連載小説
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二人の主人公 後編

−−−−−−−。

客の出入りも落ち着いてきてそろそろ閉店しようかという時間に俺は店主に事情を話しこの世界の常識を教えてもらった、説明も面倒なので記憶喪失と言う事で話を進めた。

「あんた…大丈夫かい?」
「…あぁ。」

店主のサラマンダーの話を聞いて、正直自身を保つのが精一杯だった。

心配されながらも俺は聞かされた常識を思い返していく。
歴史、情勢、出来事、人物、すべての説明を受けて確信した事。
それは俺が知っている常識とは全く違う世界だということ。
そして俺はただ一人そこに迷い込んでしまった遭難者だと言うこと。
唯一の共通点はこの世界にも彼女達(魔物娘)がいるという事ぐらいだろう。

「気の毒にね…大丈夫、記憶が戻るまであたしが面倒見てあげるからさ、そう落ち込みなさんな?」
「え、ああ、ありがとう。」

今日会ったばかりだというのに店主は俺に優しくしてくれる。
話し方もそうだが昔の女将さんを思い出す。
女将さん…元気だと良いが。

「それと、もう一つ聞きたいんだが?」
「うん、なんだい?」

俺はずっと疑問に思っていた事を聞いてみることにした。

「この街の事を教えて欲しい、何が起こっているのかを。」
「あぁ…。」

店主はすこしウンザリした様子で話し出した。
恐らくいろんな人から同じ事を聞かれているせいだろう。

「あんたが聞きたいのはどうしてあんな境界線があるんだってことだろう?」
「あぁ、今まであんなのは見たことがないからな、昔からあるのか?」
「いいや、元々はここは親魔物派の街でね…皆仲良くそれなりに活気は出ていたんだ、あいつ等が来るまではね。」
「…教団か。」

俺の予想した答えに店主は深く頷いた。
やはりな…奴らがここにいる時点で気づいてはいたが。

「ここの一帯を治めてる王様が決めたんだ…すべての街に教会を置く事を義務付けるってね、当然あいつ等は真っ先にあたし達を追い出そうとした。」
「それで?」
「勿論あたし達は猛反対し立ち向かったさ、だが向こうも引かなくってね…結局内戦にまでなっちまうほどだった。」
「…。」
「内戦が続くにつれあたし達は愛する夫や友人が傷つくのを見たくなかった、だから向こうにある交渉をしたんだ。」
「それが…あの線か?」
「そう、境界線を作るって事でようやく落ち着いたんだ、分断されるとはいえ命の方が大事だからね。」

すこし思い耽る様に話す店主。
それだけならいい話で済んだのかもしれないが…。

「じゃあどうして“線”なんだ?」

壁で囲むなら分かるが実際この街には線が一本引かれているだけだ。
これでは話がこじれてしまうのは明白。

「あたしたちも最初はそう思った、境界を作るって言うのに出来たのがただの線なんだからね…。資材に困ってるんだと思ってあたし達が手伝いを申し出たけどあいつらは断った。」
「そしてあのままか?」
「そうさ、いつまで待っても線だけだからね…だから向こうも線を越えてやりたい放題さ、仕方なくあたし達が壁を建設しようとしたらあいつら何をしたと思う?」

店主は握りこぶしを作り、悔しそうに目を伏せる。
まさか…。

「攻撃してきやがったのさ…違反行為だってね、見返り無しに協力してくれた仲間が大勢捕まって見せしめにされたんだ…魔物は交渉を守らない下賎な存在だってね…。」
「…。」
「あたしはそこで気づいたんだよ、あいつらはもとから交渉する気なんて無かったんだ…初めからあたし達を悪者にして追い出す事が目的だったんだよ。」

俺は気分が悪くなるほどに憤慨していた。
どうして元々住んでいた彼女達がこんな事に会わなければならないんだ?
国が決めたこととはいえいくら何でもこれは不合理すぎるだろう。
ならどうして…。

「どうして誰も反発しないんだ?これだけの事が起きて。」
「向こうでも不満を持つ奴はいるよ…でも教団が力で押さえつけて何も出来なくしてるんだ、それにこの街の殆どは外から来た人間が多い…奴らの嘘を知らずに信じてる奴も少ないんだ。…逆に私達が攻め込めば奴らの思う壺さ、『魔物が人間を襲いに攻め込んできた』と声を揃えて言うだろうね。」
「…。」

これが神の意志だとでも…馬鹿馬鹿しい。

「まぁ他の理由としても私達の技術や物資が目当てだろうね…向こうからは調査と言う名目で今日あった風に押し込んで『怪しい物だ』といって全部持っていっちまうのさ。」
「まるで勇者だな…。」
「そっちの方がよっぽどいいよ…だが奴らがいつ攻め込んでくるか分からない、そこであんたにお願いがあるんだよ。」
「?」

店主は話を変え、俺の手を握り締めて言った。

「あたし達じゃあいつらに手が出せない、だからちょっとの間…あんたにこの街を守って欲しいんだよ。」
「俺に…?」
「あんたは腕っ節も良いし、あたしたちも怖がらない…これ以上の条件は無いよ。」
「だが俺はこの…。」
「勝手なお願いだって事は分かってる…でもあんたしか頼める奴はもういないんだ、その間あんたの面倒を全部みるし、少ないけど報酬も出すよ…だから頼む!!」

