俺は…。」
「ちょいとあんた達、この人はあたしの旦那様なんだから手を出すんじゃないよ!!」
「…いつ決まったんだ?」
「とにかく今日は飲み明かせっ!!!」

どうやら飲むまで解放してもらえなさそうだ。
やれやれと思う中、悪い気はしない。
俺が求めてた世界…それはこんな形なのだから。

−−−−−−。


広場に着いて街の境界線を越えて人間圏へと来てみた。
それほど建物には違いは無いけれど明らかに向こうとは違って殺伐としている。
奇妙ね、同じ街なのにこれほどの差があるなんて。
まるで魔界と人間界を表してるみたい。

「やっぱりあの線のせいね。」

私も色んな所を見てきたけどここまで奇妙な街は見たことが無い。
国ならまだしも街中に境界を作るなんてどうかしてる。
以前人探しで立ち寄った四つの国でもちゃんとした国境はあった。
…そういえばクリスとマリアンは元気だろうか?
今度遊びに行ってみよう。

思い出に耽っていると向こうから誰か走ってきた。

「どいてどいてーっ!!」

走ってくるのはどうやらワーウルフの少女のようだ。
後ろから少し年老いた男がこちらに呼びかけてくる。

「そこのあんたっ、そいつを捕まえてくれ!!」

見回すも他に誰もいないし、私に言ってるようだ。
やれやれと思いながら少女の前に立ちはだかる。

「どかないと怪我するよっ!!」

私もろとも突き飛ばす勢いで少女が向かってくる。
そのすこし前の地面に魔方陣を設置した。

「ふぎゃ!!」

魔方陣を踏んだ少女が急に固まり、そのまま動かなくなる。
ただの拘束用の魔法だから怪我一つ無いけどね。

「ごめんなさい、でも人を困らせるのは感心しないわ?」

自分が言えた義理ではないかもしれないけど。
後から来た男がゼハゼハと息を整えながら追いつく。

「助かったよ、恩に着る。」
「どういたしまして、それより…この子は何をしたの?」

見たところ手には何も持ってないし何かを盗んだわけでは無いらしい。
止めておいてだがこの少女が何か悪い事をしたようには見えなかった。

「あぁ…こいつ俺のガキにまたちょっかい出しやがったんだ、これで三度目だ。」
「…そのお子さん、歳は?」
「ぁあ?今年で18だが。」
「相応の歳じゃない、そんなことでこの子を追い回してたの?」

18と言えば私でも目をつけるぐらいの歳。
それもこれぐらいの少女なら興味を持ち始める頃だし、私にはそんなに悪い事とは思えない。
男は少しバツが悪そうに話した。

「仕方ねえだろ?こっちに入ってきた魔物を見つけたら憲兵に突き出さなきゃなんねぇんだ、それがここの決まりだ。」
「あんな線一本で守れるわけないわ、何でちゃんとしないのかしら?」
「知るかよ…教団の奴らが来てからあんな線が出来ちまったんだ。…もともとここは親魔物派の街だったのによ。」

なるほど、元からこうと言うわけではないみたいね。
となると、どうして魔物を毛嫌う教団がこんな中途半端な事をしてるかだけど…。
まあ、おおよその検討はつくわ。

「あなたはどう思っているの、魔物が人を喰らうとでも?」
「そんなわけねぇだろ、向こうの奴らを見てりゃわかる。」
「じゃあ−」
「そうするしかねぇんだ、生きて行く為には…。」

男は伏目がちに気絶した少女の頭を撫でながら言った。

「この子が俺のガキに一目惚れしてるのは知ってんだ、そしてうちのガキもな。でも教団に見つかったら二人とも拘束されちまう…良くて禁固刑、悪くて処刑だ。」
「教団がそんなことを?」
「『禁欲であれ』という神様の法さ…そのせいでこっちは昔と比べて荒れ果てちまった、法に耐え切れず向こうに行く奴も出てきたが…どうせ無駄だ。」
「無駄って?」
「それは…。」
「そこの者、何をしている!!」