俺の前で店主は頭を下げ頼み込んだ。
その姿に俺は考える。

…店主は短い間だがよそ者の俺によくしてくれた。
そして彼女達が今、苦しい思いをしている。
たとえ世界が違えども彼女達に変わり無いのなら…。

「分かった…引き受けよう。」
「ほ、ほんとかい?!」
「あぁ、断る理由も無いしな。」
「ありがとうっ!!!さすがあたしが認めた旦那様だよっ!!」
「うをわっ!!」

店主が頭を上げたかと思うと急に俺へと抱きついてきた。
勢いに思わず押し倒されてしまう。

「お、おい店主!!」
「店主なんて呼び方やめとくれよ、あたしの事はミーシャって呼んで?」
「ミ、ミーシャ、何をしてる?!」
「決まってるだろ?全部面倒見るって言ったじゃないか?」
「そこまで頼んでないだろう?!」
「愛してんだからいいだろ?それに夫婦になった方が面倒も見やすいしね。」
「俺は旅をしてるんだっ!!」
「良いじゃない、それより今を楽しもうじゃないか…。」

おもむろにミーシャが服を脱いでさらに俺の服も脱がせてくる。
いや今はヴェンと連絡が取れないし、送る事も出来ないし夫婦になるのは…。

「ま、まて止めろ!、それ以上はまずい!!」
「なんだ立派なもの持ってんじゃないか、じゃあ頂くよ♪」
「ま、まってく−」

俺の叫びも虚しくミーシャに面倒を見られてしまった。
物陰からが覗き込む。

「姐さん…はりきってるなぁ。」

そんなことがあって数日が過ぎた。


−−−−−−−−−。


「諸君、良くぞ集まった。」

教団の施設の前に多くの騎士たちと住人達が集まり、物々しい雰囲気が漂う。
隊長らしき人物が高台へと上り、集まった全員を見渡した。

「時は満ちた、今こそ我ら人類が立ち上がり魔物から街を奪い返すときがきたのだ、境界線の向こうでのうのうと生きる奴らに怯えながら我らは耐えてきた、だがそれも今日まで…これより大規模魔物掃討作戦を開始する。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

一人の青年が隊長に抗議の声を入れる。

「話が違うじゃないかっ、境界線さえ守れば彼女達には危害を加えないと…。」
「その境界線を破り、奴らが入り込んできているのを見たものが多数いるのだ、これは明らかな侵略行為だ。」
「でも彼女達は何も−」
「ええい、貴様も魔に魅入られた者か!こいつを連れて行けっ!!」
「頼む、待ってくれっ…彼女を傷つけないでくれっ!!!」

悲痛な叫びを上げながら青年は騎士たちに連れて行かれた。
それを気の毒そうな目で見る人々、そして「そんな…。」がっくりと膝を付きうなだれる少し年老いた男。

「みろ、もう既に魔物の毒牙に掛かりつつある…我ら教団はこのようなことを見逃す事は出来ない。」

隊長は剣を抜き、大げさに上へと掲げ突き刺す。

「今こそ神に代わり、魔物を駆逐するのだっ!!」
「おおぉーっ!!!!!」

数多くの雄たけびが上がり、団体は広場へと向かっていった。
がっくりとうなだれる男にローブを着込んだ女性がそっと肩に手を置く。

「あんたは…。」
「大丈夫、あなたの息子さんは後で必ず助けてあげるから。」

そう言い残すと女性は群の中へと戻っていった。


−−−−−。

「アレスっ、大変だよ!!」

部屋のドアを思い切り開けるミーシャ。

「あぁ、ここからでも見えてる。」

アレスが二階の窓の外を見ながら答えた。
そこから団体が広場へと行進してくるのが良く見えた。

「あたしは先に行ってるからね、アレスも早く来とくれよ?」
「あぁ、俺が行くまで誰も手を出すな?」

ミーシャに伝えるとアレスは準備をした。


−−−−−−。

既に広場ではこの街の二つの勢力がぶつかりつつあった。
武装した住人たちに加え教団の旗を掲げた騎士たちが攻め入ろうとしている中、境界線前でバリケードを張り迎え撃とうとする魔物勢。
それはまさに人類と魔物との戦争だった。

「聞け、魔物どもっ!!」

教団の隊長が姿を現し、魔物全員に呼びかける。

「貴様らが残されている道は“死”だけだ、無駄な希望を捨てて投降しろっ!!」
「はっ、あたし達はあんた達に殺されるような覚えは無いよっ?!」
「貴様らは我々人類の敵でありこの街を危険に晒す害敵である、我ら一団となり神に代わってお前達を浄化してくれるわっ!!」
「あたし達はこの街で平和に暮らしてきたんだ、それをずけずけと入り込んできてめちゃくちゃにしやがって…覚悟しなっ!」

一触即発とも思える事態。
そこにバリケードを超えて乱入してくる人影があった。

「待て、お前達は手を出すんじゃない。」
「アレス?!」
「あんた?!」

アレスは魔物達の前へと出て彼女達を落ち着かせる。
一方教団側ではアレスの登場にざわめきが起きていた。

「隊長、あれが例の奴です。」
「あの男か…。」

アレスは振り返り、広場の中心へと向かう。
教団の隊長がそれに答えるように問いかけた。

「お前だな、我々の行動をことごとく邪魔してきた魔に魅入られし男は?」
「だったらどうだっていうんだ?」
「同じ人間でありながら魔物に手を貸すとは…神に与えられし生を何だと思っている?!」
「なら同じ生きている者を魔物だと言ってくびり殺すお前達は何だ?」
「話が通じぬか…貴様らが切り札を出すのであればこちらも切り札を出すとしよう。」

隊長が指を鳴らすと群の中からゆっくりとローブを着込んだ女性が姿を表した。

「なんだいあいつは?」
「あれが…勇者?」
「それにしてはえらく怪しいけどね…。」

魔物たちがざわめく中、アレスは一人驚きを隠せないでいた。

「嘘だろ…。」

その女性は紛れも無く数日前に会ったミリアだった。
彼女は吸い寄せられるように広場の中心へと歩き、アレスと対峙する。
その瞬間、周りがとたんに騒がしくなった。

「アレスッ、頼んだよ!!」
「絶対に負けるんじゃないよっ!!」

「全ては神の名の下にっ!」
「魔物を滅ぼせっ!!」


「…どうしてあんたがそっちにいるんだ?」
「あら?私はあなたに興味があるとは言ったけど、あなたの味方だとは言ってないわ?」
「だとしても…お前は−」

言いかけてフードから覗く彼女の顔が笑った。
その時、アレスはハッとする。

「…そういうことか。」

何かを理解したアレスは軽くため息をついた。

「そっちがその気なら…俺は手加減はしない。」

言い放った後、アレスは唐突に後ろを振り向いた。

「すまないが、誰か武器を貸してくれないか?」

その言葉に皆が一瞬黙るも教団側から笑いと罵声が飛び交った。

「武器も無しに我らに勝てるとでも思ったのか?!」
「貴様、舐めているのか?!」
「剣を買う余裕も無かったのか、それとも慌てて忘れてきたのかっ?」


アレスを卑下する言葉が教団側から出るが、アレスは特に気にもしなかった。
彼女達が差し出す武器が目に入った途端、徐々に静まり返っていく。
それはとても人に扱えるかどうかも分からないような代物だったからだ。

「アレス、これで足りるかい?」

ミーシャが自慢げに鼻を鳴らす。

アマゾネスの両手剣、サラマンダーの長剣、ミノタウロスの大斧、ナイトメアの鎌、ゴブリンの巨大こん棒…。

アレスは差し出された武器達を見回し、満足げに答えた。

「充分だ、ありがとう。」

準備も整ったという感じにアレスが振り返る。

「手加減しないとか言っておきながら…随分と優しいのね。」
「さぁ、何のことかな?」
「なら、私もあなたに合わせてあげるわ。」

ミリアが右手で左腰の辺りを掴む動作をすると、何処から出たのか細い片刃の剣が引き抜かれた。
黒い柄に鍔のない不気味な剣、アレスはその剣に少なからず恐怖を抱いた。

(得体のしれない剣…あれに触れるのは止めといた方が良いな。)

改めて向かい合い、相手の姿を捉える。
アレスは両手剣を拾い上げ、軽々と腕に馴染ませていく。
ミリアは相変わらずフードを被ったままこちらを見つめている。

「さて、こっちはもう良いぞ?」
「こちらも問題ないわ、いつでもどうぞ?」
「じゃあレディファーストだ、かかってこいよ。」

剣を構え挑発するアレス。
その言葉にミリアはにこりと笑った。
そしてその笑顔が消える…もとい姿が消える。

「?!」

アレスは反射的に剣を翻し後ろから突き立ててくる剣を受け流した。
少し反応が遅れた為に肌をかすりはしたものの擦り傷程度にしかならなかった。

(詠唱無しの転移魔法…やはり只者じゃない。)
(なんて早い受け身…ほんとに人間かしら?)

「はぁっ!!」

すぐさま体勢を立て直し、アレスはがむしゃらに剣を振り回す。
右へ左へと避けながらミリアは相手を観察する。
一見アレスが押しているようにも見えなくないがミリアは涼しい顔をし、華麗に受け流す。

(まるで素人の攻撃、やけに隙だらけね…。)

アレスの行動にすこし疑問を持ちつつも、ミリアは斬撃を掻い潜り隙を突いた一閃を繰り出す。

(これでおわ…?!)