噂をすれば…。
振り返ると数人の騎士がこちらへと歩み寄ってきた。

「やべぇ、あんたも気をつけてな?」

男は見つかる前に足早に去っていった。
騎士たちが私の前へと来ると、気絶した少女を睨みながら問いかける。

「これはどういうことか説明してもらおうか?」
「見たままよ、この街の法に従って魔物を捕まえただけ。」

私の言葉に騎士は少し疑いの目をかけたが、少女が気絶している事を確認すると態度を改めた。

「いや、これは失礼しました…近頃魔物を匿おうとする輩まで出る始末で、我々も目を光らせているわけで。」
「別に気にしてないわ、それよりこの子だけど。」

ワーウルフの少女を指して、私は一つの提案をした。

「私のやり方で処分させてもらえないかしら?」
「貴方の…?…どうするのです?」
「こうするのよ。」

私が指を鳴らすとワーウルフの少女は光に包まれ、忽然と消えた。
その光景に騎士たちは「おぉ…」と感漢の声を上げる。
これはただの転送魔法、行き先は境界線の向こう側にしておいた。

「今のは…消したのですか?」
「これが私のやり方なの…手間がなくて良いでしょ?」
「すばらしい…見事なお裁きで、善良な民を持った事に神もお喜びでしょう。」

どうかしら、魔物に感謝する神様っていうのもおかしな話ね。
気付いてないのだから無理ないけど。

「見たところ、貴方は相当の実力者のようですね…その腕を見込んで依頼を受けてもらえないでしょか?」
「依頼?」

やれやれ、ここまでくると本当に教団か疑わしくなるわね。
ばれると色々と面倒だし、同属を危険に晒したくもないわ。
丁重にお断りさせてもらおう。

「せっかくだけど遠慮させてもらうわ、今日はこれで帰るの。」
「いえいえお待ちください、依頼と言うのは魔物退治ではございません。」

立ち去ろうとした足が止まる。
魔物退治ではない?
少し気になって私は騎士たちに振り返った。

「じゃあ何かしら?」
「我々の教団に敵対し、魔物に手を貸す一人の男を粛清して欲しいのです。」

一人の男…。
私の中で最近知った一人の人物像が浮かび上がる。

「しかしその男が強敵でして仕留めようにも我々の仲間も深手を負わせられまして…報告では街の住人にも被害を出しているという凶悪で危険な男です。」

嘘ね。
彼がそんな事するはずがない。
相変わらず口が達者なこと。

「民が危険に晒されるのを黙ってはいられません、これもあの魔物たちの策略の一つだとしたら一刻も早く手を打たねば…わが国の計画のためにも貴方の力を借りたいのです。」
「計画…?」
「ええ、奴らを一掃しこの街を開放することが我らに課せられた使命なのです。」

そういうこと…。
だからあんな線を引いたのね。
薄汚い…卑しい考え方だわ。

「どうです、引き受けてもらえないでしょうか?」

騎士の一人が私に手を差し出す。
本来ならこんな馬鹿げた事に私が聞くわけがない。
でも…今回だけは特別。

「気が変わったわ、その依頼引き受けるわ。」

差し出された手を無視して私は承諾した。
騎士たちは嬉しそうに話を進める。

「本当ですか?!…貴方の勇敢な選択に神のご加護があらんことを。」
「それより詳しい事が知りたいわ、手短にお願いね。」
「わかりました、ではそちらの酒場で済ませましょう。」

騎士たちに連れられて私は歩き出した。
途中彼がいるであろう魔物圏の方を見据える。

さあアレス…貴方はどう出るのかしら?

11/11/05 15:52更新 / ひげ親父
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■作者メッセージ

ひげ親父です。
遅くなってしまいましたがなんとか作ることができました。
作品は一様出来上がっているので、明日にでも後編をあげたいと思います。

詳しい内容はそちらで。

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