剣を当て、仕留めようとしたミリアが瞬時に転移魔法で後ろに距離を取った。
見ると先ほどまで自分がいた場所に轟音が鳴り巨大なこん棒が振り落とされていた。
あのまま攻撃を仕掛けていたらミリアはつぶされていただろう。

「感づかれたか…流石に良い動きだな。」

両手に武器を構えたままアレスが不敵に笑う。
その一部始終を見ていた周りの全員が言葉を失い、徐々にざわざわと騒ぎ始める。

「両手剣をいとも簡単に振り回した挙句、あんな巨大なこん棒を片手で振り落とすとは…これが魔に魅入られし者の力か…。」

「転移魔法なんかあたし等でもそう簡単に使えるわけないってのに…あいつほんとに人間かよ…?」

周囲がざわめく中、ミリアは心を落ち着かせ改めて対峙する。

「危ない所だったわ、あなたを少し見くびっていた。」
「それはお互い様だ、俺も最初は隙を突かれたからな…でも二度は通用しない。」
「あら、それはどうかしらね?」
「試してみな、一度だけなら教えてやる。」

両者ともに先ほどの余裕は消え失せ、剣を構える。
しんと静まり返る中、二人は黙ったまま動かない。

「…。」
「…。」

スッ…。

周囲が見守る中、ミリアの姿が消える。
その瞬間、アレスがいた場所から金属音が鳴り響く。

「…すごい。」

ミリアは目を見開き感心したように声を漏らした。
転移魔法で側面へと回り込み、隙を突いたはずの剣をアレスは剣で受け止めたのだ。

「だから言ったろ、俺に二度は通用しない。」

アレスは迎撃するかのようにこん棒を振り落とす。
ミリアは不気味にもまたにこりと笑った。

「感服したわ…でも−」

アレスの振り落とすこん棒をミリアは左手で受け止める。

「なっ?!」
「それは私だって同じよ?」

ミリアはこん棒を軽く叩いてみせるとこん棒は音を立てて破裂した。
思いがけない衝撃にアレスは一瞬硬直する。
その一瞬の隙をミリアは逃さなかった。

「がぁっ!!」

アレスの顎に強力な蹴りが入り、ふらふらと仰け反った。

「やっと隙が出来たわね。」

向かってくるミリアに体勢を崩しながらもアレスは辛うじて両手剣で迎撃する。
だが明らかにアレスはミリアの攻撃によって押されていた。

「くそ…まずいか?」
「どうしたの、もう曲芸は終わり?」

後退していくアレスの足元に何かの柄が当たる、そして手では届かない位置にある武器。
それを確認した瞬間、アレスは反撃の手段を閃く。

「今新しく出来たところだっ!!」

足元に落ちていた鎌を器用に足で拾い上げ、ぶんっ…と乱暴に風を切って水平に薙ぎ払う。
それをミリアは意とも簡単に後退して避けてみせる。

「今のが貴方の言う奥の手?」
「だと思うか?」

アレスの薙ぎ払った鎌は地面すれすれまで落とし、落ちていたある武器を引っ掛ける。
そして鎌を逆手に持ち、引っ掛けた武器を上空へと放り投げた。

「何を…?」

アレスはそのまま回転の勢いを利用し鎌を投げ飛ばす。
回転の掛かった鎌はぶんぶんと音を鳴らしてミリアへと襲い掛かる。

(避けるのは無理…だったら。)

ミリアは剣を縦に構え、音もなく振り上げた。
飛んできた鎌はカンッ、と鳴き真っ二つにされてしまう。

「…いない?」

アレスの次の攻撃を予想し身構えたが肝心の彼の姿が見えない。
ミリアが見たのはただ地面に深々と一本の両手剣が突き刺さっていただけだった。
途端に上空から何かが落下する音が聞こえ、ミリアに悪寒が走った。

「…嘘でしょ?」

見上げると上空から大斧を振り落とそうとするアレスが目に入った。
迎撃を取る暇もなく、左手で峰の部分を持ち攻撃を受け止めた。
凄まじい衝撃と轟音が周囲に放たれる。

「くっ…なんて威力っ…。」

重力で何倍にもなった斧の衝撃にミリアの立っていた地面が砕け、足が突き刺さった。
アレスは勢いが死んだと感じるとそのまま後ろへと飛んで距離をとった。

「…その剣、一体何で出来ているんだ?」

手に持っている斧とを見比べながらアレスは呟いた。
彼の持っていた大斧は衝撃に耐えられず見事に刃をボロボロにされていた。
一方のミリアの剣は刃毀れ一つなく、怪しい輝きを放っている。

「残念だけど愛用の剣だから教えられないわ。」
「どんな理由だそれ?それにしてもことごとく防がれるとは…本当に何者だ?」
「…それを貴方が言うのかしら?」

平然と話を進める二人に周囲はぽかんと口を開けたままだった。
自分達の次元が違う事を思い知らされ、誰も何も言えなくなっていた。

「さて、武器も少なくなってきた事だし…そろそろ終わりにしようか?」
「そうね…私も疲れてきたし、異論はないわ。」

最後にアレスは長剣を手にし、ミリアは剣を構え直した。
これで全てに決着が着くと信じ、緊張が走る。

「はぁぁぁっ!!!」

先に動いたのはアレスだった。
咆哮を上げながらミリアに一直線に向かっていく。
ミリアは迎撃体勢に入り、姿勢を低くした。

そして…。

「!!」
「!!」

肉眼では捉えられないほど早く二人同時に一閃が決まった。
両者とも背中合わせで立ち止まったまま動かない。

「…。」
「…。」
「…ふっ。」

アレスが力無く笑うとそのまま後ろへと倒れた。
ミリアはゆっくりと振り返り、倒れたアレスを見下ろす。
魔物側から絶望の声が上がる。

「そんな…アレス?」
「死んじゃった…?」
「あ、あんた…。」

その時、教団側から歓声が沸き起こった。

「見よっ、我らの勝利だ!!これで魔物は皆−」
「違うわ。」

歓びに浸ろうとする教団をミリアは否定の言葉を浴びせた。
それには魔物側も驚いて目を見張った。

「残念だけど…私は負けたわ。」

ミリアの言葉に全員が耳を疑った。
負けた?
だって倒れてるのはアレスの方…?

「彼が本気を出してたら、私は死んでいたかもね。」

そう言うと不思議な事にローブにスッと切れ目が全体に入っていき、するりとミリアからはだけていった。

「な、なんだと…?!」

身体を傷つけず着ているものだけを斬る、まさに曲芸とも思える剣捌き…だが驚く事はそれだけではなかった。

「き、貴様?!…その羽根と尻尾は?!」

教団から驚きの声が多数上がった。
何故なら人間だと思っていた人物から羽根と尻尾が生えていたのだから。

「そう、魔物よ…リリムと言えばわかるかしら?」
「リリムだって?!」

魔物側からも驚きの声が上がる。

「り、リリムってあの…魔王様の娘の?」
「じゃあなんで…教団なんかに?!」
「もう訳がわかんないよっ!!」

両側ともパニックになる中、倒れていたアレスがゆっくりと起き上がった。

「あなた…動けるの?」
「あぁ…神経に響いて痺れるがなんとかな、じきに戻るだろう。」
「…時々貴方が人間に見えなくなるわ。」
「…よく言われる。」

親友のお決まりの台詞を言いながら立ち上がる。
そしてアレスは教団側に声を上げた。

「ちなみに言えば俺は魔に魅入られてもいない正真正銘の人間だ、つまりこの連中は人間と魔物の区別もつかなかった訳だ、そんな奴らの言う事をまだお前達は信じるのか?」
「だ、黙れっ!!この魔物が卑怯にも我らに言い寄ってきて−」
「あら、先に声をかけたのはそっちだったと思うけど?」
「ぐ、貴様…。」

騎士がミリアに掴みかかろうとしたとき、急に周囲から次々と男性が出てきた。
男性達はふらふらとミリアの方に吸い寄せられていった。

「なんて美しい…。」
「ぼ、僕を犯してください。」
「もっと、もっと近くへ!!」
「お、お前達!!魔に魅入られてはいかん!!」

騎士たちの言葉も虚しく男性達は遠ざかっていく。
次々と言い寄ってくる男性達にミリアはにこりと笑った。

「只者ではないと思ってはいたがまさかリリムだったとはな…魅了も桁違いの威力だ。」
「その割にはあなたは平気そうだけど?」
「俺はある薬を事前に飲んでいるからな、だが効果が無いとはいえ美しい事に代わりは無い。」
「あら、さっきまで戦っていた私をもう口説くの?」
「…そういう意味にとられると少し困る。」
「可愛い人ね?」
「うるせぇ。」

ミリアから顔を背け、集まった住人達にアレスは呼びかけた。

「どうだ、これだけの美人が向こうには沢山いるぞ?今ここで向こう側に渡るか、それとも教団の言いなりになるか、境界線を越えて決めろ。」
「で、でも魔物って人を喰らうんだろ…?」
「そうだ、魔物はこのように人を誘い喰らってしまうんだぞ?!」
「それは違いますっ!!」

教団の言葉を遮るように一人が声を上げた。
それは紛れも無く最初に拘束されたはずの青年だった。
年老いた一人の男が驚いたように声を上げる。

「お前、無事だったのか?!」
「あぁ父さん、この子が助けてくれたんだよ。」

青年の横にはワーウルフの少女が恥ずかしそうに立っていた。

「僕は何度かこの子と話したけど、彼女達魔物は人を喰らったりなんかしない、全部そいつらのデタラメなんです!!」
「で、デタラメだって?」
「耳を貸すなっ、これは奴の巧妙な罠だ!!」
「彼女達はただ僕らと一緒に居たいだけなんです、本当はとても優しい人たちなんです!!信じてください!!」
「だ、そうだ…皆どうする?」

青年の必死の叫びに誰もが共感し、青年の言葉を信じた。
そして人々は動き出した。

「元々ここは親魔物派だったんだ、俺は行くぞ!!」
「もう教団の奴らの事なんか信じるか、向こうに行ってやる!!」
「こんな美人がいっぱいだなんて、俺もそっちに行く!」

街の皆が武器を捨て、次々と境界線を越えていく。
彼女達は彼らを喜んで迎えた。

「今まで悪かった、俺達を許してくれ!!」
「もういいんだよ、わかってくれりゃ…。」
「俺もそっちにずっと行きたかったんだよ…。」
「大丈夫、もう大丈夫だから。」
「ほんとに美人ばっかりだ、こりゃあ良い!」
「美人だけじゃなく夜もすごいわよ?」

教団のことなど忘れて皆はお祭り騒ぎになった。
騎士たちは痺れを切らしてついに怒鳴り散らした。

「貴様ら、神の定めた法に逆らう愚か者どもめ!!全員を拘束しろ!!」

騎士たちが拘束しようと境界線を越えようとするが、その先にアレスとミリアが立ちふさがった。

「おっと、お前らはここで止まれ。」
「あなた達はここから先には行かせないわ。」
「な、なんだと…貴様ら邪魔をするな!!」
「邪魔をしてるのはお前達の方だとまだ分からないのか?」
「せっかく良い雰囲気なのに水を差さないでもらえるかしら?」

二人の威圧に騎士たちは後ずさりをする。
先ほどの戦いを見た後で誰がこの二人に立ち向かおうとするだろうか?
誰もが逃げ出そうとしたとき、後ろから声がした。

「まったく…貴様らには失望した。」

後ろから分け入るように出てきた人物。
その姿を見て騎士たちが騒ぎ出す。

「ゆ、勇者殿!」
「勇者殿…良くお戻りに。」

「勇者だと…?」

アレスとミリアの前に勇者と呼ばれた男が姿を現す。

「寄って集って二人も始末できんとは…情けない。」

黄金の鎧を身に纏い白いマントを靡かせ白銀の剣を差す勇者。
そのぎらぎらとした風体に二人はポツリと呟いた。

「なんて…。」
「趣味の良いこと…。」

聞こえていないのか勇者は気にせず話を進めだした。

「貴様らの戦いは見せてもらった、だが所詮俺の敵ではない…諦めてこの街もろとも浄化されるが良い。」
「お前はあれが俺達の実力だと本気で信じているのか?」
「浅はかにも程があるわね?」
「…なんだと?」

二人の挑発に勇者は目を細め、忌々しげに剣を抜き構える。
それに合わせるようにして二人は静かに戦闘態勢に入る。

(…で、勝算はあるのかしら?)
(ある…が少し時間がいるな、少しで良いから奴の動きを止めて欲しい。)
(それは頼もしいわね、どれくらい必要?)
(二秒もあれば充分だ、来るぞ?)

勇者が剣を振り下ろすと同時に二人は散開し、ミリアは勇者を翻弄する。

「ちょこまかと…薙ぎ払ってくれるっ!」

勇者は水平に剣を薙ぎ払ったがミリアは難なく避ける。
そして隙だらけの横っ腹へと剣を当てた、しかし…。

「無駄だ、貴様の貧弱な攻撃など俺の鎧には傷一つ入らんぞっ!」

うっとしいとばかりに剣を薙ぎ払う勇者。
ミリアは少し離れ、体勢を立て直す。

「メッキというわけでもなさそうね…なら。」

そう言うとミリアは左手を勇者に向けた。

「何を…グッ?!」

アレスは後ろで感心するように見ていた。

「あれが…魔法。」

急に勇者の動きが鈍くなり、よろよろと揺れ始める。

「貴様…何を?!」
「少しだけど貴方の掛かっている重力を強くしたの、今の私の魔力ではこれが限界。」
「その程度でこの俺を倒せるとでも?…笑止!!」
「さぁ…次は貴方の番よ?」

鈍くなりながらもミリアに剣を振り落とそうとする勇者の前に一つの影が割って入る。

「オーダー…7。」

何かを呟きアレスは手を力なく下ろし低く体勢を取る。

「テイク。」

アレスは手を撓らせ槍を放つかのように勇者の鎧に合計七発叩き付けた。
肉眼でも見えないほどの速さで打つアレスの攻撃に勇者は大きく仰け反った。

「ぐ…おぉ…。」

流石の勇者も顔を歪ませ、後ずさる。
誰もが仕留めたと確信したが勇者が倒れる事は無かった。
鎧に打撃は入れたものの致命傷には至っていない。

「無駄だと言ったはずだ…、この鎧には傷一つ付ける事など−」
「…飛べ。」

アレスがそう言った瞬間、勇者の鎧が爆発した。

「がぁぁっっ!!!!!」

打撃を受けた場所から放射状に破裂し、勇者はアレスの言葉どおりに後ろへと飛んだ。
勇者は地面に叩きつけられ、そして動かなくなった。
それを見ていた全員が目を丸くし、何が起きたのか全く分からないまま唖然とする。
ミリアもその一人だった。

「…殺したの?」
「いや、気絶させた…だがもう起き上がれはしない。」
「ゆ、勇者殿が…?!」

教団は勇者が敗れた事に驚愕し、そして恐れた。

「ば、化け物だっ!!!!」
「逃げろぉぉ!!」

勇者を担いで教団はそのまま街の外へと逃げていった。
その姿を見て街の人たちは歓声を上げる。

「やった、俺達はもう自由だっ!!」
「今日からこの街は元の親魔物派の街になるんだっ!!」

人も魔物も共に喜びを分かち合った。
互いが互いの過ちや誤解を認め、この街は新たに平和を取り戻そうとしていた。
ただ…。

「残念だけど…喜んでもいられないわ。」
「「「えっ?!」」」

ミリアの言葉に誰もが耳を疑った。
深刻な顔でミリアが話を続ける。

「確かにこの街から教団はいなくなったわ…でも彼らがそう簡単に諦めるとは限らないし、次は街を滅ぼす気で襲ってくるはずよ?」
「そ、そんな…早く逃げないと?!」
「駄目だね…ここら一帯は反魔物派の街しかない、何処にも逃げ場なんて…。」
「せっかく分かり合えたのに…そんなのあんまりだろ?!」
「何か…何か方法は無いのかい?!」
「諦めんじゃないよ…せっかく分かり合えたんだ、戦ってでもなんとしてでも…。」

街の皆がざわつく中、一人のサキュバスが声を上げた。

「あ、あのっ!!」

そのサキュバスは前に出てきてミリアのほうへと近づいた。

「あ、あの…リリム様?」
「ミリアでいいわ…で、どうしたの?」

サキュバスは少し考えた後、決心するかのように言った。

「ミリアさま、私達を…魔界に連れてってもらえませんか?」
「魔界に?」

サキュバスの言葉に皆が口々に話し合った。
魔界とは魔物達の住処であり、魔力が立ち込める土地である。
サキュバスの城下町、魔王城などがそれに当たる。

「そうだ…たしかに魔界なら奴らも手出しできないしな。」
「安全だったら何処へだっていいさ、早く行こう!!」
「でもこれだけの人達を移住させて大丈夫なのか?」
「心配ないわ、魔界は広いし住む所も不自由はしない…そのかわり問題があるわ。」
「…問題?」

アレスが問うとミリアは少し申し訳なく言った。

「魔界に行くためには転移魔法で一気に行くのが最善よ、でもこれだけの人数を送るだけの魔力はもう残ってないわ…精を集めたとしても早くて三日三晩は掛かるわね…。」

それだけかかればこの街は簡単に制圧されてしまう。
それにミリアの体力も持たないだろう。
希望が見えたはずなのにまた雲隠れしてしまい、皆から絶望の色が見え始める。

「ごめんなさい…私にもっと力があれば−」
「いや、悲観するのは早いぞ?」

落胆する皆を余所にアレスはゆっくりと歩きながら語り始める。

「何か方法が?」
「ある、用は魔界に送れば良いのだろう?」
「あなた…魔法が使えるの?」
「いや使えない、だがこれを使えば可能だな。」

そう言ってアレスはあるケースを取り出した。
四角いケースの中に変わった模様の札が入っている。

「それは…カード?」
「そんな名前なのか?…これは魔力の無い奴でも転移魔法が使える道具だ、自分を転移する事は出来ないが対象を転送させる事は出来る…、ミリアが魔界の場所さえ知ってればな。」
「知ってるけど…枚数は足りるのかしら?」

ミリアの問いに答えるようにしてアレスがケースを逆さにすると瞬く間にカードの山が出来るほどにばらばらと下に落ちた。

「…これで足りるか?」

目の前の事に一瞬驚くミリアだったが、微笑みながら呟いた。

「貴方って…ほんと素敵ね。」

その夜…街ごとの魔界への大移動が始まった。





−−−−−−−。


「…なるほどね。」

魔界への転送が終わったあと、俺はミリアに連れられ彼女が仮住まいにしている家へと来ていた。
彼女の作った料理を食べ(感想も述べ)ながら俺が来た経緯をミリアに話すと、彼女は頷きながら納得した様子だった。

「…信じてくれるのか?」
「貴方が嘘をついてるようにも見えないし、それなら私が変に感じた理由も頷けるから。」
「変に感じた?」
「貴方の魂はとても不思議な輝きをしてるの、それも見たことの無いほどにね。…それに…。」
「…それに?」
「貴方はどこか他人に思えない気もするのよ、多分気のせいだろうけど…。」
「…。」

ミリアは少し意味ありげな事を言った。
ここは俺からすれば異世界のはずだが…?
まぁ、本人にも分からないみたいだし気にしないでおこう。

「それより、ミリアは魔王の娘だと聞いたが確か…?」
「リリムよ、見るのは初めて?」
「あぁ、でも聞いていた姿とは随分違うな、そういうものなのか?」
「いいえ、私が特別なだけよ…でも貴方の話じゃそっちの魔王様と知り合いみたいだけど本当に見たことないの?」
「そういう話は聞いた事が無いからな、色々あるんだろう。」
「それに女性じゃないのもおかしいわ、それだと私達魔物が女性になった理由がつかないもの。」
「俺からすれば魔王が女性と言うのが不思議だが…異世界だし違いぐらいはあるんじゃないか?」
「…そうなのかしら。」

ヴェンの事はあまり考えた事もないし、ここで話しても分からないだろう。
帰ったら聞いてみるか。

…帰ったら?

「…そうだ、帰る方法だ。」
「…?」

とても重大な事を忘れていた。
ここが異世界だとするなら俺は帰らなければならない。
だがどうやって来たかも分からない以上、俺は帰ることが出来ない。
俺が頭を悩ませているとミリアは突拍子に言った。

「大丈夫、帰れるわよ?」
「えっ?!」

思いがけず簡単に言われ俺は椅子から立ち上がった。

「本当なのか?!」
「ええ、私の魔力を使えば恐らく可能よ。」
「じゃあ−」
「…ただし条件があるわ。」

早速頼むと言おうとした所で先に言われてしまった。

「…なんだ?」
「せっかく会えたんだもの、もう少し話したいこともあるし…このまま帰すのは少し惜しいわ?」
「気持ちは嬉しいが俺も急いでるんでな…。」
「じゃあ何か代価として貰うわ、なにか貴方を思い出せるものは無いかしら?」
「…何かあったかな?」
「それなら貴方の精を−」
「待てっ、あった、今出す。」
「そう、それは残念♪」

俺は慌てて鞄の中を漁った。
無いといったら本当に干からびるまで搾り取られそうだ。

「ちょっと待ってろ?今淹れてやる。」
「淹れる?」

ミリアの問いを背中に聞きながら俺は湯を沸かし、お茶を淹れた。
部屋にお茶の香りが立ち込める。

「良い香りね。」
「あぁ、俺が好きなお茶さ…出来たぞ?」

お茶をカップに注ぎ、ミリアへと渡す。
礼を言いながらミリアは口をつけ一口飲んだ。

「…。」
「…。」
「美味しい…。」
「それは良かった。」

ミリアは幸せそうな顔をして一息ついた。

「そのお茶は俺が世話になった人が一から育てて作ったものだ、作り方は俺も知らない…それだけに俺はこのお茶を気に入っている。」
「私もこんなに美味しいお茶は始めて、とてもすばらしい人なんでしょうね。」
「あぁ…。そうだ、このお茶の葉は違う用途にも使われていてな?」
「何に使われているの?」

俺はミリアに顔を近づけて言った。

「媚薬だ。」
「…!」

ミリアは驚いて飲んでいたお茶と俺を交互に見た。
当然だ、俺も言われた時そんな反応をしたさ。

「…本当?」
「いや嘘さ。…でもそれで自分がどう思われてるか分かるって話だ、場合によっては慌てふためく顔も見れるしな?」
「意地悪…でもそれ面白そうね。」

ミリアはすこし考えてふふっと笑った。
どうやらかもす相手が見つかったらしい。

「さぁこれで勘弁してくれ、これ以上は無理だ。」
「仕方ないわね…貴方なら良いお友達になれると思ったのに。」
「もうなってるさ、二度と会えなくても俺は忘れない。」
「女の子に守れない約束はしちゃだめよ?…期待しちゃうから。」

そう言うとミリアの身体に魔力が溢れ、俺の周りを渦のようにぐるぐると回り始める。

「…本当に大丈夫なのか?」
「ええ、約束はちゃんと守るわ…お友達だもの。」
「…そうだな。」

そして魔力がはじけ、俺は何処かへ飛ばされた。

「さようなら、アレス…。」


−−−−−−。


「はっ…!!」

ベッドの上で目が覚め、身体を起こした。
窓から朝日がもれ、妙にまぶしく感じる。

「戻れたのか…?」

はたまた夢だったのかもしれない。
でもそれでも俺は良いと思えた。

「ミリア…か、…ん?」

良く見ると俺の鞄に何かかけられていた。
広げて見ると彼女が着ていたローブだった。
俺が切り刻んでしまったが後も無く新品同様だった。
ポケットには手紙が入っている。

『貴方の旅の無事を祈っているわ、
これを見て私を思い出してね。

…愛しのミリアより』

「…何が愛しだ。」

呆れながら俺はローブを羽織り、宿を後にした。
目の前にはすでにジパングに向かう定期船が停泊していた…。


−−−−−−。

「…って言う事があったのよ。」

私はルカの家に遊びに来ていた。
相変わらず忙しいと言いながらも私の友達は中へ入れてくれる。

「ふーん、で、これがそいつから奪ったお茶?」
「アレスよ、それに奪ってもないわ?」
「似たようなもんでしょ?その話じゃ。」
「ぜんぜん違うわよ、で、気に入ってくれた?」
「ふん、まぁ…悪くないけどね。」

つまらなそうに答えるルカだが私は自然と笑顔になった。
こういうときの彼女はとても分かりやすい。

「そうだ…彼が言ってたけどこのお茶、他に特別な効能があるの。」
「効能…?」

私は顔を近づけてなるべく魅了を込めた目で言った。

「媚薬♪」
「ぶっっっ??!!!!」

彼女は顔を湯気が出るほどに真っ赤にし、慌てふためいた。

「な、ななななな、なんであんたっ!!?」
「冗談よ、驚いた?」
「へ…、冗談?」

私の言葉を聞いたあとぽかんとするが、徐々にまた顔を赤くする。

「な、なによ?!べ、べつに嘘だって分かってたわよっ!!」

恥ずかしさ紛れにルカは残ったお茶を一気飲みした。
私はその容姿を見てふふっと笑った。

(貴方のお陰で良いものが見れたわ…ありがとう。)

彼女はそっと存在しないはずの男に礼を言った…。

11/11/06 08:40更新 / ひげ親父
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■作者メッセージ

はい、完成しました、ひげ親父です。
まず先にエンプティ様…。

まじで申し訳ありません。
頑張ってミリア様をイメージしたのですがいかがでしたでしょうか?
質問もいろいろあったのですがちょっとひげのせいでできなかったです…。
これからはちゃんと書く前に聞きたいと思います。

さて、コラボはどうでしたか?
みなさまの許可さえあればどんどん書いていきたいと思っております。
勿論、言ってくだされば気兼ねなくお貸しいたします。
アレスとかこてんぱんにしちゃってください(*´∀`*)

次からはやっと本編を上げます。
いろんな方のを見ながら、今日もひげ親父は小説を書いていきます。

読んでいただいて、ありがとうございました!!

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